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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


聞こえない叫び


Opening 迫る女・佇む男

苦しい…苦しいよぉ…血が止まんないよぉ…もう…やだぁ…なんで…

瞼を閉じると鮮明に浮かび上がるその姿。
忘れもしない春まだ早い3月…私の親友、琴美が逝った。

「お願いします。どうしても私は納得できないんです」
女はそう云って立ち上がる。窓際に佇み、無言の背を向ける男に向って。
「草間さん!私は絶対、琴美の恋人…椎名亨(しいなとおる)が殺ろした…いいえ、自殺に追いやったとしか思えないんです!」
「…何故そう思うのですか?」
草間は手にした煙草を燻らせながら昼間ながらに暗い部屋に立つ女――遠山加絵子(とおやまかえこ)を見据えた。
「貴方もご存知の筈だ。警察も当時、その線で積極的に捜査した。だが、椎名亨のアリバイは崩れなかった」
「だけどっ!椎名は今や弁護士ですッ。当時から相当法律に詳しかったに違いない。だから…!」
「だから、法に触らないように上手く琴美さんを死に追いやった、と?」
その通り、と云わんばかりに女は深く何度も頷いた。
「お願いします。警察はもう動いてはくれません。頼りになるのは…ここしかいないんです」
女の真剣な眼差しに、やれやれ、と草間は大きく肩を竦める。

「…と、云うわけだ。弁護士相手と少々厄介だが、引き受けて…くれるかい?」
そう云って手にした煙草を吸殻で山盛りの灰皿に押し付けながら、草間は視線を私達に向けた。


Scene-1 神崎美桜

少女は怖くて仕方が無かった。
否、『怖い』と云う感情が果たして適切だったかどうか――それは彼女しか分かり得ない事実であった。
少女はじぃっと見据えていた。暗闇の中で…光にあたる彼女を…悲しみに沈む女を。
少女の名は――神崎美桜。都内でも有名なミッションスクールに通う女子高生である。
黒い糸のような繊細な髪が腰まで伸び、翠の大きな瞳が印象的に彼女を彩っていた。
ただ…その光は実に淋しそうで、表情は無表情を貼り付けたままで…。
彼女は自分の中に芽生える感情を無意識のうちに殺す傾向があった。
それは今まで生きてきた状況が必然的に彼女にその行動を取らせてきたと云っても過言ではない。
「……………」
少女はふっと頭を過ぎった映像に慌てて頭をかぶり振った。
今は思い出すべきことではない。そう強く思ってきゅっと唇を噛み締めた後、神埼美桜は窓際に佇む草間に詰め寄る女、遠山加絵子に視線を戻した。
遠山加絵子の後姿はまぎれもなく、憎悪にまみれていた。感情がひたすら昂ぶっている。
それでいて静かに、まるで極寒の地にひっそりと燃える炎のように…青く強く赤く。
(…殺してやりたい…この手で首を絞めて…のうのうと生きてるなんて許せない…)
「ッ!」
少女は思わず流れてきた感情に隣に居た赤いトレーナーをぎゅっと掴んだ。
(でもそれだけじゃ足りない…追い詰めて追い詰めて…恐怖を味あわせてから…それから…)

――それから。

オレンジ色のライトが差し込む高架線下の歩道…。
忙しなく吐かれる息が途轍もなく白い。
鈍色のコンクリートに背を這わせ、ぴちゃんぴちゃんと流れ落ちる真っ赤な鮮血が足元に血の海を作る。
涙を流しながら…口から零れ出るのは『死』への恐怖と無常に満ちた恋人への想いに他ならない。

ドクンッ。

「ねぇ…どうして…どうしてかなぁ…」

ドクンッ。

「亨…ねぇ…どうして、私…いや…死にたくない…」

ドクンッ。

少女は思わず目を瞑った。心臓が口から飛び出そうなほど激しく高鳴る。
握り締めた手に更に力を込め、細い躯の体重をそのまま預けた。

「…大丈夫か? 気分悪いんか?」
少女の異変に気づいた、すらりと背の高い―― 一見して男のような――獅王一葉は少女を覗き込む。
「ここは空気がこもってるさかいな。外へ行く?」
健康的な肌に金色の瞳。獅王は心配そうに美桜の頭を撫でた後、そう云った。
しかし少女はぶんぶんと首を振る。そして潤んだ瞳をゆっくりと開けた。
瞬間、獅王の躯が強張り…ピン、とほんの僅かな時間――数秒、少女とシンクロした映像が獅王の頭に描かれる。

『…死にたくない』

(――え?)
表情を険しくさせた獅王に美桜はハッと気づき、慌てて視線を逸らせた。ごめんなさい、と消え入るような声で呟く。
泣きそうな声で謝る少女に獅王は目を丸くさせた後、優しく微笑んでぽんぽん、と少女の頭を叩いた。
「見えてしもたんやな…。そんなに気にせんでええ。いや、見せてくれてありがとうって云いたいくらいやわ」
獅王の声は何処か安心する響きがあった。少女は人一倍、他人と接するのは苦手で、むしろ『怖さ』が先行しているようである。
しかし、獅王の声や雰囲気は、少女に一種のバリケードを作らせなかった。何故か、温かいとさえ思う。
「怖がる必要なんかあらへん。だーいじょうぶや。ウチと一緒に捜査しよ? ウチとやったら百人力やで」
一葉はニッカリと笑った。少女は翡翠の瞳を数回パチクリさせた後、恥ずかしそうに頬をさくらんぼ色に染めてコクン、と頷いた。


Scene-2 揺れる狭間の中の太陽

道路の脇に沿うようにある、高く古い高架線下。
土手には、ささくれだった草木が春をひたすら待ちわびるように眠り続け、雨によって流された土砂が道路にまで進出してきていた。
その上をジャリっと音をさせながら、歩く美桜と一葉。少女の手には大きなユリの花束が抱えられていた。
頬を掠めるような優しい風が、花を包んだ色つきセロファンをカサカサと揺らす。
上を走る車の音がやけに遠く聞こえ、一葉はやり切れない溜息を一つ漏らした。
「…あそこやな。琴美はんが亡くなった場所…」
朗らかに降り注ぐ太陽の光が暗闇に吸い込まれる。二人は薄暗く、シン…と冷たい空気が漂う高架線下の通路に差し掛かった。
琴美が自殺した場所には、誰かが置いたのであろう――もしかしたら遠山加絵子かも知れないが――赤いバラの花束と白と黄色の菊がコンクリートの壁に立て掛けられていた。
――切ない。
美桜はその場所から流れ出る、胸が潰されそうな想いに花束を抱える手に力を込めた。
クライアント・遠山加絵子が事務所に来て以来、少女はひたすら考えていた。
彼女の親友、時田琴美<ときたことみ>が手にした恐怖…それは常人では計り知れない物があって。
考えるだけで体内に何か黒い塊がどしん、と住み着いたように…苦しくもどかしく――切ない。
「美桜、花束…」
一葉は未だ血痕が残るその場所で呆然と立ち尽くす少女を見る。
少女は純白のユリを真紅のバラの傍に置くと両手を合わせた。
春を匂わす風が暗闇だけの通路にも走る。その風に前髪をサラサラと揺らせながら二人は暫しの間、手を合わせたまま動かなかった。

「…どう思う? ここには琴美はんの残留思念…それも死ぬ間際の感情しか残っとらへん…」
少し経って、すっくと一葉は立ち上がると冷たいコンクリートの壁に右手を当てて少女を振り返った。
「美桜、アンタにはどう見える?」
そう云われて、少女はすぅ…と息を吐き出し、ゆっくりと瞼を閉じて神経を一点に集中させる。
そして…
「一葉さん…私…椎名さんの心を読めば琴美さんの自殺の原因がわかるかもしれません…」
翡翠の眼をうっすらと開き、目の前にいる一葉を見据えた。
「でも…、相手の心を見るという事はものすごく精神に負担がかかるし、もし強い映像が入り込んできたら…
 私はは平常でいられるかどうか…それが凄く不安なんです…」
少女はそう云うと、辛そうに俯いた。視線の先には、黒く残る血痕がある。
あの時…最初に観たあの映像だけでも、心が張り裂けそうに痛かった。
だから、リアルタイムで相手の心の動きを知ろうとすると…とても怖くて仕方が無い。

そんな少女の姿を見て、一葉はうーんと唸った後、
「確かに…そうやと思う。でも、ウチはな…自分がシンドイ以上にな、被害者…琴美はんがツライと思うねや。
 今まで色んな事件に向き合ってきたけど、被害者の心の内ほど悲しいものはないとウチは思っとる…」
そう云って一葉は、カサカサと揺れる花束に視線を落とした。
その淋しい響きが、琴美の切ない感情を如実に表している…そう思った。
「だから、な。ウチがこんなこと頼むのもアレなんやけど…。今から椎名ん事務所へ行こうと思う。
 …そん時にアンタの力も貸して欲しいと思うねや…琴美はんの為に……」
一葉は優しそうに微笑み…顔を上げた美桜に云う。そして、また太陽のようにニッカリと笑った。


Scene-3 アカデミー主演女優

「ここや…」
一葉は夕暮れに染まる白い古ぼけた看板を見つけると、サングラスを外した。
「『甲村紀夫<こうむらのりお>法律事務所』…椎名が働いてる事務所や」
弁護士という仕事にしても某ドラマで有名な検察官も、そして人が人を裁く最も過酷な指名を持つ裁判官も
まず、難関と名高い司法試験に合格し、そして一年半の研修を東京・和光にて行う。
その後、希望によりそれぞれの職を選ぶのだが、検察官と裁判官は所謂、世間で云う所の『国家公務員』。
そして弁護士は平たく云えば、一般企業と何ら代わりの無い社会の一角である。
ただ、法律に詳しくない一般人に代わって、法的な処理や事務を行ったりするという所が「お医者サマ」と並ぶ専門職なワケだ。
椎名は今年になってようやくその研修期間を終え、既にベテランの域に達し、個人で事務所を構える甲村紀夫の元に入っていた。
甲村は椎名の父親の後輩だということだが…まぁ、よくある話なんだろうと一葉は思った。
「…一葉さん。いきなり私達のような子供が入っていっても大丈夫なんでしょうか…?」
後ろに付いていた美桜は意気揚揚と事務所のドアを開けようとする一葉のトレーナーの裾を心配そうに引っ張った。
「だーいじょうぶや。うまーい嘘、考えてあるんや」
一葉はそう云うと、バッチリとウィンクをする。思わず笑った美桜に、
「ただし、ウチと上手いこと口車、合わせてぇな」
と囁くと、少女は顔を引き締め、コクンとしっかり頷く。
その様子にOKOKと自信満々に一葉は合格サインを出すと、ほな、行くで、とドアを押しやった。

「最初に確認させて頂きますが、相談料は三十分につき五千円かかります。それでもよろしいですか?」
取り合えず、一葉が自慢の大阪弁でガガーと受付嬢に詰め寄った後、通された一室にて。
黒とホワイトオフのストライプのネクタイを首元までキッチリと締めた男性がソファに座るなりの一言。
「失礼やけど…どなたはん?」
一葉はワザと仰々しく足を組んで黒革のソファに体重を預けた。美桜はそれを見て少し怯えた風だったが、
事務所に入る前の一葉の科白を思い出して、きゅっと唇を噛んで同じく椎名を見据えた。
「…申し遅れました。甲村先生のもとで弁護士を務めております、椎名と申します」
男は分かるか分からないかの程度で怪訝そうに眉を顰めた後、胸ポケットから一枚の名刺を取り出し、二人の前に差し出した。

「で…ご相談の件は?」
男は足を大きく開き、腕を置いて体重を前屈みにしながら二人を凝視した。
美桜はその視線がイヤで堪らなく、ヘアーワックスで固められた髪も躯全体から匂う香水の匂いも、どれもウンザリするだけの代物だった。
「困ったことになったんや」
少女と同様、一葉も目の前の男に対する嫌悪感でいっぱいだった。しかし、それを全面に出してしまえば、今回ここへ来た意味が無くなってしまう。
そう…二人は『椎名亨』と云う一人の人間を見に…引いては今回の事件の関連性をこの男から見出そうとしていたのだから。
「…困ったこと、とは?」
「ウチら…アルバイトしてたんや。サラ金の…」
「…受付か何かを?」
「いんや。ゲーセンで遊んでたらな、若ッい兄ィちゃんが寄って来て、『ええバイトある』って云うたんや。
 お金にも困ってたし…ウチらそれを引き受けたんや…」
「どんな内容を?」
「初めは十万円をサラ金で借りて来い、っちゅーモノやった。借りに行く、それだけで、ウチらには半額の五万円が貰えた。
 めっちゃ、エエ話やろ?!」
「………………」
「でも、回が増すに連れて借りてくる金額がどんどん増えよって…次第にン百万になってきたんや…。
 ウチらも借りるの怖かった…でも、相手方は『きちんと返す』って云って聞かなかったし…」
一葉はオーバーアクションに頭を項垂れさせる。美桜は一切動かなかった。
「で…この間。五百万借りて…それをいつもの通り依頼人に渡した…やけど…」
「そのままドロン?」
椎名が加えた科白に美桜と一葉はコックリと頷く。呼吸もピッタリだ。
「なぁ…椎名先生。ウチらどーしたらエエと思う?! このままやったら借金の取立てがウチらに来るやん!
 当然のことやけど、ウチらにはサラ金に返す金なんかあらへん。肝臓、腎臓…売らなアカンなんて真っ平や!」
一葉は涙目になって男に訴えた。膝の上には、きつく握り締められた拳があった。
――実に見事な演技だった。


Scene-4 真実は記憶の中に

「…と、いうわけなんです。取り合えず調べてみますが、神崎さんは未成年ですし法的な措置も異なります。
 話が纏まり次第、ご連絡致しますので電話番号をお聞かせ下さい」
そう云って手渡された用紙に一葉はサラサラと記入しているとき、美桜は先ほどから感じていた不自然さが気になって仕方が無かった。
椎名亨は…確かに予想していた通り、苦手な…嫌なタイプの人間だった。
自信に満ち溢れたエリート意識が先走り――弁護士という仕事故なのかも知れないが――何処か正義ぶった感情と独特の雰囲気が少女にとって倦厭せざるを得ない理由だった。
しかし…椎名から感じられる波動はそれだけだった。
つまり、先日、遠山加絵子から感じられた――あの強烈な感情は一切伝わってこなかったのだ。
少女にはそれが不思議で堪らなかったのである。

ここで考えられる理由は三つ。
一つは椎名が時田琴美の存在を…死をはるか遠くの『記憶』として片付けている場合。
二つ目は椎名自身に全くの罪意識がなく、初めから何も感じていない場合。
そして、三つ目は…―――


「あの、どうされました? 書き残しでも?」
男の声に少女はハッと我に戻った。何事かと思って前を見ると、手渡そうとした用紙を手放そうとしない一葉に椎名は声をかけたようだった。
「あ、えぇと、その…何でも…」
一葉は少し取り乱しながら、慌てて取り繕う。どうやら一葉自身も、この事件の微妙なズレに気づいている様だった。
「イヤ、いいんです。お願いします」
そう云って、何時の間にか握り締めていた薄っぺらい紙を再度、椎名に差し出す。
(…まさか、そんな…)
隣にいる一葉の心の動きが…少女に伝わってくる。
(しゃーないっ! こーなったらイチかバチかぶっちゃけるしかナイ! 後のことは冴那ねーさんに任せるっ。いーな、美桜!)
一葉はキッと前を見据え、背筋を伸ばした。ここで逃げたら女が廃るッ!――そう切実に思った。

「…センセイ…以前、琴美はんと一緒に…いましたよねぇ?」
恐る恐る一葉は口を開いた。そして、その科白に美桜も現実に戻ったみたいに目を見開き、一葉を見る。
「…あ、琴美はんはウチのアネキのツレなんや。何となーく、手帳でアンタと映ってる写真を見たよーな気がしたんやけど」
精一杯の嘘。身振り手振りも加えて一葉は精一杯の嘘を椎名に提供した。

「…そう、なんですか」
しらばっくれると思いきや…椎名はそう呟くときゅっと瞳を閉じ、そしてゆっくりと開く。
「琴美は絶対、私に手帳を見せてはくれなかったんですよ。恥ずかしいから、と云って」
苦笑いを零しながら、椎名は背をソファに預けた。先ほどとは打って変わって、穏やかな微笑みを称えながら重量感のあるガラスの机に視線を落とす。
「でも…琴美は死んでしまった。全て…私のせいだ…琴美の気持ちを何にも分かってやれず…自分の心のうちさえも何も分からず…大切な物は何一つ見えなくて…」
男は辛そうに顔を曇らせた。

間違いない――この事件の答えは三つ目だ…。少女は確信した。
一番信じたくないケースだったが、この目の前の男は過去の自分を悔いながら、今でも――琴美を愛している。
少女には恋だとか愛だとか…そんなものはハッキリ云ってよく分からなかった。けれど、この男から伝わってくる無常の切なさは、昼間訪れた琴美の自殺現場で感じられた…あの感情と同じだった。恐らく…あの場所に手向けられていた真紅のバラの花束は、椎名が供えたものなのだろう。

――少女は泣いていた。

「…美桜……」
ハラハラと大粒の涙を翡翠の大きな瞳から零し…一つ一つとまるで大切な言葉のように涙が頬を伝う。それは琴美の心情かも知れなくて…椎名の心情かも知れない。
少女はすっくとソファから立ち上がる。そして、両手を胸の前にかざし瞳をゆっくりと閉じた。
暖かい――そんな記憶が躯全体から満ち溢れると、じゃれ合いながら微笑む二人の声が――確かに聞こえる。
真実は『今』にはなくて、『ここ』にあった…見えなかったんじゃなくて…心の奥にそっとしまわれていた…ただそれだけだった。


Epilogue 春よ来い

「くーさーまーはんッ! 一体、どーゆーこっちゃ説明してもらいましょかッ!」
一葉は後ろにいる少女を振り切ってドカドカと階段を駆け上がった後、感情に任せてドアを蹴破った。
ソファには今回の探偵の一人――巳主神冴那がソファへ腰を掛けながらコーヒーを口に運んでいる。
「椎名はヤーなヤツやったけど、白やったで! アンタ、初めから知っとったんやろ?! 白状せいッ!」
そう怒鳴りながら一葉は草間に詰め寄り、バンバンと両手をデスクに叩きつける。草間は苦笑いを零しながら頭を掻くだけだった。
「やめておきなさい、一葉。男は所詮、甲斐性なしなのだから…求めるだけムダよ?」
クスクスと云って巳主神は足を組み直す。
「かーー! そーや! 冴那はんッ! アンタも知っとたんやろ?! 遠山加絵子と接触したんやろ?!」
一葉はくるりと振り返って今度は標的を巳主神に変える。大股に歩いて、巳主神の横にドッカリと座った。
「なぁ〜んで、そのときウチらにも情報回してくれんかったん!」
「アラ、心外ね。ちゃんとウチの子、使いに出しておいたわよ?」
「蛇なんて喋られへんやんッ!」
オーバーアクションに一葉は頭を抱える。その様子に後ろから遅れてやって来た美桜がぷっと吹き出した。
「ま、それなりに御仕置きしておいたし…大丈夫でしょ。それより、そっちは上手くいったのかしら? 美桜、一葉に振り回されなかった?」
入り口にいる少女に巳主神は云う。美桜は「………」と少しの間を置いた後、コクンと頷いた。

「…今、ほんの少しだけど間があったような気が…」
と、草間。
「う、うそ、うそやろ、美桜?!」
と、一葉。
「まぁ…正直な子ね」
と、巳主神。
三者三様の取り方に少女はまた頬をサクランボ色に染めて微笑んだ。
そして…珍しく開いている窓から春を告げる柔らかな風が草間興信所に流れ、山積みにされた書類をカサカサと揺らした。


FIN


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0413/ 神崎・美桜 / 女 / 17 / 高校生】
【0115 / 獅王・一葉 / 女 / 20 / 大学生】
【0376 / 巳主神・冴那 / 女 / 600 / ペットショップオーナー】

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■         ライター通信          ■
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* 初めまして、こんにちは。本事件ライターの相馬冬果(そうまとうか)と申します。
  この度は、東京怪談・草間興信所からの依頼を受けて頂きありがとうございました。
* 今回の依頼は少し難しかったかも知れませんが、それぞれのプレイングが上手くかみ合っていたと思います。
* 他の参加者の方の文章を読んで頂けると、事件の絡み合った思惑や経過なども含めて、全体像や進展度、
  思わぬ隠し穴などがより一層、理解して頂けると思います。

≪神崎 美桜 様≫
 可憐な少女…設定やプレイングを拝見して真っ先に抱いたイメージはこうでした。
 描写するときもなるべくそれに気をつけてみたのですが、如何でしたでしょうか?
 またの機会がありましたらどうぞよろしくお願い致します(深々)。

 相馬