コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


エキストラ、求む
●オープニング【0】
『エキストラ若干名募集!』
 ある日、このような題名で始まる書き込みが掲示板にあった。その内容はといえば、『魔法少女バニライム』という特撮ドラマのエキストラを募る物で、詳細はメールにて返信とのことだった。
 『魔法少女バニライム』――月の魔法で正義の魔法少女バニライムに変身した少女、大月鈴(おおつき・りん)が悪と戦ってゆく物語だ。けれども、この掲示板に投稿するのは畑違いのように思える。
 疑問に思いつつもメールを出してみると、意外に早く返事が戻ってきた。何でも差出人のスタッフ曰く、『怪奇現象が絡んだ話を撮るから、それらしいエキストラが欲しい』という監督の意向があるらしい。なるほど、それならここに投稿したのも納得できないことはない。
 1日まるまる拘束されるそうだが、日給1万円で食事付きの条件は見逃せない。普通のエキストラよりも条件はよいのではないだろうか。
 しかし昔からこう言われる――『美味しい話には裏がある』と。
 ……気にし過ぎだろうか?

●気になるメール【1B】
「あ。メール来てる……って、彼女からじゃないか!」
 理工学部3年生・斎悠也はいそいそと新着メールを開いた。彼女といっても、別に恋人からのメールという訳ではなく、悠也が常連の占いサイトの運営者から送られてきた物だった。
「……あれ?」
 メールの内容は次のような物だった。
『『魔法少女バニライム』の主役の娘は、最近ストーカーが出ているという噂があるようです。気を付けてください』
「ストーカーねえ……」
 腕を組み思案する悠也。『魔法少女バニライム』は悠也がエキストラに行く特撮ドラマである。
 そもそも募集の書き込みを見た時から、裏があるなと感じていた。日給1万円というのは普通から高いのかもしれないが、高級クラブでホストのバイトをしている悠也にすれば安過ぎる金額だ。
 それでもこのエキストラの話を受けたのは、ひとえに占いの結果による所が大きいだろう。『いつもと違う世界を覗いてみるのが吉』――つまりそういう訳である。
 ともあれ悠也は、このメールの情報を頭に叩き込んだ。

●エキストラがいっぱい【2】
 土曜日朝8時――エキストラをすることになった者たちは、島公園スタジオのロビーに集合していた。
「あれっ、若干名って言ってなかったー?」
 冬にも関わらず小麦色の肌をした小柄な女子高生・榊杜夏生は集まった者たちの顔を見回して、思わずそうつぶやいた。
 今、この場には8人が集まっていたのだ。
「おかしな話ですね」
 骨董屋『櫻月堂』店員・草壁さくらが首を傾げた。確かに8人とは少々多いような気もするが。
「大方予定でも変わったんだろう。この世界、そんなことは日常茶飯事らしいからな」
 黒衣に身を包んだ法医学生・紫月夾が興味なさげに言った。
「お嬢さん、どこから来られたんです?」
 人数に疑問が挙がっている一方、理工学部3年生・斎悠也はそばに居た何故かメイド服に身を包んだ女性に声をかけていた。丸型ノンフレームのサングラスをかけたまま、悠也はメイド服の女性に話しかける。ちなみに人はこれを、俗にナンパと呼ぶ。
「お名前は?」
「ファルファ……と申します」
 ファルファは悠也の目をじっと見据えて答えた。
「ファルファか、いい名前だね。所でその格好は……?」
 やっぱり気になるようで、悠也がファルファに服装のことを尋ねる。すると、その隣に居た金髪の白人少女が口を挟んできた。
「ファルファはわたくしのお友だちで〜、わたくしのお家のメイドさんです〜」
 ほがらかな雰囲気を漂わせながら、ファルナ・新宮が笑顔で説明した。さくらの金髪も見事な物だったが、ファルナもなかなかの物である。
「メイドさん付きでエキストラって……」
 反対側で見ていた少年・世羅・フロウライトが苦笑しながらつぶやいた。まあ普通はメイド同行でエキストラの仕事に来る者は居ないから、世羅が苦笑するのも当然なのだが。
「…………」
 世羅の隣に居た少女・王鈴花は、世羅の衣服をつかんだままきょろきょろと皆の顔を見回していた。
 ふと世羅と目が合った。
「鈴花。大丈夫かい?」
「うん……大丈夫だよ、お兄ちゃん。何にもないから……」
 こくんと頷く鈴花。どうやら今の所は何も感じる物はないようだ。
「あー、はい! お待たせしました!」
 8人の所へ、1人の青年が駈けてきた。首から入構許可証を下げ、手には丸めた台本を持っている。台本の表紙に『バニライム』と書かれているから、スタッフの1人に間違いはないだろう。
「エキストラの皆さんには、これからスタジオの方に移動してもらいます。今から臨時の入構許可証をお渡ししますので、撮影中以外は常に首から下げておいてください、お願いします!」
 そうスタッフの青年は言うと、1人ずつ入構許可証を手渡していった。『臨時』としっかり書かれている。
「あれ? 7人だったはずだけど……聞き間違えたかな、まあいいや」
 途中に少し気になる発言はあったけれど。

●スタジオの空気【3】
 スタジオに入るなり、さくらは出入口の所に何かがあるのに気付いた。
(盛り塩……)
 出入口のそば、そこに清めのためだと思われる盛り塩がされていた。これから怪談絡みの話を撮影するのだから、やってあっても別に不思議はないが……少し心に引っかかった。
「あっ、監督ってあの人だったの!」
 セット前でスタッフに指示を飛ばしている、スキンヘッドにサングラスをかけた怪しい風体の男を見つけ、驚いたように夏生が言った。
「……誰なんだ?」
 隣に居た夾が尋ねてくる。
「えーっ、知らないの!? 『レンゾク』とか『あぶれる刑事』とか撮ってきた内海監督だよ? 人気ドラマだったのに……」
 と夏生に説明されるが、あいにくと夾はどちらの作品にも興味がなく知らなかった。
「あ、俺見てましたよ。やたらと本筋に関係ない小ネタが多かった印象があるなあ」
 2人の後ろから悠也が口を挟んだ。
「このセットでどんな小ネタやるんだよ?」
 セットを見つめながら、世羅が呆れたようにつぶやいた。
 セットは一見どこかのカルチャースクールの教室風だったが、壁には大きなコックリさんの盤や魔法陣等がかかっており、四隅にろうろくまで立てられている。妖しさといかがわしさの高いセットであった。
 そんなことを話していると、内海が8人の方へやってきた。

●内海の演出【4B】
「おお、来たかエキストラの諸君!」
 気さくに話しかけてくる内海。外見とは違い、結構いい人なのかもしれない。
「じゃ、さっそくだが簡単に説明しておこうか」
 そう言って、内海は今回のあらすじを話し出した。今回の話は、『怪奇現象セミナー』に出席した人間に失踪者が相次いだのを疑問に思った鈴がそのセミナーを調査に行くという内容だ。エキストラはそのセミナーの場面に必要ということだった。
「で、やってもらうことだが……」
 内海は夾と悠也を立て続けに指差した。
「君と君、魔法陣の方を向くように、あそこの机に座ってくれるかな」
 魔法陣はセットの端にあった。そして魔法陣の方を向くということは、配置の関係上、カメラに背を向けることになる。あまりフィルムに映りたくなかった悠也にとっては、ラッキーな内海の言葉だろう。
「で、そこの君と……ああ、隣のメイド服の君。彼らの向かいに座ってくれ」
 今度はファルナとファルファを指差す内海。
「魔法陣を背負う女性2人に、相談する悩める青年たちの図……メイド服がポイント高いか」
 内海は1人頷いた。
「真夏ちゃん、入りまーす!」
 スタジオにスタッフの声が響いた。主役の大月鈴役・香西真夏(こうざい・まなつ)がスタジオ入りする。小学生高学年としては背は高く、茶色く短い髪は快活そうにも見える。
「よーし、それじゃあリハ行こうかー」
 内海はそう言って、8人のそばを離れていった。

●女性スタッフに囲まれて【5A】
 一通り該当場面を撮り終えた後の昼の休憩中。悠也はスタジオの外で、若い女性スタッフに囲まれ弁当を食べていた。
「へえ、そうなんだ? 大変な仕事なのに、頑張ってるよね。だけど、そういう姿の女性って……素敵だと俺は思うな」
 悠也はそう言って女性スタッフたちに微笑みかけた。照れたような笑みを浮かべる女性スタッフたち。
「なら、この撮影も色々あって大変じゃないのかな?」
 悠也は女性スタッフをたらしこんで……もとい、仲良くなって事情を聞き出そうとしていた。
「……言っていいのかな?」
 女性スタッフの1人が他の者の顔を見た。
「いいんじゃないかな……」
「あのね、たいしたことじゃないんだけど……何か物が足らなかったり、妙な気配があったり……気にし過ぎなのかもしれないけど」
(妙な気配か。やっぱり何かあるのかもなあ……)
 悠也は笑顔で話を聞きながら、そんなことを考えていた。

●衝撃【6】
 昼の休憩も終わり、人がぞろぞろとスタジオに戻ってくる。
 最初に戻ってきたのは夏生とファルナとファルファの3人。次いで、女性スタッフと和やかに談笑しながら悠也が、少し遅れて真夏と夾が戻ってきた。明るい光の下、各々他愛のない会話をしている。
 天井には多くのライトが煌々と輝いていて眩しい上、その熱で外よりも少し暑かった。
 最後に戻ってきたのは、鈴花と世羅とさくらの3人だった。
「!」
 スタジオに足を踏み入れるなり、鈴花の身体がビクンと反応した。
「だ……駄目……」
 わなわなと震えつぶやく鈴花。世羅がその様子に気付いた。
「鈴花?」
「駄目っ……そこに居ちゃ駄目ぇっ……!!」
 鈴花が唐突に真夏の居る方へ駆け出した。
「おいっ、鈴花っ!!」
 慌てて後を追いかける世羅。さくらは突然の鈴花の行動に驚きつつも、ふと何かを感じ天井を見上げた。ライトがいくつか――微かに揺れた。
「! 逃げて! 皆、逃げてください!!」
 さくらがスタジオ中に聞こえるよう、大声で叫んだ。鈴花と世羅以外の者が一斉にさくらの方へ振り向いた。
 その刹那――天井からライトが落下した。しかも複数個のライトが。
「逃げてぇーっ!!」
 さくらが悲鳴にも似た叫びを上げた。
「くっ!!」
 夾が真夏を抱え、身を翻した。
「危ない!!」
 すぐそばに居た女性スタッフを突き飛ばし、護るようにその上に覆い被さる悠也。
「マスター!!」
 ファルファがファルナを抱きかかえ、遠くへダイビングした。
「鈴花ぁぁっ!!」
 追い付いた世羅が、鈴花の小さな身体を抱え床に転がった。
「きゃああああああっ!!!」
 そして立て続けに起こる激しい破壊音と悲鳴。今まで彼らが居た場所、そこにライトが落下していた。
「ひっ……!」
 1歩も動くことのできなかった夏生。ライトの1つが、彼女の僅か20センチ先に落下していた。1歩でも先に居たならば、ライトは確実に彼女を直撃していたことだろう。
 突然の事態に騒然とするスタジオ。他のスタジオからも人が集まってくる。
 幸いにも怪我人は出なかったが、その衝撃は非常に大きい物となった。
 落下したライトのそばへ駆け付けるさくら。ライトを支えていたケーブルが切れて落下したのだと思われる。さくらはその中の1つを見て、表情がさっと変わった。
 ケーブルに、人為的に傷付けたような跡があったのだ――。

【エキストラ、求む 了】


□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【 PC名(読み) / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 斎・悠也(いつき・ゆうや) / 男 / 21 / 大学生・バイトでホスト 】
【 榊杜・夏生(さかきもり・なつき) / 女 / 16 / 高校生 】
【 草壁・さくら(くさかべ・さくら) / 女 / 20前後? / 骨董屋『櫻月堂』店員 】
【 紫月・夾(しづき・きょう) / 男 / 24 / 大学生 】
【 ファルナ・新宮(ふぁるな・しんぐう) / 女 / 16 / ゴーレムテイマー 】
【 世羅・フロウライト(せら・ふろうらいと) / 男 / 14 / 留学生 】
【 王・鈴花(うぉん・りんふぁ) / 女 / 9 / 小学生(留学生)。たまに占い師 】


□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で、NPCを姓で表記するようにしていますが、一部例外もあります。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全12場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の依頼は『エキストラを無事務める』というのがテーマですので、ああいうことが起こりましたが依頼は成功となります。なおあの後は撮影中止となっています。
・今回のバイト代、1万円とのことでしたが、何故か3倍の3万円になっています。この増額にどのような意味があるかは……察しがつくのではないかと思います。
・このシリーズまだ続きますので興味を持たれた方は、こまめに依頼をチェックされるのもよろしいかもしれません。
・斎悠也さん、プレイング楽しく読ませていただきました。スタッフをたらしこむ下りは、さすがホストだと思いました。バイト代、3万円になりましたが……それでも安いですよねえ、やっぱり?
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。