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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


十二体の人形 − 1月の英雄 −

【序】
「さて、どうしたものかな」
 一人の男が、のんびりとした口調で店内に設置されたショーケースを見ながら呟いた。ショーケースの中には紙が12枚置かれていて、それぞれ名前が書かれていた。
 だが、その名前に該当する品物は見当たらない。有るとすれば硝子(ガラス)の破片が粉々になって紅い天鵞絨(びろうど)の布の上に散っているだけ。

 新宿の外れにある裏路地の中に『傀儡堂』という名の人形店があった。
 そこの店主の名は『茅環・夙(ちのわ・まだき)』といい、ここで自作の人形を売っていると言う。品は国籍に関係なく様々な人形という人形が飾られていた。ただ、中央に特別に造られたといわんばかりの硝子のショーケースの中を除いて。

「君達に、此処にあった人形を取り返して欲しいんだ。
 報酬は払うし、できうる限りの補助はしよう。宜しいかな?」
 彼はにっこりと微笑むと、人形の事と事件のあった夜の事を話した。
「此処にあったのは十二体の人形で、それには総て買い手がいた。予約の注文を受けたので、奥の部屋に仕舞っておこうと思った時にはもう姿が無くてね。怪しい物音などは一切無かった。証拠になるようなものもないし、私の店を警察の無粋な連中に荒らされるのは嫌なのでね。
 君達にお願いする事にしたんだ」

「君達の技量を見るためにも、まず一体見つけて欲しい。
 人形の名前は『アルマンダイン』。忠誠の騎士装をしている人形だ。剣を掲げている紅い髪の青年だよ。
 あぁ、そうそう…人形には傷をつけないでほしい。大事な商品だからね」

【壱 : 人形】
「なぁ、茅環はん。その無くなった人形…全部で十二体や言うたな?」
 ショートカットに紅い髪の美青年…もとい、青年にも見える女性、獅王・一葉が金の瞳を煌(きら)めかせて、白いスーツを着た『傀儡堂』店主、茅環・夙に問い掛けた。
 問われた男は人形のチェックをする為に細めていた漆黒の瞳を「ふ、」と彼女に向け、柔らかな微笑を浮かべて頷いた。
「うん。全部で十二体……みんな、人形たちの事を聞きたそうな顔をしているね」
 柚木・暁臣も、口にはしないが黒い瞳に疑問を浮かべて問い掛けてきている。硝子の破片が散らばったショーケースを覗いていた杉森・みゆきも、一葉の声に顔を上げた。
 夙は店のちょうど中央…例の人形が飾られていただろうショーケースの傍に設置されたテーブルに、今回依頼を引き受けた三人を案内した。人形の他には特にこれと言ったものも見当たらず、何処からともなく聞こえてくるクラシックミュージックの音色だけが耳に滑り込む。夙は奥の部屋へ行き、盆に茶を入れた湯飲みを乗せて戻ってきた。
「ここのお人形、みんな可愛いですよね〜」
 みゆきが遠足にきた子供のようにはしゃいで言うと、椅子に腰掛けて茶を配った夙は嬉しそうに微笑んだ。その横顔を眺めながら、一葉が話を始めた。
「その人形たち、なんかテーマがあったん? 名前から察するに、誕生石みたいやけど」
「その通りだよ。テーマは『誕生石』……依頼人が十二の月にまつわる『宝石』を持ってきて、それを使って人形を造って欲しいと仰ったんだ」
「そんじゃ、人形の一体一体に宝石の名前がついてるんやね」
 丁寧に、言葉を一つずつ口にする夙に、一葉が頷きながら言葉を続ける。が、夙の言葉を聞き、みゆきが首を傾げた。
「依頼人は、一人なんですか? 買い手とは別なの?」
「依頼人は一人で、日本の方ではないね……。買い手とは別。買い手は複数いるけれど、その事は商売上答えられないよ」
 くすくすと笑いながら、彼女の質問に答える。間を空けずに、一葉の質問が飛んだ。
「人形同士の関係……は、やっぱし『誕生石』なん?」
「うん。それ以外に答えようがないねぇ……石も姿形も、みんな違うからね」
「……材質は?」
 ぽつりと、呟くように暁臣が口を開いた。
「みんな基本は同じ、木製だよ。『アルマンダイン』もね。……そういえば、一つだけ布製があったかな」
「布? 『ぬいぐるみ』か何かかいな?」
「うん。それは子供に渡すものらしいから、とりあえず壊れないようにそうしたんだよ」
 夙の言葉に、暁臣が僅かに片眉を上げる。しかしその理由を口にはせずに、かけていた赤いスクエアタイプの眼鏡の位置を正した。
「そうだねぇ。木片は子供には危ないし、子供って容赦が無いからね。すぐ壊しちゃうかも」
 しみじみと子供の生態について語るみゆき。
 それからしばらく茶を飲み、それぞれ人形の事を考えていた。
「…『アルマンダイン』って『ガーネット』の一つですよね」
 みゆきが湯飲みに口をつけたところで、思い出したように呟く。
「あぁ、それはうちも考えとった。ガーネットって結構いろんな色があるやん」
 その言葉に一葉が続き、暁臣がわずかに首を傾げた。彼らの様子を見た夙が、「あぁ」と声を上げて答える。
「依頼人が持ってきた宝石は、『アルマンダイン・ガーネット』だったんだ。人形は『柘榴(ざくろ)の実の紅』の名を持つガーネットに由来してるんだよ」
 湯飲みが空になると、調査員は店内の散策を開始した。

【弐 : 人形を奪うもの [一葉 編]】
 夙の話を聞いた後、一葉は探索を開始した。人形を見ているみゆきと夙の話に聞き耳を立てながらも、痕跡がないかを入念に調べていく。
「『アルマンダイン』……あった、これやな」
 一葉は今回の探索の対象である人形の名前が書かれた札を見つけると、静かに触れた。
 指先を伝って、彼女の頭の中に闇が広がっていく。しかしこれが自分の意識なのではなく、この札の中に残っていた記憶の欠片である事は彼女自身よく分かっている事。その自分の能力が捉えたものは、揺れ動く暗い闇と、その中に響く悲鳴のようなもの。
 そして、低い男の声。
―――『It's mine.』
 その呟きと共に視界にひびが入り、砂が零れるように音も無く硝子が砕けた。目の前に破片の鋭利な切っ先が向かってきた途端、小さな悲鳴を上げて札から手を引いた。彼女の様子に、室内にいる三人が振り返る。
 しばらく瞬きを繰り返した一葉だったが、こちらを見ている夙へと向き直った。
「茅環はん、依頼人はどこの国の人や?」
 唐突な質問に、夙が目を丸くさせた。だが、すぐに考えるような仕草を取って自信なさげに呟く。
「アメリカ…だと、思う」
「思う?」
「国の名前も教えてもらえなかったんだよ。渡された宝石がアメリカ特有の誕生石だったから、そう思ったんだ」
 苦笑しながら答える夙に、一葉は眉根を寄せて、鼓膜に染み付いた男の呟きを口にした。

【参 : 人形の隠れ家】
「……『It's mine.』……『私のもの』…?」
 一葉が何事かを呟くと、店の中の空気が僅かに揺れた。まるで混乱する人々の群れのような感覚が、三人を襲ったのである。その事を誰よりも敏感に感じ取ったのは、感受性の強い暁臣だった。
「……人形が…」
―――怯えている。
 素直に感じ取った意識が、『恐怖』だった。自分が怯えているわけではない、まして自分と同じく依頼を受けた一葉、みゆきの二人や店主の夙でもない。この圧倒するような『恐怖』は、飾られている人形たちから感じられるものだった。
「な、何……?」
 霊などを全く信じていないみゆきだが、流石にこの異様な空気に気付き、すぐ隣にいた夙の服の袖を無意識の内につかんだ。途端、人形が展示された棚の一部が大きく揺れ、飾られていた人形たちが雪崩のように床に落ちた。
「きっ、きゃああぁぁぁぁぁ〜〜〜〜っ!!」
 この異常事態に、みゆきが悲鳴を上げた。流石にこの悲鳴には全員が驚いたが、何よりも驚く事になったのは彼女の行動である。
「いや〜〜〜! いやー、いやー、いやあぁぁぁぁぁ〜〜〜!」
「み、みゆきさん、落ち着いてっ!」
「うわっ! 何しよるんっ!」
「……」
 火事場のなんとやら。怖がりである事を隠すための『現実主義』の面は脆くも崩れ、みゆきは気が動転したのか、展示されていた人形をつかんで様々な方向にそれを投げ始めた。投げつけられた人形を紙一重で避ける一葉。無言で受け止め続ける暁臣。みゆきをなだめる夙。だが、その波乱が思わぬ方向へと道を開いた。
 投げられた人形が、例の破損したショーケースに弧を描きながら落ちたのである。それは運良く敷き布に受け止められて事無きを得たのだが。
『痛っ』
 暁臣の耳に、青年と思われる声が滑り込んだ。幻聴かと思ったが、手にした人形から伝わる声が『何かの声』だという事を知らせる。
 ふと、すぐ傍に飾られていたショーケースの天鵞絨の敷き布をめくった。そこにあったのは。
「……『アルマンダイン』……?」
 彼の言葉に、三人の動きが止まる。暁臣は敷き布を完全にめくり、その下へと手を差し入れた。伸ばした手が持っていたのは、紅い髪に紅い…アルマンダイン・ガーネットの瞳の、剣をかかげた騎士の人形。
「……あった」
 淡々と告げる青年の言葉に、全員が沈黙した。

【四 : 人形の嘆き】
 店内を何とか元に戻し、再び店内のテーブルに集まって一葉がアルマンダインの意識をサイコメトリーで読む事にした。
 人形は、確かに一人の依頼人が総て引き取る予定だった。しかし、造られてから数年経ったものの、依頼人は一向に現われる気配がない。夙が、造られた十二体の人形に、何かを告げていた。言葉は、硝子の向こうから聞こえるのでくぐもってよく聞こえなかった。
 それから更に時を経て、店にやってきた客が自分たちを見て夙と交渉をしている光景が飛び込んできた。同時に感じる、拒絶。
 依頼人以外に買われる事を拒絶した彼・アルマンダインがとった行動は『姿を消す』こと。ところが、それが思わぬ事件と重なり……。
「……どうも…アレやね、無事だったのはコイツだけみたいやな」
 人形の記憶を読み終えた一葉が、溜息を吐きながらそう告げる。

 あまりに呆気なく、仕事が片付いた。
「…まぁ、彼を見つけてもらうのが最初の依頼だったしね。君たちに余裕があれば、他の人形たちの探索もお願いするよ」
 そう苦笑する夙の顔は、何処か不安げだった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0085 : 杉森・みゆき(すぎもり・−) : 女 : 21 : 大学生】
【0115 : 獅王・一葉(しおう・かずは) : 女 : 20 : 大学生】
【0380 : 柚木・暁臣(ゆずき・あきおみ) : 男 : 19 : 専門学校生・鷲見探偵事務所バイト】

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■         ライター通信          ■
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なにやら、変に中途半端に終わってしまったような気がしないでもない初めての依頼です。
挨拶が遅れました、新クリエイターになって一月経つのに、これが初めての仕事という『西。』です。
本当はもっと色々書いていたんですが、表現がくどいのか長くなってしまい…公表するはずだった人形たちの秘密はあえなく割愛…。
以降の話のネタにできるようになったのは良いんですが、なんだか気鬱…。
参加してくださった御三方をもっともっと表現したかった…(汗)
参加者によって、【弐】の話が違います。それぞれ探索、または調査をしている場面なので、少しずつ変えたのですが…。それぞれに、このシリーズのヒントを織り込んだので、今後の参考になればよいなぁと思ってます。
御三方の評価が非常に怖い所なのですけども(汗)

一葉嬢の『サイコメトリー』を、何処まで表現すべきか実は悩みました。キャラは僕的にかなり好みです(笑)
しかし、この能力が無かったら最後の締めが書けなかったのもまた事実なので、参加していただけてよかったです。
もう少し突っ込んだ質問をされていたらどうなってたんだろうかと、プレイングを見ながら考えています(笑)
また機会があればご参加くださいませ(^-^)