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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


チョコレートをあなたに……☆
●オープニング【0】
 バレンタインデーも近くなってきた、ある日のインターネットカフェ。パソコンのモニタを見るのにも疲れ、気分転換に何気なく周囲を見回してみた。自分と同じように、モニタに見入ってる者たちがそこかしこに居る。もちろんその中には見知った顔も居た。
 その中に、1人の少女が居た。小柄でポニーテール、セーラー服に身を包んだ少女だった。先週から見かけるようになった顔だ。だが、おかしなことに視線はモニタではなく、別の方を向いている。
 気になって少女の視線の先を見て――納得した。視線の先には、詰襟の学生服を着た可愛らしい少年がパソコンを操作していたのだ。こちらもこの店で頻繁に見かける顔だった。少女の様子から察するに、少年のことが好きなのだろう。
 ふと少女の手元に目をやると、そこには綺麗にラッピングされリボンの付いた小さな箱が。時期的にチョコレートといった所か。
 少年が店を出た。少女はその姿を目で追ったが、箱を手にしたまま立ち上がることはできずにいた。
 ああ、何てじれったい。暇つぶしに、少女の告白の手伝いでもしてやろうか。それとも、いっそ邪魔をしてみるか……?

●少女を囲んで【1C】
 ネットカフェからそう離れていない場所にある喫茶店『スノーミスト』。その店内に5人の女性が集っていた。いや、正確に言えば1人の少女を囲む4人の女性たちか。
 昨日の様子を見て、力になろうとした者たちが少女をこの喫茶店に連れ出してきていたのだ。
「初々しいわねぇ」
 赤い髪でショートカットの女子大生、杉森みゆきがポニーテールの少女を見つめてくすくす笑った。恥ずかしそうにうつむく少女。
「あんまりからかわれない方が……」
 隣に座っていた金髪の和服女性、草壁さくらがやんわりとみゆきを窘めた。2人並んで座っていると、片や元気娘、片や大和撫子と雰囲気が対照的であった。
「ここ……暑くないですかあ?」
 ぱたぱたと手で顔を扇ぎながら、アナウンサー・寒河江深雪がつぶやいた。確かにこの喫茶店、暖房が少々強めに設定されているようで、少し前まで居たネットカフェよりも暑かった。すでに深雪は水を3杯もお代わりしていた。
「あ……お兄ちゃん……」
 ガラス越しに外を眺めていたお下げ髪の眼鏡の少女、王鈴花が小声でつぶやいた。ネットカフェのある方向から、細身の少年がこちらへやって来ているのが見えていた。
 鈴花は握り締めていた手を開いた。小さな手の中で、ラピスのピアスが青く光っていた。

●好きになる理由【2A】
 喫茶店にやってきた細身の少年、世羅・フロウライトは王鈴花の隣に座った。
「調べてきたよ、鈴花」
 世羅が優し気に鈴花に言った。そしてメモ帳を取り出し、さらさらと何やら書き付けると鈴花に手渡した。
「ありがとう……お兄ちゃん」
 にっこりと笑いかける鈴花。世羅は照れたように鼻の頭を掻いた。
「さ、人も揃ったから……そろそろ本題に入ろ」
 皆の顔を見回して杉森みゆきが言った。
「とりあえず、彼を好きになったきっかけから聞かせてほしいなぁ」
 皆の視線が少女に集中する。少女は戸惑いながらも、口を開き説明を始めた。
「私があのネットカフェに初めて入った時……それが最初のきっかけで」
「あれ? 店員さんじゃなくてですかあ?」
 寒河江深雪が口を挟んだ。
「パソコンが動かなくなった時、店員さんが近くに居なくて……そこで彼が助けてくれたんです」
 うつむき加減に少女は話し続けた。その傍らで、鈴花はタロットカードを取り出し、占いを行っていた。恐らくは少女と少年の恋愛運を占っているのだろう。
 少女の話に対し、熱心に耳を傾ける鈴花以外の女性陣。世羅が鈴花の占いを無言で見守っていた。

●占い【3A】
「でも、バレンタインまでまだ日にちあるのに、どうしてチョコを持ち歩いてるの?」
 深雪が思い出したように言った。確かにバレンタインにはまだ1週間以上もある。
「ひょっとして、当日に渡せないとか……?」
 手元のおしぼりをマイクに見立て、少女に尋ねる深雪。だが少女は小さく首を横に振った。
「私、行動するのが遅くって……。ずっと前、好きだった男の子にバレンタインの3日前からチョコを渡そうとした時も、結局渡せずに終わって……。だから今からだったら、渡せるんじゃないかと思ったんですけど……」
 さらにうつむく少女。最後の方は声が消えそうになっていた。
「お姉さん……今、鈴花占ってみたんだけど……」
 タロットから顔を上げ鈴花が言った。その表情は真剣そのものであった。
「過去に『戦車』の逆位置……現在に『月』の正位置……そして未来に『運命の輪』の正位置……。鈴花思ったの……お姉さんは何度となく苦い思いを味わってきて、今は不安を抱えている……告白しても失敗するんじゃないかって……」
 そこまで言い、鈴花は少女の様子を窺った。少女は手で口元を押さえていた。
「だけど……未来のこれ……『運命の輪』。新しい未来が待ち受けていると鈴花は思うの……。でも占いはあくまで『予想』で、行動次第で変わっていってしまうから、お姉さんが何もしなければ、その未来も逃げていって……あ。年下なのに生意気言ってごめんなさい……」
 ぺこりと頭を下げる鈴花。少女はふるふると頭を振った。
「そんなこと……。占ってくれてどうもありがとう」
 少女が鈴花に感謝する。と、そこに今まで黙っていた草壁さくらが言葉を発した。
「大丈夫ですよ。きっと、天使様が見守っていてくれるはずですから」
 さくらが笑顔で少女を励ました。さくらの前に置かれていたパフェのグラスは、すでに空になっていた。

●天使降臨【4C】
 少女が喫茶店を後にして、自分の家へ帰宅する途中のこと。何かを見つけ、立ち止まる少女。細い路地の奥に何やら光っている物があった。
 不思議に思い、少女が細い路地へ入った。するとどこからともなく鈴の音が聞こえてきて、空から多くの光の粒が舞い降りてきた。
「えっ……」
 驚き戸惑う少女。光の粒はやがて人の形を取り――白く大きな翼を持つ天使の姿へと化した。
「て……天使様……?」
 突然のことに少女は呆然となった。少女に微笑みかける天使。その顔はどことなくさくらにも似ているような。
「……勇気を出して気持ちをお伝えなさい……さすれば新たな道が開かれることでしょう……」
 天使は優し気な眼差しで、静かに少女に語りかけた。
「……私はあなたを見守っていますから……」
 天使はそう言い残すと、ゆらりとその姿を崩し、再び光の粒へと変わり舞い上がり――少女の前から消え去った。
「天使様……」
 少女はしばらくその場で空を見上げていた。そんな少女の様子を、さくらが遠くで優し気に見守っていた。

●チョコレートをあなたに【5】
 さらに翌日。ネットカフェには例の少女が、少年が来るのをどきどきとした様子で待ち受けていた。その様子をそっと見守る5人。
 少女は杉森みゆきのアドバイスを受けて、前髪を上げて額を出していた。その方が明るく見えるとアドバイスを受けてのことだった。もちろん、それ以外にも色々とアドバイスを受けている。
 そんな時、ネットカフェに1人の少女が入ってきた。コートの中にセーラー服姿の少女だ。
 女子高生・滝沢百合子は店内を見回し、少女を見つけるとすぐに近付いていった。
「居た、居た……あのね、お願いがあるんだけど」
「え?」
 百合子に声をかけられ、少女が顔を上げた。
「これ、落とし物だから渡しておいてほしいの。私、用事があって」
 百合子はそう言って少女に手袋を片方手渡した。
「……誰にですか?」
 少女は怪訝そうに百合子の顔を見た。すると百合子はくすっと笑い、小声で少女にささやいた。
「あなたがずっと見てた彼」
「!」
 一瞬にして真っ赤になる少女。
「それじゃあ……頑張ってね」
 百合子はそう言い残して、少女から離れた。その直後、少年が店に入ってきた。荷物を置き、席に座る少年。少女はしばし戸惑っていたが、意を決して席を立ち、少年の方へ歩いていった。
「あ、あの……」
「はい?」
 少女の声に振り向く少年。その瞬間、少女は後ろに隠していた箱と手袋を少年に向かって差し出した。
「これっ、私の気持ちです!!」
 顔を真っ赤にしながら、それでも笑顔を見せて少女が言った。自らの想いを伝えるべく。
「えっ……あー……僕に?」
 自らを指差す少年。少女はこくんと大きく頷いた。
「……ありがとう」
 少年が頬を赤らめて言った。
 2人の様子を見守っていた一同は、邪魔をしないよう各々そっと店から出ていった。

●あなたの番【6C】
(上手くいってよかったです)
 清々しい気分で街中を歩くさくら。先程の2人の様子なら、きっと上手くゆくことだろう。
「人のことの後は……」
 他人のことが終われば、次は自分の番である。自分の分のチョコを買わなくてはいけない。
(幸い資金はこの間のエキストラのがありますし……色々と買えそうですね)
 先日のとあるドラマのエキストラで得た日給を、さくらは全てチョコ代に注ぎ込むつもりだった。
「一樹様、どのようなのがお好みなんでしょう……」
 天を見上げ、さくらはつぶやいた。

【チョコレートをあなたに……☆ 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名(読み) / 性別 / 年齢 / 職業】
【 0134 / 草壁・さくら(くさかべ・さくら) / 女 / 20前後? / 骨董屋『櫻月堂』店員 】
【 0085 / 杉森・みゆき(すぎもり・みゆき) / 女 / 21 / 大学生 】
【 0174 / 寒河江・深雪(さがえ・みゆき) / 女 / 22 / アナウンサー(お天気レポート担当) 】
【 0142 / 王・鈴花(うぉん・りんふぁ) / 女 / 9 / 小学生(留学生)。たまに占い師 】
【 0140 / 世羅・フロウライト(せら・ふろうらいと) / 男 / 14 / 留学生 】
【 0057 / 滝沢・百合子(たきざわ・ゆりこ) / 女 / 17 / 女子高校生 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で、NPCを姓で表記するようにしていますが、一部例外もあります。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全15場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・時節物という訳で、今回の依頼はバレンタインシリーズ第2弾でした。高原は時折時節物を混ぜてゆきますので、オープニング文章にはご注意を。
・今回の依頼はPC対峙型も視野に入れた内容だったんですが、蓋を開けてみれば全員が少女の手助けに回っていました。1人くらいは邪魔する方も出てくるかと思ったんですけど、意外でしたね。
・皆さんの助けもあって、少女は無事に少年に告白できました。その後のことを語るのは、まあ野暮ですので止めておきますけれど。
・今までの依頼は少々殺伐としていて、高原はそういうのが得意なのだろうかと思われた方も居るかもしれませんが、実はこちらの系統もしっかり守備範囲だったりします。実際どのような物を書いているのかは、OMCのクリエイターズルーム内の『文章ダウンロード販売』を見ていただければ分かるのではないかと思います。
・草壁さくらさん、4度目のご参加ありがとうございます。背中を押してあげるプレイング、よかったと思いますよ。ちなみにエキストラの時の日給は3万円でしたので、予想以上にチョコは買えました。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。