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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


蘇る晴明?
●オープニング【0】
『安倍晴明って……』
 そんなタイトルで始まる書き込みが、ある日の掲示板にあった。
『安倍晴明って、今生きてはいませんよね?
 でもあたしの親友が、安倍晴明に会ってると言い張るんです。
 あ、彼女……安倍晴明の凄くファンなんですね。
 冗談でそんなこと言ってるかと思うとそうではなくて。
 京都に一緒に旅行に行って、帰ってきてからそうなったんです。
 それに彼女、近頃何だかやつれてきていて心配なんです!
 夜中にこっそり出歩いてるなんて話もあって……。
 詳しいことを聞いても、ただ意味深に笑って誤魔化して。
 ……どなたか、あたしの相談に乗ってもらえませんか?』
 安倍晴明といえば、陰陽師として極めて有名な人物だ。しかし21世紀のこの世に生きているかと言われたら疑わしい。
 何者かが晴明の名を騙っているのか、それとも……?

●2枚の写真【1】
 喫茶店『スノーミスト』。1人の女性を囲むように、6人の男女が座っていた。
「これが京都に行った時の写真です」
 掲示板にあの書き込みを行った女性、高野聖(たかの・ひじり)はそう言って一同に写真を手渡した。親切にも焼き増しをしてくれたようで、2人に1枚ずつ行き渡っていた。
「清水寺ですよねぇ」
 ゆったりとした物言いで、女子高生・望月彩也が言った。小柄で線の細い顔立ちと緑に輝く瞳、さらに腰近くまである長い金髪と、まるで西洋人形のような可愛らしさがある。
「よく分かりますね」
 彩也の隣に座っていた女子高生・七森沙耶が感心したようにつぶやいた。こちらは黒髪に黒い瞳と、人形に例えるなら日本人形になるだろうか。ただ実際の日本人形には、沙耶の首にかかっているような銀の十字架のペンダントはないだろうが。
「この風景は何度も本で目にしましたから」
 微笑む彩也。伊達に図書委員会には属していない。
「右側の方がご友人の方ですね」
 骨董屋『櫻月堂』店員の草壁さくらが聖に尋ねた。和装が多いさくらにしては、今日は珍しいことにスーツを着用していた。もっとも、まとめあげた金髪は普段通りであったが。
 写真には明るい笑顔の女性2人が写っていた。左側の細身長身の女性が聖、右側の小柄で豊満な女性が聖の友人の榊原恭子(さかきばら・きょうこ)だ。頬がふっくらとしていて、色つやもよさそうに見える。
「ええ、右が恭子で……大学が冬休みだった1ヶ月前の写真です」
 聖がさくらに答えた。そうすると1月半ばの写真になるか。
「行ったのはここだけ?」
 テーブルの上の写真をトンッと指先で叩き、何でも屋の秋津遼が言った。爪先まで全身黒一色でコーディネートした衣服に、沙耶と同じように首から十字架のペンダントが下がっていた。
「1週間の滞在でしたから、京都の有名所はあちこちと回りましたけど……。あっ、晴明神社にも参りました」
 晴明神社――京都市上京区にある日本の陰陽道の大家・安倍晴明を祀った神社だ。ちなみに晴明を祀る神社は何も京都だけでなく、各地に存在している。が、晴明といえば京都というイメージはやはり強いだろう。
「で、晴明に見初められたって訳だ」
 くすりと微笑む遼。サングラス越しの瞳に、聖の暗く沈んだ顔が映っていた。
「秋津様!」
 さくらが遼を窘めた。
「それはそうと、やつれたって書き込みにはあったけれど、どんな風に?」
 留学生の世羅・フロウライトが尋ねた。あの文章だけでは、その程度がよく分からないので当然の質問だ。
「これを見てください。つい3日前の写真です」
 聖がまた写真を6人に渡した。先程と同じく2人で1枚だ。
「えっ……」
 小学生・王鈴花は写真を見て絶句した。思わず黒いお下げ髪をぎゅっと握りしめる。
「このやつれようはどうしたことでしょう……」
 さくらがまじまじと写真を見つめつぶやいた。写真には恭子1人だけがバストアップで写っていた。だが誰もが目を疑った。頬はげっそりとこけて、目の下にはくっきりとくまが。そして顔色も先程の写真よりめっきり悪く、青白い肌をしていた。

●不穏な記事【2B】
「パソコン上手なんだね」
 沙耶が鈴花の後ろからパソコンのモニターを覗き込んで言った。ここは先程の喫茶店近くのインターネットカフェだ。沙耶・鈴花・彩也の3人はこちらへ移動してきていた。
「そんな……鈴花、それ程じゃないです……」
 照れながら答える鈴花。それでもキーを叩く手は止めない。
「恭子さんは、晴明さんの裔の方と実際に御会いになったんでしょうかぁ。古いお家ですと、素晴らしかった方のお名前をそのまま受け継ぐことがあるようですし」
 鈴花の隣の席で、パソコンを触りながら彩也が言った。確かに旧家ではそういった風習もあるのだが、今回のケースがそれに当たるかはまだ何とも言えない。
「もしそうだとしても、友だちに心配かけちゃいけないと思うな」
 友だち思いの沙耶としては、恭子のことが心配な聖の気持ちがよく分かる。第一、何か起きてからでは遅いのだから。
「お友だちにご心配させてしまうのはよくないことなのです。晴明さんは良い方だと思ってますから、そんなのは晴明さんの考え方と違うと思うのです……」
 沙耶の言葉に同意するように彩也がつぶやいた。その間にも鈴花はてきぱきとマウスを動かしていた。
「あ、ここって有名な占いサイトでしょう?」
 モニターに映し出されたサイトを見て沙耶が言った。鈴花がこくんと頷く。
「このサイトの人も安倍晴明について調べているみたいだから……」
 そう言って鈴花は掲示板を表示させた。サイト主催者の書き込みに続いて、沢山の晴明に関する書き込みがあった。その多くは漫画や小説等についての物で、それに附随して近頃は急激に晴明ファンが増えたことも書かれていた。言い方は悪いが、ミーハーファンも増えたということだろうか。
「……あっ」
 大量の書き込みの中から、1件の書き込みを見て鈴花が短く叫んだ。沙耶が書き込みの内容を口に出して読み上げた。
「ええっと……『私は京都に住む者ですが、姉が晴明に会うと言って家を出たきり行方不明になりました。参考になりますかどうか』……って、どういうこと? 他にも似たような人が居るの?」
 鈴花に尋ねる沙耶。しかし鈴花にそれが分かる訳もなく、静かに首を横に振るだけだった。
「あのぉ……」
 困惑した表情の彩也が2人に声をかけた。振り向く沙耶。
「どうしたの?」
「新聞社のサイトを覗いてみたんですけれど……この記事が」
 モニターを指差す彩也。鈴花と沙耶は隣から覗き込んだ。一瞬にして息を飲む2人。
 そこには『晴明神社近くの廃屋より、多数の人骨が発見』との記事が表示されていたのだ――。

●尾行開始【3】
 真夜中――6人は恭子の住むマンションの近くへ集まっていた。
「何ですか、それ?」
 さくらが彩也の手にしていた大きめのバスケットを指差した。
「お夜食です。皆さんの分、ちゃぁんとご用意していますよ」
 ほんわかと答える彩也。
「食べる暇、あるかどうか分からないよ。ま、食べたい物は近くにあるけどね」
 遼がサングラス越しに彩也を見つめて、くすくすと笑った。彩也はきょとんとした表情を浮かべていた。
「お兄ちゃん……鈴花何だか嫌な予感がするよ……」
 鈴花が世羅の手をぎゅっと握った。
「さっき言ってた記事のことだね、鈴花」
 世羅の言葉に鈴花はこくんと頷いた。晴明神社近くの廃屋で、多数の人骨が発見されたという記事のことだ。この事件に関連があるのかないのか、今はまだはっきりしない。
「気になりますね……その記事」
 思案顔のさくら。いわゆる胸騒ぎという奴だ。
「そうだ。これ想像で描いてみたんだけど……」
 そう言って世羅が1枚の絵を皆に見せた。それは白い直衣を身にまとい烏帽子を被った青年が、恭子らしき女性と抱き合っている絵だった。
「会う時はきっとこんな感じじゃないかな。想像だけど」
 繰り返す世羅。もっとも想像とは世羅の方便であるのだが。
「あっ、出てきましたっ!」
 マンションの玄関を見張っていた沙耶が小声で叫んだ。
 コートを羽織った恭子は、玄関を出るとふらふらとした足取りで歩き出した。6人は恭子に気取られることのないよう、距離を空けて尾行を開始した。

●荒れ寺にて【4】
 恭子はまるで何かに導かれるかのように、ふらふらと歩き続けていた。
「辺りが寂しくなってきましたねぇ……」
 きょろきょろと周囲を見回し、彩也が細い声でつぶやいた。恭子を尾行しているうちに、6人は街外れの寂し気な場所へやってきていた。都会とはいえ、こんな場所はある物だ。
「あっ、消えました。あれはお寺かな……お寺の境内に入ったみたいです」
 暗闇に目を凝らしながら沙耶が言う。恭子が消えた辺りへ来ると、目の前には古い寺があった。だが門前には『管理地』と書かれた看板と囲いがある。つまり空き寺ということか。
「寺がこうなるなんて、世も末だね」
 面白がるような口振りで遼がつぶやいた。
「入ろう。僕らは追うしかないんだから」
 世羅が皆を促すように言った。鈴花が握っていた世羅の手を、さらに強く握った。
 囲いを何とか乗り越え、境内に静かに入り込む6人。草木は手入れもされず建物は所々壊れ、境内は荒れていた。空き寺どころか、荒れ寺だ。
「どこに行ったのかな……」
 ぽつりとつぶやく鈴花。恭子の姿はどこにも見当たらない。
「見てください!」
 小声でさくらが叫んだ。その声に振り向く一同。本堂の障子越しに、ぼんやりと小さな灯りが点っているのが見えた。
 音を立てぬよう本堂へ近付く6人。そして障子の隙間から、各々こっそり中を覗き込んだ。
「ああ、晴明様っ……」
 恭子が白い直衣をまとい烏帽子を被った青年と熱い抱擁を交わしている姿が、ろうそくの炎に浮かび上がっていた。晴明と呼ばれた青年は、まるで少女漫画に出てきてもまるでおかしくはない美男子であった。
「私は夜が待ち遠しくてたまりませんでした……!」
「恭子殿、それは私とて同じこと」
 青年はそう言うと、恭子の唇に自らの唇を重ねた。その様子に覗いていた6人のうち、数人が顔を赤らめた。
(……あ、霊視しないと!)
 顔を赤らめている場合ではない。沙耶は青年に対して自らの能力『霊視』を行った。
「えっ!」
 驚き、慌てて口元を押さえる沙耶。
(今のは何っ……!)
 『霊視』を行った瞬間、沙耶の目に『人に非ざる物』が見えていた。
「鈴花っ、どうしたんだいっ!」
 沙耶が世羅のその声に振り向くと、世羅の隣に居た鈴花が両手で顔を押さえうずくまっていた。世羅の問いかけにまるで答えることができない程、何かに怯え切った様子だった。
「恭子殿、少しお待ちを」
 本堂の中では、青年がそう言って恭子の身体を離した。そして、ちらりと6人の居る方を見る青年。はっとしてさくらが小声で叫んだ。
「いけません! 逃げましょう!」
 その瞬間、勢いよく音を立てて障子が開き、青年から6人の姿が丸見えになった。

●敗走【5】
「ほう……これは。そなたたち、この晴明に何用か」
 青年は6人を見回すと、薄く微笑んだ。青年が発する威圧感を、6人はひしひしとその身に感じていた。そんな中、沙耶が口を開いた。
「本当に安倍晴明……?」
「いかにも。私が安倍晴明だ」
「いったい……何の目的で彼女を……」
 言葉を絞り出すように言う沙耶。どんな相手でも話せば分かる、そう思って話をしていた沙耶だったが――。
「答える必要はない」
 青年はきっぱりと言い切り、笑みを浮かべた。はっきりとそれと分かる、邪悪な笑みだった。
「邪魔立てするならば……死あるのみ」
 そう言い、青年は手のひらを沙耶に向けた。すると手のひらから沙耶目がけて、白い糸が放たれた。
「危ない!」
 さくらが叫ぶと同時に白い糸が発火し、一瞬に灰と化した。
「逃げてください! ここは私が食い止めます!」
 さくらが皆に逃げるよう促した。それを受け逃げ出す一同。怯えたままの鈴花を抱きかかえ走る世羅。転んだ彩也に手を貸し、一緒に逃げる沙耶。
「面白い、私とやり合うつもりか」
 不敵な笑みを浮かべ、懐から人型の紙を4枚取り出して息吹を吹きかけた。舞い上がった紙4枚は、たちまち鬼の姿へと変わりさくらに襲いかかってきた。
「はぁっ!」
 応戦するさくら。自らの能力『発火』を使い、4体の鬼を次々に葬ってゆく。4体目を葬り去った時、さくらは青年に背を向けていた。
「甘い!」
 青年の声に振り向くさくら。今まさに5体目の鬼がさくらに一撃を加えようとしていた所だった。間に合わない――さくらはそう覚悟した、が。
「甘いのはどっちさ」
 低いつぶやきと共に、5体目の鬼が黒い炎に包まれた。一瞬動きの鈍る5体目の鬼。さくらは身を翻し、5体目の鬼に『発火』を使い葬り去った。
「まだ1人居たのを忘れてたよね」
 くすくすと笑いながら姿を現す遼。遼はまだ逃げずにこの場に留まっていたのだ。
「お返しさ!」
 青年の目前で黒い炎が燃え上がった。数歩身を引く青年。その隙にさくらと遼はこの場を逃げ出した。
 しばらく後に、6人はどうにか合流を果たした。そこで沙耶がまだ信じられないといった様子で、皆に自分が見た物について話した。
「蜘蛛が……巨大な蜘蛛が見えて……」
 ひょっとして、あの青年の正体は……まさか? 謎はまだ全て解けず、6人の前に横たわっていた。

【蘇る晴明? 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名(読み) / 性別 / 年齢 / 職業】
【 0101 / 望月・彩也(もちづき・さいや) / 女 / 16 / 高校生 】
【 0230 / 七森・沙耶(ななもり・さや) / 女 / 17 / 高校生 】
【 0134 / 草壁・さくら(くさかべ・さくら) / 女 / 20前後? / 骨董屋『櫻月堂』店員 】
【 0258 / 秋津・遼(あきつ・りょう) / 女 / 20前後? / 何でも屋 】
【 0140 / 世羅・フロウライト(せら・ふろうらいと) / 男 / 14 / 留学生 】
【 0142 / 王・鈴花(うぉん・りんふぁ) / 女 / 9 / 小学生(留学生)。たまに占い師 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で、NPCを姓で表記するようにしていますが、一部例外もあります。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全6場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・本文で薄々はお気付きかもしれませんが、プレイングの結果により今回は不完全成功です。正体らしき物はつかんだようですが、事態は全く好転していません。
・本依頼は完結編に続きますが、引き続きご参加されるかどうかはご自由です。ただ確実に言えることは、手をこまねいていれば恭子の生命は失われます。なお、今回の情報は完結編で使用していただいて構いませんので。
・今回はプレイングの方向性が似通っていましたので、場面は普段程細分化していません。
・望月彩也さん、こちらのオープニングの書き方が少々悪かったのかもしれないと思いました。プレイングを読んでそう感じました。反省。恐らく今回の展開は、彩也さんの予想外の展開ではないですか? それから、バストアップ参考にさせていただきました。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。