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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


10都市物語「東京駅」〜落魂陣〜

<オープニング>

「どうやら、また厄介な事件みたいよ・・・」
碇麗香は依頼内容を説明した。
この頃東京駅構内で何人もの人がいきなり突然死に見舞われるという事件が多発している。勿論偶然といえばそれまでだが、その数が半端ではない。100人を超す勢いなのだ。死ななかった人間も凄まじい疲労を感じて寝込んでしまう始末。テロの可能性も考えられるので警察なども調査に乗り出したがまったく成果が上がらず逆に警察が被害者を出してしまう始末。霊能者たちは口々に強い霊気を感じると言い出し東京駅は閑散としてしまっている。
「この事件、調べてきてもらえないかしら?確かに危険な依頼だと思う。だけど、いえだからこそ貴方たちに調べてきて欲しいのよ。できれば解決してほしいくらい」
碇はそう言ってこの事件の調査を貴方たちに託すのだった。

(ライターより)

お久しぶりの10都市シリーズです。今回の舞台は東京駅。敵は勿論一聖九君。範囲、効果ともにかなりの威力をほこる陣が相手となります。迂闊な行動が死に直結する危険性を秘めていますが逆に上手くいけば事件の真相に近づくことができるかもしれません。今までのシリーズに参加されていなくてもまったく問題ないので初参加の方もお気軽にご参加ください。
それでは皆様のご参加を心からお待ち申し上げます。

<不安>

「千白さん、もしかしたらあの連中に関する依頼かもしれませんよ。起きて下さい!」
机に突っ伏して寝ている女性を栗毛色の髪をしたが揺り動かして起こした。
「う、ううん・・・。あ〜よく寝た。なんだい高柄じゃないか。人が折角優雅に昼寝しているというのに起こすんじゃないよ」
起こされた女性は大きく伸びをして欠伸をした。トロンとした瞳はまだ半分の寝ぼけているからだろうか。それとも生来の面倒くさがりの性なのか。
彼女の名前は鷲見千白。探偵事務所の形式上の経営者であり、実質昼行灯。ぼさぼさの手入れのされていない髪に、ヨレヨレの男物のシャツにズボン。着ている者の性格を現してあまりある格好だ。色も汚れが目立ちやすい黒なのでところどころシミが目立つ。
彼女を起こした青年の名は各務高柄。現役大学生でありながら家事、事務処理に長けている実質上の探偵事務所経営者。同じシャツにズボンというラフな格好だがピシッとノリが効いていて几帳面な性格を感じさせる。シックなベージュの色も彼に落ち着きと品性を与えておりよく似合っている。
着衣はその者の性格を表すというがこれほどまでに如実に表されていると言葉が無くなる。そんな雰囲気を持つ二人であった。
「そんな悠長に構えている場合ではありませんよ。これを見てください」
各務から手渡されたファイルに渋々目を通す鷲見。依頼内容を読むにつれ彼女の瞳に鋭い光が宿る。
「こいつは・・・。あいつらかねぇ」
「多分・・・」
二人の脳裏に浮かんだ言葉。
一聖九君。
特殊な異空間に敵を引きずり込み抹殺する異能者集団。現在東京の各地で破壊活動を行っているようだがその正体や目的に関しては皆目不明。生け捕りにしようにも謎の女魎華が処分してしまうため生け捕りすらできない有様。その連中がまた現れたというのが今回の依頼内容だった。場所は東京駅。人の多さでは首都東京でも1,2を争う多さだが現在は閑散として無人駅に近い状態になっているという。
「あいつらが出るんなら仕方がないね。行くか・・・」
鷲見はその重い腰を上げた。
「ああ、そうそう紫月さんが連中の一人、ええと白天君でしたっけ。あいつの死体解剖結果を調べに行くそうですから僕もそっちに同行してみるつもりです」
「高柄、まさか君今回の依頼に参加するつもり?」
「そうですよ。何か問題でも?」
あっさりと答える各務に、鷲見が慌てて押し留める。
「何を言ってるんだい。だいたい君は戦闘力なんてないじゃないか。無茶だよ」
「調査やサポートなら出来ます。それに僕もあいつらのやり口嫌いですし・・・」
「いや、そういう問題ではなくて・・・」
実は陰陽師である鷲見の師匠は各務の父親に当たる人物なのだ。師匠の手前、息子である各務に何かあっては合わせる顔がない。そんな鷲見の胸中を知ってか知らずか各務はコートを羽織って事務所を出て行こうとする。
「ち、ちょっと高柄・・・!」
「あ、そうそう東京駅には直弘君が先に行ってるみたいだから、合流したほうがいいと思いますよ。それじゃ行ってきます」
バタンと閉じるドアに視線をやって、鷲見は大きくため息をつく。
「ああ、なんだかさらに面倒くさくなってきたような・・・。
仕方ない、準備するか」
どっこらしょと立ち上がって、なにやら倉庫をあさり始める彼女であった。

<消えた死体>

四谷大学医学部。ここは法医学を専門に教授している大学で、警察からの解剖の調査依頼も多く引き受けているその道の名門である。大学内部には複数の解剖室があり、その中の一室で今、解剖が行われようとしていた。
「それにしても無茶を言うもんだね。他大学の司法解剖に立ち合わせてくれなどと・・・」
「申し訳ありません。興味のある検体だったものでどうしても見てみたくて」
「まったく・・・。蘇芳教授からの頼みでなければ断っていたところだよ」
廊下を歩きながら二人の男が言葉を交えていた。一人は白髪交じりの中年の男。もう一人はまだ20代前半くらいの容姿をした青年。二人とも白衣を着ているところから医学部の教授と学生と言ったところだろうか。中年の男性が苦笑まじりで話し掛ける。
「しかも部外者も立ち合わせろなどと・・・。一体あの遺体に何の興味を引く個所があるのかね?是非聞きたいものだな」
「まぁ、なんと言うか珍しい死因ですからね、この時代に刃物、しかも刀による傷なんて滅多に見られるもんじゃありませんから・・・」
同じく苦笑交じりで答える青年。そんなものかねとつまらなそうにつぶやくと、中年の男は立ち止まり一室のドアを開けた。中には壁一面を埋め尽くす書物の類と、いたるところに紙が散らばっている机が置かれたこじんまりとした部屋だった。部屋には既に客が訪れており、ソファから立ち上がるとペコリとお辞儀をした。
「この度お世話になります。各務高柄と申します」
そう、客とは探偵事務所の事務員各務であった。知り合いとが以前倒した一聖九君の一人の司法解剖が行われるので立ち会ってみると聞いていたので、是非同席したいと申し出ていたのだ。
「君も変わり者だな。文型畑の学生が死体の解剖なんか見てどうする気だね」
「いや、まぁ興味があるだけで・・・」
「ふん、まぁいい。一応蘇芳教授の頼みだからな。好きにするがいい。まだ準備に時間がかかるだろうからしばらく待っていたまえ。ああ、紫月君。君が欲しがっていた資料はそこの机に用意しておいたから適当に読んでくれ」
「有難うございます。教授」
紫月と呼ばれた青年は慇懃にお辞儀をした。
紫月夾。漆黒の髪に瞳を持つ医大で法医学を専攻する医学生である。だがそれは表向きのこと。彼はもう一つ裏の顔を持ち合わせている。それは暗殺者としての顔。幼少の頃より暗殺者としての技術を叩き込まれた彼は、暗殺術をマスターし鋼糸で瞬時に標的を処理する技術に長けている。白衣の下は上か
ら下まで全て黒一色で統一されているが、その下の体は細身ながらよく鍛えられ引き締まっており、身のこなしには隙がない。
以前の依頼で倒した一聖九君が一人白天君の遺体がこの大学で司法解剖されると聞きつけた彼は、担当教授のコネを用いて解剖の現場に立ち会えるよう頼み込んでいた。そしてそれは承認され今日立ち会うことになっていた。
「連中の体が一体どうなっているのか、興味深いところだな・・・」
紫月が書類に目をとおしながらつぶやいた。一応体内の薬物反応などは調査済みのようで、検出されたデータが記載されていた。
「どうですか?」
「やはりいじられているな・・・。筋肉増強剤が数種類投与されている。それにこれは麻薬?覚醒剤反応も見られるようだ」
「覚醒剤?そんなものを・・・」
「ただ、通常の覚醒剤とは若干成分が違うようだ・・・。改悪種か」
兵士が戦闘に赴く際、最も邪魔になるのが恐怖である。常に自分の命が危険に晒されているのだから当然のことなのだが、恐怖は兵士の士気の低下を招き、使い物にならなくなる恐れがある。そこで薬物を投与することで一種の興奮状態を作り出すことで恐怖を感じない兵士を作り上げることができる。かつて旧日本軍ではヒロポンと呼ばれた覚醒剤を兵士に投与することで兵士の士気を上げていたという。一聖九君もそれと同じような同じような処置が施されていたらしい。
そのような事を話していると、先ほど部屋を出て行ったはずの教授が慌てて駆け込んできた。
「大変だぞ、紫月君!例の死体が盗まれた!!!」
「「なんですって!?」」
二人の驚きの声が室内に木霊した。

<陰陽師と吸血鬼>

東京駅。皇居近くの東京の中心点に置かれた駅。多くの鉄道線路が走り内部は広大である。現在はくだんの突然死騒ぎで人っ子一人いない廃墟と化している。
そんな駅構内を、三人の男が歩いていた。
「そうですか・・・。死体は無くなってしまったのですね。分かりました。ではこちらで合流ということで」
携帯電話の通話を終えて、その中の一人が二人に話し掛けた。この中で一番年上の落ち着いた風貌の持ち主だ。
「久我さん。薫様。どうやら一聖九君の死体はどこかに消えてしまったようです」
「消えただと?」
「ええ。司法解剖のために大学に運び込まれていたようなんですが、忽然と消えてしまったとの事です。恐らくは連中が・・・」
「回収したというところか?」
「ええ」
久我と呼ばれた男が「ふむ」と考え込む。長身のその体を黒のスーツにコートで包みこんだ彼の名は久我直親という。陰陽師の名家に属する者なのだが、現在はフリーランスの陰陽師として依頼を受けている。だが、今回の依頼はその久我家から直接解決するよう命が下された。異例なことなのだが、それだけ本家もこの事件を重く見ているということなのだろう。
「久我さん、魎華と言う女性は彼等を兵器だと言ったのですね?そしてテストだと…」
「ああ、そう言っていた」
「今、司法解剖にたちあろうとしていた紫月さんと各務さん、お二人の話によると彼らはまぎれらもなく人間。ただ、薬物による調整が施されていたようです」
「調整?」
「薬物を用いて肉体、精神両面から強化し特殊な能力を持たせた、人間兵器と言ったところでしょう。薫様、重々お気をつけ下さい」
雨宮薫。現役高校生だがその正体は代々陰陽師を輩出する名門雨宮家の後継者である。そして10年以上も年上であるのに、まるで王に対する臣下のごとく恭しく接する青年の名は雨宮隼人。こちらも雨宮家のものだが、彼は後継者とされている薫の守役を務めている。幼少の頃より薫に付き従う側近中の側近。人をあまり信用しない薫も、この青年にだけは心を開いていた。
「分かっている。お前もあまり無理はするな」
「はい。ですが、今回はいささか無理をすることも必要かと・・・」
懐から符を取り出してつぶやく隼人。彼らは3人は今回依頼を受けた他の者たちより先行して防御結界を展開するつもりであった。敵がどのような攻撃を仕掛けてくるか分からない以上、東京駅全域が危険な場所なのである。しかし広大な東京駅全域に、敵の術を封じる結界を展開をするのは相当に力が消耗する。別働隊で動いている陰陽師たちが協力してくれるということだが全力で結界を張っては攻撃ができなくなる。隼人は結界の維持を担当することになっていた。
その時。
久我が前方の階段に対して呪符を取り出し構えた。
「どうした、久我?」
「感じないか?この妖気・・・。妖しく艶かしいこの気配・・・。まさか!」
「ご名答。お久しぶりだね陰陽師クン♪」
閑散としているこの場に似つかわしくない、妙に明るいはしゃいだような声。久我には聞き覚えのある声だった。いや、声だけではない。その者が発していると思われる妖しの気。ねっとりとまとわりつくような、艶かしくそれでいて冷たい独特な気。かつて秋葉原で感じた気であった。
階段から降りてきたのは男物のこざっぱりとした服装で纏めた妙齢の女性であった。漆黒の髪に紅蓮の瞳。透けるように白い肌。蟲惑的な美貌を誇るととのった顔立ち。六世紀にも渡り存在しつづける吸血鬼秋津遼であった。
「やはり吸血鬼、貴様か・・・。また俺たちの邪魔をしに現われたか?」
「邪魔?とんでもない。今回は暇つぶしに観戦しにきただけだよ。でもね、ほんとを言うと君に会いたかったんだよ」
「なんだと?」
怪訝そうな顔をする久我から、他の二人の陰陽師に視線を移した秋津はその真紅の唇を喜悦に歪ませた。
「おやおや、他にも二人も陰陽師がいるのかい?これはまた可愛い子がいるねぇ」
「可愛いだと!?」
秋津の人を食ったような言い方に腹を立てた薫が前に出ようとすると、隼人が肩を掴んで制止する。
「お待ちください。それ以上近づいてはなりません。薫様」
「どういうことだ隼人?」
隼人も秋津が発する妖しの気に脅威を感じた。人間離れした圧倒的な質量。ここにいる3人が挑みかかっても勝てるかどうか・・・。吸血鬼である以上邪悪な存在であることは間違いないのだが、今狩ろうとして戦端を開けば、一聖九君と戦う以前の問題となってしまう。そんな二人のやり取りを見て、秋津はクスクス笑い始める。今回は以前よりさらに楽しめそうだ。久我とかいう陰陽師だけでも玩具として楽しめそうなのに、自分好みの美形にさらに二人も会うことができた。しばらくは退屈から開放されるかもしれない。そう思うと笑いがこみ上げてくる。
「そこの背の高いお兄さんの言うことを聞いたほうが身のためだよ、ぼうや。まぁ、のんびり見てるからせいぜい頑張ってね陰陽師たち♪」
そう言って、渋面の陰陽師3人を尻目に秋津は悠然と去っていくのだった。

<落魂陣その力>

一方その頃。鷲見は先行していた知り合いの少年と合流を果たしていた。まだ幼さを残した、美形と言っても差し支えないほど整った顔立ちをした少年。たが、彼の表情は不安の色が色濃くでていた。
「今回各務さんもこっち来るんだろ。大丈夫なのか?」
「ああ見えても高柄は頼りになるよ。強かな奴だからねぇ。それよりどうしたのさ直弘君?浮かない顔して」
「最近不安なんだ、化物の姿になって、化物の力を使って…オレがいつかなくなっちゃうんじゃないか…って」
直弘榎真。表向きは高校生であるが彼の本性は日本古来より存在する天狗である。風を操ることができるが、その力を十分に発揮するには天狗の姿にならなくてはならない。漆黒の翼。赤い肌。ギラギラと血走った目に鳥のような口ばし。その姿を思い浮かべるだけでも嫌悪感がする。だが、彼がなによりも恐れるのは己自身が完全な天狗になってしまい、仲間たちから嫌われてしまうことにある。そんな彼を各務はそっと抱きしめた。
「気にしなさんな。前にも言ったろ。あたしたち自身、半分人間を止めてるって。皆本当は不安なんだよ。自分自身一体何者なのかってね。似たようなもんさ」
「・・・・・・」
「まぁ、あたしは君の正体がどんなであろうとかまわないけどね。あたしは今の直弘君が好き。それでいいじゃないか」
「・・・・・・」
「ん?どうした直弘君。不満かい?」
「ち、千白・・・。苦しい・・・」
よれよれの男物の服を着ているため分かりにくいが、鷲見はかなり豊満な体つきをしている。直弘は丁度鷲見の豊かな胸に頭を挟まれる形で抱かれていたのだ。
「あ、こりゃごめんよ」
ようやく開放された直弘はぜいぜいいいながら呼吸を整える。あのまま抱かれていたら窒息死していたかもしれない。落ち着いた彼は鷲見のやわらかな胸の感触を思い出して赤面する。まだまだその手のことには奥手な高校生。心臓の鼓動がはっきりと聞こえるほどドキドキしていた。
「何を顔を赤くしている。熱でもあるのか?」
後ろからかけられた声に慌てて振り向くと、そこにいるのは紫月。どうやら大学を出てようやくたどり着いたらしい。
「き、夾!?い、今の見てたのか?」
「今の?俺は今さっきここに来たばかりだが・・・」
「そ、そうか見てないのか。ならいいんだ・・・」
ひとまず先ほどの場面を見られていないということでほっとする直弘。意味が分からなくて紫月は首をかしげた。そんな二人を見て鷲見はぷっと吹き出す。
「ウブだねぇ、直弘君。あ、ところで高柄は?」
「奴なら既に駅の各所に呪符をはって、今モニター室に向かっているはずだ。あそこなら駅全体が見渡せるからな。敵を見つけ次第連絡する手はずになっている」
「そう」とほっとしたような、不安なような複雑な思いをこめて返事をする鷲見。
「哀れな羽虫どもは幾ら群集おうと分からぬらしい。己が二度と抜け出せぬ蜘蛛の巣にかかっていることを」
突然駅構内に響き渡る声。3人が慌ててあたりを探ると、はるか頭上にそれはいた。
灰色の軍服らしき服を纏った男が浮いていたのだ。銀色の髪に白濁した双眸。その表情は能面のごとく何の表情も見せない。
「あんたが一聖九君かい?」
「私の名は桃天君。お前達はまだ気付いていないようだな。自分たちの足元がどんな場所であるかを」
「なんだと!?」
直弘の叫びは強烈な脱力感によって答えられた。急激に体全体から力が抜けていく。膝ががくがくと震えたっていられなくなる。たまらず地面に膝をついて他の二人を見ると、どちらも同じ状態になっているらしく膝をついて動けなくなっている。

モニター室では、モニターをチェックしていた各務が同じような脱力感に襲われ倒れ付していた。
「こ、これは一体・・・!?」

地下鉄のフォームでも、久我、雨宮たち3人が動きが取れなくなっていた。
「こ、これが・・・、今回の陣か・・・!」
「す、すごい・・・。これでは・・、身動きが・・・」
「いけない・・・薫様・・・守護結界を・・・」
隼人が呪符を展開させて結界を構築させようとするが、吸われていく力があまりも多いため術に集中できない。
「こんな馬鹿な・・・。これほどの力を放つとは・・・これが一聖九君・・・!!!」

直弘たちの状態を見て桃天君は首を傾げた。
「ふむ、効き目が弱いな。普通ならもう既に魂の力が抜かれ死に絶えているはずなのだが・・・」
「詰めが甘いよ。桃天君」
まだ声変わりもしていない、ハスキーな少年の声。その声は彼ら3人にとって忘れようのない声であった。
「「「王天君・・・!!!」」」
「あいつらはここの駅全体に呪符を展開させていた。つまりここでの攻撃的な術の力はかなり抑えられてしまうということさ」
「なるほど。なにやらこそこそ動き回っていると思ったらそんなことを・・・。だが愚か者だ。ただ死への苦しみが増すばかりだというに」
「ほんとだね。お笑いぐさだよ。さてと、では前からの約束どおりに・・・」
王天君は嗜虐の笑いを口に浮かべる。
「分かっている。この羽虫どもは全てお前の獲物だ。好きにするがいい。私は残りを始末してくるとしよう。このまま落魂陣にいるだけで死に絶えるだろうが一応止めを刺しておかんとな」
桃天君はそう言ってスッとかき消えた。それを見届けた王天君は直弘の傍に落りたつと、その頭を踏みつける。
「ぐっ・・・。てめぇ・・・!」
「前はよくも僕に恥をかかせてくれたね。あの時のお礼はさせてもらうよ」
さらに力をいれて直弘の頭を踏む王天君。
「ぐ、ぐあっ・・・」
「すぐには殺さないよ。ゆっくりゆっくり嬲り殺しにしてやる。精神と肉体の双方からズタズタにしてね」

「しぶといな・・・。だがそれももうじき終る」
久我たちのいる場所に転移した桃天君は死刑を伝える処刑人のごとく3人に告げた。
「お前が・・・」
「桃天君だ。さて、会って早々申し訳ないが死んでくれたまえ」
桃天君が更に強力な術を放とうとしたその時。
「困るんだよねぇ。勝手に殺しちゃ」
悠然と構内に響く声。その声の主は・・・・。
「吸血鬼・・・」
久我が呆然とつぶやいた。そう、誰あろう吸血鬼秋津である。
「なんと・・・。落魂陣にいるというのにまったくダメージを受けていないのか?」
「ふん、ちょっと疲れたかなって気はするけどそんな程度だよ。それより困るんだよね、人の玩具を勝手に弄るのはさ。所有者の許可をとりなさいっての」
「愚かな。ノコノコ出てこなければ死なずに済んだものを!この落魂陣のフルパワーを受けて冥府に落ちるがいい」
桃天君が秋津のところにだけ、さらに強力な落魂陣をかける。秋津の体が白い閃光に包まれる。だが秋津の顔から余裕の色を消えない。
「いい加減飽きた。死ね」
チャリンと音を立てて落ちたのは、秋津の耳を飾っていたピアス。彼女がピアスを外したその意味を桃天君はその身をもって思い知った。
「ぐはぁ!」
まさに読んで字のごとく目にも止まらぬ速度で繰り出された拳が桃天君の顔に直撃した。まともにその一撃を食らった桃天君は反動で壁に叩き付けられた。あまりの勢いに壁にめり込んで亀裂が入る。秋津は正体を失った桃天君に歩み寄り、ダメージの状態を調べた。並の人間では即死しているほどのパワーが込められた一撃だったが、強化された体が幸いして命は取り留めていた。秋津は普段力をセーブしている。だが、耳につけたピアスを外すことでリミッターを解除することができるのだ。つまり今の彼女は100%本気の力で戦える。
「よしよし。今度は殺さなかったよ。さ〜てと私の下僕になってキリキリ白状してね〜」
秋津はその尖った犬歯を桃天君の首筋につき立てようとする。これで血を吸えば下僕の完成となる。吸血鬼である彼女に血を吸われた者は滅びるか、下僕になるか二つに一つにしか道は無い。だが彼女の牙が突き立てられる事はなかった。
「残念だけどそれをさせるわけにはいかないわ」
言うが早いか突き出された拳を、秋津は右手でガードしながら後ろに飛び去り距離をとる。彼女に拳を浴びせたのは金髪に真紅のスーツを着た、秋津に勝るとも劣らない美貌を誇る女だった。
「おや、たしかきみはあの時現われた・・・」
「魎華よ。残念だけど彼を貴女の下僕としてプレゼントするわけにはいかないの」
「ふ〜ん。前にきみが言っていた彼らは兵器というのがどういう意味なのか知りたいだけなんだけど・・・。じゃあ君から聞き出すことにしようか」
「できるものならね」
「そうこなくっちゃ♪」
秋津はそう言って嬉しいそうに拳を繰り出すのだった。

「君みたいな屑にこの僕が一度でも負けたかと思うと腸が煮えくりかえる気分だ。まったく僕としたことが・・・。でもこれで僕のトラウマも払拭される、さぁ、死ね!」
血が飛び散った。
その血が出た先は王天君の胸。
「な、なんだ・・・。これは?」
細い、目を凝らさなくては見えないような銀に輝く糸が数本、王天君の胸を貫いていた。鋼糸と呼ばれるそれを放ったのは勿論紫月。
「油断しすぎは貴様だったようだな」
「ど、どうしてお前が動けるんだ・・・。落魂陣の中だというのに」
王天君は自分の胸を刺し貫く糸を、信じられないと言った面持ちで見つめる。
「なぜかは知らんが、体を襲っていた虚脱感は既に無くなった。桃天君が破れたようだな」
「てめぇ、いつまで人の頭の上に乗ってんだよ!」
凄まじい衝撃波とともに王天君は近くの自動販売機に弾き飛ばされた。直弘が起こした突風である。強烈な勢いで打ち付けられため肋骨が折れたのだろう。王天君は大量に吐血した。
「ゴホッ!こ、こんな・・・」
「今度は逃がさないよ」
鷲見が懐から取り出した銃を王天君の眉間に突きつけた。
「あの時の礼をまだしていなかったな。連中の情報は他の奴らが桃天君から聞きだしてくれるだろうから貴様を生かす必要は無いな」
「てめぇだけは絶対に許さねぇ。覚悟しな!」
3人に取り囲まれた瀕死の王天君は、死の恐怖に愕然とした。この僕が殺されようとしている。そんな馬鹿な。僕は選ばれし者、一聖九君の筆頭王天君様だぞ。だが、死の恐怖は目前に迫ってきている。王天君は恥も外聞も投げ捨てて泣き叫んだ。
「助けて、ママ!」
すると王天君の体が黄金の閃光に包まれる。
「な、なんだこれは!」
王天君の体はその光ともに消え去った。何が起きたか分からない3人はしばし呆然と立ち尽くすのであった。

地下鉄のホームでは秋津と魎華の格闘戦が続いていた。お互いの力はほぼ互角。蹴りと殴りの戦いから魎華は水晶剣に、秋津は長く伸ばした爪の戦いに切り替えていた。凄まじい斬撃の応酬が繰り広げられる。
「お、おのれ・・・」
なんとか立ち上がった桃天君は、秋津に落魂陣を浴びせようと身構えた。だが、彼が陣を展開することはできなかった。急に体の自由が利かなくなってしまったためである。
「残念ですが、貴方の動きは封じました。何人たりとも薫様を害する存在は容赦しません」
桃天君の影に一枚の呪符が貼られていた。敵の動きを精神面から繋ぎとめる影縛りの符である。
「さて、お前には色々と聞きたいことがある。素直に答えてくれれば命は保証しよう」
だが、久我の提案に桃天君は応じなかった。
「私は一聖九君が一人桃天君。そのような要求には応じん。殺せ」
「そうですか。色々とお聞きしたかったのですが仕方ありません。このまま悠長に構えているわけにもいきませんしね。薫様、止めを」
薫は隼人の言葉に頷き、退魔刀を抜き放った。その鋭利な刃が桃天君の体を袈裟懸けに切り裂いた。吹き出る鮮血が床を真っ赤に染め上げる。
その光景を見た魎華は水晶剣を収めた。
「ここまでのようね。まったくあれだけ投資したっているのに、こんなできそこないしか作れないのかしら」
ぶつぶつと文句を言いながら魎華は転移の法を使用してこの場から立ち去った。
「なんだ、殺しちゃったんだ」
「仕方ないだろう。あのまま奴の口を割らすまでねばったところで魎華が必ず邪魔してきたさ」
秋津は爪を元の長さに戻し、外したピアスを取り付ける。
「ま、いいか。ところでさ、命の恩人にお礼の一言もないのかい?」
「ふん、貴様が勝手にやったことだろう。俺には関係ない。玩具が感謝するか?」
「つれないねぇ。まぁいいさ」
そういいながらも、秋津は久我の近くに歩み寄る。
「なんだ」
「これくらいはサービスしてもらってもいいよね」
スッと重ねあわされた二つの唇。僅かな時間であったが甘酸っぱいような不思議な味がした。しばし呆然とする久我の顔を見ながら、秋津は離れた。
「今度はもう少しサービスさせてもらうよ。ああ、そこのお二人さんも今度会った時には・・・。ふふふ楽しみだね」
後ろ手に手を振りながら秋津は東京駅を去っていくのだった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0258/秋津・遼/女/567/何でも屋
0229/鷲見・千白/女/28/(やる気のない陰陽師)
0334/各務・高柄/男/20/大学生兼鷲見探偵事務所勤務
0054/紫月・夾/男/24/大学生
0231/直弘・榎真/男/18/日本古来からの天狗
0095/久我・直親/男/27/陰陽師
0331/雨宮・隼人/男/29/陰陽師
0112/雨宮・薫/男/18/陰陽師。普段は学生(高校生)

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■         ライター通信          ■
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お待たせいたしました。
10都市物語「東京駅」〜落魂陣〜はいかがだったでしょう?
今回は前述したとうり難易度の高い依頼でしたが、見事にそれを抑えるプレイングが為されており桃天君を倒すことができました。
おめでとうございます!
今回は成功したため、ちらほらと敵に関する情報が出ています。注意深くご覧になってみてください。
それと私のこれからの依頼に関するスタンスなのですが、月水金(第一、第三、第五は土曜日)に依頼を出すこととなります。募集人数ですが、5人という人数はあくまで目安ですのでこれを越えても締め切りにはいたしません。各依頼の締め切りは、月水金の朝9:00となりますので、ゆっくり依頼を読まれてからプレイングをお書きいただいてまったく問題ありません。お仲間とご相談する時間もあると思いますので準備を万端にされた上でご参加いただければと思います。
それではまた違う依頼でお目にかかれることを祈って。