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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


黒ずくめの男
●オープニング【0】
『知ってる? 絵の中に入った女の子が居たんだって!』
 いつものように掲示板を見ていると、そんな書き込みがあった。このような書き込みは、この掲示板では日常茶飯事だ。本当かどうかなんて分かりはしない。
 ところが、だ。それに続いてこんな書き込みがあった。
『そーいえば、こないだだけど。変な男に声かけられたんだ。絵に興味はあるか、とか言ってたけど無視したよ!』
『あーっ、あたしもある! 全身黒ずくめのスーツで、何か気持ち悪いカンジー!!』
『うちもあるで! 近くに美術館あるけど、絵になんか興味ないっちゅーねん』
 さらにはこんな意見まで書き込まれる始末。
『きっと、その男が絵に入れるようにしてくれるんじゃない?』
『話混ぜてどーすんねん、あんた(笑) そんなアホな話ないやろ』
『私の友だち、絵を見に行った後で行方不明になりました。本当です』
『……捜索願い出したら?(汗) ここに書き込んでんと(汗)』
『変な男は、正義の魔法少女バニライムが成敗してくれますよ♪』
『それ、板が違う!!(笑)』
 ……さてはて、黒ずくめの男は本当に居るのだろうか。居るとすれば、その目的はいったい何なのか?

●顔が見えないから【3】
「……何だこりゃあ?」
 土曜日の昼前、静かな店内に渡橋十三の声が響いた。近くに居た女性店員がじろっと十三を睨む。首を竦めながら、十三はへへっと笑った。
(今日びのお嬢たちは電脳上でのオカルト話にピーチクパーチクってか。たくよぉ、暇なこったぜ。相手が誰だか、見えねえってのによ)
 駅前で配られていた、インターネットカフェの2時間無料チケット。ドリンク飲み放題ということもあり、十三は受け取るとすぐに店にやってきていた。
 とりあえずはブラウザのブックマークに入っていたサイトを片っ端から見て回っていたのだが、その中の1つに今見ている『ゴーストネットOFF』の掲示板があった。
(時代や場所が変わっても、やってるこたぁそんなに変わらねえよな)
 書き込み内容を読みつつ、傍らのコーラが入ったグラスに手を伸ばす十三。ストローを使うようなちまちました飲み方でなく、直にグラスに口をつけて喉を潤す。
(こんな娘ばっかだから、日本も先が暗ぇんだよな……酷くなると、そのうち前世がアトランティスの人間だとか、どうとか言い出すんだぜ、けけけ)
 そんなことを考えながら、読み進める十三。ふとマウスを動かす手が止まった。
「んだぁ……? 全身黒ずくめのスーツだと?」
 目に止まった書き込みの、前後の書き込みを含めて十三は読み返した。
(絵に入った少女に黒ずくめ……おいおいおい、こないだの事件そっくりじゃねえかよ?)
 十三は先日に関わっていた事件を思い出していた。消えた少女を探していて行き着いたのは、絵画の中にその身が吸い込まれようとしていた少女の姿。そして、証言の中に見え隠れする黒ずくめの男。少女はどうにか救え出せたが、多くの謎が残されたままだった。
(黒ずくめの奴の正体は俺も気にはなってんだよな)
 腕を組み、思案する十三。草間なんかには気にしてないようなことを言いながらも、本音を言えばそうではなかったのだ。
「よっしゃ、そうと決まれば……」
 突然十三がキーを叩き始めた。どうやらこの掲示板に投稿をするつもりらしい。果たして何を書き込むつもりなのか?
 30分後――掲示板に書き込みを済ませた十三の姿がそこにあった。
「ふーい、疲れた」
 右手をぷらぷらさせて十三がつぶやいた。書き込み途中で無料メールアドレスを取得したり、何度か書き直したりと、慣れない作業に手が疲れたようだ。
(我ながらなかなかの出来じゃねえか)
 十三は今投稿した自らの書き込みを見た。
『投稿者:サティーン
 絵の中に入った娘なら、あたしも知ってるよ。学校の知人の話だけど。あ、本名はやばいからカンベンしてって感じー☆
 彼女M・Yって名前でさ、絵が好きで渋谷のW画廊ってとこによく行ってたんだ。そこがまた、女の子の絵ばっか並んでんだって。あたしなんかそれ聞いたら、引きまくりって感じでさー。ほら、何か変な趣味持ってそうじゃん?
 そしたらある日ぷいと居なくなっちゃってー。しばらく経って見つかったんだけど、黒ずくめの男に拉致られて、絵の中に入れられそうになったってさー。拉致られてる間に何があったか、全然教えてくんないけどさ。きっと何かされてそうだよねー(笑)』
 十三は先日の事件について、女子高生を装い書き込んでいた。多少脚色は入っていたが。
(こういう時は煽って反応待つに限らぁ)
 ニヤッと十三が笑った。

●ただだから【5B】
 午後2時過ぎ――秋葉原。日本一の電気街と呼ばれている場所である。駅付近の人ごみの中を歩く十三。
「へへへ……寒い季節にゃ、ただの場所に限らぁ」
 十三は秋葉原に移動してきていた。目的はというと、別のインターネットカフェへ行くためであった。その手には目的地の無料チケットが握られていた。
(後はアルコールもありゃ言うこたぁねぇんだが……そりゃ贅沢ってもんかねぇ)
 信号待ちの最中、ニヤニヤ笑う十三。ふと電光掲示板が目に入った。
『……画家の立岡正蔵さん、危篤……』
(……見覚えある名前だな)
 どこかで見た名前のような気がするのだが、画家に知り合いが居る訳でもない。さてどこだったかと記憶の糸を手繰り寄せる十三。
(ああ、あれだ)
 案外簡単に思い出せた。つい最近、デパートの前で見ていたのだ、この名前を。
(『立岡正蔵の世界』なんて立て看板あったよなあ……)
 分かってみれば単純な話である。十三はそれ以上気にも留めず、横断歩道を渡っていった。

●若かりし頃【8B】
 午後4時過ぎ・秋葉原のインターネットカフェ。
(へへっ、色々と返事ついてるじゃねえか)
 十三は掲示板を読んでいた。先程の投稿に対し、様々な返事がつけられていた。そのほとんどは、無意味な内容ではあったが。
 そんな中、次のような書き込みがあった。
『ムカツクわーっ! またあの男に声かけられた! もう当分『立岡美術館』には近付かへん!』
(立岡?)
 そういえば先程電光掲示板で見た名前も『立岡』だ。何か関連があるのかと思い、十三は調べることにした。
「検索サイトっての使えばいいのか」
 いそいそとブックマークされていた検索サイトを開き、『立岡美術館』で検索をかけてみる。すると次のような情報が掲載されているサイトを見つけた。
『立岡正蔵(たておか・しょうぞう/1929−)
 戦後、独学で西洋画を学んできた画家であり、その独特で繊細なタッチは見る者を和ませている。
 風景画が主だが、人物画も多く描いており、特に少女を描かせれば右に出る者は居ないとも言われている。
 なお、彼の作品は個人美術館である『立岡美術館』でも見ることができる』
(少女の絵だぁ? おいおいおい、あそこの画廊の奴と同類かぁ?)
 十三は『和田画廊』の絵画を思い出していた。どの絵画にも少女が描かれており、辟易した覚えがあった。
(どんな奴だか、その面見てえよな……)
 十三は検索されたサイトを片っ端から見て回った。そしてとうとう立岡の写真が掲載されているサイトを発見した。
「おーし。どれ、ちょっくら拝ましてもらおうか……」
 マウスを操作し画面をスクロールさせる十三。
「うん?」
 パソコンの画面の中、白黒の画像が映し出されていた。白黒写真をスキャナーで取り込んだ画像だろう。キャプションには『我が友、立岡正蔵君(右)と共に』と書かれている。
 写真にはスーツ姿の若い男性が2人並んで写っていた。右側に立っているのが立岡である。写真で見る限り好青年に思える。
「こりゃあ……黒だよな、きっと」
 写真の中の立岡は、全身黒ずくめのスーツに身を包んでいた。
「黒ずくめの男か……」
 奇妙な物だと十三は思った。黒ずくめの男を調べていて、黒ずくめの男の写真を見つけるとは。
(こいつが犯人なら話は早ぇんだがな。ま……んなわきゃねえって。第一よぉ、昔の写真じゃねえか、これ)
 へへっと十三は笑うと、傍らのオレンジジュースをぐいっと喉に流し込んだ。
 それからしばらくして、十三は新聞社のサイトで立岡の死亡記事を見つけることになる――。

●深夜ラジオより【9】
「午前1時を回りました。ここでニュースをお伝えします。昨日午後4時3分、画家の立岡正蔵さんが亡くなりました。享年72歳でした。なお、立岡さんのアトリエより描きかけであった絵画が1枚無くなっていることに家族の者が気付き、警察ではそれに対する捜査を始めるということです。午前1時のニュース、星野レミがお伝えいたしました」

【黒ずくめの男 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 PC名(読み) / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 渡橋・十三(とばし・じゅうぞう) / 男 / 59 / ホームレス(兼情報屋) 】
【 エルトゥール・茉莉菜(えるとぅーる・まりな) / 女 / 26 / 占い師 】
【 大沢・巳那斗(おおさわ・みなと) / 男 / 10 / 小学生 】
【 武神・一樹(たけがみ・かずき) / 男 / 30 / 骨董屋『櫻月堂』店長 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で、NPCを姓で表記するようにしていますが、一部例外もあります。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全13場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・さて、本依頼はオープニングには記載していませんでしたが、『少女はどこへ消えた』という依頼の続きでした。本依頼単体でも行動できるように考慮したつもりでしたが、いかがだったでしょうか? なお過去の依頼は『クリエーター別』よりご覧になることができます。
・本依頼のシリーズは次が最後となる予定です。最後まで謎を追い求められるのでしたら、ぜひ次回のご参加もお待ちしています。
・渡橋十三さん、3度目のご参加ありがとうございます。今回もまた楽しいプレイングをありがとうございました。プレイングの結果、今回は他の方が登場していません。その分、違った情報が手に入っております。黒ずくめの男の正体、明記はしていませんがおおよその想像はつくのではないかと。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。