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血の糸
Opening 始まりの手紙
『己が人の命を絶ち、その肉叢を食ひなどする者はかくぞある』
仙花紙にどす黒い血文字にて認められたその一文。
鎌倉時代説話文学を代表する『宇治拾遺物語』に出てくる一文である。
そして、これ見よがしに点々と滴り落ちた血の痕に草間は大きく眉を顰めた。
裏返したり透かして見たりと…隅々までチェックした後、大きな溜息と共に手にしたそれを重厚なテーブルの上に置いた。
「全く、イイ趣味した人間がいるものだな」
草間は向かいのソファに座る少女に、やや呆れた口調で云う。
少女――榊香子(さかきこうこ)――はピンク色のスカートをぎゅっと握り締め、俯いたままピクリとも反応しない。
「ああイヤ、これはすまない。…ええと要するにこれをアパートのポストに入れる人間を割り出して欲しいと?」
草間は少し申し訳なさそうに頭を掻いて、改めて少女に云った。
「ハイ…もう怖くて仕方ないんです。だってもうこれで…」
もうこれでその奇妙な紙は10枚目になるんです、と少女は非道く辛そうに云う。
フム…と草間は唸ると、
「…まぁ、そういうわけなんだ。頼まれてくれるかい?」
振り向きながらソファの後ろに立つ私達にそう云って愛用の細い煙草を口に加えた。
Scene-1 午後
閑静な住宅街。
コンクリートの塀をつま先立ちで器用に歩く猫達の視線を受けながら、塀に背を貼り付けた女は溜息を一つ落とした。
翠めいた漆黒の髪を後ろで綺麗に一つに束ね、理知的な赤く薄い唇。切れ長な蒼い瞳が実に印象的な――シュライン・エマであった。
(全く…何時になったら現れるのかしら)
女はまた一つ溜息を吐く。彼女が今回のクライアント――榊香子のアパートの見張りを開始してもう一週間が過ぎようとしていた。
シュライン・エマの本業は翻訳家である。そしてその高い文章能力を買われ、秘密裏にゴーストライターの仕事にも携わっていた。
そんな彼女がどうしてこのような探偵を買って出ているかと云うと、生活レベル上昇と執筆ネタ収集の為であるが、最近は全くのボランティア状態になっていて実に割に合わないと常々思っている。
しかし、例えそうであっても捨て切れない、一度受けた仕事は責任を持ちたい――そこが彼女の最大の長所でもあり短所でもある。
そして草間武彦が彼女を高く評価している所以だった。
(まさか、香子ちゃんが私達を雇ったことに感づいた…ってワケじゃないでしょうね)
シュラインはそう思いながら左腕の時計に目をやった。午後二時をちょうど回った頃だ。先程まで影が後ろにあった筈だが、太陽がやや傾き、前に伸びてしまっている。
(これじゃあ、立ってるのバレちゃうわね)
シュラインはヒールを鳴らしながら身を翻すと次の見張り位置まで移動を開始した。
Scene-2 指示語が指す行方
「『吾妻人生贄をとゞむる事』からの引用…」
依頼を受けてすぐ、シュラインは自宅にある蔵書をひっくり返して、宇治拾遺物語を洗いざらい読んだ。
『己が人の命を絶ち、その肉叢を食ひなどする者はかくぞある』
簡単に訳せば――自分で人を殺して、その肉を食べる者はこの様である――となる。
血で書かれたその文を見たとき、シュラインには一つ引っかかることがあった。
『かくぞある』の『かく』は指示語であって、古文に置いて大抵はその前文を指すことが多い。
しかし、肝心の紙切れにはその前文が無かった。だとすれば、『かく』が指す内容がクライアント・榊香子の近辺にある筈なのである。
(ストーカーか…依頼人の交友関係も事前調査した方が無難よね)
シュラインはパタンと本を閉じると資料の為に渡された例の仙花紙を眺めた。
(仙花紙…。台帳や経本に使われる紙だけど、何かこれにも意味があるのかしら)
仙花紙は2枚合わせで作られており質が厚く、極めて強靭な紙である。そして紙の色は楮製である為、真っ白ではなく何処か黄ばんでいた。
「それにしても…全く、嫌んなるわね、こんなのポスト入ってたら」
シュラインはその紙をペラペラと振りながら一人ゴチた。
一見して見ればカニバリズム――人肉嗜食――がありありと感じられる一文だった。
そして、それに拍車を掛けているのが血文字である。
これが犯人の本心なのか、それともこう考えさせること自体が犯人の思惑なのか。何にせよ、動かないことには先が見えない、シュラインはそう力強く思い、席を立った。
Scene-3 太陽
コツンコツン…。
ヒールの踵を鳴らしながら真昼間の住宅街を歩く。
通勤ともなれば、車も人もそれなりに通りのであろうが今の時間帯は殆ど人影もない。
暇を持て余した主婦が井戸端会議でもしていそうな雰囲気なのに、そのような姿は見張りを開始してから一度も見かけたことがなかった。
これが、都会ならではの『近所づきあい』というものなのだろうか。相手にひたすら無関心で…それが当たり前の世界。こんな土地で更にアパートに住んでいれば、榊香子は誰にも頼らず生きてきたのかも知れない。
(何だか…淋しいね)
シュラインはそう思いながら自分の歩く一歩手前を見続けて足を進めた。昼間の太陽が無性に遠く感じられた。
「あら、シュラインじゃなくて?」
ふと、聞き慣れた艶のある声が自分を呼んだ。ぱっと顔を上げてみる。
同じく草間興信所の探偵で、今回の依頼を担当している巳主神冴那であった。
「あ、巳主神さん。そっちは収穫、何かありましたか?」
シュラインと同じく外周りの見張りを担当していた巳主神は、首を横に振った。
「アノ手紙も…届いたことは届いたけれど…結局は犯人まで辿り着けなかったしね…」
そう、実は3日前に例の血文字の手紙が榊香子宛に届いた。
しかも、今回はダイレクトメールではなく、定形外郵便にて送られてきた。もちろん、中にはいつもの一枚が入っているだけであった。
配達員が怪しいかと、色々調査してはみたが、結局は白。捜査はそこで止まったまま今日に至っていた。
「とにかく、今、香子ちゃんの部屋に秋津さんと杞槙ちゃんもいるみたいですし…今後の作戦でも練りましょうか?」
シュラインは、小さく溜息を吐くと巳主神にそう云った。
Scene-4 ちらつく影
榊香子のアパートは実に狭く暗かった。
差し込む光もどこか遠い物に感じられ、中に居た香子、そして同じく探偵の秋津遼、四宮杞槙、杞槙のボディーガード・佳凛も灰色の闇に浮かび上がっているようだった。
「秋津さん、杞槙ちゃん。何かこちらでありましたか?」
先に入ったシュラインが訊く。呼ばれた二人は先ほどの巳主神と同様、首を横に振るだけだった。
「そっちはどうだい? それらしいヤツは見なかったかい?」
窓際の横の壁に少し背を預け、秋津遼が尋ねてくる。自分と同様、巳主神も首を振った。
「それにしても…じれったいものね。粘っこい人間としか思えないわ」
巳主神はそう云うと、退屈そうに前に垂れてきた髪を後ろに掻き上げた。
「どう…思います? 私としては香子ちゃんを一人にしておくには心配ですし、
調査に乗り出すよりも、護衛も兼ねて見張りに徹した方がいいかと思うんですが…」
シュラインが理知的な口調で回りを見渡す。探偵である3人はそれぞれ頷いた。
「ストーカーの類なら人が傍に居ることで引いていくだろうしね。…このまま来なくなれば、それはそれでいいことだろ」
秋津がしたたかな笑みを作りながらそう云った。
トン、トン、トン、トン、トン…
じゃあ、あたし達は引き続き下で見張ってるわね…そう云って巳主神がドアノブに手を掛けようとしたとき、後ろに続いていたシュラインの耳に…遠くだが確かに足音が聞こえた。
トン、トン、トン、トン、トン…
「…どうしたの、シュライン?」
「シ…。誰か階段を上って来る…」
ピンとまさにピアノ線のような緊張が部屋の中を駆け抜けた。
香子は隣に座っていた四宮杞槙の腕をぎゅっと握る。
普通に考えれば、アパートの住人かも知れないし、それを狙ったセールスマンかもしれない。
しかし、何故か――この部屋にいる6人は――その足音の主が間違いなく事件に関わる物だと確信していた。
第六感的なものが働いていたのかも知れない。
「シュライン、何人か分かるかい?」
秋津が声のトーンを落として囁いた。シュラインは足音に集中すべく声を出さずに指で「1」と指した。
トン、トン、トン、トン、トン…
規則正しい足音…。
(一人…しかも、歩調の間隔から云って…)
「…男」
そう巳主神が呟くとシュラインはこっくりと頷いた。やはりストーカーだったのか。
トン、トン、トン、トン、トン…
嫌になる位、正確だった。こんなことなら切り上げて来ずに、あのまま外で見張っていればとシュラインは思った。
(ポストに何か入れるようだったら、ドアを開けます。いいですか?)
小声で囁くと巳主神は無言のままに頷く。
ドアノブにシュラインが手を掛け身を屈める。そしてキッチンがある左手に巳主神が構えた。
―――足音が止んだ。
『無音』という『音』が聞こえる。いや、自らの心臓の音が聞こえる。
シュラインは固唾を飲んでドアの下に設けられているポストに視線を釘づけた。もちろん、巳主神の視線も秋津の視線もそこに集まっている。
この間が何よりも長い。そう思った。
そして、ガサガサ…と僅かな音が聞き取れると、その意思を巳主神に目で合図を送る。
受け口に茶色い封筒が挿入されたのを確認すると、勢いよくドアを開けて…と云うよりかは押し飛ばした。
バンッ!という壊れるような音がして、その後を巳主神が出る。
「うわ…!」
「あら…」
巳主神は髪をなびかせて外に出るとドアの勢いに押されて、倒れ掛かった男の胸座を掴んだ。黒いダッフルコートに似合いもしないサングラス。
スーバースターのスニーカーを履いている茶髪の少年だ。
「思ったよりカワイイボウヤじゃなくって? …でも、おねぇさん達を怒らせたら怖いのよ?」
キリキリと胸座を締め付けてやると、ゴ、ゴメンナサイと男は涙混じりに謝りだした。
「このガキが犯人…?」
シュラインは少し呆気に取られながら先ほど投函された封筒を拾い上げ、中身を取り出してみる。
中には、事件の発端を握る例の紙。
『己が人の命を絶ち、その肉叢を食ひなどする者はかくぞある』
「…どうやらそうみたい」
溜息混じりにそう云うとその紙を窓際に立っていた秋津に見せた。
しかし、秋津は厳しい表情をして、こちらを見据えている。
「…誰か外からこっちを見ている」
「え?」
「動くんじゃないよ、シュライン。…杞槙、そこから見えないかね」
杞槙は驚きながら頷くと、躯の位置を変えずに視線だけを窓の外に向けた。
「…分からない…でも…」
「視線は感じる、かい?」
秋津が問うと、杞槙はこっくりと頷いた。
「冴那、後は任していいだろう?」
秋津は締め上げる巳主神にそう云うと、身を翻して――2階なのだが――ひらりと空を舞うように窓から外へ飛び降りた。
もちろん、凄まじい音を立てながら窓ガラスを蹴り飛ばして。
「ひゅ〜♪ おねーさん、流石」
シュラインは少々驚いた風に肩を竦ませると、
「巳主神さん、こっちはお願いします。杞槙ちゃん、香子ちゃんの傍についててあげてね」
あ、それと窓ガラス代は草間興信所が持つから、と加えてシュラインも意を決して窓枠に足を掛けた。
Scene-5
勢いのまま飛び降りてはみたものの、流石に2階からだというだけあって足がジィ〜ンジィ〜ンと痺れた。
「…ったぁ…秋津さん、よく平気だったわねぇ」
同じ窓から飛び降りたので着地点は同じなのに、秋津の姿はもうそこになかった。
シュラインは痺れる足にへこたれそうになったが、無理やり立たせるとキッと前を見据えた。
(ここで止めたら女が廃るッ。そうよね、武彦さん…!)
握り拳を作ってそう決意する。何だかんだ云っても意志の強い女性だった。
アパートの外周にある塀を越えて道路に出ると、丁度、秋津が角に曲がっていく後姿が見えた。
「秋津さん、マジで早いわね」
シュラインはそうゴチるとその苦笑いを零しながらその後を追う。
「秋津さん!」
2番目の角を左に曲がってすぐ…秋津と、秋津の躯に隠れて見えないが少女…が一人。
シュラインは息を切らせながら少女を見た。
「え…? 三浦敦子(みうらあつこ)…さん?」
そう。最近テレビや雑誌を賑わせている…少女。
「なんだ、知り合いかい?」
少女を見るなり名前を呟いたので秋津はシュラインを肩越しに振り返った。
シュラインは首を左右に大きく振る。
「知り合いとかそんなんじゃなくて…ホラ、秋津さん知らない? 今売りだし中のバイオリニストよ、この子…」
「バイオリニスト…」
呼吸を整えながらシュラインは秋津に説明した。確か…『クラシック界のプリンセス』とか何とかのキャッチフレーズで売り出してる子だ。
「でも、何で…貴方が香子ちゃんに…」
シュラインもこちらを向いていた秋津も少女――三浦敦子に視線を戻す。
「…アノ子が、勝ち逃げしたからよ…」
ギリッと歯軋りをして…三浦敦子は二人を睨み付けた。
「アノ子…香子はバイオリン教室で私と競うくらい上手かったわ…本当…イヤになるくらいね…」
「………………」
「私が血の滲むような努力して勝ち取ったコンサートのソロも、アノ子が…後から入ってきた香子が奪っていったわ…」
「それは貴方より香子ちゃんの方が上手かったからじゃないの…?」
「そんな筈はない…! 香子は大して努力もなく先生に気に入られていたわッ。決まってるじゃない!
榊一恵の娘だからよッ!! 親の七光りで香子は私から教室NO.1の座もソロの座も奪っていったのよ!!」
(榊…一恵…)
榊一恵(さかきかずえ)――かつて、一世を風靡したクラシック界の有名なバイオリニスト。
確か、10年ほど前に事故で亡くなった筈だ…テロに巻き込まれて…。
しかし、彼女が有名なのはそのバイオリンも去ることながら人気絶頂の最中に事故による不幸な死を遂げたという所にあった。当時、その死を惜しみ榊一恵というバイオリニストを知らなかった人間までもが彼女の死を痛み、嘆き、葬儀に参列した。一種の社会現象までも呼び起こした事件だ。
シュラインはまるで辞書のように自分の記憶を紐解いていた。
なるほど、云われてみれば納得だ。あのとき棺の傍で泣いていた子が香子だったのだ…。
「………………」
「それなのに! 私が欲しいものは全部手に入れた筈なのに! 香子はあっさりと教室もコンサートも辞めていったわッ。
後に残った私はどうなの! どんなに上手い演奏をしても、どんなに頑張っても、いっつも『榊香子がいなくなったから』って
指を指されて云われるのよッ!! こんなに惨めことはないわよッ!!」
少女は大粒の涙を零して泣き叫んだ。確か…葬儀の時の香子は頬に一筋の涙を流し…じっと母親が入った棺を見据えていた。
「だから…香子ちゃんにあんな文を送りつけたの…」
シュラインは10年前の光景を昨日のことかのように思い出しながら、悲しそうに云った。
『己が人の命を絶ち、その肉叢を食ひなどする者はかくぞある』
「そうよ…。やっとの思いで探し出した香子は…バイオリンどころか、社会的弱者に落ちぶれていたわ。
いい気味って思った。いい気味ってね! 当たり前じゃない、私から全てを奪ったのよッ」
「シュライン、どういう意味だい?」
少し前に立つ、秋津が肩越しにコチラを振り返った。
『己が人の命を絶ち、その肉叢を食ひなどする者はかくぞある』
――自分で人を殺して、その肉を食べる者はこの様である――
「…貴方は香子ちゃんのことを云っていたのね…。殺されたとされるのは貴方…。肉叢は――貴方が持ちえた地位や名声。
そして、指示語『かく』が指すのは香子ちゃんの今の生活…」
「つまり、嫌な例えだけど揶揄<やゆ>で『バチが当たった』とでも云いたいワケ?」
シュラインと秋津の科白に敦子は高らかに嗤った。
「そうよ! 私から何もかもを奪ったからバチが当たったのよ! だから、私が練習して出来た血豆をわざわざ潰して、
書いてあげたわッ。私を蹴落としたからバチがあったった、思い知るがいいってねッ!」
(馬鹿げている…)
シュラインは吐き捨てるように思った。
確か、榊一恵は女手一つで子育てをしていた。唯一の身内である母親が亡くなって…香子はこの世にたった一人となった。
経済的なものは抜いて…いや、それ以上に彼女は必死で生きてきたに違いない。淋しさと闘って。
パチン!
シュラインは敦子の頬を引っ叩いた。
「アンタ、間違ってるよ。ハッキリ云って大馬鹿だね! …香子ちゃんがどれだけ苦労してると思ってるのッ。
どれだけ怯えたと思ってるの! …それをいい気味だって? アンタのエゴに勝手に香子ちゃんを巻き込んでいるだけじゃないの!」
「…あんたなんかに分かってたまるものですか!」
敦子も必死の形相でシュラインに食いかかってきた。しかし、身長の高いシュラインの顔まで届かない。
「そんなへそ曲がりなヒネクレ者根性なんて分かってたまるものですかッ。いい? 今、アンタ、香子ちゃんのことを
“社会的弱者”って云ったけどね、あの子は一生懸命、誰にも頼らず頑張ってるんだよ。親のスネをカジッてるアンタに
…イヤ、誰もあの子を非難する権利なんかないんだよ!」
シュラインがそう云い放った。何故か無性に胸が熱かった。
そして、少女――敦子は声を出して泣き始めた…まるで幼子のようにわんわん、と。
Epilogue つながる点と糸と思惑と
「結局…投函しに来たのは三浦敦子の熱狂的FANだったワケ」
草間興信所のソファにどっかりと腰を落ち着けながらシュラインは云った。
同じく座っている巳主神は安いインスタントコーヒーを飲みながら頷いた。
「そうみたいね。敦子のイイナリ君一号だったみたい…全く、もうちょっと賢い事件かと思って引き受けたんだけど…」
「同感だね」
隣に座っていた秋津も呆れたように足を組んだ。
「敦子は香子ちゃんが羨ましくって堪らなかったんだろうね…ま、それにしてはドの過ぎた復讐だけど」
苦笑いを零しながらシュラインもテーブルに出されたコーヒーに口を付ける。
「秋津さん、途中から気づいていたんでしょ? あの言葉の本当の意味も」
シュラインが少し口を尖らせると秋津はクスクスと手を口にあてて特有の嗤いを零す。
「ま…それは想像に任せるよ。それにしても、イヤになるね。あんな引用は」
「どういう意味で使ってたの、そのお嬢ちゃんは」
巳主神がそう問うと、二人は苦笑いを作るだけだった。
「…聞かない方がいいね。聞けば絶対、虫唾が走るから」
秋津は軽く頭を左右に振ってコーヒーを手にとった。
そして視線を下へ落とすと、シュラインの右足には白い包帯がグルグルに巻かれている。
「…シュライン、それ、捻挫だったのかい?」
「んーまぁそんな所です…」
「大人しく階段使えば良かったのに…」
「階段前の通路で巳主神さんが景気よく乱闘してたじゃないですか」
「まぁ、失礼な…」
「全く、ウチの女探偵が揃うと怖いな…」
デスクで書類に頭を悩ませていた草間は煙草を吹かしながらこちらを見る。
3方向からキッと鋭い視線が飛んですぐさま首を竦めることになるのだが。
「そう云えば、杞槙は?」
「香子ちゃんと遊ぶ約束があるんだって」
シュラインがそう草間に返すと珍しく巳主神と秋津が穏やかに笑った。
FIN
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト】
【0258 / 秋津・遼 / 女 / 567 / 何でも屋】
【0294/ 四宮・杞槙 / 女 / 15 / カゴの中のお嬢さま】
【0376 / 巳主神・冴那 / 女 / 600 / ペットショップオーナー】
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■ ライター通信 ■
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* 初めまして、こんにちは。本事件ライターの相馬冬果(そうまとうか)と申します。
この度は、東京怪談・草間興信所からの依頼を受けて頂きありがとうございました。
* 今回の依頼は皆さまのプレイングが色々と効果を発揮してとても奥深い作品になったと
個人的には思っておりますが、どうでしょうか?
* 他の参加者の方の文章を読んで頂けると、事件の絡み合った思惑や経過なども含めて、全体像や進展度、
思わぬ隠し穴などがより一層、理解して頂けると思います。
≪シュライン・エマ 様≫
とてもカッコいいキャラですね! 最初、プレイングや設定に目を通した時「いいなぁ」と正直な感想を持ちました。
ある意味一番人間的で動ける人だなぁと思って書いてみたのですが…如何だったでしょうか?
もしも、心理描写やそれに伴う行動で外してしまっている部分がありましたら申し訳ありません。
また機会がありましたら、お会いできることを楽しみにしております。
相馬
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