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調査コードネーム:『何で人は人を殺すのかな?』
執筆ライター :日向 祥一郎
調査組織名 :ゴーストネットOFF
募集予定人数 :1人〜7人
----------<オープニング>------------------------------------------------------
「幽霊の出る公園の書き込みが最近増えてるんだ。ほら見て、ここも、ここも…… ほら、ここだって。ね? おもしろそーでしょ」
そう言ってBBSの書き込みを見ながら瀬名雫がニコリと笑う。
「書き込みによると……深夜2時、この住所のマンション裏の公園に小学生くらいの女の子の幽霊が出るんだって。
で、その幽霊はそこに来た人にこう尋ねるらしいの。
『何で人は人を殺すのかな?』って。
でね、この答えに答えられないと、その女湖の幽霊は、答えがないんだったら殺しても良いんだよねって、答えられなかった人を殺しちゃうんだって。
ね? ね? キョーミない? こういう話。
この話がホントなら、この子はどんな答えを望んでいるのかな?
君はどう思う?
君ならどんな答えをその子に答えてあげるのかな?」
そう言って雫は貴方に尋ねる。
「ふーん…… まぁ、答えは人それぞれだよね。けど、君が考えた言葉をこの子に伝えてあげたら面白いと思わない?」
そう言った雫の目は、君にこの場所に行って確かめてこいと訴えていた。
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<本編>
ゴーストネットカフェでは雫の呼びかけに答え、5人が集まっていた。
「何で人は人を殺すのかな、ねぇ……難しい質問ですね」
滝沢百合子のその台詞に皆が頷く。
「で、どうするんだい? 直ぐにこの場所に向かうかい?」
「そうだね〜 今日は火曜日で明日はお店も休みだから丁度良いし〜 みんなも今からでいいよね〜」
実家が蕎麦屋を経営している河内出海の申し出に皆が頷くが、ただ一人瀬田茅依子が口を開く。
「あ、私はちょっと気になることがあるから、後から行くわ」
「じゃあ、現地で会おう」
脱色による金髪にカラーコンタクトの蒼い瞳に派手なスーツを着込んだおよそ高校教師に見えない有賀仁がそうまとめると、皆が行動を開始するのだった。
*
*
問題の公園は住宅街の中にあった。もともと大きい公園だが深夜という言うこともあり辺りに人の気配はない。
「ここは結構草花が豊富ね……助かったわ」
公園内に飢えられている木々や草花を見て緋櫻華澄が呟く。千年を生きる吸血鬼ならぬ『吸血樹』である彼女にとって木々や草花は仲間であり、協力者でもある。
「何が助かったんですか〜」
スローテンポの口調で尋ねる河内出海。
「いえ……独り言よ。ちょっと失礼するわ」
そう言って緋櫻華澄はその場を離れる。草花に事件について尋ねようと思うが、回りに『人間』がいては都合が悪い。
「どうしたんでしょうね」
「彼女にも何か都合があるんでしょう。」
*
*
「ちょいと聞きたいんだが、ここが幽霊の出るって言う公園かい?」
タバコを吹かしながら一人の工事現場が似合いそうな雰囲気の筋肉質の男が近づいてくる。
郊外で農業を行って生計を立てている山崎竜水だ。
「幽霊見物、ですか?」
滝沢百合子が尋ねる。
「まぁそんなところだな。ヘンなメールが来てな。ここに『人が人を殺す理由』を聞く幽霊が出るって言うから一言、言ってやりたいと思ってな」
「あら、それは……私達と一緒のHPを見たようですね」
「なんだ、そうなのか?」
「う……ん……じゃあ、そのご一緒しますか?」
「そう言ってもらえるとありがたいねぇ」
*
*
一方、直ぐに公園に行くのではなく、付近で起きた少女が死んだという事件を調べる選択をした、瀬田茅依子は図書館で過去の新聞を検索していた。
幽霊の少女がいるとして事故ではなく殺人事件ではないかと思い、その事件を調べているのだ。
この図書館の閉館時間は午後十時。時計の針は十時十分前を指している。時間的にギリギリだが瀬田茅依子はまだ新聞を広げていた。
「え……これって……」
その時、新聞の中の小さな記事が目に入る。地区は同じ。少女が死んだのも、同じ。
「……これだわ。って、これって……急がないとっ!」
その記事を読んだ瀬田茅依子は急いで図書館から出るのだった。
*
*
一人、緋櫻華澄は公園の草花に、ここで死んだ少女がいないかを尋ねて回っていた。
「そう……ですか。ここで最近死んだ子供はいません、か…… どうも有り難うございまいした」
花壇の花に一礼し、そして次の木々に向かう緋櫻華澄。
「今度はあの桜に聞いてみようかしら……」
公園の中央に位置する大きな桜は、草花の話ではこの公園の長らしい。
聞けば何かが判る可能性は高い。
そう思い、緋櫻華澄は桜へと話しかける。
「……え? ここに死体を持ってきた女性がいる? そのお話、もうちょっと詳しく教えていただけますか?」
手がかりらしい物を聞き緋櫻華澄は、更に話を聞こうとするが、その時辺りに霊気が立ちこめるっ!
「え?」
次の瞬間、緋櫻華澄の身体は見えない力に掴まれ、桜の木へと叩き付けられ、そして気を失うのだった。
*
*
深夜二時、辺りが静まりかえり空気が冷え冷えとしてくる。
「話だと、そろそろ、か」
そう言って派手な腕時計で時間を確認する有賀仁。
「ボク、眠くなっちゃったよ〜」
そう言って持ってきたお菓子やらを食べ尽くした河内出海は大きな欠伸をした。
「少しは緊張感ってのを持ったらどうだ?」
有賀仁はそう言って河内出海を窘めるが、
「ホストみたいな恰好した先生に言われたくないな〜」
「人を外見で判断するのは良くないって言われなかったか?」
そんな会話を二人が行っているのを、山崎竜水と滝沢百合子は、あきれ顔で見ている。
その時、幼い少女の声が風に乗って聞こえてくる。
「『何で人は人を殺すのかな?』……」
皆がその声の元に視線を送る。
そこには半透明の身体を持つ十才程度の少女が地上十センチの箇所に『浮かんで』いた。
そしてその少女は空中をスライドするかのように、公園の中心に向かい進んでいく。
その少女が立ち止まり振り向いたのは公園の中央に位置する桜の木の下だった。
「ねえ、あれって緋櫻さんじゃ」
滝沢百合子が指さした方には、横たわる緋櫻華澄の姿が。
「誰だかしらねぇがたすけねぇとっ!」
そう言って山崎竜水は駆け寄ろうとするが、その前に幽霊の少女が立ちふさがる。
「ねえ……『何で人は人を殺すの?』」
静かに山崎竜水に幽霊の少女が尋ねる。
「気に食わないから殺すんだ。動物は純粋だ、腹が減ったら食う為に殺す、自分の居場所を護る為に殺す。そう言う意味では「ヒトゴロシ」ってのは酷く純粋で、動物じみた存在だと思う。理性を押さえる事が出来なかった人間は、…果たして「ヒト」と呼んでいいのかは分からないがな。正当防衛でも無い限り、俺にとって「ヒトゴロシ」は狂った「ケモノ」だ」
有賀仁は幽霊の少女の前にしゃがみ、目線を合わせて語りかける。この辺りは外見からは信じられないが教師という雰囲気がある。
「人が人を殺す時に理由を付けようとすンのは、自分に言い訳をする為であって相手を本当に殺して良い程の理由なんてねェ。誰も人を殺す事を正当化しちゃいけねーし理由となるべき物があったとしてもそれを抱えて一緒に生きて行くべきなんだ」
「……お姉ちゃんはどう思うの?……」
滝沢百合子に視線を移す幽霊の少女。
「『なんで人は人を殺すのか』って… 私は『想像力の無い人が、望むものを手に入れるため』だと思うわ」
「想像……力?」
幽霊の少女が首を傾げる。
「ええ、想像力。
私は思うの。その人を殺したらどうなるか、また自分も同じ理由で殺されたらどう思うか、それが想像できない、自分のことしか見れない人が殺人なんて罪を犯すからよ。殴られたら痛いって、なんでわからないのかしらね。赤の他人が強制的に終わらせちゃうなんてこと、あってはいけないはずだから」
さらに河内出海は言葉を続ける
「ボクはねぇ〜『人を殺すのは自分自身を殺す事だ』って本で読んだことあるよ〜。上手くは言えないけど〜、人を殺したら殺した人も過去に縛られて未来へ進めなくなるんじゃないかなぁ〜」
「……」
「で、これはボクからの質問〜。なんで君は人を殺すの〜?」
「……判らない……何で私は…… みんなが嫌いなのかな……」
そう言った次の瞬間、少女の目が赤く光るっ!
『ぐっ!』
刹那、全員の首を見えない腕が締め上げるっ!
「何で……私は……」
「待ってっ!」
そう言って駆け込んできたのは瀬田茅依子だ。図書館から大急ぎで来たので息が上がっているが、そのまま言葉を続けるっ!
「お姉ちゃんは……」
「ハアハア……キミは……金田朋美ちゃんだね?」
「……何で私の名前を……」
「キミのことを調べたんだ。キミのことが気になって、調べたんだ。
だからキミが何故殺されたか判る。
キミは……お母さんに殺されたんだね」
「……何でお母さんは私を殺したの? 何で殺せたの?」
「違うの、キミのお母さんはキミを殺したかったんじゃない。病気だったのよ。キミのお父さんが死んで、心の病気にかかって、それでキミが判らなくなって衝動的に殺しちゃったのっ!
キミのお母さんは病気だったのっ!」
「お母さんが……心の病気……」
「そう、よ…… 貴方のお母さんは貴方を愛していた……」
そう言って気絶から覚め立ち上がる緋櫻華澄。
「この桜が言っているわ。貴方がどれだけお母さんと一緒に、ここで幸せそうだったか…… だから心が病気になってしまった貴方のお母さんは、ここに貴方の……身体を埋めたのよ。この桜の木の下に」
「そっか…… 私はお母さんに嫌われたんじゃなかったんだ…… やっぱり『人が人を殺す理由』なんて…… ないんだね。
人を殺す人は、きっと心がみんな病気なんだ……」
そう言って寂しそうに少女は笑うと、その足下から燐光が立ち上り、そしてその姿が次第に消えていく。
「私も病気になりかけてたんだね……」
そう言った少女は……次の瞬間消え去った。
「……生まれ変わって幸せを願うなら、命を大事にする思いやりのある心を持ちなさいね」
そう呟くと緋櫻華澄は桜の木の下にいつの間にか手に持っていた胡蝶蘭の花をそっと手向けた。
その花言葉は『幸せが飛んでくる』だ。
------------------------------------------------------------------------<終>
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0301/山崎・竜水 / 男/ 38/ 農夫
0323/緋櫻・華澄 / 女/ 999/花屋のお姉さん
0070/有賀・仁 / 男/ 27/ 高校教諭
0057/滝沢・百合子/ 女/ 17/女子高校生
0293/瀬田・茅依子/ 女/ 18/エクソシスト(普段は高校生)
0357/河内・出海 / 女/ 16/ 高校生
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■ ライター通信 ■
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初めまして日向祥一郎といいます。今回の東京怪談、楽しんでいただけましたでしょうか?
少し個人の感覚が入るテーマでしたので、皆様個人が持つ『答え』としては満足行かない結果に終わったかも知れませんが、ご了承下さい。
なおこの少女は現実には人を殺しておりません。殺す寸前で開放しています。だからこの公園では殺人事件は起こっておりません。
事件が起こったのはあくまで少女の死体が母親の手によって埋められた死体遺棄事件のみです。
この点に緋櫻・華澄さんは辿り着いていますので依頼的には大成功です。
それでは、またいつか皆様のPCを描かせて頂けたら、と思います。
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