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夢ノ続キ
■冒頭■
雫がいつものように自身のホームページにある、投稿フォームに目を通していると、新しい書き込みがあるのを発見する。
「あっ、新しいの発見☆」
雫はそう口にして、書き込み内容を確認した。
『謎の音：
ＵＬＴＲＡっていうインディーズバンドのＣＤに、なんか謎の音が入っているらしい。しかもそれを聴いた人は、必ず死に至るというオマケ付き。誰か聴いた人いない？』
「謎の音に、死人かぁ〜」
雫は一人何かを納得したように云々と頷くと、いつも肌身離さず持ち歩いている携帯電話を手にする。ピッピッと親指を器用に動かし、することは新規メールの作成。
「えっとぉ、ＵＬＴＲＡっていうインディーズバンドの情報求む！」
手当たり次第に送信されたメールは、数分後には何通かの返信があった。
そこで得られた情報は──
・聴いた人の中で、行方不明者が出ている（らしい）
・４人組のビジュアル系バンド
・問題のＣＤタイトルは『ＵＬＴＲＡ／Ｉ』
「死人だけじゃなく、行方不明者までいるのかぁ。……よしッ！」
雫は可愛らしい鞄を椅子から引っ剥すように手にすると、携帯電話をスカートのポケットに入れて、勢いよくネットカフェから飛び出して行った。
行き先は近くのＣＤショップ。
「話しはＣＤを手に入れてみないとねぇ〜☆」
■榊杜 夏生■
その日、榊杜夏生は友人と他愛もない会話をしながら、街を歩いていた。
「ねぇ、ねぇ、ＵＬＴＲＡの噂知ってる？」
「ウルトラ？何それ」
友人の口から漏れた言葉に、夏生は不思議そうな顔をして相手を見る。
「あれ、知らないの？ＵＬＴＲＡってインディーズバンドのＣＤに、なんか音が入っているんだって。夏生、聞いたことない？この噂」
「うーん、知らない。けどそういうのってよくある話しじゃない？ほら、有名な歌手のＣＤにも入っていたし」
「それがそうでもないんだなぁ。噂によると、そのＣＤを聴いた人の中には、死んだ人までいるらしいよ？」
「本当！？」
謎の音だけじゃなく、死んだ人までいるなんて…。これはきっと何かある！
夏生の中の好奇心が、ひょっこりと顔を覗かせた。それは表情にも出ていたのだろう。横を歩いていた友人のしょうがないわね、と言いたそうな顔が視界に映る。
「……インディーズものを扱ったＣＤショップなら、通りにあったよ」
「ありがとう！」
友人が歩いていくのを後ろで眺め、夏生は来た道を戻るように駆け出した。
そして丁度ゴーストネットＯＦＦの前を通り過ぎようとした時、横から飛び出してきた何かと肩がぶつかり、夏生は数歩よろけてしまう。
「あっごめん〜」
「いえ、こちらこそ……って雫ちゃん！？」
それは見知った人物、瀬名雫だった。
「夏生ちゃん、そんなに急いで何処行くの？」
雫は自分も飛び出してきたことなど忘れ、駆けていた夏生に小首を傾げて質問する。夏生同様、愛らしい顔立ちをした雫は、大きなリボンを揺らして夏生を覗き込んだ。
「あたしはね、ＵＬＴＲＡってバンドのＣＤについて調査しようかなぁと思って、今そのＣＤを探しに行くところ。雫ちゃんは？」
「しずくもね、そのバンドのＣＤについて調査しようと思ってたんだけどぉ……」
そこで雫は言葉を濁らせる。
「どうしたの？」
「うーん、ちょっと用事が出来ちゃって。…そうだ！夏生ちゃんも調査するみたいだしぃ、その調査結果を後で教えてくれないかなぁ〜」
すまなそうに顔の前で手を合わせる雫に、なんだか可愛いなぁと思いつつ夏生はコクリと頷いた。どうせ調査する気は満々だし、結果を教えるくらい苦でもない。なんにせよ、断る理由なんてどこにもないのだから。
「任せといて！榊杜夏生、ＵＬＴＲＡのＣＤについて調査し、その結果を雫ちゃんに報告致します☆」
敬礼のポーズをしながら、夏生はウィンクをしてニコッと笑う。すると雫も安心したのかパァと笑顔を顔全体に乗せる。
「それじゃあ、しずくが入手した情報を提供するね。問題のＣＤのタイトルは“ＵＬＴＲＡ／Ｉ”で、４人組のビジュアル系バンド。そのＣＤを聴いて行方不明になっている人もいるらしい。ってこれくらいかなぁ」
「なるほど…。うん、判った♪」
自分の中に情報をインプットしてそう言うと、雫は「じゃあねぇ〜☆」と夏生の前から走り去って行った。
それを見送った夏生は、「よしっ！」と気合いを入れ、ＣＤショップへとまた駆け出して行く。
インディーズバンドのＣＤを扱っているというショップは、意外にもこじんまりとした店だった。普段通っている通りなのに、今まで気づかなかったくらい存在感が感じられない。その理由を夏生は、店内に足を踏み入れて納得した。普通のＣＤショップならメジャーな歌手のＣＤが大半で、インディーズコーナーはあっても、店内の一角に小さくあるくらい。それがこの店にはメジャーな歌手のＣＤが殆どなく、インディーズもののＣＤで埋め尽くされていたのだ。これじゃあ興味がない人には存在価値がない。
夏生は気後れしそうになりながら、ＵＬＴＲＡのＣＤを探した。
「何処かなぁ〜」
キョロキョロしてみると、そのＣＤを棚横の展示スペースに、ポップ付きで紹介されているのを見つける。ポップには『今話題のＵＬＴＲＡのＣＤ！！』と大々的にそのことを売り文句にしていた。
夏生はそこから１枚ＣＤを手にすると、ポップに書かれている説明を読んでいく。
『女の声が聴こえると巷で噂のこのＣＤ。実はインディーズバンド・ＵＬＴＲＡ初のＣＤなのだ！それがこんな形で有名になってしまったが、実力はしっかりあるバンド。歌良し、音良し、顔良しと３拍子揃っている。問題の歌はラストに入っているらしいぞ！？』
「ふ〜ん、ラストの曲にか……」
夏生は手にしたＣＤをレジに持っていき、「これ下さい」と店員らしい人に差し出した。
「あっＵＬＴＲＡのＣＤね。今、結構出るんだよねぇ、このＣＤ」
「そうなんですか」
「もし良かったらＵＬＴＲＡが出ている、ライブハウスの情報ペーパーも入れるけど、どうする？」
「あっ、お願いします♪」
ＵＬＴＲＡに関するものなら、どんなものでも手にしておく。それが謎の解明に役立つかもしれない、と夏生はＣＤを受け取りながら思案を巡らせた。
ＣＤショップを後にすると、夏生は早速歩きながら貰ったばかりのペーパーに目を通す。ライブハウスは裏通りの一角にあるらしい。丁寧に地図も付いている為、これを見れば辿り着ける。けれどＵＬＴＲＡ自体の出演予定は、この噂の影響だろうか現在未定となっている。それでもペーパー内で大きく枠を貰っているところから、人気は相当なものだということは想像が付く。
「これなら意外と簡単に、情報は入手出来るかも♪」
意気揚々とペーパーを眺めながら、今度はＣＤを聴いてみようと夏生は一人、ファミリーレストランへと向かって行った。
ファミリーレストランに一人入った夏生は、ジュースを注文するや否や、ＣＤウォークマンで聴いてみる。
「えっと、確かラストの曲って書いてあったよね」
ピッピッとタイトルを進めてラストの頭出しをすると、そこからは軽快な音楽に乗ってなんとも切ない歌詞が流れてきた。録音されたのは、ペーパーに書かれていたライブハウスらしい。
「あれ？これってテンポの速い歌だったんだ」
歌詞カードを読んで、内容が愛を歌ったものだったため、てっきりバラードだと思っていた夏生は、そのテンポの違いに正直驚く。けれどメロディーに乗るその歌は、聴きやすい印象を与える。
「声は何処にあるのかなぁ」
夏生がそう口にした瞬間、声は耳に響くように現われた。
“何故 お前たちは 私のものを奪う”
“この場所は 私のもの”
“誰にも 渡さない”
“女なんて いなくなればいい！”
“殺してやる……”
「ちょっと、何これ！？」
夏生は聞き取った声に、一人でファミレスにいることも忘れ声を荒げる。それに周りの客が何事だという表情をして見るが、今の夏生はそれどころじゃない。確かに聴こえてくるのだ。女の声で、背筋が凍りつくような低い声が。
それは現実主義者である夏生ですら、怖いと思う声色だった。
そしてコトバは、まだ続いていく。
“私の声と コノ曲を聴き お前たちは解放される”
その声を聴いた途端、夏生の体に力が入らなくなる。フワリと体が浮くような、頭の芯がボーッと痺れてくる感覚が体を支配していく。歌に隠れるように囁かれる声は、こちらの意思をコントロールしていくような感じがした。
「嫌ッ！」
夏生はバッと再生していたウォークマンの電源を切ると、グラスを手に取り、一気にジュースを喉奥に通していく。冷たい液体が痺れていた体全身に広がり、ボーッとしていた頭をクリアにしていった。
「なんか……このＣＤって、思ってたよりヤバイみたいだよ」
クリアになって数分、スッキリしてきた頭で考えていた夏生は、ＣＤケースに怪訝そうな目を向ける。
「あたしの仮説が正しいとすれば……これって催眠？暗示だよね？えっと…確か“メトロノーム法”とかって」
催眠を誘導する方法に、音と組み合わせて行う方法があるのを思い出す。
「けど催眠と暗示は違うよ。あの感覚は催眠だと思うけど、でもなんでＣＤに催眠効果なんてあるのぉ？」
判らないことだらけで、夏生の頭脳は混乱を期していた。
ノートにシャーペンを走らせながら、夏生は“ＣＤ←催眠効果←その理由は？”と書き記して眺めてみる。最後まで聞かなかった所為か、催眠効果を体験することはなかったため、さっぱり、チンプンカンプン状態だった。
「ＵＬＴＲＡ／Ｉというアルバムに入った、女の人の声で催眠術、しかもちょっと恐ろし気な声で……う〜〜ん」
シャーペンを指先でクルクル回しながら、夏生は唸り声を上げる。
「こういう場合、よくあるのはファンだった人が亡くなって、それがＣＤに紛れてしまったっていうのだけどぉ。それにしては…」
あまりに恐い印象の声だったよね、と夏生はそれを否定した。
「それにあれが人為的としても、催眠効果のあるＣＤをバンドが作るとは考えられないしぃ」
あんな恐ろしい声ではねぇ、とシャーペンでテーブルを軽く叩き、纏まらない考えに溜息を付く。
「う〜ん、ちょっと休憩〜」
取り敢えずジュースでもお替りしよ、と夏生は気分転換の意を込めて席を立つ。
そこで違う席に座る人の声が聞えなかったら、夏生は今もまだＣＤと催眠効果について悩んでいたかもしれない。けれど夏生の耳には、「あそこのライブハウスって付いてないよねぇ」という女の子の声が聞えてきた。
あそこのライブハウス？？
自分が調べていることが、調べていることだけに、夏生の意識は自然とそちらに傾いていく。そしてジュースをお替りしているフリをして、夏生は話しを盗み聞いてみた。
「ほら、ＵＬＴＲＡのＣＤの声って、どーもあの人じゃないかって言われてない？」
「誰？」
「なんかあそこって女の幽霊が出るって前から噂あったじゃん。なんでも昔、通ってた人らしいんだけど、どーも今でも通ってるらしいよ」
「通ってるっていうより、住み着いてるんでしょ」
笑い話のつもりか、そこで女の子達は大きな声で笑い出す。
けれど夏生は一人真剣な表情をしていた。もしそれがあのＣＤを録音したライブハウスなら、女の正体が判るかもしれない。それどころか、巧く事が運べば、解決する可能性も秘めている。
夏生はお替りのジュースを手にして、その女の子達に近づいて行った。
「ねぇ、その話し、詳しく教えてくれないかな♪」
いきなり登場した夏生に、あからさまに不振気な目を向ける女の子達。だがそれに負けないくらいの笑顔を作って、夏生は自分の座っていた席から荷物を取ってくると、よいしょっと相席するように座る。
「それで、キミ達が言ってたライブハウスって、やっぱりＵＬＴＲＡのＣＤを録音したライブハウスのことかな？」
夏生の手にはＵＬＴＲＡのＣＤが握られていた。
「あーそうそう。このＣＤを録音したって場所のことよ」
女の子の一人がＣＤを指差して、夏生の質問に答える。
「女の人の幽霊って、もう少し詳しく判らない？」
「うーん、私達もそんな詳しくはないんだけどぉ。なんかそのライブハウスが出来た当初、あるバンドに熱狂的なファンの女の人がいたんだって。毎回必ず通っていて、バンドメンバーとも仲良かったらしいんだけど、交通事故で死んじゃったらしいんだよねぇ」
「よくある話しだぁ」
女の子の言葉に、夏生は云々頷きながらポツリと感想を漏らす。
「それがその人。自分が死んでも尚、ライブハウスに通って、そのまま居ついちゃったらしいの」
「仲良かったバンドメンバーっていうのは？」
「やっぱプロになるには、限界感じたんじゃない？そのうち解散して来なくなったらしいし」
「ふ〜ん…なるほど。っで、その女の人ってどういう人なのか判らないかな？」
「あっ、なんでも心理学関係の大学生だったらしいよ。あそこの店長がそんなこと言ってた」
「心理学！？」
夏生はその事実に、驚愕の声を上げた。
夏生自身、そっち方面に詳しいわけではないけれど、そういう方面を専門的に学んでいる人なら、催眠状態を引き起こす手段なんて、簡単に知っていただろう。それを死んで尚、利用することは出来るのかもしれない。
もしあの声が原因で催眠状態に入ったとしたら、死んだ人がいるという噂も強ち嘘ではないのかも……。
「ちょっ、ちょっと待って。えっと整理すると、どうなるの？あのＣＤの声は昔ライブハウスに通っていた女の人のもので、その人は心理学をかじっていた。そしてそのＣＤを聴いた人、つまりはあの人に催眠もしくは暗示をかけられた場合……死んじゃうってこと！？」
大変ッ！！と夏生は飲んでいたジュースを一気に飲み干し、テーブルにジュース代を置くと、女の子達に「ありがと☆」と手を振って、急いでファミレスを出て行く。
「早くどうにかしないと、また誰か死んじゃう！」
夏生は全速力で、ペーパーに書いてあったライブハウスへと向かう。
到着したライブハウスは赤レンガで出来た、こじんまりとした入り口をしていた。
「開いてるかなぁ……」
まだ営業時間ではないため、夏生は中に入るのを躊躇する。
「あなたも此処に用があるの？」
すると後ろから女性の声がして、夏生は慌てて振り向いた。そこには長い黒髪に、ダークブルーのシャツ、黒のパンツスーツを着た、綺麗な女の人が立っている。知的な印象の女性だ。
「あっ、えっと、あたし、ＵＬＴＲＡのＣＤについて調べてたら、飛んでもないことに行き当たっちゃったんです。それでそれを止めようと来たんです。どうしても止めなきゃいけないから」
「そう。あなたも調べていたの」
「えっ？それじゃあ」
相手の意外な言葉に、夏生は下げ気味だった頭を上げて相手を見た。
「兎に角、入ってみましょう。本当なら此処で待っててと言いたいところだけど……。自分の身は自分で守れるかしら？」
「幸運だけはありますから♪」
へへっと夏生が笑うと、相手も「そう」と薄く笑みを浮かべる。
「それじゃあ、話しが纏まったところで行ってみようぜ」
「えっ？」
またまたいきなり今度は男の人の声がして、夏生は驚いて振り返った。声の主は２０歳前後で黒髪の整った顔立ちをした青年。夏生より随分背が高い。
「俺もＵＬＴＲＡのＣＤについて調べてたんだよ。ＵＬＴＲＡのメンバーの後を追ってたら、此処に辿り着いたってわけ。たぶん中には入れると思うぜ。あいつら、入って行ったし」
青年の声に後押しされるように、夏生達はゆっくりと扉を開き、中に入って行く。
そうしてステージのある場所に足を踏み入れたところで夏生が見たのは、ＵＬＴＲＡのメンバーに襲われている一人の青年の姿だった。
■ＡＬＬ■
「あれ？何、何、どうなってるの？」
「やっぱり……」
「随分とグッドタイミングで登場したみたい？」
そうして現われたのは、夏生、廉、隆之介の３人だった。
３人の目の前には、ＵＬＴＲＡのメンバーに首を絞められ、身動きが取れなくなっている慶悟と、ステージでほくそ笑んでいる一人の女性。どうやら霊が彼らを動かしているようだ。
「なんて強い怨念なの。それに彼らをどうにかして引き剥がさないと、彼が死んでしまうわ」
「えっ！それはマズイよ、助けないと！」
夏生は３人より早く駆け出すと、慶悟の首に腕を絡めている男に向かって「てやぁ！」と蹴りを叩き込んだ。しかしその直後、他のメンバーに平手をもらい、「きゃあっ」と小さな悲鳴を上げてバタリと床に叩きつけられる。
「おまえら、女の子を叩くなんて最低だぞ！」
それを見ていた隆之介は薄茶色の瞳を金色に変化させ、飛び出したと同時に男達を蹴り倒していく。そのスピードは、人の業とは思えないほど俊敏だ。そしてまだ起き上がり飛びかかろうとしている男には、狙ったように鳩尾に拳を叩き込んでやる。ゲッと胃の内容物を吐くほどの威力に、流石に操られている彼らも動きが鈍る。
そこを見逃すわけもない慶悟は、サッと身を横にずらしして腕から開放されると、少し咳き込みながら、ステージ上の女を鋭い眼光で睨み付けた。
「どうなってるのか、簡素な説明をお願い。カノジョが全ての原因なの？」
慶悟の傍で銃を手にしながら、廉が尋ねる。
「あぁ。あの女、自分の勝手な思い込みで、女の子達に暗示をかけて操っていた。しかもそれを悪いとも思っていない。俺はそういうのが、一番許せない」
「それじゃあ、何。自殺したコ達は、皆あの女がそうするように仕向けてったってことかよ！？」
脇から隆之介が口を挟む。それに慶悟は無言で頷き、肯定の意を示した。
「俺は陰陽師だ。あの女を強制的に成仏させる。あんたらは？」
慶悟は既に印を組む準備に入っていた。
「私はあのコ達の面倒をみるわ。あなたの邪魔をしないようにね」
「あたしは幸運しか祈れないから、やっぱりＵＬＴＲＡを抑える方が合ってるかも」
「んじゃ俺はあんたの援護をしてやるよ。って術は使えないけど、どうにかなんだろ」
「「「「それじゃ」」」」
４人は顔を見合わせると同時に、散り散りになって個々に移動する。
夏生と廉が向かった先では、さっき隆之介にやられて伸びていたはずのメンバーが、既に回復して立ち上がっていた。
「こんの、少し大人しくなさい」
夏生はぴょこりとしゃがんだかと思うと、立ち上がるバネを利用して男の股間目掛けて蹴り上げ、更に必殺の回し蹴りを炸裂させる。男はこれで本当に立ち上がれなくなったのか、床に寝そべり動かなくなった。
「一丁上がり☆楽勝、楽勝♪」
夏生が一人ガッツポーズを取っている横で、今度は廉が銃をフォルダーに仕舞いながら目の前にいる２人を見据える。
「怪我しない程度なら、いいかしら」
そして少し考えた後、廉はポソリと呟いて、両の手をフワリと動かした。
「音太刀！」
声に共鳴するように手が振り下ろされたところからは、見えない刃が相手目掛けて飛んでいく。それはメンバー二人の太腿を掠めていき、空に刃が消えた時には鮮血が滴り落ちていた。バタバタと倒れ込む男達は、腿の痛みから立ち上がることも出来ないだろう。
「スゴ〜イ！それって、もしかしてかまいたちですか」
廉の技を見ていた夏生が、歓声を上げる。がそこにまだ残っていた一人が夏生目掛け、バタフライナイフを手にして近寄ってくる姿に廉が気づいた。
「しゃがんで！」
「えっ？はいっ！」
廉の声に驚きながらも、夏生は言われた通りその場にしゃがみ込んだ。すると廉は肩のフォルダーから銃を素早く抜き去り、男の肩口に銃弾を発射する。
背後で人の倒れる音がして、夏生は慌ててそこから廉の傍に移動すると、ふ〜と胸を撫で下ろした。
「これで…全部ですよね」
「そうね。あとは向こうの二人がなんとかするでしょう」
「頑張れ〜、二人とも♪」
「さてどう動いて欲しいんだ？」
隆之介は何やら胸元で手を動かしている慶悟に、目線を向けることなく尋ねる。
「あんた術は使えないって言ってたが、動きは良い方か？」
慶悟もまた、隆之介には目線を向けずに尋ね返した。
「まー人よりは数倍俊敏だな。特に金色の瞳の俺は、向かうところ敵なしだな」
自信満々に答える隆之介に、慶悟は何かを思いついたように笑みを浮かべる。そして数枚の呪符を取り出すと、それを隆之介に差し出した。
「それをステージの四隅に貼り付けてくれ。女はなんとかするが、危害が行くかもしれない。それを巧く避けながら、出来るだけ早く行動して欲しい」
「任せろ」
ニッと笑うと、隆之介は慶悟から離れて一気にステージ上へと昇っていく。
“何をするつもりだ！”
そんな動きに不穏なものを感じたのか、女は隆之介に飛び掛ろうと移動した。が隆之介の方が一歩早く、まずは一枚目の呪符を貼り付けることに成功する。その間、慶悟は印を組み、女を強制的に除霊するための呪を口にし始めた。
“何をッ！ やめろ！ やめろ！”
今度は呪に反応して、女の体が慶悟に向けられる。その時女の顔は既に人ではなく、鬼の形相をしていた。
“やめろぉぉぉぉぉ！！！！”
「そう言われてやめる奴が、何処の世界にいんだってーの！はい、これで３枚目」
“嫌だぁぁぁ！！歌が聴きたい。私はあの人達の歌が、聴きたいだけなのに！”
女は呪の影響で苦しみだしながら、それでもこの世にいることを臨んでいた。しかも女は死んでいることにすら、気づいていない様子で。
「４枚目っと！いいぜ、全部貼り終わった」
隆之介の声に慶悟は閉じていた瞳をパッと見開くと、指先を女に向け最期の言葉を紡ぐ。
「あんたの棲む場所は、もう此処じゃないんだよ」
「急々如律令」
“いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ！！！！！”
断末魔のような叫びとともに、女の姿は煙のように消えてなくなった。その瞬間、ライブハウスに漂っていた気配も消えてなくなる。
「終わったっぽい？」
「そのようね」
「まっこんなもんか」
「そうだな」
４人は安堵を漏らしながら、真ん中らへんに集まった。
そして全てが終わり、互いの調査結果を照らし合わせ、４人は全てを理解する。
「つまり女はあのＣＤを聴いた女の子達だけに、暗示をかけてたのかよ」
「そうね。そして少女達は女の指示が聴こえた時、言われた通り、飛び立って行ったようね。行き先は天国だったけど」
「ＵＬＴＲＡのメンバーも暗示をかけられていた。女の駒になるために」
「そしてあの霊はＵＬＴＲＡのファンじゃなく、何十年も前に活動していたバンドの熱狂的なファンだった」
「歌が聴きたいがために、死んでも尚留まり続けるくらいにな」
「なんか…辛いね。限界を感じて夢を諦めたバンドメンバーに、それに気づかず、ただ歌が聴きたいと夢見続けた人…かぁ」
夏生の言葉に他の３人は黙り込んだ。
決してあの女に同情なんかしないけれど、大人になればなるほど、夢を見続けることがどれだけ難しいか判っている。夢は夢と諦めなくてはならない時があるからだ。けれどそれを諦めずに追い続けたカンジョは、方法は間違っていたけれどスゴイのかもしれない。
「さて私は彼らを病院に運ばないといけないから。流石にこのままってわけにはね」
一通り話した廉がまず最初に立ち上がる。
「それじゃあ、俺も失礼する」
次に慶悟が立ち上がり、ライブハウスから姿を消した。
「それじゃあ、あたしも行くね。また会えたらいいね♪」
「あーちょっと待った。名前教えて。これも何かの縁だしさ」
夏生の後を追うように、隆之介も立ち上がる。
とふいに夏生が廉へ体を向き直した。
「何？」
「もう暗示は解けたのかな？これでもう誰も死なないよね。皆、元に戻ったんだよね」
確認するような夏生に、廉は一度頷く。
「暗示をかけた者が消えれば、その効力も失うわ。あのＣＤ自体には、もうなんの力もない。あるのはインディーズバンドが出したＣＤという現実だけよ」
「…そっか。良かった♪それじゃあ！」
夏生達が出て行くと、廉は救急車を手配してステージに座り込む。
「夢の続き…ね」
その後、行方不明だった少女４人は、廉の捜査によりＵＬＴＲＡが借りていた倉庫から無事発見された。
またＵＬＴＲＡのメンバーも、簡単な事情聴取は受けたものの罪に問われることは無く、徐々にではあるが音楽活動を再開しつつあるらしい。
事件はこうして幕を閉じたのだった。
■榊杜 夏生■
「というわけで、このＣＤは無事、普通のＣＤに戻ったよ☆」
「それは良かったぁ。これで安心して聴けるねぇ〜☆」
「そうだね。結構いい曲が多いんだよぉ」
夏生はゴーストネットＯＦＦに顔を出し、調査した内容を雫に笑顔で話す。
ＵＬＴＲＡのＣＤは、今も夏生の部屋にあるＣＤラックに、しっかり納まっている。
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【0017／榊杜・夏生／女／16歳／高校生】
【0188／斎木・廉／女／24歳／刑事】
【0365／大上・隆之介／男／300歳／大学生】
【0389／真名神・慶悟／男／20歳／陰陽師】
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■ ライター通信 ■
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「東京怪談・調査依頼／夢ノ続キ」にご参加下さり有難うございます。
ライターを担当しました、佐和美峰（さわ・みほ）です。いかがだったでしょうか。
＊皆さん、読みはドンピシャでした。（あははっ）
ただ過程が違ったため、少々調査の方向を変えてしまった方もいらっしゃいます。
すみません。
＊今回調査して下さった方々が、皆さん攻撃力のある方だったので、最後は全員での戦闘シーンになりました。
そして逆に最後まで各プレイヤーが名乗らない状態だったのは、皆さん自主性の強い方だったので、こういう展開になりました。
＊「冒頭」と「ＡＬＬ」は全員共通となっております。
＊またそれぞれ調べた内容が異なりますので、詳しい内容は他のプレイヤーの話しを読んで下さると判ると思います。
ではまた次の機会にお会いできることを祈って…。
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