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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


海蔵寺〜死霊傀儡〜

<オープニング>

ゴーストネットに新しい書き込みがされていた。
「ねぇ、ちょっと大変な事件よ!
南品川の『海蔵寺』ってとこで、宅地工事が行われたんだけど、
骸骨が数百体くらいでたの!
でも事件はそれだけじゃなくてその骸骨が一日にして全部消えちゃっ
たんだって!
これどういうことなんだろう?
だれか調査してきてくれる人いないかな?」
確か今日の朝くらいにこの事件はテレビで報道されていた。
発掘された人骨は、ひとまずどこかに埋葬しするために当日は
シートやロープなどがはられ立ち入り禁止になっていたはずだ。
それが一夜にしてなくなるとはどういうことだろう?
「あ、それと追加情報。人骨が無くなった日の夜、現場に白いコート
を来た人がうろついていたんだって。そんなとこに何の用事が
あったんだろう?」

<ゴーストネットからの依頼>

久我直親は、自宅のPCでゴーストネットに来ていた依頼を見ていた。
「白いコートの男だと・・・?奴か」
久我は歯軋りして画面を見つめた。鈴ヶ森の苦い経験が甦ってくる。何も手出しできずに白いコートの
男の好きにされてしまった。霊力の差を見せつけられての敗北だった。
「ん、メールか?」
メールボックスにメールの受信があったとのメッセージが表示された。久我が開けてみると、それは弟子の九夏珪からのものだった。
その内容は・・・。
「あいつ、一人でこの事件を調査するつもりか?」
久我の一言に要約されているとうり、今見ていたゴーストネットの調査依頼を一人で引き受けたというものだった。相手は恐らく白いコートのあの男。自分より未熟な九夏一人で戦える相手ではない。下手をすれば返り討ちにあって殺されるかもしれない。
「阿呆が。相手をよく考えろ」
慌しくコートを引っつかむと、久我は海蔵寺へ向かうのだった。

<不安>

「珪が一人で海蔵寺の依頼を受けただって!?」
久我からの連絡に、雨宮薫は声を荒げて応えた。
「ああ、あの阿呆、自分一人で解決できるつもりだ」
「あの白コートの男と一人で戦うつもりか、あの馬鹿!」
九夏の無謀さに雨宮は心底腹が立っていた。
「一人の仕業か知らんが、数百体の骸を一夜にして運び出すようなレベルの奴が相手だ。はっきり言って勝ち目などない」
「だが、このままじゃ珪死ぬぞ」
「分かっている。例の白コートの能力は未知数だが、俺たちの術が通用しないのは証明済みだ。ましてやまだ未熟なあいつの術じゃ、傷一つ負わせられないだろう・・・。なんとか奴の目的を突き止めて撤退するしかない。」
「逃がしてくれればいいけどな」
雨宮は苦々しく吐き捨てた。鈴ヶ森では逃がしてくれたが今回もというわけにはいかないだろう。準備を万端にする必要がある。必要な符が用意出来次第海蔵寺に向かうことを久我に伝える。
「了解した。俺今海蔵寺に向かっている。むこうで合流しよう」
「分かった。俺も急ぐから」
電話を切った雨宮は、不安にかられていた。
あそこは品川遊郭の女郎達が亡くなり放り込まれたという。何より鈴ケ森から罪人達の骸が投げ込まれた事もあった筈だ。偶然にしては話が出来過ぎている。鈴ヶ森の霊の開放は始まりに過ぎないという嫌な予感が頭から離れない。奴はまた死者を利用し災いを呼ぼうとしているのだろうか。
それだけは許す訳にはいかない。
彼は急いで今回必要となりそうな呪符の作成に取り掛かった。
「頼むから俺たちが行くまで、奴と戦おうなんてするなよ、珪」

<発掘現場>

海蔵寺は東京都は南品川にある。かつて、品川遊郭があった時代、この遊郭で亡くなった女性はここに放り込まれた。彼女らは女郎とよばれ、田舎の農村などから食い扶持を減らすために人買いの買われて遊郭につれてこられた。当時の遊郭の衛生状態は極めて悪く、風邪から肺炎をこじらしたり、性病が悪化してしまい死に繋がってしまうケースが多かった。今でも周囲では遊郭の女たちが死にきれずに彷徨っており、不用意に寺に近づくものを誘惑するという。
また、以前の依頼にあった『鈴ヶ森処刑場』で処刑された者の死体もこの海蔵寺に放り込まれたという。パソコンを得意とする九夏珪はインターネットを駆使してこれだけの情報を集めた。
「沢山の骨がいっぺんに消えるってのは確かに奇妙だよなぁ」
こんな情報を得ておいて知らぬふりを決めこんだら師匠の直親に叱られる。それが今回の依頼を受けた本当の理由だった。実際は、白いコートの男不人関係の依頼を一人で受けるなどという行為のほうが叱られる可能性が高いのだが。
ともかく九夏は、海蔵寺近くの例の発掘現場に到着していた。
宅地工事のために土砂を撤去していたところ、土砂の中から大量の人骨が発見されたせいで工事は中止となっている。発見された人骨は、海蔵寺にて荼毘に伏された後埋葬される予定であったが、発見日当日にすべての人骨が消失してしまったため、現在は警察を中心に捜査が行われている。だが、何分目撃情報がほとんどないため調査はほとんど進んでいない。それに動機がはっきりとしない。わざわざ深夜に、それも数百体もの人骨を一斉に運んだとしてどんなメリットがあるというのか。それに一昼夜で土砂に埋まっている人骨を人目につかずに全てを掘り出すことなど可能なのだろうか。現代の技術ではとても不可能に思える。術を除けばの話だが。
九夏は何か術が使われた形跡がないか、または大勢の人間や何かが移動したような形跡がないか丹念に調べた。現在は盗掘騒ぎも収まって付近にはほとんど人間はいない。おかげでゆっくりと調査をすることができた。術が使われた直接の形跡は発見できなかったものの、奇妙な跡を発見した。
土砂が盛り上がるような状態で放置されているのだ。人骨を掘り出したとしたら、土砂は退けられた形跡が残るものだがこれはまるで内側からかきだしたかのような盛り上がりかたなのだ。
「なんだよ、これ・・・。まるで骨が自分から動き出したとでもいうのかよ?」
「いい読みをしてるね〜。少年」
突然後ろからかけられた声に、九夏はビクリと反応した。聞き覚えのある、人を小馬鹿にでもしたような厭らしくそれでいて酷く冷めた感じのする声。恐る恐る振り返る彼の背後には白いコートの男、不人が立っていた。
「ア、アンタはあの時の・・・」
「そうだよ、絹の道であったね。あの茶番劇はどうだったかい?そこそこ面白かったと思うけど?」
冷笑を浮かべる彼に、九夏は慌てて距離をとり符をかまえる。
「今回の事件もアンタの仕業だろ!」
「そのとうりだ。ちょっとした手品を使ってね。彷徨える死人たちに体をプレゼントして差し上げたのだよ。生者だけが肉体をもっているなんて不平等だろう?」
「何が不平等だ!死者はあの世に行くべきだろう」
九夏の応えに、不人はつまらなそうにフンと鼻を鳴らした。
「陳腐な答えだね。誰がそんなことを決めた?なぜ誰が決めたかも分からない法則に従わなくてはならない。この世でいい思いをして死んだ連中だけがあの世にいけて、つらく苦しい気持ちをいただいて死んだ連中はこの世とあの世の境を永遠に彷徨えとでもいうのか?随分と傲慢な答えじゃないか」
「アンタの方が傲慢なんだよ!!!」
九夏は不人に符を放つのだった。

<死霊傀儡>

久我と雨宮は、発掘現場で合流した。
辺りは丁度日が沈み、空は重々しい雲で覆われている。どうやら一雨きそうな雰囲気である。
やがてポツリポツリと雨が降り始めた。
冬の冷たい氷雨に打たれながらも、二人は調査を止めるつもりはなかった。先行したと思われる珪が見つからないためである。携帯に何度も連絡を入れたが、電源が入っていないらしく通じなかった。
「くそ、珪の奴どこにいったんだ!?」
「落ち着け。今慌てても何も事態は進まん」
「落ち着けだって?お前の弟子がいなくなってるんだぞ。少しは心配したらどうだ!」
こんなときでも冷静な久我に、雨宮は怒りを感じた。理屈ではそうだろうが、人間は理屈だけで動くものではないはずだ。
だが、久我に視線をやった彼は久我の手が握り締められ、紅い雫が垂れていることに気が付いた。あまりに強い力で握り締めているために、爪がくい込んでいるのだろう。久我は動揺している自分を必死に抑えていたのだ。それに気付いた雨宮はバツの悪い顔をして謝った。
「悪い。お前の方がずっと心配してるよな」
「気にするな。だが、早く珪を見つけないとまずいな。このままだと俺たちも体力を奪われてしまう」
冷たい雨は容赦なく二人の体温を奪っていく。確かにこのままこの場に留まるのは得策ではない。
その時。
「いい天気だねぇ。探しモノは見つかったかい?」
必死に珪を探している二人を揶揄するかのような声が、二人の後ろからかけられた。
「貴様は!」
白いコートを羽織った銀髪の男、不人である。不人はニヤリと口を歪ませた。
「その様子だと探しものはまだの見つかっていないようだねぇ。仕方がない。特別サービスに君たちの探し物を教えてあげよう!」
不人がパチンと指を鳴らすと、久我たちの周りの地面がもごもごと動きだした。
「何をした!」
「だから君たちの探し物だよ、よく見てみたまえ。自分たちの回りを」
地面から骨の指が見えたかと思うと、次々と地面をあばきつつ骸骨たちが姿を表した。その数およそ100体以上。圧倒的な数である。骸骨たちは久我と雨宮を取り囲んだ。
「どうかね?私の作った死霊傀儡たちは。中々の出来栄えだろう」
「貴様ッ!報われぬ魂を悪戯に開放したのはこれが目的か!?」
「そのとおりだよ。鈴ヶ森の怨霊たちに肉体を差し上げたのさ。これで彼らは生者同様に動き、怨みを晴らすことができる。私は彼らのためを思っておこなったのだ」
「戯言を・・・。俺の弟子がこっちに来ていると思ったが、貴様、知っているか?」
久我の問いに、不人はさも可笑しそうに笑いだす。
「何が可笑しい!」
「麗しき師弟愛と言ったところかね。確かに無粋にも私にいきなり戦闘を挑んできた少年がいたが・・・。あれは君の弟子かね?」
「珪はどこだ!」
雨宮の叫びに不人はさらに顔を喜悦で歪ませる。
「おや、君にとっても大事な者なのかね、あの少年は。それはそれは・・・。安心したまえ、私は紳士的に事を納める男だ。殺してなどいないよ。連れてきたまえ」
不人が自分の後ろに骸に命じると、骸たちは両手を掴んだ状態で九夏を連れてきた。意識を失っているらしくぐったりとしていて動く気配はない。
「珪!」
「ああ、安心したまえ。単に気力を使い果たして気絶しているだけだ。死んではいない。それはそうと、君たち、どうするね?私としても、色々と邪魔をしてくれる君たちに少しはお返しをしたいし・・・」
「勝手な事を!」
「そうだ、こうしよう。ここにいる骸を全滅させてみせてくれたまえ。そうしたらこの少年を解放しよう。私がお相手したのでは勝負など一瞬でついてしまうだろうが、この死霊傀儡相手なら君たちに勝ち目があるかもしれないよ」
「ふん、どうせ断ったところでけしかけるんだろうが」
不人は満足げにうなずく。
「そのとおりだよ。まぁ、君たちに選択肢はないということだ。せいぜい頑張ってみたまえ。・・・やれ!」
不人の号令が下され、100体以上の骸が一斉に久我と雨宮に向けて動き出した。がちゃがちゃと骨を鳴らしながらつかみかかるその様はおぞましいとしか形容できない。
「俺達がこうなることを想定していなかったと思うのか!いくぞ雨宮」
「おう」
雨宮はもっていた呪符を展開させた。これは鎮魂の効果をもつ呪符で、死霊が相手になることを想定して用意していたものだ。符を当てられた骸たちはとりついていた霊が消滅することで、次々と崩れ去っていく。
久我は鬼の式神を召喚し、接近してくる骸を攻撃させる。雨宮の補助が目的だが、普通の人間の二倍以上の腕から繰り出される攻撃は恐るべき破壊力を発揮し、骸たちを粉々に打ち砕いてゆく。
いつの間にか、100体以上存在していた骸たちは、その数を半数以下に減らされていた。
「ほう、やるね。これはあの陰陽師君たちを侮っていたかな・・・。だが、君たちのほうこそ、私がこの程度の準備しか用意していなかったと思っていたのかね?甘いな」
不人は死霊傀儡の劣勢を見て、呪を紡ぎ始めた。低く邪悪な響きをもつ言葉が彼の口から発せられる。呪が効力を発揮し、辺りは黄色い霧に包まれ始めた。降り注ぐ雨が変化した霧ではない特殊な魔術により発生した霧である。
「な、なんだ。これは・・・」
「見ろ!骸たちが」
破壊された骸たちが、黄色い霧に包まれることによって再度修復し始めたのだ。骸たちは見る見るうちに自己修復を完了し、先ほどと変わらない状態に戻った。
「どうかね、不浄骸霧の法は。不浄なる霧を発生させ悪霊の動きを活性化させる。これにより骸たちはその力を増し、なんどでも復活する無敵の戦士と化すのだよ」
不人が勝ち誇った声を上げる。
「くっ、このままでは・・・」
「きりがないな」
先ほどの術で精神力を使い、尚且つ氷雨に打たれつづけることによって肉体的にも疲労が増している。このままではいつか骸たちの餌食となってしまうだろう。
「先ほどの祓いももう通用しないよ。耐性がついているからね。さて、これでお終いかな?いささか拍子抜けしてしまうが仕方ない・・・」
「お終いはアンタの方だよ!」
その時、気絶していたはずの九夏が骸の手を振り払い爆炎符を放った。呪符は炎の矢となり骸たちと不人を襲う。不人は霊による防護壁により火炎を完全に防いだが、まわりの骸は全て燃え上がり崩れ去った。
「少年、起きていたのかね?」
「師匠がピンチの時におちおち寝てられないからな」
そう言って不敵な笑みを浮かべる九夏に、久我と雨宮はほっと胸をなでおろす。
「あの阿呆が。やっと目をさましたか」
「あの馬鹿。起きるのが遅いんだよ」
九夏の無事を確認した久我は、切り札の解一切霊章を解き放つ。あたり一体に破邪の気が満ち、骸たちの力が弱まる。動きが鈍くなった骸たちに、雨宮は隼の式神を放ち粉砕、さらに刀を抜き放って、不人に切迫する。
「俺は呪術を人を殺す道具にする奴を軽蔑してきたが・・・中でもお前は最悪の輩だ!」
「最高の誉め言葉だね、それは」
気合一閃、振り下ろされた刀を、不人はお七を貫いた透明な水晶の剣で受け止める。
「まだまだといったところだが・・・。まぁ、約束どうり骸たちは倒したわけだし、ここは引くことにしよう。死霊傀儡もまだまだ改善の余地があることも判明したわけだし、そこそこ収穫はあった。また逢おう諸君」
白いコートをはためかし、不人は転移の法でこの場から離脱した。残った骸たちも土にもぐりこの場から去った。後には破壊された人骨の破片が残るのみである。
「師匠。どうだい、俺も役にたつだろう」
得意満面の笑顔で近づいてくる九夏の頭に、久我を拳骨をきめる。
「阿呆。奴が殺す気がなかったからいいようなものだが、本気だったらとっくに殺されていたぞ」
「ひでぇ。俺だって少しは役にたっただろう」
「馬鹿は馬鹿なりにな」
しばらくの間、三人は和気藹々と会話を楽しむのだった。だが、不人の企みは今回も分からずじまいだった。彼が何の目的で死霊傀儡を作り上げたのか。彼が以前言っていた生者に対する復讐とは何なのか。謎は深まるばかりである。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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  【 PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

九夏・珪/男/18/高校生(陰陽師)
久我・直親/男/27/陰陽師
雨宮・薫/男/18/陰陽師。普段は学生。
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■         ライター通信          ■
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鈴ヶ森、道了堂に続く死霊シリーズ第三弾海蔵寺はいかがだったでしょうか?
今回は調査よりも戦闘を中心とさせていただきました。
人骨の行方と、全員無事に依頼を完了できたので、今回は成功と言えます。
おめでとうございます。
この死霊シリーズでは白いコートの男「不人」がまだまだ出現します。興味がある方はベルゼブブの依頼を注意してご覧になってください。関連性のある依頼がお分かりになると思います。他の依頼とリンクしている場合もありますので、他の調査結果なども参考になさってみてはいかがでしょう。
それではまたのご注文をお待ちして居ります。

久我様
今回はチームリーダー的な役割を果たしていただきました。弟子の九夏様を思う気持ちなどを表現させていただいたのですが、いかがだったでしょうか?