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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


<調査コード :ハーメルンの魔笛>
執筆ライター  :立神勇樹
調査組織名   :月刊アトラス編集部
募集予定人数  :1人〜3人(最低数は必ず1人からです)

■オープニング■

 ――理由? 理由なんて無いよ。だってあいつ一人が犠牲になってくれれば、それでクラスは上手くいくんだから。だからみんなであいつを無視したんだ。

「大変です編集長!」
 叫びながら三下が編集部に飛び込んでくると同時に、碇麗香は胡散くさいと言いたげに顔を歪めた。
「大変? それは後ろのチンドン屋の事かしら?」
 冷たい声に三下が振り向くと、毛先をカールさせた白髪に仰々しい黒のタキシードとシルクハット。もちろん手にはステッキ。だめ押しはぜんまいのようにくるくる巻かれた針金状のちょぴんひげ。どう見ても歴史の教科書から抜け出てきた、といった感じのアヤシゲな人物が立っていた。
「これは失礼! 我が輩の名前は魔界公爵セバス! よろしければ親しみをこめて「ちゃん」付けで「セバスちゃん(はぁと)」とおよびくださると、光栄至極! しかし、いやはや! まったく! 人間界もかわりましたな! ともあれここにたどり着けるとは。いえなに、話? そう、話です。我が輩が主催する「魔界交響楽団」が人気めでたく「人間界一周講演」をやることになりましてな。早速楽器をと指揮者の我が輩みずから運んできたのですが、ちょいと異界門のすみに風呂敷をひっかけ破いてしまいましてな。貴重な魔導楽器をあちこちに落としてきたようなのです。で、その一つ「ハーメルンの魔笛」がここの近くにあるとわかり、必死に探しておるのですが、しがない悪魔一人では人間界は広すぎまして、ちょいと手伝っていただけないかと」
 慇懃にいいうと自称魔界公爵ことセバスは人差し指と親指でひげをつまんで伸ばして見せた。
「三下!」
 これが「大変」だったらただじゃ置かない! と麗香が言うより早くセバスが顔をつきだし再び言葉を紡ぎ始めた。
「何しろあれは我々悪魔専用楽器。人間に御せるものではありません。しかも始末が悪いことに、あれは『自分を使いたいと強く願う人間』に引き寄せられる習性があります! 大事になりますぞ! はぁはぁ。お金? 原稿? よろしい! 何しろ我が輩は悪魔ですからな何でも用意して進ぜましょう! では早速助っ人の選定お願いしましたぞ!」
 といって、セバスはタバコの煙が拡散してきえるように、白い煙と薔薇の花びらをまき散らし、マジックよろしく編集部からどろんと姿を消した。
 仕事のしすぎで幻聴と幻覚を見るようになったのかしら、と麗香がこめかみを押さえていると、完全に言葉を失っていた三下がおどおどと様子をうかがってきた。
「で、あの、セバスさんではなく、もう一つの大変なんですけどぉ。遠足に出た小学生39名が数分の間に忽然と姿を消したそうです。それで、子供が消える前に笛の音を聞いたって引率の教師がいってたんですけど……誰か行かせた方がいいですよね?」
「まさか本当に「ハーメルンの笛」よろしく、笛吹男が現れて忽然と子供を連れて行ったとでも?」
 もしあの馬鹿げた魔界公爵が本物の悪魔だとしたら?
「編集部に悪魔があらわれ、魔笛で子供が行方不明か――三流だけど、書き方によっては面白くなるかもしれないわね」


■起 蛇姫様は雑踏がお嫌い?(巳主神冴那の場合)■

 そのペットショップは東京という魔都のなかにひっそりと息づいている。
 ペットショップといっても、鳥や犬のかわいらしい鳴き声は聞こえない。
 それも当然である。水月堂は爬虫類関係のペットショップだからだ。
 ラジオからかすかに雑音混じりのクラッシック音楽が流れ、店内を満たしている。
 かすかな音の海を泳ぐように、蛇たちが声なく緩やかにうごめいている。
「悪魔の依頼をこなす事になるとはね……世の中も変わったものね」
 胸元が開いたブラッドレッドのサテンシャツの合間から、豊かな双球の谷間がみえる。
 女が呼吸するたび、雪花石膏のようなすべらかな胸元に蒼い静脈が精巧な模様のように浮かんで消える。
 蠱惑的で神聖なオーラがたゆたう波のように女から広がり、店の空気を満たしている。
 ――かつて女は娼婦であり巫女であったという。
 もしこの光景を「男」が目したなら、己の弱さと女の魅力にひれ伏し、その足下で許しを請うたにちがいない。
 黒絹の糸のように繊細で艶やかな髪の合間から覗くのは、全てを見透かし、全ての英知をしる蛇の瞳。
 そう、その瞳こそ水月堂の店主巳主神冴那の隠された本性を示している。
 六百年という年月を生きてきた蝮(まむし)の化身。
 それが冴那の本性であった。
 ある時は蛇神としてまつられ、ある異国の地では邪神として恐れられる存在。
 人間に知恵の実を与えるようにそそのかしたと言われる蛇の血を継ぐ者。
 その彼女が神性と邪性を同時に身に宿しているからといって、何を驚く必要があろう。
 冴那はレジの奥にあるアンティークの椅子から立ち上がり、無造作に店内のゲージを開け放つ。
 音もなく蛇達がうごき、音もなく冴那の腕に首に身をからめる。
 手に、足に、腰に、様々な種類の蛇たちがからみつく。まるで忠誠を誓う騎士が女王に跪くように、百年の後に包容を許された恋人同士のように。
 窓から太陽の光が射し込み、光のカーテンとなり冴那と蛇たちを照らす。
 それは恐ろしくも美しく、淫靡でありながらどこか神々しい。
 聖と邪、光と闇の婚姻であった。
「さあ、おまえ達。笛を探しなさい。飛び切りいい音色のをね」

 春の風に桜の花びらが混じり始めている。
 今年の桜は命が短い。
 そんなことを考えながら、冴那は上野公園の噴水前をぼんやりと眺めた。
 光に輝きながら水珠が空を踊っている。
 水音に混じって聞こえるのは、ヴァイオリン、ギター、フルートの音。そして行き交う人間達。
 個々として聞けば美しい楽器の音色も、ここでは演奏家が多すぎて、音色が混ざりすぎて不協和音でしかない。
 噴水の水音や木々のざわめきのほうが、よっぽど気が利いている。
 人の集まる場所は嫌いだ。
 雑多な邪念や悪意が集いすぎている。
 人は悪魔や蛇や妖魔を嫌うが、人間の方がよほど邪気が強いのだ。
 人を避けるようにして木立に隠れると、小さな薄緑色の蛇が現れた。
 蛇は冴那の足首から太股へ、そして胴から手首を伝って肩にのる。そして小さな頭を冴那の形の良い耳に近づけると、彼岸花の花弁の様な舌をちらつかせた。――まるで何かをささやくように。
「そう、森の中に魔の力持つ男がいるのね?」
 婉然と微笑み、指先で蛇の頭をなでた。
 どうやら小学生達が行方不明になった森の近くに、「魔」とも「神」ともつかない不可思議な気配持つ存在がいるようだ。
 木立を出て森へ向かおうとした冴那はふと考え足を止めた。
(魔笛ということは、耳栓は必需品ね……)
 神性と邪性を同時に併せ持つ蛇の化身。六百年を生きてるわりに、冴那は意外とずれていた。
 よく言えば天然というのだろうが。
 魔笛に耳栓が効くのであれば、そもそも魔笛と言わないのではないか?
 それとも、無いよりはマシという考えなのだろうか?
 ともあれデパートで耳栓を買った冴那は、準備万端と森へと向かったのであった。

 森の中は安心だ。
 どこにいても仲間の息吹を感じることが出来る。
 薄緑の蛇をアクセサリのように体に巻き付かせながら、冴那はバスを降りてあたりを見渡した。
 途中、蛇を巻き付けている冴那を不気味そうに見る人々がいたが、なに、かまうことはない。
 蛇の化身だとばれるより、蛇好きのちょっと変わったおねーさんと思われる方が、百倍はましだ。
 バスをおりて森の中へと踏み入れる。
 春になって萌え出ずり始めたシダや若草の匂いが、肺から血管を通して全身に行き渡る。
 この場所は、この空気だけは昔から変わらない。
 応仁の乱の時も、信長の坊やが本能寺で死んだ時も、そしておそらく冴那が生まれる以前、神がこの地にいた時代から、森の中だけは決して代わりはしない。たとえその領域を人間に奪われていても、だ。
 冬の間に乾いた小枝を踏みしだきながら森の奥へと進む。
 と、唐突に視界が開け、まぶしい光の空間が現れる。
 どうやら森の眼についた様だ。
 森の眼とは台風の目と同じ、森の中にひっそりと存在する秘密の空間。そして動物たちの中立領域である。
 大概は人間達が足を踏み入れられない森の深淵にあり、泉なり湖なりが存在する動物たちの水飲み場となっているのだ。
 そこに一人の人影があった。
 冴那と同じ、いや、それ以上に白い新雪の肌。
 夜空に広がる宇宙よりなお深く、複雑な彩をもつ漆黒の髪。
 何より、他の全ての存在を屈服させうる強い意志と魔力もつ黄金の……いや、光のごとき双眸。
 人ならざる美なる存在。
 硬質的で繊細な彫刻を思わせる存在が、そこに立っていた。
 彼はゆっくりと顔を上げると冴那を見た。
 すさまじいまでの吸引力にかすかな焦りを感じながら左目を細めた。
「貴方が魔笛を奪ったの?」
 乾き始めた喉の奥から声をだす。
「魔笛? ああ、ハーメルンの魔笛ですか」
 薔薇がほころぶように青年は笑う。
 やっぱり、と直感した。
 悪魔――それも魔界公爵が落とした魔笛を奪うなら、これぐらいの力あふれる存在でなければおかしい。
「子供達をどこに隠したのかしら?」
「子供――何か誤解があるようですね。俺は子供達を隠したりしてませんよ」
「もう食べたから?」
 音楽的な青年の声を切って捨てる。
 緊迫した空気があたりを満たす。
「どうやら何か行き違いがあるみたいですね」
「行き違いかしら?」
 首を傾げて青年を見る。と、彼は肩をすくめてゆるゆると息を吐き出した。
 森中から蛇たちが冴那の足下に集まり始める。
 どこからともなく現れた白い揚羽蝶の群が、青年を守るように取り巻き始めた。
 森の中で同じ「神」と「邪」を持つ者が二人出会うなんてあり得ない。
 一触即発、戦闘も辞さない。と冴那が決意を決めたとき。
「あいやぁ! またれい! お二方。アトラスの麗香殿が選抜された我が助成ですな。ここで交えるべきは知恵と勇気であって、剣ではありませんぞ!」
 そういって二人の間に現れたのは、推定身長150センチ。きっちり分割された四等身。頭は昔の音楽家のようにカールし、春だというのに漆黒の燕尾服にシルクハットを被った妙な人物。
 その人物――つまりセバスはヘルメットを被り、両手に盾のように鍋のふたをかざし神妙な顔で立っていた。
 ――彼はこれで仲裁してるつもりなのだろうか。
 まともな人間ならよけいに怒りを燃やすだろう。敵ではなく、こんなふざけた格好で仲裁しようと考えてるセバスに対して、だ。
 呆れながら緊張を解くと、冴那の後ろから少女の高い声がした。
「セバスちゃん?!」
 声とともに姿を現したのは、長い髪をポニーテールにし、右腕に猫、左上にほうきをもった愛らしい唇をした美少女だった。
「おお! これは全く持ってナイスタイミング。これで役者がそろいましたな!」


■承 Il Flauto Magico −魔笛の少年■

「いやはや、まったく! 何ともってすばらしいことか! 三人ですよ。三人! 花を全身にまとう春の女神よりも美しい美女が三人も! さあ、お嬢さん方、薔薇を! シャンペンを! チョコレートボンボンは如何です?!」
 くるくるとハムスターのように踊りながらシルクハットから薔薇やチョコレートやキャンディを取り出しばらまくセバス。
「俺は男です」
 にっこりと、そう、少年が母親に始めてのカーネーションを渡すような、無垢で飾り気ない笑みを浮かべながら金の瞳の青年・斎悠也がやんわりと間違いを訂正する。
 とたんに動きを止め、顔を醜悪に歪めながらセバスは舌打ちをした。
「チィイ! 野郎か!」
 セバスの尻にむかって、一瞬の躊躇なく悠也の蹴りが飛ぶ。
 無様に転んで泉に落ちるセバス。
 水音。
「ともかく、セバス公爵がいるという事は、あなた方も月刊アトラスの麗香さんから依頼を?」
 何事もなかったように優美な微笑みをうかべたまま悠也が尋ねる。
「そのようね」
「そうです」
 背後でおぼれるセバスを完全に無視して答えたのは、蛇の化身である冴那と魔女の血を継ぐ少女・亜衣。
「ほうきに乗って上空から生徒達をさがしていてここを見つけたの」
 赤いイチゴのような唇を、かわいい舌でぺろりとなめながら亜衣が笑う。
 冴那はアクセサリーのように腕に巻き付かせた白銀の蛇を指先でなでながら、黙ってうなづいた。
 おそらく同族である「蛇」達をつかってここまできたのだろう。
 悠也は肩をすくめて、自分の持つ情報をまるで歌劇歌手の様に流々とした声で語り始めた。
 曰わく、行方不明になったクラスは40人いたのだと言う事。
 1人だけ行方不明にならなかった生徒は、39人よりずっと早く目的地にたどり着いていたらしいこと。
 笛の音が目的地の方角からきこえ、突然生徒が駆けだした事。教師が目的地に着いたときには誰もいなかったこと。の三つである。
「ああ! まったくもってそれこそハーメルンの魔笛。1284年。ハーメルンの町で演奏されたかの笛! 130人の子供らを家来の如く従え、地を割り底へ子供らを封じ込めた、かの魔性の音色! なんたる卑劣かつ悪魔的所行!」
 口から小魚と水を吐きながら、湖から這い上がってきたセバスがまくし立てた。
「うーん、そういうセバスちゃんも悪魔なのよね」
「全く持って実に悪魔」
 亜衣の言葉に深々とお辞儀してみせると、セバスはシルクハットから一本の指揮棒(タクト)を取り出して振った。
 とたんに水滴がセバスの体をはなれ、空にちって雨となり、陽光に照らされ雨は小さな虹となる。
 虹の一瞬の輝きを見ながら冴那が蠱惑的な唇から言葉を紡ぎだした。
「つまりハーメルンの魔笛は人間を操る力があるということなのね」
「ノン、ノン、マドモアゼル。あれは「一つの曲」につき「一つの生き物」を操る魔法がかけられているのです。かの伝説でネズミを操ったように、子供を操ったように、木々を、草を、山を、鳥を、そして貴方の眷属である蛇すらも操るのです! 一つの曲に一つの命ですがその魔法は絶対です。ああ、なんという神の悪戯。宇宙の因果!」
 もっとも、悪魔の血を引く人間が奏でたときだけ「普通の笛」なのですが。と言葉を句切ろとセバスは燕尾服のしっぽを指先でつまんで、かかしのように片足で飛び跳ねだした。
「ああ、だいたい悪魔、悪魔! 悪魔といったって、全てが全て人間を頭から丸かじりする奴ばかりではありません。何しろ悪魔であれそもそもは神から派生した生物。この世の因果律にしばられておりますれば! 因果律? そう、因果律です。悪魔が魔力を使えば使うほど天使のヤロウも奇跡を起こすのです。これ曰わくパワー&バランスという奴ですな。ただ、人間がどちらを信じるかによって、因果律に許される「力」は大きく振り幅を持つのです。つまり人間が天使より悪魔の存在を信じているから、魔界の鼻つまみ者やおいたが好きなレイディ達が、後先考えずに魔導の力をふるい、人間をおもちゃにして遊んでいるわけです。が、われら貴族にありますれば、人間を丸かじりするほど無粋な方法をとりませぬ。たまに気が向いたときだけ戦場で一人や二人味見するわけで。しかし最近はそれすらもまあ余り良い趣味といえませんな。何しろ核だの細菌兵器だのの化学調味料は高級な私たちの口にはいささかお味が……あーーーっ!!」
 放っておけば宇宙開闢まで語りそうなセバスの足に、均整のとれた長い足を引っかけて転ばせ、無理矢理黙らせると悠也は口を開いた。
「とにかく話を戻しましょう。これに語らせていればいつまでたっても話がすすみません」
 「これ」にありったけの皮肉と嫌みを込めながら、悠也は地面に顔を埋めているセバスを踏みつけた。
「私もそうおもう。ともかく、その一人だけ行方不明にならなかった少年っていうのが怪しいわ」
 亜衣が腕を組みながら言う。
 一人だけ行方不明にならなかった。そして一人だけ仲間はずれにされていたなら、導かれる答えは一つ。
「いじめられた仕返しに、魔笛でいじめたクラスメートを地底に封じ込めたという事ね」
 肩に掛かる髪を背中に払い、冴那が言うと、悠也は大きくうなづいた。
「ともかくその少年を――羽田涼くんと言うみたいですが――を探しましょう」
 悠也がポケットから切り紙の蝶に息を吹きかけ森へ放とうとする。
 冴那も足下に集う蛇に命令を下そうと、流麗な動きでその場にしゃがんだ。
 そして亜衣が上空から少年を捜すべく、片手のほうきに呪文をかけて、今、まさに飛び立とうとした瞬間。
「おお、それは何という偶然! その羽田涼くんとは、私が森を散策中にひろったこの「おやつ」の事ですか?」
 と、セバスがシルクハットの中から、一人の少年の襟首を捕まえて引き出して見せた。
「はなせよっ! なんだよっ!」
 と、猫のように襟首を捕まれた少年が笛を片手に暴れている。
「……」
「……」
「……」
「……はい?」

「ともかく、その笛はこの変なおじさんの持ち物だから返してあげよう」
 三人によって徹底的にボコられ、とどめとばかりに冴那の蛇で簀巻きされているにされたセバスを、金の瞳でちらりとみながら悠也が言う。
 しかし涼は頭をふって後ずさる。
「ねえ、どうしてこんなことをするの? イジメ・・・られたから? イジメは辛いよね。何もしていないのに、いきなり標的にされたりするよね」
 亜衣が全てを眠りに誘う、夕暮れの太陽のような瞳を曇らせながら言うと、涼は血管が浮き出るほど強く笛を握りしめながらうつむいた。
「イジメに負けるな! なんて無責任なこと、私は言わないよ。独りで立ち向かうのは辛すぎるもの。私が一緒に戦うよ。あなたの学校に転校するから、待ってて」
「……亜衣殿は高校生なのに、小学校にはいるのですか。おお、それこそすばらしき犠牲愛!」
「よけいなことは言わないのよ」
 セバスのよけいな一言に顔をしかめて、冴那は指を鳴らす。
 と、セバスに巻き付いていたまむし達が一斉にセバスにかみついた。
 上がる悲鳴。
 のたうつセバス。
「だ、大丈夫セバスちゃん!」
 少年の説得を邪魔されたのを気にもせずに、亜衣が悲鳴を上げるセバスをみる。
「だいじょうぶ、本当に悪魔なら毒ぐらいで死んだりしないわ」
「しかも、心なしか嬉しそうですし」
 蛇に拘束された体をとれたての伊勢エビのように跳ねさせ、地面を飛び回るセバスであったが、その悲鳴は甲高く、短く、奇妙な笑い声になっている。
「ウヒョヒョヒョヒョヒョ。トリーィィィップ!」
(神様……もし彼が本当に魔界公爵で悪魔なら、どうか俺に流れる悪魔の血を抜き出してください……)
 美しい顔に最愛の人を失ったと言わんばかりの悲哀をたたえ、半ば泣きたい気持ちで願う悠也。
 その肩に手を乗せ、静かに頭をふる冴那。
 憂愁に包まれ、森の深淵にたたずむ美男美女。
 絵画的、いや神話にならないのが不思議なほど美しく、胸の奥から感動を誘うシーンだった。
 もちろん背後で蛇と戯れ、海老のように飛び跳ね続けるセバスさえいなければ、の話だが。
(こ、この事件は早く終わらせなきゃ! でないと私の常識脳まで破壊されちゃうわ!)
 と、亜衣は心で叫びながら再び少年の方を向いた。
「あの、とにかくね。辛い思いをしているあなたなら、人の痛みもわかるはず。クラスメートたちをおうちに返してあげよう?」
 ね、と首を傾げて少年の前にすわり、下から顔をのぞき込む。
 少年は唇を噛みしめたまま、ふるふると頭を横に振った。
(悪魔に義理はないけれど、一度受けた依頼は果たさなければね)
 はね回るセバスに目眩をおぼえながら、冴那はため息をついて両手を腰にあてた。
「私はしつこいのよ。そんな笛より、可愛いお友達をあげるわ」
 だから、と言おうとした瞬間。
「いらない」
「え?」
「いらない! 新しい友達が欲しいんじゃない! ボクは……ボクはただ……みんなと、仲良くしゃべりたい……仲良く一緒に卒業したかっただけだ」
 亜衣を突き飛ばし、森の奥深くへ逃げる少年。
「あ、まちなさい!」
 悠也が声をかけるが、子供ならではのすばしっこさで涼は森の茂みや木々の合間をすり抜けていく。
「仕方ありませんっ。いけ! セバスちゃん!」
 叫ぶが早いか、悠也はセバスの襟首をつかみ、野球選手のように美しいフォームで魔界公爵を少年に向かって投げつけた!
「ダ−−−−−−!!!!」
 どこかの元プロレスラー議員のような野太い声をあげ、少年に向かって飛んでいくセバス。
 ――ごす。
「ナイスコントロールね」
「どういたしまして」
「違う、何かが間違ってるわっ! 大人って! 大人って!」
 亜衣の困惑をよそに微笑み握手を交わし合う冴那と悠也。
 地面で眼を回しているのは、もちろん頭と頭の強烈なキスを体験したセバスと涼である。

「つまり仲良くなりたいだけなのね」
 今生しつこく笛を握りしめた少年が嗚咽をあげながら冴那の言葉に頷く。
 少年の言い分を整理するとこうだ。
 6年生になってすぐに、何故かみんなに無視されだした。
 仲良くなろう、仲良くなろうと言葉を口にしようとするのに、のどの奥にひっかかって声がでない。
 失敗したらどうしよう、もっと嫌われて無視以上にひどいことされたらどうしよう、という気持ちが緊張につながり、少年から声を奪ったのだ。
 おそらく少年は最初からそうだったに違いない。
 引っ込み思案でおとなしく、勉強ができるわけでも、スポーツができるわけでもない。
 話題が豊富なわけでもなければ、漫画もテレビもそんなに見ない。
 ただ、みんなの輪の中にいるだけでしあわせな「聞き手」の少年だったのだ。
 しかしある日一人がいうのだ「あいつ、しゃべらなくて暗いよな。何考えてるかわからないよな」と。
 そこから徐々に無視が始まる。
 始まりの一人が……とくにその一人が学級で発言力がある、明るく、闊達でスポーツもそこそこできる、ちょっとわがままな奴だったら、もう、あとは想像がつくだろう。
 権力者に嫌われて一緒にいじめられたくないと追従する他の子供達。
 孤立すればするほど声が出なくなる少年。
 何かを伝えたい、何かを伝えたい。
 声がでないけど、何かを、伝えられたらいいのに。
 そう思っていたある満月の夜、天から「ハーメルンの魔笛」が振ってきたのだ。
「なるほど。何かを伝えたいとはこれまた意味深長ですな。「音楽」とは言葉にならない言葉を、言葉以上の言葉を伝える手段にございますれば」
 自分の頭よりでかいこぶの上に、何とかシルクハットを乗っけようと苦心しながらセバスがいう。
「しかし笛を吹きながら思ったのですな「みんなと仲良くなれないなら、いっそのことみんなどこかへ行ってしまえばいいのに」と」
 それで子供達は地面にパックリ開いた異界へ飲み込まれた。という訳だ。
「うーん。どうしよう」
「子供達を助け出すのは簡単よね」
 冴那と亜衣が困った顔で涼の頭を交互になで続ける。
 子供を助け出し笛をセバスに返すのは簡単なのである。が、問題は涼少年の悩みである。
「――あ、私」
「あら、私」
 すごく、良い考え思いついたわ、と声をはもらせながら二人はほとんど同時に悠也の方を振り向いた。
 そして聖母の様な微笑みを向けて彼の黄金の瞳をまっすぐに見た。
 この上なく甘美で、この上なく美しい二人の熱い視線を受け止めながら、悠也は頬を引きつらせて無理矢理笑顔を作って見せた。
(ああ、父さん、母さん。絶望的に嫌な予感がします……)
 そして魔界公爵セバスの言うところによる因果律によれば「絶望的に嫌な予感」というのは当たると相場が決まっているのだ。


■転 悪魔的三文歌劇■

「あっ! 私はこっちの月長石のネックレスが好きっ」
「あら、あたしはこっちの柘榴石のネックレスが悠也くんには似合うと思うわ」
 セバスのシルクハットから数々の宝飾品を引っ張り出しながら、二人は口々に寸評を始めている。
「おお、冴那どのは全くもってお目が高い! それはスペサルティンと呼ばれる最高級の石で作られているネックレスですぞ。このオーロラのようなインクルージョンは魔界工芸界一の巧みのカット出なければ生かしきれません!」
「あのね、あのね、マントはこっちの黒いのがいいとおもうの」
 とシルクハットにどうやって入っていたのか理解に苦しむ、やたらと長大な布を春風にはためかせながら亜衣が笑う。
「ほお。それは偉大なる大魔王猊下、暁の星と異名ある「あの方」が我がセバス家に下賜された、夜の精霊ニュクスをおりつむいだ最高級のマントですぞ! 確かに悠也殿の黒い髪には良くはえますぞ!」
「ちょっとまってください! 何ですかこの宝石、何ですかこのマント、何ですかその黒い翼!!!」
 半ば悲鳴の様な声をあげながら、悠也は眼を白黒(彼の場合は金の瞳だから白金と言った方が正しいのだが)させながら、女性二人の暴走を富める術もなく立ちすくんでいた。
 森の中には高級服飾店一件分以上の豪華な衣装が、あちらこちらと乱雑に放り投げられている。
「あ、このダイアモンドの指輪、すごく綺麗っ、悠也さんの細い指に似合うわ。ほらーっ、ぴったりー!」
「マントの留め金は18世紀風のエメラルドと、16世紀風のサファイアどちらがいいかしら? どちらも似合うだけに悩みどころだわ」
「まって、待ってくださいよっ!」
 いつもは冷静な青年と評価が高い悠也も、さすがに女性二人に着せ替え人形にされていてはたまらない。
「待たないわ。少年の未来をつぶすつもり?」
「私、悠也さんがそんなに冷たい人だと思いませんでしたっ! 軽蔑しますっ!」
「軽蔑って、あのね亜衣ちゃん、君……って、そもそも何で俺が悪魔役をやらなきゃいけないんですか!」
「じゃあ、セバスにやらせるつもり? セバスが悪魔だと仮定して貴方心の底から恐ろしいとおもう?」
「いえ、違う意味では恐ろしいですが」
 本物の悪魔に対してはなはだ失礼な会話を交わしながら、悠也は盛大なため息をついた。
(まあ、たしかに全然悪魔でない、と言ったらウソになりますけど)
 普段は神道系の術者ということで、周囲を納得させているが、実のところ悠也は悪魔のハーフである。
 ただ、人としてのプライドなのか、最後の切り札なのか、ともかく「悪魔の魔力」を隠し通してきているのだ。
 が。
 こういう「悪魔」な扱われ方は不本意千万! 魔力がばれる方がまだまし! というところであろうか。
 つまり亜衣と冴那の計画はこうだ。
 魔笛で異界に閉じこめられた生徒達を、悪魔に扮した悠也が襲う。
 それを涼少年が助ける。
 助けられた友人達と涼少年が仲良くなれるかどうかは、全く持って運まかせだが、何もしないよりましだろう。
 昔から言うではないか。
 孤立した人間に対しては、お節介でも、猿芝居でも、無いよりはマシなのだ。
 ええい、ままよ! と悠也が覚悟を決めた瞬間、セバスが神妙な顔でタクトを振り回した!
「いざ、三文歌劇の上映ですぞ!」

 そこは暗い、暗い地底の底。
 子供が39人肩を寄せ合って泣いている。
 あまりにも暗くて、方向も時間もわからなくなっているのだ。
 無限に広い地底で、子供の泣き声や嗚咽はすぐに吸い込まれて消える。
 その内、全ての存在が吸い込まれてしまうのではないか、と不安になる。不安は恐怖を、恐怖は涙を呼ぶ。
 もし、こんな時に一人だったらもう生きていなかったのかもしれない。
 そう誰もが痛感した瞬間、暗闇に青白い炎が灯った。
「これはこれは、とても美味しそうな子供ばかり。このハーメルンの魔笛に誘われてあつまったものだ」
 地底に良く響くように、抑揚をコントロールしながら芝居っけたっぷりに悠也が言う。
 とたん、子供達の眼が見開かれる。
 漆黒の髪を飾るのは、内部に人の命を封じた「蒼水晶」のサークレット。
 闇にほのほのと浮き上がる白い腕に幾重にもまかれているのは、真珠、ダイヤモンド、ラピスラズリの珠飾り。
 十本の指それぞれを飾り、夜闇の星のごとくきららかに輝くのは人の血をたっぷりと吸った玉髄に、魔性の石のエメラルド。
 黒いマントは一歩ごとにオーロラのようなひだとなって広がり、背中にある巨大な翼は鴉より黒く、濡れ光っていた。
「あ、悪魔だ!」
「如何にも、私が魔王なり。この魔笛をもっておまえ達を地底に封じ込めたる存在」
 くつくつと喉をならしながら言う悠也に向かい、一人の少年がたちむかおうとするが、すぐに悲鳴をあげてあとずさった。
 ぱちん、と悠也が指をならすと、タイミング良く亜衣がよんだ光の精霊ウィル・オー・ウィスプがあたりを照らす。
 子供達の足下には、まるで川の流れのように大小さまざまな種類の蛇がうねり、とぐろをまき、うごめいていたのだ。もちろん、冴那が呼んだ「眷属」である。
 足下にうごめくのが蛇だ、と知覚したとたんに子供達が悲鳴をあげ、悲鳴は地底を揺るがす大音響となった。
 冴那が貸してくれた耳栓(魔笛対策用)が無ければ、悠也も芝居を放りだして逃げていたことだろう!
「フフフ、悲鳴をあげるがいい、悲鳴こそ、恐怖こそ我が源、わが命!」
 ぼそぼそとマントの影で、三流すぎるセリフを悠也に告げるプロンプターはもちろん、四等身の魔界公爵セバスである。
(まったく、大した猿芝居だ!)
 と亜衣と冴那と悠也は心の底から感動していた。
 そして大仰な動きで悠也は「ハーメルンの魔笛」を奏で始めた。
 決められた合図をよみとり、冴那が笛の音に重ねるようにして指笛をふいた。
 一斉にうごめき出す蛇。
 悲鳴をあげて逃げまどう子供の足に巻き付く蛇、逃げ切れず失神する子供、泣きわめいて半狂乱になる子供。
 もし地底が大地母神の腹の中という神話が本当なら、母なる神は正露丸一瓶でも直しきれない腹痛に見舞われていたことだろう!
「そ、そこまでだ! 悪魔! ボクのクラスメートを傷つけるな!」
 涼が半分涙顔で悠也の後ろから現れた。
 たとえ芝居と知っていても、悠也の悪魔っぷりが怖いのだろう。
 膝はがくがく、眼からは涙、鼻からも鼻水。
 とても見ていて格好いいものではない。
 ここでしくったら、この芝居全てがおじゃんだった。
 涼は何度もどもり、袖で顔中をぬぐい、くしゃくしゃになりながらポケットから鏡を取り出した。
 それは英国人の祖母が、里帰りしたときにおみやげにと亜衣に買ってきてくれた「アンティーク風の鏡」だ。
 しかし、恐怖におののく子供には、何よりも美しく神聖な鏡にみえていた。
 熟練した俳優より手慣れた動きで、亜衣が悠也の後ろで曙光の精霊アウロラを召還し、鏡にむかって飛ぶように命じた。
 赤、青、紫、金色、銀色。
 あらゆる光が鏡から放たれる。
 漆黒の地底を照らし出す。
 ここぞとばかりにセバスが悠也の足下からころがりでて、タクトをふるう。
 タクトに合わせて、地底が一斉に合唱しその口を外界にむけて広げて見せた。
 刹那、地底に光のカーテンが差し込んだ。
「うわぁああああ! お、覚えておれ、今回はその友情に免じて逃してやるが、次こそは無いと思え!!」
 喉の奥からわざとらしい悲鳴をあげながら、手を繋ぎあい逃げていく涼と子供達を見ながら悠也は地面に倒れた。
「――これにて一件落着ですな?」
 倒れた悠也の下敷きになって押しつぶされながら、セバスはぎゅう、と目を回した。


■結 Incantato −終話的魔術幻想− ■

 子供達が輪になって野原にいる。
 輪の中心には笑顔の涼だ。
「上手くいくといいなぁ」
 亜衣がポニーテールを跳ねさせながら、つま先だって遠くから子供達を見ていった。
「これでクラスメートに溶け込めると良いんだけど」
 微笑みを浮かべながら冴那が言った。笑顔を作るのが苦手な彼女にしては会心の出来だ。
「あとは運を天にまかせるのみですね」
 魔笛を手に悠也が肩をすくめると、亜衣は素早くウィンクしてみせる。
「結果オーライ☆ きっとうまく行きます」
「じゃあ、これは俺からのおまけです」
 と、悠也は魔笛をゆっくりと唇にあてた。
 日暮れの暖かい朱色の光が野原を満たす。
 その中に柔らかい笛の旋律が流れ出す。
 高く、低く、ゆるやかに、時に強く、そしてささやくように静かに。
 誰も聞いたことのない、けれど懐かしさを覚える魔曲が夕暮れの野原に静かに流れ出す。
「ほう」
 嘆息をもらし、セバスはタクトを取り出してリズムを取り始める。
 刹那。
 木々がざわめく。
 悠也の笛の音に合わせるように、自然のドラムのがさわさわとうちならされる。
 緑色のふきの葉陰から、三角帽子を被った大地の精霊ノームがあらわれ、光をまき散らしながら輪になって踊り始める。
 まだ固かった山桜のつぼみがほころび出す。野原の隅で菜の花が金の花弁をゆらしはじめる。
 一面の菜の花。一面の桜。空には春の星座。
 風が旋律を運んで天の高みまで上っていく。
 天使も悪魔も人間もない、高い高い空の上へ。
 それはまさしくIncantato――魔術的な協奏曲だった。 
「きれい」
 亜衣がつぶやく。
 音は、旋律は、音楽は耳を傾ける者全てに平等に訪れ、心を揺さぶっていく。
「さあ、お次はこれですぞ」
 シルクハットからピクニックシートをとりだし、地面に広げる。
 息をつかせるまもなく、セバスは再びシルクハットに手を突っ込み重箱をひっぱりだす。
 好奇心に眼を輝かせながら亜衣が重箱のふたをあける。
 卵焼き、唐揚げ、たこさんウィンナー、煮物に、くりきんとん。
 歓声をあげる亜衣をよそにシルクハットからは、次々にいろんな食べ物が取り出される。
 コーヒー、紅茶、日本酒にシャンペンに黒ビール!
 そして最後に、やたらと古びたタバコのパイプを取り出すと、セバスは指先に蒼い炎を灯しパイプを口にくわえると、子供がシャボン玉を飛ばすように頬を大きく膨らませ、息をパイプに吹き込んだ。
 とたんに薄いガラスが砕かれるような小さな音が鳴り響き、透明な光の珠……否、鏡で出来たシャボン玉が一斉に空中へ飛び出した。
 シャボン玉は花だらけの風景を映し出しながら、はじけることなくそのまま春風に漂い始める。
 悠也が魔曲の最後の音を夜空に放った瞬間、三つの……しかし、満員のオペラ座の観客よりなお大きな感動を込めた拍手が鳴り響いた。
「もう落とさないでね☆」
 悠也から神妙な手つきで「ハーメルンの魔笛」を受けとり、いそいそと風呂敷にしまい込むセバスに向かい亜衣がいった。
「ええ、まったくです」
 予期せぬ早春の花見に微笑みを交わす亜衣、悠也、冴那に向かって、中世の騎士じみたお辞儀をしてみせる。
「ハーメルンの魔笛は二度と無くしませぬ」
「魔笛「は」?」
 箸で卵焼きをつまんでいた悠也はそれを取り落としながら、セバスの言葉を繰り返す。
 日本酒に口を付けようとしていた冴那は動きをとめ、亜衣はアイスクリームに銀のスプーンを突き立てる動作のまま凍り付いていた。
「ええ、ハーメルンの魔笛は戻ってきましたが。落とした魔楽器はまだまだありますからな! 平家の霊を全て呼び集めて使役する「リュート・オブ・ミミナシ」に、大陸を揺らす地震を起こす「ベヒモスホーン」。ああ龍を呼ぶ「バハムート・トランペット」や全ての災厄を呼ぶ「パンドラ・ドラム」も忘れちゃいけません。…………あのぉ、み、みなさんどうかされましたか? あ、お花見がすんだらもちろん次の楽器を一緒に探してくれるんですよね……。れ、レイディ亜衣。その振りかざしたほうきはなんですか? レイディ冴那。そのどこからともなく呼び寄せたアナコンダさんは、お花見友達ですよね。 あ、あの、サー悠也。あなたは紳士だからひどい事なんて……ひどい事なんて……するんですねぇ!」
 春空に不似合いな悪魔の絶叫が響く。
「ママン! ママン! みんながボクをいじめるよぉぉおおおおおおおおお」
 それがこの事件の終幕であった。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0368 氷無月・亜衣(ひなづき・あい) 女 17  魔女(高校生)】
【0164 斎・悠也(いつき・ゆうや) 男 21 大学生・バイトでホスト】
【0376 巳主神・冴那(みすがみ・さえな) 女 600 ペットショップオーナー】

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■         ライター通信          ■
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 野望はOMCライター1のイロモノ師! の立神勇樹(たつかみ・いさぎ)です。長くお待たせして申し訳ありません。
 さて、今回の事件は「個別3シーン・共通3シーン」の計6シーン構成になっております。
 それぞれ「原稿用紙で43枚〜46枚のパラレル構成」になっております。
「なぜこのキャラが、こういう情報をもってこれたのかな?」と思われた方は、他の方の調査ファイルを見てみると、違う角度から事件の本当の姿が見えてくるかもしれません。
もしこの調査ファイルを呼んで「この能力はこういう演出がいい」とか「こういう過去があるって設定、今度やってみたいな」と思われた方は、テラコンから、メールで教えてくださると嬉しいです。

 初めまして巳主神冴那さん。
 今回は立神のシナリオに参加していただきありがとうございました。
 ポイントである「山で消えた子供」にプレイングが絡んでなかったため、他の方に比べてちょっと出番が少なくなってしまいました。
 他のライターに比べてキャラクターが明るいというか、ノリが良くしておりますが。如何でしたでしょうか(汗・やや心配)

あなたと私で、ここではない、別の世界をじっくり冒険できたらいいな、と思ってます。