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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


鎧神社〜復活への階(きざはし)〜

<オープニング>

「華が無いな・・・」
「華、ですか?」
「死霊とは言え、名も無い雑兵ばかりでは面白みに欠ける。客にも飽きられてしまうだろう。何か圧倒的な存在が欲しいものだ。将門はどうだ?」
「無理ではありませんが・・・。制御の問題で事実上凍結させていました」
「ふ、制御などできなくてもいい。将門が復活しただけでその場は壊滅的被害を被るだろう。いっそ暴走させるのも一興だ」
「分かりました。手配します。首の復活でよろしいでしょうか?」
「折角なら将門公の再来を拝みたいものだ」
「ではそのように取り計らいます」

月刊アトラスにいつものように受信されるメール。その中に奇妙なメールがあった。

「将門の鎧を狙うものあり。白いコートの男」
  短くそう書かれていた。このメールのアドレスはは以前不人の案件で依頼を出してきたものと同一である。
「また、あいつが動きだしたようね。でも将門の鎧なんか奪ってどうするつもりかしら」

(ライターより)

難易度 やや難

締め切り予定日 3/4 9:00

 死霊シリーズ番外編将門復活という裏の題名があったりします。
 その名のとうり将門復活を目論み、不人が動きだしたようです。狙いは将門の鎧。境内に安置されている鎧を回収するつもりのようです。依頼内容としてはこれを阻止すること。これが成功するか否かでこれからの依頼の難易度が変化します。
 締め切りまで時間がありますので、ゆっくりと考えてからご参加ください。
 また初参加の方でもまったく問題ないので、お気軽のご参加ください。
 それでは皆様のご参加をお待ちいたします。

<鎧神社>

 平将門。
「将門記」と呼ばれる書物に記されるその名を知らないものは少ないだろう。
 将門は延喜3年、垣武平氏、平良将の子として 向石下の豊田館に生まれたとされる。幼少の時より武の才に恵まれ、大の大人ですら使用を躊躇う巨大な弓を軽々と扱ったらしい。大志を抱いて京都に上ったが、夢かなわず出世の道は閉ざされた。失意の内に故郷に戻った将門は、常陸の国下総の領地争いに巻き込まれる。ここで将門は比類なき戦略家としての才能を発揮し一時は関八州を制覇した。だが、この領地争いで父親を殺された藤原秀郷率いる朝廷の討伐軍に破れ処刑される。これだけで話が終わるなら平安時代の一武士として大して有名にもならないだろう。
 将門伝説はここから始まる。戦に敗れた将門は首を切られ京に送られる途中、突然首だけで飛び上がり、胴体のある関東に戻ろうとしたという。力尽きた首は今の大井町に落ちたとされ、現在も首塚としてその名残を留めている。その他にも、首なしの状態でも体が歩き回ったとか、分身を使用し常に影武者に囲まれていたなど伝承の類は数え切れない。将門の怨念を死しても晴れることなく未だ東京にその霊を鎮魂するための神社が多数ある。
 その中の一つ、鎧神社が今回の依頼の舞台となる。
 鎧神社はその名が示すとおり、平将門の鎧が埋められたとされる神社である。将門の復活を恐れた当時の朝廷は将門の体を5つに分けた。その一つが眠るこの地は単に鎧が埋められているという伝承が残っているのみであった。
 しかし、先日東欧大学の考古学研究者たちが文献を元にした発掘調査を行った際その鎧らしきものを発見したのだ。発掘されたその鎧は、現在境内に安置されている。流石に祟りで名高い将門の鎧。そのまま大学に持っていく度胸はなかったのだろう。明日神主の手でお払いをすることになっているという。
 現場が神社と言うことで、実家が神社である天薙撫子は、祖父の伝手で鎧神社に神事の手伝いとして鎧神社に訪れていた。彼女は神主や同僚の巫女たちに事前調査として聞きこみをし、以上のような情報を仕入れていた。現在も巫女のアルバイト中らしく、巫女の装束を着込んでいる。
「・・・大体このような感じでした」
「なるほど。それで埋められていたはずの鎧が安置されていたわけか・・・」
 天薙の言葉に納得顔で頷いたのは、学ランを来た高校生らしき少年直弘榎真であった。彼は埋められているはずの鎧がなぜ境内に安置されているのか疑問だったのだが、これで疑問は解消された。
「それにしても余計な事をしてくれたもんだぜ。掘り出さなきゃあいつもここに現れなかったかもしれないのによ」
「過ぎた事を言っても仕方ないだろう。それよりも今はこれをもっていかれないことが重要じゃないか?」
 文句を言う直弘にそう諭すのは、希代のやる気の無い陰陽師にして探偵鷲見千白。やる気がないことでは日本一ではないかと噂される陰陽師ではあるが、この頃は事務員と知り合いたちの画策により少しづつ依頼に参加するようになってきている。
「そうだけどよ・・・」
 二人のやり取りを見て、鎧の周りに鋼糸と呼ばれる金属製の糸を絡ませ、十重二十重に結界を構築していた青年が口を挟んだ。
「下らん事を言ってないでさっさと準備をしろ。いつ奴来るかわからないんだぞ」
 黒ずくめの服装をした彼は身長に糸の配置を考えていた。鋼糸に鷲見の呪符を組み合わせることで結界の維持力を強めるのが狙いだが、結界には展開するのに様様な方法があり配置によってはその効果は何乗にも高めることができるのだ。
「うるせぇな。分かってるよ。俺は結界の維持と強化担当だろ。そっちが張り終わったらやっとくよ。ただ、後手の回るだけってはやっぱり性に合わねぇんだよな・・・」
「文句を言うな。奴の真の目的が分からん以上、迂闊な行動はできんだろう」
「真の目的って、将門復活じゃないんですか?」
 天薙が意外そうに尋ねると、いささか釈然としないながらも紫月が答えた。
「正直、俺も奴がなにを企んでいるのか分からん。何を狙いで動いているのか不安だがな・・・。しかし、奴の好きにさせるわけにはいかん」
「そうだよねぇ、多分鎧を媒介に将門復活目論んでるんだろうけど悪趣味・・・。それに将門が復活してあいつの言いなりになるだけでも洒落にならないし」
 平将門は日本に存在する怨霊の中でも最強クラスの力を誇る。千年以上たった今でもその怨念は弱まることなく圧倒的は力も誇る。天薙の伝手で将門の鎧も見せてもらったがその鎧から発せられる邪なる波動はこの神社一体を包み込まんばかりに強力である。その力を弱めるため、呪符や結界、儀式魔法などあらゆる手を尽くしてみたがまったく効果は無かった。
「ま、今考えこんでも何もわかんねぇだろ。本人が現われたら聞いてみようぜ」
「お気楽な奴だな。奴が素直に答えると思うか?」
「そんなこと聞いてみなくちゃわからねぇだろうが」
「ふん、相変らず甘い考え方だな。そんな事を考えているようでは命が幾つあっても足らんぞ」
「なんだよ、そっちだって何度も出し抜かれてるじゃないか。他人の事言えるのかよ?」
「はいはい。そこまで。あんまり時間もないんだし、作業はパッパッと片してしまおうじゃないか」
 パンパンと手を叩きながら、口論に発展しそうな雰囲気の二人に鷲見が仲裁に入った。この二人が口論に入ってしまうと当分終らなくなってしまう。平時ならばそれでかまわないが、今回は相手が相手である。のんびりしている間にいつ現われるが分かったものではない。
「分かったよ。俺は神社の敷地でも見てくる」
不承不承直弘は頷くと、境内から離れていった。その後ろ姿を見ながら紫月はつぶやいた。
「情緒不安定も甚だしいな・・・。妖怪化しても変わりようがないが。不人に付け込まれる可能性があることが分からないのか」
 直弘の正体は日本古来から存在する天狗である。近頃正体を明らかにするようになったが、今だ自分の本性に対するコンプレックスを抱いており、受け入れることができない。妖怪化することにより今の自分が自分で無くなることへの恐怖も加味され、精神的に不安定な状態になっている時期があった。現在はそんな自分でも受け入れてくれる仲間ができたためふんぎりがついたようだが、やはり感情的に動いてしまう面が見られる。不人は力押しというよりは精神的に追い詰める戦法を取ってくる。彼の心の不安がいつ逆手にとられるか分からない。紫月はそれを危惧していた。
「もしもの時は利用されぬよう俺がフォローするしかないだろう。…本当に厄介な奴だ」
 口ではそういいながらも、彼の直弘を見つめる視線は心配する一人の友の目である。そんな彼を見ながら鷲見と天薙は苦笑するのだった。
 もっとお互い素直になれば良いのにと。

<一方その頃>

「美しいな、落日のビル街は・・・。まるでこの国の現在を現しているようだ」
 目にも鮮やかな真紅のブランドスーツを着こなし、葉巻を握る40代くらいの容貌を持つ男がそう独白した。
 その顔は倣岸なまでの自信に溢れ、整った顔立ちをしている。ロマンスグレーの髪に蒼い瞳。その酷薄な色を宿したアクアマリンが睥睨するは、ガラス越しに見える日が沈みかけ鮮血のような赤い色で染め上げられた摩天楼郡。
「国も人も永遠の存在はない。そうは思わんか?」
「御意・・・」
 彼の言葉に恭しく頭を下げたのは、白いコートを羽織った銀髪の男だった。
 彼らがいるのはビルの一室と思われる部屋。巨大なマホガニーのオフィスデスクに漆黒の牛皮が張られた安楽椅子。人の血で染め上げたかのように赤いペルシャ絨毯が敷かれた床は広く、天井には巨大なシャンデリアが飾られている。
「緩慢な滅びの道を歩みし堕落の都東京。爛熟しすぎ、腐敗の悪臭漂わす林檎。誰かがそれをもいでやらねばなるまい」
 葉巻に火が付けられ中空に紫煙がただよう。彼は優雅な仕草で煙を噴出すと、白いコートの男、不人に向き直った。その表情は全ての存在を嘲笑うかのごとく口元が歪んでいた。
「怠惰と享楽に耽り、安穏な日々を貪る愚者ども。己は大した力も持たぬくせに万物の頂点にいるとのぼせ上がり、自然を省みず挙句の果てには破壊し尽くし世界を汚そうとは・・・。救いがたいにもほどがある。そんなに自らを滅ぼしたいのであれば滅びの手助けをしてやろう」
「・・・」
「見せかけの平和に縋る哀れなる人類。もはや修羅の巷に堕ちるまで己が愚かさに気付くまい。己の罪悪を冥界にて未来永劫償うが良い。・・・不人!」
「はっ」
「分かっているな?」
 不人はその男の元にかしずくと手に接吻をした。そして紅珠の瞳で己が主を見上げる。
「お任せください鎧の開放、必ずや成し遂げて見せます。邪魔者が現われたところで問題はございません」
 邪魔者という言葉に男はピクリと眉を顰めた。
「そういえばその邪魔者だが・・・。なぜか我らの行動を完全に掴んでいるかのように現われるな。気になる・・・」
「確かに。実力的にはまったく問題にならない連中ですが私が現われるのをまるで事前に知っているかのように立ちはだかります。もしかしますと・・・」
「内通者か・・・」
 男は忌々しげに舌打ちする。前々から気になってはいたが、こちらの情報がリークされている可能性があるのだ。現在自分が不人に命じて行わせているプロジョエクトは不人以外限られた人間しか知るはずが無いのに、小賢しい陰陽師どもが必ずと言っていいほど邪魔をしてくるのだ。例の七条家の件に関しても、彼ら陰陽師や異能者たちによりかなり計画を変更しなくてはならない状況にさせられてしまった。彼らの邪魔をこれ以上させないためにも何か手を打つ必要があるだろう。
「まぁ良い。その対策は追々考えることとしよう。今は将門だ。鎧の件、任せたぞ」
「はい。必ずや吉報をお届けいたします」

<宵闇と共に>

 日が沈み辺りに闇の帳が下ろされる頃、鎧神社の境内前には今回依頼を受けた7人の男女がつめていた。境内のあたりは闇に閉ざされてしまうため、かがり火が焚かれている。これは天薙が神社の人間に許可をとれたため行えることである。
「将門公が復活したら東京が壊滅しちゃうんでしょう?絶対阻止しゃなきゃ!」
 そう意気込むのはまだ年若い高校生くらいの年齢の少女。漆黒の髪に、薄めに入れた紅茶のような淡い緋色の瞳をもつほっそりとした体つき。日本人風の顔立ちなのだが、それにしてはやや彫りが深く鼻梁が高い。それもそのはず、彼女は日英クォーターなのだ。名を氷無月亜衣という。魔女である祖母に素質を見込まれ魔術を習得した彼女は、かねてより話しで聞いていた悪名高き不人が今回将門復活のためこの神社に訪れることを知り、いてもたってもいられず依頼を受けたのである。
「でも不人って人の裏をかくのが好きそうだし、こっちは動きは読まれてそう。鎧は大丈夫でしょうか?」
「確かに奴は厄介だ。だが、だからと言って引くわけにはいかない。鎧に関しては俺たちで守る。それしかないだろう」
 氷無月の不安に答えたのは黒いスーツを着た長身の青年であった。陰陽師久我直親である。彼は不人が将門の鎧を狙って現われると聞き鎧の念を浄化しようとしたのだが上手くいかなかった。流石に1000年にも渡り怨念が残りつづける鎧。今日明日で解呪できるほどなまやさしい代物ではない。それ故に神社の神気を用いて結界を増幅する方法に出た。神社は神域と呼ばれ神聖なる力により守護されている。呪符を展開することによりその気を増幅することで不人の得意とする不浄なる力を抑えることができるのではないかと考えたのだ。果たしてこれは効果を発揮するのであろうか。
「首の次は鎧か…。鎧を媒体に首も解放して将門公を覚醒させるつもりなのか?」
 きりっと唇を噛んだのは直弘と同年代くらいの少年、雨宮薫。陰陽師の名家天宮家次期当主である彼は不人に浅からぬ因縁がある。かつて、ある依頼で彼は不覚にも不人に後ろをとられ完全にいいように遊ばれてしまったのである。陰陽のエリートとして育てられた彼が味わった完全な敗北。己の矜持にかけて、天宮家当主としての敗北するわけにはいかなかった。
(奴には一度背後を取られている…だが二度はない!)
 一矢報いるため、気がはやる薫に守人が落ち着くよう声をかけた。
「薫様。そう意気込まれぬよう・・・。敵は強敵です。急いてはことを仕損じると申します。ここは慎重に策を練るべきです」
「隼人の言うとおりだ。まずは落ち着け。頭に血がのぼっていては奴の思い通りだぞ」
 久我がその意見に賛同し薫を嗜めた。雨宮隼人。薫の後見人であり幼少の頃からの守役。薫が生まれてからこのかた、ずっと付き従い見守り続けてくれた兄のような人物である彼の意見を薫は尊重していた。しかし、
「ここは私が囮として奴の攻撃を仕掛けましょう。その後に薫様が・・・」
「いや、ここは俺が攻撃を仕掛ける。隼人は久我と共に結界を頼む…後ろ(防御)は任せたぞ」
「薫様・・・!」
「頼む。俺にやらせてくれ、隼人」
 薫の真剣な眼差しに見つめられ、隼人は言葉につまった。今ここで薫を制止しても彼は従うまい。それにこれだけ真剣に接しようとしている彼を無理に止めることが果たしてベストと言えるかどうか。薫が生まれてから彼を見守りつづけると決めた以上、彼のやりたいようにやらせてみるほうが良いかもしれない。
「分かりました。では私は補助に回りましょう」
「すまない。俺の我儘につきあわせてしまって・・・」
「お気になさいますな。ただし、何があっても熱くならないように。熱い鉄ほど打ちやすいですから。それとここで命を落せば、今後の彼等との戦いも不利になると、覚えておいて下さい」
「分かった」と答え、薫は久我の下に近寄り耳元でささやいた。
「久我。俺が邪魔になるようだったら俺もろとも不人をやれ…隼人は反対するだろうが万一という事もある。尤も俺もそんな事のないよう気をひきしめるがな」
「薫・・・」
 薫はそういい残すと隠形の符を使用した。彼の身体がスッと透明になり消えた。不人が現われるまでこの状態で隠れているつもりであある。
「久我殿。薫様は何と?」
「後は頼むということだ。ただそれだけだ・・・」
 隼人にそう答えながら、久我は心の中でつぶやいた。
(そうなったとしても、俺だけ生きてはいないさ・・・)。

 それからどれくらい時間が過ぎただろう。誰一人緊張のために言葉を交わさなくなって沈黙が場を支配し始めた時、霧が発生し始めた。足元から吹き出るように神社一帯を包み込むそれは、黄色く、ひんやりとした冷気を持っていた。不人を知る人間にはこれが何であるのかすぐに分かった。
「・・・不浄骸霧!いるんだろう不人!」
 久我が声を荒げて鋼糸を取り出した。各々も武器を取り出したり呪符を準備するなど臨戦体制を整えた。
「おやおや、やっぱり君たちがいたか・・・。まぁ、予測どおりだったが」
 嘲りが混じった厭らしい声。靴音が聞こえてきて黄色い霧の中から一人の人間が現われた。白いコートを羽織った長身の男。腰まで伸びた銀の髪を風になびかせ、闇の中でもはっきりと知覚できる真っ赤な双眸。
「貴女が不人ね!あなたたちの好き勝手にはさせないわ。東京は私たちが守る!」
 死者を弄び、使役する不人に憤りを感じる氷無月は、そう宣戦布告をした。彼女の布告を聞いて不人はその口元を邪な快楽を感じるがごとく歪ませた。
「東京を守る?君たちが?無理だと思うよ。私と君たちでは力の差がありすぎる。骸どもと遊んでいるのがお似合いだろうさ」
 パチン。不人が指を鳴らすと神社の土がもごもごと動きだし、次々と地中から骸骨がその姿を現した。学校の理科室にでも置いてありそうな人骨の模型がそのまま動き出したようなそれは、手に槍や刀など思い思いの武器を持って7人を取り囲む。
「では私は鎧を頂戴するとしよう」
「そうはいかないわ!サラマンダーよ、お前の息吹を持ってこの不浄なるものたちを焼き尽くせ!」
 かがり火の炎が勢いよく燃え上がり、それが意思をもったかのように亡者の群にまとわりついた。たちまち紅蓮の炎に包まれ炎上する骸の群。焼き尽くされたそれらは灰となって崩れ去った。
「どう!?これでも役者不足と言える!」
 だが、不人は肩をすくめて嘲笑した。
「無粋な炎だねぇ。でもその程度の手品で私を抑えられると本気で思えるほど君は愚かなのか?幸せというか何と言うか・・・」
「なんですって!?」
 自分の魔術を手品と呼ばれてムッとする彼女。
「小手先の魔術で私の足止めなどできないことを・・・うん?」
 撃鉄が引かれる音がして、不人の身体が爆発を起こした。さらに鋼糸がまっすぐに伸びて不人の身体を貫く。鷲見の呪符を仕込んだ銃と紫月の鋼糸による攻撃である。
「少しは効いて・・・ないみたいだねぇ」
 鷲見は落胆のため息をついた。爆煙が晴れた後、不人は平然と立っていた、白いコートには焦げ後一つついていない。鋼糸の方は突き刺さる以前に空中で止まってしまっていた。
「ちっ、ダメージは与えられんか・・・」
「相変らず下らない事を繰り返すね。私これらの攻撃が効かないことは証明済みだよ」
「ああ!そしてこいつが効くこともな!」
 虚空より刀が現われ、不人の身体を袈裟懸けに切りつけた。隠形の術で隠れていた雨宮が不人の一瞬の隙をついて不意打ちを食らわせたのだ。だが、不人は鞘から抜き放った刀でこの斬撃を防いでいた。黒い禍禍しい気が取り付いた呪われし刀、山田浅右衛門の刀である。
「シャノワ(黒猫)・・・。中々可愛らしい事をしてくれるじゃないか」
「刀など物理攻撃を直接当てればダメージを食らうことくらい、俺も気付いている。この状態なら他の攻撃も防御できないはず!久我、隼人やれ!」
 雨宮の呼びかけられた二人は、しかし呪符を放つことができないでいた。雨宮があまりに近すぎるため強力な威力をもつ呪符が直撃した場合、その余波が雨宮を襲いかねないのだ。
「どうした!?早くやれ!」
「残念だがシャノワ、彼らは君が大事らしく攻撃できないようだよ。しかし、この状態でも君たちの攻撃くらいかわすことなど造作も無い。ふふふ、甘いねぇ」
 不人は雨宮を凝視した。不人の赤い瞳に妖しい光が宿る。
「よせ!奴の瞳を見つめるな!」
 紫月は慌てて雨宮に注意させたが既に後のまつり。雨宮は自分の身体が急に動けなくなったのを実感した。体全体に力が入らず、立っていることもできなくなる。
カラン。
 音を立てて退魔刀が彼の手から落ちた。
「な・・・。なんなんだ・・・これは・・・?」
 がっくりと膝を崩す雨宮の髪を掴んで、不人は哄笑を上げた。
「くくく・・・。私の流し目に耐えられないようじゃまだまだだよ、ぼうや」
 不人の十八番である呪眼の能力である。彼の瞳を見つめてしまうと魔力により視神経から身体全体が麻痺してしまうのだ。
「雨宮!不人、貴様!」
「薫様!」
 久我と隼人が呪符を取り出した。
「おっと」
 呪符を放とうとした二人を見てとって、不人は雨宮の体を自分の前に置き盾にした。このまま呪符を放っては雨宮に当たってしまう。隼人はほぞを噛んだ。
「くっ、卑怯な!」
「卑怯?違うね。ちょっとした芸をご覧にいれようとしたのだが、無粋にも邪魔をなさろうとしたお客様にお待ちいただいただけのことだよ。骸たちはそこのお嬢さんに」
 チラリと氷無月を見て、
「嫌われてしまったようなのでね。他の霊にご登場願うことにしたのだ」
「他の霊だって?」
「ほうら、見たまえ。懐かしい霊たちがお迎えにきているじゃないか」
 不人の言葉に応えるように、次々と虚空より現れた手が久我と隼人を拘束する。
「な、なんだこれは!?」
「そう、邪険に扱うものではないよ。皆、漆黒の冥界より君たちを慕って来てくれたのだ」
 やがて手の持ち主たちが実体化しその顔が明らかになっていく。その顔とは・・・。
「先々代!?」
 そう、隼人の言葉に示されたとおり、彼らを拘束するのは天宮家と久我家の代々の当主や陰陽師たち。苦痛に歪み、生気を失った白濁した目で彼らを見つめしがみつく。隼人は驚愕して叫んだ。
「馬鹿な!?どうして貴様がこの方たちを・・・!」
「神域と言えど、人々の信仰心が弱まり守る者の意志が低下すれば結界としての力は失われる。また、どんな陰陽師であろうと死の世界の決まりから逃れる術はない。そして死人と化した以上私の支配下から逃れる術は無いということだよ」
 今度はあまりの事に呆然と見つめている鷲見と紫月に向き直り、
「ふむ、そちらの観客は飽きてしまわれたかな?では今度は君たちのゆかりの方たちにご登場願うとするか・・・」
 彼が手を上げて召喚したのは、尋常ならざる魑魅魍魎たちであった。手や足の一部が欠けたそれらは、おぞましく奇怪な姿のまま鷲見に掴みかかる。
「ち、ちょっと何なんだい!?こいつらは」
「酷いね。今まで君たちが退魔してきた連中じゃないか。もう忘れてしまったのかい?そちらは覚えているかな」
 さも愉快そうな表情で不人が問い掛けたのは紫月。彼の周りには老若男女を問わず様様な人々が彼を束縛していた。
「こ、こいつらは・・・」
「お、覚えていたようだね。そう、君が今まで暗殺してきた人間たちさ。可哀想に未だ死に切れずこの世を彷徨っていたようだよ」
 死者たちの饗宴。そう呼ぶに相応しい狂気の状態が場を支配していた。
「どうかね、お嬢さん?きにいってもらえたかな?」
「最低だわ、アンタ・・・」
 氷無月が掃き捨てた言葉に不人は高笑いを上げた。
「最低?最高の誉め言葉だね、それは。で、どうする?先ほどみたいにサラマンダーに焼き尽くしてもらうかい?皆も一緒に燃えてしまうかもしれないけど」
 火の精霊であるサラマンダーの洗礼を今死者に浴びせたら、まとわりつかれている仲間たちまで燃やしかねない。そこまで計算しても不人の攻撃であった。それが分かる彼女は、何も手が出せなかった。
「くっ・・・」
「いいね。その無力さに打ちひしがれた顔。なんともそそられる。どうかね、この後私のお相手をしてもらえないかな?」
「いい加減にしろよ!てめぇ!!!」」
 怒りに燃える言葉と共に叩きつけられたのは真空の刃。激しい旋風が不人を襲う。漆黒の翼を生やした直弘がかまいたちを放ったのだ。己が本性である天狗の姿となって不人の前に立ちふさがった。
「天狗君かね・・・。下らない真似を」
「下る下らねぇは食らってから言え!」
 今度は竜巻が不人を包み込んだ。小規模とは言え、強力な威力をもったその竜巻は不人を巻き上げ切り刻むはずだった。しかし。
「やれやれ・・・。こんなものは涼風同然だか埃を巻き上げるのが困るね。折角のコートが埃塗れになってしまったじゃないか」
不人は埃を払いながらぼやいた。
「余裕かましてんじゃねぇよ!!」
「ねぇ、天狗君。君は何故生にしがみつく?」
 突然の問いに直弘は戸惑った。
「な、何言ってんだよ、突然!?」
「何故脆い肉体なぞにしがみついて生に執着しているのかと聞いている。そちらのお嬢さんはどうかな?」
 話の矛先を向けられた氷無月も当惑して応える。
「人として当然でしょ、そんなこと。皆生きたいもの」
「危ういその生命を維持するため、他の肉を食らい体を保つ・・・。虚しいとは思わないかね。この世はそれほど魅力的か?」
「じゃあ、てめぇは何なんだよ?てめぇだって生きてんだろ?」
「私は生などにしがみついていない。死と生をともに享受し存在している。私にとって生か死かなど問題ではない。この私という存在そのものが全ての事象に優先されることなのだよ」
 高らかにそう宣言する不人。
「訳がわからないわ・・・・何を言いたいの?」
「つまり生も死も表裏一体であり、そんなものに縛られていて楽しいのかと聞きたいのさ。私にとっては愚かしい限りのことなんでね」
「なら貴方は生きていないというの?」
「分かっていないね。私は生や死で判断される存在では無いということだ。まぁ、愚かな君たちは一度死んで見ないと分からないのだろうが・・・。死を実感する事で生などということがいかに下らないか分かることとなる」
「わかりたくなんかねぇよ!んなもん!」
「そうかい?とっても面白いものだよ。さらに死を超えることで誰にも拘束されない完全なる自由を得ることができる。・・・さてと、おしゃべりも厭きた。そろそろ用事を済まさせてもらおうか」
 スッと不人の姿がかき消えた。慌てて姿を探す二人が見たものは、境内の扉を開ける不人の姿。
「いつの間に!」
「さて、将門の鎧。拝ませてもらおうか」
 扉を開けたその先に鎧はあった。鮮血で染め上げられたかのように赤い甲冑。周りには鋼糸が張り巡らされ、至るところに呪符が張られている。さらに霊力による結界とサラマンダー、ウンディーネ、ノーム、シルフによる精霊結界まで展開され、おいそれと立ち入ることができない状態になっている。
「いやはや、呆れたね。これでもかこれでもかと結界を張りまくったというとこか・・・」
 言葉の通りにいささか呆れながら不人は苦笑した。
「どう?これでも突破できる?」
「突破といってもねぇ・・・。解呪するのも面倒だし全て吹き飛ばしてしまおうかな・・・」
「やらせません!!!」
 裂帛の気合と共に振り下ろされたのは煌く白刃。鎧の近くで待ち伏せしていた天薙が隙を見て切りつけたのだ。実家から持ち出した御神刀『神斬』の一撃を不人は漆黒の刃で防いだ。
「まだいたのかね?しつこいな」
「直弘君!水無月さん。こんな男の戯言に耳を貸してはだめ!」
 胴をなぎ払いながら天薙が二人に声をかける。
「戯言とはお言葉だね」
 あっさりとその一撃は受け流す不人。
「死を弄ぶ下郎と話す口など持ちません」
 天薙と切り結びながら、鎧に視線を移した不人は眉を顰めてしばし考えた。
 そしてやおら大声を上げて笑いだす。
「あっはっはっは!いやぁ、こいつは傑作だ。してやられたよ」
 訳がわからないといった表情の三人を無視して、不人は亡者に囚われている5人に視線をやった。薫、紫月、鷲見、隼人と視線を動かし、久我に向けた時、不人は獲物を見つけた肉食獣のごとき凄惨な笑みを浮かべた。
「なるほど、君か・・・。ふふふ、上手い具合に偽物を仕立てたね。鎧から感じる波動が妙に弱いと思ったらそういうことか・・・。本物をどこへやったのかね?」
「力ずくで聞き出したらどうだ?」
「それもいいかもしれないが、いささかスマートなやり方ではない。今は君たちに預けておくとしよう。ここから持ち出されただけで十分なわけだし・・・」
 不人の姿がかき消えると、まとわりついていた死霊たちも霧散した。鷲見はやれやれとため息をついた。
「なんとかいなくなってくれたみたいだねぇ・・・。はぁ〜疲れた」

<不人、その正体>

 依頼が終了した後、久我と隼人は陰陽師の伝手を使って不人について調査していた。以前久我の弟子がもたらした情報では不人はある一族に属し、人間に憎しみを抱いているという。彼の正体を掴むことで何らかしらの対抗策が生まれるのではないか。二人はそう考えていた。
 そして天宮本家に代々仕える一人の老陰陽師がその名を聞いたことがあると、二人に告げた。
「はるか古の平安の御世より、我ら陰陽師は朝廷の陰陽寮にて、都を騒がす魑魅魍魎を退治しておりましたが、その当時名を馳せた妖しの者にそうのような名を名乗った者がおったと聞いたことがございます」
「平安時代に?」
「はい。その者白き衣をまといて、銀の髪を振りかざし、炎の瞳で世を睥睨したと伝えられます。その力は絶大でどんなに力のある陰陽師でもまるで歯がたたなかったとか・・・」
「そんな古の時代から姿形を留める方法なんてあるのか?」
「分かりませぬ。ただ、現在伝わる術ではどう頑張っても人の肉体を維持するのは200年。それ以上は持ちません。もしかしますと人外の存在やもしれませぬな」
 結局、それ以上の情報を得ることはできなかった。死者を操る術などに代表される死霊魔術は外法と呼ばれる触れてはならない禁忌の魔術とされている。それを操る一族に関する資料などは残されていないと見るのが普通だろう。もっともそれらが書かれた書物がどこかに隠されている可能性は0ではないが・・・。
 二人にはもう一つ気がかりがあった。
 不人が偽物に気が付いたことである。久我はこの依頼を受けてから本家に連絡を取り、鎧を回収し別の鎧をそれらしく仕立て囮としておいた。勿論こんな小細工が不人に通用するわけがないことは分かっていたが、本物を奪われることは防げる。実際その通りに上手くいったのだが、問題はそれを行ったのが久我であることに一瞥しただけで分かったからである。単になんとなく思っただけにしてはやけに確信に満ちた話かただった。まるでその現場を見ていたかのように・・・。
 不人にはまだ判明していない、謎の力があるというのだろうか。
 そのことに一抹の不安を感じつつ、調査は終了するのだった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0328/天薙・撫子/女/18/大学生(巫女)
0054/紫月・夾/男/24/大学生
0229/鷲見・千白/女/28/(やる気のない)陰陽師
0095/久我・直親/男/27/陰陽師
0331/雨宮・隼人/男/29/陰陽師
0112/雨宮・薫/男/18/陰陽師。普段は学生(高校生)
0368/氷無月・亜衣/女/17/魔女(高校生)
0231/直弘・榎真/男/18/日本古来からの天狗

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■         ライター通信          ■
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 大変お待たせしました。
 鎧神社〜復活への階(きざはし)〜はいかがだったでしょうか?
 今回は無事鎧を守ることができたので、依頼成功と言えます。
 おめでとうございます。
 しかし、不人はどうも鎧を”手に入れること”に執着していたようではないようです。彼は一体何を企んでいるのでしょうか。また、不人の正体が一部明らかになりました。黒幕も少しずつその姿を表わしていくと思いますので、これからのストーリーをご期待いただければと思います。
 もし今回の作品に限らず、私にご意見、ご要望、ご不満、その他ございましたらお気軽にテラコンから私信をいただければと思います。お客様のご意見は真摯に受け止め、さらなる品質の向上に努めたいと思います。なるべくお返事を出させていただくつもりですのでよろしくお願いします。
 それではまた違う依頼でお目にかかれることを祈って・・・。