コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


10都市物語「秋葉原」〜寒氷陣〜

<オープニング>

「この頃秋葉原で凍死する人が出てるの知ってる?それも10人よ。
場所は電気街のようね。多くの電化製品が安く置かれている人気スポットよね。
怪しいブツとかも手に入るんでアタシもたまに・・・ってそんな話じゃないわね。
凍死と言ったって都会のど真ん中。路上で眠ったってそう簡単に死なないわ。
なのに突然ショッピングを楽しんでいる最中に突然氷付けになってしまうそうよ。
ネットで書き込みも急激に増えてきたわ。
ねぇ、これってあの人たちの関係する事件じゃないかしら。
調べてきて貰える?
寒い中もっと寒いところにいってもらうのは気が引けるけど・・・。
どうにかできるの貴方たちしかいないと思うの」

(ライターより)

どうやら一聖九君の一人が秋葉原で事件を引き起こしているようです。氷付けになった人は一瞬で凍らされているようですので、幾ら防寒着を着たり懐炉を用意しても無駄のようです。ちなみに凍らせられる場所は特に決まっていません。いきなり凍らされてしまうようです。初参加の方でもまったく問題ありませんので、お気軽にご参加ください。戦闘が主体となりますので戦闘力がない方はつらいことになるかもしれません。
一聖九君についてお知りになりたい方は、ベルゼブブの過去の依頼を参考になさってみてください。
ではご参加お待ちいたします。

<電気街>

東京秋葉原。電化製品のメッカとでも呼べそうなこの場所はあらゆる電化器具が安価で手に入る。大小様様な店が軒を連ね、大型店では最新型の電子機器が他店と競う合うように値下げされ売られている。地下や大型店の隅などにひっそりと営業している店の中には、盗聴器や法的に問題のあるものが平然と売られているところもあるという。渋谷、新宿、池袋など東京の主要都市からも近く、良くも悪くも人が賑わう条件を兼ね備えたこの街は、しかし今恐怖に包まれている。突然店の中や駅で人が氷づけになり凍死するという事件が多発しているのだ。幾ら真冬とは言え、東京の、それも人の活気に溢れた街で凍死する人間が現れるとは考えにくい。夜間に路上で寝ていてというのであればまだ話がわかるのだが、事件が起きるのは主に日中。自然現象とは考えられない。いかに魅力的な街でも自分の命が危険に晒されるとすれば自然に足も遠のく。命あってのモノダネ、秋葉原の街は休日だというのに閑散としている。
そんな街を黒一色の服でコーディネイトした女性が颯爽と歩いていた。服よりもなお暗い夜の闇をそのまま形にしたような漆黒の髪。薄化粧で僅かに口紅をさしただけだが、その紅蓮の唇は豪奢に咲き誇る赤薔薇のごとく艶やか。豊満で肉感的な魅力を感じさせるボディライン。サングラスに隠されているが、紅玉を模したかのような至宝の瞳は興味深々といった感じで輝いている。
だが、彼女の真の魅力はそのような肉体的なものではない。体全体からにじみ出る、高貴で人を魅了してやまない気とでもいうのであろうかその雰囲気である。最高の貴腐葡萄を最高の蔵で100年以上熟成させた貴腐ワイン。そのような言い方でしか言い表せない芳醇で熟成された雰囲気をもつ女性。それが六世紀に渡りこの世に存在し続ける吸血鬼秋津遼である。
数多の人間の血液を啜り、その美しさを保ってきた肌は透けるように白い。だがそれは、病的というのとはほど遠く活力に満ち溢れた輝きと弾力を誇る。
彼女はこの街が好きだった。この街に限らず東京という都市自体が好みにあてはまる。吸血鬼の最大の天敵とは十字架でもにんにくでもなく、ましてや教会の神父でもない。
退屈である。
人間に極めて近い精神構造をもっている吸血鬼にとって、数百年を生きるということは退屈との戦いでもある。時間が無限にあるため、急ぐ必要がない吸血鬼には年月は緩慢に過ぎる。あまりに退屈過ぎて眠りについてしまった吸血鬼もいるくらいだ。
その点、この東京という都市は発展しすぎた都市特有の、爛熟しきった果実が放つような精神的な腐臭、退廃や堕落がはびこっている。守るべき道徳や秩序を捨て去り欲望に忠実に生きる人間が作り出す文化。それは古代ローマにも見られた緩慢な滅びの文化である。
刹那的な快楽に身をゆだねる人間を見て、触れて、触ることは非常に面白い。欧米に比べ、神や絶対者を信じる行為、信仰の度合いが低い日本という土壌は、その堕落の度合いをさらに高
めている。あらゆる意味で秋津の気に入る条件がそろっている場所、魔都東京。その場所で現在さらに興味を引く事件が起こっている。
秋津が動かないはずがなかった。
こそこそ隠れて人を氷づけにするもの。小賢しく不愉快な存在だがどんな姿形能力があるのか興味はある。別に出会ったからどうするつもりはないが、氷づけになった人間を見てみたい気もする。美形なら自宅のオブジェとして飾ってもいいし、趣味に合わなければ僕にしてこき使うのもいい。いきなり死体が動きだしたらさぞ人間は驚くだろう。氷を溶かして傀儡にするのも面白い。暇つぶしには丁度いいアトラクションだ。
お気に入りの玩具を探しに行く子供のように、気分を弾ませて秋葉原の電気街を歩く彼女の前に一人の男が立っていた。漆黒の髪に漆黒の瞳と日本人的特長をもった長身の青年。その瞳は黒曜石のごとき輝きを宿し強い意志を感じさせる。体つきは無駄な肉は一片もなく引き締まり、肉食獣のごとき精悍さを
もっている。武道で鍛えていると思われるその身のこなしはまるで隙がない。
だが何よりも特徴的なのは彼の身に宿るその霊力であろう。激しい濁流のごとき激しさと冷たさを感じさせる力。陰陽師として修行を積んだ者のみが持てる強烈なる退魔力。陰陽師の名家出身の久我直親である。
久我は目の前にいる女、秋津からただなるぬ妖力を感じ身構える。
「貴様、何者だ・・・?」
一方の秋津も久我の手に握られている符を見て顔を顰めた。
「陰陽師・・・」
秋津は陰陽師との付き合いが長い。その付き合いとは敵対関係でだが。500年の昔、今の東京と同じように政治や戦で乱れし都京都で思うがままに血を啜っていた彼女を撃退したのが陰陽師である。陰陽師は天皇や有力貴族など権力者に雇われ、病気の快癒や敵の調伏を行っていた。特に天皇家に使える陰陽師は生え抜きのエリートで、都を騒がす妖魔を征伐する役目を担っていた。都を騒がしていた秋津は陰陽師に手酷い歓迎を受けて命からがら逃げ延びた経歴がある。
結界や式神、その他様様な術で妖しのものたちから人々を守る陰陽師。退廃と堕落をこのみ、欲望のままに生きる吸血鬼。二人は生来の敵とでもいうような仲なのである。秋津にとっては大望の華を汚す害虫のような存在であり、久我にとって人々に害なす邪なる存在と捕らえている。
秋津は思わぬところで陰陽師に会ったことに不愉快さと同時に面白さも感じていた。今の彼女は撃退されたころとは違う。魔力も知識も段違いである。別に脅威ではない。むしろ遊び相手に丁度いいかもしれない。
「こんなところで陰陽師に出会えるとはね。とうに絶滅しているかと思っていたけど」
「貴様、妖しの者だな。それもとびきり上等の・・・」
秋津から感じる妖気は凄まじく、相対しているだけでもかなりのプレッシャーを感じる。一聖九君の一人と戦う前にこんな相手と出会うとは・・・。久我は運命の悪戯を呪った。
「そう、アタシは妖魔。吸血鬼だよ。で、どうするの陰陽師クン?ここで戦端を開く?」
秋津は楽しそうに尋ねる。実際、彼女は事件を解決するつもりなどなく楽しめればよしという感じで依頼を受けたにすぎない。今回は物見遊山と洒落こもうと思っていたくらいだ。だからここで久我と戦ってもまったく問題はないのである。要は暇つぶしができればいい。
「・・・・・・・・・」
久我は呪符を構えたまま動かない。いや動けないのだ。不用意に動けばこちらの方がやられてしまう。それに幾ら閑散としているとはいえ、場所は秋葉原の電気街。誰が見ているか分からない。秋津と本気で戦えば街に相当な被害が出る。調査どころの騒ぎではなくなってしまうだろう。
「ふふふ。冗談だよ。例の氷づけの依頼を受けたんでしょ。調査が先だよね」
クスクスと笑いながら、秋津はホントは陰陽師の僕なんてのも洒落てていいんだけどねと心の中でつぶやいた。久我は半信半疑ながらもひとまず緊張を解いた。
「貴様、何を企んでいる?」
「別に。私は単なる見物人だから気にしなくていいよ。せいぜい頑張ることだね陰陽師クン」
久我に背を向けて秋津は歩み去って行く。今のところこの陰陽師は泳がせておいたほうがいいと判断したためだ。うまくいけば氷使いが餌に食いつくかもしれない。それに楽しみはとっておいたほうがいい。彼とはいつでも遊べる。
やがて小さくなっていく秋津の姿に久我は「道化がっ」と吐き捨てるのだった。

<図書整理>

あたりかまわず置かれた夥しい数の書物。本棚には西洋東洋問わずあらゆるジャンルの本が納められている。換気をしていないのか若干かび臭い。まるで図書館と見まごうようなその場所は、実は個人の家兼事務所であるとは誰も思うまい。主のやる気がなくだらしがないという性格が見事に反映されたこの事務所は、客からの依頼を受けて様様な調査を請け負う。しかしその依頼とは普通の探偵事務所が請け負うような人探しや浮気調査ではない。人外の存在が干渉している超常現象や妖しのものを狩る退魔などである。だが、前述したようにこの事務所の主はとにかくやる気がない。活字中毒者で、常に新聞や本を読み漁っているだけの毎日を送っている。そんな状態なので当然事務所の運営は火の車である。
顔を怒りで真っ赤にした青年が主に詰め寄っていた。
「千白さん!今日はこの仕事をしてもらいますよ!面倒くさいなんていわせませんからね!!」
青年の名は各務高柄。この事務所の主の従弟にして相棒である。事務所の事務的な手続きなどは全て彼が行っている。そして、この事務所の主は・・・・
「何をそんなに怒っているんだい、高柄。先日だって依頼をこなしたじゃないか。この頃のあたしはまじめに仕事をしているよ。そんなにしゃかりきに働かなくてもいいじゃないか・・・。」
鷲見千白。だらしなく着こなしたよれよれの男物のスーツ。手入れのされていないやや長めの髪。ぼんやりとした顔付きにとろんとした黒い瞳。服装や化粧などお洒落に気を遣えばそれなりに映える均整のとれた体つきと顔つきをしているのだが、生憎彼女にそんなつもりはない。腕利きの陰陽師であるが、生来のやる気のなさから舞い込んだ依頼もほとんどを断ってしまう。この頃は彼女の言葉どおり、幾分依頼を受け始めるようになってはいるが。
「何言ってるんですか。確かにこの頃ちょっとは依頼を受けてくれるようになりましたけど、そんなのは微々たるものです。今までさぼりにさぼったツケが借金として溜まっているんです。これから死に物狂いで働いて返さないと借金が増える一方ですよ」
「え〜。これ氷づけの依頼でしょ。嫌だなぁ。この寒いのにもっと寒い場所に行かなくてはいけないのかい?めんどくさいなぁ・・・風邪なんか引きたくないし・・・」
いつもこの調子である。何かと理由をつけては依頼を断ってしまう。とにかくやる気がない。ここまでやる気がないと一種芸術的ですらある。だが、各務はこれくらいで引くつもりはなかった。
「そーですか。どーしてもやる気はないというのですね。じゃあこちらにも考えがあります」
「どんな考えだい?高柄」
面白そうな顔で見つめる鷲見に、各務は徐に携帯電話を取り出した。そしてあるところにかけ始める。
「あ、BOOKSHOPですか。こちらは鷲見探偵事務所なんですけど本の買取をお願いできませんか?」
「ま、まさか高柄・・・」
鷲見の頬を冷や汗がつたった。とてつもなく嫌な予感がしたのだ。そしてその予感は見事に的中する。
「ええ、1000冊ほど買い取ってほしいんです。車3台ほどで来ていただけませんか。結構値打ちものの古書なんかもありますよ」
1000冊とはこの事務所に置かれている本の半分ほどである。各務は伝家の宝刀古本売りをしようとしているのだ。活字中毒者鷲見にとってこのことは非常に恐ろしいことである。さらに事務所においてある本の中には絶版になり二度と手に入らない貴重な本も存在する。このままでは各務は容赦なくそれらを売り払うだろう。
「き、汚いぞ高柄!大体この本は私のものでしょうが」
「何が汚いもんですか。本の整理はめんどくさいから私に任せると言ったのはどこのどなたでしたったけ?」
「それこれとは話が別・・・!」
「大体本棚のスペースが半分以上を占めている事務所自体が異常なんです。この際整理してしまいましょう。あ、来て頂けますか。え〜住所ですが・・・」
わざと大声でゆっくりと電話に話す各務。鷲見は覚悟を決めるしかなかった。
「分かった、分かったってば。受けますよ、喜んで受けますとも。これでいいんでしょ!」
「そうですか。いや〜助かりましたよ。じゃあ早速秋葉原に行って下さいね。申し訳ありません。ちょっと事情が変わりまて今の話キャンセルにさせていただけますか。よろしいですか。すいませんね〜」
各務はしてやったりという顔で本屋にキャンセルの旨を伝える。めんどくさがりの鷲見は、各務に事務所の処理を一任していることを悔やんだ。面倒でも本の整理くらいは自分でやっておくべきだった。だか後の政である。
「すぐに行けるわけないじゃないか。色々準備しなくちゃいけないでしょ。突っ立ってないで手伝いなよ高柄」
ようやくやる気を出した鷲見を見て、各務は苦笑するのだった。

<リベンジ>

休日の昼だというのに秋葉原の町は閑散としていた。件の氷づけ事件の性である。大手の電化製品店などはそれでも開店していたが、店員の数も少なく彼らの顔は一様に不安の色で染まっていた。
そんな店内を長身の、鋭い目つきで見回す男がいた。黒いコートに黒のズボン。コートの下に来たタートルネックやマフラーまで見事なまでに黒一色で服装を統一している。だが、手など服から露出する部分には白い包帯が痛々しく巻かれている。男の足取りも心なしか重い。一聖九君が関わっていると知り、いってもたってもいられず調査に出た紫月夾である。以前の上野の事件で手酷くダメージを受け、現在自宅で療養中だったのだが一聖九君が関わっている以上見逃すことはできない。今回は上野で現れた王天君とは違う者が関わっていると思われるが、一切関与してないともいえない。もしかすると王天君や、協力していると思われる魎華や不人に関する糸口がつかめるかもしれない。不可視の空間から攻撃する手口は王天君を除く一聖九君に共通する手口である。氷づけにするというところから、紫月は今回
の敵が袁天君ではないかと考えていた。
「奴らの形跡だけでもつかまないとな・・・」
前回の上野の事件が脳裏に浮かぶ。攻撃が通じず、なすがままに翻弄された自分。今度は遅れをとるわけにはいかない。包帯に包まれた手をきつく握り締める紫月。その肩にポンと手が置かれた。
「そう気負うな。病み上がりだろう」
「お前は・・・」
肩をたたいたのは久我だった。店に入る紫月を見つけて後を追ってきたのだ。彼は紫月が以前の依頼で怪我を負っていた事を案じていた。
「こんな体で戦うつもりか?無茶だな・・・。立っているのもつらいだろう」
「貴様に言われる筋合いはない」
武道を修めている久我は、ある程度動きを見ることでその人間の調子くらいは分かる。平然と動いているように見えるが、紫月はかなりの痛みを堪えている。幼少の頃より暗殺術を叩き込まれているため、痛みに関する耐久力は常人とは比べ物にならない紫月だが、やはり全身におった酸の火傷はつらいのだろう。動きが普段に比べて鈍い。
「そうは言ってもねぇ、あの傷はちょっとやそっとじゃ直るシロモノじゃないだろう」
何時の間にか二人の近くに来ていた鷲見が声をかけた。準備を完了し(やるきがないのでほとんど各務に任せた)、今さっき秋葉原に到着したのである。彼女は上野の戦いに立ち会っていたので、紫月のダメージがどれほどのものか分かっている。
「貴様らには関係のないことだ」
「確かにそうなんだけど、下手に戦って殺されでもしたら目覚めが悪いからね。一応忠告しに来たんだよ。静かに休んでなさいって」
「敵はそう生易しい相手じゃない。今回は足手まといになる前に帰るべきだな」
「ふん」
紫月は鼻を鳴らしただけで何も答えなかった。帰る様子が見られないところから恐らく調査を続行するのであろう。鷲見と久我はため息をついた。
そこへ。
「下らない会話はそれで終わりですか?」
三人の耳に聞きなれない声が聞こえてきた。店の中には他に客もおらず、店員も近くにはいない。ということは・・・。
「一聖九君か!」
「いかにも。私は一聖九君が一人袁天君。王天君が言ったとおり、邪魔者が来たようですね」
「王天君だと!」
王天君の名前を聞いて紫月は気色ばんだ。
「なぜ俺達が邪魔者だと分かる?」
「この閑散とした街で、魔力に溢れた人間が三人もいれば嫌でも気が付きますよ。さて、では私の空間寒氷陣にご招待させていただきましょうか」
三人の周りの空間が歪み始めた。異空間への移動である。時空が捩れ、曲がりそして闇に包まれる。その闇が晴れたとき・・・世界は極寒の地へと変化していた。さきほどまで置かれていたパソコンなど電化製品は店ごと全て無くなり辺りは一面氷につつまれている。さらに吹雪が巻き起こっているため手足がかじかみ真っ赤になる。
そんな空間で一人平然と立っている青年がいた。蒼い、蒼穹の空を表した髪に、アクアマリンのごとき冷たく青い色をたたえた瞳。細身の体を包みしは蒼い軍服。感情というものが欠落したかのようなその顔は氷の彫像のよう。この異空間寒氷陣の主袁天君である。
「ようこそ、氷の空間へ」

<寒氷陣>

「寒氷陣の主袁天君か・・・」
久我は懐から呪符を取り出しつぶやく。鷲見は火の守護神である朱雀を模した式神を召喚し、紫月は10本の鋼糸を用意した。
「では、短い間でしたけどさようなら」
袁天君が手をかざすと陣に吹き荒れる吹雪が強まり、猛吹雪が巻き起こる。小さな氷が鋭い刃となって3人に襲い掛かった。
「西の守護者にして火を司りし猛き鳥、朱鳥よ!」
鷲見は式神に命じ、猛吹雪の中に突入させる。朱鳥は激しい焔を巻き上げ袁天君に放った猛吹雪と衝突した。朱鳥と吹雪はお互いに水蒸気を上げ消滅した。
「氷河烈刃」
己の術が打ち消されたことに微塵も動じず、袁天君は術は放った。3人の足元から、氷の大地が隆起し貫こうとする。
「やらせん!」
これには紫月が鋼糸で対抗した。10本の指から放たれた10本の鋼糸はそれ自体が意思をもつかのごとく自在に動き、隆起した氷河を切り裂き、あるいは打ち砕いた。
「烈火符!」
陰陽五行火の呪文が書かれた符が久我の手から解き放たれた。符は業火の矢となり袁天君目掛けて突き進む。
「氷壁防除」
袁天君の周りに硝子のような氷壁が張り巡らされ、火炎の矢を全て防ぐ。
戦闘は五分五分のままこう着状態に陥った。弱点と思われる火炎で攻撃しようにも、あたりに吹雪が巻き起こっているため威力が削がれてしまう。紫月の鋼糸は厚い氷の壁を相手にするのはいささかつらい。
その時、久我の影から声が聞こえてきた。
「ねぇ、何をいつまで遊んでいるんだい?いい加減飽きちゃったよ」
久我はその声に聞き覚えがあった。ついさっき聞いたあの女の声。
「吸血鬼か!どこにいる!?」
「ここ、君の影」
久我の影が歪み、その中から影と同じ色をした服を纏った女が現われる。秋津である。分かれたふりをしてひっそり影の中に身を隠していたのだ。
「もう一人いましたか。ですが何人増えようと同じこと。この寒氷陣では私に攻撃を与えることなどできはしません。吹雪に飲まれ凍るがいいでしょう」
「その程度の氷で何をいきがっているんだい?下らないね。自慢するならこれくらいの芸は見せてもらわなきゃ」
秋津が呪を唱え始めた。それは暗く低く邪な響きをもって陣に轟く。
「冥府の火 神に背を向け 悪逆を尽くしし者を焼く地獄の業火 そは永劫に燃えつづけ 全てを灰燼に帰せしめる 我が名は冥王の烙印となり 汝に命ず 業火を持ちて愚かなる者に裁きを与えん」
呪は完成した。
闇よりなお暗き暗黒の火。魔も人も全てを焼き尽くす煉獄の火炎が袁天君を包み込む。
「ば、馬鹿な!こ、こんな火が人に扱えるわけ・・・!!!」
黒き火の前に氷壁はまさしく紙の壁も同じだった。壁は一瞬にして消滅し袁天君も悲鳴を上げる間もなく消し炭となった。
「信じられん・・・」
紫月は呆然としてつぶやいた。自分たちの攻撃が通用しなかった相手を一瞬にして焼き尽くしたのだ。袁天君の言葉ではないが、人に扱える魔法とは思えない。
「吸血鬼が相手では分が悪かったわね・・・」
何時の間にか現われた金髪の女は、炭化した袁天君を見つめていた。金色の波うつ髪。サファイアの輝きを秘めた瞳。抜群のプロポーションを誇り肉感的な魅力を感じさせるボディライン。真紅のタイトミニをはいたその姿は、秋津以外の全員が見知っていたものだった。
「「「魎華!」」」
3人の声がハモった。一聖九君や不人たちと度々行動をともにしている謎の女。その目的は不明で、協力関係にあると思われる一聖九君も不要とみなせば殺してしまうなど不可解な行動が多い。
久我は彼女に疑問に思っていたことを尋ねてみた。
「一聖九君は何が目的で動いているんだ。こいつらの行動はまるで衝動的で何の計画性も見られない」
彼の言葉どおり、何かしら遠大な目的をもって動いている不人や魎華に比べ、一聖九君の行動は衝動的というよりも刹那的で目的をもって行動していると思えない。秋津のように面白いからという理由だけで動いているとしか思えない。
魎華は平然と答えた。
「単なるテストよ。兵器としてのね」
「兵器だと?」
「それ以上は答える義務はないわね。歓迎されていないみたいだし私はこれで失礼するわ」
魎華はスッとかききえ、寒氷陣も崩れ始める。空間が歪み戻った先は先ほどの電化製品店。
「何が目的なんだろうねぇ・・・」
鷲見の言葉に答えられるものはいなかった。

□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0258/秋津・遼/女/567/何でも屋
0054/紫月・夾/男/24/大学生
0095/久我・直親/男/27/陰陽師
0229/鷲見・千白/女/28/(やる気のない)陰陽師

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

お待たせいたしました。
10都市物語「秋葉原」〜寒氷陣〜はいかがだったでしょうか?
今回は登場人物の描写に重点をおいてみました。
調査というよりは戦闘が主体に置かれた依頼でしたが、戦闘力の高い方がそろっていたため比較的苦戦せずに袁天君を倒すことができました。勢いあまって殺してしまいましたが(笑)
おめでとうございます。
また魎華の台詞の中に、これからのストーリーの進み具合を知る上で重要なキーワードが隠されています。果たしてそれはなんでしょうか。
謎をはらんだまま、次回へと続きます。
興味がおありの方はまたご参加ください。お待ちしております。

鷲見様

ご注文のとおり、各務様とご自分の呼び方を変更しておきました。お二人のやり取りは書かせていただけて楽しいので、また機会があれば書かせていただきたいと思います。