コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


魔王を倒せ!!
●始まり
『友達を助けて下さい!!』
 その日、BBSにはそう書かれていた。
「友達を助ける……?」
 瀬名雫は題名にひかれて内容を読み始める。余程焦って書いてい
るのか、少々支離滅裂気味になっているが、わからないことはなかっ
た。
 要約するとこうである。
 とあるネットゲームをやっていた時、魔王戦まで行って戦ってい
たメンバー4人のうち3人までが死んでしまった。自分が僧侶をやっ
ていたため、復活の呪文を唱えたが生き返らない。しかもそれ以降
音信が途絶えてしまった。
 直接の友人でもあった家に電話をかけると、ネットにつながった
ままパソコンの前にはいない、という。他の人の所へメールを送っ
ても返事がない。
 思案に暮れていると、パソコンの中から声がしてきたという。
『助けて……パソコンの中に掴まっちゃったんだ……、助けてくれ』
 という友人の声。しかしどうしていいのかわからず、BBSに助
けを求めた、という。
「このネットゲーって、確かすっごいオーソドックスなRPGだっ
たわよね……ドラクエ3みたいな感じで、4人パーティで職業決め
て、って言う……!?」
 雫が呟いた次の瞬間、ディスプレイが真っ黒になり、赤い文字が
映し出された。
『仲間を助けたくば、4人でやってこい。いつでも挑戦は受けてや
るぞ!』
 ほんの5秒くらいだったろうか、それが記された後、すぐに消え
てしまった。
「パーティ組んでかかってこい、って事? 一体どこの誰よ、こん
な事するの!」

●寒河江駒子
「しーちゃん、こっばー☆ えへ、こまこも《ぽちぽち》うまくなったんだよ……ってやっぱしきこえないんらね……」
 難しい顔をしてディスプレイを凝視している雫の足元で、駒子はつまらなそうに唇をとがらせた。座敷童子である駒子の姿は雫に見えないし、声も聞こえない。もちろん駒子がもっと強い力を発せば見えるのだけれど、それをやると機械類に影響を与えかねない。
「《どらくえ》?《あーるぴーじー》? むかーし《にゅーす》のなかの《よどば○かめ○》で《ぎょうれつ》してたやつー? 《げーむ》ってわかんないけど、でも《たすけて》っていってる……よし! 《ゆーしゃ》こまこがたすけにいったげる☆」
 みーちゃんはおしごとでいそがしいし、こまこががんばるー! と駒子はテレビで見たガッツポーズを真似た。

●巳主神冴那
「600年生きたけど、ヒトの娯楽も様変わりしたものね……でも、これはこれで面白いかもね……」
 右目を艶やかな黒髪で覆った絶世の美女、と呼んでも過言ではないだろう女性、冴那は静かな笑みを浮かべた。
「やっぱり魔法使い、かしらね」

●ヴァラク・ファルカータ
「魔王……」
 その言葉を聞いて、ヴァラクの見事な曲線を描く頬をヒクヒクと動き、紅い瞳に影が宿る。
 神父であるヴァラクは、全国の人の悩み相談を受けたいとHPを作成し、持っていた。そして返事を出そうとやって来た際、そのメッセージを見た。
「我が父の御子が助けを求めている……」
 子供を助けたい。がしかし、ヴァラクには他にひっかかっている事があった。
 親友が謎の死を遂げたこと、それから何故か魔王という言葉に過剰反応してしまう。
「助けに、いかなければ……」
 国籍不明の神秘的な相貌をひきしめつつ、ヴァラクは立ち上がった。

●エルトゥール・茉莉菜
「懐かしいですわね……」
 そのゲームを思い出して茉莉菜は呟いた。
 占い師の神秘的な外見からは想像出来ないが、意外にゲーム好きだった。ネットゲームも、高校生を装って参加している、が、深く突っ込んではいけない。
「僧侶、が適役かしら」
 言いながら、茉莉菜は立ち上がって雫の姿を捜した。

●ネット世界へ!
「魔法使い、僧侶、僧侶……」
 集まった面々を見て、雫は一瞬絶句した。皆ネットゲーム、というかこの手のゲームとは縁遠そうな人達ばかりだったからだ。
 しかも希望職を聞けば肝心な勇者と戦士がいない。
「あら、勇者希望者ならいますわよ」
 冴那が艶やかに笑って雫の足元に立っている駒子を見つめる。
「うん☆ こまこ《ゆーしゃ》やるー♪」
「え? 誰かいるんですか?」
「……ええ。あなたの足元に。そのお嬢さんに勇者はお任せしましょうか」
「足元……」
 ヴァラクに言われて雫は足元を見るが、何も見えない。そこでは駒子がにこにこと立っているのだが……。
「まぁなんとかなるんじゃないでしょうか。回復系が二人もいれば死ぬこともないでしょうし」
 茉莉菜が優しく微笑む。
「でも、普通にゲームをやっていたらいつまで経っても終わらないし、勝てないんじゃない?」
 冴那の言葉に、違う方向から応える者があった。
「……わしが手伝おう」
「「「「「え?」」」」」
 可愛らしい女の子の声。しかし発言内容が伴わない。
 振り返った雫の顔が「ああ」と納得したようになる。
「遊羽(ゆう)ちゃん。来てたんだ、珍しいね」
「うむ。たまには顔を出しておこうかと思うてな。それでじゃ、わしの能力でおぬしらをネット世界へと入れてやろう」
 年の頃は10歳前後。艶やかな黒髪をボブに揃えた、日本人形のような顔立ちで、しかし瞳の色はオリエンタルブルー。可愛らしい口から発せられた言葉は、なんともジジ臭いというか……。
「そんな事が出来るんですの?」
「うむ。それがわしの能力じゃからな。と言うてもわしがするのはおぬしらの精神体を体の外に出す事じゃ。その後、パソコンの中に入ればいいのじゃ。体の方の管理はわしと雫で責任を持ってやるぞ」
 茉莉菜の問いに遊羽は頷いた。
「中に入れるならそれに越したことはないわね。その方が色々便利だし」
「こまこはだいじょうぶだよー☆ じぶんではいれるのー」
「……そうじゃな、おぬしはわしの力は必要ないようじゃ」
 冴那が笑う。まっすぐ駒子を見て遊羽は答える。それに駒子は嬉しそうに笑った。
「それでは、よろしくお願いします」
 今にも頭からディスプレイに突っ込んでいきそうな迫力でヴァラクが言う。いつもは穏和な雰囲気の神父さんなのだが、魔王、という言葉が頭にこびりついていて離れなく、少々気が急いていた。
「それではそこにイスに座って並ぶがよい」
 遊羽に言われたとおり、3人はディスプレイを見つめる形でイスに座った。
「こまこはさきにいってるねー☆」
 言ってこまこはディスプレイの中に消える。
「ゆくぞ」
 と言って取り出しのはハリセン。
 目を丸くして何をするのか問おうとした茉莉菜の後頭部に、鈍い痛みが走った。瞬間、気を失った。他の2人も同様だ。
「頑張ってね、みんな……」
 雫の呟きは、皆には届かなかった。

「みんないらっしゃーい☆ はやかったね」
 先に来ていた駒子は、3人の姿を認めると嬉しそうにかけてくる。
「ここがパソコンの中ですか……」
 遊羽に叩かれたことによって、冷静さを取り戻したヴァラクは辺りを見回した。
『お名前と職業を決定してください』
 不意に機械音が降ってくる。四人は首を巡らせてから上を見ると、テキスト入力欄のようなものが浮かんでいた。
「ここで決定しろって事ね。魔法使い、サエナ」
『魔法使い、サエナ……決定しました』
 冴那の格好は露出の激しい深紅のタイトドレス。なんとか魔法使いの衣装に見えなくてもない……というような姿。それでも冴那は気に入ったらしく、左目を細めて微笑む。
「こまこも! こまこも《へんしん》するー! えーっと、《ゆーしゃ》こまこ」
『勇者、コマコ……決定しました』
 今度は駒子の着物姿が、辛うじて鎧に見える程度の装備へと変わっていた。かなり軽量化されているように見えるのは、駒子仕様だからだろうか。
「うわぁい☆ こまこ《ゆーしゃ》だぁ♪」
「良かったわね、駒子ちゃん。それじゃわたくしも……。僧侶、マリナ」
『僧侶、マリナ……決定しました』
 茉莉菜の服装は、冴那とは違っていた。が、こちらはちゃんと魔法使いのような衣装だった。
「それでは最後に私が……。僧侶、ヴァラク」
『僧侶、ヴァラク……決定しました』
 ヴァラクの服装はあまり変わりがなかった。元々神父服であった為だろう。しかし少々中世の時代がかった服は、ヴァラクを違う世界の人のように見せていた。
「それじゃ、《まおー》たいじにしゅっぱぁつ☆」
 駒子勇者の号令がかかった。

 気がつくと立っていたのは草原の真ん中だった。
「こういう場合って、西か東に街があるものですわね」
 4人のなかで一番ゲーム慣れしている茉莉菜。
「そうですね……東がよろしいかと」
「神父様の勘ね。あたしは構わないわよ」
 一見きつい印象のある冴那だが、実はかなり世間慣れしていない為、少々ずれている面がある。どっちかと言うと結構天然が入っていたり。
「こまこもいいよー☆ じゃ《ひがし》にいこー♪」
 駒子の口調ではピクニックに行くようだが、ほのぼのした雰囲気から不快な印象は無い為、皆微かに笑みを浮かべた。
 途中、戦闘はいくつかあった。しかしヴァラクの死の呪文と冴那の蛇召喚でそう苦戦はなかった。
 勇者駒子も、小さい体を使って敵を攪乱しつつやっつけていく。
 茉莉菜は適度に回復をかけつつ、補助魔法でフォロー。前衛がいないに等しいパーティだったが、なんとか連係プレイで上手くいくようだった。
 街につくと一番人当たりの良さそうな雰囲気のあるヴァラクが聞き込み。外見が神秘的で僧侶姿のヴァラクを、意味もなく拝む老人まで……。
 他のメンバーは戦闘で手に入れたお金や品物を使って買い出し。防具や武器はそこそこいいものを用意したいところだった。
「駒子ちゃんだと、なかなかサイズがないわね」
「そうね。小さい子だと冒険にはなかなか出ないでしょうし」
 妹の服選びに来たお姉さん達、という感じの茉莉菜と冴那。足元では駒子が物珍しげにあちこちキョロキョロしている。
「迷子になるから、遠くに行っちゃダメよ」
「はーい☆ こまこいいこだから、まりちゃんのいうこと《まもる》よー」
 にこにこと『まりちゃん』と呼ばれて茉莉菜は苦笑する。そういう呼ばれ方は初めてだった。
「……ねぇねぇ、さーちゃん、こまここれがいー」
 今度は『さーちゃん』と呼ばれた冴那が左目を細めて笑う。
 言って駒子が武器屋の陳列から取り出しのは針。
「お客さん、いいのに目を付けたね。それは一撃の針って言って、急所にあたればモンスターも一発だ」
「急所にあたれば……ね」
 武器屋のおやじの言葉に、茉莉菜は肩をすくめた。急所にあたらなければただの極太針でしかない。しかし駒子の体型で他に使えそうなものはなかった。
「じゃそれと、そっちの短剣を下さいな。……二つセットなら、負けて下さいますわよね?」
 にーっこりと笑うと、武器屋のオヤジは困ったような顔になったが、渋々頷いた。
「茉莉菜さんってなかなかすごいのね。こういうものって負けて貰えるのね……」
「……感心するような事でもないですけど……」
 しきりに感心して頷く冴那に、茉莉菜は乾いた笑みを浮かべた。
 それからヴァラクが合流。ヴァラク用の装備も購入し、宿屋に一泊してから街を後にした。
「蝮召喚!」
「えーい☆」
「異形の生物に安らかな眠りを……」
「皆さんに守りの力を!」
 魔王の城につくまで必ず街は存在する物だ、という茉莉菜の言に従って、魔力の消費は押さえない。城近くで体を休めてから、魔力温存は考えればいい。
「御免なさいね、火の玉とか撃てなくて」
 無表情で冴那が言う。
 本来魔法使い、というのは4大精霊の力を使って攻撃する物。しかし冴那が行っているのは先程から蛇の召喚ばかり。それはそれで強いので文句はないのだが。
「いろいろな方が存在し、支え合い、暮らしていく。理想の姿ですね」
 ヴァラクは個性的なメンバーをこう表し、穏やかな笑みを湛える。
 そして自分たちの能力を行使しつつ、魔王の城の前に辿り着いた。
「おかしいですわね……」
「どうかなさったんですか?」
「ええ……普通は『伝説の剣』みたいなものが手に入るはずなんですけれど……。今まで情報がありませんでしたわね?」
 情報集めを行っていたヴァラクに問うと、小さく頷く。
「それがないと困るのかしら?」
「どういった事が起きるかわからないですけど、大抵魔王はそれで倒す、というのがセオリーですの……」
「ねぇねぇ、まりちゃん、さーちゃん、くーちゃん! こっちに《あな》があるよ」
「……駒子さん、くーちゃん、とは私の事でしょうか……?」
「うん☆ う゛ぁらくのくーちゃん」
 ぴっかぴかの笑顔を向けられて、ヴァラクは反対せず、苦笑するにとどめた。
「でねでね、こっちだよぉ」
 駒子に道案内されて、辿り着いた祠。ひっそりと隠されたようにあったそれに、茉莉菜は何かある、とゲーマーの勘が告げた。
「入ってみましょ。こういう所に大抵何かあるって決まってますわ」
「それじゃ、入ってみましょうか。……何か気持ちのよさそうな所……」
 祠の中を覗いて、冴那は嬉しそうな笑みになった。蛇が生息しやすそうな場所、という感じだろうか。
 中にはいると当然戦闘があった。それも魔王の城の近く、という事もありなかなか手強い。
 それでもこれまできっちりレベルをあげてきた為、さほど苦戦を強いられることはなかった。
「あれが《でんせつのまけん》?」
 台座に刺さっている剣を見つけて、駒子は走り寄る。そしてそれに手をかけて引き抜いた瞬間、後ろによろめく。それをヴァラクがすかさず支えた。
「ありがと、くーちゃん☆ これこまこにはおもいみたい……」
「そうみたいね……どうしたらいいのかしら……」
「もっと小さければいいのよね。駒子ちゃんサイズに」
 困ったように俯いた茉莉菜の横で、冴那が呟いた瞬間、駒子が持っていた剣が変化した。
「あ、《ちいさく》なったー♪」
 伝説の剣は、駒子の手に丁度いい大きさの短剣へと姿をかえた。
「使う人によって姿をかえるのですね。さすが伝説の剣」
 ヴァラクは感嘆のため息をもらした。
「戻ってどこか村を探して休みましょ。魔力の回復をしておかないと」
 茉莉菜の言で、全員引き返した。
 そして近くにあった村−実はそこで祠の情報を手に入れるのだったが−で宿をとると、再び魔王の城へと向かった。

「ふふふふ、来たわね」
 魔王の間、と呼ばれる最終の部屋に入ると、赫い長髪の男性が大きなイスの上に座っていた。
「ここまで勢いづいてやってきたようだけど、ここで最後よ。たっぷり可愛がってあげるわ」
「あ、《おかま》だ!」
「誰がおかまよ! 失礼な事言うがきんちょね」
「こまこがきんちょじゃないもん! こまこだもん」
「何意味不明なこと言ってるのよ。これだからがきんちょは……」
「何が為にこのような真似をしたの?」
 ぶつぶつ呟く魔王に、冴那が問う。それに我に返ったような顔で魔王はにやりと笑った。
「ふふ。そんなのあんた達に知った事じゃないわ」
「子供達を返しなさい!!」
 これまで声を荒げる事など無かったヴァラクだが、少々今までとは違った面もちで叫んだ。
「いやよ。……あたしを倒せば、帰ってくる、かもよ?」
「……それではそうさせて頂きます!」
 僧侶、と言っても多少の攻撃呪文は使える。ヴァラクは空気を引き裂く呪文を飛ばした。
「ちょ、ちょっとヴァラクさん!?」
 一体どうしちゃったの!? と茉莉菜は思いながら即座に攻撃・防御力をあげる付与魔法を全員にかけた。
「よぉーし☆ こまこ《りーだー》なんだからがんばる! 《りゅうのかみさま》、《せいぎのかみなり》をちょーだい。ぜったいわるいことにはつかいません〜。《おともだち》をたすけるの〜」
 伝説の剣を持って駒子が言うと、魔王の上に雷が轟いた。
「なかなかやるじゃない。それじゃ、こっちからも行かせて貰うわよ!」
 服の端々を焦がしながら、魔王が腕を振ると、まぶしい光が放たれる。
「コブラ!」
 咄嗟に冴那がコブラを召喚。巨大化して出てきたコブラが全員の前に出てきた為、めをやられるにすんだ。しかしコブラはその次に繰り出された魔王の一撃で消えてしまう。
「よくもあたしの可愛い子を……」
「魔王は変身するのが定石です! なるべく体力や魔力は温存してください」
「みんなを《いじめ》ちゃだめ!」
 駒子の叫び。それが引き金になったのか、駒子個人の能力が働く。それは気に入った人間に幸運を与える、というもの。
 ヴァラクには魔法攻撃緩和が、冴那と茉莉菜に無尽蔵の魔力が与えられた。そんな馬鹿な、という展開だが。
「……すみません、取り乱しました」
 駒子の声に目を覚ましたヴァラクは、いつもの冷静さを取り戻した。
 そして魔王の弱点はないか、と探る。
「こまこもいくよー☆」
 伝説の短剣(?)をもって攻撃。しかしバリヤーのようなものに守られている魔王に攻撃を与えることが出来なかった。
「《りゅうのかみさま》これを《ゆーしゃのけん》にこうかんしてください……」
 祈りつつ駒子は剣の柄に小さくキスをした。瞬間、剣はまばゆい光を放つ。
「駒子さん、右肩です!」
 ヴァラクに言われて駒子はとんだ。先程の光で一瞬ひるんだ魔王の右肩に剣が深々と刺さった。
「……やったわね、やったわね、やったねぇぇぇぇ!?」
 魔王はよろめきながら後ろに下がる。そして下がりながら魔王の体ぐずぐぐと崩れていく。それは再構成され、ドラゴンのような姿へとかわった。
「それが最終形態ですか」
「ふはははは。かかってこい!」
 いうなり魔王はドラゴンブレスを吐き出した。それを茉莉菜の風の呪文が飛んではじき返す。
「このくらいは僧侶でも出来ますのよ」
「ハブ、錦蛇!」
 蛇を次々と召喚していく冴那。見た目にはあまり気持ちのいい状態ではないが、それなりの強さがあるため文句は言えない。
「我々に父の恵みを……」
 ヴァラクが祈ると、全員に回復がかかる。
「《わるいこ》はめーなんだから!」
 駒子も懸命に戦った。しかし多少の傷はつけられど、致命傷、とまではいかなかった。
「……駒子さん、喉元です」
 ヴァラクに言われて駒子が飛ぶが、尻尾で跳ね返される。
「ちかづけないよぉ……」
「……」
 冴那の右目が一瞬覗いた。それは蛇のそれを同じで。
「あたしが押さえてるわ。だから!」
 瞬間、冴那の体縮んだと思うと、巨大な蛇へと姿をかえた。ついでに数十匹のキングコブラが降ってきた。
 蛇へと姿を変えた冴那がドラゴンを押さえ込む。
「駒子ちゃん!」
「うん! さーちゃんありがとー」
 もがくドラゴンを押さえる冴那の体を縫って、駒子は正確にドラゴンの喉をついた。伝説の短剣は、刺さる寸前に剣へと姿を転じ、突き刺さる。
「ぐわぁぁぁぁぁぁ!!」
「さぁ、子供達を返しなさい!」
「……勝手に探せばよかろう……」
 かすれる声で魔王は言い放つ。
「……そうですか。それならば楽にして差し上げましょう」
 ヴァラクが何か呪文のようなものを唱える。
「ぐ、ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁ!! よくも、よくもやったな……。しかし、我はまた復活する、いつの日か、必ず。その時は、お前の子孫共々世界を滅ぼしてくれようぞ……」
 魔王はゲーム終了時のおきまりのセリフを吐いて、霧となって消えてしまった。
「きえちゃった……」
 ストン、と床に下りて駒子は呟く。
「……仕方ないわね。探しましょう……冴那さん、大丈夫ですの?」
 元の姿に戻った冴那の姿は痛々しかった。
「ごめんねさーちゃん……」
「大丈夫よ。これくらい」
「今治します」
 満身創痍な冴那に、ヴァラクは回復をかけた。完全回復、とまではいかなかったが、それでも立ち上がれるほどには回復した。
 そして視線を巡らせたヴァラクに、奥の頑丈そうな扉が見えた。
「あそこが怪しいですね」
 言って歩き出す。3人もその後をついていく。
 ぐいっと扉を押すと、重い音が響いて開いた。
「誰かいませんか?」
 ヴァラクが問うと、奥の方でビクッと反応する気配があった。
 数人が固まっているらしい。
「もう大丈夫ですよ。魔王はもういません」
「……本当? 本当にもういないの?」
 恐る恐る子供達が出てくる。
「ええ。怪我はありませんか?」
 日曜教会で子供達を相手するような穏やかな顔でヴァラクは微笑む。
 それに安心して皆寄ってきた。
 そして茉莉菜とヴァラクで辛うじて残った魔力で回復を行った。
「でもどうやったら《げんじつせかい》にもどしてあげられるのかな?」
「我が父に祈りましょう……」
 跪いてヴァラクは祈る。自分の信じるものに。
 すると子供達は光に包まれ、消えた。

「くーちゃんすごぉい☆」
「……これで、終わったんですね……」
「結局何がどうしてこんなことになったのかわからなかったですけど」
『……ふふふふ、クリアーおめでとう諸君』
 不意に頭上から声が降ってくる。
「誰?」
 冴那の誰何の声が飛んだ。
『Z、とでも名乗っておこうか。今回は見事私の計画の邪魔をしてくれたね。……まぁいい。これからが楽しみだ』
「あなたが黒幕ですの!? 悪趣味にも程がありますわ」
「そうだよぉ。めーだよ!」
『威勢がいいな。また逢えるのを楽しみにしているよ……』
 謎の声は消えた。
「また……」
 まだこんな事があるのだろうか、ヴァラクは瞳を伏せて唇をかみしめた。脳裏を横切るのは謎の死を遂げた親友の顔。
「とにかく、一旦ここを出ましょう。これ以上いても仕方ないですわ」
 茉莉菜に言われて、全員ネット世界を後にした。

●その後
 偶然ネットカフェで再会した3人は、片隅に集まっていた。
「あれから《じけん》おきないねえ」
 イスに座れないため、駒子はテーブルの上にちょこんと座っている。
「起きない方がいいですわ。傍迷惑ですもの」
「あたしは結構面白かったわ。……でも蛇達が死んじゃうのは嫌ね」
 顔を曇らせながら茉莉菜がコーヒーをスプーンで掻き混ぜる。それにいまいちプログラムというものがわかっていない冴那がミルクをいれようかどうか迷いながら言う。
「……野放しにはしておけません……しかし、こちらからつかめる手だてはまだないですから……」
 無表情にも何か思い詰めた所があるように、ヴァラクは呟いた。
「だいじょぶだよ、くーちゃん☆ またでてきたら、こまこがやっつけてあげる☆」
 純粋な駒子の笑みを見て、ヴァラクは少し、笑みを作った。

□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 【0016/ヴァルク・ファルカータ/男/25/神父】
 【0033/エルトゥール・茉莉菜/女/26/占い師】
 【0291/寒河江駒子/女/218/座敷童子】
 【0376/巳主神冴那/女/600/ペットショップオーナー】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
 初めまして、こんにちは。夜来聖です☆
 駒子ちゃんと茉莉菜さんは再びお目にかかれて光栄です。
 この度は私の依頼を選んで下さり、誠にありがとうございます。
 バラバラなパーティだったので、戦士がいなかったですが、そこはそこ、ご都合主義ってヤツで(^-^;)
 楽しんで頂ければ幸いですが……。
 ヴァラクさん、初参加ですか! 上手く表現出来ていればいいのですが……。優しい、でも何かを秘めている神父様、という感じで書いたつもりなのですが。難しいですね(^-^;) お疲れさまでした。
 茉莉菜さん、今回は水先案内人でした。他にゲームやっているような人がいなかったので。純粋な回復はなかなか目立たなくて……。お疲れさまでした。
 駒子ちゃん、イラスト拝見しましたー☆ 横にいるのはポンちゃんでしょうか(笑) 可愛かったです。勇者お疲れさまです。頑張ってくれました。
 冴那さん、最初魔法の使い方見たとき、おお! と思いました。蛇の召喚しまくり、楽しかったです。状況的に白蛇が出せなかったのが残念ですが……。お疲れさまでした。
 これはパラレル形式に書かれていますので、他のパーティではまた違った展開になっています。興味ありましたら読んでみて下さいませ。
 それでは、またお逢いできるのを楽しみしています☆