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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


吸血鬼騒動
●オープニング【0】
 街中でバレンタイン商戦が始まっていたある日のこと、1人の中年男性が草間興信所を訪れた。
「吸血鬼……はご存知ですか」
 男性は開口一番そう草間に尋ねた。思わず草間が怪訝な顔を見せた。
「いやっ、私は居るとは思わんのですがね。ただ……事件が事件ですから、どうなんでしょうかなあ」
 そう前置きして、男性は依頼内容を話し出した。
 男性はとある街の町内会長なのだが、ここ最近町内で事件が頻発しているのだという。それは真夜中に女性が襲われるという事件だった。
 襲われるといっても、怪我をさせるといったことではない。ただ眠らされて……血を少し抜かれた状態で発見されるだけで。
「……吸われていると言った方が正しいのかもしれませんがね」
 被害者の女性の腕に2ケ所、血を抜かれたような痕があった。まるでそこに牙を突き立て、吸い取ったようにも見えなくはない痕が。
「警察も巡回してくれているんですが、念には念をという訳で……どうか犯人の尻尾を捕まえてはもらえないでしょうか?」
 深々と男性は頭を下げた。

●季節【1C】
「冬のイメージってないんですけどね」
 大学生・斎悠也がぽつりと漏らした。ラフな衣服を着ていたが、着こなしが上手いのか同じ衣服を着ている者とは、不思議な物でちょっと違って見える。
「何が?」
 隣を歩いていた草間興信所バイト、シュライン・エマが不思議そうに尋ねた。
「吸血鬼」
「うーん、言われてみればそうかも。でも吸血鬼って、季節物でもないし」
 怪談話は真夏が一番盛り上がるが、別に吸血鬼は季節限定で出現する訳でもない。実際に冬の今、こうして吸血鬼騒動が起こっているのだから。
「ともあれ、被害者の詳しい話聞いてみないと」
 シュラインがそう言うように、今2人は被害者の女性たちが治療を受けた病院へ向かっている所だった。そこから何か対処法が見つかるかもしれないからだ。
「そうそう、これ渡しておきますよ」
 懐から何やら取り出す悠也。
「これは?」
「護身符ですよ。万一の時には役立つでしょうから」
 にこり微笑み、悠也はシュラインに護身符を握らせた。
(もっとも、使う機会がないのが一番ですけど)

●聞き込みの後【2B】
「共通点って、そんなにないもんね」
 手帳に目を通しながらシュラインが言った。
「確実に言えるのは、腕の傷跡だけですか」
 悠也がシュラインの手帳をひょいと覗き込む。
「そ、ここだけ」
 シュラインが腕の真ん中を摩った。一般的に注射を打つ辺りである。
 2人は病院を回った後、被害者の女性たちの家々も回って聞き込みを行っていた。が、成果はさほど上がらなかった。
「相手の性別だけでも分かれば楽だったんだけどなあ」
 溜息を吐くシュライン。
「けど、手口が分かったのはよかったんじゃないですか?」
「うん。他の皆にも伝えておかなきゃ」
 裕也の言葉に、シュラインは大きく頷いた。

●作戦開始【3A】
 真夜中の公園に7人の男女が集っていた。
「じゃ、チームの確認を。私と……」
 シュライン・エマが各人を指差しつつ、巡回チームの確認を始めた。便宜上、今回は彼女がリーダーを務めることになっていた。
 Aチームがシュラインと斎悠也、Bチームが白雪珠緒と瀧川七星、Cチームが草壁さくらとファルナ・新宮――ファルナの友だちでメイドのファルファも一緒だ――、以上のようにチーム編成はなっていた。
「そこだけは女性3人になっちゃったけど、気を付けてね」
 ファルナたちのチームを指差し注意するシュライン。できれば全チーム男女ペアで組むようにしたかったのだが、こればかりは仕方がない。
(でもまあ、彼女が居るから大丈夫かな……)
 シュラインはちらりとさくらを見た。洋服姿のさくらは、傍らのファルナと言葉を交わしていた。
「質問。犯人らしき相手を見つけたら?」
 七星が手を挙げて尋ねた。
「可能なら確保、かな。無理だったら、携帯で連絡取り合って追い詰めましょ。だけど無理は禁物。相手は本当に吸血鬼かもしれないから……」
 シュラインはそう言って腕を押さえた。実はシュライン、腕に十字架を巻き付け、なおかつ噛み辛いようテーピングを施していた。
「それから手口ですけど、道端で苦しんでいる振りをして、女性が近付いてきた所を……って、とこらしいです」
 悠也が昼間シュラインと共に調べてきた情報を皆に語った。
「クロロホルムでも嗅がせたんだろうねー」
 七星が若干楽しそうにつぶやいた。
「そういうこと。薬局も回ってみたけど、別段怪しい話もなかったわ」
 シュラインが両手を広げ、肩をすくめた。
「んー、難しい話は後回し! とにかく吸血鬼退治に出かけましょ☆」
 珠緒が七星に腕を絡め言った。珠緒の柔らかな胸が、七星の腕に押し付けられていた。
 そして、7人は揃って公園を出た。

●合間に【3B】
 公園を出てすぐに、悠也がさくらたちのチームに近付いてきた。
「この間の、エキストラでも一緒でしたよね」
 笑顔でさくらたち3人に語りかける悠也。
「あ、その節は〜」
 ファルナがぺこんと頭を下げた。
「この事件片付いたら、甘い物でもどうです? 俺、奢りますから」
「え?」
 悠也の誘いに困ったような表情を浮かべるさくら。しかし、甘い物は捨て難い。
「それじゃ、また後で」
 3人の答えを待たずして、悠也はそそくさとシュラインのそばへ戻っていった。

●音を追って【4B】
「出ないですね」
 両手を頭の後ろで組み、悠也がぽつりと言った。
「警察も動き始めたから、警戒してるのかしら……」
 周囲に目をやりながらシュラインが言った。すでに1時間以上は歩き回っていたが、他のチームと何度か擦れ違ったくらいで、怪しい人影は見当たらない。
「その割りには、警官見かけないですけどね」
 皮肉っぽく言う悠也。まあ、巡回してないことはないだろうが。
「まあ、そういう話だけでも効果あるらし……!」
 唐突に振り返るシュライン。一瞬にして表情が強張っていた。
(今の音は何?)
 シュラインの耳に微かではあるが、何かが発射されたような音が聞こえていた。
 その時、悠也の携帯電話が鳴った。
「はい、Aチー……えっ! 襲われた!?」
 驚きの声を上げる悠也。
「ちょっと黙ってて!」
 シュラインは目を閉じて両耳に全神経を集中させた。
「……こっち!」
 びしっと指差すシュライン。この方角から、誰かが走っている足音が聞こえてきたのだ。
「Aチーム追跡開始! Bチームにも連絡乞う!!」
 悠也がシュラインの指差した方へ走り出した――。

●確保【5】
 音を追うAチーム、理詰めのBチーム、他チームからの指示により犯人の行く先を封鎖するCチーム。各チームの連携が取れた動きにより、犯人は次第に追い詰められていった。
 そして――犯人は袋小路に誘導されてしまった。先にもう道はない。塀があるだけだ。
「もう逃げられないわよ!」
 シュラインが犯人に言った。すぐ後ろには他の5人も控えていた。その中にはファルナをおぶったファルファの姿もあった。6対1では勝負あったような物だ。
 しかし、犯人はそれでも逃げようと最後の手段に出た。何と塀をよじ登ろうとしたのだ。
 だが、塀の向こう側から意外な顔が飛び出した。
「はーい、残念でしたー☆」
 珠緒がひょこっと顔を出した。どうやってか知らないが、彼女は塀の中に回り込んでいたのである。
 犯人が驚いている隙に、悠也が飛び出した。犯人に体当たりし、そのまま塀に押し付ける悠也。そして用意していた手錠を、後ろ手に犯人にかけた。
「勝負あった、じたばたすんな!」
 こうなってはどうしようもない。犯人はその場に崩れ落ちた。
「さーて、顔を拝ませて貰おうかなっと」
 七星が犯人に近寄り、サングラスと大きなマスクを剥ぎ取った。
「……え?」
 露になった顔を見て、目が点になる七星。サングラスとマスクの下から、女性の顔が現れていた。

●ぜんざいを前にして・再び【6B】
「先日は大変でしたね……」
「はい、大変でした〜」
 甘味処『夕月』。この店の一番奥のテーブルに、3人の女性と男性1人が陣取っていた。さくら・ファルナ・ファルファと悠也である。各々の前にぜんざいが並べられていた。
「もう大丈夫なんですか?」
 悠也が尋ねると、無言で笑顔を向けるファルナ。ファルナは犯人にクロロホルムの染み込んだ布を押し付けられ昏倒したが、幸いにも何の後遺症もなく回復していた。
「……そういえば、犯人の方は呪術のために血を集めていたんだとか」
 さくらが悠也に尋ねるように言った。
「らしいですね。『想いを伝える方法』とかで、バレンタインのチョコに多くの血を混ぜて作り上げようとしたみたいで」
 昨年暮れ、犯人が古本屋で見つけた1冊の古びた本。その中に『想いを伝える方法』が載っていたのだ。『多くの血を混入し、最後に自らの血で仕上げた食物を、想い人に食させるべし』と。恐らくその本は、一種の呪術書だったのではないかと思われる。
(でもその方法、効果ないんだけどなあ……)
 内心悠也はそう思っていたが、口には出さなかった。
「結局、吸血鬼は居ないんですよね〜?」
「そういうことです。看護婦の犯人が、血を抜く時に偽装したって訳ですよ」
 つまり、件の傷跡は注射であることがばれないための偽装であって、吸血鬼の仕業ではなかったのである。
「でも、逮捕までする必要あったんでしょうか……?」
 さくらが3人の顔を見回した。
「警察も動いてましたし、仕方ないでしょう。勤務先の病院からクロロホルムも盗んでいたそうですし」
「……仕方ありませんか、やっぱり」
 さくらとしては反省するようなら、見逃してあげてもよい気持ちがあったのだが、状況がそれを許さなかった。盗みまでしていれば、さすがに難しいだろう。
「事件解決したのに、そんなに暗い顔しないでくださいよ。ぜんざい食べて、元気出しましょう。ほら、温かいうちに」
 悠也が笑顔で3人にそう促した。

【吸血鬼騒動 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 PC名(読み) / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 斎・悠也(いつき・ゆうや) / 男 / 21 / 大学生・バイトでホスト 】
【 シュライン・エマ(しゅらいん・えま) / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 草壁・さくら(くさかべ・さくら) / 女 / 20前後? / 骨董屋『櫻月堂』店員 】
【 ファルナ・新宮(ふぁるな・しんぐう) / 女 / 16 / ゴーレムテイマー 】
【 瀧川・七星(たきがわ・なせ) / 男 / 26 / 小説家 】
【 白雪・珠緒(しらゆき・たまお) / 女 / 20代前半? / フリーアルバイター。時々野良(化け)猫 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で、NPCを姓で表記するようにしていますが、一部例外もあります。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全15場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・時節物という訳で、今回の依頼はバレンタインシリーズ第1弾でした。高原は時折時節物を混ぜてゆきますので、オープニング文章にはご注意を。
・今回の依頼は犯人も捕まり、成功でした。あの後、犯人の勤めていた病院では、薬物の管理不行届で当局より強いお叱りを受けています。
・斎悠也さん、2度目のご参加ありがとうございます。護身符等を用意されていましたが、そのほとんどは今回使用する機会がありませんでした。もっとも使わないにこしたことはないんですけれど。被害者の女性に話を聞いてみようとしたのは正解でした。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。