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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


真冬のペンション〜慰安旅行〜

<オープニング>

「随分と気前がいいもんだな・・・」
「たまにはこれくらいしないとまずいからな」
草間武彦は煙草を咥えながら笑った。
たまには慰安旅行もかねて長野にでもいかないか?
いつも草間興信所で依頼を受けているものたちにそう連絡があったのはつい先週のこと。
長野のスキー場近くのペンションを借りて2泊3日の旅行が計画された。
初日は良かった。
ほどよく雪もふり、スキーやスノーボードで滑るには最適の状態だったからだ。
しかし、2日目の朝事件は起きた。
先日から降り積もった雪が道を覆い尽くしどこにも移動できなくなってしまっていたのだ。
電話線が落ちたらしく電話が通じない。電波も届かないので携帯電話もかけられない。
つまり外部との連絡手段はまったくなくなってしまったのだ。
雪は現在も深々と降っている。
「閉じ込められたな。こりゃ」
本当に事態の深刻さがわかっているのか。草間はいつもどおりのんびりと煙草をすうのだった。
さて、どうしよう。

<やっぱり>

「・・・はぁ・・・やっぱり・・・」
山のような洗い物と格闘しつつ彼女はつぶやく。
「武彦さんが珍しい事するとすぐこれだ・・・」
外の白雪と同じ色をした繊細な指が次々と洗い物を片付けていく。
「外には出られない、電話はかけられない。大飯食らいは沢山いる・・・」
深々とため息をつく。
「そして私ができることといったらおさんどん・・・」
ガスレンジをつけて鍋を火にかける。
「誰か手伝って・・・くれるはずもないわよねぇ〜」
里芋の皮を剥く。
「まぁ、愚痴ってもしょうがないわね」
調味料やその他の材料を手際よく用意しながら、彼女シュラインエマは朝食の準備に取り掛かっていた。
漆黒の、夜の宵闇をそのまま色彩としてもちいたかのような黒髪。蒼い、どちらかと言えば深い湖の底を表すラピスラズリのごとき切れ長の瞳。中性的な、繊細な顔つき。派手ではないが知性と奥ゆかしさを感じさせる容貌。
そんな彼女は優れた語学力を生かして英語の本の翻訳などを請け負っているのだが、これだけでは生計を立てられないのでゴーストライターの仕事もひそかに行っている。そのネタ収集のため草間興信所で事務、整理係りのアルバイトをしている。もっとも興信所の資金繰りがうまくいっていないのかもっぱら家事手伝いに徹っしているが・・・。
草間は慰安旅行を提案したが、経費節約のためホテルではなく貸切のペンションを選んだ。ペンションは料金が安いものの、料理や洗濯、掃除などは全て自分達で行わなくてはいけない。だが、草間も含め参加者の中で家事を行えるものなどほとんどいない。そこで家事に堪能したエマに声がかかったのだ。
草間興信所のおふくろさん的存在である彼女は、今回の旅行において非常に重要な役割を果たした。エマの田舎のおふくろさん的料理は定評がある。野郎だけではインスタント食品のみになっていたかもしれない。雪に閉じ込められようとエマの料理があれば皆も落ちついていられるだろう。
「さてと、こんなものでいいかしら」
自慢の芋のにっころがしの味見をしつつ、エマは自分の料理の出来栄えに頷いた。。
ご飯に豆腐の味噌汁、ほうれん草の胡麻よごし、焼き鮭、納豆、きんぴらごぼうに白菜の浅漬け、たまご焼き。そして芋のにっころがし。伝統的な日本の朝食の献立がテーブルに並ぶ。後はねぼすけどもを起こすだけだ。
「は〜い。ご飯ができたわよ〜」
エマは寝室のある二階へと階段をのぼっていくのだった。

<朝食>

朝食で食堂は賑わっていた。ペンションは木造で、家具なども全て木製である。壁に設置された大きな暖炉には薪がくべられ、良い香りを立てて燃えている。本当は石油ストーブも備え付けられておりわざわざ薪を買って火をつける暖炉より安価なのだが、経費削減、いやケチろうとした草間に雰囲気を考えろとエマが言って、暖炉で暖をとることにしたのだ。台所を握っているものの発言力は強い。
「いやぁ、エマさんの料理は本当に美味しいよね。僕ファンになっちゃう」
内場邦彦が、ひとなっつこい笑顔をエマに向ける。20歳の大学生なのだが、見た目の顔つきや体つきは年齢より随分と幼く見える。口調も可愛らしいため皆に子供扱いされて本人は結構気にしている。
彼は読書が好きで怪奇小説や推理小説は好んで読むが、霊感などなく草間たちなどとは関わりあいのない生活を送っていた。だが、先日亡くなったばかりの祖母から謎の肩掛け鞄を託された。それは見た目は帆布製で大きく、レトロなデザインだが丈夫な鞄といったところなのだが、中に何も入っていないにも関わらず本来はありえない「何か」を取り出すことができる。この鞄について存在意義を調べてほしいと遺言を託された彼は、霊的世界に自ら関わり合うようになった。今回の慰安旅行は、この鞄について知りたいと草間興信所を訪れた際に、霊的なものに関わりあいをもつ連中が多いからということで誘われて参加していた。残念ながら彼の鞄について知る者はいなかったが・・・。
「有難う、内場君。でもおだてても何もでないわよ」
エマは皆のお茶を淹れながら笑った。食事中と言えど茶を淹れたり、皿を用意したりで彼女は甲斐甲斐しく皆の世話をやいていた。
「いやだなぁ、そんなことないよ。ほんとうに美味しいってば」
「そうだな。俺もエマの飯は上手いと思うぞ」
甘いたまご焼きにかぶりつきながら草間も同意を示した。
「そう思うんなら少しは給料上げて欲しいんですけどねぇ」
エマは草間の前にお茶を置いた。
「ああ、そのうちな」
草間はあっさりとそういったが、多分上がりはしないだろう。毎度毎度このような口調ではぐらかしていて給料を上げる気配は見えない。
「まったく・・・。内場君、こんな大人になっちゃだめよ」
「は〜い」
「そこ、同意すんな!」
草間のツッコミに食堂に居合わせたものたちから笑い声がおきた。

<給料>

「何にせよ。食料や燃料等の数は把握しておかないとね」
朝食の片付けが終わり、エマはペンションの倉庫を調べていた。救助を待つにせよ、こちらから行動するにせよどれだけかかるから判らない。食料や薪など必需品は昨日買出しに行っていたせいもあって、非常用の分とあわせても後数日間は持ちそうである。他に使えるものはないかと調べてみると懐中電灯やコンパスも見つかった。
「にしても、そんな簡単に電話線落ちたりするのかしら。降る事が前提のような場所で・・・」
エマの悩みももっともである。毎年雪が降るのが決まっている場所で対策を練っておかないというのはおかしい。確かに今も外は雪が深々と降っているが、視界が完全に閉ざされてしまうほどの吹雪ではない。
「エマ、何やってるんだ?」
後ろからかかった声に振り向くと、そこにいるのは草間だった。
「ああ、武彦さん。一応ここにどんなものがあるかって調べていたの」
「そうか、いつもすまないなエマ」
いつになくやさしい声をかけて、草間はエマの肩をたたいた。
「武彦さん?」
「君には本当に世話になっている。本当は事務員として雇ったのに家事全般まで引き受けてもらって・・・」
「武彦さん・・・」
草間からこんなやさしい言葉をかけられたのは初めてだった。しかもこんなに間近で二人きりの状態。
エマの頬は知らず知らずのうちに赤くなっていた。
「それで給料の件なんだが・・・」
「ツケはだめですからね」
ぴしゃりと言ってのけるエマ。
「いや、その、実を言うと今月やばいんだ」
「どうせ競馬とパチンコですったんでしょう」
「な、なんで知ってるんだ・・・?」
草間がエマに驚愕の目を向ける。エマは草間のやることなどお見通しだった。
「この頃依頼がいっぱい入ってきてははぶりがよくなってきたもんだから使い込んだでしょ。ついでにいっときますけど、私がここに入ってからもう、二ヶ月以上経ちます。これ何を意味してるか分かる?」
「な、何だよ・・・」
後ずさりする草間。
「試験運用期間が終ったってことです。これから正規の契約に移行するから給料はアップですよね」
「あ、アップってそんな・・・」
「じゃあ、そういう事でよろしくお願いします。武彦さん」
クールに言って倉庫から出て行くエマ。後には給料アップを突きつけられ呆然とする草間が残されたのだった。

<手品>

「ふええ、やな状況だなぁ」
朝食後、自室に戻った内場は外の雪を見て、ため息をついた。雪は深々と降っており止む気配はない。テレビの情報では、後2,3日は降り続くらしい。その間はこのペンションから出ることはできないだろう。
「こういうのってミステリーだったらクローズドサークルっていって、いきなり連続殺人が起きて、フーダニットやらハウダニットやら彼氏のための楽しいニットやら。東野圭吾「ある閉ざされた雪の山荘で」っていいよねぇ・・・」
何を言っているのか意味が不明である。
「はう、混乱してしまった」
自分でつっこんでいては世話はない。
「天候不順なんてすぐ収まるし、落ち着かなくちゃ」
部屋を歩き回りながら、考える内場。
「こういう時は皆で一緒に固まっているのが一番なんだ。全員の行動が把握できるし、電気やガスの節約にもなるしね。そうだ、パーティとはいかなくてもお茶会にでもしよっか」
思いたったが吉日。彼は仲間を集めに部屋を出て行くのだった。
数分後。
先ほどの食堂に今回の慰安旅行参加者、全員が集まっていた。皆やることもなく部屋で寝くさっていたのだ。食料も燃料もあるし、2,3日で雪が止むとなれば特にすることもない。暇を持て余していた彼らは喜んで参加した。
食堂にエマの入れたダージリンの芳しい香りが立ち込める。皆がクッキーを食べたり歓談している中、内場は席から立ち上がった。
「僕、手品しますー」
いつも肩にかけている鞄をおもむろに取り出す。拍手をする列席者。ナニかが出るとは聞いていたが物が出て来る現場を見たことがないので皆興味深々である。
「ええ、取り出したるは何の変哲も無い鞄。勿論中には何も入ってません」
中を見せる。彼の言葉どおり中には何も入っていない。
「ですが、この鞄に手を突っ込んでみるとナニかが出てきます。ナニが出るかはお楽しみ♪」
ごそごそと漁る内場の手にモゾッとした感触がした。ナニかが出てきたらしい。何か冷たくモゾモゾ動くもののようだ。気持ち悪いが手品で見せるといった手前、皆に見せなくてはならない。嫌々手にしたものを鞄から取り出す彼。
「はい、でましたー」
彼の手に握られていたもの。それは・・・・。

黒いアレだった。

黒いアレは羽を広げるとブンと飛び立ち、エマの顔に張り付いた。
「%#&△□○?+*¥!!!」
エマは意味不明な悲鳴を上げると、その場に硬直した。そして・・・。

バタン!

「ああ!エマさんしっかり〜!!!」
内場の声がペンションにこだました。

教訓。

モノを取り出すときは良く見て取り出しましょう。

追伸。

エマはこれ以来、さらに黒いアレ恐怖症にかかってしまったことはいうまでもない。

合掌。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0086/シュライン・エマ/女/26/翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト
0264/内場・邦彦/男/20/大学生

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■         ライター通信          ■
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真冬のペンション〜慰安旅行〜はいかがだったでしょうか?

参加者の方が少なかったため、こじんまりとした小説になりましたが肩がこらないほのぼのとしたストーリーに仕上がったのではと思います。時にはこんな恐怖も面白いのではないでしょうか?

ベルゼブブの依頼は戦闘が多いと思われがちですが、調査主体やほのぼの系も増やしていきたいと思っています。これから依頼の注釈にのせていくつもりですのでご自分にあった調査依頼をお選びいただければと思います。

内場様

初参加有難うございます。鞄から取り出すものが指定されていなかったのでこちらで決めさせていただきましたがよろしかったでしょうか?4次元ポケットみたいで面白いアイテムですね。ご意見、ご要望その他何かございましたら私まで私信をいただければと思います。できるだけ次回のリプレイで反映させていただきたいと思います。