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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


悪魔教会〜蠢動〜

<オープニング>

「ねぇ、町で奇妙な噂流れているのを知ってる?」
雫の書き込みはこのような文から始まっていた。
「悪魔教会という教会ができたんだって。新宿のどこかにあるのは分
かっているんだけど、正確な情報はつかめてない。ここで洗礼を受け
て悪魔に身も心も売ることを誓えばどんな願いも適うそうよ。ただの
噂ならそれでもいいんだけど、実際ここに行って大成功を収めた人も
いるそうよ。
でも場所がわからないんじゃ・・・
ねぇ、誰か手の空いている人、調べてもらえる?
なんか悪魔教会なんていうと怖いけど、もしかしたらすごいところ
なのかもしれないし・・・。
そういえば貴方、神様信じてる?え、教会だからそんな質問でもして
みようかななんて」

<歌舞伎町>

眠らない街新宿。その代名詞とも言えるのがここ歌舞伎町である。昼は大した人通りではないが、夜になれば雰囲気を一変する。ネオンが輝き、飲み屋や料理屋など飲食店に、風俗店。チーマーと呼ばれる学生たちの集まりに、風俗店のホステスやホスト。会社帰りのOLや会社員。非合法な麻薬を扱う売人など多種多用、様様な人間がひっきりなしに行き交う不夜城歌舞伎町。
そんな街を今風の金髪に染めた髪に、翠の眼という目立つ風貌の少年がぶらぶらと歩いていた。彼は適当にその辺をたむろしている暇そうなチーマーたちに声をかける。
「あくまきょーかいって知ってる?なんでも願いが叶えてもらえるらしーけど」
「はぁ?悪魔教会だぁ?んなの知るかよ」
「何言ってんだこいつ?頭大丈夫か?」
「なーんだ。知らないのか。じゃいいや」
彼は情報が得られないと知るとさっさとその場を離れる。
「悪魔教会ねぇ。つか俺、悪魔とか神とかって信じる信じないの前に、全然意味わかんないんだけど。人間ってよく変なこと考えつくよなぁ」
ぶつくさつぶやく彼。見た目こそ普通の、どこにでもいる今風の高校生と言った感じの彼が、実は妖怪猫又であることを気付く者はいまい。彼は既に150年以上も生きているが、人の世界が気に入ってしまい、現在は桐谷という家にペットとして飼われている。そのため名前は桐谷虎助としている。しかし彼は何か面白いことを見つけると人に化けて遊びに行ってしまうため、家の者はかなり心配している。もっとも本人は大して気にしていないようだが。
今回の事件に関しても、いつも世話になっている雫のためというよりは面白そうという理由で引き受けている。
彼は150年も生きているため、考え方が少し古い。歌舞伎町に関しても昔自分が住んでいた江戸の吉原みたいという考えをしている。様様な人間が出入りする風俗店ならば情報が集まるかもしれない。そう考えた彼は大きな看板のネオンが眩しい、一軒の風俗店に入るのだった。
店の看板には「クラブ パンデモニウム」と書いてあった。

「いらっしゃいませ。当店は未成年の方はお断りしておりますが・・・」
「ああ、問題ない。俺152歳だから」
「はぁ?」
「冗談冗談。大丈夫。俺成人だよ。ほらこれ免許証」
と言って彼は、財布から車の免許証を取り出した。ちなみのこの財布は彼が家から出てくるときにいつも拝借する桐谷家の跡取息子(彼はデカ息子と呼んでいる)のものである。
「これは失礼いたしました。どうぞ中へ」
ボーイは非礼を詫びると彼を店内へと案内するのだった。
店の中は薄暗い証明に包まれており、シックな調度品で飾られている、見るからに高級店とわかる佇まいだ。
「霞さん、お願いします」
「分かったわ。いらっしゃいませ。お客様。どうぞこちらへ」
霞と呼ばれた、豊満な体つきをした女性が奥から出てきて彼を席に案内する。紫色のドレスを来た蟲惑的な雰囲気をもつ美女だったが、生憎桐谷の好みではなかった。香水の匂いが強すぎるのだ。人の数倍の嗅覚をもつ彼にとって、その香りはむせかえるほど強いものだった。
(なんで人間ってこんな馬鹿みたいな匂いをつけるのかねぇ。さっぱり分からないや)
「お客様。何をおのみなりますか?」
「あ〜、びーるでいいや」
「かしこまりました。ボーイさんビールお願い」
ボーイがビールを運んでくる。
「こちらになります」
「有難う。ではお客様何に乾杯しましょうか?」
ビールが注がれたグラスを手渡しながら霞が尋ねる。
「う〜ん悪魔教会に乾杯かな」
「悪魔教会?なんですか、それは?」
「なんか新宿にそんな名前の教会があるって聞いたんだ。そこで悪魔に魂を売るとなんでも願いをかなえてくれるんだって。お姉さん知ってる?」
「さぁ、そんな話聞いたことのないわ」
霞の言葉に、ここもだめかと思った桐谷は席を立とうとした。あまりの香水の匂いに吐きそうなくらいなのである。
(うう、もう限界・・・)
「ああ、お待ちくださいお客様。もう少しお飲みになっていきませんか?もしかしたら悪魔教会を知ってるコがいるかもしれませんわ」
「ほんと?聞いてくれるの」
「もちろんですわ。ちょっと待っててくださいね」
そう言って席を立つ霞の口には謎めいた笑みが浮かんでいた。

<吸血鬼>

同じように面白そうという理由で今回の依頼を受けた秋津遼は教会や神など更々信じていない人間である。本当に神がいるというのなら、なぜこの世はかくも不平等なのか?この町で酒を飲み飽食と淫乱にふける人間がいると思えば、明日の食事にすら飢えている人間もいる。そんな不平等な世界を作っておきながら人間は神の前では平等などよくも言える。教会で祈りをささげている人間などを見ると馬鹿としか思えない。
その皮肉な気持ちは彼女のアクセサリーにも現われている。首元にかけた銀の十字架。本当にこんなものが魔除けになるとでも思っているのだろうか?この吸血鬼である自分がかけても何の効果もない玩具で。
そう、彼女は6世紀以上を生きる吸血鬼であった。人々の血を吸い糧とする不死者の王。彼女にとって時間は無限であり、時は意味をなさない。ただ自分の興味を引くことにだけ手を出すだけである。
悪魔教会などという笑止な組織を作った連中とはどんな人間なのだろうか?
その顔を見てみたいと思った彼女は、新宿の町を歩き、適当と思われる男10数人を選び出し自分の下僕としていた。中性的で魅力的な顔立ちをした彼女がナンパをすれば、すぐにそのくらいの男たちは集まる。あとは裏路地などに誘いこんで血を吸えば完了である。吸血鬼はその血の吸う量によって、生物を死に至らしめることも同属にすることも可能である。同属にした場合も自分の血を与えることで己の下僕にすることができる。
歌舞伎町の一角にある洒落たバーで葡萄酒を飲む彼女は、僕たちに悪魔教会の事を調査させ吉報を待つことにした。闇の貴族である自分が自ら聞き込みなどという無粋なことを行う必要はない。そういうことは下賎な僕に任せておけばいい。葡萄酒の酩酊に酔いながら彼はそう思った。
やがて彼の元に僕たちが戻ってくる。
「帰ってきたか・・・。それでどうだったかい?」
「はい。町の住人の中で悪魔教会について特に知っている人間はいませんでした」
「至るところの店や路地裏を探してみましたが、それらしき場所も見つかりません」
収穫は大してなかったらしい。秋津が落胆しながら残った葡萄酒を喉に流しこむと、僕の一人が付け加えるように言った。
「ただ、毎晩行方不明者が出るクラブが一店あります。警察が聞き込みをしているのを聞きました」
「本当か?どこだ、そこは?」
「クラブ パンデモニウムです」
僕の言葉に、秋津は皮肉な笑みを顔に浮かべる。
パンデモニウムとは随分とストレートな名前をつけたものだ。パンデモニウムとは地獄に存在する悪魔たちの居城であり、万魔宮と呼ばれる。この居城で悪魔たちは会議を行い陰謀を張り巡らせる。そんな名前を店につけるとは、随分と誇大妄想の強い人間だ。
彼はそのルビーを思わせる真紅の瞳に喜悦の光を宿らせ席を立つ。
「行くぞお前達。そのパンデモニウムとやらに行って見ようじゃないか」
黒いコートをはためかせながら、秋津は悠然とバーを出て行くのだった。

<ホストの情報網>

「・・・以上なんだけど、どう?」
「いや助かりましたよ。有難うございます」
「じゃあ、また今度お店でね」
「お待ちしていますよ。秋名さん」
斎悠也はそう艶かしい声でささやくと携帯電話を切った。新宿を根城とする人気ホストである彼は、店のなじみの客を相手に情報収集を行なった。ホストクラブに訪れる客層は幅広い。女子学生から主婦、OLに至るまで様々な職種についている。そこから手に入る情報量は膨大なものである。
「悪魔の教会ね・・・。どんなものなのやら」
父親が召喚でもされていたらお笑いものなのだが。内心そう思って苦笑する。
彼は魔女の母が契約をもって結ばれた悪魔の父との間に生まれた、非常に珍しいハーフである。恵まれた容姿と父譲りの話術をもって女性をたらしこむのには長けている。店で彼を指定してくる客は多い。
先ほど得られた情報では悪魔教会とは一つの場所を指すのではなく、不特定多数の支部をもつ組織みたいなものであることが判明した。その中でも活発に行動している教会が新宿は歌舞伎町にあるクラブ「パンデモニウム」とのことだった。勿論儀式は深夜に行なわれるという。
「クラブが教会ですか・・・。確かに悪魔の教会にはふさわしいかもしれませんね」
悪魔が司るには欲望の開放。あらゆる欲を肯定し己が思うままに振舞うことこそが彼らの喜び。深夜のクラブはそれを体現するのにふさわしい場所と言える。
「さてと、行きますか・・・」
縁なしのサングラスをかけ、彼はパンデモニウムへと入っていったのだった。

<パンデモニウム>

(ふにゃ?もう朝かな・・・?)
桐谷が目を覚ますと、そこはクラブパンデモニウムの中だった。椅子などは全て片付けれており、彼の周りはクラブの従業員たちが囲んでいる。何時の間にか祭壇が用意されており、ものものしい髑髏の燭台などが置かれている。
桐谷は立ちあがろうとしたが、できなかった。手足がロープで縛られ動かすことができなかったのだ。
「な、なんだよこれ?」
「やっとお目覚め?」
上から冷ややかな声がかけられる。桐谷が体を転がして声のした方を見ると、腕を組んでふてぶてしい笑みを浮かべた霞が立っている。
「これお前達の仕業か!?ロープを解けよ!」
「何をそんなに怒っているの?貴方が探していた悪魔教会に折角連れてきてあげたというのに」
「悪魔教会!?ここが?」
「そうよ。普通の教会だとでもイメージしてた?」
霞は桐谷に近づくと、耳元にささやきかける。
「ここは快楽の都。己の本能の赴くままに振舞うことを許されるこの世のパラダイスよ」
「じゃあ、なんで俺は縛られてるんだ?」
「ほんとは貴方も仲間に入れてあげたいんだけど、今日は儀式を行なうの。それで生贄が足りなくてね。それで貴方を選ばせてもらったの」
桐谷のうなじに手をあててながらクスクスと笑う。
「悪いけど、恨まないでね。悪魔教会を調査しようとするからこんなことになるのよ」
「マスター、そろそろお時間です。」
「分かったわ」
ボーイである男の言葉にうなずくと、霞は祭壇に置かれていた短剣を手にした。従業員たちは低く重々しい声で何事かを呟き始めた。意味はわからないが悪魔を称える呪文か何かなのだろう。
実を言えば桐谷は小型の猫に化けることができるので、この程度の拘束から抜け出す事など簡単にできる。だがこの中のリーダーと思われる霞の思惑が分からない以上、もう少しこの場に留まって様子をみようと考えている。
霞は手にした短剣を掲げながら、同じように呪文を呟く。おどろおどろしい儀式が進み、いよいよクライマックスにさしかかる。
「魔界の主。偉大なる王。我らが闇の救世主。我らの呼びかけに応えたまえ。この人間を贄としこの地に光臨したまえ。魔王・・・!」
「うわぁぁぁあ!」
悲鳴をあげたのは短剣を刺されようとしている桐谷ではなかった。入り口で見張りに立っていた従業員である。彼は強烈なパンチを食らって壁に叩きつけられた。
「何奴!」
「お遊びはこれくらいにしてもらおうか」
僕を伴って悠然と入り口から現れたのは秋津である。
「下らん遊びだな。そんなでは初級の魔神すら召喚できん。悪魔教会などと銘打つからにはどれほどの儀式を行なっているかと思いきや・・・。失望したな」
「同感」
うなづいて同意を示すのは斎。パンデモニウムの入り口で合流した彼らは、突入の機会をうかがっていたのである。
「ふん!こいつらを満足させるにはこれくらいの儀式で十分なんだよ!飛んで火にいる夏の虫。お前たちも生贄にしてやる。やってしまえ!」
荒々しい口調に切り替えた霞の号令を受けて従業員たちは秋津たちに襲いかかる。
だが、彼らの手が秋津と斎に届く事はなかった。秋津の僕たちが全ての従業員たちを薙ぎ払ったためである。吸血鬼の僕と化した者は主の力の一部を引き継ぐ。一部とは言えその力は人間をはるかに陵駕する吸血鬼の力。並の人間相手なら軽く殴り殺せるほどの力が付与されるのだ。
「くっ。こうなれば・・・」
状況の不利を悟った霞は、せめて儀式だけでも完成させようと桐谷に短剣を刺そうとした。しかし、桐谷がいた場所には彼の衣服しか存在せず、彼の姿は消えていた。霞が侵入者に気を取られている隙に猫に化けてこの場から離脱していたのだ。
「そ、そんな・・・。あいつはどこへ・・・?」
「さてな。だがいなくなった奴のことより自分の命のことを心配したらどうだ?いかに絶望的とは言えな・・・」
秋津の冷酷な一言に霞の動きが止まる。
「まぁ、待ってください。貴女下級悪魔でしょう?さっき人間を操っていたみたいだし、魔界の匂いがするんですよね。香水で隠しているようですけど」
同属だからこそ分かる魔界の者特有の匂い。勘のいい者にはわずかだが感じられる臭気ともよべるもの。それを隠すために香りの強い香水でごまかしていたのだろう。
観念したのか、斎の問いに彼女は答える。
「そうよ。私はサキュバス。淫魔サキュバスよ・・・」
人の精気をすすり糧とする悪魔サキュバス。人に快楽の夢を見させその間に精気をすする下級悪魔である。
「どうしてこんな事件を起こしたのか教えてもらえますか?」
「主様からのご命令なのよ。悪魔教会を使って人間たちの欲望を満たすようにって」
「その主様とは?」
「分からない。こっちに呼ばれた時には顔を隠していたし、名前も言わなかったから。ねぇ、私をどうするの?許してくれるならなんでもするわ」
「なら私の使い魔になりますか?」
「いいわ。使い魔でもなんにでもなる」
サキュバスは即答した。何が何でも生き延びたいのだろう。
「ということですけど、かまいませんか?」
「好きにしろ。こんな奴殺す価値もない」
サキュバスの変わり身の早さに呆れながら秋津はため息をついた。
斎はサキュバスの真名を聞き出し、支配の魔法をかけた。真名を用いれば彼女は絶対に彼に従わなくてはならない。使い魔の完成である。彼はサキュバスを紫水晶の腕輪に待機させておくことにした。その一部始終を見届けて、猫になった桐山は満足げにあくびをするのだった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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  【 PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

秋津・遼/女/567/なんでも屋
斎・悠也/男/21/大学生・バイトでホスト
桐谷・虎助/男/152/桐山さん家のペット

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■         ライター通信          ■
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悪魔教会〜蠢動〜はいかがだったでしょうか?
悪魔教会というシナリオに相応しく(?)参加者全員が人間以外の方という面白い組み合わせとなりました。
今回は悪魔教会の場所をつきとめ、壊滅にまで追い込んだので成功と言えます。
おめでとうございます。
しかし、悪魔教会はこれで終わりではないようです。これからも悪魔教会絡みの事件が発生するかもしれません。興味をお持ちの方はまたご参加いただければと思います。
今回はキャラクターらしさを出すことに重点をおいたシナリオとなりました。しかし、お客様にどれくらいご満足いただけたのかが分かりません。私信などをいただけますと、お客様のご要望を聞きやすくなりより完成度の高い作品が作れると思いますのでご協力願いたいと思います。

秋津様

500年を生きるヴァンパイアとして描かせていただきました。配下になったものたちの力などが記されていなかったのでこちらである程度能力を設定させていただきました。どちらかという男装の麗人と言った感じで表現いたしました。いかがだったでしょうか?