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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


狙われたロケ
●オープニング【0】
「面白そうな依頼が来てるぞ」
 そう言って草間が資料を1束手渡した。
「『魔法少女バニライム』という特撮ドラマのプロデューサー、直々の依頼だ」
 『魔法少女バニライム』――月の魔法で正義の魔法少女バニライムに変身した少女、大月鈴(おおつき・りん)が悪と戦ってゆく物語だ。演ずるのは公開オーディションで選ばれた小学校高学年の少女、香西真夏(こうざい・まなつ)だ。
「何でも現場でここしばらく妙な事件が頻発しているらしい。機材が不調になったり、役者の持ち物がなくなったり……突然スタジオ天井のライトが落ちてきたり、とな」
 さすがにこうも続くと芸能マスコミも嗅ぎ付ける。今はまだどうにか押さえているが、このままだと表沙汰になり撮影にも支障をきたしかねない。現に影響は出始めている。
「依頼内容だが、犯人を見つけ出してほしいそうだ。主役を護りつつ、な。スタッフなりエキストラなり、現場に潜り込む手段は各々で考えてくれ、とのことだ」
 別の資料に目を通しながら草間は説明を終えた。
「でだ、当日のロケは外での格闘シーンらしい。採石場だか何だか知らんが、そこでの撮影だそうだ」
 ……特撮らしいといえばらしい場所だ。

●スタッフとして【1A】
 冬は寒いものだ。それが早朝であればより寒く、都会から離れた山手の方であればなおのことである。しかし冬の山手の採石場で、早朝から忙しく動き回っている者たちが居た。
「おーい、ぼやぼやすんな! とっととセッティングしろ!」
「はいっ!」
 スタッフ用の青いダウンジャケットを羽織った若い男女が、カメラや照明といった機材を手早くセッティングしてゆく。その様子をロケバスのそばで2人の若い男女が見つめていた。
「屋内と屋外じゃ、やっぱり違いますね」
 先日のエキストラ出演のことを思い出しつつ斎悠也がそうつぶやいた。つぶやきが白い息となり吐き出される。
「とりあえず、気温が違うね」
 隣に居た秋津遼がさらりと言った。2人とも忙しく動いているスタッフたちと同じ青いダウンジャケットを羽織っていた。
 黒い髪に白い肌と似たような雰囲気を醸し出している2人だが、ダウンジャケットを羽織ってもそれは変わっていなかった。違いはといえば、悠也の方が着こなしが上手なのと、遼が中に厚手の長袖シャツを着て帽子を被り、サングラスをかけていることくらいだ。
 2人とも今日のロケに、スタッフとして潜り込んでいた。しかし突然スタッフとして入ったら、他のスタッフから多少なりとも『何で今日入ったんだ?』と思われるものだが、そこはそれ。悠也が上手くやっていた。
「そういえば、さっき飲み物渡してくれた娘、誰?」
 遼がサングラス越し冷ややかに悠也を見つめた。
「この間エキストラ出演した時に、知り合ったスタッフさんですよ」
「にしては、缶を手渡す時に、ぎゅうっと手を握られていたよね」
「気のせいですって」
 表情を変えず、悠也が視線を外した。
(……電話番号教えてもらってるとは言いにくいな)
 実は悠也、先日のエキストラ出演の際に、仲良くなった女性スタッフの電話番号をしっかりと聞き出していたのだ。それが思わぬ所で役に立った訳である。
「さすがにそろそろ仕事しないとまずいですね」
 話題を変えるべく、悠也が言った。
「そうだね。じゃ、また後で」
 そして2人は左右別々の方へ歩き出した。

●発破職人【2A】
「ふーん、なるほど」
 歩きながら、台本を確認する悠也。今日のロケ内容は、事件に巻き込まれた3人を連れてバニライムが逃げ回り、そして戦闘に入るというものだった。仲良くなった女性スタッフの話によると、今日は戦闘シーン先行型らしく、物語の前半部分は後で撮影するとのことだった。
(思った通りだ)
 現場に来る前に悠也が予想していた通り、台本には爆発シーンがしっかり記載されていた。それも数回あるらしい。
「すみません。発破担当の方は?」
 そばを通りがかった別のスタッフに居場所を尋ね、教えてもらう悠也。軽く礼を言い、まっすぐにそちらへ向かった。
(あ、居た)
 向かった先、撮影現場近くには同じスタッフ用ダウンジャケットを羽織っている男が居た。風邪でもひいているのか、顔が半分隠れるような大きさのマスクをつけ、帽子を深めに被っていた。その前には発破用の機材もあり、そこから線がずっと先まで伸びていた。当然ながら、途中から画面に映り込むことのないよう、上手に隠されているのだが。
「あの、発破担当の方……」
「ああっ?」
 悠也が言い終わる前に、男がじろりと睨み付けた。
「発破担当の方ですよね。今日撮影分の発破について、確認するよう言われてきたんですけど」
 ひるむことなく言葉を続ける悠也。しかし邪魔そうに男が答えた。
「さっき監督に説明したのに、また確認かよ。第一、下っ端に説明しても分かる訳ないんだよな……。ほらっ、分かったらとっとと行けよ」
「しかし確認してこないと、俺が怒られますから」
 食い下がる悠也。しばし睨み合いが続いたが、渋々と男が1枚の紙を見せた。
「おら、今日の分だ。赤で丸ついてるのが、発破の場所だ。確認したら、とっとと行けよ」
 悠也は男から紙を受け取ると、即座に場所を頭に叩き込んだ。
「威力はどうですか。できれば火薬の確認もお願いしたいんですけれど」
「分かった分かった。後でやっといてやるから、とっとと行け。……行けよっ!」
 男は悠也を追い払うように言った。

●伝言【4A】
 リハーサルも終わり、いよいよ本番。遼と悠也は他のスタッフから少し後方で本番の様子を見つめていた。
「上も見てきたけど、何もなかったね」
 小声で話す遼。採石場の上の方も見回ってきたが、怪しい人影や装置等もなく、特別危険な岩も見当たらなかった。
「差し当たっては安心ですかね」
 悠也も小声で返した。その時、本番が始まった。
 真夏演ずるバニライムが、他の3人を連れ逃げてゆく。その遥か後方で、最初の爆発が起こった。悠也が確認した発破場所と同じであった。
「そうだ。あの2人からの伝言」
 真夏の後ろで逃げている、世羅・フロウライトと王鈴花を遼が指差して言った。
「何です?」
「『出演陣は力強い味方が居るから何とかなる。それよりも発破に注意してほしい』って」
「発破に?」
 悠也が眉をひそめた。
「おい、予定と違うぞ! 爆発が近過ぎる!」
 スタッフからざわめきが起こった。それでもカットの声はかからず、カメラは回り続けている。
「そういえば、今日の発破担当の人、いつもと違う人が来てるって誰か言ってたっけ」
 遼がぽつりとつぶやいた。そして顔を見合わせる2人。
「……そういう大事なことはもっと早く言ってくださいよっ!」
 悠也が突然駆け出した。遼も慌てて後を追った。

●犯人確保【5A】
 悠也と遼が向かったのは、発破担当のスタッフが居る場所だった。白いマスクをつけた男が機材の前に立っていた。
「発破、ちょっと待て!」
 走りながら男に叫ぶ悠也。だが男は聞こえていないのか、無視しているのか、機材のスイッチを次々に入れてゆく。連続して爆発が起こった。
「待てと言ってるだろう!!」
 悠也が強く叫んだ。その声に一瞬、ビクンと男の動きが固まった。
(今だ!)
 悠也が気を強く念じた。衣装担当のスタッフに頼み、真夏の衣装に縫い付けてもらった護符を発動させるためにだ。護符が発動すれば、最悪の事態は避けられるはず。後は目の前の男をどうにかすればいいだけの話だ。
「くっ……待つものか!」
 男が叫び、またスイッチを1つ入れた。同時に今までで一番大きな爆発が起こった。高笑いする男。
「はははっ、これでおしま、ぐわぁっ!!」
 男のそばに着いた悠也が、走ってきた勢いを利用して左ストレートを男の顔面に叩き付けた。男は激しく吹っ飛ばされ、地面に叩き付けられた。
「貴様……スタッフに化けて、彼女を殺すつもりだったんだな!」
 悠也が吐き捨てるように言った。答えの代わりに呻き声を上げる男。だがそれでも何とか、這うように逃げようとしていた。その前に人影が立ちはだかる――遼だ。
「逃げようだなんて、妙なこと考えてるんじゃないよ」
 遼は男の両手を、強く強く踏み付けた。
「ぎゃあぁぁぁぁっ!!」
 男の叫び声が辺りに響く。その様子をサングラス越しに見下ろし、遼はくすくすと楽し気な笑みを浮かべていた。
 大きく息を吐き、悠也が真夏たちの方を向いた。そこには怪人を従えた女性が、真夏と戦いを演じる姿があった。

●誰かじゃなく【6】
「お手柄だったな」
 事件の翌々日の草間興信所。草間が一同を前に労いの言葉をかけていた。
「にしても、何でああいうことを……」
 斎悠也が呆れた顔でサイデル・ウェルヴァを見つめた。エキストラとして紛れて、土壇場で敵幹部として登場したことだ。
「『敵を欺くにはまず味方から』と言うだろう? きな臭い噂のあるドラマにゃ、そのくらい必要さ」
 そう言って、サイデルは皆に『魔法少女バニライム』に関する噂をいくつか聞かせた。某大物俳優夫婦の娘がオーディション受けてかなりの裏金を積んでた噂、会場へ来る途中で事故死した娘が居るとか居ないという噂等々。
「真夏ちゃん……そんな世界で頑張ってるんだね……」
 鈴花がぽつりとつぶやいた。
「まあ、あの娘も女優としては立派だから大丈夫だと思うけどねえ。即興であたしのアクションに合わせてきたくらいだからね」
 鈴花を気遣ったのかどうか分からないが、サイデルが言った。
「草間さん、犯人は何て?」
 世羅が草間に尋ねた。
「バニライムが面白くないからやったんだそうだ。だが供述に曖昧な点が多いらしく、本当かどうか分からんがな。それにだ、この間のストーカーの件あるだろう?」
「ああ、あったねえ。あたしが居た時だ」
 サイデルが頷いた。
「何故かこれに関しては、きっぱりと否認しているらしい」
「はあ? なら、他に誰か居るって訳かい?」
「かもしれん」
 草間が溜息を吐いた。
「誰かじゃなく……」
 秋津遼のつぶやきに、皆の視線が集中した。
「……『何か』だったりしてね」

【狙われたロケ 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名(読み) / 性別 / 年齢 / 職業】
【 0164 / 斎・悠也(いつき・ゆうや) / 男 / 21 / 大学生・バイトでホスト 】
【 0258 / 秋津・遼(あきつ・りょう) / 女 / 20前後? / 何でも屋 】
【 0140 / 世羅・フロウライト(せら・ふろうらいと) / 男 / 14 / 留学生 】
【 0142 / 王・鈴花(うぉん・りんふぁ) / 女 / 9 / 小学生(留学生)。たまに占い師 】
【 0024 / サイデル・ウェルヴァ(さいでる・うぇるう゛ぁ) / 女 / 24 / 女優 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で、NPCを姓で表記するようにしていますが、一部例外もあります。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全14場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の依頼は『小さな女優』『エキストラ、求む』に続く『バニライム』シリーズの第3回でした。今回の事件の犯人は無事逮捕されましたが、何やらまだすっきりしない様子。という訳で、このシリーズは後1回続きます。
・今回は大きくスタッフ側と出演者側の視点に分かれています。人数的にちょうどいいバランスだったのではないかと思いました。
・斎悠也さん、4度目のご参加ありがとうございます。読みは鋭いと思いました。特撮といえば、そうですからね。発破関係をもう少し突っ込んでいたら、また展開が変わっていたかもしれません。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。