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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


夢ノ続キ

■冒頭■
 雫がいつものように自身のホームページにある、投稿フォームに目を通していると、新しい書き込みがあるのを発見する。
「あっ、新しいの発見☆」
 雫はそう口にして、書き込み内容を確認した。
『謎の音:
 ULTRAっていうインディーズバンドのCDに、なんか謎の音が入っているらしい。しかもそれを聴いた人は、必ず死に至るというオマケ付き。誰か聴いた人いない?』
「謎の音に、死人かぁ〜」
 雫は一人何かを納得したように云々と頷くと、いつも肌身離さず持ち歩いている携帯電話を手にする。ピッピッと親指を器用に動かし、することは新規メールの作成。
「えっとぉ、ULTRAっていうインディーズバンドの情報求む!」
 手当たり次第に送信されたメールは、数分後には何通かの返信があった。
そこで得られた情報は──
・聴いた人の中で、行方不明者が出ている(らしい)
・4人組のビジュアル系バンド
・問題のCDタイトルは『ULTRA/I』
「死人だけじゃなく、行方不明者までいるのかぁ。……よしッ!」
 雫は可愛らしい鞄を椅子から引っ剥すように手にすると、携帯電話をスカートのポケットに入れて、勢いよくネットカフェから飛び出して行った。
 行き先は近くのCDショップ。
「話しはCDを手に入れてみないとねぇ〜☆」

■大上 隆之介■
 1週間前。カラオケ店にて──
 大上隆之介は、男女同数での飲み会、所謂『合コン』に姿を現せていた。今回の相手は女子高生。隆之介の隣りには、一番可愛いと思われる女の子が座っている。
「あっ、そうだ。大上さんって、ULTRAの噂知ってます?」
 女の子は両手を胸の前で合わせて、面白い話題を見つけたという輝きを表情に乗せて隆之介を見た。
「ULTRA?」
「うん。実はそのCDなんだけどぉ…女の声が入ってるって噂があるんだ。あたしも買って聴いてみたんだけど、本当に入ってるの。あれは絶対幽霊の声だと思うんだねぇ」
「へぇーそうなんだ。どんな声?」
 隆之介は話しを合わせるように、彼女の話しに耳を傾ける。
「えっとねー、「お前を許さない」とか「飛び立つのだ」とか、なんか辻褄は合ってないんだけど、でも怖いような怖くないような声が入ってるの」
「よく判らないかも、それ」
 ははっと空笑いの隆之介に、隣りの女の子もクスリと笑みを零す。
「あっそれよりさぁ……」
 そして隆之介は話しの方向性を変えるように携帯電話を取り出すと、そのコにだけ聞えるくらいの小声で「連絡先教えてよ」と、手早くメモリー画面を呼び出した。それに女の子も「いいよ♪」と自身の携帯番号を教える。
「今度電話するからさ、遊ぼうよ」
「うん、いいよ」
 そう言って女の子は、隣りでデートプランを口にしながら笑っていた。
 けれど次に彼女に連絡をした時、隆之介の携帯電話には彼女の声が聞えてくることはなかった。
 聞えてくるのは、留守番電話のガイダンス。それだけだったのだ。

「おっかしいよなぁ。なんで繋がらねぇんだよ」
 携帯電話のメモリーを呼び出しながら、隆之介はブツブツと文句を口にした。電話が繋がるということは、嘘の番号を教えてもらったわけじゃないらしい。一瞬、自分は嫌がられているのだろうか、と焦る気持ちが擡げてくるが、別に嫌われるような態度を取ったつもりはない。あの時も次に会うのを楽しみにしていたのは、彼女の方なのだから。
 けれどいつ掛けても繋がらない電話に、文句と一緒に苛々も募らせてしまう。
 仕方なく隆之介は、あの時の合コンを主催した友人に、電話してみることにした。電話はすんなりと友人へと繋いでくれる。
「あっ、もしもし、俺だけど。あのさちょっと聞いてもいいか」
“隆之介?なんだよ”
「なんだよじゃねぇよ。この前の合コンで、俺の横に座ってたコいたじゃん。あのコと連絡取れねぇんだよ。なんか知らねぇ?」
 隆之介は友人に苛々をぶつけるように、乱暴な口調で尋ねる。とはいえ、隆之介の乱暴な口調はいつものことなので、友人は全く気にしてない様子で話し掛けてきた。
“何、お前知らねーの??あのコ、今行方不明なんだよ。3日前くらいから家に帰ってないらしいぞ”
「はぁ?何んだよ、それ。家出か?」
“いや違うらしい。ほら、あのーなんだっけ、インディーズバンドのCDの噂知らねー。女の声が入ってるとか言うやつ”
 友人の言葉に、隆之介は「そういえば」と、あの日彼女が女の声が入ったCDを話題にしていたことを思い出す。
“あれ聴いた奴は死ぬとか言われてるし、今も彼女だけじゃなくて何人か行方不明らしいぜ”
「マジ!?」
“嘘なわけねーだろ。俺はそのコの友達から、泣きながら電話を貰った”
 電話口から聞える力説に、隆之介は頷きながら自然と興味が沸いてきていた。元々そういう神秘的な話しは嫌いな方ではないからだ。
「なぁ、そのCDって何処で手に入るんだ?」
“ULTRAのCDなら、インディーズメインでやってるCDショップがあったと思うけど?何、お前興味あんの?ってそれよりお前、大学出て来いよ。単位落としても知らねーぞ”
「あっ?まぁ、そのうち行くよ。んじゃ俺急ぐから」
 友人の言葉に手短く電話を切ると、隆之介はふいに掠めるCDの噂に足を止めた。
 1週間前は別に気にも留めていなかった話題だったが、たまたま隣りに座っていた女の子が、それを聴いたことが原因なのか行方不明になっている。
「女の声が入ったCDねぇ……」
 彼女も確かに、そんなことを言っていたな、と過去を回想してみた。そして彼女が言った「怖いような怖くないような声」という表現が、ふわぁと記憶に蘇ってくる。
「取り敢えず、CDショップでも行ってみるか」
 隆之介は止めていた足を動かすと、友人に教えてもらったCDショップに向けてゆっくりと歩いて行った。

 CDショップにはULTRAのCDが数枚置かれていた。それを手にしてレジに行くと、店員のやけに明るい応対を受けて店を後にして、買ったばかりのCD片手に家に戻る。隆之介の家は下町にある煙草屋の2階。そこでお婆ちゃんと一緒に住んでいたが、血の繋がりはない。3年前のある日、ひょんなことからこのお婆ちゃんに拾われたのだ。
 隆之介は店番をしているお婆ちゃんに「ただいま」と声を掛けると、トットットとリズミカルに階段を上って行く。そうして自身の部屋として割り当てられた場所にやって来ると、早速CDを取り出してコンポの電源を入れた。次に音が漏れないようにと配慮して付けてあるヘッドホンを装着し、隆之介はリモコンを手にベッドに寝転がる。あとはCDを再生させれば問題の声は聴こえてくるだろう。
「どんな声だか、聴いてやろうじゃねぇか」
 挑戦的な態度を取った隆之介の耳に、テンポの良い曲が流れ始める。
 けれどそこには何も不自然な音や声は入っていなかった。確かに女の声は入っているのだが、それはバンドメンバーへの黄色い歓声。彼女が言っていた「お前を許さない」などの声は入っていなかった。
 なんだか肩透かしを食らった状態で2曲目、3曲目と聴いてみるが、やはり女の声は流れてこない。
 半分飽きてきた隆之介は、欠伸なぞしながらパッケージを眺め出す。とそこにはULTRAのメンバープロフィールや、顔写真の他に録音としてライブハウスの名前が書かれていた。
「音が雑だと思ったら、これライブの音源をCDにしてんのか。…それにしてもこのバンド、ビジュアル系ってやつだろ?なんか全員女にもてそうな顔してんじゃねぇか。これじゃあ女の子がキャーキャー言うわけだな」
 俺ほどじゃねぇけどよ、とボソリと呟き、歌詞カードを捲っていく。CDはラストの曲に入ったところだった。
「普通ラストってバラード系が多いのに、こいつらはアップテンポかよ。しかも歌詞はめちゃくちゃバラード系じゃねぇか」
 隆之介は歌詞カードを目で追いつつ、耳に流れ込む音を聴いた。
 そして丁度間奏に入ったところで、隆之介は確かに聴いたのだ。
 女のおどろおどろしい怨みの文句を。

“何故 お前たちは 私のものを奪う”
“この場所は 私のもの”
“誰にも 渡さない”
“女なんて いなくなればいい!”
“殺してやる……”

「へぇ、確かに入ってんじゃん」
 やっと聴こえた女の声に、隆之介が不敵な笑みを浮かべていると、間奏が終わりまた歌が流れ出す。けれどその場所にも女の声は存在していた。その声は先程とは打って変わって、穏やかな口調で語りかけるようなもの。

“私の声と コノ曲を聴き お前たちは解放される”
“私の声が聴こえたら お前たちは飛び立つのだ”
“さぁ……”
“愛しい男が目の前にいる その胸へと飛び込むがいい 愛しい男が待っているぞ”
“さぁ……行くがいい”

 声はそこで終わっていた。
 歌はその後普通に流れ、そしてCDは再生を終了する。
 ヘッドホンを外した隆之介の第一声は、「なるほどね」だった。後半の部分は、誰が聴いても明らかだろう。
「これは催眠術だろ?歌に隠れてるから聞き取りにくい部分はあるけど、これは聴いた人間に術を掛けてやがんな。……んで、なんで俺には掛からねぇんだ?」
 自分の仮説に首を傾げながら、まぁ細かいことはいいか、と隆之介はベッドから起き上がる。
「兎に角このULTRAってバンドの奴らに会えば、話しは見えてくんだろ」
 膳は急げ、と隆之介は煙草屋を出ると、握り締めた携帯電話で、知り合いの女の子に電話を掛けた。
「あっ、もしもし、俺、隆之介だけどさ。ULTRAってバンドのこと知らない?」
“あれ、隆ちゃん、久しぶり。ULTRAってインディーズの?”
「そうそう。俺の友達が好きらしくてさ、メンバーの人に会いたいんだけど、何処に行けばいいのか判らないって言われたんだ。なんか知らない?」
“ULTRAなら今ライブ活動してないんじゃない?でもバイト先なら4人とも一緒のカラオケボックスだよ。顔がいいから、そこでは有名だもん”
「それ何処!?」
 ここらではインディーズバンドのメンバーということより、カラオケボックスのイケメン4人組として有名らしい。
 尋ねた知り合いから得た情報は、駅前のカラオケボックスの名前だった。隆之介は「サンキュー」とお礼を言って電話を切ると、「カラオケボックス…ね」と呟き、その方向へ走って行く。

 到着したカラオケボックスは、豪華な装飾をされた建物だった。
 隆之介はそっとその扉を開いて中に入ると、ULTRAのメンバーを首を左右に動かして探す。受付けは女の子で、ジュースを運んでいる男の子もどうやら違うらしい。
「休みってことも考えられるよな……ちょっと聞いてみるか」
 受付けに近づき、それとなくULTRAのメンバーのことを口にしてみる。
「ちょっと聞きたいんだけどさ。ULTRAってバンドのメンバーが働いてるって聞いたんだけど、今日は休みなのかな?」
「あ〜あの人達なら、今休憩だと思いますけど」
「そっかぁ。少し込み入った話しがしたいんだけど、休憩室とかやっぱり部外者は入れないよね」
 隆之介は漆黒の長髪から覗く薄茶色の瞳を、女の子の視線と合わせて尋ねた。端麗な顔立ちをしているため、女の子の頬はみるみる紅潮していく。
「えっえっと、込み入ったっていうと、最近彼らの様子が変わったことですか?」
「うん、そうなんだ。ちょっと心配でね。けど俺も暇がないもんで、今しか会う時間がないんだよ」
 だからお願い、と隆之介は女の子に目で訴える。するとそれが通じたのか「店長には内緒ですよ」と、女の子が休憩室の場所を教えてくれた。嘘も方便だな、と内心思ったが、内緒にしておく。
 それに笑顔を向け、隆之介は休憩室へと向かい、ドアを開いて中に入る。そこには確かにあのCDの歌詞カードに印刷されていた顔が4つ並んでいた。
「どーも。ULTRAの皆さん」
 女の子に向けた笑顔とは違う、皮肉たっぷりの笑顔を隆之介は4人に向ける。
「なんだ」
「ちょっとCDについて聞きてぇんだよ。あんたらが出したインディーズバンドのね」
 そう言ってはみたものの、メンバーの表情は変わらない。
「あれ、催眠術が入ってんだろ?なんであんなもんが入ってんだよ。あんたら、知ってんじゃねぇの?自分らのCDだもんなぁ。しかも聴いたら死んじゃうは、行方不明にはなるは。どうなってるんだろうねぇ、あのCDは」
「知らない。勝手に死んで、勝手に家出しただけだ。オレ達のCDとは関係ない」
「女の声も催眠術も知らない。あのCDにはオレ達の歌が入っているだけだ」
 メンバーの一人が口にしたことに、隆之介は小首を傾げた。
「ちょっと待て。あんたら、あの女の声が聴こえてねぇのかよ!?」
「女の声なんてオレ達には聴こえない。そんなものはない。入っていない」
「いーや、あれにはしっかり女の声が入っている。俺も聴いたから確かなんだよ。怨み言みたいなのと、催眠術みたいのが、ハッキリ入ってんだろうが!」
「入っていない。あれはオレ達の歌だ」
「けどよっ!」
「何も聴こえない。あれは全てオレ達の歌だ」
「おいっ、あんたら……」
 そこで隆之介はあることに気づく。メンバーの言葉に抑揚はないし、生気が感じられないのだ。まるで何かをインプットされたように、女の声は聴こえない、入っていない、あれは自分達の歌とそれらを繰り返しているだけ。しかもよく見てみてみれば、彼らの瞳はどこか空を彷徨っているようにも見える。目にも力が入っていないのだ。
「受付けの女の子が言ってた、“様子が変わった”てーのはこのことかよ」
 隆之介がポツリと呟いた時、今まで椅子に座っていた4人が、急に立ち上がって出入り口に歩いて行く。
「何処行くんだよ」
「煩い。お前には用はない。オレ達は行かなくてはならない所があるんだ」
「って何処だよ!おいっ!」
 隆之介の言葉が聞こえていないのか、4人は休憩室から出て店内を通り過ぎると、目的地しか目に入っていないように歩いて行った。
 ありゃ、あいつらも何かに操られてるってカンジだな。
 面倒なことに首を突っ込んだな、と少々思いつつ、隆之介は「くそっ!」と呟いて後を追い掛ける。
 そしてULTRAの後を付けていた隆之介は、赤レンガの建物を道路を挟んだ向かい側から眺めていた。メンバーが入って行ったのはライブハウス。あのCDを録音した場所だった。
 そこで隆之介は入るべきか、入らざるべきか悩んでいた。メンバーの様子がおかしいのは事実だが、追いかけても、さっきと同じ態度を取られるだけのような気もする。
「どうすっかなぁ…」
 隆之介が愚痴っているところに、一人の青年がライブハウスの前にやって来た。長身の派手な服装をした男。その男は扉に手を掛けたのち、ゆっくりと中に入って行った。
「あいつも中に用事があるのか。ってことは似たようなことをしてるわけだ」
 営業していない建物に入って行くということは、少なからず隆之介のしている行動と、同じ理由が隠されているのだろう。暫く待ってみるが、中から男が出てくる気配はない。
「あいつ遅せぇな。何してんだ?」
 出てこない青年にそんな感想を持った時、今度は制服姿の女子高生がライブハウスの前にやって来た。小柄な少女は茶色の髪を揺らし、入ることに躊躇している様子だ。そして少女の後ろから長い髪をした知的な女性が歩いてくると、二人は何やら話し始めた。
「どうにもこうにも、皆考えることは一緒ってか」
 二人の様子にULTRAのCDを調べているんだろうことは容易に想像でき、隆之介は先に入った青年のことも思い出して二人に近づいて行く。入るなら、皆で入った方が安全だ。特にULTRAのメンバーは、操られている節があったのだから。
「兎に角、入ってみましょう。本当なら此処で待っててと言いたいところだけど……。自分の身は自分で守れるかしら?」
「幸運だけはありますから♪」
 へへっと少女が笑うと、相手の女性も「そう」と薄く笑みを浮かべる。
「それじゃあ、話しが纏まったところで行ってみようぜ」
「えっ?」
 いきなり後ろから会話に参加すると、少女が驚いたように振り向いた。遠目でも可愛いその顔は、近くで見ても可愛かった。知的な女性は美人というカンジ。
 やっぱり女の子だけで入るより、男の俺がいた方がいいよな。
「俺もULTRAのCDについて調べてたんだよ。ULTRAのメンバーの後を追ってたら、此処に辿り着いたってわけ。たぶん中には入れると思うぜ。あいつら、入って行ったし」
 隆之介の言葉に後押しされるように、3人はゆっくりと扉を開いて中に入って行く。
 そうしてステージのある場所に足を踏み入れたところで見たのは、ULTRAのメンバーに襲われている一人の青年の姿だった。

■ALL■
「あれ?何、何、どうなってるの?」
「やっぱり……」
「随分とグッドタイミングで登場したみたい?」
 そうして現われたのは、夏生、廉、隆之介の3人だった。
 3人の目の前には、ULTRAのメンバーに首を絞められ、身動きが取れなくなっている慶悟と、ステージでほくそ笑んでいる一人の女性。どうやら霊が彼らを動かしているようだ。
「なんて強い怨念なの。それに彼らをどうにかして引き剥がさないと、彼が死んでしまうわ」
「えっ!それはマズイよ、助けないと!」
 夏生は3人より早く駆け出すと、慶悟の首に腕を絡めている男に向かって「てやぁ!」と蹴りを叩き込んだ。しかしその直後、他のメンバーに平手をもらい、「きゃあっ」と小さな悲鳴を上げてバタリと床に叩きつけられる。
「おまえら、女の子を叩くなんて最低だぞ!」
 それを見ていた隆之介は薄茶色の瞳を金色に変化させ、飛び出したと同時に男達を蹴り倒していく。そのスピードは、人の業とは思えないほど俊敏だ。そしてまだ起き上がり飛びかかろうとしている男には、狙ったように鳩尾に拳を叩き込んでやる。ゲッと胃の内容物を吐くほどの威力に、流石に操られている彼らも動きが鈍る。
 そこを見逃すわけもない慶悟は、サッと身を横にずらしして腕から開放されると、少し咳き込みながら、ステージ上の女を鋭い眼光で睨み付けた。
「どうなってるのか、簡素な説明をお願い。カノジョが全ての原因なの?」
 慶悟の傍で銃を手にしながら、廉が尋ねる。
「あぁ。あの女、自分の勝手な思い込みで、女の子達に暗示をかけて操っていた。しかもそれを悪いとも思っていない。俺はそういうのが、一番許せない」
「それじゃあ、何。自殺したコ達は、皆あの女がそうするように仕向けてったってことかよ!?」
 脇から隆之介が口を挟む。それに慶悟は無言で頷き、肯定の意を示した。
「俺は陰陽師だ。あの女を強制的に成仏させる。あんたらは?」
 慶悟は既に印を組む準備に入っていた。
「私はあのコ達の面倒をみるわ。あなたの邪魔をしないようにね」
「あたしは幸運しか祈れないから、やっぱりULTRAを抑える方が合ってるかも」
「んじゃ俺はあんたの援護をしてやるよ。って術は使えないけど、どうにかなんだろ」
「「「「それじゃ」」」」
 4人は顔を見合わせると同時に、散り散りになって個々に移動する。

 夏生と廉が向かった先では、さっき隆之介にやられて伸びていたはずのメンバーが、既に回復して立ち上がっていた。
「こんの、少し大人しくなさい」
 夏生はぴょこりとしゃがんだかと思うと、立ち上がるバネを利用して男の股間目掛けて蹴り上げ、更に必殺の回し蹴りを炸裂させる。男はこれで本当に立ち上がれなくなったのか、床に寝そべり動かなくなった。
「一丁上がり☆楽勝、楽勝♪」
 夏生が一人ガッツポーズを取っている横で、今度は廉が銃をフォルダーに仕舞いながら目の前にいる2人を見据える。
「怪我しない程度なら、いいかしら」
 そして少し考えた後、廉はポソリと呟いて、両の手をフワリと動かした。
「音太刀!」
 声に共鳴するように手が振り下ろされたところからは、見えない刃が相手目掛けて飛んでいく。それはメンバー二人の太腿を掠めていき、空に刃が消えた時には鮮血が滴り落ちていた。バタバタと倒れ込む男達は、腿の痛みから立ち上がることも出来ないだろう。
「スゴ〜イ!それって、もしかしてかまいたちですか」
 廉の技を見ていた夏生が、歓声を上げる。がそこにまだ残っていた一人が夏生目掛け、バタフライナイフを手にして近寄ってくる姿に廉が気づいた。
「しゃがんで!」
「えっ?はいっ!」
 廉の声に驚きながらも、夏生は言われた通りその場にしゃがみ込んだ。すると廉は肩のフォルダーから銃を素早く抜き去り、男の肩口に銃弾を発射する。
 背後で人の倒れる音がして、夏生は慌ててそこから廉の傍に移動すると、ふ〜と胸を撫で下ろした。
「これで…全部ですよね」
「そうね。あとは向こうの二人がなんとかするでしょう」
「頑張れ〜、二人とも♪」

「さてどう動いて欲しいんだ?」
 隆之介は何やら胸元で手を動かしている慶悟に、目線を向けることなく尋ねる。
「あんた術は使えないって言ってたが、動きは良い方か?」
 慶悟もまた、隆之介には目線を向けずに尋ね返した。
「まー人よりは数倍俊敏だな。特に金色の瞳の俺は、向かうところ敵なしだな」
 自信満々に答える隆之介に、慶悟は何かを思いついたように笑みを浮かべる。そして数枚の呪符を取り出すと、それを隆之介に差し出した。
「それをステージの四隅に貼り付けてくれ。女はなんとかするが、危害が行くかもしれない。それを巧く避けながら、出来るだけ早く行動して欲しい」
「任せろ」
 ニッと笑うと、隆之介は慶悟から離れて一気にステージ上へと昇っていく。
“何をするつもりだ!”
 そんな動きに不穏なものを感じたのか、女は隆之介に飛び掛ろうと移動した。が隆之介の方が一歩早く、まずは一枚目の呪符を貼り付けることに成功する。その間、慶悟は印を組み、女を強制的に除霊するための呪を口にし始めた。
“何をッ! やめろ! やめろ!”
 今度は呪に反応して、女の体が慶悟に向けられる。その時女の顔は既に人ではなく、鬼の形相をしていた。
“やめろぉぉぉぉぉ!!!!”
「そう言われてやめる奴が、何処の世界にいんだってーの!はい、これで3枚目」
“嫌だぁぁぁ!!歌が聴きたい。私はあの人達の歌が、聴きたいだけなのに!”
 女は呪の影響で苦しみだしながら、それでもこの世にいることを臨んでいた。しかも女は死んでいることにすら、気づいていない様子で。
「4枚目っと!いいぜ、全部貼り終わった」
 隆之介の声に慶悟は閉じていた瞳をパッと見開くと、指先を女に向け最期の言葉を紡ぐ。
「あんたの棲む場所は、もう此処じゃないんだよ」
「急々如律令」
“いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!”
 断末魔のような叫びとともに、女の姿は煙のように消えてなくなった。その瞬間、ライブハウスに漂っていた気配も消えてなくなる。
「終わったっぽい?」
「そのようね」
「まっこんなもんか」
「そうだな」
 4人は安堵を漏らしながら、真ん中らへんに集まった。
 そして全てが終わり、互いの調査結果を照らし合わせ、4人は全てを理解する。

「つまり女はあのCDを聴いた女の子達だけに、暗示をかけてたのかよ」
「そうね。そして少女達は女の指示が聴こえた時、言われた通り、飛び立って行ったようね。行き先は天国だったけど」
「ULTRAのメンバーも暗示をかけられていた。女の駒になるために」
「そしてあの霊はULTRAのファンじゃなく、何十年も前に活動していたバンドの熱狂的なファンだった」
「歌が聴きたいがために、死んでも尚留まり続けるくらいにな」
「なんか…辛いね。限界を感じて夢を諦めたバンドメンバーに、それに気づかず、ただ歌が聴きたいと夢見続けた人…かぁ」
 夏生の言葉に他の3人は黙り込んだ。
 決してあの女に同情なんかしないけれど、大人になればなるほど、夢を見続けることがどれだけ難しいか判っている。夢は夢と諦めなくてはならない時があるからだ。けれどそれを諦めずに追い続けたカンジョは、方法は間違っていたけれどスゴイのかもしれない。
「さて私は彼らを病院に運ばないといけないから。流石にこのままってわけにはね」
 一通り話した廉がまず最初に立ち上がる。
「それじゃあ、俺も失礼する」
 次に慶悟が立ち上がり、ライブハウスから姿を消した。
「それじゃあ、あたしも行くね。また会えたらいいね♪」
「あーちょっと待った。名前教えて。これも何かの縁だしさ」
 夏生の後を追うように、隆之介も立ち上がる。
 とふいに夏生が廉へ体を向き直した。
「何?」
「もう暗示は解けたのかな?これでもう誰も死なないよね。皆、元に戻ったんだよね」
 確認するような夏生に、廉は一度頷く。
「暗示をかけた者が消えれば、その効力も失うわ。あのCD自体には、もうなんの力もない。あるのはインディーズバンドが出したCDという現実だけよ」
「…そっか。良かった♪それじゃあ!」
 夏生達が出て行くと、廉は救急車を手配してステージに座り込む。
「夢の続き…ね」

 その後、行方不明だった少女4人は、廉の捜査によりULTRAが借りていた倉庫から無事発見された。
 またULTRAのメンバーも、簡単な事情聴取は受けたものの罪に問われることは無く、徐々にではあるが音楽活動を再開しつつあるらしい。

 事件はこうして幕を閉じたのだった。

■大上 隆之介■
「んじゃ、夏生ちゃんって言うのか。これも何かの縁だしさ、どう?これからカラオケでも行かない?」
 ライブハウスを出て早々、隆之介は夏生に遊びに行こうと提案する。
「う〜ん、ごめんねぇ。あたしこれから用事があるんだ」
「そうなの?」
「また会えたら、その時はカラオケ行こうよ♪それじゃあね☆」
 バイバイと手を振る夏生を見送り、隆之介はガクリと肩を落とす。が、すぐに携帯電話を取り出して、メモリーされた女の子へと電話を掛けた。

「もっしも〜し、隆之介だけど。これから遊びに行かない?」

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0365/大上・隆之介/男/300歳/大学生】
【0017/榊杜・夏生/女/16歳/高校生】
【0188/斎木・廉/女/24歳/刑事】
【0389/真名神・慶悟/男/20歳/陰陽師】

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■         ライター通信          ■
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「東京怪談・調査依頼/夢ノ続キ」にご参加下さり有難うございます。
ライターを担当しました、佐和美峰(さわ・みほ)です。いかがだったでしょうか。
*皆さん、読みはドンピシャでした。(あははっ)
ただ過程が違ったため、少々調査の方向を変えてしまった方もいらっしゃいます。
すみません。
*今回調査して下さった方々が、皆さん攻撃力のある方だったので、最後は全員での戦闘シーンになりました。
そして逆に最後まで各プレイヤーが名乗らない状態だったのは、皆さん自主性の強い方だったので、こういう展開になりました。
*「冒頭」と「ALL」は全員共通となっております。
*またそれぞれ調べた内容が異なりますので、詳しい内容は他のプレイヤーの話しを読んで下さると判ると思います。

ではまた次の機会にお会いできることを祈って…。