コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


10都市物語「渋谷」〜烈炎陣〜

<オープニング>

「おい、最近テレビでこんな事件が取り上げられてること知ってるか?」
草間はそう言うと、興信所のテレビをつけた。
テレビ画面では渋谷のハチ公前が映し出され、リポーターが実況中継をしている。リポーターの後ろでは警察官数十人が慌しく動きまわっている。
随分とものものしい状況である。
リポーターが話始めた。
「本日10:00ここ渋谷駅ハチ公前で人が突然発火し焼死するという事件がおこりました。これでこれと同じような亡くなり方をした方は10人になってしまいました。警察でも原因がまったく分からず困惑しているとのことです。渋谷に来る市民は怯え、ハチ公前も閑散としています」
草間は依頼を受けに来た者たちを見回すと、煙草に火をつけながら語りだした。
「実はな、これの解決依頼が来てるんだよ。それも警察のお偉方から直々にな。どうやらここに異能者が集まっているのを知っている奴がいるようだな。もう前金はもらっちまってるんだが、引き受けてくれないか?流石に都会のど真ん中でこんな事件がおきちゃ、俺としても目覚めが悪くてな。どうだ?」
「警察にも超常現象に関する事件を担当する連中がいるだろう。なせ奴らが対応しないんだ?」
依頼を受けた者の一人の問いに、草間は渋面になった。
「対応したんだよ。だけどしくじった。今テレビで出てる黒焦げの奴がそうらしい」
草間の指差したテレビ画面には、黒焦げになった人間がシートをかぶせられるシーンを映し出していた。
ちなみに、人体発火がおきる時間や周期は特に決まっていないらしい。

<作戦会議>

「・・・また、火か」
先日の鈴ヶ森での依頼のことを思いだし、陰陽師久我直親は小さく舌打ちした。
今回の渋谷の依頼を受けたチームは、草間興信所で作戦会議を開いていた。
「警察のお偉方からの直接依頼なら資料は揃っているんだろう?」
久我の問いにコクリと頷き、手にしたファイルを読み上げるのは刑事である斎木廉。彼女は警察からの依頼を伝える役目も担っていた。
「渋谷ハチ公前の人体発火事件。被害者は現在のところ10人。年齢は下は15から上は60まで多岐に渡る。職業や性別もマチマチ。特に共通点はなし。時間帯も朝の9時から深夜0時まで特に決まっていない。また、被害者が燃え上がった時だけれど、人通りが多いせいで怪しい人間がいないかといえばいるんだけれど、あまりにも不特定多数で絞りきれていないのが現状」
「死因は?死体解剖したんだろう」
「それに関しては私より彼から説明してもらったほうがいいわね」
斎木に促されて、紫月夾が死体解剖結果の書類を読み上げ始めた。彼は法医学を学ぶ医大生なので、教授のツテを利用して死体解剖に立ちあったのだ。
「死亡時刻は先ほど斎木刑事が言ったとうり、マチマチだ。最終的な死因は高温の炎による焼死。化学反応による薬物検査に特にひっかかるものはなかった。発火した際の温度は3000度以上。一瞬にして炎上して物の数分で黒コゲ状態になったという目撃証言から考えても、自然の炎じゃない。火の広がり方だが、これは若干の個人差がある。肩や背中、手など体の一部がやたらに焼けて原型を止めていない場所があった。ここから火が燃え移ったとも推測される」
「場所は?」
斎木はハチ公前の地図を広げた。ハチ公を囲むように赤いペンで10個の円が書かれている。
「これが発火事件のおきた現場よ。後で実際に行ってみれば分かるけどほぼハチ公を囲むように起きている。お陰でハチ公前には今誰もよりつかないわ」
「それにしても、渋谷で謎の人体発火事件か・・・。まさか鈴ヶ森の時に現われた白コートの野郎、不人だったか、奴が絡んでやがるんじゃ・・・」
フリーライター兼浄化屋という安定しない仕事のため、早くも金欠に陥って何時もの如く草間の所で調査員のバイトをしている巫・灰慈は顎に手をあててつぶやいた。彼の言葉に久我が反応する。
「それは俺も考えた。だが、奴のやり口にしてはまどろっこしすぎる。それにあそこに奴が必要とするような死者の封じられた場所は存在しない。今回は別件と見るべきだろう」
「同感」
短い言葉で紫月は同意を示した。不人の名前が出た時彼は唇を強くかみ締めた。回向院で弄ばれた記憶が蘇ったためである。
「まぁ、なんにせよだ・・・」
草間が煙草を灰皿に押し付けながら口を開いた。
「現場に行ってみなければ始まらない。そうだろ、斎木?」
「ええ、ついでに言うと今回は調査が主目的。犯人を見つけたら後は警察に任せて頂戴」
「威信とやらに関わるからな」
紫月がシニカルな笑みを浮かべて言った言葉に、憮然としながら斎木はうなづくのだった。

<ハチ公前>

渋谷駅ハチ公前は、若者の街渋谷の象徴といえるほど人で賑わっている。ハチ公の知名度は高くよく待ち合わせ場所などに使われる。普段ならば。
例の人体発火事件のせいで、現在ハチ公前によりつく人間はいない。反対側の出口は人で賑わっているものの、こちらはひどく閑散としている。
巫は何か共通点が見出せないかと発火事件が起きた現場を調べてみた。それで分かったのは、圧倒的な熱量で焼かれたはずなのに地面には何の跡も残っていなかった。
「なんだこりゃ。燃え上がった人間とのは火を消すために普通は地面を転げまわるはずだろ。少しはこげ跡くらいついてもいいじゃねぇのか?」
「そう、人がほんの数分で炭化するほどの熱量が発生しているのだからどこかに焼け跡の一つくらいは残るはずよ。普通の火なら」
「異能力による発火か・・・」
紫月のつぶやきに久我がうなずく。
「だろうな。だが十人ともいきなり発火したというのが気にかかるな。確か10人目は警察関係の、それも超常現象対策チームの所属なんだろう?手がかりくらい残さなかったのか?」
「残念だけど完全に炭化していて何も手がかりが残っていなかったわ。彼が調査をしていたころはもうこの辺に人はほとんどいなくて目撃証言も無いの・・・。歴眼で見てみたのだけど、見れたのは彼がいきなり炎上するシーンだけ」
斎木は無念そうにかぶりを振る。彼女の瞳には歴瞳という、千里眼的に現在と過去を限定的にだが見渡す能力がある。だが、その眼に移るのは同僚が業火に包まれ、苦しみ悶える姿のみ。
しばらく4人は思い思いの調査をしていたが、特に発見することはなかった。
その時、ふと紫月はおかしなことに気が付いた。斎木の後ろのあたりの空間が妙に歪んでいるのだ。
歪みは徐々に大きくなり、ぽっかりと黒い空間が口を空けた。そしてその空間を突き破るように、人の手と思われるものが出てきた。その手は燃え盛る火炎に包まれている。
それはやがて斎木の肩をつかみ・・・。
「ぎゃあぁぁぁぁ!」
男の悲鳴が上がった。
3人が悲鳴の上がったほうを慌てて振り返ると、空間に浮かんだ手の掌が、紫月の鋼糸の捉えられ血を流している光景が見えた。
「いい加減出てきたらどうだ!姑息な奴め」
紫月の言葉に応えるように、鋼糸が突き刺さっている手が出ている空間がさらに歪み、20代半ばと思われる男が出てきた。彼の髪の毛は燃え上がる炎のような赤色をしていた。さらにそれにあわせたように赤い軍服らしきものを羽織っている。
「よくもやってくれたな、この白天君様に・・・!」
怒りに震える赤毛の男に斎木は銃をつきつけて問う。
「貴方が今回の発火事件の犯人ですか?」
「そうだと言ったら?」
「許さない!」
斎木は銃の引き金を引き銃弾を放った。しかし、男に当たると思われた銃弾は突如彼の前に敷かれた炎の壁に阻まれ届くことはなかった。
「油断したな・・・。不人の言っていた邪魔者とは貴様たちのことか・・・」
「不人!?」
白天君の言葉に4人が反応した。やはり不人が関わっているのか?
「いいだろう。お前達に本当の地獄を見せてやる」
白天君が目を閉じて念じ始めると、4人の回りの情景が歪み、ねじくれ闇に包まれた。
そしてその闇が晴れるとそこは辺り一面が炎に包まれた世界となっていた。地面がコンクリートから黒くごつごつとしたものに変わっており、いたるところから炎が吹き上がっている。さながら火炎地獄とでも言うべき世界である。
「異空間か!」
「そのとうり。ここは私の空間「烈焔陣」。業火に焼き尽くされ灰になるがいい」
白天君は尊大に言い放つのであった。

<烈焔陣>

吹き上げる熱風に堪えながら、巫は白天君に問い質す。
「不人って言ったな。お前あいつの手下かよ!?」
「手下だと!?下賎な死霊使い風情と一緒にされては困るな。私は選ばれし一聖九君が一人白天君。奴は我々の協力者にすぎんわ」
「どっちにしろ貴様ごときの思いどうりにさせてやるわけにはいかん。大人しく引き下がるんだな。今なら見逃してやってもいい」
紫月の白天君に負けず劣らずの尊大な言葉に、白天君は顔を引きつらせる。
「ほざいたな、雑魚が!」
白天君の手から燃え盛る炎の帯が放たれた。それはまっすぐ紫月を捕らえ焼き尽くすかに見えた。
だが。
「甘いな」
久我の放った式神、水鬼の力によって生じた水の壁が炎を打ち消す。
「小細工を!ならばこれはどう防ぐ!?」
白天君の周りにいくつもの炎の玉が生まれ、4人に襲い掛かった。
「こんなもの!」
斎木は音太刀と名づけている真空の刃を放ち、火炎弾を迎撃した。鎌鼬とぶつかった火炎弾は炎を撒き散らし、空中に四散する。
「おのれ、ならば!!!」
続けて己の炎を無効かした彼らに業を煮やした白天君は地面に手を当てた。すると地面に亀裂が走り、猛烈な勢いで火炎が噴出す。久我たちは慌ててかわすが、なにしろ噴出す火炎の量が凄まじく、このままでは炎に飲み込まれてしまうだろう。
「炎に飲まれ果てるが・・・ぐはぁ!」
しかし術の完成に気をとられていた白天君は、巫の接近に気がつけなかった。巨体からは信じられぬスピードで接近した巫は、白天君の顎めがけて強烈なアッパーカットをきめた。それはクリーンヒットし
白天君は後方に吹き飛ばされた。
「ば〜か。術で戦うのだけが戦いじゃねぇよ」
白天君の意思がとぎれたためだろう。辺りの風景が歪み、彼らは元の渋谷ハチ公前の景色に戻っていた。
「異空間というのはもともとかなり不安定なものだからな。術者の集中が途切れらものだ。さて、」
顎を殴られた激痛にうめいている白天君の元に近づいた紫月は、白天君の胸倉を掴み睨みつけた。
「さぁ、どうしてこんな事件を犯したのか白状してもらおうか?嫌なら嫌でいいぞ。俺の邪眼で貴様に炎に包まれる者の気持ちを味あわせてやる」
彼の言葉に応えるようにその瞳が赤く輝き出した。恐るべき呪いの効果をもつ邪眼の発動である。
「ひぃぃぃぃ。俺の、俺の体が〜!!!」
白天君は情けない悲鳴を上げて辺りを転がりまわった。彼の目には自分が地獄の業火に焼き尽くされているように見えるのだろう。幻とは言え、邪眼の効果は実際に見せられた幻影と同じような痛みを対象者に感じさせる。
「さぁ、白状するか?それともまだ炎を味わいたいか?」
「わ、分かった。は、白状する。白状するから止めてくれ〜!!!」
邪眼の解かれた白天君はがっくりと膝をついた。もう反撃する気力も残ってはいない。
「では答えてもらおうか。まずはどうしてこんな事件を引き起こした」
「俺の主が言ったんだ。人々に恐怖を与えろと。人の恐怖はあの方の喜び、力となる。この首都東京の、それも大都市でいきなり人が発火するような事件が起きれば人々は恐怖に慄くと思ったんだ・・・」
「そんな自分勝手な理由で10人以上もの人を殺したっていうの!?答えなさい、あの方って誰!」
普段はクールな斎木が激昂して問い詰める。何の責任も無い一般の人々や同僚を殺された事に抑えきれない怒りを感じているのだ。
「あ、あの方のお名前は・・・ぐはぁ!」
突然、白天君が口から血を吐き出した。胸元に透明な水晶でできたかのような剣が突き刺さっている。
「これは!!!」
久我が驚きの声を上げた。この剣に見覚えがあったからだ。鈴ヶ森の事件で不人が使用した剣と同じものなのである。
「おしゃべりは嫌いよ」
白天君の後ろから、金髪をかきあげて悠然と声をかけたのは紅蓮のビジネススーツに身を包んだ女性だった。冷たく冴えたサファイアの瞳をもつ絶世のと形容してもいい美人である。だが、彼女が放つ凍てつくような冷たい気は只者ではないことを感じさせた。
「まったく少しは使えるかと思えば・・・。何が一聖九君よ。大層な名前して何も役にたたないじゃない」
「てめぇ、何モンだ!不人の仲間か!?」
巫の問いに、彼女は肉食獣を思わせる獰猛な笑みを浮かべた。
「別に答える必要はないわね。さてと、私はこれで失礼させてもらうわ。他の連中がもう少し役にたつといいんだけど・・・」
彼女は空間に溶け込むようにスッと消える。不人が使用したのと同じ転移の法である。
「ま、待ちやがれ!・・・くそ、逃げられたか・・・」
「逃げられて良かったかもしれんぞ。転移の法は並の術ではない・・・」
久我は額にかいた汗を拭いながらつぶやいた。転移の法とは空間を歪めて、自分のイメージした場所に移動する術であるが、空間を歪め、他の空間に繋げるというとてつもない行為を伴うためほとんど使用者のいない知られざる術なのである。久我も知識として知っているだけでこの術を使用することはできない。それを平然と使用するあたり、あの女は不人級の使い手なのかもしれない。
あの女は一体何を企んでいるのか?一聖九君とは何者なのか?あの方とは?
新たな謎を残しながら、事件はひとまず解決したのだった。

□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
  【 PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

斎木・廉/女/24/刑事
巫・灰慈/男/26/フリーライター兼「浄化屋」
紫月・夾/男/24/大学生
久我・直親/男/27/陰陽師

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

10都市物語第一弾烈焔陣はいかがだったでしょうか?
不人は直接関わっていないようですが、謎の女や新たな敵現われました。
これから東京はどうなっていくのか。それは皆様にかかっています。
さて、今回の依頼ですが犯人も分かり、事件も解決できたので大成功と言えます。
おめでとうございます!
10都市物語はこれからも続いていきますのでご期待ください。
またのご参加をお待ちして居ります。

紫月様

前回は上手くいかなかった邪眼をご使用いただきました。火を見せるということで幻覚作用を持たせてみましたがいかがだったでしょう。また、法医学者の卵として死因の説明も担当していただきました。