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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


魔王を倒せ!!
●始まり
『友達を助けて下さい!!』
 その日、BBSにはそう書かれていた。
「友達を助ける……?」
 瀬名雫は題名にひかれて内容を読み始める。余程焦って書いてい
るのか、少々支離滅裂気味になっているが、わからないことはなかっ
た。
 要約するとこうである。
 とあるネットゲームをやっていた時、魔王戦まで行って戦ってい
たメンバー4人のうち3人までが死んでしまった。自分が僧侶をやっ
ていたため、復活の呪文を唱えたが生き返らない。しかもそれ以降
音信が途絶えてしまった。
 直接の友人でもあった家に電話をかけると、ネットにつながった
ままパソコンの前にはいない、という。他の人の所へメールを送っ
ても返事がない。
 思案に暮れていると、パソコンの中から声がしてきたという。
『助けて……パソコンの中に掴まっちゃったんだ……、助けてくれ』
 という友人の声。しかしどうしていいのかわからず、BBSに助
けを求めた、という。
「このネットゲーって、確かすっごいオーソドックスなRPGだっ
たわよね……ドラクエ3みたいな感じで、4人パーティで職業決め
て、って言う……!?」
 雫が呟いた次の瞬間、ディスプレイが真っ黒になり、赤い文字が
映し出された。
『仲間を助けたくば、4人でやってこい。いつでも挑戦は受けてや
るぞ!』
 ほんの5秒くらいだったろうか、それが記された後、すぐに消え
てしまった。
「パーティ組んでかかってこい、って事? 一体どこの誰よ、こん
な事するの!」

●那神化楽
 化楽は例のメッセージを読んだ後、スッと立ち上がった。
 長身で細身の男性。漆黒の前髪から覗く瞳の色は金。
 身綺麗に整えられ、スーツ姿の彼の本職が見抜ける人は早々いないだろう。
 彼の仕事は絵本作家。可愛い犬の『ポンちゃん』シリーズを手がけている。
「犬神憑き……さしずめバーサーカーの戦士ですかね」
(こういったメディアが乱雑に普及し、それに加えて人々の想いが蓄積されて起きた現象なんでしょうかね…)
 思いつつ。

●高橋理都
 フライトを終えた理都は、家に戻る前に足を休めたくてネットカフェに入った。特にネットなどをする気はなかったが、例のメッセージを見て興味を覚えた。
 茶色の髪に青い目。優しげな微笑みを浮かべていた顔がひきしまった。
「役にたてる事があれば……やってみましょうか」

●七森沙耶
「またお兄ちゃん達に反対されるよね……」
 例のメッセージを読んだ沙耶は、すぐにでも飛び出していきたい気持ちを抑えた。前にも無理矢理事件に関わって怒られている。
「でも……人助けだし。今お兄ちゃん達いないし……」
 四人兄弟の末っ子。上三人が兄の為、かなり甘やかされている。
「ごめんね、お兄ちゃん。私、頑張るから!」

●氷無月亜衣
「これって私にピッタリじゃない☆ ね、ゼル?」
 例のメッセージを見ながら、膝の上に乗って丸くなっている愛猫ゼルに声をかけると、ゼルは大欠伸。
「全く……。もう少しノリが良くてもいいと思うんだけど。まぁいいわ。絶対魔法使いよね」
 黒髪のポニーテールを揺らして、ゼルを抱いて立ち上がる。
 赤い光彩を放つ瞳には好奇心。普段は高校生として生活している彼女、実は魔女。でも一般人の前で魔女の力を使わないようにしているから、こういった機会は嬉しかった。
「うふふふふ。見てなさい魔王!」
 ディスプレイに指をつきつけた亜衣に、ゼルは迷惑そうな顔でまた欠伸をした。

●ネット世界へ!
 集まったのはちょうど四人。那神化楽(ながみ・けらく)、高橋理都(たかはし・りと)、七森沙耶(ななもり・さや)、そして氷無月亜衣(ひなづき・あい)。
「肝心の勇者がいないですね……」
「そうですね……」
 化楽の呟きにも似た言葉に、沙耶が応える。
 化楽は戦士、理都と亜衣が魔法使いで、沙耶が僧侶。
「なんとかなるんじゃないですか? 勇者と戦士って似たようなものですし」
「……」
 にっこり笑った理都に、化楽は苦い顔をする。本来インドア派の化楽は、自分の肩に重くのしかかるものを感じたが、表面には出さなかった。
「大丈夫ですよ♪ なんとかなりますって」
 人なつこい笑みを浮かべて、亜衣はポンポン、と化楽の背中を叩いた。
「でも……普通にプレイしたんじゃ時間、かかりますよね……」
 困ったように沙耶が呟いた瞬間、後ろから声をかける者があった。
「……わしが手伝おう」
「「「「「え?」」」」」
 可愛らしい女の子の声。しかし発言内容が伴わない。
 振り返った雫の顔が「ああ」と納得したようになる。
「遊羽(ゆう)ちゃん。来てたんだ、珍しいね」
「うむ。たまには顔を出しておこうかと思うてな。それでじゃ、わしの能力でおぬしらをネット世界へと入れてやろう」
 年の頃は10歳前後。艶やかな黒髪をボブに揃えた、日本人形のような顔立ちで、しかし瞳の色はオリエンタルブルー。可愛らしい口から発せられた言葉は、なんともジジ臭いというか……。
「そんな事出来るの?」
「うむ。それがわしの能力じゃからな。と言うてもわしがするのはおぬしらの精神体を体の外に出す事じゃ。その後、パソコンの中に入ればいいのじゃ。体の方の管理はわしと雫で責任を持ってやるぞ」
 亜衣に問いに遊羽は頷く。
「……それなら私の魔法が使えるなぁ……」
「どうかしたの、亜衣ちゃん?」
「いい、何でもないです」
 小さくガッツポーズを決めたのを理都に見られて、亜衣は慌てて首を左右に振った。
「でも、それってどうやるんですか?」
「これを使うのじゃ」
「え?」
 質問した沙耶の目が丸くなる。遊羽が取り出したのはハリセンだった。
「そこに並べ」
 言われて四人はディスプレイの前にイスを並べる。そしてイスから転がり落ちないように深く座り、ハリセンを見つめる。
「それではゆくぞ」
 バシーン!! と音がして、化楽が意識を失い、首がガクンと下がる。
「では次じゃ!」
 言いながらが遊羽はパコン、パコン、パコン、と残りの三人をハリセンで叩いた。ついでに亜衣の膝で丸くなっていた猫も。
「気を付けてねー」
 雫の声は、誰にも届かなかった。

「……一体なんなんですか、あの子は……」
 思わず後頭部を押さえながら化楽はぼやく。
「あれ? ゼルも来たの?」
 自分の腕の中にすっぽり治まっている黒猫を見て、亜衣は笑う。
「変なところですね……」
「はい」
 何故か沙耶は理都の近くにくっついていた。末っ子な為、一人でいるのが苦手だった。だからか、年上の理都の側が安心出来た。
 四人は四角い空間に立っていた。
『お名前と職業を決定してください』
 不意に機械音が降ってくる。四人は首を巡らせてから上を見ると、テキスト入力欄のようなものが浮かんでいた。
「ここで登録しろ、という事か。戦士、ナガミです」
『戦士、ナガミ……決定しました』
「お……」
 瞬間、化楽の服装がかわった。中性の鎧甲冑のような格好になった。自分の姿を眺めつつ、これで俺は行動できるのだろうか? と己の体力に問いかけてしまった。
「次私ー☆ 魔法使い、アイ」
『魔法使い、アイ……決定しました』
 亜衣の姿も魔女のそれにかわる。魔女特有の三角帽子がやけに似合っている。
 手には杖。それを軽く一振りして、亜衣は笑みを浮かべた。
「それじゃ、私も。魔法使い、リト」
『魔法使い、リト……決定しました』
 亜衣の格好より少々大人びた感じの魔女の姿になった理都。年齢も考慮されているのだろうか。
「えーっと……僧侶、サヤ、です」
『僧侶、サヤ……決定しました』
 沙耶の姿は僧侶服へとかわった。それを見て嬉しそうに回ってみる。
「それじゃ、どーんと行くわよ!」
 亜衣は大きく杖を掲げた。

 気がつくと、立っていたのは草原の真ん中だった。
「こういう場合、東か西に街があるものですが……」
「それじゃ、これで決めましょうか」
 化楽が言うと、理都は持っている杖を立てて、手を放す。コトン、と杖は東に倒れた。
「では、行きましょうか?」
「……なかなか楽しいじゃない。その決め方好きだわ」
 本来はもう少し礼儀正しい口調なのだが、人目を気にせず思う存分魔法が使えるとあって、亜衣は燃えていたため、多少崩れている。が、気にする人はいなかった。
 沙耶は黙って理都の後をついていく。理都はいもうとが出来たようだったので、優しく沙耶を見ていた。
「敵が現れましたよ」
 使い慣れない剣を構えながら、化楽が言うと、亜衣が躍り出る。
「街があるなら魔力も回復出来るでしょ? なら……」
 ペロッと唇をなめ、瞳が輝く。これが魔王戦なら後方支援に回るところだが、今は大丈夫。亜衣の電撃と炎が敵を攻撃、難なく倒した。
「面白そう」
「……出る幕がないですね……」
 亜衣に続いて魔法を使い始めた理都の姿を見て、化楽はため息混じりに言う。
「皆さん気を付けて下さいねー。怪我したら治しますから」
 一歩下がったところで沙耶は応援の声をあげる。
 魔法使い二人の活躍で、引きずられて化楽と沙耶のレベルも上がっていく。
 街が見えたのをいい事に、わざと足踏みして敵に掴まり戦闘。そのせいもあって最初の街に辿り着く頃には、全員そこそこレベルがあがっていた。
 街に入ると話術に長けている理都が聞き込みをしつつ、体を休める。化楽は自分に合った武器を探し求めて市場を歩く。
 沙耶と亜衣は荷物番で宿屋の一室に座っていた。
「面白いね、これ」
 同じ歳の沙耶にはやたら気安くなれる。亜衣がにこにこしながら言うと、沙耶は少し顔を曇らせた。
「掴まっている人達、大丈夫でしょうか……?」
「大丈夫よ。だって魔王はかかってこい、って言ったんでしょ? だったら私たちが着くまで何もしないわよ」
「そうですね」
 あくまで前向きな亜衣を見て、沙耶はようやく笑みを浮かべた。
 そこから先、RPGのお決まりで行く先々には適度に街がある。その為魔力全開で戦っていく。
「本当に、戦士の出番がないですね……」
 少しは戦闘慣れしておきたい、と化楽は前衛に出る。亜衣と化楽の剣にエンチャントウェポンをかけて支援。理都も攻撃力。防御力をあげる魔法をかけた。
「でやっっ!!」
 いい加減レベルがあがっていた為、さほど苦労なく倒せる。しかし一度の戦闘でへとへとになってしまうのはどうかと思うが。
「大丈夫ですか?」
「ええ……」
「だらしないですよー。頑張って、戦士さん☆」
 疲労回復の魔法を沙耶にかけて貰い、ようやく立ち上がった化楽に、亜衣は一言。しかしそれに反論する事は出来なかった。
 その後、何度も戦闘を繰り返して、ようやく戦闘に慣れてきた頃、魔王の城の前に辿り着いた。
「……伝説の剣、とかもってないわよね。大丈夫かな……」
「もう少し回り道してみましょうか? もしかしたら村とかあるかもしれないし」
「はい」
「俺は別に構いませんが……」
 しかし、勇者がいないのに伝説の剣が使えるのだろうか、と化楽の思考を横切った、が口には出さなかった。とりあえず手に入れてみなければわからないだろう。
 理都の指摘の通り、近くに村があった。そこで伝説の剣が眠る祠の情報を手に入れた。
「それじゃ、祠に向けてレッツ・ゴー☆」
 未だ体力の衰えない亜衣を見て、化楽は年の差を感じつつ後をついていった。
「これが祠、ですね。入りましょうか」
 入り口に辿り着くと、理都は周辺を探索してみる。罠らしきものがないとわかると、四人は中へと入って行った。
 さすがに魔王戦寸前の祠の為、魔物を強くなっていた。しかし近くの村で回復できるのがわかっているので、魔力の温存はしない。
「これが伝説の剣、ですか」
 台座に刺さっている剣を見て、沙耶が呟く。
「でもこれって、誰が使うんですか? 勇者、いないですよね?」
「……」
 きょとん、と沙耶に問われて化楽は自分の考えを思い出して苦笑する。
「俺に使えるかどうかわかりませんが、抜いてみますか……多少プログラムの変更があるはずです、使えるかもしれない」
 言って化楽は台座の剣にてをかけた。ぐいっと引っ張ってみると、それは難なく抜くことが出来た。
 そして2・3度剣を振ってみる。使えないことはなさそうだった。
「結果オーライ☆ 化楽さんでも使えるって事だね。良かった」
 ちょっと心配だった亜衣も、扱えそうなのを見て笑みを作った。
 その後、村に戻って回復。再度魔王の城を目指した。

「ふふふふ、来たわね」
 魔王の間、と呼ばれる最終の部屋に入ると、赫い長髪の男性が大きなイスの上に座っていた。
「ここまで勢いづいてやってきたようだけど、ここで最後よ。たっぷり可愛がってあげるわ」
「……おかま?」
 亜衣の率直なご意見。
「亜衣ちゃん、それは言ってはいけないみたい……」
 あはははは、と困ったように理都が乾いた笑いを浮かべる。
「うるさいわね! あたしはおかまじゃないわよ。全く生意気そうね。可愛がってあげるわ」
「えーっと、お手柔らかに……」
 理都の背中に隠れながら、沙耶が言う。
「してくれれば楽なんですけどね」
 きゅっと化楽は口元を引き締めた。いくら戦闘に慣れたとは言え、体力的に追いつかない。
「精神体まで体力がないとは……困りましたねぇ……」
 ぼやきながら剣を構えた。ちゃんと扱えることは外での戦闘で立証済みだった。
「前衛が足らないから、私たちも戦わないと、ですね」
 理都は杖を構える。戦う、と言っても勿論打撃系ではないが。
「これは仮の姿、って言うのがお約束でしょ? なるべく魔力は温存しないと。沙耶ちゃんは回復に徹してね」
「はい!」
 ウインク混じりに亜衣に言われ、沙耶は後ろに下がる。
「……しかし、戦わないといけないんですか? 私たちはただ、掴まっている子達を助けたいだけなんです!」
「綺麗事はいいわよ。助けたかったらあたしを倒しなさい。……倒せれば、の話だけど」
「それじゃ、私たちが勝ったら掴まった人達を返してくれるんですね? お願いします!」
「いいわよ。あたしに勝ったら、ね」
 理都と沙耶の訴えに、魔王はにやりと笑った。
「行くわよ!」
 魔王の手が空を凪ぐと、突風が起きる。亜衣は咄嗟に結界を張ってそれを防いだ。と、同時に化楽の剣にエンチャントウェポンをかける。
「理都さんはサポートお願いします!」
「わかったわ」
 本来が魔女の亜衣の方が、魔力数値は理都より上だった。
 理都は全員に防御力アップの魔法をかけ、化楽には攻撃力アップの魔法も重ねがけ。
「行きます!」
 化楽が地を蹴って魔王へと剣を繰り出すが、バリヤーのようなものに弾かれてしまう。
「あれをなんとかしないと……ですね」
 しかし方法がわからない。事前に色々調べておけば、と一瞬後悔した隙に、風に弾き飛ばれた。
「きゃあ!?」
 勢い余って理都の上に転がり込む。刹那、理都の唇が剣の柄にぶつかった。
「だ、大丈夫ですか?」
「はい……ちょっと唇を切っただけです。あ、化楽さん、剣が……」
 いきなり剣がまばゆく光る。
「……何か封印が施されていたようですね。これで完全復活、って訳ですか。ならばもう一度!!」
 化楽は剣を構えると、再び魔王に斬りかかった。
「痛いわね、何するのよ!?」
 今度はバリヤーに防がれる事無く、剣は魔王へと届いた。
 しかし戦闘が長引いてくると、さすがに化楽の体力が消耗し、膝をついてしまう。
「も、もう少しなのに……」
 剣を支えに立ち上がろうとした化楽の表情が、突然一変した。
「……なんだ、この姿は?」
 軽々と剣を持ち上げて、化楽は自分の格好に悩んでいるようだった。
「何やってるんですか、化楽さん! 魔王が!!」
 理都の叫びにハッとなって振り返る。
「なんだこれはっ」
 飛んできた炎の固まりを剣で弾く。
「やるじゃない、化楽さん!」
 亜衣の歓声。
「一体何が起こっている、というのだ……。人間というのはわからんな……まぁいい、久々の運動になろうぞ」
 完全犬神憑き状態になった化楽、すでに本人の意識はない。剣を放り出して四つん這いになると、伝説の剣は、爪と牙へと姿をかえ、化楽にくっついた。
「化楽さん!?」
 当然の行動に沙耶は目を丸くした。何が起こっているのか、化楽本人でさえわからないのだから仕方ない。
「行くぞ!」
「魔王にそんな格好で挑んで……」
「まおー? 俺はお犬様だぜ!!」
 止めようとした理都の制止を無視し、化楽は跳躍した。
「お犬様、って……どーしちゃったの一体……」
 半分呆れ顔で、しかし次の魔法の呪文体勢に入りながら亜衣は呟いた。
「気持ち悪いわね、犬神憑き!?」
「愚弄したな……」
 化楽の牙が、深々と魔王の喉元にささった。
「……よくもやったわね……。でも、本番はこれからよ……」
 ぐずぐずと魔王の姿が崩れ、形を変えていく。
「RPGのお決まりですね。魔王の変身……」
 変身している間は何も出来ない。理都は多少魔力の回復する実を口に放り込み、亜衣と沙耶にも渡した。
 微々たる効果しかないが、無いより増し。
「ドラゴンか、面白い」
 魔王の姿はドラゴンのようになっていた。それを見て化楽はペロリと唇を舐める。
「これが最終決戦ですね!」
「うん。頑張ろうね☆」
「……魔王さんも、助けてあげられないのかな……?」
「?? とりあえず戦うのが先みたいだよ。今は何を言っても通じないみたいだし」
 よし、と力を入れた理都に亜衣が同意。しかしいまいち気乗りしない顔の沙耶に、亜衣が背中を軽く叩く。
「そうですね。頑張ります」
「我に逆らう者、すなわち死!」
 ぐわっと開けられた口から、炎が吐き出される。
 それから亜衣の結界が皆を守った。
「アテンションプリーズ、只今から上空を氷が飛びまくりますので、多少危険が伴う事もございます。お気をつけくださいませ」
 理都が言うや否や、氷が飛び交う。さすがスチュワーデスと言おうか、口調がなめらかだ。
「理都さん、素敵……」
 この状況下で落ち着いていられる理都に、思わず亜衣は拍手。
 その間にも犬神憑きとなった化楽が魔王に襲いかかる。
「皆さん気を付けて下さいね!」
 沙耶が叫びながら全員回復をかける。
「よーし、私もやるわよ!」
 亜衣は大きく腕まくり。
「危ない!」
 理都の声が飛んで振り返った亜衣の眼前にドラゴンの爪があった。咄嗟に右に避けたが、左腕を僅かにかすり、血がとんだ。
「痛いわね! 女の子に何てことするのよ!!」
 左腕を押さえつつ叫ぶ。それにすぐに沙耶が飛んできて治療しようとした瞬間、再び爪が空を裂いた。
「きゃあ!?」
 治療終わった刹那、沙耶が爪にひっかけられて飛ばされる。
「……もう許さないんだから!!」
 自分が傷つくより、他人が傷つく方が数倍痛い。亜衣は完全に切れた。
 全魔力を込めてファイヤーボールを放つ。
「ぐわぁぁ!!」
 そして続けざまに結界を張り、四大精霊を召喚し一斉に攻撃をかけた。
「化楽さん、魔王の喉!」
 魔法を使いながらも、違う魔法で魔王の弱点を探っていた亜衣は、声の限り叫んだ。
「ゆくぞ!」
 即座に反応して地を蹴って懐に飛び込み、喉元にかみつき、引き裂く。
 それに併せるように理都が雷を落とした。
「ぎゃあああああああああああ!!!!」
 うなり声をあげてのたうち回る魔王に、四人は距離を置いて見守る。が、戦闘態勢は解いていない。
「最後にもう一度お聞きします。捕まえた子供達はどこですか?」
「ふふ、勝手に捜せばよいではないか……」
「あ、あの、治療を!」
 消えゆく命を見たせいか、沙耶は走り出したい衝動にかられたが、化楽に肩を掴まれとどめられた。
「化楽さん……」
「あれはげえむとやらに過ぎぬ。また新しいげえむが始まれば復活するものだ」
「そう、なんですか……」
 肩を落として沙耶はうつむいた。
「ぐ、ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁ!! よくも、よくもやったな……。しかし、我はまた復活する、いつの日か、必ず。その時は、お前の子孫共々世界を滅ぼしてくれようぞ……」
 魔王はゲーム終了時のおきまりのセリフを吐いて、霧となって消えてしまった。
「結局何も話さないまま消えてしまいましたね……」
 ふぅ、とため息をついて理都は辺りを見回した。
 そして、ふと奥に目を向けると頑丈そうな扉があるのが見えた。
「あの扉がなんか怪しそうですね」
 理都に言われて全員が扉の前に集まった。
「開けるか」
 化楽が力一杯押し開けると、扉は重い音をたてながら開いた。
「誰かいませんかー?」
 亜衣が杖の先に炎を出して中に入っていく。
「人の気配、しますよ……」
「もう魔王は倒したから大丈夫よー」
 沙耶が亜衣の背中に隠れるようにしながら言う。
「……もう、魔王はいないの……?」
 恐る恐る影から出てくる子供の姿。囚われたと思っていた子供3人以外に人の姿があった。
「ええ、大丈夫よ。もう怖い事なんてないから」
 にっこりと笑った理都に、ようやく子供達に笑みが戻った。
「でも、どうやって返してあげたらいいのかな……」
 悩んだ沙耶の目の前を、なにやら光る物が通過した。
 なんだろう? と思って目で追ってみると、妖精のようだった。沢山の妖精が現れ、部屋の中が仄かに明るくなる。
 そしてその妖精が子供達にくっつくと、子供達も光に包まれ、消えた。
「返してくれてるの、かな……。ありがとう、妖精さん」
 沙耶の顔を見て首を傾げ、行ってしまった妖精に、笑顔でお礼を言った。

「無事に帰れたようだな」
「そうね。……でも結局なんの為にこんな事になったのか、わからず終いだったねぇ」
 いつの間にか消えていて、いつの間にか戻ってきていたゼルを抱き上げ、亜衣は肩をすくめた。
『……ふふふふ、クリアーおめでとう諸君』
 不意に頭上から声が降ってくる。
「誰だ!?」
 化楽の誰何の声が飛ぶ。
『Z、とでも名乗っておこうか。今回は見事私の計画の邪魔をしてくれたね。……まぁいい。これからが楽しみだ』
「ちょっと、あんたが黒幕!? なんでこんな事したのよ!」
 亜衣の叫びに帰ってきたのは含み笑い。それに亜衣はなおさらムッとなって眉間にしわを寄せた。
『威勢がいいな。また逢えるのを楽しみにしているよ……』
 謎の声は消えた。
「なんなんでしょうか、一体……。またこういう事件が起きる、って事なんですかね……」
 誰に問うでもなく沙耶は呟く。
「はた迷惑にも程があります。何を考えているんでしょうか、全く……」
 沙耶の言葉に同意するように理都が腰に手を当てて憤慨する。
「……これ以上ここにいても仕方ない。帰るぞ」
 化楽の言葉に、全員ネット世界を後にした。

●その後
 偶然ネットカフェで再会した四人。
 しかし化楽は魔王戦後半の記憶を覚えていなかった。
「化楽さん、すっごい活躍だったんですよー」
「……全然覚えがないんですが……」
 コーラを飲みながらの亜衣の言葉に、化楽は無表情のまま後頭部をかいた。
「でもでも、化楽さんってあの絵本作家の化楽さんなんですよね? 私好きなんですよ」
 話をそらすように沙耶が口を挟むと、化楽はわかりづらい笑みを作る。
「しかし、まだ事件があるような感じの、最後の人物……」
 折角そらした話を元に戻し、窓から外を眺めながら理都は呟く。
「また来たら今度は黒幕ごとぶっつぶしてやるだけですよ! この亜衣さんの魔法にかかれば!」
「にゃ〜」
 いきなり立ち上がられた為、膝から落ちたゼルの抗議の声。
「あ、ごめん。ごめん」
「でも、またみんなが傷つくのはいやですよ……」
 沙耶は学生鞄を抱きしめるように体を丸める。それに亜衣はにこっと笑う。
「大丈夫。何とかなるって!」
「そうね、なんとかなると良いわね……」
 なにもおこらなければいい。そんな希望を含みながら、理都はコーヒーカップを手に取った。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0230/七森沙耶/女/17/高校生】
【0366/高橋理都/女/24/スチュワーデス】
【0368/氷無月亜衣/女/17/魔女(高校生)】
【0374/那神化楽/男/34/絵本作家】

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■         ライター通信          ■
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 初めまして、こんにちは。夜来聖です☆
 沙耶さんは再びお目にかかれて光栄です。
 この度は私の依頼を選んで下さり、誠にありがとうございます。
 バラバラなパーティだったので、勇者がいなかったですが、そこはそこ、ご都合主義ってヤツで(^-^;)
 楽しんで頂ければ幸いですが……。
 化楽さん、最初にお申し込みありがとうございました! ポンちゃんってあのポンちゃんかなぁ、と思いつつ……。犬神憑き格好良いですね! でも記憶がなくなるのが難点……(^-^;)
 理都さん、スチュワーデスさん、格好いいです! 最初にイラストの方拝見していて、綺麗だなぁ、と思っていました。まさか来ていただけるとは思っても見ませんでしたが。今回は皆さんのまとめ役でした。お疲れさまです。
 亜衣さん、語尾が礼儀正しく、と書かれていたのですが、今回ノリでかなり砕けた書き方をさせていただきました。おかしかったら言って下さいね。次の機会がありましたら、直させて頂きます。イラスト可愛いですね〜☆
 沙耶さん、今回は理都さんにピッタリ、という感じで。3人のお兄さん、楽しみにしています♪ 回復役に徹していたのであまり目立った活躍はありませんでしたが、縁の下の力持ち、ご苦労様です。イラスト拝見しましたー。
 これはパラレル形式に書かれていますので、他のパーティではまた違った展開になっています。興味ありましたら読んでみて下さいませ。
 それでは、またお逢いできるのを楽しみしています☆