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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


消えていく写真
------<オープニング>--------------------------------------
 「……まずはこれ、見てくれない?」
 碇麗香はデスクの引き出しから取り出した一枚の写真を見せる。
 「これ、ですか?」
 三下は写真に目をやる。それは二人の女子高生が写っている。二人とも大人しそうな女生徒だ。場所は校内だろう。隅に体育館らしき建物が写っている。そしてその女子高生の横の何も写っていない空間に、人を形取るようにマジックで縁取られている箇所がある
 「どう思う? 匿名で送られてきたんだけど」
 「どう思うって…… なかなか可愛い子ですね」
 「アンタ、もしかして殴られたい?」
 ぴきっとコメカミに怒りマークを浮かび上がらせる麗香。
 「い、いえ……けど、じゃあ……」
「マジックで人の形に縁取ってあるでしょう。そこを見なさい」
 「けど、何もない……あれ?」
 三下がよく見るとマジックで縁取られた箇所の手の部分に、本当に手が写っている。まるで透明人間が手だけ写ったかのように、だ。
 「心霊写真、ですか?」
 「私も最初はそう思ったわ。けど……これは一週間前にスキャナーで取りこんだその写真よ」
 そう言って取り出したもう一枚の写真には、マジックで縁取られた箇所に人形の靄が写っている。
 「これって……」
 「消えていってるのよ、ここに写っていた人間が。デジタルで取ったモノだけ保存されているけど、現物はドンドン消えていく」
 「じゃあ、ここには元々は……」
 「そう誰か写っていたのよ。それが消えていっている。
 ねぇ、ここに誰がいたか、面白い記事になると思わない?」
 「は、はぁ……」
 「と、言うわけで取材に行って来てくれる? 何人か見繕ってね。方法は任せるわ」
 
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 会議室に集められた今回の取材に志願した者達はデスクの上の一枚の写真に視線を集めている。
 「これってやっぱり呪いとかそういうのなのかな? デジタルだと残るって事はデジタル世界に閉じこめられて言ってるとか、そういうことなのかな?」
 「呪い、ですか。随分馬鹿馬鹿しい想定ですね。いきなりそんな非科学的な事を言いますか」
 遠野一哉の仮説をピシャリと切る葉月アマネ。葉月アマネは神学を学びながらも、そう言ったものを信じていないのだ。瞬間、遠野一哉はムッと口を閉ざした。
 「非科学的な事もあるさ。『消えていく写真』のように、たまにはな。まぁ、俺はその中で生きてるモンでね。取り敢えず霊視でもしてみるさ」
 高校生でありながら陰陽師でもある雨宮薫は写真に手を伸ばす。
 「あ、俺もやるっスよ。いちおー、これでも俺も陰陽師っスから」
 「いいさ。俺がやる」
 同じ高校生陰陽師の九夏桂の申し出を断り雨宮薫は霊視を始めるが、直ぐにその違和感に気がつく。
 「おかしいな。この写真の、この消えている場所からは何も感じない」
 「俺もいっスか?」
 九夏桂も同じように霊視を行うが、結果は同じだった。
 「ホントだ」
 「じゃあ、これって特殊なインクでプリントされたものとか……そう言うものってないのかな? 大角君?」
 皆にコーヒーを運んできた三下がフリーカメラマンの大角御影に尋ねる。
 「いや、見た限りそう言ったモノではないと思いますよ。僕としてはこの写真がデジタルなのかフィルムなのか気になったんですが、見た限りじゃデジタルカメラのようですね」
 「けどそれって判ったところで大した意味はないと思いますよ」
 また葉月アマネが会話を切る。確かにその通りなのだが、ディスカッションをこうも切られては会話も続かず、皆が口を噤んでしまう。
 「へぇ、この写真が噂の消える写真ですか?」
 と、そこへ遅れて来た七森沙耶がヒョイとその写真を覗き込む。学校帰りなのだろう。まだ制服のままだ。
 「ふーん……あれ? これって私の高校ですよ。ほら」
 そう言って自分の制服を七森沙耶は見せる。確かに写真に写っている女子高生と同じものだ。
 「それにここに写ってるのって旧体育館だと思いますけど。どうします? 取り敢えず、この写真の写っている場所に行ってみますか?」
 七森沙耶のその言葉に誰も反対するものはいなかった。


 一同が高校へとたどり着いたのは午後五時半を回っていたが、未だ校内には沢山の学生達がいる。部活などで残っているのだろう。
 「結局三下さんは来なかったんですね……三下さんならまだ高校生で十分にいけると思ったんスけどね」
 そう言って深々と溜息を落としたのは湖影龍之介だ。彼は最後まで三下も高校へ連れてこようとしたらしい。しかし三下は仕事が忙しく、今回の調査には手を回しきれなかったのだ。
 「まぁ仕方がないさ。俺達だけで手分けしてこの写真に写っている女生徒を探さないと」
 「簡単に見付かるのかな。結構な生徒数がいるんだろう」
 雨宮薫は提案に対する葉月アマネの意見はもっともだが、そこは写真というものがある。大角御影は何枚にもプリントした写真を取り出し、皆に手渡す。
 「一人に一枚ずつ、どうぞ。学校内だったら、写真を見せれば、誰かが知ってると思いますけどね」
 「そうだな。じゃあ手分けして探すとしようか」
 一番年上と言うこともあり、一応のリーダー的立場にある遠野一哉が七森沙耶の意見を採り入れ方針を決定した。
 「相手が見付かったら携帯で連絡を取り合うと言うことでいいな。じゃあ、行こうか」


 「聞き込みって言っても……三下さんもいないっスしねぇ……女の子なんて見てても……」
 何だか面白くなさそうに、校庭の端っこを歩いていた湖影龍之介だが、その時校舎から出てくる二人組の女子高生を見て、手に持った写真のコピーと照らし合わせる。間違いない、写真に写っているのはあの子達だ。
 「あ、あの子たちだっ! ラッキっ! これで三下さんのお役に立てるっ!」
 湖影龍之介は慌てて、二人の後を追うのだった。


 湖影龍之介の知らせで校庭の端に集まった皆は、写真に写っていた二人の女子高生に早速、消えていく写真を見せる。
 「確かにここに写っているのは私達ですけど……」
 「隣に誰が写っていたか……なんて言われても、ねぇ? って言うか気持ち悪いし」
 「うん」
 写真に写っていた『消えていない』女生徒、三井智子と長瀬絵理は互いの顔を見合わせる。
 「この位置に写ってるんだ。友達とかが写っていたんじゃないかな? 思い出してよ」
 「そんな事言われても…… あれ? ねぇ……見てよこの写真に写っている指先……ほら小さなホクロがある……」
 「あ、ホントだ……ねぇ? 誰かここにホクロのある子っていたよね?」
 「うん、いた……いたけど……」
 その瞬間、頭を押さえ踞る三井智子。
 「痛……思い出そうとしたら急に……頭が……」
 「わ、私は、何だか気持ちが悪く……」
 長瀬絵理もまた体の不調を訴える。
 「なに? どうしたの?」
 突然の事に困惑する七森沙耶。
 だが次の瞬間、世界が暗転し、みんな以外の全ての人間、辺りにいた女生徒や、グランドで部活をやっていた生徒達など、その全てが時が止まったかのように停止する。
 「な、なんっすかっ!? これは、結界っスか?」
 「ああ、それもかなりの『魔』の力を感じる……」
 「私も、同じくです」
 霊能力を持つ者達が、『霊的なこと』であることを口を揃え訴え始める。いや、霊能力者だけではない。それを持っていない者達ですら、恐怖感を空間から感じている。
 そして辺りに響く澄んだ鈴の音。
 「酷なことをするわね…… せっかく過去をなくしたというのに……」
 どこからともなく現れるまるで日本人形のような雰囲気を持つ女子高生。
 「過去をなくしただって? 写真が消えていくって事が、過去を消すとでも言うみたいだな」
霊的不感症である葉月アマネはその女子高生の発する異様な雰囲気に、気がついていない。多少の霊感と言ったモノがあれば、この少女が『人』などではなく、もっと『違う』ものであり、『危険』なものであることは感じることが出来るのだが。
 「ええ……その写真に写っていた子は、この子達の友人。大切だった友達。だけど……死んでしまった大切な人。失うことで心が壊れる程の友人。愛されていた子だった。家族にも、友人にも。
 だから……その過去を私が消した……一人の人間が存在したという過去、その全てを……はじめから存在しなかったものした……」
 そう言って『止まっている』三井と長瀬に近づく女子高生。
 「何だか判らなっスけど、させないっスっ!」
 九夏桂は素早く術を唱え、女子高生に攻撃を仕掛けるが、その攻撃は彼女に当たる直前で霞のように消えてしまう。
 「そんなっ!」
 「……抵抗することはないわ。ただ過去が消えるだけ。殺す訳じゃない……
 私が消した過去は、その場所が空白になるだけ。過去は今も作られている。ちょっとしたことで、その空白はまた書き込まれてしまう……
 だからもう一度消してあげるだけ……」
 「誰も覚えていないなんて死ぬよりも寂しいじゃないかっ!」
 大角御影はそう言って二人の前に立とうとするが、その足は彼女の放つ圧倒的な『圧力』に負け、縺れ倒れてしまう。 
 「邪魔をするつもり? 私は悪いことをしているつもりはないんだけどな……」
 そう言って妖艶な笑みを浮かべる女子高生。
 「もっとも私の理屈を押しつけるつもりはないわ…… だって私が『過去』を喰らうのは、それが私にとって必要なことでもあるのだから…… 私は私の理由で動いているに過ぎない……」
 辺りに鈴の音が響き始める。
 「何を……」
 「今起こった過去を消す……だけよ。貴方達は私に会うことも、話したこと過去も、全てを失う。
 本当はもうちょっと小規模で行きたいんだけど、写真の事もあるしね……
 デジタルだと私の力も上手く働かないの……
 だから忠告するわ。一番大事なものを思っていなさい。強く、強く、ね。
 そうじゃないと、『それ』も貴方達の中から消えるかも知れないわ……」
 女子高生の身体から蒼白い炎がうっすらと立ち上が辺りに鈴の音が響き始める。
 「あ、頭が……この音が……頭の中を……」
 まるで頭の中を掻き混ぜられるような激しい頭痛が、皆を襲い、その意識を奪っていく。
 「待て……お前は何者なんだ」
 暗転していく意識の中、雨宮は問う。
 「……美鈴…… 私は美鈴…… 人の過去を喰らう女。『鈴の音の魔女』なんて、言われた事もあるわ……」
 その声が、皆が美鈴の声を聞いた最後の記憶であり、そして次の瞬間には、その『過去』も消え去るのだった。


 そして……三日『前』。
 アトラス編集局に一枚の写真が送られてくる。だがそれはなんの変哲もない、二人の女子高生が写っているだけの、写真でしかなかった。
  <終> 
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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  【 PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】
九夏・珪/ 男/ 18/ 高校生(陰陽師)
雨宮・薫/ 男/ 18/陰陽師(高校生)
遠野・一哉/ 男/ 25/店員
湖影・龍之助/ 男/  17/高校生
七森・沙耶/ 女/ 17/高校生
大角・御影/ 男/ 24/フリーカメラマン
葉月・アマネ/ 男/ 18/大学生

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■         ライター通信          ■
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初めまして今回、初めて東京怪談を書かせていただいた日向祥一郎です。皆様が楽しんでいただけましたら幸いと思います。
今回登場した鈴の音の魔女『美鈴』は携帯電話での東京怪談でシリーズ化されています。もし興味がお有りでしたら、一度聞かれてはいかがでしょうか?
それではまた次回がありましたらよろしくお願いいたします。