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魔王を倒せ!!
●始まり
『友達を助けて下さい!!』
その日、BBSにはそう書かれていた。
「友達を助ける……?」
瀬名雫は題名にひかれて内容を読み始める。余程焦って書いているのか、少々支離滅裂気味になっているが、わからないことはなかった。
要約するとこうである。
とあるネットゲームをやっていた時、魔王戦まで行って戦っていたメンバー4人のうち3人までが死んでしまった。自分が僧侶をやっていたため、復活の呪文を唱えたが生き返らない。しかもそれ以降音信が途絶えてしまった。
直接の友人でもあった家に電話をかけると、ネットにつながったままパソコンの前にはいない、という。他の人の所へメールを送っても返事がない。
思案に暮れていると、パソコンの中から声がしてきたという。
『助けて……パソコンの中に掴まっちゃったんだ……、助けてくれ』
という友人の声。しかしどうしていいのかわからず、BBSに助けを求めた、という。
「このネットゲーって、確かすっごいオーソドックスなRPGだったわよね……ドラクエ3みたいな感じで、4人パーティで職業決めて、って言う……!?」
雫が呟いた次の瞬間、ディスプレイが真っ黒になり、赤い文字が映し出された。
『仲間を助けたくば、4人でやってこい。いつでも挑戦は受けてやるぞ!』
ほんの5秒くらいだったろうか、それが記された後、すぐに消えてしまった。
「パーティ組んでかかってこい、って事? 一体どこの誰よ、こんな事するの!」
●小日向星弥
「うわぁい☆ せーやもげえむやるっ♪」
白に近い金糸の髪をふわりと浮かせ、優しい緑の光彩を放つ瞳に好奇心を乗せて、星弥はイスから飛び降りた。
外見年齢6、7歳。実際は由緒正しい天弧の裔。一応一族の姫だが、未分化で性を持たないため、少年とも少女ともとれる体つき。
「げえむ、げえむ♪」
嬉しそうににこにこと笑いながら、星弥は雫の元へと向かった。
●シュライン・エマ
興信所のバイトで、調べ物があるためネットカフェに顔を出していたシュラインは、例のメッセージを目撃していた。そして尚かつ、スキップしながら脇を通り抜けていった子供に目が止まる。
「星弥、ちゃん……?」
いつも興信所に来ては、シュラインの膝の上でご飯を食べて帰る子供が、嬉しそうに向かう先は雫の所。
「もしかして星弥ちゃん、魔王と戦うつもりなんじゃ……」
シュラインは慌てて星弥を追いかけた。
●室田充
「をほほ〜♪ 最近のゲームも色々出来るのねぇ♪」
家のパソコンが調子悪かった為、ネットカフェに来て自分のホームページを覗いていたアンジェラ、こと室田充は、例のメッセージを読んで笑みを浮かべる。
本日の格好はアンジェラだ。
「なかなか面白そうねぇ。やってみようかしら♪」
そう言って、充は雫の元へと向かった。
●斎悠也
知り合いのアンジェラが歩いているのを見て、声をかけようとしたが、ネットカフェに入られてしまった。
普段ならそのまま素通りしてしまうのだが、何故かひかれるものがあってカフェに入った悠也に、例のメッセージが飛び込んできた。
「そういえばこのゲーム、戦士育てていたな……」
雫の方へと向かって歩いていくアンジェラの姿に苦笑しつつ、悠也もそれに習うように雫の所へと向かった。
●ネット世界へ!
「星弥ちゃん、本当に入るつもりなの?」
「うん☆ せーやはね、ゆーしゃやるの♪ しゅらいんも来るよね?」
「……魔法使いのキャラ、持ってるけど……」
「じゃ決まり♪ 後他に誰かいないかなー?」
きらきらお目目で見上げられて、シュラインは白旗をあげた。
「あら、シュラインちゃんじゃない。お久しぶりね」
「アンジェラさん……」
「だぁれ? しゅらいんのお友達? じゃ一緒に行ってくれるよね?」
にぱっと足元から見上げられて、充は一瞬きょとんとなるが、すぐに笑みを浮かべた。
「可愛い☆ おねーさんがお手伝いしてあげるわ♪」
「うわぁい☆ おねにいちゃまよろしく♪」
「おねにい……」
苦笑。
「せめてアンジェラって呼んで頂戴」
「わかった、よろしくね、あんじぇら☆」
「あとは……」
と星弥が周りを見ていると、その前に充が知り合いを発見した。
「ちょっと悠也、こっちにいらっしゃい」
「……」
後をついてきたとは言え、先に見つかってしまうと寂しいものがある。
「これで戦士は確保ね」
悠也の肩を抱いて引き寄せて充は笑う。その横で「やっぱり巻き込まれたか……」という顔で悠也はため息をついた。
「せーやがゆーしゃで、しゅらいんが魔法使い。あんじぇらが僧侶で、ゆーやが戦士でいいの?」
にこにこと星弥に見られて、悠也は小さく頷いた。
「でもどうやってやるの? 普通にゲームしたんじゃ勝てないわよ」
今まで魔法使いのレベルをちまちまあげてきていたシュラインは、魔王の強さを多少なりと知っている。
「とりあえず攻略サイトに飛んで、情報を仕入れてからの方がいいと思いますよ」
同じく戦士を育てていた悠也。
「そうね、情報収集は攻略の鍵だわ。悠也、頑張って☆」
「……はい」
頑張ってぇ〜とエールを送ってくれる充を横目に、悠也は手慣れた手つきで検索を始める。
そしてその内容を記憶する。ただクリアーするだけなら攻略など見たくないが、今は状況が違う。片っ端から叩き込んで行くが、これがどこまで信用出来るかわからない。プログラムの変更のようなものが行われたことで、もしかしたらダンジョンの形式もかわっているかもしれなかった。
しかし、なんの情報もないよりはマシだった。
「大丈夫? 今からレベルあげつつやって間に合うかな?」
今まで黙っていた雫が口を挟む。それに充が顎を指先で挟んで悩むように呟く。
「中に乗り込めれば早いけど、無理よねぇ……」
「……わしが手伝おう」
「「「「「え?」」」」」
可愛らしい女の子の声。しかし発言内容が伴わない。
振り返った雫の顔が「ああ」と納得したようになる。
「遊羽(ゆう)ちゃん。来てたんだ、珍しいね」
「うむ。たまには顔を出しておこうかと思うてな。それでじゃ、わしの能力でおぬしらをネット世界へと入れてやろう」
年の頃は10歳前後。艶やかな黒髪をボブに揃えた、日本人形のような顔立ちで、しかし瞳の色はオリエンタルブルー。可愛らしい口から発せられた言葉は、なんともジジ臭いというか……。
「できるの!?」
星弥の瞳が輝いた。
「うむ。それがわしの能力じゃからな。と言うてもわしがするのはおぬしらの精神体を体の外に出す事じゃ。その後、パソコンの中に入ればいいのじゃ。体の方の管理はわしと雫で責任を持ってやるぞ」
「便利だね」
「でもいいじゃない、個人の能力も使えるようになるんでしょ? 願ったり叶ったりよ」
「まぁ、ご都合主義、ってヤツですね」
……それを言ってはいけない。
シュラインが言うと、充は口紅をひきなおしながら言う。それにディスプレイに向かっていた悠也は、金色の瞳を少々皮肉気に細めた。
「まぁ細かいことは良いではないか。それじゃそこに並べ」
言って遊羽は自分の前を指さした。そこにイスを並べ、4人が座る。
しかし何故か、星弥はシュラインの膝の上に座っていた。
「ではゆくぞ」
取り出したのはハリセン。
「ちょ、ちょっと何でそんな……」
目を丸くしてハリセンを見たシュラインが口を挟もうとした瞬間、後頭部をハリセンで殴られ、気を失った。
そのままの勢いでハリセンは凪ぎ、他の人の後頭部に炸裂。
皆気を失った。
「……何で殴られるの……」
精神体であるが故、痛みは感じないがシュラインは後頭部を押さえた。
四人が立っている場所は、四角い空間の中だった。
「ここがネットの中? すごいね! 何もないや」
しきりに感心して星弥は辺りをキョロキョロするが、シュラインの側からは離れない。
『お名前と職業を決定してください』
不意に機械音が降ってくる。四人は首を巡らせてから上を見ると、テキスト入力欄のようなものが浮かんでいた。
「最初のキャラ入力の所ですね……RG4583、戦士、ユウヤ」
『戦士……ユウヤ。登録情報を確認しました』
言い終えると同時に、悠也の服装がガラリとかわる。
ファンタジー世界の鎧姿へ、手には鞭が握られ腰には剣がささり、左の薬指には指輪がはめられていた。
剣は氷系効果付。鞭は雷系スタン効果付。指輪はオート回復永久効果だった。全て余裕でボスを倒すため、きっちりレベル上げをしつつ、アイテム収集をしていた結果だった。こういう所には性格が出るのだろう。
「それじゃ私も、RG3958、魔法使い、エマ」
『魔法使い……エマ。登録情報確認しました』
悠也と同じように、シュラインの格好も変わる。標準装備の杖……の変わりに翻訳家らしく分厚い魔法書。それから毒針を装備。ローブは多少動きやすいようにカットされている。
「みんな格好いい☆ せーやもお着替えするぅ! えーっと、……番号なに?」
悩んで小首を傾げた星弥に、シュラインは笑う。
「番号はいらないよ。新規登録だからね」
「そっか。そんじゃ……ゆーしゃ、セーヤ!」
『勇者、セーヤ……決定しました』
「……」
格好の変わった星弥の姿を見て、全員が絶句。さすがの充も言葉を失った。
「……わぁい、かわいいのぉ〜。狸さんのぬいぐるみ装備だぁ〜♪」
くるくる回って喜ぶ星弥。丸い鼻におヒゲ。耳は狸というより狐。これは本来の姿の一部が出たのだろう。そして体は狸の着ぐるみに尻尾はやはり狐のそれ。
「これってこんな装備ありましたっけ?」
「なかった気がするけど……星弥ちゃんなら許せる気がするわ」
「……そうね、本人も喜んでるし、似合ってるし」
「せーや可愛い? 似合ってる?」
「「「ええ、とても」」」
純真無垢な笑顔を向けられて、全員同時に頷いた。
「それじゃ後は、このアンジェラさんね! 僧侶、アンジェラ。女性でお願いよ☆」」
『僧侶、アンジェラ……決定しました』
充の場合、変わったのは服だけではなかった。
姿形から変わってしまう。精神体のなせる技か。
ゴージャスな美女へと生まれ変わった(?)った充……もといアンジェラは、全く僧侶に見えない服装をしていたが、星弥の狸をよしとすれば、これもまたいいのだろう。
鮮やかな深紅のドレスに身を包み、手には鞭が装備されている。
「をほほほほ〜♪ いいわね、これ。さぁ、冒険の旅に出発よ!」
ビシッ、っとアンジェラの鞭がしなった。
気がつくと立っていたのは草原の真ん中だった。
「ここは確か、最初の出発地点でしたね」
「そうね。向こうに行くと街があったはず。行きましょ。星弥ちゃんの武器・防具を揃えないと」
狸装備の星弥の武器は、鉄の剣。しかし振り回す、というより振り回されている。
「……どんな武器を買えばいいんでしょうか……」
「ついてから考えるわ」
思わず冷や汗を貼り付けた悠也に、シュラインは苦い顔をした。
「さぁ、どこからかかってらっしゃい☆ アンジェラさんがお相手するわよ!」
ビシバシと鞭が地面を叩く。
「風が気持ちいいのぉ〜。耳がそよそよ〜って」
耳をを風にそよがせ気持ちよさそうな顔をしている星弥。
二人はこれで本当に魔王を倒せるのだろうか、と思ったが口にはしなかった。
次の街までの道中。戦闘はあった。が、レベルのあがっている戦士と魔法使いの敵ではなく、星弥とアンジェラはあっという間に引きずられてレベルがあがっていった。……しかし、一向に強く見えないのは装備のせいだけではないだろう。
街につくと、とりあえず食い違った情報がないか悠也は確かめる。その間にシュラインは星弥に合う武器を探したが、見つからなかった。
「ねぇねぇ、しゅらいん。せーやこれがいー☆」
「どれ?」
「これこれ」
と取り出しのはブーメラン。
「……無難なところ、かしらね」
乾いた笑いを浮かべつつ、シュラインはブーメランを購入した。
それがまた大当たりで、風の申し子のような星弥が放つブーメランは、いくつもの敵をなぎ倒した。
「しゅらいん、おなかすいたぁー」
おなかをすかせた子猫のような顔で星弥はシュラインの側まで走り寄る。
「はいはい。それじゃお昼にしましょ」
精神体がお腹がすくのか否か、そんな論議はさておき。簡単な昼食会が始まる。
星弥はシュラインの膝の上で嬉しそうにサンドイッチを頬張る。
「おいしい?」
「うん☆」
まるで親子。
そして何はともあれ、魔王の城の前まで辿り着いた。
「この近くに伝説の剣が眠っている祠があるんですけど」
「伝説の剣……ねぇ、扱えるのかしら?」
蝶を追いかけて駆け回る星弥の姿を見て、悠也とアンジェラは顔を見合わせた。
「……とりあえずとりに行きましょうか」
「そうね……」
事前に祠の地図も悠也が頭に叩き込んで置いた為、難なく台座にはまている剣を引き抜くことが出来た。
「でんせつのけん〜♪」
持ち上げて、その重さに耐えきれず後ろに倒れる。
「これ重いねー。軽くなればいいのに……」
と星弥が呟いた瞬間、伝説の剣は、伝説のブーメランへと姿をかえた。
「こういうのも……きっとありなんでしょうね」
ため息をつきつつ、悠也は祠の外へと出た。
「ふふふふ、来たわね」
魔王の間、と呼ばれる最終の部屋に入ると、赫い長髪の男性が大きなイスの上に座っていた。
「ここまで勢いづいてやってきたようだけど、ここで最後よ。たっぷり可愛がってあげるわ」
「あ、こっちにもおねにいちゃまだ☆」
「……誰がおねにいちゃまよ。勇者がそんなふざけた格好してきて」
「ふざけてないもん! 可愛いでしょ?」
魔王の前だと言うのに(というこれを魔王と呼んで良いのかわからないが)、物怖じせず、星弥はくるっと回ってみせる。
「可愛い可愛い☆ ってちがーう!!」
「なかなかノリのいい魔王ね。こんなのの為にレベルあげ頑張ってたの、私?」
「……多分、通常の魔王とは違うと思いますよ」
「とぉーっぜんじゃない! そんなのこのアンジェラさんが許さないわよ!?」
何をどう許さないのかわからないが。
「でも、悪い人はめーなんだよ! おともだち返して!」
「いやよ」
「せーや、怒るよ……」
「あんたが怒っても全然怖くないわよ、狸坊や」
「返してくれなきゃダメー!!」
「きゃあ!?」
突然の突風にシュラインは咄嗟に身をかがめた。悠也とアンジェラも同様の姿勢をとっている。
星弥の緑の相眸が、金色に輝く。そして狸のきぐるみが吹き飛び、シュライン達とさほど変わらぬ年齢の女性が現れた。しかし女性、と言っても男性にも見える、中世的な雰囲気ではあったが。
「なんなのよこの子!? 変身能力があるって事ね。だったらあたしも容赦しないわよ」
本来なら一度倒されてから変身するはずなのだが、星弥の姿を見て初めの形態では敵わないと思ったのか、ずるずると形が崩れて再構成され、ドラゴンのような姿へと変わった。
「子供達返しなさい。さもなくば攻撃します!」
先程までとは打って変わった言葉遣い。星弥の体は金色(こんじき)に輝いている。
「はい、そうですか、と返せるか」
「そうですか。ならば行きます!」
星弥の持っていたブーメランが風を裂く。それと同時に雷鳴が轟き、魔王を直撃する。
「サポートする!」
悠也の剣がドラゴンの爪を弾く。
「こうなったら!」
「あたしもやるわよ!!」
シュラインの水流攻撃に、アンジェラの鞭、そして尚かつ適度に『癒しの波動』などを使って回復を入れる。
「なかなかやるな……これなばらどうだ!」
ドラゴンブレス。強力な炎がドラゴンの口から吐き出された。
「風神!」
星弥が叫ぶと、風の膜が全員を覆い、炎から身を守ってくれる。
「これでとどめです!!」
叫んだ星弥の手に握られていたブーメランが、瞬間、剣へと姿を戻し、ドラゴンの喉元へと深々と突き刺さった。
「最後に問います。何故こんな事をしたんですか?」
「……ふふふふ。我はしらん。プログラムに過ぎぬ故……」
かすれた息の下、魔王は言う。
「ぐ、ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁ!! よくも、よくもやったな……。しかし、我はまた復活する、いつの日か、必ず。その時は、お前の子孫共々世界を滅ぼしてくれようぞ……」
魔王はゲーム終了時のおきまりのセリフを吐いて、霧となって消えてしまった。
「消えちゃった、わね……多分この部屋のどこかにとらえられているんでしょ。捜してみましょ」
鞭を軽く畳むと、アンジェラは万が一に備え、全員に回復をかけてから部屋の探索を始める。
「……ここから何か感じますね」
壁際にそって歩いていた悠也は、重厚な作りの扉の前で動きを止めた。中から気配がするのがわかる。
悠也は普段は使わない自分の能力を使って、その扉を押し開けた。
「誰かいますか?」
問いには誰も答えない。しかし空気の振動から誰かが息を潜めているのはわかった。しかも一人二人ではない。
「もう魔王はいないですよ」
再度の呼びかけにざわっと空気が波立ち、恐る恐る出てくる人影が見えた。
「もう、大丈夫、なの?」
小学生くらいの男の子が、悠也を見上げる。
「はい。もう安心ですよ」
ホストの時とはまた違った、優しい笑みを浮かべると、悠也はアンジェラを呼んで子供達を回復して貰う。
「良かったわね、みんな無事で」
「うん。おねーちゃんありがとう」
「おねーちゃん……いい響きだわ」
男の自分が嫌いな訳ではない。ただ、純粋にそう呼ばれるのが嬉しかっただけ。
「子供達を元の世界に返そう」
まだ変身(?)したままの星弥がそう言って、何か呪文のようなものを唱えると、子供達の姿が透けて、消えてしまった。
「これで、安心……」
「ちょ、ちょっと星弥ちゃん!?」
見送って笑みを浮かべた星弥が、突然ガクン! と倒れ込んだ。刹那、星弥の体を包んでいた光が消え、元の小さい星弥に戻り、咄嗟にのばしたシュラインの腕の中におさまった。
「大丈夫、星弥ちゃん?」
「……くー……」
「……寝てる……」
「せーやもうお腹いっぱぁい……」
幸せな顔で眠り込んでいる星弥を、シュラインは優しく横抱きにした。幼い上に体重を感じさせない星弥は、女性であるシュラインでも軽々と抱き上げることが出来た。
「結局何でこんなことになったのかわからなかったわね」
「そうですね。今後こういう事がないといいんですけど……」
四人だけになってしまった部屋で、辺りを見回す。
「でも無事に子供達が戻って良かったよ」
すやすやと眠る星弥に笑みを向けながらシュラインは言う。
『……ふふふふ、クリアーおめでとう諸君』
不意に頭上から声が降ってくる。
「誰ですか!?」
悠也の誰何の声が飛ぶ。
『Z、とでも名乗っておこうか。今回は見事私の計画の邪魔をしてくれたね。……まぁいい。これからが楽しみだ』
「ちょっと悪趣味じゃない、こんなことするなんて!」
アンジェラが鞭を振るいながら叫ぶ。
『威勢がいいな。また逢えるのを楽しみにしているよ……』
謎の声は消えた。
「どーせネットオタクか何かの仕業でしょ。全くふざけてるわ。さすがのアンジェラさんだって怒るわよ」
「……ただのネットオタク、なんでしょうか……」
悠也の呟きは、あまりにも小さすぎて、誰にも届かなかった。
そして四人はネット世界から、現実世界へと戻った。
●その後
たまたま、またネットカフェで再会した四人は、店の端を陣取って話をしていた。
「あれからああいう事件起きなくなったわね」
アンジェラは口紅の落ち具合を気にしながらコーヒーカップに口を付けた。
「そうですね。俺の方でもネット検索とかかけてますけど、あれ以降バッと話題が登って、すぐに鎮火したらそれきりです」
「実は事務所に帰ったら、捜索の依頼が来てた半数がネット被害者で、すぐに取り下げが来ちゃったって、武彦さんぼやいてたわ」
「せーやねぇ、すごぉく眠かったから、ずーっと寝てたの」
カルピスを飲みながら、足のつかないイスで両足をぱたぱたさせる。
もう一人の星弥の人格が開放されると、使ったエネルギーを補給するように眠りについてしまうようだ。しかし他の三人はそんな事を知らないが。
「星弥さん、頑張りましたもんね」
「うん☆」
悠也に言われると、星弥はとびきりの笑顔を浮かべて「撫でて撫でて」と頭がゆれる。それに引き寄せられるように、悠也は柔らかい髪を撫でる。
「でもね、途中から覚えてないの。せーや、気がついたらしゅらいんの横で寝てて。そんで、せーやが魔王にとどめさしたんだよ、って言われたんだけど、わかんないの」
嬉しそうに頭を撫でられる感触を楽しみにつつ、首を傾げた。
「でもでも、みーんな頑張ったんだよね。しゅらいんもあんじぇらもゆーやも」
「そうね……。皆頑張ったわ。星弥ちゃんもね。だからもう一杯カルピスおごってあげる☆」
「うわぁい☆ あんじぇら好きー♪」
「……でも、また出てくるような事言ってましたけど……」
どうしますか? と悠也の瞳が問う。
「返り討ちにしてやるだけよ! アンジェラさんを怒らせた罪は重いわよ」
「そうね。もしまた事件があったら、考えるわ。許せないのは事実だし」
「うん。せーやまたゆーしゃやるー☆」
「……」
そうではないんだけど……と困ったような微笑を浮かべながら、悠也は再度星弥の頭を撫でた。
あのまま終わってくれればいい、星弥以外、みなそう思っていた。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【0086/シュライン・エマ/女/26/翻訳家+時々草間興信所でバイト】
【0164/斎悠也/男/21/大学生・バイトでホスト】
【0076/室田充/男/29/サラリーマン】
【0375/小日向星弥/女/100/確信犯的迷子】
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■ ライター通信 ■
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皆様、再びこんにちわ、夜来です☆
星弥ちゃんのPLさんは初めまして。
この度は私の依頼を選んで下さり、誠にありがとうございます。
シュラインさん、今回は終始お母さんでした(笑)お疲れさまです。これからも星弥ちゃんを可愛がってあげて下さい。
悠也さん、冷静にクールに……とプレイングに書かれていたのですが、星弥ちゃんの存在に振り回され、そういう訳にはいかなくなってしまいました。申し訳ないです。
アンジェラさん、今回も楽しかったです(笑)『くまのぬいぐるみ』でもアンジェラさんの人気が高かったです。これからも我が道行って下さいー☆ 期待しています。
星弥ちゃん、最初職業を見たとき思わず突っ込んでしまいましたよ、「確信犯かい!」って(笑) でも可愛いですねー。書いていてほのぼのしてきました。
まぁ、魔王討伐、って雰囲気ではなかったですが……もう一人の星弥ちゃんがいたからOKかな?
これまたパラレル形式なので、他のパーティはまた違った展開になっています。最初から組で申し込んだ人と、フリーの人とでも、やっぱりちょっと違っているかも……?
興味があったら読んでみて下さい。
それでは、またお逢いできるのを楽しみしています☆
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