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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


鏡の中にかえりたい
------<オープニング>--------------------------------------------------

『誰か、あたしを鏡の中に帰して下さい』
「鏡の中に、帰す?」
 瀬名雫は、その書き込みに首を傾げた。
 件名から下をスクロールして読みすすめる。
『2年前、鏡遊びをしていた[本当の私]と入れ替わったのですが、この世界にはもう耐えられません。
 お願いします。誰か私を元の世界に帰す方法を探して、帰して下さい。
 考えて下さる方、メールを頂けませんか? よろしくお願いします』
「ふえー、奇妙な事もあるもんだね」
 雫は心底感心したように呟く。そしてそこのメルアドへとメールを送ってみる。するとさほど経たないうちにレスが入ってきた。
 そこには本名と住所が書かれていた。
「よっぽど切羽つまってたのかな……? でも鏡の中にかえりたい、なんて、何がイヤだったんだろう?」
 何度か読み返して、うむむ、とうなる。
「方法、って言っても色々あるし。無難なのは合わせ鏡かなぁ。気になるって言えば気になるよね……?」
 ディスプレイの前に考え込む雫の後ろに、誰かが立った。

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●鈴宮北斗
「どないしたん?」
 ぶつぶつ呟いている雫の後ろに立った北斗は、ディスプレイを覗き込む。
「……鏡の中に帰りたい、か。助け求めてる女の子を見捨てるわけにはいかへんからなぁ」
「北斗くん行く?」
 住所わかるけど、と雫は横のプリンターでメールの内容を印字する。
「この、方法を探して、ていうのが……合わせ鏡しか浮かばないんだよね」
「せやな、俺もそれくらいしか浮かばへんわ。あ、おおきに」
 小さく折り畳んだ紙を受け取って、北斗は軽く頭をさげた。
「私も行きたいんだけど、これから用事があるし」
「かまへんよ。結果はきちんと教えたるさかい、安心しぃや」
 にっこりと北斗は笑う。
「よろしくね☆」

●鏡の中にかえりたい
 一番最初に佐野遙(さの・はるか)宅に辿り着いたのは、鈴宮北斗だった。ついでケーキを買ってきた寒河江深雪、駒子。そして榊杜夏生の順。
「……あなたが雫ちゃんの言っていた北斗くんね。こんにちは」
 アナウンサーで、お天気を主に扱っていてよくテレビで見かける深雪に声をかけられて北斗は固まった。
「ほ、ほんまもんの芸能人や……」
 その言葉に深雪は困ったように笑った。
「今日はオフだから気にしないで下さいね。それより北斗くんも佐野さんの所に来たんでしょ? 一緒ですね」
 にーっこり微笑んだ深雪。その後ろから軽快な足音が聞こえてきた。誰かが走って来たようだった。
「……あ! やっぱり北斗くんだ。さっき声が聞こえたから走って来ちゃった」
 はぁはぁ、と息を切らせて、しかし夏生はにっこり笑う。
「夏生ちゃんか、久しぶりなら。元気にしとったか?」
「うん。……あ! 寒河江深雪さんだぁ。すごぉい」
 夏生にも感動されて、深雪は再び困った顔になる。
「あまり気にしないでね」
「……そっか、気にされるのイヤて人もいますもんね。わっかりました。気にしません……でも後でサイン下さいね?」
「……はい」
 屈託のない笑顔を見せられて、思わず深雪も笑った。
「みぃちゃん、なかいかないの? うえからだれかみてるよ。こまこみてくる?」
 くいくい、と服の裾を引っ張って言った駒子に、深雪は反射的に2階の窓を見上げた。
 そこには大人しそうな女の子が、カーテンの影に隠れるようにこちらを見ていた。
「……こないなとこで立ち話しとったらわかるわな。はよ入って話聞こか?」
 深雪の視線を追いかけるように上を見た北斗は、そう言うと呼び鈴を鳴らした。
『はい?』
 インターホンから少し真面目そうな女の子の声が帰ってくる。
「ゴーストネットから来たんやけど……話聞かせてくれへんかな?」
『……ちょっと待ってて下さい』
 そう言われて待つこと1分少々、玄関が開けられ中から夏生と同世代の女の子が現れた。
 大人しそうな女の子、まっすぐな黒髪を後ろで1本のあみさげしている。
「中に入って下さい」
 言われて4人(?)は家の中に入った。
「なんかくらいね。ねむいのかなぁ?」
 きょろきょろと辺りを見回しながら駒子は呟く。
「こまこここにいたら、おうちさんげんきになるけど、みぃちゃんのそばはなれたくないしなぁ。ごめんね」
 誰と話をしているのか、駒子は壁に向かって首を傾げていた。
 通されたのは女の子の部屋のようだった。壁にはポスターのようなものを破がした跡が見られ、しかし今はきちんと整頓されているようだった。
 一通り自己紹介を済ませる。さすがに遙も深雪のことを知っていた。
「ようは、鏡の中から《本人》と呼び戻してくればいいんでしょ?」
 鏡の中に入って、本人を捜してきたい、と思っていた夏生の表情は明るい。本来なら不謹慎な、と言われかねないが夏生の発する雰囲気から、そういった感情は産まれてこなかった。
「何で鏡の中に帰りたいん? こっちと向こうはそないに違うんか?」
 北斗に問われて遙はうつむいた。
「……勝手にこの世界に引っぱり出されて、よくわからないまま暮らして来たんです……」
「同意の上じゃなかったのね?」
 優しく深雪に言われて、小さく頷いた。
「いきなり手を掴まれて、こっちの世界に引っぱり出された瞬間、《本人》は鏡の中で笑ってました。それで『後はよろしく』って言われて……私は自分の記憶を頼りにこの家に辿り着きました……」
 でもそこには自分の知っている明るく楽しい家庭はなく、両親共働き、食事はいつも冷えていて一家団欒なんてほど遠かった。
 ちょうど受験の最中で、成績の悪かった《本人》はそれを投げ出していた。
 わけがわからず変わらされてしまった為、戻る方法もわからず暮らしてきたが、最近ゴーストネットカフェの存在を知って、思い切って書き込みをしたみた、という話だった。
「ひどい話ね。自分の責任ほっぽりだして人に全部かぶせるなんて」
 出し貰った紅茶をぐいっと飲み干して夏生は怒る。
「そっか。それじゃ帰りたい、思うてもしゃあないな。俺は自分の環境とかに不満はあらへんけど、わけもわからず連れてこられたんじゃ……」
 まぁ、彼女がいないのが悩みの種やけど、と小さく呟いた。
「こまこなら大丈夫だよ! かがみのなかにはいっても」
 深雪の影からひょこっと顔を出してにっこり笑う。遙には駒子の姿見えたようで、小さな子供を見て初めて笑顔を作った。
「大丈夫! あたしが《本人》を捜して来てあげるわ!」
「それは無理よ、夏生ちゃん」
 やんわりと言われて、夏生は疑問顔。
「どうして?」
「だって、同一人物は同じ世界や次元にはいられないものよ。ドッペルゲンアーって知ってる?」
「あの、自分と同じ顔の奴見たら死ぬ、ゆうヤツやな」
「ええ。だから、私たちは鏡の中に入って、こちらの世界の遙さんを捜すことは出来ないの。でも……」
「でも?」
「駒子なら出来るから」
「うん!」
 夏生が顔を前に出す。そして《駒子》という名前聞いて首を傾げた瞬間、深雪の側に立っていた幼子の姿が見えた。
「この子が駒子ちゃん?」
 いきなりの登場に夏生と北斗はきょとんとなるが、がさすがに慣れているのかすぐに元に戻る。
「こまこね、《ざしきわらし》っていうんだよ。よろしくね」
 にこにこと駒子が言うには、自分は鏡に映らないからもう一人の自分が鏡の中に存在しない。が為、中に入って捜す事が出来る、という。
「……つまらないなぁ。折角鏡の中探検出来ると思ったのに」
「ごめんなさい……」
「あ、遙ちゃんが謝る事じゃないの。仕方ない事もあるし、ね?」
 慌てて大きく手を振る夏生に、遙は笑う。
「優しい人達で良かった」
「ちぃっとむずかしいけどね……かがみある? おっきなのがいいの」
「母の姿見が確か……ちょっと待ってて下さいね」
「あ、手伝うよ」
 立ち上がった遙に、北斗はついていく。
 そしてしばらくすると、等身大の鏡を抱えた二人が部屋の中に入ってきた。
 それを駒子の前に置くと、さすがに疲れたのか、二人ともその場に座り込んだ。
「それじゃ、いってくるね。えーっと、てをこーやって《かがみ》のまえにかざして、《きもち》をかがみのなかに《いきたい》って《しゅーちゅー》するの。じゃあこまこ《おねぃさん》の《おかお》おぼえたから、《かがみのせかい》にいってさがして、おはなししてみるねー」
 言った後、なにやらぶつぶつ呟いた。
「ぜんぶはんたいな《かがみのせかい》からでたくないってことは《げんじつせかい》に《いやなこと》があるから……これってさっきいってた《じゅけん》てやつかな。でももったいないよねー。《げんじつせかい》がいっちばんおもしろいのに!」
 言いながら駒子は鏡の中に吸い込まれるように消えていった。
「大丈夫でしょうか?」
「信じて待ちましょう」
 人を安心させるような顔で、深雪は微笑んだ。

「ここかな、《かがみのなか》は」
 出てみると、同じの部屋の中だった。
 そこにはベッドの上で雑誌を読みながらベッドに横になっている遙の姿が見えた。
「向こうの《おねぃさん》とはぜんぜんちがうんだ」
 金髪に近い茶色い髪。耳には3連のピアス。ルーズソックスをはいた足を、時々上下に動かしている。
「おねぃさん」
 ちょこちょこちょこ、と歩いていって駒子は遙の服を引っ張った。
「……なによこのチビ? どっから入ってきたの?」
 お菓子を食べながら寝転がっていたのか、駒子に視線を向けつつ指をぺろりとなめた。
「こまこちびじゃないもん! それよりおねぃさん、《げんじつせかい》にもどってほしいの」
「えー、やぁよ。折角楽しいのに。あんたもしかして向こうから来たの? だったらこっちはいいわよ」
「だめだよ。むこうのおねぃさんこまってたもん。それにこまこ《げんじつせかい》のほうがすきだもん。こっちにみぃちゃんがいたとしても、それはこまこのみぃちゃんじゃないからヤ」
「……何言ってるんだか。あたしは帰らないわよ。あーんな世界」
「ダメ! かえるの!! こまこおこるよ?」
 ぷくっと駒子は頬を膨らませる。
「怒ってみなさいよ。怖くなんてないから」
 意地悪そうに笑った遙に、駒子の怒りが爆発した。
「だめー!! ぜったいかえるの! かえんなきゃダメなの!!」
 叫んだ駒子に呼応するように、家具がガタガタ音をたて、小物が部屋を飛び回った。
『ダメよ駒子!!』
「……みぃちゃん……」
 声の聞こえた方をみると、鏡の向こうで心配そうな顔をしている深雪の姿が目に入った。
 深雪の能力で、声と姿だけをつなぐことが出来たのだ。
『あなたが遙さん? ダメじゃない。自分の事は自分でやるのが本当なんだから。逃げたらなんにもならないよ』
 腰に手をあてて夏生が言う。
『せや。現実世界もちゃんと見れば面白い世界や。自分で楽しくする可能性捨ててどないすんねん。結局その世界はあんたのもんちゃう。偽物や』
「そ、そんなのわかってるわよ! でも……」
『お願い、かわって……父さんや母さんが心配なの。こっちの両親も本当の両親かもしれない。でも、やっぱり違うの……』
 鏡にすがるように《鏡の世界》の遙が泣き崩れる。
「でも……」
『ああ、もうじれったいわね!! とにかく戻ってきなさい!』
 しびれを切らした夏生が、鏡に向かって手をつきだした。
『あ、夏生ちゃん!!』
 押さえるように手を伸ばした深雪だが、間に合わず、夏生はするりと鏡の中に入ってしまった。
 そして《現実世界》の遙を捕まえると、そのまま鏡の中に放った。
 瞬間、まばゆい光が放たれ、《鏡の世界》の遙は元の自分の部屋へと戻っていた。
「はー、スッキリした」
 ぱんぱん、と埃を払うように手を叩いた夏生は、何事もなかったかのように鏡をくぐり抜けた。
「なっちゃんすごい……」
 思わず尊敬の眼差しで駒子は夏生を見つめた。
『大丈夫なんか、夏生ちゃん?』
『うん。全然平気。ほら、あたしって運が強烈にいいから』
 にーっこり笑った夏生に、本当にそれだけなのだろうか、と深雪は苦笑した。
 でも無事だったのだから、それで良かったのかも知れない。
「こまこのもどるねー。おねぃさん、これからはひっぱられないようにきをつけてね」
「ありがとう、駒子ちゃん」
 嬉しそうに笑った遙に、駒子はすぐに困ったような顔になった。
「……ごめんなさい、おへやよごしちゃった……」
 謝ってうつむく駒子の頭を、遙は優しくなでた。
「気にしないで。片づければいいんだもの。ありがとうね、駒子ちゃん」
「うん!」
 笑顔になった駒子を、遙は鏡まで見送る。
「皆さん、お世話になりました。本当にありがとうございました!」
『遙ちゃん、元気でな。そっちの世界の俺によろしく伝えてといてや!』
『元気でね』
『これからは鏡に気を付けてねー☆』
『おねぃさん、ばいばーい』
 皆に見送られながら、深雪の力の切れた鏡はゆっくりとその部屋の中を映すだけの存在へと姿をかえた。
「さて、こちらの遙さん。これからが大変よ?」
「せやな。これまで品行方正な遙ちゃんがいた分、取り戻すのは大変やな」
「頑張って下さいね。これも人生のお勉強の一つですよ」
「おねぃさんがんばってね☆」
「……」
 魂が抜けたようになった遙を後目に、4人は家を後にした。

●その後【北斗】
「……という訳なんや」
「へぇ、すごいね」
 ゴーストネットで約束通り雫に伝えに来た北斗。
「鏡の中の自分って悪さする、って話が多いけど、いい子もいるんだ」
「そうやな。こっちの本人よりずーっとええ子やったわ。でも正反対、ゆうから雫ちゃんの場合は、向こうが悪い子かもな」
 ウインクして言った北斗に、雫はくすくす笑う。
「それじゃ、北斗くんは向こうがいい子だね」
「……雫ちゃん、そりゃないわ……」
 額を手で覆った北斗に、雫は弾かれたように笑い、北斗もつられて笑った。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 【0262/鈴宮北斗/男/18/高校生】
 【0291/寒河江駒子/女/218/座敷童子】
 【0174/寒河江深雪/女/22/アナウンサー(お天気レポート担当)】
 【0017/榊杜夏生/女/16/高校生】

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■         ライター通信          ■
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 再びこんにちは、夜来聖です。
 またお目にかかること出来て光栄です☆
 メールありがとうございました。
 今回も夏生ちゃんと一緒でした。でも雫ちゃんとちょっといい雰囲気かな?
 無事事件は解決。遙ちゃんも鏡の中に帰ること出来ました。お連れ様です。
 またの機会にお目にかかれば幸いです☆