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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


サンシャイン60〜無実〜

<オープニング>

「毎度毎度ながら妙な依頼が入ったもんだ・・・」
草間武彦はそう言ってパソコンを指し示した。
そこには、一通のメールが開かれている。
内容はごく簡単に3行。

巣鴨プリズンで無実の叫びが響き渡る。
闇の帳が下りる頃、
白き使者が訪れ、
その無念を晴らし、開放する。
阻止されたし。

「このメールが届いた同日、俺の口座に匿名での振込みがされていた、恐らくこれを調べろというだろうけど・・・。巣鴨プリズンってどこだ?」

(ライターより)
久しぶりの死霊シリーズです。
草間は分かっていないようですが敵と場所はおわかりになりますよね?
初参加の方はベルゼブブの依頼を一度目を通されることをお薦めします。特に白き使者が分からないとツライと思われますので。勿論、今まで参加されていなくても全然問題はありません。
戦闘と調査、半々の割合になるかと思われます。ちなみにこの場所は夜閉められてしまい、警備員もいますのでうまくもぐりこまないと依頼失敗になる危険性をはらんでいます。慎重な行動が肝心です。
それでは皆様のご参加をお待ちしております。

<サンシャイン60>

池袋サンシャイン60。池袋駅すぐ近くにある巨大なビル。戦後日本の復興の象徴となったこのビルが、実は第二次世界大戦の戦犯が収容され、処刑された場所巣鴨プリズンであったことを知るものは少なくなっている。
当時の戦犯処理では、GHQの不当な取り調べと裁判により多くの無実の人間が裁かれたという。現在でも死にきれぬ戦犯処刑者たちの無念の声が響き渡る呪われた地でもある。
匿名のメールでこの地に白き使者不人が現れるという情報が草間興信所にもたらされ、9人の男女がこの依頼を引き受けていた。謎の男不人。数人の術師を軽くあしらい失伝された魔法すら使いこなす死人使い。彼は恐らくこのサンシャイン60、いや巣鴨プリズンの死人を解放するに違いない。どう考えた彼らはサンシャイン前に集合していた。

「な、なんで俺が動物に化けるんだよ!?」
「貴様の状況判断の乏しさが招いた事だ。諦めるだな」
学ランを着た少年直弘榎真が、黒ずくめの服装をした男紫月夾に抗議をしていた。いつものやり取りに他の人間は苦笑する。
「まぁ、そのほうが動きやすいからねぇ・・・」
「冗談!俺はこのまま行くぜ」
「君、天狗なんでしょう。コンパクトになっていたほうがいざという時に対処しやすいじゃないか」
相変わらずヨレヨレのシャツに、ゆるんだネクタイというだらしない格好でいる鷲見千白はそう言ってクスクス笑った。
「万が一の時は連絡に行けるよう鳥なんかがいいかもね。そうだ、持ち運びに便利なヒヨコなんてどうだい?」
「ヒ、ヒヨコだぁ〜!?」
「ふん、ヒョッコだからヒヨコか・・・。お似合いだな」
「夾、てめぇ!」
彼ら3人は大声で口論し始めたため目立った。他の者はさりげなく彼らから離れて相談をする。
「思うんだが、俺は手始めにサンシャインビル隣の東池袋公園の石碑を調べるべきだと思うんだ。刑が執行されたというしな」
長身の青年、陰陽師である久我直親の言葉に、巫女である天薙撫子が頷く。名前のとおり、撫子の花を連想させる楚々とした和服姿の女性である。現在は大学に通いながら巫女の修行をしている。
「同感です。皆さんのお話を聞いて、その不人とやらは死者を開放すると称して慰霊碑や墓を破壊しているとのことですから・・・」
「うちはサンシャインに先行させてもらうわ。こっちの方が不人が出る可能性が高そうだから」
天薙と意見を異としたのは、唐傘を持った着物姿の妙齢の女性であった。骨董屋を営む美人女将当麻すずである。天薙とは違う大人の女性の魅力をもつ女性である。見た目は20代前半程度の彼女が、実は四半世紀を生きているなどとは誰も思うまい。疫病神と人間の間に生まれたと言う珍しい境遇が、彼女に不死性を与えた。四半世紀の間に得た経験と知識は彼女の人生に深みを与え、えもいわれぬ雰囲気を醸し出している。
「そういえば珪くんはどうしたの?姿が見えないけど・・・」
豊満な肉体をさらに強調したような、胸元が大きく開いた黒いシャツにタイトミニという服装の保健教師不知火響が久我に尋ねた。久我の弟子である九夏珪は、今回参加しているもう一人の陰陽師同様に彼女のお気に入りである。
「奴には例のメールを送ってきた者を探すように言った。陰陽師としてはまだ未熟だが、パソコンの技術は中々のものだからな」
「あら、残念。久しぶりに会おうと思ったのに・・・。まぁいいわ。不人でも見て目の保養でもさせてもらおうかしらね」
不人の整った顔立ちを思い浮かべてクスリと笑う不知火。不人の名を聞いて顔を顰めたのは、そのもう一人のお気に入りの陰陽師。
「いい気なもんだな。奴はそんなに甘ったるい相手じゃないぞ」
整った顔立ちの、直弘と同じくらいの年齢の少年が不知火に言った。雨宮薫である。
(俺を玩具だと・・・。ふざけたことを!)
彼は不人の事を思い出しその手を強く握り締める。陰陽師の名家天宮家の次期当主である自分が味わった屈辱。使う術は全て打ち消され、八王子では不覚にも背後をとられた。何度となく苦渋を舐めさせた男不人。己の矜持に賭けて奴を倒さなくてはいけない。
「無理かどうか…やってみなければ分からない…そうだろう?不人」
サンシャインを睨む彼の視線には、哄笑をあげる不人の顔が見えているのだろう。彼の後ろでは鷲見たち三人が未だに口論していた・・・。

<事前準備>

サンシャインビル隣の東池袋公園。ここには巣鴨プリズンで処刑された戦犯たちを慰める慰霊の石碑がある。死者を開放しようとする不人の手口は、大抵、慰霊碑や石碑を破壊することで抑えられていた霊を暴走させる形で開放するというものだ。今回のサンシャインの件もその手口を使うかもしれない。そう思い、こちらの調査を優先させたのは5人。紫月、久我、天薙、雨宮、不知火という面子である。陰陽師や巫女など霊に対する攻撃力が高いものが多く揃っている。
どうやらまだ石碑などは破壊されていないようで、時間帯も昼間ということで周りには憩いの一時を送るため一般人の姿がちらほら見える。
「今、儀式を行うのは無理だな・・・」
久我は幾分気落ちした声で言った。彼が考えていた作戦は石碑のダミーを用意し、石碑と慰霊碑を利用して霊を召喚、多数の依代を用意し憑依させるというものだった。だが、今この場でそんな事を行えばパニックを引き起こしかねない。
「夜まで待つしかないだろう」
紫月の言葉に4人は頷くのだった。

一方、サンシャイン内部を優先的に調査することにしたのは鷲見、直弘、当麻の3人。こちらは身軽に動ける機動力が売りだ。
彼らはサンシャイン内部を調査してみたが、現在のところ特に異常はなかった。不人が行動を起こすのはやはり霊の動きが活発になる深夜だろう。
「じゃあ、うちらはどこかに隠れていようか・・・」
当麻は、周りをキョロキョロ眺めながらつぶやいた。どこから不人が出現するのか分からない以上、適当な場所を決めて営業時間が終わるまで潜んでいるしかない。ただし警備員がいるため、彼らには見つからないようにしなくてはならない。
「どこかに見つかりにくい場所とかはないかしら?」
「別に見つかっても大丈夫だよ。これ用意していきたから」
そう言って鷲見が取り出したのは、容器に入れられた黒い液体だった。べっとりとした感じでかなり硬いクリームのように見える。
「それ、何?」
「眠りの香。これの香りを嗅いだ者は数時間はぐっすり眠ってしまう。どんな音がしようと叩かれようと起きはしない。もっとも私たちもこれを嗅いだら眠くなってしまうから、ハンカチで鼻を押さえとかないとまずいけどね」
「なるほど」
香を見て関心したように頷く当麻。鷲見はちらりと直弘に視線を送った。
「さてと、そろそろ日没になる頃だね・・・。分かってるよね」
「分〜てるよ。なりゃいいんだろ、なりゃ」
直弘は不貞腐れたようにそっぽを向く。結局数の暴力に押し切られヒヨコに化けて鷲見のポケットの中で待機することになったのだ。
「じゃあ、姿を変えてくるから待っててくれ」
今よりはるかに小さな姿に化けるため、服を着ているわけにはいかない。トイレで変身した後で鷲見が服と一緒に回収している手はずになっている。男物のスーツを着ているのでわずかな時間なら怪しまれないだろう。
「あ、そうだ忘れてた」
直弘がゴソゴソとバックを漁って取り出したのは鉢植えのサボテンだった。紅蓮の花が豪奢に咲き誇るケファロフィルム・レッドスパイクである。プレゼント用に綺麗にラッピングされている。直弘は鷲見にそれを差し出す。
「これさ・・・夾に渡しておいてくんない?」
「ん?見舞いかい。自分で渡したら?」
「それができないから頼んでるんだろ!」
プイと頬を赤くして顔をそむける直弘。そんな自分に照れ屋な弟分に苦笑しながら、鷲見はサボテンを受け取った。
「はいはい、分かったよ。さっさと変身しておいで」
そこに居るのも気恥ずかしいのか、鷲見に促された直弘は足早にその場を去った。事情が分からない当麻はサボテンを見て首を傾げた。
「夾ってあの無愛想な奴でしょう?見舞いって何かあったわけ?」
「色々事情があるんだよ。色々とね・・・」
落日の夕日を見ながら鷲見はそうつぶやくのだった。

<ブービートラップ>

日が暮れて、東池袋公園は閑散としていた。若いアベックがちらほらと見えるが気になるほどの数ではない。今なら儀式を行うことができるだろう。
「よしとりかかるぞ」
久我の言葉に雨宮が頷いた。呪符を取り出し儀式の取り掛かる二人。
「待ってください!」
二人を制止したのは天薙だった。
「なんだ。今忙しいんだ。不人が現われる前に準備を整えておかなくてはならん」
「おかしいんです。なんていうか不浄なものの気配というがすごく濃厚で・・・。それもこの土地全体に。先ほどまで感じなかったのに・・・」
幼き頃から霊を見たり感じたりする能力に恵まれ、巫女として修行を積んだ彼女がいち早く察知した気配。それは形となって現われた。
黄色い霧が辺りをゆっくりと包み出したのだ。自然界に発生することの無い不気味な黄色い霧。紫月はこの霧を見てほぞを噛んだ。
「不浄骸霧!くそ、もう現われたのか」
不浄骸霧。生なる気を抑え、不浄なる負の気を活発化させる呪われし霧。術に抵抗力の無い人間はあまりの負の気に、その場に留まることすらできなくなる。不人が不死者を召喚する時に用いる常套手段だ。
「まさかこうも上手くいくとはねぇ。罠は張ってみるものだ」
「「「「不人!!!!」」」」
天薙以外の4人の口から同時に呼ばれた本人は、ゆったりとした動作で石碑の影から現われる。
「貴様!どこに隠れていた!?」
「どこに隠れていたもなにもずっとここにいたよ。君たちが来る前からね」
「なんだと!」
「不人!貴様の相手はこの俺だ!」
不人の姿を見るなり、雨宮が退魔刀で切りかかり、紫月が鋼糸を放つ。退魔刀が不人を切り裂き、鋼糸が不人の喉元を貫いた。
「やった!?」
「いや、倒していない!幻影だ!」
退魔刀で切られた不人の傷口を見た雨宮が、歯軋りしながら答えた。切られた部分から血が噴出すどころか、何もない空間のみが残されていたからだ。
「この石碑を破壊に来たんじゃないのか!?」
久我が疑問に思った事を口にした。幻影では破壊活動は行えないからだ。
「残念ながら違う。ここは殺されてから比較的年月が経っていない連中が多い。故にそんなに気持ちが収まってもいないのさ。破壊するまでもなく巣鴨の連中は私の配下になっている」
「だが、この地はたくさんの人々が集まり、慰霊もなされているはず!」
久我が信じられないといった顔で叫ぶと、不人が哄笑を上げる。
「相変わらず愚かだね、君たちは。以前私が何のために首塚に赴いたと思っていたんだい?」
「首塚・・・?まさか!」
かつて不人は大井町の平将門の首塚で、東京の大地から生気を吸い上げ将門に与えていた。
「そう、そのまさかさ。地上の気とはすなわち生命の気。それを吸い上げることで大地そのものの気の流れを不安定化させることこそがあの計画の狙いだ。そしてそれは達成された。君たちが邪魔をしてくれたお陰で将門は復活しなかったが、まぁ、あれはおまけだからね。大した問題ではなかった」
「一体何が目的でそんなことを!」
天薙が怒りの目で睨みつけ問いただす。巫女として神に仕える彼女としては死者や生気を弄ぶ不人の行為は許し難い。そんな彼女を見て不人は口を歪ませた。
「活きがいいな・・・。だが今はそんなことより自分達が置かれた立場を自覚したほうが身のためだよ」
不人が指を鳴らすと、公園の至るところで土が盛り上がり骸骨たちが這い出てきた。不人が好んで使役する死霊傀儡である。だがそれだけではない。がちゃりがちゃりと不気味な音を立てて、何かが近づいてくる。5人が目をこらして見るとそれは何十人もの鎧武者であった。真新しい武者鎧が刀や槍を手にこちらに迫ってくる。なによりもその鎧武者が不気味なのは、中に何も入っていないことである。ただ鎧だけが一人でに歩いているのだ。死霊傀儡と鎧武者。合わせて100を超える軍団が5人を取り囲む。
「この可愛い奴らは鎧武者。死人の魂を鎧に付与したものだよ。まぁ、言うなればリビングアーマーとでも言ったところか・・・。こいつらはそこそこ戦闘力があるから注意するべきだね。さてと、準備は整った。楽しい宴を開始しようか!」
不人の号令とともに一斉に行動を開始する不死者たち。久我が呪符を構え、紫月は鋼糸を取り出す。雨宮は退魔刀を構え直し、天薙は木刀を正眼に構えた。不知火が鞭を取り出し地面を打つ。
「くるわよ!」

<不人の誘い>

サンシャイン内部は闇に包まれ、非常口を示す僅かな蛍光灯が照らし出すのみとなっていた。鷲見が火を灯した眠りの香はその効果を発揮し、警備員たちを眠りの世界へと誘っていた。
「さてと、準備は整ったね。後は不人がどこに現れるか調べるだけ・・・」
鷲見の言葉に当麻と、鷲見のポケットの中のヒヨコの直弘が頷く(ヒヨコの姿になった時、2人に思い切り笑われたのは言うまでもない)。
2人と一匹がエレベーターホールへと向かうと、そこは不死者の溜まり場と化していた。カーキ色の軍服を着たその連中は恐らく巣鴨プリズンで処刑、または獄死された者たちに違いない。
彼らは2人を見つけると取り囲み、口々に嘆きの言葉を言う。
「俺は無実だ・・・。虐待してなんていない・・・」
「助けてくれ・・・」
「あれは上官に命じられてやったことなんだ・・・。好きでやったわけじゃない・・・」
「違う・・・違うんだ・・・。俺は・・・」
「お国のためにやったのに・・・どうして・・・どうして裁かれるんだ・・・」
「僕は裁かれたのになんであいては裁かれない・・・」
「・・・・死に炊くない・・・死にたくないよぉ・・・」
「ピピピィピピピピピィィィ(なんだよ、こいつら)!」
直弘がポケットの中で疑問を口にしたが単なる囀りにしかならない。直弘たちには窺い知れぬことだが、死にきれぬ死者たちが不安定な状態になった大地から中途半端な形で開放されてしまっているのだ。彼らはこの世に対する未練や執着のみで留まっている。だが、現在のところ彼らに開放する術はない。このまま彼らの相手をしていては不人に先を越される可能性がある。そう判断した当麻は扇子を開いた。扇子が白いオーラ包まれる。彼女は物に霊力を通すことで武器とすることができるのだ。
「仕方が無いわね。力ずくで押しとおるしかないかしら」
「その必要はないよ」
突如ホールに響き渡る言葉。死者たちはその言葉に応えるように、左右に分かれ直立不動の姿勢をとり敬礼する。死者たちの列の先にいる者。それは・・・。
「不人(ピピィ)!」
二人(?)の声がハモる。白いコートを着用し、銀の髪をもつ男不人。その真紅の双眸が3人を見つめ、喜悦の色が浮かぶ。
「ほう、こっちは2人か・・・。いささか数が少ないが、いいだろう」
「貴方が不人?」
初対面の当麻の問いに不人は頷いた。
「いかにも。私が不人だ。初めまして。とでもお答えすべきかな?」
相変わらずの人を馬鹿にした態度でお辞儀をする。
「貴方の話は色々と聞いているわ。女でも死霊でも無理強いはいけないのに何を考えているのかしら?」
「無理強い?違うね。私はこの世にもあの世にも行けず彷徨っている霊たちにチャンスをあげているだけだよ」
「チャンス?」
「これに関しては私よりあの方からご説明いただいたほうがいいだろう。ついてきたまえ。あの方がお会いになるそうだ」
返事も聞かないまま、エレベーターに乗り込む不人。鷲見と当麻は顔を見合わせた。
「どうする?」
「従うしかないと思うね・・・。この人数じゃあいつの相手にもならないし脱出も無理だろう」
鷲見が視線を向ける先には数百もの死人たちがいる。
「話には聞いていたけど、彼、そんなに強いわけ?」
「強さの次元が違うよ。こっちの攻撃はほとんど通じない」
実際刃を交えたことのある鷲見は、不人の強さを身をもって実感していた。3人ではとても歯が立たないだろう。下手に抵抗しても犬死するだけだ。
「話はついたようだね。ではこちらへ」
不人が手招きするエレベーターに三人は渋々乗り込むのだった。
エレベータがついた先は最上階。だが不人は非常階段を使ってさらに上に向かおうとする。大人しくそれについて行きながら、鷲見は直弘に小声で話しかける。
「このままだとこっちは全滅する。あんた一人でも逃げな」
「ピピピピピィ(俺がそんなことするかよ)!」
「とにかく夾君にこの事を伝えて。どうにかなるとは思わないけど少なくともこちらに不人がいることだけでも分かれば後はなんとかなるから。あいつの思いどうりにさせるわけにはいかないでしょ」
「ピピ(鷲見さん)・・・」
「安心しなって。めんどくさいけど、ま、なんとかやってみるからさ」
鷲見はポケットから取り出したヒヨコの直弘を外に放った。60階から落っこちていく直弘。前を行く不人は背を向けながら言った。
「連絡かい?無駄だね。彼らも今は死闘の最中だろうから」
「なんだって!?」
「私を阻止するつもりで、その実罠にはまりにくるとは・・・。何とも不憫だねぇ」
「・・・不人!」
不人の皮肉を込めた言い方に、鷲見は怒りを覚えて銃を向ける。
「まぁ、待ちたまえ。間もなくあの方が訪れる・・・。話はそれからでいいだろう」
「さっきからあの方あの方って、一体誰なの?」
当麻の疑問に答えるようにプロペラ音が鳴りひびく。二人が目をやった先にはサンシャイン上空を飛行するヘリコプターが見えた。やがてヘリは旋回し、屋上に着陸する。不人がヘリのドアを開け中から現われた人物に恭しく頭を下げる。
「お待ちしておりました、社長」
「ご苦労」
尊大な口調で労いの言葉をかけると、その男は二人に視線を向けるのだった。

<死闘>

「はぁぁぁぁぁぁ!」
天薙の木刀が、立て一文字に骸を切り裂き粉砕する。
「散れ!雑魚ども!」
紫月から放たれた10本の鋼糸は、それ自体がまるで意思をもったかのように動き頭蓋骨を叩き落すと思えば、
「いい気になってんじゃないわよ!」
不知火の鞭が腰の骨を打ち砕く。
「行け!」
久我がヤタガラスを放ち雨宮が、
「貴様らを相手している暇はない!」
退魔刀で薙ぎ払う。
骸たちはそれほど戦闘力がないため、あっさり崩れ去ってゆく。だが油断はできない。死霊骸霧が存在する限り骸は無限に再生するのだ。だがそれよりも恐ろしいのは鎧武者である。鉄の鎧だけで中身がないためダメージが与えにくく、また刀や槍などの一撃はかなりの破壊力がある。こちらは破壊すれば二度と復元しないものの、破壊している間に死霊傀儡がどんどん再生されてきりが無い。5人は互いの背中を庇いあうようにしながら円陣を組んで戦うが、徐々に追い詰められていった。
「まずいな・・・」
紫月が額に汗を滲ませながら言った。倒しても倒しても復活し、疲れを知らない骸たちを違いこちらは生身の人間故に疲労する。疲労は体から俊敏な動きを奪い敵の攻撃を受けやすくする。このままでは遠からず全滅の憂き目にあうだろう。
「止むをえん。一点突破を図るぞ」
「でもどこを狙うつもり?どこもそう簡単に突破させてくれそうにないけど」
「無理を承知でも突破を図るしかありません」
「不人を倒す前に死ぬわけにはいかないからな」
5人が覚悟を決め、死霊軍団に突撃をかけようとしたその時。
「皆!伏せろ!!!」
5人の周囲に凄まじい竜巻が生じた。竜巻は骸と鎧武者を巻き込み吹き飛ばす。あっけにとられた5人の前に現われたのは黒い翼を生やした異形の存在だった。真っ赤な顔に血走った目。鳥の嘴のようにとがった口に大きな耳。体も羽毛のようなもので覆われている。
「ふん、遅刻だな」
容赦の無い紫月の言葉に異形の者がムキになって言い返す。
「てめぇ!少しは人に感謝するってことできないのかよ!?」
「遅れた奴が何を言う」
「か〜!!!必死こいて助けに来たっていうのに、てめぇなんざ助けるんじゃなかったぜ」
「別に頼んだ覚えはない」
いつものやり取りに久我がはっと気が付いて声をかける。
「まさか、直弘か!?」
「ああ」
「その姿一体何なんだ?」
雨宮が呆然となりながらつぶやく。天薙と不知火も同じように戸惑いを顕にしている。
「俺は・・・」
「そんなことより何かあったんじゃないのか。鷲見はどうした?」
「そう、鷲見が危ないんだ!あっちに不人が出たんだよ!」
「「「「「何だって!!!!!」」」」」
5人の声が見事にハモった。

<野望>

「君たちはこの都市をどう見る?」
赤いスーツに身を包んだ偉丈夫が鷲見と当麻に問うた。身の丈2Mを超す筋骨隆々のその男は、屋上から東京の町並みを見つめながら口を開く。
「いや、この国、この世界というべきか。実に不公平だと思わないかね。生者はぬくぬくと生を貪れるのに無念を残した死者はこの世に干渉できずに半永久的に呪縛されるこの世界の理自体が・・・」
「貴方は何を言いたいわけ?」
「簡単な事だ。私はチャンスを与えたいのだよ。死者も生者もこの世に留まる権利を得るな」
「この世に留まる?」
「死者も存在できる世界を作り上げる。生者であろうが死者であろうが実力あるものだけが生き残れる世界。それを私は目指しているのだ」
「間違っているわ。それじゃこの世が死者で溢れてしまう」
当麻の言葉に男を首を振る。
「そうはならん。死者が肉体を得ればいいのだから。人が満ちればやがて戦争が起きる。死と生の戦いだ。死の国で苦しみぬいた人間とこの世界でぬくぬくと生を貪る存在とどちらが勝つか・・・。興味深くはないか」
「興味なんかないね」
「それは残念だ。君たち異能者は選ばれた人間だ。何の技能も無く生きている連中とは違う。その君たちは自分たちの能力が報われていると思うかね?この世界で。愚かな人類は自分の認められるものしか理解することはできない。そして理解できないものは排除する。そんな連中の風下に立つ必要があるのか?否!断じて否だ!」
男は激しい手振りで否定する。
「だから私は死者や異能者にもチャンスが与えられる世界を生み出す。戦争という手段でな」
「いくら死者や異能者が揃ったって僅かな数じゃないか。戦争にもならないだろう」
「ふ、自ら戦争を起こすなど愚の骨頂だ。そんなことは愚かな人類にやらせておけばいい。どこの国だって己が利権のために戦争を起こしたがっている。ならば起こさせてやればいい。テロでもなんでもな。そのためならどんな高額でも兵器を買うだろうよ。特に不死の兵士などな」
「貴方はそんなことのために死者を安息の眠りから覚ましたっていうの!?どんな権利があって!」
激昂する当麻を見て男は哄笑を上げた。
「権利?誰にだって権利はあるだろう。生存権というな。それは死人とて例外ではない。この世界に存在する全てのものに与えられるものだ。弱肉強食。それこそがこの世の摂理・・・」
「狂ってるよ、アンタ・・・」
鷲見は男に銃を向けた。当麻も扇子から光の刃を生み出す。それを見て不人が男の前に出るが、男はそれを手で制した。
「それが君たちの答えか・・・。残念だ。私の理想が理解できないとはね。まぁ良い。抵抗するならできるだけしてもらおうか。己の無力さを痛感するだけだろうが」
「そうとは限らない!」
鷲見の銃が火を吹き、呪符弾が男に向かって放たれた。しかし、呪符が命中したはずのその男はまったく動じもしなかった。
「下らんな。戦争は起きる。そう遠くない日に。その時死と生の戦いが起こるのだ。勿論君たちも例外ではなくこの戦争に巻き込まれるだろう。真の強者の元に統一されるその日まで・・・」
男は言うだけのことを言うとヘリに乗り込んだ。不人もそれに続く。派手なプロペラ音を立ててヘリが離陸を開始する。
「待ちなさい!」
当麻の制止も虚しく、ヘリははるか彼方の空へと飛んでいくのだった。

久我たちがサンシャインに到着した時、既に死霊たちは全て消えうせた後だった。彼らは鷲見たち二人から不人と社長と呼ばれていた謎の男について聞かされた。彼らの企みの一部は分かった。だが、どのうように戦争を引き起こそうというのか。謎が謎を呼び物語は続く。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0319/当麻・すず/女/364/骨董屋
0054/紫月・夾/男/24/大学生
0231/直弘・榎真/男/18/日本古来からの天狗
0229/鷲見・千白/女/28/(やる気のない)陰陽師
0095/久我・直親/男/27/陰陽師
0112/雨宮・薫/男/18/陰陽師
0183/九夏・珪/男/18/高校生(陰陽師)
0116/不知火・響/女/28/臨時教師(保健室勤務)
0328/天薙・撫子/女/18/大学生(巫女)

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■         ライター通信          ■
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お待たせしました。
サンシャイン60〜無実〜はいかがだったでしょうか?
今回募集人数は5人で、大体そのくらい集まれば良いほうかなと思っていたのですが、なんと参加者9人という満員御礼状態になってしまいました。誠に有難うございます。
このストーリーは大きく分けて2つの場面に分かれていましたが、不人の言葉どうり、公園はトラップでした。私としても一人か二人ひっかかるかなと思っていたのですが、半数以上の方がかかってしまい驚きました。全員がひっかかってしまっていたら依頼失敗となっていたところですが、二手に分かれていたことが功を奏し敵の行動を掴むことができました。完全に成功とはいえませんが敵の狙いが判明したことで収穫はあったと考えられます。
おめでとうございます。
死霊シリーズはまだまだ続きますので、興味のおありの方はテラコンを利用して交流を図られてはいかがでしょう。中には掲示板を用意され対策を練っておられる方もいる様子。情報の共有と作戦の立案は依頼成功率を高めますのでお薦めいたします。勿論、あえて一人で挑戦するというのも一つのスタンスですのでそれも宜しいと思います。
またのご参加を心よりお待ち申し上げます。

追伸

今回はある方の結果のみちょっと皆様と違う形になっています。その方の結果はもうひとつの重要情報が書かれていますので、興味がある方は探してみてください。ヒントは他の方の結果には出ていない方です。

また、ご意見、ご感想等ございましたら、テラコン、もしくはクリエイタールームなどをご利用いただき私信を頂戴できればと思います。よりより作品提供のためご協力願いたいと思います。