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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


10都市物語「新宿都庁」〜地裂陣〜

<オープニング>

「あの方のご様子はいかがだ?」
「快適にお過ごしのようです」
「そうか。ではこちらにお連れしてくれ」
「はい」
「少し手伝ってもらうことになるかもしれないな」

「都庁が沈む!?」
 草間が素っ頓狂な声を上げた。
「ええ、都庁のあたりの地盤が突然緩んで地盤沈下を起こしているの」
 そう告げるのはなんと新山綾。彼女が今回の依頼人であったりする。
「あそこの地盤、そんなにゆるかったか?」
「そんなはずないわ。都庁のあたりの道なんかに亀裂が入り始めたのはつい先日よ」
「ったく、ようやく七条の件が終了したと思ったらこれか?」
 草間の言葉に、
「それなんだけど、どうも腑に落ちないのよね。なんかこれで終った気がしないのよ・・・。とにかくこの地盤沈下の調査をしてもらえないかしら?日を負うごとに地盤の緩みが激しくなっていつ都庁が崩れ落ちてもおかしくないくらいになっているの。地質学者に調査させても何の解決にもならなかった。恐らく自然現象ではなく人為的なものなんでしょうね。都庁全体をおかしな気が覆っているような感じがするの」
 そう語る綾の顔には不安の色がにじみ出ているのだった。

(ライターより)

 難易度 普通

 締め切り予定日 3/11 24:00

 お久しぶりの10都市物語となります。
 今回の舞台は新宿の都庁。
 あの訳のわからないほどゴージャスな都庁が崩れ去ろうとしています。都民の血税の結晶都庁の崩壊を食い止めるのが依頼内容です。
 今回の敵ももちろん一聖九君なのですが、敵はそれだけではないかもしれません。難易度は普通ですがくれぐれも油断されないようお気をつけ下さい。

<会談開始>

 帝国ホテル。
 東京千代田区の一等地に立つこのホテルは、明治20年、時の外務大臣井上馨が海外に要人を迎える為、渋沢栄一、益子孝、大倉喜八郎らに諮り設立された、まさに超一流の名を関するに相応しいホテルである。
 本館は地上17階、地下3階696の客室、それとは別に立つインペリアルタワーは地上31階、地下4階客室361室を誇る。その本館の二階、フランス料理のレストラン「レ セゾン」は南洋をイメージした内装で南洋独特の樹が植えられ独特の雰囲気を醸し出している。ここの一席で一人の男が葡萄酒の酩酊
を楽しんでいた。身長2M近くの堂々たる体躯を真紅のスーツに包んだ40代半ばくらいの、魅力的な風貌をした男である。後ろに撫で付けられたロマンスグレーの髪にサファイアの輝きを宿す瞳。その視線がボーイに案内されながらこちらに歩いてくる和服姿の男に向けられた。
 紫の上質な着物を纏い、こちらも席に座ってる男同様に大柄な体付きをしている。漆黒の髪に漆黒の瞳という純日本人風のその容貌は皺が幾分刻まれ男に威厳を与えている。
「いやいや、わざわざおよび立てしてしまいまして申し訳ありませんでしたな。七条様」
 真紅のスーツの男が席を立ち、挨拶をする。七条と呼ばれた男は軽く手を上げてそれに答える。
「こちらこそ世話になっているというのに申し訳なく感じている。それなのにこのようなもてなし痛み入る。しかし、何ゆえ私をこんなに厚遇するのだ?」
 七条の問いに、男は顔に満面の笑みを浮かべて答えた。
「七条様は私どもの大切なお客様ですからな。そのように畏まられてはこちらが困ってしまいます。これでもまだ後不足ではないかと思っております次第で・・・」
「とんでもない。心づくしのもてなしに一族一同感謝の言葉もないくらいだ。社長」
「おお、そう言っていただければなによりです。ささ、まずは葡萄酒でも・・・」
 社長に指示を受けて、隣にたつボーイが七条のグラスに紅い葡萄酒を注いだ。血のように紅いそれがグラスに満たされる。
 七条と社長はともにグラスを持った。
「まずは乾杯と参りましょう」
「何に乾杯する?」
「そうですな・・・。七条家再興にというのは?」
 七条はその言葉にニヤリと笑った。
「そして会社との新たなる関係に・・・」
「「乾杯」」

<闇の宴>

 新宿都庁近くの裏路地。暗く空気が澱んだその場所で、数人の男が倒れ付していた。皆、恐怖に顔を歪めて絶命している。首筋には、噛み付かれたのであろうか二つの穴が開いていた。
 その近くでは、一人の女が男の首筋に顔を埋めていた。いや、違う。女は首筋に牙を突き立てて血を吸っているのである。
「う〜ん、中華風♪」
 血を吸い尽くした男を道に放り捨てると、女はゆっくりと立ち上がった。この路地を覆う闇よりなお濃い黒き髪。同じように夜を体現したかのような黒い服を纏った女だった。その表情
はたった今吸った血のお陰で活き活き輝いている。だが、何よ
りも魅力的なその瞳。闇の中でも輝きを失わない紅蓮のルビー
。鮮やかなルージュが施された薔薇の唇が邪な快楽を感じて歪
む。
「いまいち美形はいなかったけど、味はまぁまぁだったね。僕に・・・するほどもないかなぁ」
 今、自分の糧となった男どもを一瞥する女。彼女こそ、六世紀に渡り人の生き血を啜り存在し続ける吸血鬼、秋津遼である。今回は彼女お気に入りの陰陽師たちが都庁の事件に関わるという情報を得て意気揚揚とこの場に訪れたのである。
「やっぱり一仕事する前には食事を取らないとね」
 しかし、この程度の食事は彼女にとって前菜でしかない。メインディッシュは都庁にある。
「さ〜て、待っててよ可愛いぼうやたち♪」
「見つけたぞ!吸血鬼!」
 裏路地に声が響き渡った。その声の方に視線を向けてみれば精悍な顔つきをした一人の青年が立っていた。背の高い、がっしりとした体つきのその青年は、秋津が振り向くと油断なく構えをとった。武術に必要な三要素「撃つ、払う、蹴る」の動作を特化させたその構えは、空手とも、他の武術のどの流派にも属さない独特なものだった。
「ここで会ったが100年目。貴様を狩らせてもらう」
 だが、秋津はというと呆れ顔で青年を見つめる。
「誰?キミ?」
「俺の顔を忘れたとは言わさんぞ、吸血鬼!」
「いや、忘れたも知らないって・・・。流石に500年生きてると誰々だか分からなくなってくるね・・・」
 吸血鬼独特の感性によるその台詞は、だがしかし男に何の感銘も与えなかった。
「どこまでもとぼける気か・・・。俺の名は時宮誠!これでも思い出さないか!?」
「時宮君・・・?知らないねぇ。それにキミ、私の好みの顔じゃないんだよね。さっさと帰ってくれる?」
「それで、はい、そうですかと素直に帰ると思うか?」
 時宮の答えに秋津はやれやれと首を振った。
「これから私は楽しい用事があるの。だからキミなんかに構っている暇はないわけ。分かる?それでもあくまで邪魔するというのなら容赦しないよ?」
「望むところだ。いくぞ!」
 言うが早いか、気をねりこんだ蹴りを繰り出す時宮。だが、その攻撃は秋津に届かなかった。先ほど秋津に血を吸われた死体がむっくりと起き上がり彼の足にしがみついたからだ。
「な!?」
「だから言ったでしょ。キミなんかに構っている暇は無いって。御姉様はこれから仕事で忙しいの。ぼうやは死体とでも遊んでなさいな」
 次々と死体が起き上がり時宮と取り囲んだ。秋津は残虐な愉悦にその瞳を輝かせ命じる。
「遊んで差し上げろ!」
「待て!貴様・・・ちぃ!」
 派手に肉体が蹴られたり、殴られたりする音を聞きながら悠然と秋津はその場を立ち去るのだった。自分を待っている可愛い陰陽師たちに会いに行く為・・・。 
 
<復讐のハンター>

 数分後、秋津が使役していた死体どもを片付けると時宮はため息をついて口元を拭った。既に秋津の姿は消えている。雑魚である筈の僕相手にかなりてこずってしまった。
「くそ、逃げられたか・・・」
 くやしそうにそうつぶやく時宮。ようやく怨敵である吸血鬼の情報を掴み、その存在を見つけながら目前で逃がしてしまうとは・・・。だが、まだ遠くには行っていない筈。彼はもう一つの能力である霊感察知能力を使用して秋津の居場所を探る。
「逃がしはしない・・・。奴だけは、吸血鬼だけは」
 時宮は5年前まで単なる一般人に過ぎなかった。だが、裏に吸血鬼が居たとされるネットHPに関わる異常事件に巻き込まれ、恋人と親友を目の前で陵辱された挙げ句、虐殺されたその時、彼は復讐を誓った。
 その後、修行を重ねた彼は特化拳法心流を身に付けフリーの吸血鬼ハンターとなった。復讐に燃え吸血鬼以外の怪異も退治する彼は、成功率百パーセントという脅威の伝説を築くにいたった。
「む?あそこか・・・」
 時宮の能力が捕らえた場所。それは草間興信所で聞いた依頼現場、都庁であった。
「なるほど、奴もあそこに用があるのか。いや、奴こそが元凶なのかもしれんな」
宿敵吸血鬼。それは人に仇なす呪われし存在。無限の生命を誇り、人々を絶望の深遠へと引きずり込む不死者の王。何としても滅ぼさなければならない。
 時宮は、怨敵を求めて都庁へと向かうのであった。

<張り巡らされる陰謀>

 前菜であるトゥルトー蟹とブルターニュ産オマール海老のガレット仕立てレムラードソースとセブリューガキャヴィア添えにフォークをつき刺しながら社長が口を開いた。
「戦力面に関してですが、現状建て直しを急いでおりますが何分時間がかかりまして・・・」
「かまわん。あれだけ派手にやられたのだ。時間がかかるのも当然だろう」
「そこで、少数でもできる破壊工作を行うことで揺さ振ってみるのはいかがかと思うのですが」
「ほう?」
 七条が興味深げに話を促した。
「それは、テロでも行うということか?」
「まぁ、近いようなものですが、ごく少人数で行います。そうですな、今回は二人で都庁を崩させようという計画を行わせています」
「二人だけだと!?」
 七条は驚きの声を上げた。あの巨大な都庁を崩すというのか。しかもたったの二人で。
「はい。今のところ成功しているようです。後一息で都庁は跡形も無く崩れ去るでしょう。あの国のように・・・」
「なるほど。例の地盤沈下はお前たちの仕業か」
「左様で・・・」
 社長は葡萄酒を口に流し込んだ。
「ただ、例の邪魔者たちが来ると話が変わりますな」
「あの術師どもか!」
 七条は怒りをこめてはき捨てた。己が理想を挫き、このような状況に追い込まれる原因となった者ども。あの者どもさえいなければ事態はもっとスムーズに進んでいただろう。思い出すだけで腸が煮え繰り返る気分にさせてくれる存在だ。
「奴らを殺すためなら幾らでも手伝うぞ」
「おお、有難うございます。実は数の面で多少不安がありましてな。例の術師どもに対する対策が手薄だったのですが・・・。では数人、そちらの術師を派遣してはいただけないでしょうか?」
「良かろう。連中の行動を阻止するというのであれば喜んで協力しよう」
「有難うございます」

<東京都庁>

 都庁は新宿駅南口方面に存在する庁舎である。第一本庁舎高さ243m、地上48階地下3階、第二本庁舎高さ163m、地上34階地下3階、都議会議事堂高さ41m 地上7階地下1階、 敷地面積約42,940平方メートル、建築物面積約27,500平方メートル、延床約381,000平方メートルという、訳もわからなく巨大なこの3つの建物こそが都庁となる。
 今回の依頼で地盤沈下が起きているとされるのはこの第一庁舎である。パッと一目ではわからないが、よく見ると建物の下の部分に亀裂が入り、少し傾いている。
 草間興信所で依頼を受けた7人はこの場所に集まっていた。
「確かに澱んだ気を感じるねぇ」
 なんとなく気が抜けたやる気のない言い方で話すのは、男物の黒いスーツをだらしなく着る女性であった。ぼさぼさの髪に気の抜けた服装。探偵にして陰陽師である鷲見千白である。
「建物全体が覆われてる・・・。外からの解除は無理かな」
「多分無理だろうな。内部にいる元凶をつぶさない限り何度でもこれは繰り返されるだろう」
 鷲見にそう答えたのは黒いスーツを着た長身の男。同じく陰陽師である久我直親である。
「内部に入って本体を叩けということか・・・。だが敵はどこにいるんだ」
「手分けして探すしかないかもしれませんね。戦力が分散されるのは避けたいのですが、致し方がないでしょう」
 そう言って頷きあうのは、陰陽師の名家天宮家の跡取り雨宮薫とその守役である雨宮隼人。
「ここは手分けして探すのがいいと思います」
「じゃあ、俺は上いくわ。万が一崩れても空飛べるし」
「ふ〜ん。じゃあ、私も上に行こうかな。崩れたら私を背負って飛ぶんだよ」
「冗談!千白なんて乗せて飛んだらすぐに落っこちまう」
「言ったね。そんなこと言うんなら意地でも乗ってやるんだから」
 学ランを着た高校生らしき少年直弘榎真はそう言って鷲見とああだこうだと言い合いをする。周囲は二人のやり取りに笑った。
「恐らく敵の出現ポイントと考えられるのは、一番上か下だろう。上は北と南に展望台が、下は地下三階まである。これらを手分けして調査するべきだろう」
「じゃあ、私は北を」
「俺は南に行く」
「地下だな」
「待ってください!」
 突然の大声に6人の視線が一人の少女の元に集まる。だが、一番驚いているのはその少女で全員の視線が集まったことにビクリと反応した。
「どうした?」
「あ、あの、その・・・」
「どうした。はっきり言え」
 腕を組んで黒づくめの格好をした男が不満そうにそういった。医学生であり暗殺者でもある紫月夾の詰問に近い言い方に(勿論、本人は普通に言っているつもりである)少女は泣き出しそうになってしまった。
「え、ええと、だから・・・」
「夾君。そんな言い方をしたら怯えちゃうじゃないか。女の子にはもっと優しく接しなさい」
「ふん」
「ほら、どうしたの?言ってごらん」
 鷲見に優しく促され、少女神崎美桜はようやく話始めた。糸のように細く腰まである綺麗なストレートの髪に、エメラルドを思わせる翠の瞳をもつ華奢な少女である。儚く美しい胡蝶というような感じを受ける。
「私、人の心とか感情が心が分かるんですけど、さっきから調べていたら北の展望台と、一番下の地下の辺りからすごく嫌な感情を感じるんです。その、なんていうか暗くて重々しくて自分まで胸が重くなってしまうような、ざらついた気持ち・・・。南は何も感じません。多分誰もいないんじゃないでしょうか」
「なるほど。では北と地下、二手に分かれればいいか」
 神埼の言葉に従って、7人は北と地下のどちらかのチームに入るかを相談し決めた。
「都庁内部の調査は鷲見達に任せ、俺は久我と共に地下の調査を行うことにしよう。敵に関しては一聖九君のみが現れるならばまだいいが、他にも敵が現れる可能性も否定できん。魎華や不人、それに王天君を連れ去った黄金の光…一体何者の仕業なのか気になるところだがな」
「悩んでも仕方ねぇだろ。とにかく行くだけ行って、出てきた奴をぶちのめす!それでいいんじゃねぇの?」
「とことん、お気楽な奴だな・・・。その能天気さが羨ましい」
「夾、お前俺の事思い切り馬鹿にしてるだろ!?」
「ふっ、それくらいは分かるか?」
「てめぇ!」
 いつも通りのパターンで言い合いを始める二人を見ながら、神崎はポツリと漏らした。
「私は地下に降りてみます・・・。なんだか地下の方が嫌な気持ちが強いみたい・・・」

<拷問>

「いいかげん話してくれませんか?」
地下駐車場で明るい声が響き渡った。声の主はにこやかな笑顔をした美青年と言っていい顔つきの青年である。クセのないさらさらの髪に、優しそうな瞳をしている眼鏡をかけている。ついでに某有名大学の医学生で実家は大きな病院を経営していると言ったら振り向かない女性はいないだろう。おまけに高身長。結婚相手にこれほど最適な人間がいようか。彼の名は桜井翔という。
 彼は、自分でバイトして貯めたお金で買ったバイクZZ−R1200で現場に向かっていたのだが、若干到着が遅れてしまった。急いでバイクを止めて、集合場所である都庁前に行こうとしたところ、黒づくめの怪しい男が駐車場の柱などに符を貼っているのを見かけたのである。例の事件に関係しているのではないかと思って問い質したところ、いきなり襲いかかってきたため、衝撃波を食らわせおまけに重力波で抑えつけて動けなくさせたのである。
「ぐうぅ。誰が・・・」
ゴキッ。鈍い骨が折れる音がした。黒づくめの片腕があらぬ方向に曲がっている。
「大丈夫ですか?話ぐらいできますよね」
相変らず笑みを絶やさずに問う桜井。はっきり言ってかなり恐い。
「ぐわぁぁぁ」
ボキッ。次は片足が折れ曲がる。
「早く答えてくださいよ。遅刻しちゃったんですから」
桜井はにこにこ笑顔でさらに問う。ひたすら恐い。
「ぎゃああああ!」
グギャッ。嫌な音を立てて片足の足首が砕けた。
「どうですか?そろそろ話してくれませんかね?」
満面の笑顔。だからコワいって。
「わ、分かった。話す!話すから勘弁してくれぇぇぇ」
黒づくめの男は涙声でそう懇願した。桜井は最高に晴れやかな笑顔を見せる。だかそれは死神の笑い。壮絶な恐怖を併せ持つ。
「まったく、手間を取らせないで下さい。1分30秒も無駄に時間を使ってしまったじゃないですか。さて、ではここで何をしていたんです?」

<メインディシュ>

「これからの事だが・・・」
 シャラン産仔鴨のロースト春キャベツに包んだフォアグラとアーティチョーク添えにナイフを入れながら、七条は社長に問うた。
「しばらくは派手に動かないほうがいいでしょう。今は戦力を整えるほうが重要です」
 牛ほお肉のドーブ シノンワイン風味フリコ野菜添えを口に運びながら社長はそう答える。
「うむ。だが、我が兵士たちもいい加減鍛えんとな。若いものは身体が鈍っていかん」
 フォアグラの濃厚な味を楽しみつつ、しかめ面で話す七条。
「ならば、訓練場をご用意いたしましょうか?良い場所を存じておりますが・・・」
 野菜をソースにからませながら答える社長。
「おお、それは有り難い。こちらの人間が必要な時はいつでも声をかけてくれ。派遣させよう」
「有難うございます。名高い七条家の陰陽師の方に強力していただければ100人力ですな」
 メインディッシュの皿が片付けられ、フランス産フロマージュの取り合わせが運ばれてきた。
 その時、前々から尋ねようと思っていた事を七条は問うた。
「社長。おぬしの名前を聞けないか?社長だけでは呼びにくくてかなわん」
「これは失礼いたしました。私はヴァルザックと呼んでいただければ結構です」
 社長、ヴァルザックはそう答え白葡萄酒を口に含むのだった。

<地下3階>

 都庁地下3階。そこは一般の車両が駐車することを許されない特殊な場所。
 一階、二階と降りてきて分かったことだが、駐車場の至るところに符が貼られており、駐車場全体が一種の結界となっていたのだ。符とは陰陽師が術を使用するときに用いる呪符とも呼ばれる特殊な紙のことだ。
 地下に下りてきた久我、紫月、神崎の三人はその符を剥がし解呪しなくてはならなかった。
「今までの一聖九君の連中では行われなかった手口だな」
「ああ」
 紫月の言葉に頷く久我。
「奴らは陰陽の術など用いてはこなかった・・・。ということは誰か陰陽師が手を貸しているのかもしれん」
「七条家か・・・」
 紫月は忌々しそうにつぶやいた。七条家。雨宮家と対をなす影の陰陽の一族。先の富士の決戦で七条家は壊滅されるはずだったが、謎の組織「会社」のせいで七条家の者たちはそのほとんどが連れ去られてしまった。現在、内閣調査室などが全力を上げて調査しているがその足取りはつかめていない。
「その、一聖九君というのはどういう方たちなのですか?」
「特殊な異空間に敵を引きずりこみ攻撃をしかけてくる厄介な連中の事だ。敵の情報くらい依頼を受けた後に調べておけ」
 紫月に冷淡にそう答えられ、神崎はすこし寂しそうな顔をした。久我がそれを見てとり肩を叩いてフォローする。
「気にしないでくれ。ああいう奴なんだ」
「いや!」
 だが、神崎はその手を跳ね除けた。
「どうした?気に触ったか」
「す、すみません!私人に触れられるのが苦手で・・・」
 神埼は以前、その特殊な精神関知能力のせいで触れただけで人の心が読めてしまい苦悩していた。現在はもう制御できるようになったので問題ないが、その時のトラウマがまだ無くなっていないため人に触れられることを極端に嫌うようになってしまっている。
「や〜っぱり来てくれたんだね、陰陽師君♪」
 この場に似つかわしくない、明るく弾んだ声が駐車場に響き渡った。コツコツと足音を立てて近づいてくるその人物に久我は見覚えがあった。いや、忘れようにも忘れられない顔だ。
「吸血鬼か・・・」
「ここで待っていれば来てくれるんじゃないかと思っていたんだけど、正解だったみたいだね」
 吸血鬼秋津はそう言うと、憮然としている紫月を尻目に久我の首に腕を絡ます。今回の事件にお気に入りの陰陽師が参加していることを知った秋津は、都庁の澱みがもっとも溜まった場所に久我が現われるのではないかと待ち伏せしていた。そして案の条久我は現場に姿を表した。
「キスの味はどうだった?・・・!」
 妖艶な笑みを浮かべて問う秋津に、いきなり久我は口付けをした。そして、口に含んでいた小さな水晶を口渡しで飲み込ませた。
「邪魔をすれば、蟲に身体の中身を食い破らせる」
 今飲み込ませた水晶には蟲毒に用いる特殊な蟲が入っている。久我が念じるだけで蟲は水晶から開放され腸を食い破る。秋津はニヤリと顔を歪ませた。
「やるじゃないか」
「少しは抵抗しないと面白くないだろう?」
「そうだね。でも・・・」
 ペッと水晶を吐き出し、
「この程度じゃ、私は止められないよ」
「そうこなくてはな」
 その時。
「見つけたぞ、吸血鬼!」
 折角のムードをぶち壊す声が響き渡った。時宮である。
「ああもう、また君!?」
「どんなに逃げようと俺は貴様を見つけ、倒す!」
 秋津の禍禍しい気を感じた時宮はここまでえ追ってきたのだ。武術の構えを取る彼に秋津は心底嫌そうな顔をした。
「だからさぁ、今どういう時かわからない?このいいムードをどうしてぶち壊すかなぁ」
「今は俺が貴様を倒す最良の時ということだ!」
 言葉とともに繰り出された掌を、あっさりと受け流しながらため息をつく秋津。
「はぁ、なんだかなぁ。500年も生きていると敵ばっかり増えるよ」
「よっぽど日頃の行いが悪いようだな」
「ほっといて」
 そんなじゃれあいをしていると、横合いから言葉をかけられた。
「もういいかしら。いい加減痴話げんかを見るのも飽きたわ」
「貴様も関わっていたのか、魎華」
 紫月が苦々しく答えた相手は、金髪の長い髪をもった妖艶な女性だった。一聖九君の事件などで度々その存在が確認されている「会社」の人間と思しき人物。
「ようこそ、地裂陣へ。と言ったところかしら」
「ここが地裂陣?ではあの符の数々は地の気を高める増幅結界と言ったところか・・・」
「ご名答。そして上にいる趙天君が後一撃を加えれば、不安定になっているこの都庁は粉々に崩れ去る」
「ちっ!直弘!」
 紫月は踵を返して階段に向かおうとしたが、物陰から現われた黒づくめの者たちに阻まれた。その数およそ30。彼らは紫月たちを取り囲んだ。
「どこへ行こうっていうのかしら。貴方たちの相手は彼らと私よ」
 黒づくめのものたちの手には符が握られている。
「その符・・・。やはり七条の者か・・・」
 久我のつぶやきには答えず黒づくめのものたちは距離を詰める。一触即発の空気が場を支配した。だが、この空気を破ったのは意外な人物だった。
「何故、こんなことをするの?」      
「何故?可笑しなことを言うのね」
 神埼の問いを嘲笑う魎華。神崎は精神を感応させて魎華の心に直接問い掛けた。
(何故、戦うの?傷つくのは自分なのに・・どうして、わからないの?)
(違うわね。傷つくのは他人よ。私ではないわ。それにこの世は弱肉強食こそが掟。弱者は強者の餌となるべきものよ)
(違う!そんなんじゃない!人は人は・・・)
(残念だけど私は人じゃないのよ。それにいつまでも私の心に触れるものじゃないわ。不愉快ね。消えなさい)。
「きゃあ!」
 強制的に精神接続を切断され、そのショックに驚く神崎。だが、それ以上に恐ろしかったのは魎華の憎しみに満ち溢れる心であった。彼女が地上で感じた心はやはり彼女なのだろう。まるでブラックホールのように深い闇を感じた。
「何をしたのか分からないけど、あいつに説得なんて無駄だよ。私たちを殺すことしか考えてないもの」
 秋津はそう言ってピアスを外した。耳がとがり眼に好戦的な光が宿る。
「という訳で、ぼうや。君との勝負はお預けっていうことでいいね?」
「何を勝手な・・・!」
「だって今この現状を見て分からない?敵に囲まれてるっていうのにその上私と戦うわけ?無理だと思うけど」
「・・・・・・」
 秋津の言うとおり、今は敵に囲まれ危険状態である。この状態で秋津と戦うのは無理があるだろう。
不承不承、黒づくめたちに対して構えをとる。紫月は鋼糸を取り出し、久我も呪符の準備を整えた。
「どうやら話はついたようね。では始めましょうか!」

<地裂陣>

 一方、北の展望台に上った鷲見、直弘、薫、隼人を待ち受けていたのは茶色い軍服を纏った男だった。
「ようこそ地裂陣へ。俺がこの陣の主趙天君だ」
 がっしりとした体つきの巨漢である。荒削りな風貌に野性的な笑みを浮かべる。
「あんたが今回の事件の首謀者ってわけね」
「そうなるな。ちなみに俺がちょいと力を込めるだけでこの都庁は崩壊する」
 趙天君の言葉に隼人は顔色を変えた。
「まさか、我々がここに来るのを知ってて・・・」
「ああ、あんたらを全滅させるのが今回の目的さ。じゃあな、あばよ」
 趙天君は床に手をつき、魔力を解き放とうとする。
「やらせるかよ!」
 直弘が本性である天狗の姿となって、電撃を放ったが趙天君の廻りに土の壁ができて衝撃を全て吸収した。
「そっちの手なんざ、お見通しなんだよ!!!」
 薫と隼人が式神を放とうとするがまに合わない。そして気が放たれた。
「しまった!」
 都庁全体に鈍い衝撃が走る。だが、それだけだった。ちょっとゆれただけで何も変化はない。
「なにぃ。なぜ崩れない!?」
 慌てて、趙天君が窓から下を眺めてみると、なんと一人の青年が都庁を持ち上げているではないか。
「んな馬鹿な!?」
 その馬鹿な事をしているのは桜井であった。リミッターである眼鏡を外して都庁を地盤から支えている。周りに人がいないようだから良いものの、みつかったら大騒ぎ間違いないしである。
「肉体労働は得意じゃないんですけどね。この不景気なのに余計不景気になっては困りますから」
 地下で今回の一件のあらましを聞き出した桜井は、都庁が崩されないよう外で支えていたのだ。これでは地盤を崩されようと問題はない。だが、正直巨大な質量のある都庁をずっと支えつづけるのは無理がある。
「皆さん遊んでないでいいかげん終わらせてください」
 かなり苦しいはずなのにあっさりと笑顔で言う。やっぱり恐い。
「あの野郎!ただじゃおかねぇ。叩き潰してやる」
「どうでもいいけどさぁ、あんた油断しすぎだよ」
 派手な爆音とともに趙天君の身体が吹き飛ばされる。鷲見が放った呪符を込めた銃弾がクリーンヒットしたためだ。血しぶきが上がる。
「な!?」
 慌てふためき、身体を起こそうとするが激痛で上手く起き上がれない。その間に薫が退魔刀を持って接近していた。
「くだらなかったな。茶番はこれまでだ」
「どうして、どうしてあの地の壁を超えてこられたんだ!?」
「私が解除したからですよ」
 隼人があっさりとそう答えた。趙天君が気を取られている隙に術破符で解呪していたのだ。
「さらばだ」
 雨宮は冷徹にそう言い放ち、退魔刀を振り下ろした。
「あ〜あ。俺の見せ場奪いやがってやんの」
「すまんな。チャンスだったからつい・・・」
 直弘のぼやきに、すまなそうな顔で詫びる薫。いいって事よとばかりにニヤリと笑い直弘は親指を立ててサインした。薫もそれを返す。
 その微笑ましい光景を見つめながら、ふとあることに気が付いた隼人は鷲見に問うた。
「もう敵はいなくなったのですし、ここを支えている必要はありませんよね。桜井さんに連絡をとって中止してもらうべきではないでしょうか?」
「それなんだけどね・・・」
 とっても言いにくそうに言葉を濁す鷲見。
「?どうしたんです?」
「面倒くさくて、あの人の携帯電話番号登録しとくの忘れちゃっててさ。てへ☆」
 ・・・・・・。
 3人は完全に言葉を失った。面倒くささもここまでくれば芸術的・・・と言えるだろうか?

 趙天君の敗北を知った魎華は、黒づくめの連中とともに転移して消え去った。秋津も面倒に巻き込まれてはたまらないと逃げ出し、時宮がそれを追いかけていった。
 一方、連絡が遅れたことでずっと都庁を支えているハメに陥った桜井は、ひたすら平謝りする鷲見にこってりと文句を言い続けたそうだ。輝かんばかりの笑顔で。

<食後の珈琲>

「どうやら今回は失敗に終ったようですな・・・」
食後の珈琲を飲みながら、ヴァルザックはそうつぶやいた。
「ええい!天宮の小倅め。どこまでも私の邪魔をするつもりか」
「まぁ、都庁はほとんど半壊状態で、もう使用することはできますまい。首都の機能を低下させただけでも良しとすべきでしょう」
 怒りの燃える七条とそれをなだめるヴァルザック。だが、計画に失敗したというのにヴァルザックの顔には不敵な笑みが浮かんでいるのだった・

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0229/鷲見・千白/女/28/(やる気のない)陰陽師
0273/時宮・誠/男/24/フリーの吸血鬼ハンター
0231/直弘・榎真/男/18/日本古来からの天狗
0054/紫月・夾/男/24/大学生
0413/神崎・美桜/女/17/高校生
0416/桜井・翔/男/19/医大生&時々草間興信所へ手伝いにくる。
0090/久我・直親/男/27/陰陽師
0258/秋津・遼/女/567/何でも屋
0331/雨宮・隼人/男/29/陰陽師
0112/雨宮・薫/男/18/陰陽師。普段は学生(高校生)

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■         ライター通信          ■
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お待たせしました。
10都市物語「東京都庁」〜地裂陣〜をお届けします。
今回は10人ものお客様にご利用いただき有難うございました。
今回はNPCにも多少脚光を浴びせてみたのですがいかがだったでしょうか?
依頼ですが、無事敵を撃破して都庁を守りきったので成功といえます。
おめでとうございます!
もしこの作品にご意見、ご感想、ご要望、ご不満等ございましたらお気軽にテラコンより私信を頂戴いただければと思います。お客様のお声はなるべく作品に反映していきたいと思っております。
それではまた別の依頼でお目にかかれることを祈って。