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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


10都市物語「代官山」〜風孔陣〜

<オープニング>

「随分とまた派手な事件が起きたものね・・・」
オフィスに置かれたテレビの画面を見つめながら、碇麗香はつぶやいた。
テレビの画面には全身を鋭利な刃で切り裂かれたような傷を負って死んでいる被害者が映し出されている。
現場は代官山駅前。普段は閑静な住宅街であり、ファッションに関係する店が多数ある流行の先端をいく洒落た街である。この街の駅前で突然風が吹いたかと思うと全身をズダズダに切り裂かれるという事件が多発しているのである。既に9人の被害者が出ており、今画面に映し出された被害者で10人目となる。
「これは警察では解決できないわね。これは普通のヒトが起こした事件とは思えないもの」
碇の言葉どうり、これはただの人間ではおこせないことだろう。ただの人間には。警察も対処のしようがないらしく、代官山に訪れる人間は確実に少なくなっている。このままではつぶれる店も出てくるだろう。
「困るのよね。私のなじみの店がつぶれるのは。ここに着てくる服がなくなっちゃうじゃない」
どうやらこれが本音らしい。
碇は電話に手を伸ばすと、おもむろに番号を押し始めた。
「やっぱりこういう事は専門家に任せないとね♪」

代官山は渋谷、中目黒など主要都市近くある閑静な住宅街であり、服などファッション関係の店が多い、流行の最先端をいく街でもある。
その街を銀髪という珍しい髪した青年と女性が腕を組んで歩いていた。デートがてらショッピングに来たのだろう。二人は片手にたくさんの袋を持っている。
「ねぇ、正輝。あのセーターどうかな。似合うと思うんだけど」
女性の方がショーウィンドーに飾られているベージュのセーターを指差した。
「あのな・・・。もうセーターだけでも3着、ズボンは5着。それにフリースやらなんやらを8着も買って、まだ足りないのか」
がっしちとして背の高い、スポーツ選手を思わせる体格を持つ藤原正輝は、彼女である香澄の言葉に呆れてため息をついた。しかし、彼女はそんなことなどお構いなくショーウィンドーのセーターを眺める。
「う〜ん。やっぱり捨てがたいわね。でももうちょっと待つと時期が終るから安くなるのよね。ああ、でもそれじゃ今年ほとんど着れないし・・・」
「いや、安いも何もこんなに買ったんじゃ大差ないだろ・・・」
「ねぇ、これ正輝に似合うよね」
「へ?俺のか?」
てっきり自分の服を買うと思っていた藤原は、真澄が自分のセーターを選んでくれているとは思っていなかった。
「当然よ。だってこれ男物よ。正輝もこの冬、セーターの一枚や二枚もってないと寒いでしょ」
実家からの仕送りで大學に通っている藤原は、あまり金に余裕はない。今日のデートもいいところをみせるためバイトで稼いだ金をほとんど使い果たしていたのだ。自分の服を買う余裕などとてもない。
「え〜。でもこのセイター1万8千円もするの?高〜い」
「まじかよ。げっ、確かに高いなこりゃ・・・」
「でしょ。でもこのデザイン悪くないのよね・・・。う〜んどうしようかな・・・」
二人がショーウィンドーの前であ〜でもない、こ〜でもないと話していると・・・。
「うわぁぁぁぁぁ!」
突然二人の耳に悲鳴が聞こえてきた。
慌てて振り向いた二人の目に飛び込んできたものは、鋭利な刃か何かで全身を切り裂かれた人間だった。切り裂かれた箇所から血が吹き出て、たちまちあたりは血の海となる。
「大丈夫か、キミ!?」
駆け寄て倒れた人間に近づいてみるとひどい出血で意識を失っている。辺りに人はいない。このままでは出血多量で死に至ってしまうだろう。
「真澄、救急車を。早く!」
「う、うん。分かった!」
香澄が携帯電話で救急車を呼んでいる姿を見ながら、藤原はつぶやいた。
「あたりには誰もいない。一体誰にやられたんだ・・・」
(これで10人目・・・)
「!?」
彼の頭に直接響いてくる声がした。彼はテレパシーの能力に秀でているためこれが念話と呼ばれる、心の言葉であることが分かった。
(お疲れ様・・・。そのまま続けなさい)
(了解した)
二人の念話が聞こえてくる。一人は女。もう一人は男。だが念話の主たちの姿は見えない。
(誰だ、こいつらは・・・)
その時、彼の携帯電話が鳴った。かけてきた先は月刊アトラス編集部。
「こんな時になんだ。香澄、この人を頼むぞ」
「分かった」
「もしもし、藤原です。・・・なんだアンタか」
電話の先から聞こえてきた声は月刊アトラスの編集長碇麗香のものだった。
「アンタとは随分なお言葉ね。折角依頼の話をもってきたのに」
「今忙しいんだ。後にしてくれ」
「代官山で発生している連続殺傷事件についてなんだけど、聞かないの?」
「代官山だって!?」

<月刊アトラス>

「金がねぇぇぇ。何か仕事ねぇのかよ編集長さんよ」
「また無くなったの・・・。いい加減まっとうな仕事にでもついたら?」
碇を呆れ顔にさせた人物、巫灰慈は拝むように碇を見つめる。
「はいはい分かったわよ。今日の依頼としてはそうねぇ、代官山での殺傷事件くらいかしら・・・」
「代官山?」
「ええ、ここで今、突然人が切り裂かれるという事件が起きているの。もう10人死んでいるわ。近くに人はいなくて、まるで鎌鼬にでも襲われたようだって、地元のマスコミが発表していたわ」
碇の言葉に巫は手を当てて考え込む。
(代官山で10人?犯人は近くにいない。鎌鼬・・・。まさか奴らか!?)
「警察も犯人の姿に関する目撃情報が無くて、どこから手をつけていいのか分からないみたい・・・。?どうしたの、何か心あたりでもあるの?」
「無くもないな・・・」
巫の脳裏には先日の渋谷での事件が思い浮かんでいた。あちらは人体発火事件だったが、その犯人は空間の歪に隠れて焔を放って人を焼いていた。確か「一聖九君」と自分たちのことを言っていたが、その仲間ではなかろうか。
「そう、心当たりがあるなら心強いわね。この依頼にはその現場を目撃したコと、風を使うのが得意なコが参加しているわ。あのコたちも代官山で調査するって言っていたからそっちで合流したらどうかしら?
ちなみに発生場所は駅前よ」
「分かった。この依頼引き受けるぜ」
敵が「一聖九君」なら不人と関係のありそうなあの金髪の女が現われるかもしれない。
そう思いながら巫は代官山に向かうのだった。

<再び代官山>

「なんで俺がこんなことをしなきゃなんないんだよ・・・」
ぶつくさ言いながら駅前の通りを歩く学ラン姿の少年、直弘榎真。彼は 、自分の本性を知っている知人に犯人疑惑を持ち出されたため、しぶしぶこの依頼を引き受けていた。実は彼は日本に古来から存在する天狗の一族の末裔なのである。もっとも知人は単にからかっていっただけだったのだが、根は真面目な直弘はそれを真にうけていた。
「けどなぁ、なんかオレと関係ない奴の仕業とは思えないんだよな」
犯人が自分と関係ない種族とはどうしても思えない。それも理由の一つである。
「妖なら、鎌鼬か?しかしオレみたいなの除いて都会にいないし、三人一組で行動し、人を殺すことなんてしない筈。誰か上にいる…オレの同属の可能性も考えなきゃいけないかもな」
彼は妖の者たちが関わっていることを前提に、駅の周辺や事件現場を調査してみた。だが、特に妖の者たちが発する妖気は感じられなかった。確かに風の力が強まっていることは分かったのだが、どちらかというと人為的な術の感じがする。
「おかしいな・・・。妖の者の仕業じゃないのか」
さらに調査を続けようとする彼の前に一人の青年が現われた。
「やあ、キミだろう。俺と同じ依頼を受けた奴っていうのは」
「誰だよお前?」
「俺は藤原正輝 。ここの連続殺傷事件を調べてるんだろう?碇の依頼で」
先ほど碇から依頼内容を聞いた藤原は、不思議な事件にくびをつっこみたがる悪いクセがでて依頼を引き受けていた。香澄には先ほどの目の前で切り裂かれた人に付き添って病院に行ってもらうことにした(彼女自身はかなり渋っていたが)。
「どうしてわかったんだよ。俺が依頼を受けてるって?」
「阿呆。そんなに妖力を出してたら、ちょっとでも霊感のある奴でも気づかれちまうぞ」
そう言ってぽんぽんと直弘の頭を叩くのは巫。二人の会話を聞いて近寄ってきたのだった。直広は妖気を探るために、自分の妖力を多少発動させていた。それでなくても天狗という妖魔なので、普段から気を抑えていないとすぐに妖力が放出されてしまう。まだ幼い直弘にはそこまで気を配る余裕はない。
直弘は不機嫌になって、顔をムスっとさせた。
「ついでに言うと風を使うのが得意な妖魔なんだろ?碇が言ってたぜ」
「あのおばさん、余計なこといいやがって・・・」
碇が聞いたら激怒しそうな言葉を吐きながら、直弘はさらに不機嫌になる。
「まぁ、そんなにしかめ面になるなよ。で、何かつかめたのか?」
「わかんねぇよ。近くに妖気は感じられない。風の力は強まっているから、誰かが風を使っているのは分かるんだけど・・・」
「やっぱり渋谷と同じ一聖九君か・・・」
「一聖九君だって?」
巫のつぶやきに藤原が声を上げる。
「知っているのか?」
「話の中だけだが。確か中国の小説「封神演義」で載教の教主通天教主の高弟にそんな連中がいたような気がする」
オカルト知識が豊富な藤原が、その知識を披露する。
「じゃあ、何か?連中は小説の中からでてきたとでも言うのかよ」
「いや、単に名前を使っているに過ぎないのかもしれない」
(我らの正体に気がつくとはな・・・)
藤原の頭に、あの時聞こえてきた声と同じものが聞こえた。
「あの時の!まさかお前が!」
(そう、そのとうり。私がやった。しかし、私の正体に気付いたということはお前達も生かしておけんな。来て貰おうか、私の陣に!)
突然3人の周りの空間が歪み出した。辺りの風景が捩れ、やがて闇に包まれる。
「これは烈焔陣と同じ!奴らか!」
巫の言葉に応えるように闇が晴れ、辺りは突風が吹き荒ぶ空間へと変化していた。時折つむじ風や竜巻も発生しており、なんとか立っているのがやっとというほどの風が吹き荒れている。空中に一人の青年が浮かんでいる。
「ようこそ、我が風孔陣へ」
翠色の軍服をまとった青年は、そう言って慇懃にお辞儀をするのだった。

<風孔陣>

「てめぇも一聖九君だな!」
「そうだ。私の名は董天君。風孔陣の主にして一聖九君が一人。・・・さて、我が陣に入った以上、お前たちに残された道は一つしかない。この風孔陣の風の斬り刻まれて死ぬという道しかな!」
董天君が手をかざすと、風が渦を巻き、真空の刃が生み出された。真空の刃は不可視の剣となって3人に襲い掛かる。
だが、天狗であり風の扱いに長けた直弘には、その軌道は全て読めていた。
「こんな風でオレを倒せると思うなんて甘くみられたもんだぜ!」
同じように真空の刃を生み出した直弘は、自分たちに向かってくる刃に自分の刃をぶつける。真空の渦はお互いに風を巻き起こしながら空中で打ち消された。
「何?貴様風使いか!ならば!」
かまいたちが通用しないことを悟った董天君は、竜巻を起こした。猛烈な勢いで辺りのものを飲み込む竜巻は、しかし同じように生み出された直弘の竜巻と衝突し、相殺される。
「だから言ってんだよ、甘いって!人間ごときがオレの風にかなうもんか」
既に直弘の背中には鳥の翼が生えており、その顔は赤い天狗のそれになっている。風を使うのであれば天狗が人間に引けをとることはない。
「天狗だと!?そんなものがいるなど聞いていないぞ!」
「オマエのように、こそこそと隠れながら人を傷つけて弄ぶ奴は最低だ。死ね!」
藤原はもうひとつの能力念動力を使って、衝撃波を董天君に放った。腹部に強烈な衝撃を受けた董天君は体をくの字に折り曲げる。
「これでとどめだ!くらえ!」
「あ、馬鹿、やめろ!」
巫の制止の言葉も空しく、直弘の放ったかまいたちが董天君を切り裂いた。
「ば、馬鹿なぁ・・・」
血を噴出しながら倒れる董天君。
陣を構成する者がいなくなり、風孔陣は歪み、辺りの風景は元の駅前の通りの戻っていた。
「とどめを刺してどうする!?色々聞き出さなきゃならねぇことがあるだろうが!」
「いいんだよ。倒しゃそれで」
巫の文句に、平然と答える直弘。
何時の間にか、董天君が倒れている傍には金髪の女性が立っていた。渋谷で現われたあの女である。
「情けないわね。もうお終い?」
「き、貴様・・・。天狗がいるなど言っていなかったではないか・・・」
「別にいないとも言っていないわ。異能者が貴方の邪魔をするかもって言っただけよ。でも、今貴方を警察なんかに引き渡すわけにはいかないの。悪く思わないでね」
「ま、待て・・・!もう一度チャンスを・・・!!!」
ズブリ。
董天君は最後まで言葉を言い終えることができなかった。彼の頭に女が放った透明な剣が突き刺ささったためである。
董天君にとどめを刺した彼女は、巫の顔を見ておやっと表情を変えた。
「あら、貴方。確か渋谷にいたわね・・・」
「やっぱりてめぇが絡んでやがったか・・・。何を企んでやがる!?」
「渋谷でも言ったはずよ。貴方に言う義理はないって。それより私たちの邪魔しないでくれる?これ以上邪魔をするようなら・・・」
女の眼に強烈な殺気が宿る。
「まぁ、どうしてもっていうのなら止めないけどね。命の保証はできないわよ。それじゃ、今日はこの辺で」
悠然と転移の法を用いてこの場から立ち去る女。
「なんなんだよ、あいつ・・・」
直弘は呆然とつぶやくのだった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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  【 PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

巫・灰慈/男/26/フリーライター兼「浄化屋」
直弘・榎真/男/18/日本古来からの天狗
藤原・正輝 /男/21/大学生

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■         ライター通信          ■
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10都市物語第二話「風孔陣」はいかがだったでしょうか?
この物語では一聖九君と呼ばれる異能者が出現します。異能者は陣の名前に関する力をもっているのでそれをよく考えながら対策を練れば戦いやすいと思います。
今回は敵の目的はつかめなかったものの、無事董天君を撃破することができました。
よって依頼は成功です。
おめでとうございます。

巫様

今回は烈焔陣との関連について調べていただきました。
ちなみに霊ではない敵との戦闘ではどのように対応されるのか、今度教えていただけるでしょうか?体術などに関しての設定もないので、戦闘に参加しにくい面がございまして・・・。