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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


打倒節分! 小鬼軍団の逆襲!!

------<オープニング>-----------------------------------------------------------
1月22日。ゴーストネットOFF
 正月休も取らず、よく仕事したなあ。来月あたり休み取ろうかな。
 そんな事を考えながら、懸賞ページを見ていた。
 すると‥‥‥。
 ぱんぱかぱーーーん!
『おめでとうございます! 小笠原諸島へとご招待!!』
 なんと、懸賞に当ってしまった! 
 思わず喜ぶが、これがあのどたばたな夜への誘いになるとは、この時想像する事も出来なかっ
た。

1月31日。A.M.10:00。
 東京港竹芝桟橋から『おがさわら丸』が出航する。
 31日の便と言う事で、もちろん1月最後の便であるのだが、次の2月の東京発の便は6日
な為、たくさんの物資を積んで東京港を出航していた。
 
2月1日。A.M.3:00。
 既に照明の落ちた船内を暗躍する小さな影。
 甲板より次々と何かが海へと投げ捨てられ、黒い海の中に飲み込まれて行った。

2月1日。A.M.11:41。
「げっ、無い。どうして無いんだ? なーーーい!!」
 船倉から出したコンテナを開いて物資を取り出すうちに、それだけ無くなっていることに島
の生協店長、球磨次郎〔くま じろう〕が気づいて船内に駆け入るが、もちろんコンテナの外
に物資が置いてある訳も無く。
 まあ、21日に着いた分で大安売りをしたからなあ。大丈夫だとは思うんだが‥‥‥。積み
忘れかぁ? 後で電話しなくちゃな。

 だが。
 誰も気が着いていなかったが、物語は既に静かに始まっていた。
 闇の中を暗躍する影たちによって‥‥‥。

------<九夏珪の場合>--------------------------------------------------------
 ネット懸賞で小笠原諸島父島旅行が当ったのではあるが、フェリー乗り場に現地集合と言う
事で、半信半疑でここまで来ていた。
 完全にオフシーズンであり、例年に比べると寒いと言う事でおがさわら丸の乗客は思いのほ
か少なそうだ。波が高いと言うので、サーフィンを楽しもうと言う若者が殆どのようである。
 その時、この場には場違いのスーツを来た少年がてけてけと走ってくる。
「えっと。九夏珪さま、伍代吉馬さま、いらっしゃいませんかぁ」
 や、やっぱ嘘じゃなかったんだ! ちゃんと呼ばれたし‥‥‥。
 でも、ちゃんとした会社のホームページみたいだったのになんで子供がお使いに来るんだろ
う‥‥‥謎だ。
 どうも、後一人寄ってきた大学生らしき人も同じことを考えているらしい。彼も当選者なの
かなあ。
「お客様、当社のホームページをご覧下さいまして誠にありがとうございます。私テラネッツ
観光の一郎〔にのまえ あきら〕と申します。えーと、こちらが往復のフェリー乗船券、そし
て、こちらが島内でのお食事券とペンションこすもの宿泊チケットになっております。そして
これは私の名刺で、何かお困りの際にはこちらにお電話ください。それでは、父島への旅をお
楽しみくださいませ」
 そう言ってぺこりと頭を下げる一郎。
 名刺に書かれている一 郎の文字。これでにのまえ・あきらと読むらしい。
 しかし、しっかりと名刺に社名と名前が書いてある所を見ると、少年では無い様ではあるが。
 笑顔で見送りに立つ一郎に見送られ、おがさわら丸に乗船する。
 こうして、戸惑いと共にどたばた旅行はスタートしたのであった。

ぴんぽんぱんぽーん♪(上がる)
 ここより、特に何事も無く父島・二見港に到着します。と、言う事で、場面は二見港から。
                            ぱんぽんぴんぽーん♪(下がる)

 東京都でありながらこの季節の最低気温の平均も18〜19度と大変暖かい‥‥‥が、地元
の人間から言わせると大変に寒いらしい。
 そんな小笠原諸島のいわば玄関口とも言える二見港にまず第一歩を踏みしめた。こんな事が
無ければ一生来なかったかもしれない東京都の村である。
「うわーっ、暖かいですねえっ!」
「南の島だよー!!」
 と、島外の人間の第一印象はやはりこうなる事が多い。
 タラップを降りて、島の空気を満喫していると、なにやら左斜め後方が騒がしい。
「げっ、無い。どうして無いんだ? なーーーい!!」
 何が無いのか良くは分からないが取り立てて関係無い。
 そんな物を見ていたらおなかがくぅぅぅと小さな音を立てた。と、言っても決して下痢では
無い。
「伍代さん、腹減らないっすかあ? 朝飯貧弱だったんで俺腹減っちゃって。まだ12時前で
すけど飯食いに行きましょうよ、飯!!」
「そだね。ちょっと早いけどごはん食べに行こうか!!」
 この大学生は伍代吉馬。人のよさそうなお兄さんであるが、少々ぼーっとしてるかな、なん
て珪は思っていた。
 まあ、島に来たのだから、島ならではの物を食べなければ仕方ない。あーだこーだパンフレットを見ながら相談し、結局亀の刺身を食ってみようと言う事になった。
 と、言う事で勘父と言う寿司屋にINなのである。
「いらっしゃい!」
 威勢の良い親父に出迎えられて席に座ると、目の前には新鮮な小笠原の海の幸がネタケース
で唸りをあげている。
 ‥‥‥じゅるり。
 日本人なら食わずばなるまい。
「すみません、このチケット使えますか?」
 五千円と書かれているチケットを年長者である吉馬が親父にそれを差し出すと、にんまりと
笑ってそれを見つめた。
「一回の食事でお一人様一枚まで使えるよ。さあさあ、座って心行くまで食ってってね!」
 一郎に渡された食事チケットは二人合わせて六枚。
 が、しかし父島に遊びに行くと言う事で二人ともそれなりにお金をかき集めてきている。
 うわーっ、どれから食べようかなあ。もう、どれもうまそーっ!!
「じゃあ俺は‥‥‥まずは島マグロヅケ丼」
 若い珪は最初から攻めの姿勢! うーむ、美味過ぎるっ!!
「た、大将‥‥‥かっぽれってなんですか?」
 吉馬がお品書きに墨書されているそれを見ながらそう言うと親父はにやりと笑みを浮かべた。
「お客さ〜ん、今日は運が良いねえ。最近あんまり揚がらないからねえ」
「じゃあ、そのかっぽれ一つ下さい!」
 なんか、変なもん頼むなあ。ここは手堅くうまそーなやつを攻めてみよう。
「大将、島にぎりいっちょ!」
 すでに島まぐろ丼をやっつけた珪が次なる注文の声を挙げた。
「こっちにはスマにぎりお願いします!」
 ‥‥‥こうして二人はベルトの穴を仲良く2つずつずらしてお店を後にしていた。
 チケットは二枚使用。さらに二千円ずつそれに足して、二づくめで二人連れの旅行者は宿で
あるペンションコスモを目指して歩き出した。
 その時‥‥‥。
「どいてどいてどいて! どけー!!」
 小柄で髭もじゃな男が猛然と走ってきて、腹をさすっていた二人に突っ込んできた。が、若
い珪は何とかそれを避けるが‥‥‥不意を突かれた吉馬は‥‥‥。
「ふ、ふぐおっ!」
 丁度身長の低いその男の肩が、今満腹になるまで詰め込んだ腹に突き刺さり、勢いに吹っ飛
ばされつつ、口からはぴゅーっと‥‥‥。
「げ、げろブレス!」
 ぶつかられた事より、あまりといえばあまりの光景に珪は声をあげてしまう。
 背後に倒れこみつつ上に吐いたそれは、ニュートンの法則に従って吉馬の顔面にもんじゃ焼
を作って‥‥‥(レモン風味☆)。
「な、ナイスタックル‥‥‥がくっ」
「伍代さん、伍代さーん!」
「だ、大丈夫か!?」
 折角知り合いになった人がノックアウトされたのであるからして、若い珪は面白く無いので
あるが、悪気は無いみたいだし今は吉馬の体が心配だ。
 とりあえずその男と一緒に、ペンションこすもに吉馬を運ぶ事にした。
 意識の無い人間と言うのは、体重移動を手伝ってくれないのでとっても重いものだ。やたら
と重い肉の塊になってしまった吉馬を何とかペンションコスモに連れて行く。
「すみませーん! どなたかいらっしゃいますか??」
 ドアを開けて声をかけると、ぱたぱたとスリッパを踏み鳴らして女性が走ってきた。
「いらっしゃいませ、あ、あなた! ‥‥‥ええと、その方はどうなされたんですか?」
「走っているときにぶつかってしまってさ。それもどうもうちのお客さんみたいだったんだ」
 決まり悪そうにする男をとりあえず放って置く女性。どうやら二人は夫婦のようであるが。
「主人がいきなり失礼しちゃいましたが、とりあえず中にどうぞ」
「じゃあ、私は行く所があるのでこれにて‥‥‥夜まで失礼!」
 先ほどのようにダッシュで走っていく球磨次郎。
「すみません、落ち着かない主人で。ささ、そちらの方をお部屋にどうぞ」
 どうせなら、部屋に運んでから行って欲しかったなあ。
 ようやくベットに吉馬を寝かせて一息付く。いい加減疲れた‥‥‥。
 ふと、サイドテーブルの上に新聞が置いてあるのに気が付く。
 東京島々新聞かあ。あー、やっぱ地元の新聞ってあるんだなあ。
 一面はなんと、父島のニュース。大豆強奪事件続発!? なんだそりゃ??
 その記事を熱心に見ていると、奥さんが再び部屋に入ってくる。
「はい、お疲れでしょ。ジュースでもどうぞ。あら、それは‥‥‥」
「大豆強奪って、島ではよく大豆食べるんですか?」
 そう言われて、困ったように首を振る奥さん。
「好きな人は食べるでしょうけど。あんまり大豆なしじゃ生活できないって感じじゃないです
ねえ。ああ、節分用にいつも来るんですけど、掃除が大変なんでうちはぴーなつ撒いてます。
あ、これ特産のパッションフルーツのジュースです。よかったらどうぞ」
「あ、すみませーん!」
 大体現在の外気温は20度くらいだろう。寒い都心から来た身にはここでの重労働は少々答
えていた。そんな時のパッションフルーツのジュースはすっぱあまくてとてもうまーい。
 のだが、味わう暇も無く飲み干してしまっていた。グラスを奥さんに返し、ふうと一息付く。
「とっても美味しかったです!」
「そうですか。それはよかった‥‥‥主人が大変失礼を致しました。実は生協に勤めてまして、
その大豆事件で今、大変なんです」
 へえ‥‥‥。大豆事件か。変な話だけど面白そうだな。後で現場を覗きに行ってみよっと。
 奥さんの出て行った後、情けない顔で倒れている吉馬の顔を何気に見つめる。
「女の子なら運びがいもあるんだけど、伍代さんじゃあなあ」
 舌打ちしてる自分に一瞬虚しくなってしまう。
 しかし‥‥‥大丈夫かな?
 顔をベットサイドに腰をかけて様子を伺おうとしたその時!
「ぎゃああああああ、くまがぁぁあああぁ!」
 こぉくすくりぅ気味に右すとれぇとが珪の顔面にひっとし、鼻の両方の穴かられっどな液体
がたらぁり流れ出してきた。
「な、なにするんすかあ!」
 当然の如く遺憾の意を表明する珪に対して、吉馬はぽりぽりと頭を掻く。
「いや、熊が‥‥‥」
「熊ぁ? あ、球磨さんのこと。でも、なんで名前知ってるの??」
「く、く、熊さん? 熊人間!?」
 も、もしかして‥‥‥熱でもあるのかな‥‥‥‥‥‥いや、別に熱なんか無いと思うんだけ
どなあ。
 自分の額と吉馬の額の温度を比べてみるが、あまり違わないように思える。
「熱は無いようっすよねえ‥‥‥どっか打ち所でも悪かったのかなあ」
「く、くまさんて?」
「ああ、ここのご主人で伍代さんにタックルかましたおっさんの名前ですよ。ああ、俺ちょっ
とその球磨さんの話聞きに行きますんで。あ、もう少し休んでた方がいいですよ」
 まあ、さっきまで倒れていたからなあ。
 伍代さんには休んどいてもらって、大豆強奪事件でも調査してみようかな。何か、面白くな
りそうだし。
 生協って言ってたよなあ。生協って言うとどこになるのかな?
 竹芝で買ってきたガイドブックをポケットから取り出すと、生協が無いか探してみる。
 ‥‥‥そんなに遠くも無いな。よし、行こう!
 売店で買ったトロピカルなジュースなどポケットにつっこんで、ペンションこすもを後にす
る珪。その姿を叢から窺う影が幾つか‥‥‥。
『明らかに力を持つ人間だ!』
『計画への関与を絶対阻止しなくちゃ! 全員を召集!!』
 そう呟いて、影たちは散開していく。
 そんな事も知らずに、生協へとつながる道をてくてくと歩いていく珪。
 大村地区は観光を主な産業とする父島らしく、きれいに整備されていて比較的人通りも多い
場所だ。
 だが、この時間はサーフィンに勤しんでいるのか、妙に人通りが少ないような気がする。
「なんか、寂しい雰囲気だなあ」
 呟いたその時、何か妖気を放つ物が裏通りに走って行った!
「‥‥‥なんだろっ!?」
 好奇心は猫を殺すと言うが、迂闊にも全速力でその物を追いかけていく珪。こんな所を師で
ある直親が見たらなんと言うだろうか。
 それはともかく、走っていった先は建物の影で人目から死角になる場所で‥‥‥。
『ようこそ、父島へ! 術者先生‥‥‥』
 せ、先生っ!? 先生って‥‥‥俺の事??
 ‥‥‥‥‥‥いい響きだなあ。
 考える所が何かちょっとズレてるような気もしないでもないが、たじろぎもしないその姿に
影たちは戸惑いのざわめきを見せる。
『ぜ、絶対に俺達の計画は邪魔させない! 術者先生に島内をぶらぶらされては、何時我々の
計画の支障になるかしれない。悪いけど、その身預からせてもらう!』
 ‥‥‥‥‥‥符ってもしかして、鞄の中だっけか‥‥‥‥‥‥。
 さあっと、血の気が引いていくのが分かる。こ、こういう時は反閇を踏んで‥‥‥。
 だが、次々と襲い掛かってくる影に、反閇を踏む暇も無い。
「真是害怕破軍星 閃煌拿槍 急急如律令!」
 ‥‥‥習ってないんですがね。
 右手の刀印の先に10センチばかり伸びた光を見て、思わず臍を噛む。直親が行えば1mを
超える大剣が現れるのに‥‥‥。
 だがまあ、習っていないのに出せた事自体褒めるべきなのであろうが、しかしながらそれが
今の状況に大して役に立つ訳でもなく。
 次々と上から降ってくる‥‥‥どうやら小鬼‥‥‥に押し潰されて、ついに身柄を拘束され
てしまう。
 発勁でも打とうか‥‥‥でもなあ。吹っ飛ばした所で、全部戦闘不能にするには恐らく無理。
だったら、後々の為に体力を温存するのが吉かもしれないなあ。
 ううう、俺どうなっちゃうんだろう。
 周囲の人からは実は小鬼は見えないので、実に不自然な態勢で連行されていく珪。
 それから‥‥‥1時間弱歩いたろうか。
 時計も見れないように歩かされたのでよく分からないのだが、結構山も登らされていたので
そこまでは遠くではないだろう。まあ、いくら遠くても島であるのだから、船でも使わない限
り外の世界に行く事はできないだろうが。
 だが、観光地である父島にしては、特に遊歩道が整備されている訳でも無いのでかなり苦し
い行程であった。
 そして、着いたら着いたでツタで珪を縛り上げてしまう。
『お前等先生を見張ってろ。先生、悪いけど明日になるまでここにいて貰うよ。大人しくして
てくれたら、別に危害を加えるつもりは無いから』
 三匹の小鬼を残して他の小鬼はそこから歩き去って行く。数えてみたのだが、全部で20匹
位いたように思えた。
「何を‥‥‥しようとしてるの?」
 珪の問い掛けに、小鬼たちは答えようもせずただじいっと珪を見つめるばかり。
「名前はなんて言うのかな」
『青巖丸だ!』『‥‥‥青岳丸』『青兎丸だよ!』
 と、意外なほどにすんなりと名を名乗る小鬼たち。
『節分なんてやられて面白い訳が無いだろう。何が鬼は外だ‥‥‥。鬼より人のほうがよっぽ
どたちが悪いじゃないか』
『巖丸! 失礼だぞ‥‥‥』
『岳丸、しょーがないじゃん。喧嘩売ってんのは人間のほうなんだからさっ!』
 節分は鬼から見たら、喧嘩売ってるように見えるのか。でも、そんな事考えた事も無かった
けどなあ。
『まあ、悪いけどこれから起こる事を黙って見ててくれればいいよ。別に人を殺そうとか火を
つけようとかそんな物騒な事をしようって訳じゃない』
 ‥‥‥そう言う事はしないけど、何か騒ぎを起こそうって言うんだな。多分。
 でも、待てよ。
 さっき破軍の星の力を手に現すことが出来たんだから、こんなツタくらい切るなんて訳も無
いだろう。
 そして、状況も違う。二十数匹の小鬼に取り押さえられたのとは違い、今は三匹。これくら
いなら符無しでも何とか逃げ切れると思う。
 だけど‥‥‥。
 もう少し話をしてみたい気もする。いつでも逃げられるなら、そう急ぐ事も無いし。
「騒ぎを起こした後は、どうするんだい?」
『毎年騒ぎを起こしてやりゃ、もう節分なんてやる気にもなんないだろう』
『派手に暴れちゃうんだもんね』
『‥‥‥‥‥‥』
 普通の人間には姿が見えないのであるからして計画は成功するだろう。
 だが、それが心霊現象による騒ぎだとでも噂が立てば、すぐにでも祓の術の使える術師が呼
ばれる事になる。呼ばれた術者がもし直親クラスの術師であれば、二十数匹の小鬼など簡単に
降伏してしまうかもしれない。
 それは果たして小鬼たちにとって幸福な事なのか。
 確かに今受けている仕打ちは少々納得がいかないが、だからと言って小鬼の壊滅を願うほど
の事でもない。
 しかし、ここで珪が忠告した所で受け入れる耳を持たないだろう。小鬼たちは珪より優位に
立っていると思っているのだから。ならば、取るべき手段は唯一つ‥‥‥。
「‥‥‥真是害怕破軍星 閃煌拿槍 急急如律令」
 10cmほどの刃であってもその威力は絶大で、ぐるぐると巻きつけられたツタを瞬時に切
り落としていた。
 立ち上がった珪は刃を小鬼たちに向けて、にやりと口元に笑みを浮かべる。
「形勢は逆転したってとこかな。抵抗するなら、こっちとしても容赦しないよ?」
 突然ツタを外した珪に狼狽する鬼たち。
 青巖丸と青兎丸が虎のパンツから何かを取り出して大きく振ると、それが黒金の大棒となっ
てその手に構えられる。
『小賢しい人間めっ!』
『絶対に逃がさないぞ!!』
 鬼に金棒だあ。ことわざどおりの風景だよ。
 変な事を考えて思わずぷぷと吹いてしまう珪。それを見た鬼たちの表情が更に厳しくなる。
『馬鹿にしやがって! これでも食らえ!!』
『止めないか!』
 今にも飛び掛ろうと言う二匹を静止したのは、なんと青岳丸であった。
『御無礼をお許しください、先生』
『岳丸、なんで止めるんだよっ!?』
『そうだ。こんな人間、三人でかかれば‥‥‥』
 そこまで言ったところで、あまりに鋭い視線で睨まれて黙る青巖丸。そして青岳丸はその視
線を溜息と共に緩くして、珪に向き直る。
『あるいは、我々が勝てるやも知れません。ですが、無傷とは行きますまい。それどころか私
たちの誰かを失う事になるでしょう‥‥‥お前等、覚悟はあるのか? 人間を向うに張って殺
し合いをする?』
 ‥‥‥水を打ったように静かになるその場所。だが、それを忌々しげに打ち破ったのは青兎
丸であった。
『なんでだよ! 会議の席では反対しなかったじゃないか。やろうよ!』
『頭に血が昇ってる連中には何を言っても無駄だろう。先生は、正直どう思いますか?』
 いきなり水を向けられ少々戸惑うが、ここは諦めさせる必要があるだろう‥‥‥その為には
どうすればいいか。
「人間と戦うのはやっぱ良い策とは言えないと思う。その先の手があるのならともかく、人間
の反応待ちでどうにかしようってのは最悪じゃないかなあ」
『う、うるさいなあっ!』
『じゃあ、人間‥‥‥どうすれば良いって言うんだ!』
 あからさまにうろたえる二匹に迫られる珪。だけど、ここで‥‥‥嘘を言っても始まらない
気がする。
「計画は白紙にする事だね。まずはそこからだよ」
『親方様の所に行こう。計画の見直しをお願いしよう。な、巖丸、兎丸‥‥‥』
 こうして、4つの影が連なって山を降りて行く。投げられた賽の目を変える為に。

 そして、山道を降りていく途中‥‥‥。
「‥‥‥正直な所、人間ってどう思う?」
『自分勝手で騒がしい』『煩い』
 巖丸と岳丸が続けてそう言うが、兎丸は何か道端の木からもぎ取って、暫くそれを弄んでか
ら‥‥‥珪に向かって投げ付けて来た。
「真是害怕破軍星 閃煌拿槍 急急如律令っ!」
 一刀の元に両断されるそれ。そして、一行の間に不思議な空気が流れる。
『兎丸!?』『何を‥‥‥?』
 2つに割れたそれをおもむろに拾い上げると、それを珪に向かって差し出した。
『タコノキの実だよ。食べなよ』
 兎丸の意図が掴めないまま、それを受け取る‥‥‥が、硬いが‥‥‥ココナッツのように甘
く、独特の臭いを発していた。
『結局さ、そんな感じじゃないかな。とげとげして硬くて、だけど臭いを放っていろいろアピ
ールしてみてるんだよね。みんな、今の時代はもう‥‥‥見える人間なんていやしない。鬼の
事なんか、遠い昔話のようにしか思ってない。このタコノキだって、パパイヤとかパッション
フルーツの方が簡単に食べられて美味しいから‥‥‥』
 寂しげに空を見つめ、一人裂きに歩いていく兎丸。
『おいらは、節分がいやって言うより‥‥‥これによって鬼の存在を意識して欲しかった。そ
んだけだよ。大部分のみんなとは違うだろうけど』
 見ると手の中にあったはずのタコノキの実は消え失せていた。手に独特の臭いだけを残して。
『俺は。人間とは相容れない部分、許せない所ってやっぱある‥‥‥けれど、やっぱり人間が
いるから、俺等がいるって言うのだけは分かっているつもりだ。けれど、くやしいじゃないか。
何もしていないのに豆持って追われるのは』
 巖丸はそう呟く。
『太古、人間は闇を恐れて生きて来たはず。そして、その恐れの象徴が我々鬼であるのだから
‥‥‥仕方ないといえば仕方ないかもしれない。光を手にした人間が恐れを忘れるのも、そし
て単なる行事として信じてもいない鬼を追い散らすのも』
 三匹のその言葉に‥‥‥どう言葉を発していいのか分からない自分がいた。
 確かに職業柄、鬼に接する機会が無かったわけではない。島の小鬼とは違い、本土の闇に潜
む鬼は凶悪で暴力的で恐れを抱くにふさわしい物だった。
 だがそれは、あくまで珪が能力者で退魔の仕事をするから、望む望まぬは別にして機会があ
るというだけの話だ。能力を持たぬ者はそれが何であるか知らず、恐れる事も無く、ただ生活
を営むのみであろう。
 そして、節分が単なる豆まきでしかなく、鬼はコミカルに豆で追い散らされる存在でしかな
いのは、今や日本の何処に行っても殆ど変わらないのではないか。
 人間は一体、何処に向かって歩いているのだろう。
 宇宙に生きている限り、森羅万象の則に従わねばならぬはずなのに。
 多分そんな、普段なら考えないような難しい事を考えてる。なんだかなあ。
 旅は少年を成長させる‥‥‥のかもしれない。
『誰か、他の人間がいる!』
 先を行く兎丸がそう言いながら戻って来た。
 急いで近くの藪まで行き、そこから覗くと‥‥‥見えたのは、台座に座る青い小鬼と後ろ手
に縛られた伍代吉馬の姿だった。
 かろうじて会話が聞こえる‥‥‥そんなに危険な雰囲気ではないかな。暫く様子を伺ってみ
よう。
 
「‥‥‥申し訳無いのですが」
 ぴかぴかぴかと小さく唱え続けていると、鬼火が頭上に飛んで輝きを放つ。
「赤鬼派の使者として参りました。お話を聞いてくださいませ」
『断る』
 にべも無い言に、内心はらはらしてしまうが‥‥‥それを顔に出さないよう必死に取り繕っ
てみる。
「あなたには‥‥‥聞く義務があります。私は赤鬼派頭領赤虎丸の名代で来たのです」
 体裁を整えるものの、ずりさがる眼鏡が何と無く間が抜けた感じを漂わせていた。
『では‥‥‥窺おうか。手短にお願いしよう』
 小学生と言ってもいいくらいの身長の小鬼であるが、その威圧感は赤虎丸とは比べ物になら
ない位の迫力であった。
「え‥‥‥と、ですね。単刀直入に言います。打倒節分の為の襲撃を止めていただきたいんで
す。お願いします!」
 吉馬のその言葉に、周りの小鬼たちから罵声が飛ぶ。
 しかしそれをリーダーらしき小鬼が手で制し、台座を降りて吉馬を睨みつけた。
『言いたい事がそれだけなら、話はここで終わりだ』
「待って下さい。僕はその代案を持って来たんです!」
 去ろうとしていた足を止め、ツカツカと吉馬の方に歩み寄ってくる。
『聞こう。代案とはなんだ?』
「節分の豆まきの時間だけ事前に人家を出て、陰の気が強い所や本土などに旅行や集会を開き、
豆まき自体を回避する‥‥‥それが代案です」
 周囲からざわめきが漏れるが、腕を組んだまま目の前の小鬼は表情を動かそうともしない。
『確かに決定的な手段ではあるな。だが、これは後は鬼の尊厳の問題だ。尻尾を巻いて逃げ周
る事を止める手段にはならないだろう。悪いが、これ以上は話す意味も無い。お前等、人間殿
を先生と一緒にして見張っとけ!』
 周りの小鬼が吉馬をまたどこかi連れて行こうと後手の蔦を持った‥‥‥瞬間。
「珪くん!」
 小鬼と吉馬の間に珪が走りこんで来たのだ! そしてそれに続く青鬼3匹。
『巖丸! 兎丸! 岳丸! 貴様等、裏切ったのか!!』
「裏切りじゃないよ。あんたを説得するために来たんだ。計画は白紙に戻して欲しいって」
『それが裏切りだと言うのだ!』
 そう言いあっている内に珪は吉馬を縛っているツタを切って開放する。
「人間を嫌ってそういう事をやろうと言うのでしょうが、あなたのしている事はかつて人間‥
‥‥日本人が行った戦争を踏襲しています。確たるビジョンも無しに感情のままに兵を動かし、
勝ちを拾ってから次の展開を考える。かくして日本人は、アメリカと言う強大な国に滅亡の縁
まで追い込まれた‥‥‥それは、ここに住んでいるあなたがたが一番良く知っているのではあ
りませんか?」
 島内に散らばる戦争の傷跡が、今も残る父島。そして、小笠原村の中には出血持久戦法によ
り、栗林忠道率いる小笠原兵団二万九百三十三名が壮絶な玉砕を遂げた硫黄島がある。
 言わば、小笠原自体過去の戦争の博物館のような側面を持っており、そんな中で生活してい
る彼らには‥‥‥。
『たまに見るから美しい海も美しく見え、青い空も青く見える。戦争の傷跡も毎日毎晩見てい
たら、風景の一部にしか過ぎなくなる。記憶は風化し、やがて歴史の闇の中へ。戦争も、そし
て‥‥‥我々も』
 岳丸の呟きを聞いて、珪は大きく首を振った。
「だけど、それだけじゃないだろっ! 俺達みたいな島外の人間には、美しい海も青い空も戦
争の傷跡も、それからあんたら鬼の事も‥‥‥見えない人間だけになる事は無いから。この島
にいなくなったら、俺達みたく外から遊びに来るやつの中に絶対いるから!」
 真剣な表情で喋る珪を、なぜか笑みを浮かべて見つめる小鬼。
『そういえば名乗るのが遅れたな、御二方。我が名は青魂丸と申す。さて、人間殿。鬼火を出
していただけぬか』
 そう言われて、ポケットをごそごそ探ろうとした瞬間、背後に多くの気配を感じ、思わずそ
の手を止めた。
 そして‥‥‥。
『その必要は無い!』
 振り向くと、なんと赤虎丸率いる赤鬼派が周りから出てきたではないか。
「‥‥‥どうして?」
 予想外の事に眼鏡がずり落ちる吉馬に対し、虎丸は目を背けて呟く。
『だってさ‥‥‥やっぱりなんかあったら責任感じるし‥‥‥‥‥で、魂丸。何か用なのか?』
 どうやら、鬼火を使って赤鬼派に連絡をつけようと言う事だったらしい。
 次の発言を待つ。
 戦争かそれとも和平なのか。
 恐らくは二者択一。
 かぶりを振って天を仰ぐと、じいっと虚空を見つめている。
 そして溜息と共に、真正面に視線を投げかけて来た。
『今回は‥‥‥この人間達に免じて、計画を中止しようかと思ってな。言わずに置いて攻めて
来られても迷惑だしな』
「やっ‥‥‥!!!」
 二人同時に歓声を上げようとした瞬間、なんと赤鬼派だけではなく青鬼派からも大きな歓声
が挙がり‥‥‥一斉に二人の周りに駆け寄って来たではないか。
 そして、小鬼たちは盛んに二人に名前を問いかけてくる。
『赤鬼派を収めし者の名は、伍代吉馬!』
 虎丸が密集している集団の外から大音量で吉馬の名前を呼ばわると、巖丸、兎丸、岳丸がそ
れに応じるように声を挙げた。
『青鬼派をとどめし者の名は、九夏珪!』
 二人の名が連呼される中、虎丸が吉馬の手を、魂丸が珪の手を取り、集団の中央まで二人を
導いていく。そして何か、小鬼の長は二人で話し合っているようだ。
 そして、話し合いがついたのかがっしりと握手を交わす。
『我等が友の名に於いて約する! 父島が鬼は手を取り合い、恒久の同盟を締結する事を!!』

------<エピローグ>----------------------------------------------------------
 そして、2月4日。
 お土産は‥‥‥病欠なので心の中にだけ持って帰ることにしよう。
 甲板から外を見ると、球磨夫妻が見送りに来てくれているようだ。大きく手を振ってくれて
いるのにこちらも両手を振って答えた。
「伍代さん、あいつら見送りに来ませんねえ」
「まあ、いいじゃないですか。見送りに来てくれたらなんか湿っぽくなっちゃいそうですし」
 普通であれば、父島で遊ぶとなるとその土地のプロである人々の手を借りて、と言う事にな
るのであるが、小鬼たちとともに山や海を駆け巡っていたので、レアな父島体験だったのでは
無いだろうか。
 まあ、鬼といたこと自体レアであるのは間違いないだろうけれど。
 そして、その時間は来る。
 午後二時、出航。
 東京都小笠原村父島。
 何処までも青い空。
 何処までも青い海。
 白い雲。白い砂。
 南洋に浮かぶ楽園にして、人の愚かさを内包する小さな島。
 夢のような時間だった‥‥‥かな。
 そんな事を考えていると、誰もいない海から自分を呼ぶ声が響いてきたのに気付く。本当に
夢を見ているのだろうか?
『おーーい! おーーーい!』
 なんと、鯨に乗った小鬼たちがおがさわら丸を追いかけて来たようだ。回りの人間も歓声を
挙げるが、それは単純に鯨が船のこんな近くまで寄って来た、と言う事にだろう。
 小鬼が乗っているのが見えたらこんな騒ぎでは済まない筈だ。
『吉馬っ! また来いよーっ!!』『珪ー! 珪ーっ! 珪ーーっ!!』
 鯨の上で大騒ぎしている鬼たち。
 その時、鯨が大きな潮を吹いた! 水飛沫が船の甲板まで届いてくる。
 ‥‥‥ふわっ。
 二つのテニスボール大の赤い実がふわふわと吉馬と珪の手に落ちてきた。何事か見ていると
その様子を見ていた後ろの男が、それを見て目を丸くする。
「へえ、でっかいハマギリの実だねえ。ん? 何か入ってるねえ。あ、ハカラメの葉っぱだね。
それは、暖かくて日当たりのいい場所で霧吹きかなんかで水でもやるとにょっきり芽が出るん
たよねえ。持っていって育てなよ。良かったねえ」
 それだけ言うと、男はまた鯨をじっと見始めている。
 面白いお土産貰いましたね。
 まだ手を振っている小鬼たちに思いっきり‥‥‥‥‥‥。
「絶対、また来るぞおぉぉおおっっ!!」
「また、来ますよーっ!! おがさわらぁああああっっ!!」
 二人の絶叫に周りの人間も触発されたのか、周りの人間も声をあげ始める。
 船の上からは暫く小笠原との、父島との惜別の声が空に、海に‥‥‥鳴り響き続けていた。

                                      【終幕】
 
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       ■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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       【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
        0813 / 九夏 珪/ 男 / 18 / 高校生(陰陽師)
        0083 / 伍代 吉馬/ 男 / 21 / 大学生
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       ■         ライター通信          ■
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    初めまして、シナリオお買い上げありがとうございます。篠田足往(しのだ あ
   ゆき)と申します。
    今回は少々、量が多かったように思いますが、気のせいです、きっと(笑)。
    でも、個別部分が少なかったので、その点は反省ですね。
    コメディのつもりで書いていたのですが、場所が場所だけにややシリアスになっ
   てしまいました。
    多分、久我直親のPLさんだと思うのですが、如何でしょうか?
    先日、雨宮薫のPLさんにメールを頂いたのですが、ご友人だそうで。
    まあ、それはとりあえず内容に関係無いので置きますです。
    無駄に長かったかもしれません。
    キャラとしては掴みやすかったのですが、動かしきれなかったかもしれないので
   もしよろしければ、クリエーターズルームからご意見ご感想などいただけましたら、
   今後の参考にさせていただきます。
    今回はシナリオお買い上げありがとうございました。またの御指名を心よりお待
   ち申し上げております。それでは。