コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


少年受難
●オープニング【0】
 いつものインターネットカフェ。見知った仲間と談笑していると、小柄で可愛らしい学生服姿の少年が、店の隅の席で元気なくうつむいているのが目に入った。近くの高校の制服だ。
 しばらく仲間と会話を続けていたが、どうにも少年の様子が気になる。そこで思い切って少年の席へ行くことにした。どうして元気がないのか尋ねるために。
 少年、青葉かなた(あおば・かなた)は突然現れた者たちに少し怯えた表情を見せながらも、その理由をぽつぽつと話し出した。
 何でもここ最近、妙なことが頻発しているらしい。教室でクラスの可愛い女子と話していると突然蛍光燈が割れたり、街で綺麗なお姉さんに道を尋ねられるとどこからともなく空缶が飛んできたり、その他色々。どうしてそうなるのか原因が分からず、悩んでいたのだ。
 そこに待ち合わせをしていたのか、1人の背の高い少女が姿を見せた。かなたと同じ高校の制服姿だ。
 少女の名は山辺かのん(やまべ・かのん)、かなたの彼女だという。はきはきと物を言うかのんに対し、優柔不断の気が見られるかなた。どうもかなたが気後れしてる気がする。
 ……おや? 何だか、かのんがこちらを睨んでないか?

●針のむしろ【1B】
 ネットカフェからそう離れていない場所にある喫茶店『スノーミスト』。一同はネットカフェからここへ移ってきていた。
 かなたの居るテーブルには雪ノ下正風、寒河江深雪、王鈴花の3人が座っている。一方かのんの居るテーブルには、榊杜夏生と志神みかね、そして世羅・フロウライトの姿があった。2つのテーブルは、近すぎず遠すぎずの位置にあった。
 夏生がじっとかのんを見つめていた。当然かのんもその視線に気付いており、夏生を見つめ返している。いや、睨んでいると言った方が正確かもしれない。
(空気が悪い)
 世羅が心の中でつぶやいた。別に店内の空気が汚れている訳ではない。このテーブルの空気が、妙に張り詰めていたのだ。それはまだ会話らしい会話をしていないせいもあったかもしれないが。
「私と同じことができる人を見たの初めてだから……色々お話とかしたいです」
 にっこり微笑み、みかねがかのんに話しかけた。みかねには、かなたの周辺で起こっている現象について、ある確信を抱いていた。それゆえにこう話しかけたのだが――。
「……何のことですか」
 むすっとした表情のまま、かのんが答えた。そして夏生から視線を外し、今度はみかねをじろじろと見つめ出す。
「あの……何か?」
 きょとんとするみかね。緑の瞳が瞬きに見え隠れしていた。
「小柄……」
 かのんがぼそっとつぶやいた。確かにみかねの身体は小柄である。同じく夏生もそうだ。しかしそれがどうしたというのだろうか。
(何だかなあ……)
 夏生はチョコパフェをスプーンで掬うと、口へと運んだ。少し苦めのチョコの味が口の中へ広がる。
 喫茶店へ移動する前に、夏生はかなたにこっそり尋ねていた。『彼女は本当の彼女なの?』と。かなたはそれに小さく頷いていた。
(本当の恋人同士なのに、何だかなあ……この反応)
 再度心の中でつぶやく夏生。何故こうもかのんの反応が刺々しいのだろうか。焼きもちも焼きもち、それも過度のだ。
 世羅がかのんの肩に触れた。びくっと身を固くするかのんに、世羅は表情を変えることなく説明した。
「糸くずがついてただけだよ」
 そう言うと世羅はやや冷めた紅茶を口に運んだ。
(……なるほど)
 今かのんに触れた瞬間、世羅は自らの能力でかのんの思考を読み取っていた。そこから読み取れたのは『不安』、その感情だった。
(この嫉妬心は不安から来ているんだな)
 推測する世羅。不安だからこそ、かなたに近付く女性に嫉妬してしまう。だから反応が刺々しくなる、そういうことだろう。
 だとすれば、これを一番解決できるのはかなたのはずなのだが――。
(何で、かなたはああも頼りないんだ?)
 向こうのテーブルに視線をやる世羅。かなたはちょうど深雪に何か言われ、顔を赤くしてうつむいている所だった。
 かなたを見ていて、世羅は何とも言えない苛立ちを感じていた。かなたから感じられる優柔不断さが、その原因かもしれない。
 かのんが深雪と話しているかなたの姿を見つめ、眉をひそめていた。それに気付いたみかねが、慌ててかのんに話しかけた。
「お友達の多いかのんさんの彼氏って、素敵ですね♪」
 羨ましそうに言うみかね。かのんがみかねの方を向いた。表情が若干和らいでいた。
「ありがとう。でも、素敵だから……」
 かのんはそう言い、目を伏せた。その瞳には不安の色が浮かんでいた。

●狙われた鈴花【2B】
 不意にガチャン、とグラス同士がぶつかる音がした。見ると手か肘でもぶつけたのか、かなたが自分のグラスを倒していた。テーブルの上は水と氷がぶちまけられていた。
「ああ……っ!」
 慌てて紙ナプキンを取ろうとするかなた。その手が、同じく紙ナプキンを取ろうとした鈴花の手に触れた。
 その瞬間だった。グラスからこぼれていた氷がふわりと浮き上がったかと思うと、鈴花目掛けて飛んでいったのは。
(危ない!)
 みかねは即座に自らの能力『念動力』を発動させた。氷は角度をぐいっと変えて、鈴花の頬をかすめそうになっただけで済んだ。
「きゃぁっ!」
「鈴花!」
 悲鳴を上げる鈴花。世羅は咄嗟に席を立ち、鈴花に駆け寄り気遣った。
「大丈夫かい、鈴花!」
「う、うん……お兄ちゃん。鈴花、少し驚いちゃっただけだから……」
 夏生とみかねが驚いてかのんを見た。かのんは唇を閉じて、かなたの方を見つめていた。
(今のはひょっとして……)
 深雪も無意識にかのんに視線をやっていた。氷が飛んでくる直前にあったことといえば、かなたと鈴花の手が触れ合ったくらいだ。とすると……?
(うん?)
 正風は今の現象を目の当たりにし、妙なことに気が付いた。
「……おい。今みたいな現象が起こった時、狙われたのは誰なんだ?」
 疑問をぶつけてみる正風。かなたはテーブルを拭く手を止め答えた。
「え……? あの、その、話している相手が……」
「とすると、女性だな?」
 正風の言葉に、かなたが頷く。
「あのぉ……古い映画で、こういうのってありませんでした?」
 小声で深雪が正風に言った。
「ああ。俺も今それを思ってた」
 今2人が言っているのは興奮すると超能力を発動する思春期の少女の物語のことだ。それを今回の事件に当てはめるのならば、誰に原因があるのかは自ずと分かる。
 いつしか皆の視線が、かのんへと集中していた。

●感情爆発【3B】
「…………?」
 皆の視線に気付き、表情を強張らせるかのん。
「今回の事件の犯人、あたし分かったわ」
 おもむろに立ち上がり、夏生が口を開いた。
「犯人は……キミよ!」
 どこぞの推理漫画のように、犯人をびしっと指差す夏生。さすがはミステリー同好会所属である。ポーズが決まっている。
「……私?」
 かのんがぽつりと言った。夏生を疑いの眼差しで見ている。
「そう。彼に近付く女の子たちに嫉妬したキミの犯行。そう考えると辻褄が合うから」
 夏生は周囲を見回した。そして目で他の皆に合図した。『話を合わせて』と。それにいち早く反応したのは、鈴花を抱き締めていた世羅だった。
「そうか、かのんが犯人なんだ。言っておくけど……鈴花にかすり傷1つでもつけていたら、ただじゃおかない所だったよ」
 そう言いかのんを睨み付ける世羅。冷静な口調が逆に怖かった。
「違いますっ! 私は何もしていません!」
 ガタンと椅子から立ち上がり、反論するかのん。
「かのんちゃん……それ、本当なの?」
 かなたが戸惑いの目をかのんに向けていた。
「かのんちゃんが……?」
「ちが……違う! 私じゃ……私じゃないっ! 私じゃないっ!!」
 かのんが激しく頭を振った。すると、テーブルの上にあったグラスが、一斉にふわっと浮き上がった。
「危ない!!」
 みかねが叫ぶと同時に、グラスが皆に向かって飛んできた。みかねは再度自らの能力で防ごうと試みた。
 みかねを狙ったグラスは、みかねの直前で急激に床へ落下した。夏生を狙ったグラスは、ぎりぎりの所で夏生が避けていた。
 鈴花を庇っていた世羅を狙った2つのグラスは、直前で大きく方向を変えて、明後日の方角へ飛んでいった。だがそこまでが今のみかねの限界だった。
(駄目、間に合わない!)
 正風と深雪の方まで手が回らなかったのだ。しかし正風は自らを狙ったグラスを叩き落とすと、すぐさま深雪を狙っていたグラスを発剄で弾き飛ばした。
 とどのつまり、グラスが当たり怪我をした者は誰も居なかった。
「……あ……」
 かのんは今の光景を目の当たりにし、しばし呆然としていた。
「見事なまでの怪奇現象だ……いや、超能力か?」
 小さく息を吐き、正風はかのんに視線をやった。
「私……私……っ!」
 皆に背を向け、かのんが椅子を倒してこの場を逃げ出した。
「かのんちゃん!」
 かなたが呼び止めたが、かのんはそれを無視して店を飛び出していった。
「何してるの、追わなきゃ! 本当に彼女が好きなら、今追わなきゃ駄目!」
 夏生がかなたに発破をかけた。
「優柔不断もいい加減にしないとね」
 世羅がかなたの背中を押した。かなたは何かを決心した顔付きになると、かのんの後を追って店を出ていった。
 残された6人も2人の後を追った。

●本当だよ【4B】
 2人の姿は、そう遠くない場所で案外早く見つかった。
「かのんちゃん、待って!」
 逃げるかのんを追うかなた。かのんはそれを振り切って、なおも逃げようとする。そしてかのんが道路を横切ろうとした時、角から突然車が飛び出してきた。かのんの足が止まった――。
「かのんちゃん!!」
 かなたがかのんを助けるべく、道路へ飛び出してゆく。鈴花が思わず目を覆った。
(お願い、間に合って!)
 みかねが全神経を集中させ、車に能力をぶつけた。その瞬間、急に車のボンネットが開き、黒い煙を吹き出して止まった。2人の2メートル弱手前の場所で。
 皆が胸を撫で下ろす中、かなたがかのんを連れて戻ってきた。
「かのんちゃん……何で逃げたの?」
 優しく問いかけるかなただったが、かのんは涙を浮かべてなかなか答えようとしなかった。
「もうっ、じれったい! こうなったらはっきりさせましょう! かなた君にかのんさんのことをどう思ってるか聞くんです!」
 業を煮やしたみかねが2人に言い放った。
「かのんさんは背も高いしかっこいいんですから……」
 みかねがそこまで言った時、かのんがふるふると首を横に振った。
「……違う。背が高くない方がよかったもの……」
「え?」
 意外な言葉に、みかねは耳を疑った。
「背が高いから可愛くないし……かなたくんにお似合いなのは、本当は私なんかじゃないんじゃないかって……不安で不安で……」
 話し出すと同時に、かのんの瞳からぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。どうやら、かのんは自らのスタイルにコンプレックスを抱いているようだった。
「かのんちゃん……それは僕も一緒だよ」
「……え……」
「僕だって、小柄で……本当に僕なんかでいいのかなって思ってて。だから……なかなかきちんと言えなかったけど……」
 かなたは大きく深呼吸し、続きの言葉を口にした。
「僕はかのんちゃんが大好きだよ。本当に……心の底から。……本当だよ」
 かなたは顔を真っ赤にしていた。
「あ……」
 かのんは両手で口元を覆い、何も言わなかった。いや、言えなかったのだ。かのんの両頬には、涙が伝っていた。

●名指しした理由【5B】
「あの。どうして夏生さん、さっきはかのんさんを犯人だなんて……?」
 喫茶店へ戻る道すがら、みかねがかのんに尋ねた。いったい何を根拠にしてあんなことを言ったのか、それが疑問だったのだ。
「彼の話と彼女を見ていて何となく、かな? 焼きもちを焼いてるようだから、何かあるんじゃないかと思ってて。だからあの時、ああ言ってみたんだけど……上手くいったのかな?」
「犯人を見つけようとしてたんですか?」
「まさかぁ。犯人よりも原因の究明だよ。それにあたしがああ言った時……彼が本当に彼女を好きだったら、救おうとするでしょ? ちょっと予定は狂っちゃったけど、結果オーライだよね♪」
「そうですね」
 笑顔を見せた夏生につられ、みかねもくすっと微笑んだ。

【少年受難 了】


□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0249 / 志神・みかね(しがみ・みかね)
                    / 女 / 15 / 学生 】
【 0140 / 世羅・フロウライト(せら・ふろうらいと)
                   / 男 / 14 / 留学生 】
【 0017 / 榊杜・夏生(さかきもり・なつき)
                   / 女 / 16 / 高校生 】
【 0391 / 雪ノ下・正風(ゆきのした・まさかぜ)
                / 男 / 22 / オカルト作家 】
【 0142 / 王・鈴花(うぉん・りんふぁ)
        / 女 / 9 / 小学生(留学生)。たまに占い師 】
【 0174 / 寒河江・深雪(さがえ・みゆき)
     / 女 / 22 / アナウンサー(お天気レポート担当) 】


□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全11場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・という訳で、皆さんの助けもあり事件は無事に解決しました。ちなみに、かのんは能力のことには全く気付いていませんでしたし、恐らく今もまだ信じていないことでしょう。え、かのんの能力はなくなったのかって? さあ……それは謎のままですね。
・かのんの反応についても、かなたの態度についても、各々理由はありました。それは本文を読んでいただければ分かりますよね?
・殺伐とした依頼を出し続けていると、時折このような依頼を出してみたくなります。この辺の話も、突いてゆくとまた違った意味で面白いんですけれどね。
・依頼傾向が『戦闘:1/推理:2/心霊:3/危険度:3/ほのぼの:4/コメディ:3/恋愛:5』となっていた理由、本文を読んでいただけた後なら納得はゆきますよね? まあ、コメディに関しては、1段階下げた方が正確だったのかもしれませんが。
・志神みかねさん、読みはかなり鋭かったと思いますが、かのん自身がそれに気付いていたかはまた別の問題でした。残念。ですが、自分の能力で押さえようとしたのはよかったと思いますよ。いいプレイングだと思いました。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。