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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


魔王を倒せ!!
●始まり
『友達を助けて下さい!!』
 その日、BBSにはそう書かれていた。
「友達を助ける……?」
 瀬名雫は題名にひかれて内容を読み始める。余程焦って書いているのか、少々支離滅裂気味になっているが、わからないことはなかった。
 要約するとこうである。
 とあるネットゲームをやっていた時、魔王戦まで行って戦っていたメンバー4人のうち3人までが死んでしまった。自分が僧侶をやっていたため、復活の呪文を唱えたが生き返らない。しかもそれ以降音信が途絶えてしまった。
 直接の友人でもあった家に電話をかけると、ネットにつながったままパソコンの前にはいない、という。他の人の所へメールを送っても返事がない。
 思案に暮れていると、パソコンの中から声がしてきたという。
『助けて……パソコンの中に掴まっちゃったんだ……、助けてくれ』
 という友人の声。しかしどうしていいのかわからず、BBSに助けを求めた、という。
「このネットゲーって、確かすっごいオーソドックスなRPGだったわよね……ドラクエ3みたいな感じで、4人パーティで職業決めて、って言う……!?」
 雫が呟いた次の瞬間、ディスプレイが真っ黒になり、赤い文字が映し出された。
『仲間を助けたくば、4人でやってこい。いつでも挑戦は受けてやるぞ!』
 ほんの5秒くらいだったろうか、それが記された後、すぐに消えてしまった。
「パーティ組んでかかってこい、って事? 一体どこの誰よ、こんな事するの!」

●獅王一葉
「何考えてんねん、全く。人の迷惑考えんと……」
 たまたまゴーストネットに来ていた一葉は、雫と同じ書き込みを見ていた。
「いっちょうちがしばいたろか!」
 腕まくりをしながら立ち上がった。

●鈴宮北斗
「魔王を倒してパソコンの中に掴まった人らを助け出すっちゅうことやな? 燃えるシチュエーションやないか!」
 雫と同じ書き込みを見ていて、しかも先程の挑戦文を見た北斗は、拳を振り上げて立ち上がった。
「……4人1組……夏生ちゃん参加せぇへんかな……」

●榊杜夏生
「魔王が怖くてドラ○エが出来るか〜!」
 夏生は思わず叫んだ。雫と同じ書き込みを見て、しかも先程の挑戦文を見ていた。
「ふふふふ、見てらっしゃい! あたしのゲーマーとしての運を」
 腕、ではないのだろうか……。

●直弘榎真
「……なんか北斗と榊杜と……獅王さんの声が聞こえた気が……」
 気のせいであって欲しい、と思いつつ榎真は頭を抱えた。
 確かゴーストネットに来る、という話はしていた。だからいてもおかしくない。しかもこんなシチュエーション、三人が逃す訳がないと思う。
 大仰なため息をつきつつ、榎真は立ち上がって周りを見回した。

●ネット世界へ!
「……」
 雫の周りに集まったメンバーを見て、榎真は閉口した。やはり、というべきなのだろうか。一葉、夏生、北斗が雁首並べて立っていた。
「おお! 戦士やないか。よぉ来たで」
「せ、戦士……?」
「そう♪ あたしが魔法使いで、一葉さんが僧侶。北斗君が勇者なんだ。だから戦士。よろしくね」
「うちが僧侶、ゆうんは納得できんと思うけど、これでも薬草知識はあるしな。ま、頑張りや、前衛」
「え、あの……」
 矢継ぎ早に言われて榎真はフリーズした。
「とりあえずこの僧侶クンにゲームの内容色々聞いた方がいいよね」
「ちょいまちぃ、夏生ちゃん。一応俺、これクリアした事あるんや。ま、あの時はこんなけったいな仕掛けなかったけどな」
「それじゃ、ボス戦もしっとるんやな。なら話が早いわ」
「……でも、どうやって戦うんだ? まとも戦ったら勝てそうにないだろう、話だと」
 ようやく再起動がかかった榎真は、盛り上がる面々にまともな一言。
「普通に行けば結構時間かかるゲームやったな、これ」
「あたし達の能力も使えないしね……」
 スーパーラッキー娘の夏生の運も、キャラにまで宿せるのかわからない。
「……わしが手伝おう」
「「「「「え?」」」」」
 可愛らしい女の子の声。しかし発言内容が伴わない。
 振り返った雫の顔が「ああ」と納得したようになる。
「遊羽(ゆう)ちゃん。来てたんだ、珍しいね」
「うむ。たまには顔を出しておこうかと思うてな。それでじゃ、わしの能力でおぬしらをネット世界へと入れてやろう」
 年の頃は10歳前後。艶やかな黒髪をボブに揃えた、日本人形のような顔立ちで、しかし瞳の色はオリエンタルブルー。可愛らしい口から発せられた言葉は、なんともジジ臭いというか……。
 一瞬唖然となりながら、夏生はぶるぶると頭を振って立ち直る。
「遊羽ちゃん、だっけ? そんな事出来るの?」
「出来るぞ。それがわしの能力じゃからな。と言うてもわしがするのはおぬしらの精神体を体の外に出す事じゃ。その後、パソコンの中に入ればいいのじゃ。体の方の管理はわしと雫で責任を持ってやるぞ」
「……いたずらとかしないよな」
「するか、アホ!」
 一葉のハリセンが榎真の後頭部に炸裂した。
「女の子つかまえて何いうとんねん、全く。……ほな、遊羽ちゃん、頼むわ」
「うむ。それでは皆そこに並ぶが良い」
 遊羽に言われてパソコンの前にイスを並べて全員が座る。
 その間に雫がネットゲームにアクセスする。
「それではゆくぞ」
 言って遊羽が取り出したのはハリセン。それで一番手前の北斗の頭をスパコーン! と叩いた。
「獅王さんの他に使う人いたのか……」
 カクン、と頭を前に倒して意識がなくなった北斗を見て、榎真は呟いた。しかしすぐに自分の順番が回ってきて、意識を失った。

「ここがネット世界か。案外普通やな」
 言って一葉は辺りをキョロキョロ見回した。
 四角い空間の中に、四人は立っていた。
『お名前と職業を決定してください』
 不意に機械音が降ってくる。四人は首を巡らせてから上を見ると、テキスト入力欄のようなものが浮かんでいた。
「ホクト、勇者や!」
 最初に叫んだのは北斗。
『勇者、ホクト……決定しました』
 瞬間、北斗の服装が典型的な勇者の鎧装備にかわっていた。手の中には鉄の剣。
「面白そう♪ ナツキ、魔法使い!」
『魔法使い、ナツキ……決定しました』
 夏生の服装が魔法使いのものへとかわり、手の中に杖が現れる。
「カズハ、僧侶」
『僧侶、カズハ……決定しました』
 一葉の服装も僧侶のそれにかわる。
「……はぁ……。カザネ、……戦士」
『戦士、カザネ……決定しました』
 榎真の装備は鎧ではなくかなり軽装だったが、ファンタジーらしさを醸し出した格好で、背中に羽根が生えていた。
「羽根、か……」
 榎真は苦笑。
「きゃあ☆ 榎真クン可愛い♪」
「ふかふかやな。これ」
 一葉と夏生が嬉しそうにその羽根に触れる。
『これよりゲームが始まります』
 そして、そうアナウンスが入った瞬間、世界は一変した。
 今度は四人は草原の真ん中に立っていた。
「鉄の剣か……せこいな」
 北斗はその重さを確かめるように上下に剣を振った。
「北斗クン、これってどこに行ったらいいの?」
「そやな、確か東に向かうと街があったはずや。まずはそこまでいこか」
 北斗の言葉で、全員は街へと向かう事になった。
 向かう途中、数度の戦闘があったが、自分の特殊能力も使えるので難なくクリアー。
 レベルも1から5まであがった。
「ねぇねぇおじさん。この剣もうちょっとまからない?」
 市場で値切り交渉入る夏生。こう言うときは女の子の方がいいだろう、という案。一葉では男僧侶にしか見えない。
「仕方ないなぁ。それじゃ、おおまけに負けて100Gでどうだ!」
「きゃあ☆ おじさま太っ腹!」
 黄色い歓声をあげて喜ぶ夏生に、武器商はデレデレ。
「やっぱ可愛い子は得やなぁ」
 ぼそりと一葉が呟いた。ねたみではなく、感心したように。
「北斗クンと榎真クン、良い武器手に入ったよー!」
 遠巻きに見ていた三人の元に夏生が剣を抱えて戻ってくる。
 そしてはい、と北斗と榎真に渡した。
「……夏生ちゃん、これナンボでこうたん?」
 唖然とした顔になりながら北斗が呟く。それに今度は夏生がキョトンとなる。
「え? 1本100Gだったよ? ……もしかして高かったの!?」
 ガーン、ショック……という顔で夏生は北斗を見るが、北斗はぶんぶんと大きく首を左右に振った。
「そやない。これって最後の方で手に入る武器なんや。形がかわっとったからよぉ覚えとる。俺も欲しくて周りの雑魚敵倒しまくった覚えあるさかい。……あの時その値段の100倍以上はしとったで……」
「そうなの? うぁい☆ 得したね♪」
「さすがスーパーラッキー娘……」
 剣を見ながら榎真は小さく息を吐いた。
「序盤からええ武器手に入って良かったわ。ほなら先にいこか」
 情報収集に出かけていた一葉。街に寄ったら街人に話を聞くのが必須条件。いくら北斗が先の話を知っているとは言え、変わっているかも知れない。
 当たり前の事だが、先に進むに連れて戦闘は厳しくなってくるが、序盤から手に入った最強に近い武器。そして夏生が敵からぶんどった最強に近い防具でほぼ無傷で魔王の城の前に辿り着いた。
 夏生の場合、魔法使い、というより盗賊だろう。そして勇者や戦士より強い僧侶……多くは語るまい。
 雑魚敵は夏生の回し蹴りと、一葉のハリセンの前にひれ伏した。この場合、魔法の立場云々は突っ込んではいけない。
「この近くに祠があってな、そこで伝説の武器が手に入るんや」
 本来ならちょっと回り道をしてから手に入る情報なのだが、北斗の誘導で四人は祠へと向かった。そしておきまりのダンジョンをクリアーし、台座に刺さっていた剣を手に入れる。
「さぁ、本番の魔王戦や!」
「「おー!」」
「……まぁ、適当に……」
 剣を掲げた北斗に、一葉と夏生も拳をあげる。榎真一人、少々呆れたように一歩後ろに下がった位置から見ていた。
「適当ちゃうねん! びしっと気合いいれんか!」
「……獅王さんて、男前だな」
「……たわけ!」
 パコーン! と一葉のハリセンが飛んだ。
「……榎真専用、とでもかいとこか、これ」
「お願い、やめて……」
 左手で後頭部を押さえつつ、右手を一葉に伸ばして哀願した。

「ふふふふ、来たわね」
 魔王の間、と呼ばれる最終の部屋に入ると、赫い長髪の男性が大きなイスの上に座っていた。
「ここまで勢いづいてやってきたようだけど、ここで最後よ。たっぷり可愛がってあげるわ」
「そないな趣味あらへんわ! 気色悪いわ、そのしゃべり方」
 僧侶であるはずの一葉が、ハリセン片手にずいっと前にでる。
「大きなお世話よ。あたしのしゃべり方であんた達に迷惑かけた覚えはないわ。でも、あたしを侮辱した罪は重いわ。さぁ、あなたからかかってくる?」
「なに言うてんねん、勿論勇者と戦士に行くに決まっとるやろ! 行け!! 北斗、榎真!!」
「挑発するだけして、自分は後方支援……はぁぁ……」
「おっしゃ、いっちょやったるで! 夏生ちゃん、俺の勇姿見ててや!」
「北斗クン、榎真クン頑張って〜☆」
 杖をバトンかわりに夏生は踊り始める。
 それから仲間の守備・攻撃力をあげる魔法をかけた。
「魔法行きまーす♪ 二人ともちゃんと避けてねー」
 無責任な発言をかました後、夏生は雷をぶちかます。
 見事魔王に命中!
「なにすんのよ、痛いわね! もう許さないから!!」
 ちょっぴり服の端を焦がして、魔王は怒りに燃える。
 その間に北斗と榎真が懸命に攻撃。
 榎真は北斗と同じ祠で手に入れた日本刀のような剣を使っている。凪ぐと風が走り、一種かまいたちのような使い方が出来た。
「頑張れやー。怪我したらすぐに言うんやで、治したるさかい!」
 後ろで色々薬品を調合しつつ、一葉が叫ぶ。
 北斗はしっかりしめたバンダナを確認しつつ、跳躍した。
 普通の人間では飛べない限界以上まで跳び上がり、剣を振り下ろす。
「でりゃああああああ!!」
「甘いわ!」
 カキーン、とバリヤーのような物で跳ね返される。
 幾度と無く斬りつけるが、バリヤーの前に歯が立たない。北斗はギリッと歯をかみ合わせた。
 どうしたらいい、自分の知っている魔王とは違う。一瞬の躊躇。その隙に魔王の攻撃が夏生へと向かった。
「……させへん! 夏生ちゃんは俺が守る!!」
 北斗は駆け出し、その攻撃をなんとか受けたが、自身に傷を負ってしまった。
「北斗クン……ありがとう……」
「ええって。夏生ちゃんが無事ならそれでええんや」
「……北斗、今回復するよって」
 一葉はすぐに回復の呪文を唱えた。
「悪い。……くそっ。確かこれにはリミッター解除が……せや!」
 何かを思いだした北斗は、夏生の側まで走る。それは一瞬の出来事。
「人間でここまで早く走れるヤツがいるの!?」
 魔王もびっくり。
「ど、どうしたの、北斗クン?」
 いきなり迫ってこられて夏生は目を丸くする。
「夏生ちゃん、何もいわんとこの剣のここにキスしてや!」
「え!?」
「それがこの剣の封印を解く鍵なんや!」
「……わかった」
 夏生は真面目な顔で頷くと、剣の柄にキスをした。
 瞬間、剣から光が溢れ、その形状を変えた。
「おっしゃ! これでバリヤーなんぞ怖くないで!!」
 また全速力で駆け戻った。
「……忙しいやっちゃなぁ……」
「北斗! 右肩を狙え!!」
 それまで冷静に状況を見ていた榎真が、魔王の弱点らしき場所を見つけた。
「でかした榎真。行くで魔王!」
 ぐいっと全身をバネして、北斗は跳躍。
「援護は任せてな!」
 一葉の特性薬品爆弾が飛ぶ。夏生の雷、榎真の”颶剱”鎌居太刀が飛ぶ。
 4方向からの攻撃に、魔王は防御しきれなく、北斗の剣が右肩に深々と突き刺さった。
「ぐわっ……。やったわね!? やったわね!? やったわねぇぇぇぇ!? ……もうゆるさねぇ……」
「本性現したな!」
 右肩押さえて倒れ込んだ魔王の顔つきが段々とかわってくる。
「魔王の変身はお約束やな!」
 魔王から引き抜いた剣を、血が付いていないが払うように回して北斗はそれを構え直す。
「何やってるんだ、榊杜!?」
「え? 勿論お宝収集♪ 何かいいものないかな……」
 倒れて変身が始まった魔王の台座の後ろを漁っている夏生。
「なんて緊張感のないパーティーなんだ……」
 榎真のため息。
「いいもの見つけた♪」
 それは魔力を増幅してくれる杖。それから復活薬の材料。
 それを持って夏生は魔王の横をすり抜けて戻ってくる。
「一葉さん、これ♪ 混ぜたら復活薬になるみたい」
「おおきに、夏生ちゃん。……北斗、榎真、もういつ死んでもええで!」
「死にたないわ!」「死にたくないぞ!」
「さよか……」
 ステレオで怒鳴れて、一葉は首を引っ込めた。
「何遊んでいるんだ……。さあ、本当の戦いはこれからだ」
 むくり、と起きあがった魔王の体は、さながらドラゴンのようだった。
「……チープだな。どうしてラスボスはドラゴンが多いんだ……」
「何でもいいわ! どないなヤツでもぶっ倒してやるぜ!!」
 榎真と北斗は剣を構え直す。夏生も先程手に入れた杖を軽く振って見てから、胸の前に構えた。
 一葉は一応復活薬の調合と、他の薬の調合も始める。
「最終決戦、行くわよ!」
 珍しい、魔法使いのかけ声で戦闘はまた始まった。
 魔王の炎のブレスを、榎真の大風が吹き飛ばす。夏生は水流の攻撃を加えた後、すぐさま雷を落とした。
「感電率アップ☆」
「でや、一葉様特性、薬品爆弾第2弾や!」
 瓶につめた薬品を放ると、魔王の体にぶつかって瓶が割れ、中身が飛び出し爆発する。
「真打ちは最後に登場や!!」
 全員の攻撃の合間を縫って、北斗の構えた剣が、魔王の喉元につきささった。
「ぐ、ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁ!! よくも、よくもやったな……。しかし、我はまた復活する、いつの日か、必ず。その時は、お前の子孫共々世界を滅ぼしてくれようぞ……」
 北斗がクリアーしたゲームと全く同じセリフを吐いて、魔王は霧となって四散した。
「終わったんだぁ」
 さずがに全員無傷、という訳にはいかなかった。が、死にそう、という所までいかなかったのは、各自の能力が使えたせいだろう。
「すぐに回復するさかい、並び」
 一葉に言われて3人は並ぶ。一葉は夏生から順番に回復し、最後に自分を回復した。
「後は掴まってる子達を助けて……」
 榎真がぐるりと辺りを見回すと、頑丈な扉に守られた部屋が見えた。
「あそこやな」
 同じ所に視線を向けていた北斗が走り、ドアを蹴り飛ばした。
 ドゥン、という鈍い音がして、扉が開く。
「……あ!」
 部屋の隅の方に固まる人影がいくつも見えた。
「BBSに書き込みしてきた子の友達だけやなかったんやな、掴まってたの……」
 一葉駆け寄ると、怪我をしている子達を見て回り、回復していく。
「大丈夫か?」
「……もう、怖いおじちゃんいない?」
 中には小学生くらいの子供も混ざっており、おどおどと一葉を見上げる。
「大丈夫や! みんなで退治してやったさかい」
「……ありがとー、お兄ちゃん達。お兄ちゃん達が本当の勇者様だったんだね!」
 北斗の言葉で、心配そうな顔が笑顔に戻る。
 それを見て北斗達も笑みを浮かべた。
「僧侶のお兄ちゃん、回復ありがとう」
「え、あ、……お兄ちゃんやないんやけどな……」
 とびきりの笑顔で言われてしまい、可愛い子大好きな一葉閉口してしまった。
「お兄ちゃん、良かったな」
 ポンと榎真が一葉の肩を叩く。
「お前に言われたないわ!」
 何度目かの、ハリセンが炸裂した。
「でもこの子達、どうやったら帰れるのかしら?」
 呟いた夏生の目の前を、白い輝いたものが通り過ぎた。
「?」
 よく目をこらして見ると、妖精のようだった。
 その妖精が何人も現れ、子供達に触れていく。瞬間、子供達の姿がネット上から消えた。
「戻れたの、かな?」
「見たいやな。悪さする生き物にはみえへんし」
 夏生の言葉に一葉が応えた。
「そうだ……」
 何かを思い出したのか、榎真はやはりどこからともなくペンを取り出した。そしてすっかり妖精の輪舞に見とれている夏生にそっと近付く。
「榎真、お前夏生ちゃんになにすんねん!?」
「え? 何?」
 榎真の行動を見て驚いた北斗の声に、夏生が振り返る。瞬間、前に居眠りしている間にヒゲをかかれたお返しに、額に肉、と書いてやろうとペンを構えた榎真にぶつかった。
「きゃあ!」
 ずりっと夏生の足元が滑り、巻き込まれた榎真に押し倒されるようなシチュエーションで二人は倒れ込んだ。
「お二人さん、そういう事は人のいないとこでやってや」
「榎真ー!!」
「……バカーっっっ!!」
 下敷きになった夏生の、見事なアッパーカットが決まった。
 必殺の回し蹴りでなかっただけ……良かったのだろうか?
「もしかして、真のラスボスって榊杜じゃなかったのか……」
 倒れる寸前、榎真は思った。

「さて、囚われた人も無事救出したし……って何でこんな事になったのか、真相がわからないままだけど……」
「せやな。人間をとらえてどうするつもりやったんやろ……」
 捕らえられていた人全員が元に戻ったようだった。そして四人だけが空間に残され、誰もいなくなった部屋を見回す。
 北斗は剣の肩に担ぐように持ち、壁を触ってみる。
「ええやないか、無事にクリアー出来たんやし。そろそろうちらも戻ろか?」
『……ふふふふ、クリアーおめでとう諸君』
 不意に頭上から声が降ってくる。
「誰だ!?」
 榎真の誰何の声が飛ぶ。
『Z、とでも名乗っておこうか。今回は見事私の計画の邪魔をしてくれたね。……まぁいい。これからが楽しみだ』
「悪趣味にも程があるわよ! 何考えてるの! ちゃんと言いなさい!!」
 上に向かって夏生が怒鳴る。
『威勢のいいお嬢さんだ。また逢えるのを楽しみにしているよ……』
 謎の声は消えた。
「何考えてるんや全く……。どーせネットオタクか何かの仕業やろ。あほらし。帰るで」
 手をヒラヒラと振って、一葉はため息を付く。
「違う! これは俺への挑戦状や! 受けて立つぜ」
「勝手にやっとき。実害がなければそれでええわ」
「違うわ一葉さん、それじゃいけないのよ! いつかこの手で正体を暴いてやるわ! 頑張ろうね、北斗クン☆」
「ようゆうた、夏生ちゃん。それでこそ我がパートナー!」
 手に手を取って燃えている二人の横で、一葉と榎真は蚊帳の外。
「……獅王さん、混ざらないのか?」
「ええ大人がやってやれるか。榎真こそどうや?」
「……思考回路不能」
「ほな帰るか」
「ああ」
 夕日に向かって走り出しそうな北斗と夏生を置いて、二人はさっさとネット世界を出ていった。

●その後
 そのニュースは小さく取り上げられた。
 数日行方不明になっていた子供達が、こぞって戻ってきた、というものだった。
中には大人も含まれていたが、ネットの中にとらえられていた、という説明の元に、集団幻覚、と称されて終わった。
「一葉さん寂しいですよ、あたしの事置いて行っちゃうんですもん」
 後日4人で集まってファーストフード店で昼食をとった。
「……」
 普段滅多に食べないハンバーガーを手に、榎真は四苦八苦している。
「すまんな。そやかて、若いお二人さんのノリにはついていけへんわ」
「そんなことないですよぉ。一葉さんも充分若いです☆」
「……そらわかっとるけど……」
 ため息混じりの一葉の呟き。
「しかしなぁ、最初はプログラムが勝手に意識も持ったのかと思うたけど、ちゃうみたいやったし……。黒幕がいたとは」
 ハンバーガーを二口で食べ、二つ目に取りかかりながら北斗が言う。
「またどこかで悪さするのかな」
「そないことしたら、またぶっ叩いてやれば済む事や。この4人なら向かう所敵なしや!」
「俺は混ぜて欲しくない……」
 榎真の呟きは、完全に無視された。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 【0115/獅王一葉/女/20/大学生】
 【0262/鈴宮北斗/男/18/高校生】
 【0231/直弘榎真/男/18/日本古来からの天狗・高校生】
 【0017/榊杜夏生/女/16/高校生】

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■         ライター通信          ■
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 皆様、再びこんにちわ、夜来です☆
 またまたお目にかかれて光栄です。とっても嬉しい♪
 今回の依頼はRPGです。4人1組で行動でしたが、前回もこのメンバーで書かせていただいたので、楽しかったです。
 夏生ちゃんの運の良さは健在☆ 一葉さんのハリセンも炸裂しまくってました。
 勇者だった北斗クン、上手く活躍させてあげられたか少々心配ですが(^-^;)
 榎真くん、メールありがとうです☆ じゃんじゃん夏生ちゃんとからんで、北斗クンをやきもきさせてあげましょう(笑)
 これまたパラレル形式なので、他のパーティはまた違った展開になっています。最初から組で申し込んだ人と、フリーの人とでも、やっぱりちょっと違っているかも……?
 興味があったら読んでみて下さい。
 それでは、またお逢いできるのを楽しみしています☆