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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


回向寺〜刀〜

<オープニング>

「また変な情報が舞い込んできたわ・・・」
碇麗香はため息をつきつつ、パソコンの画面を見た。
そこには、一通のメールが開かれている。
内容はシンプルに一行だけ。

回向院の刀が狙われる可能性あり。

「三下君、この刀って何のことかわかる?」
「だから編集長、僕はさんしたじゃなくてみのしたですってば〜。そ
れに分からないなら自分で調べればいいじゃないですか」
三下のいつもの情けない声に、碇はヒールで応じた。足を踏まれた激痛に三下は白目をむく。
「余計なことは言わなくていいの。聞かれたことだけ答えなさい」
「・・・・・・・」
「三下君?だらしないわね。もう気を失ったの」
三下の気絶姿を一瞥しながら、碇は今のメールを転送する。
「調査するのは彼らの仕事よね。別に狙われるどうするなんて書いてあるわけでもないし、適当に調べてもらおうかしら?」

依頼メール内容

回向院にある刀が狙われるという情報があり。
この刀についてと誰がどのように狙うのか調査してほしい。
狙われた刀を守るか守らないかは任せる。

「こんな感じでいいわね。さてと、残った仕事をかたづけなくっちゃ」
そう言って碇は今だ気絶中の三下を無視して、デスクから離れるのだった。

<オフィスにて>

アトラスのオフィスでは、碇麗香の呼びかけに答えた2人に男女がいた。雨宮薫と不知火響である。
「で、今回の調査だけどその狙われる刀だけど、回向院の二階資料室に置かれている山田浅右衛門の刀の刀だと思われるわ」
不知火が、仲間たちに頼んで集めてもらった情報を披露すると雨宮もうなづく。
「俺もそう思う。心当たりがあるかもしれん。そいつにしろ、別の奴にしろ警戒する事に越した事はないだろう。事の真偽を確かめて来る。何かわかったらあんたに連絡する」
「頼むわ。前に依頼した事件とか調べさせてもらったけど、ちょっと甘く見ていたわ。あの不人とかいう男の手に刀が渡るのはできれば避けたいの。刀を取られないように守ってもらえるかしら」
碇の真剣な願いに二人は力強くうなづくのだった。

オフィスから出た二人は、街の通りを歩きながら今回の依頼について話始めた。
「今回の敵、十中八九奴よね」
「ああ、恐らく奴しかいない」
不人。
二人の脳裏に、白いコートを羽織った銀髪の男の姿が思い浮かぶ。彷徨える霊を用いて何事をなそうとしている謎の男。
雨宮は鈴ヶ森でのお七の事を思い出しぐっ、と固く拳を握る。彼は報われぬ霊たちの味方のような言い方をしていたが、事実行ったことはお七の純真な願いを利用し、必要なくなれば処理するという非道なものである。
「あいつが何をたくらんでいるかは分からないが、回向院の境内にはかつて小塚原処刑場があった。今も現世に囚われている霊たちは万をくだらないだろう。それをまた開放されたら・・・。まぁ、あそこはまだ寺や墓が破壊されてはいないようだが」
「油断は大敵よ。延命寺地蔵尊も気になるわ。あちこちで墓や石碑、地蔵とか壊されてるでしょ?一応薫クン結界張っておいてくれない?」
「了解した。だが、奴が相手だと足止め程度しか効果を発揮しないが・・・」
不人の霊力は雨宮や不知火をはるかに凌駕する。一瞬にして100体以上もの死霊を召還、使役し骸の兵士を作り上げたり、呪符の効果を何の呪も構成せずにに打ち消したりできるのだ。しかもそれらの行為を余裕をもってやってのけている。その不人相手に、術者が維持、展開を行う結界ではなく、術者がいなくても発動する弱い守護結界を展開したとしても大した効果は望めないだろう。
「だめか・・・。まぁ、仕方ないわね。今回は刀を守ることに全力を注ぎましょう。あ、そういえば珪君も今回の依頼を受けたのよね?」
不知火は暗くなりがちな話を打ち切り、好みの美少年の話に話題を移した。
「ああ。あの馬鹿、深く考えもしないで勝手に協力するなんていいやがって・・・」
お気楽な顔をして「俺も手伝うぜ〜」などと依頼を受けた友人、九夏珪の事を思い出し、雨宮は頭を抑えた。
「まぁまぁ。あの子なりに貴方を心配してるから協力してくれるんじゃなくて?」
「奴がそんなこと考えて行動するものか。回向院を調べておくとか言って先にあっちに向かったようだがどうなることやら・・・」
深いため息をつく雨宮であった。

<回向院>

回向院は、明暦の大火で焼死した無数の無縁の人々を葬るために、万治3年(1660)に建てられた。だがその後、埋葬しきれない、主に処刑された遺体を幕府から拝領していた千住の小塚原(こづかっぱら)縄手に、寛文7年(1667)一院を建てて葬ることとした。
この寺は境内に、幕府が品川の鈴ヶ森とともに刑場としていた、小塚原刑場があったことでも有名である。
刑場は現在の寺がある場所より南側にあったというが、獄門・磔(はりつけ)・火あぶりなどの極刑が行われた。明治初めに刑場が廃止されるまでに、20万人余の罪人が処刑されたという。
この寺の二階には、首切り役人であった山田浅右衛門が斬首に用いた刀、この地で掘り出された頭蓋骨、江戸時代の様々な刑罰の様子を描いた絵巻などの資料が展示されている資料室があ
るが、一般公開はされていない。しかし、先日から一週間、特別に一般公開がおこなれることとなり、寺は観光客で賑わっていた。
今回、調査依頼が出ている刀の持ち主、山田浅右衛門とは首切りの名人であったという。一口に斬首と言っても首を体から離してしまわないように、皮一枚を残して切り落とすのである。
人の太い首を皮一枚を残して切り落とすのは高い技量を要する。
平和な時分、人を切るという機会が少なくなっていた為、自分の刀の切れ味を試すのに山田浅右衛門に試し切りをするのが上級武士の隠れた流行だったそうである。また、山田浅右衛門とは個人名ではなく首切り役人を継ぐ時に代代襲名する名であるため、何々代山田浅右衛門と呼ばれていたらしい。名前を受け継ぐ歌舞伎の世界と似ているとも言える。
ネットで以上のような情報を仕入れた九夏は、実物の刀を見る為に回向院を訪れていた。ちなみに彼はこの依頼は師匠のPCを使って調べたのだが、無断で使用したため鉄拳制裁を受けていた。彼の頭には今も大きなたんこぶができている。
「痛って〜。本気で殴るかよ、普通?」
ぶつぶつと文句を言いながら彼は刀が置かれている二階の資料室に到着した。時間も昼ということでありあまり観光客の姿は見受けられなかった。食事に行っているのだろう。
山田浅右衛門の刀はガラスケースに入れられて展示されていた。見た目は古めかしいただの日本刀に見えるが、数え切れないほどの人の血を吸いつづけてきた魔剣ともいえる代物。霊能力をもつ者の目から見れば鋭いどす黒いオーラに包まれていることが分かる。憎しみ、悲しみ、恨み、嘆き。それら負の感情を極上の配合でブレンドしたような凄まじいまでの瘴気に包まれている。感の強い人間が触れればあまりの負の力に発狂してしまうかもしれない。寺という聖域に安置されているためにこのくらいの気で済んでいるのだろう。
「う〜、見てるだけで気持ち悪くなってきた・・・」
刀の負の気にあてられた九夏がふと視線をそらすと、一心にそれを見つめている見つめている男がいた。髪も瞳も、コートからズボンにいたるまで、彼の趣味なのか黒一色で統一している。法医学を学ぶ学生紫月夾である。
「興味深い刀だな、これは。これだけ負の気を帯びた刀などそうそう見つからん。実に興味深い・・・」
「アンタ、これを包んでる気が見えるのかよ」
「当然だ。しかしこの程度の気に押されるとはお前、大したことはないな。大方、碇の依頼で来たのだろうがお前では邪魔になるだけだ。さっさと立ち去るんだな」
紫月の傲慢な言い草を九夏は内心ムッとしたが、表面には出さなかった。
「どうかな〜。俺が役に立たないかどうかなんてそれだけ判断するのは早いと思うけど?」
紫月はフンと鼻を鳴らすとその場を立ち去った。
「嫌な奴」
九夏は紫月が立ち去った方向に舌を出し、べーっとするのだった。

<不人出現>

(あの刀を取りに来る者といったら執行人の山田浅右衛門か、鼠小僧や松蔭といったここに葬られた者達か、もしくは厄介な相手なのか。どちらにしても何を目的にしているのか聞き出すとするか・・・)
資料室を出た紫月はそう考えて、回向院の入り口で待ち受けることにした。
資料室には先ほどの少年(高校生のようだったが)がいるだろうし、彼もあの刀のオーラを見られるということは多少は霊能力があるということだから戦力にならなくはないだろう。もっとも経験は不足しているだろうが・・・。自分は外から来るであろう刀を奪いにくる輩を相手にするだけ。人と接するのが苦手で無愛想な彼は、必然的に個人プレーを好む。本当は資料室で敵をまちかまえるつもりだったのだが、九夏がきてしまったために外で待ち構えることを選択したのだった。
紫月は外の壁に寄りかかりながら、目を閉じた。無駄な体力を使わずに、万全の状態で敵を待ち構えるだめである。
「・・・・・・・・・?」
何かがおかしい。
人の気配がしない。幾ら昼時だからと言って、一応は吉田松蔭や鼠小僧など有名人が眠る墓がある回向院は大抵幾人かの観光客がいる。また寺に参拝に来る人間など割合賑わっているはずである。それなのに人っ子一人いる気配がしないのだ。何の物音もしない。
いや、物音はする。かちゃりかちゃりと何か硬いものどうしがぶつかり合うような音が少しずつ聞こえてくる。辺りが少しずつ薄暗くなり黄色い霧のようなものが漂い始める。天気は雲ひとつない晴天で、この時間に暗くなったり霧など発生するはずがない。自然には。空気が重々しくなり、呼吸をするのも少しつらく感じる。
「なんだ、何がくるというんだ」
只ならぬ気配を察した紫月は、懐に収めていた鋼糸を取り出し構えた。何かがくる。何か嫌なものが。
そしてそれは姿を表した。
まるで悪夢の世界からそのまま現われたようなそれは、骸骨の集団だった。手にはさびた刀など思い思いの武器をもっているが、それがより醜悪さを感じさせる。その数およそ50体近く。
「骸骨だと!?まさか墓から復活してきたとでも言うのか!?」
「ビンゴ。大当たりだ。より正確にいうのならここの土地から這い出て来たのだよ」
声は骸骨の後ろからかけられてきた。やがて声の主が骸骨の群をかき分けるように現われる。白いコートに白銀の髪をもつ男、不人である。
「貴様か、こいつらを操っているのは」
「そのとうりだ。彼らは可愛い私の僕。現世と黄泉の間を彷徨う哀れな者たち。生者を冥土に誘う死の戦士たちよ」
不人は得意そうに死霊傀儡を紹介する。
「何の目的があってこんなことをする?何のメリットがあるというんだ」
「はいそうですかとイチイチしゃべると思っているのかね。そんな義理はないと思うが」
「なるほど。・・・では力ずくで聞き出すとしよう!」
言うが早いか紫月は鋼糸を放った。それは狙いだがわず不人の首を捉えた・・・はずであった。しかし鋼糸は不人に届くほんの少し手前でその動きを止めていた。見えない力が鋼糸を抑えているのである。
「な、何だと!どういうことだこれは」
鋼糸の扱いには絶対の自信があった紫月は、自分の目の前で起きていることが信じられなかった。
「驚くことなどない。単に君の糸を念で封じただけなのだから。さてと、これで抵抗は終わりかな?いささか拍子抜けしてしまったが・・・・」
不人は肩をすくめて冷笑を浮かべた。
「なめるな!」
不人に嬲られた紫月は、邪眼を発動させた、普段はカラーコンタクトにより隠しているが彼の瞳は実は赤い。その赤い瞳に魅入られた者は神経器官を麻痺させられ、最悪死に至らしめる。コンタクトをつけた状態でも邪眼を発動させる時は眼が赤くなる。ランランと赤く輝く彼の瞳を見つめた不人は動けなくなるはずだった。
だが。
「ほう、邪眼か。少しは面白い手品を見せてくれたね。だが私の前では子供の遊技も同然だ。この程度の力で何ができる。邪眼とはこういうものを言うのだよ」
逆に不人の赤い瞳に見つめられた紫月の方が神経を麻痺させられてしまった。圧倒的な魔力を前に、紫月は無力だった。彼は指一本動かせなくなる。
動けなくなった彼の首筋に不人の指が当てられる。
「ふふふ、このまま君の喉笛を掻き切るのも面白いけれど楽しみは後にとっておこう。それに私はやるべきことが残っているしね。骸どもの話相手でも願うとしよう」
動けない紫月を尻目に不人は悠然と回向院に入っていった。

<刀開放>

しばらくしてから到着した雨宮と不知火は、回向院の前に死霊傀儡たちがたむろし、黄色い霧がただよっていることを視界に認めた。
「あれは死霊傀儡!まさか奴はもう・・・!」
「まずいわ。急いで中に入らないと珪君が」
雨宮は鎮魂の呪符と隼の式神を放ち、骸たちの陣形を崩す。さらに刀を抜き放って骸たちの群に突入する彼を、ソロモンの星が刻み込まれた金属刃が仕込まれているタロットカードと鞭の攻撃で不知火が補助する。二人の連携を前に、骸たち次々と崩れ去ってゆく。
すると二人は数体の骸たちが一人の男を抑えてつけているのを発見した。
「あれは確か俺達以外に依頼を受けたっていう・・・」
「紫月さんだったかしら」
鞭と刀の攻撃で、紫月を拘束していた骸たちを一気に粉砕する。骸たちから開放された紫月はしかし、まだ邪眼の影響からは完全に開放されていないらしく、多少もつれながら二人に話かかけた。
「奴はもう・・・、中に入っている。・・・資料室にいるあいつが・・・危ない・・・!」
「資料室にいる奴ってまさか珪か!?」
「いけない、珪君!!」
だが彼らが話をしている間に骸たちは自己修復を終え三人を取り囲んでいた。
「お前達の相手をしている暇はないんだよ!!!」
雨宮の符が骸たちに襲い掛かる。

資料室では九夏が不人と対峙していた。
「ふっぴー!ここで会ったが百年目だ!!」
叫びながら、九夏は不人に殴りかかる。だが、拳を振り上げた状態で彼は全身が硬直して動けなくなってしまった。邪眼をかけられたのだ。
「残念だが君と遊んでいる暇はない。私は取り急ぎこれを用事を済ませたいのだ」
不人が刀の納められているガラスケースを睨むと、派手な音をたててガラスが砕け散った。そして中に入っている刀が空中に浮かび上がる。
「おお、これこそが山田浅右衛門の刀!さぁ、我が手元に!」
中に浮かんでいる刀は不人の呼びかけに応え、彼の手元に納まった。不人の手の中で刀はその黒いオーラをさらに強める。
「やはり増幅効果があったか。それにこの上質の魂。さすがは200年に渡り処刑人どもの血をすすってきた刀だけのことはある。憑いている霊も中々のものだ」
不人が鞘から刀を抜くと、込められていた念とともに代々の山田浅右衛門が解き放たれた。地獄の修羅のごとき面相の彼らは不人に跪く。
「よろしい、誰が主人か分かっているようだね。可愛い奴らだ。安心しろ。人を食い足りないお前たちのために最高のステージを用意している。だがそれは今ではない。今はこの中に収まっていたまえ。必ず出番はくるから」
山田浅右衛門たちは主の言葉に従い、刀に戻っていく。
その時、外の死霊傀儡たちを全滅させた雨宮たちが資料室にたどり着いた。
「珪、無事か!?」
不人の姿を認めて、三人は臨戦体制をとった。しかし不人に戦うつもりはないらしく、
「やれやれ、もう来たのかね?もう少し時間が稼げると思ったんだけどねぇ。まぁ、仕方ない。急ぎの用事もあることだしこれで失礼するよ」
「ま、待ちなさい」
不知火の制止も虚しく不人は転移の法を発動させいずこかへ去った。

その後、九夏の呪縛を解呪した4人は住職など回向院にいた者たちに話を聞いた。すると黄色い霧みたいなものを吸い込んだ途端、気分が悪くなり意識を失ってしまったらしい。どうやら黄色い霧、死霊骸霧は霊能力のない生者に悪影響を与えるらしい。
山田浅右衛門の刀は奪われてしまった。刀に封じられし歴代の山田浅右衛門の魂を用いて不人は何を企むのか。何かとてつもないことがおこる。そんな予感が4人の胸をよぎるのだった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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  【 PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

紫月・夾/男/24/大學生
雨宮・薫/男/18/陰陽師。普段は学生(高校生)
不知火・響/女/28/臨時教師(保健室勤務)
九夏・珪/男/18/高校生(陰陽師)

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■         ライター通信          ■
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死霊シリーズ第四段「回向院〜刀〜」はいかがだったでしょうか?
今回は不人に刀を奪われてしまいましたが、刀自体の調査などは成功していますので、一応の成功と見てよいかと思われます。お疲れ様でした。
今までの事件ではっきりしたとうり、現状では不人と正面きって戦うのは難しいと思われます。いかに出し抜くかを考えるべきかもしれません。勿論、直接戦うのもよろしいですが命の保証はいたしかねます。

紫月様

ベルゼブブの依頼に初参加してくださいまして有難うございます。今回は不人の力はまざまざと見せつけられてしまいました。傲慢で人付き合いが下手という点に重点をしぼり表現してみたのですがいかがだったでしょうか?もしご意見、ご感想などございましたら私信をいただければと思います。これからもお客様にご満足いただける商品を提供させていただくため、何卒よろしくお願いいたします。