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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


蘇る晴明?【完結編】
●オープニング【0】
 LAST TIME 『蘇る晴明?』――。
『安倍晴明って、今生きてはいませんよね?
 でもあたしの親友が、安倍晴明に会ってると言い張るんです』
 掲示板にこのような書き出しで始まる投稿があり、調査に乗り出した一同。
 依頼人の高野聖(たかの・ひじり)に見せてもらった、1ヶ月前の京都旅行時のスナップ写真とつい最近の友人・榊原恭子(さかきばら・きょうこ)のバストアップ。そのやつれようは一目瞭然であった。
 恭子に実際に会って事情を尋ねても、意味深に笑うのみで要領を得ない。一方、ネット上で晴明について調べると、京都の方で恭子と似たケースが発生していることが分かった。
 そして、京都の晴明神社近くの廃屋から多数の人骨が発見されたという記事――これは何を意味するのか?
 真夜中、恭子を追跡する一同。そこで一同は、荒れ寺で恭子と抱擁する晴明らしき青年の姿を発見する。だが青年は一同の気配に気付くと、問答無用で襲いかかってきた。
 どうにかその場を逃げ出した一同は、目の前に横たわったままの謎に再び挑むべく、態勢を立て直すことに決めたのだが……さて、どうすればいいのだろうか。

●漂う謎【1B】
 恭子がベッドに横たわり、軽い寝息を立てていた。その様子を4人の男女が見つめていた。あの夜からすでに3日が経っていた。
「やれやれ、ようやく落ち着きましたね」
 額の汗を拭い、大学生・斎悠也がつぶやいた。ここは恭子の住むマンションである。
「すみません……」
 悠也の向かいに座っていた聖がぺこりと頭を下げた。聖の手の甲にはうっすらと血の滲む引っ掻き傷があった。
「いや、あなたのせいじゃありませんよ」
 聖に笑顔を見せる悠也。
「そう、キミのせいじゃない」
 聖の隣に座っていた何でも屋・秋津遼が、聖の手を取り言った。
「ほら、怪我してる……」
 聖の手の引っ掻き傷に、そっと唇を寄せる遼。戸惑い気味の聖。と同時に、咳払いが聞こえた。
「話を進めて構わないか」
 女医――といっても闇医師ではあるが――国枝柊が3人に言った。右手には煙草を手にしたまま。
「彼女には鎮静剤、それと栄養剤を打っておいた。私の見た所、相当酷いな。このままだと本当に生命に関わるぞ」
 淡々と所見を述べ、煙草をくわえる柊。暴れる恭子を寄ってたかって押さえ付け、どうにか注射を終えたのだ。聖の手の傷は、その際の物である。
(……鎮静剤がどれほどの効果があるか、疑問だな)
 普段であれば十分効果もある鎮静剤だが、恭子に何やらの呪いが施されているとしたら、その効果も未知数になってしまう。柊は内心それを危惧していた。
「そういえば、晴明神社の近くには北野天満宮があったはず。そこへは立ち寄ったの?」
 遼の問いに聖は首を横に振った。
(敵の正体が土蜘蛛だとしたら、そこで接触した考えられるけど……違ったようだね)
 北野天満宮境内には『蜘蛛塚』という物がある。遼が考えていたのはそれだった。
「晴明神社周辺から、何か持ち帰ったりしませんでしたか?」
 続けて悠也が尋ねたが、やはり聖は首を横へ振った。しかし、その直後に何か思い出したのか、首を傾げながらぽつりと言った。
「あの……関係ないとは思うんですけど、晴明神社には、恭子のような晴明ファンの方を何人か見かけましたけれど……陰陽師ブームですし、今」
 手掛かりになるような、ならないような聖の話。思案する悠也と遼。柊が静かに煙を吐き出した。

●『櫻月堂』にて・2【2】
 恭子のマンションへ行っていた3人も合流し、賑やかになる骨董屋『櫻月堂』。7人は今夜の行動について、作戦を練ることにした。
「話にあった荒れ寺を調べようとしたけど、おかしいんだ」
 テーブルの上に広げられた地図を指差し、瀧川七星が言った。
「昼間に行くと誰も居るような気配がない。夜に行くと、何故か近付くことができない。俺だけじゃない。近所の住人もそんな感じらしい。そう……この範囲かな」
「人だけじゃなくて、猫や犬なんかもそうみたい。ここに居るの……かな?」
 七星の言葉に、白雪珠緒が補足した。各々情報網を活用して手に入れた情報だった。
「結界ですね」
 話を聞き、即座に斎悠也が答えた。
「恐らく邪魔が入らないよう、その偽晴明が術を施したんでしょう。向こうも警戒しているはずですから」
「……先日の失態が痛いですね」
 うつむき加減に草壁さくらがつぶやいた。
「済んだことだ、いつまでも気に病むな」
 さくらを慰めるように『櫻月堂』店主の武神一樹が言った。
「結界を張っているくらいだからね。敵陣では何をしているか分かったもんじゃない」
 耳のピアスを弄びながら、秋津遼が言った。確かにそうだろう。結界だけで済むとは到底思えやしない。行けば式神の大群がお出迎え、なんてこともあるかもしれない。
「だが、人を危ぶめるあやかしを放っておく訳にもいかない。そうだろう?」
 煙草をくゆらせ、国枝柊が皆に言った。煙が珠緒の方へ流れ、珠緒が顔を顰める。
「一樹様。あの偽晴明の所業を止められなければ、人と妖の境界線にいらぬさざ波をたてることになります。それを捨て置く訳にはいきません」
 神妙な表情で言うさくら。その決心は固い。
「失敗は許されないな……」
 天井を見上げ、静かに言う一樹。短いその言葉が、一同に重くのしかかった。

●尾行開始【3】
 真夜中――7人は恭子の住むマンションの近くへ集まっていた。
「前回はこの時刻でした」
 さくらが懐中時計を懐より取り出す。年期の入った代物だった。
「ふらふらと出てきて、荒れ寺に向かったんだ」
 玄関を見張りつつ遼が言った。恭子が敵の術中にあるならば、今夜もまたこの時刻に出てくる可能性が高い。
「もし出てこなかったら、あたしが囮になっておびき出してあげる」
 ウィンクする珠緒。それを柊が鼻で笑った。
「その心配はなさそうだ」
「にゃ?」
「魔の術には、鎮静剤ごときでは役立たずらしい。あれを見るといい」
 柊は自嘲気味な笑みを浮かべると、煙草を足元に投げ捨て踏み消した。
「……時間通りか」
 ぽつりつぶやく一樹。玄関先に恭子の姿が見えていたのだ。
「行きますか。蜘蛛退治に」
 さあっと前髪を掻き揚げる悠也。一同は恭子に気取られぬよう、慎重に跡をつけていった。

●仮説【4】
「あれから時間があったんで、また調べてきたけど」
 恭子の後を追う途中、七星がそう切り出した。
「京都で人骨が見つかったろ? そのうちの2人の身元が判明してたよ」
「どこの誰なの、七星?」
 興味津々といった様子の珠緒。七星の顔を覗き込むように見ていた。
「京都と福岡のどちらも若い女性。家族から捜索願が出されていたのがこの1、2年のことらしいけど」
「1、2年ですか?」
 悠也の頭に何かが引っかかった。
「うん。他にも、身元はまだ分かってないけど、比較的新しい人骨があったなんて話も耳にしたけど」
「晴明神社……晴明……陰陽師……ここ最近……」
 ぶつぶつとつぶやきながら、推測を立ててゆく悠也。やがて1つの仮説にたどり着き、はっとした表情を見せた。
「……陰陽師ブームか!」
「え? ああ、そりゃまあ、小説や漫画は面白くて人気だし、映画も好評だったようだし……ブームになるのは当然だろうけど」
 小説家らしく七星が述べた。
「なるほどね。ブームになり、晴明に憧れを抱いた若い女性が神社を訪れる。そこで目星をつけた相手に対し、晴明の姿に化け接触する……上手いやり方だね」
 くすくすと笑う遼。楽しんでいるのか、それとも馬鹿にしているのか。
「皮肉な物だ。魔を封印していた者の姿に化けるとは」
 淡々と話す柊。本当に皮肉な話である。
「そろそろじゃない……結界だっけ? その場所」
 小声で珠緒がつぶやいた。間もなく結界のあると思しき場所へ差し掛かろうとしていた。

●結界【5】
 先を歩く恭子は何ら変わることなく、荒れ寺へと歩いてゆく。だが一同は結界の手前で歩みを止めていた。
「まずは結界を消滅させねば」
 ずいと前に進み出る一樹。すっと右手を宙にかざし、意識を集中させる。そして2分後――辺りの空気が揺らいだ。結界が消滅した瞬間だった。
「……急ぐとしよう。すでに彼女は寺に入っているかもしれない」
 一樹を先頭に小走りに駆け出す一同。途中悠也が皆から外れ、別の道へ消えた。
 荒れ寺の門前へ到着する悠也以外の6人。恭子の姿を見かけなかったことからすると、すでに中に入っているのだろう。そこに遅れて悠也が姿を見せた。
「どうされたんです?」
「結界の準備です。ここで逃がす訳にはいきませんからね」
 悠也は懐から護符を取り出すと、さくらに見せた。全員が中に入ってから、結界を発動させる気だ。
 そして囲いを全員が乗り越えたのを確認し、悠也が最後の護符を貼って結界を発動させる。結界が消滅した時と同じく、一瞬空気が揺らいだ。
 戦いの瞬間が刻々と近付いてきていた。

●確保【6】
「出てこい、偽晴明!」
「出てくるにゃ、偽物!」
 本堂の前に2人並び、叫ぶ七星と珠緒。勢いよく音を立てて障子が開いた。そこには白い直衣をまとい烏帽子を被った青年と、背後に隠れる恭子の姿があった。
「この晴明を偽物呼ばわりするとは……そなたたち、何者だ」
 薄く微笑む青年。七星が青年を睨み付け答える。
「何者だっていいだろう。よくも俺のお気に入り、2人もいじめてくれたな。あの子たちをいじめていいのは、俺だけなんだよ」
「ほう……先日の者どもの仲間か。それでどうしようというのだ?」
「魔物はこの珠緒さまが狩ってやるにゃっ!」
 さっと身構え、戦闘準備をとる珠緒。七星もすぐに動けるように身構えた。
「晴明様……」
 怯えたような瞳を青年に向ける恭子。青年は恭子へ優し気に言葉をかけた。
「恭子殿、心配いりませぬ。何……すぐのことです」
 青年は懐から人型の紙を4枚取り出して息吹を吹きかけた。舞い上がった紙4枚は、たちまち鬼の姿へと変わり2人に襲いかかってきた。
「2人だけで来るはずがないって、どうしてそこで思わないかな」
 低いつぶやきと共に、先頭の鬼が黒い炎に包まれた。立て続けに残り3体も黒い炎に包まれ倒れた。
「同じ手に引っかかるなんて、本当に甘いよね」
 くすくすと笑いながら遼が姿を現した。だがしかし、ここに来るまでの遼とは様子が違っていた。耳が尖り爪が伸び、そして口元から覗く鋭い牙――リミッター解除を施した遼の姿であった。
「今度はこっちの番にゃっ!!」
 青年に飛びかかる珠緒。指先から爪が鋭く伸びていた。珠緒の攻撃をかわす青年。珠緒の身体が、青年と恭子を分断するように舞った。
(今だ!)
 七星は恭子の方を向き、全神経を集中させて両腕をぐいと引いた。すると恭子の身体が糸でもあるかのように浮き上がり、一気に七星のそばまで吹っ飛んできた。七星の能力『念動力』が発現した瞬間だった。
 七星は恭子の腕をつかみ、そのまま青年から遠ざかり叫んだ。
「彼女は確保した!」
 その声に、隠れていた一樹とさくら、そして悠也が姿を現した。
「観念なさい、晴明の名を騙る者よ!」
 さくらの鋭い声が飛んだ。
「うぬ……またもやこの晴明の邪魔立てをするか!」
 さくらの姿を見つけ、忌々し気に言う青年。
「晴明? 本物のことかな。だったらあそこに居るよ」
 遼がすっと誰も居ない場所を指差した。するとどうしたことか、たちまちそこに人の姿が現れた。青年と全く同じ姿をした青年が――。

●2人の晴明【7】
「晴明様が2人……?」
 恭子は目の前の光景に、ただ唖然としていた。
「よく見てるといいさ。偽物の正体はもうすぐ明らかになる」
 恭子の耳元で七星が囁いた。
「晴明……っ!」
 青年――偽晴明がぎりっと奥歯を噛み締めた。現れた青年を見つめるその瞳には、憎しみの色が滲んでいた。
「いやっ、あいつがここに居るはずがない……っ! 正体を暴いてくれる!!」
 懐から紙を取り出そうとする偽晴明。それより一瞬早く、青年が動いた。九字の手印を切り、両目を閉じて念じ出す青年。
(むっ!)
 青年の動きに合わせ、一樹が偽晴明の能力の封じ込めに入る。青年は実はさくらの作り出した幻影であった。
 偽晴明が人型の紙を5枚取り出して息吹を吹きかけた。舞い上がった紙5枚は、そのまま何の姿に変わることもなく床へ舞い落ちた。
「ばっ、馬鹿な!!」
 意外な出来事に戸惑いを隠せない偽晴明。その間も一樹による封じ込めは続く。そして青年がカッと目を見開いた瞬間に合わせ、一樹も一気にその能力を発動させた。偽晴明の擬態を解くために。
「うっ!? う……ぐぅっ……ぐがぁっ……ぐぁぁぁぁっ!!」
 偽晴明が苦しみ出したかと思うと、たちまちその姿が変わってゆく。やがて端正な顔立ちの美青年だったその姿は、醜く巨大な土蜘蛛へと変貌を遂げた。
「きゃぁぁぁぁぁっ!!」
 悲鳴を上げ半狂乱になる恭子。無理もない、先程まで毎夜のごとく情を交わしていた相手が土蜘蛛であったのだから……。

●決着【8】
「おのれ……おのれぇっ! 晴明諸共、皆殺しにしてくれるわぁっ!」
 怒りの声を発する土蜘蛛。蜘蛛の糸を四方八方に放ち、この場の全員を搦め捕ろうとする。
「甘いにゃ!」
「無駄だって」
 珠緒と遼は自らに向かってきた糸を爪で薙ぎ払った。そして他の者へ向かった糸はというと――。
「はあっ!!」
 悠也が『火神の符』を放つと、糸は即座に燃え上がった。
「陰陽道に縁があるのはそちらだけじゃありませんよ」
 静かに言い放つ悠也。もちろんそれだけでは終わらない。懐から和紙で折った蝶を数多く取り出すと、先程偽晴明が行ったように息吹を吹き込んだ。舞い上がった和紙が本物の蝶へと姿を変え辺りを舞う。
「残り火を彼の者に!」
 蝶たちに指示を出す悠也。蝶たちは燃え上がった糸の残り火を身にまとうと、炎の蝶となり土蜘蛛目掛け舞ってゆく。
「ぐぉぉっ! 熱いっ! 熱いぃぃっ!!」
「どうですか、本来獲物のはずの蝶に焼かれる気分は」
 蝶たちに焼かれつつある土蜘蛛を冷ややかに見つめ、悠也が言った。
「まだまだ終わらないにゃ!」
「簡単には終わらせないよ」
 土蜘蛛に対し、鋭い爪で脚を切り裂いてゆく珠緒。そして終始笑みを浮かべ、じわじわと黒い炎を浴びせてゆく遼。土蜘蛛の力が弱ってゆくのは見て明らかだった。
「おのれっ、おのれぇぇぇっ! こうなればただでは死なぬ、ただでは死なぬっ! 1人でも多く道連れにしてみせるわぁぁぁっ!!」
 怒り狂う土蜘蛛。最後の力を振り絞り、一番近くにいた悠也へ襲いかかろうとした。
「だから甘いって言ってるんだよ」
 遼のつぶやきが土蜘蛛には聞こえた……かもしれない。何故ならその瞬間、背後から胸部を貫かれていたのだから。
 土蜘蛛の背後、本堂の中にはいつの間にか白い仮面を着用した者が立っていた。その白い仮面の人物が霊力で伸ばした爪での手刀によって、土蜘蛛は貫かれていた。
「……私の『治療』は荒療治だ」
 白い仮面の中から柊の声が聞こえた。前回の戦闘で土蜘蛛の甘さに気付いていた遼の提案で、柊はこの瞬間まで潜んでいたのだ。不意を討ち、最後の一撃を与えるために。
「魔を絶つには魔をもって為す……」
 柊は手を大きく動かすと、一気に土蜘蛛の身体を切り裂いた。
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
 断末魔の叫び。2つに切り裂かれた土蜘蛛の身体は、音を立てその場に崩れ落ちた。そして徐々に干涸びてゆき……やがて消え失せた。

●後日談【9】
「これは俺の想像だけどさ」
 そう前置きして七星が話し出した。土蜘蛛を倒してから3日後、『櫻月堂』での話だ。
「どのくらいか昔からかは分からないけれど、人をたぶらかしては食料にしていたんじゃないかな。この21世紀の世の中までずっと」
「私もそうではないかと思います。恐らく京都の持つ独特の気が、ああいった妖の者を生み出したのかもしれません」
 さくらが大きく頷いた。
「調べるともっと古いのが出てくるかもしれないよ」
 コンビニで買ってきた各新聞をテーブルの上に置く七星。各紙とも1面で人骨の件を扱っていた。
「で、そうして生きていた所に陰陽師ブームが来た訳だね。長く生きていれば、化ける力も備わっていたんだろうね。ひょっとしたら本物の晴明を知っていたのかもしれない。私は会いたくもないけど」
 冗談とも本気ともつかないことを言う遼。
「京都に長く生きていて身に付いた妖力と、何らかの方法で修得した陰陽の術。放っておけば、今度は東京で犠牲者が増える所でしたね、きっと」
 神妙な顔付きで悠也が言った。
「……もしかすると、人骨が見つかることを察知していたのかもしれないな」
 皆の話を聞いていた一樹が口を開いた。
「でなければ京の地を離れる理由がない。人骨が見つかって、退治に来られると困る。その前に逃げ出した……そう考えるのが妥当だろう」
「土蜘蛛食べたかったにゃ……頭からこう、ばりばりと」
 残念そうな表情の珠緒。消滅してしまったのだから、食べるも何もない話だ。
「おい」
 七星が肘で珠緒に突っ込みを入れた。
「そういえば恭子様のご様子、大丈夫なのでしょうか。あの後、できる限りのことは行いましたが……」
 心配そうなさくら。土蜘蛛を倒した後、幻影の晴明を操り、『自らの名を騙る妖を滅ぼすために仮初めに現世に降り立った』と恭子に伝え、『再び魔に魅入られぬよう心をしっかり持て』とも言い含めておいた。多少は恭子の心の傷は軽減されているかもしれないが、元々の傷がどの程度なのかがさっぱり分からない。
「心配するな。今は私が診ている」
 煙草を銜えたまま柊が言った。
「私への依頼料は高いんだが……まあ、今回は晴明にでも請求しておくとしよう」
「精神面で何か手立てが必要なら、俺に言ってほしい。一応調べてある」
 七星が柊に言った。やはり七星も気になっていたようだ。
「何、精神系の医師には大勢心当りがある。未だに借りを返してもらっていない者も多く居るからな」
 さらりと言う柊。灰皿で煙草を消すと、また新しい煙草を銜えた。
「そういえば昨日患者宅へ行くと、玄関前に花束が置いてあったが……」
 皆の顔を見回す柊。悠也が気取られぬよう視線をそらした。
「陰陽師に興味を持つ者が増えるのはいいことなのかもしれないが……」
 再び口を開く一樹。
「……そのすぐ足元には闇が広がっていることも理解してほしい物だ」
 さくらがこくこくと頷いた。

【蘇る晴明?【完結編】 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0164 / 斎・悠也(いつき・ゆうや) / 男 / 21 / 大学生・バイトでホスト 】
【 0258 / 秋津・遼(あきつ・りょう) / 女 / 20前後? / 何でも屋 】
【 0338 / 国枝・柊(くにえだ・ひいらぎ) / 女 / 20前後? / 闇医師 】
【 0177 / 瀧川・七星(たきがわ・なせ) / 男 / 26 / 小説家 】
【 0234 / 白雪・珠緒(しらゆき・たまお) / 女 / 20代前半? / フリーアルバイター。時々野良(化け)猫 】
【 0134 / 草壁・さくら(くさかべ・さくら) / 女 / 20前後? / 骨董屋『櫻月堂』店員 】
【 0173 / 武神・一樹(たけがみ・かずき) / 男 / 30 / 骨董屋『櫻月堂』店長 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で、NPCを姓で表記するようにしていますが、一部例外もあります。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全10場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・完結編の終了です。無事に土蜘蛛も皆さんの手により倒され、恭子も少しずつ回復しております。プレイングによっては恭子の死亡等も視野に入れていましたが、結果としてそんなことを考えずに済み、高原は胸を撫で下ろしています。
・ちなみに、前回と同じく場面は普段程細分化しておりません。
・斎悠也さん、6度目のご参加ありがとうございます。京都で見つかった人骨は、土蜘蛛の仕業でした。各種の術は正解でした。あれでかなりのダメージを負わせていますので。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。