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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


ホワイトデーは三倍返し!?

<オープニング>

「今日何日か知ってる?」
「3月14日」
 当たり前の質問に当たり前の答えを返す草間武彦。
 なぜか興信所に来ていた碇麗香はその答えにため息をついた。
「あのねぇ、そういう意味じゃなくて・・・」
「どういう意味だよ?」
「今日はホワイトデーでしょうが!」
 そう、今日はホワイトデー。ヴァレンタインにチョコを送った女の子が最高に楽しみにしている日である。
「ああ、なるほど」
「とぼけてないで、ヴァレンタインのお礼を出しなさい」
「これは義理ですって力説してる5円チョコでか?」
 いささか呆れる草間。
「大切なのはお金じゃないわ。気持ちよ」
「流石に編集長、5円チョコ1枚でお返しを強要するのは・・・」
「ふん!」
 碇のお供で興信所を訪れていた三下は、華麗な曲線美を誇る碇の延髄蹴りを食らってあえなくノックダウンする。合掌。
「おいおい・・・。うちの備品を壊さないでくれ」
「とにかく、今日はホワイトデーなんだからせめてパーティでも開いてお返ししなさい」

(ライターより)

 難易度 易しい

 予定締切日 3/15 24:00

 というわけで、楽しい(?)ホワイトデーパーティの開催です。意中の方にお返しするもよし、お返しを強要するもよし。誰にもお返しをもらえず不貞腐れて飲み食いするもよし。なんでもありのお楽しみシナリオです。
 一応NPCとしては、草間、碇、三下、瀬名、不人、社長、魎華、教授、七条、綾をお出しすることができます。
 勿論、ベルゼブブの依頼に初参加の方も問題なく参加できますのでご安心ください。
ただし、単なるパーティではなく、怪談であることをお忘れなく。なんのハプニングも起きずにシナリオが完了すれば良いのですが・・・。
 それでは皆様のご参加をお待ちいたします。

<お手伝い>

 ホワイトデーパーティ当日。興信所には20人を越す客が訪れていた。当然、この人間たちをもてなす料理や酒が振舞われるわけだが、その量はかなりのものに達する。興信所の事務員一人では流石にさばききれない。
 そこで客として訪れていたものたちの中には、自発的にお手伝いをする者たちがいた。割烹着姿が良く似合う大和撫子風の美人天薙撫子に、小柄な高校生の少女神崎美桜である。
「皆楽しそうですね」
「そうね」
 ホワイトデーパーティに浮かれている参加者を見ながら、二人は顔をほころばせる。どちらもプレゼントをもらうためとかに訪れているのではなく、純粋に懇意のパーティだと思って参加している。特に神社育ちの天薙などホワイトデーがなんたるかすら知らない。
 始まって一時間も経たないどっさりと積み重なる汚れ物の山。事務員たちと協力してそれらを片付け始める天薙。神崎は料理担当としてカナッペやサンドイッチなどオードブルを用意していく。
「へぇ、お料理上手なのね。神崎さんは」
「一人暮らししていますから」
 神崎は野菜を切りながら照れくさそうに笑う。
 そこへ。
「あら、貴女たち何してるの?」 
編集長の碇が台所に入って来た。一升瓶を軽く2本は開けているがまったく顔色は変わっていない。
「今日はパーティですからね。忙しくなるだろうからお手伝いしようと思って・・・」
「あら、今日は女が主役よ。給仕なんて男にやらせておけばいいのよ。折角のホワイトデー、楽しまなくっちゃ」
 料理と片付けに忙しく走り回っている給仕の男を指し示す。もっとも男の方はというと「飲み食い専門の人はお気楽でいいですねぇ」とにこやかに語り、碇と見えない火花を散らす。
「女が主役?ホワイトデーって何ですか?」
「貴女、ホワイトデーを知らないの?」
「はい」
 天薙の言葉に碇はかなりの衝撃を受けたようだ。大仰なジェスチャーで信じられない事を表現する。
「信じられないわ。今日びホワイトデーを知らない女の子がいるなんて・・・」
「そんなに有名なんですか?」
「有名も何も常識よ。女の祭典なんですから。ヴァレンタインに送ったチョコレートのお返しが貰える日よ。男(とかいてげぼくと読む)が女に媚びへつらう最高の時じゃない」
「ええ!?ヴァレンタインってお世話になった人にチョコを渡すだけじゃないんですか」
 天薙の考えでは、単にヴァレンタインとはお世話になっている人へのお返し的なイベントという認識である。碇は「可哀相に・・・」と眼に涙を浮かべて彼女の肩を抱く。
「今までホワイトデーを知らないなんて・・・。大丈夫、これからは私が教えてあげるわ。いかに男どもからプレゼントを徴収するかをね」
「いや、徴収って・・・」
 ホワイトデーを知らない天薙も天薙だが、とんでもなく歪んだホワイトデーの考え方を刷り込もうとする碇も碇である。その彼女は、天薙の背に隠れているか神崎を見て「おや?」と首を捻った。
「どうしたの?お嬢ちゃん」
「神崎さん、どうしたんですか?」
 二人の問いかけられ、さらに天薙の後ろに隠れる神埼。実は彼女は碇が三下を蹴っていたと誰かに聞いて、恐そうな人だと思っているのだ。力が制御できなかった時のトラウマのせいで、彼女はよほど親しく知っていないと心を許すことができない。事実、碇はその噂を肯定するような台詞を平然と吐く。
 だが、そんな事情を知らない碇は怪訝そうな顔で見つめた。
「嫌われちゃったのかしら・・・」
「さあ・・・」
 実は今神崎は一つ気がかりな事を感じていた。この興信所に何者かが近づいているのだ。それもあまり良くない気を発する者が二人・・・。伝えるべきか伝えないべきか。単なる気のせいかもしれない。折角の楽しいパーティに水を差すべきではないし。そう思って皆に伝えるのを止めた。だが、天薙も何か感じるのか不安な顔をしている。
「何か嫌なものが来そうな感じがするんですよね。何かしら・・・?」
 二人が感じた漠然とした不安。それはもうじき姿を現そうとしていた。

<最凶いじめっこ同盟といじめられっこ同盟>

「やっぱりプレゼントは『気持ち』世ねぇ」
「そうね。それは麗華の言う通りよ。やっぱり大切なのは気持ちよ?」
「ほんとだよねぇ」
 女三人集まれば姦しいというか、最凶というかなんというか。
 碇に保健室勤務の教師不知火響、さらに探偵にして陰陽師(素晴らしくやる気がない)鷲見千白は意気投合して葡萄酒を飲みまくっている。既に彼女たちの周りには空のビンが10本近く転がっているが、現在三人とも素面である。恐るべきその酒量は衰えることを知らず、なみなみと葡萄酒が注がれたグラスを掲げ何十回目かの乾杯をする。酒の肴は鷲見が持ってきた相棒特製のケーキである。一家に一台欲しいと皆に羨ましがられている彼が作っただけあって、その味は非常に美味であった。ちなみにパーティということで、三人とも黒の胸元が強調されてスリットの入った非常に刺激的なドレスを着ているのだが、迂闊にナンパなんぞしようもんならどういうことになるのか分かっているパーティ参加者の男たちは、できるだけ彼女たちに近づかないようにしていた。
「そういえばさぁ、いつも迷惑かけてるあの連中はどうしたの?」
「大丈夫、呼んでいたわ。もうじき到着するはずよ」
「そうだよねぇ。いつもフォローして上げてるんだもの。たまにはお返ししてもらわないとねぇ」
 女性陣たちは、彼らがどんなプレゼントを持ってくるだろうとワクワクしながら待ち受けていると、興信所の外から車が止まる音が聞こえてきた。
「来たわね〜。可愛いぼうやたちが♪」
「あんまりいじめちゃだめだよ。不知火さん。あの子たち純なんだから」
「なによ。お気に入りの子がこれなかったからって良い子ぶって。分かってるわよ。貴女だってどうせあの子たちからかって遊ぶつもりでしょう」
「可愛がるだけだってば」
 妖艶な魔女たちは、哀れな生贄の子羊たちがいつ玄関のドアを開けて入ってくるか待ち遠しくてたまらない様子であった。
 
「な、なんか俺ここに入るの怖いんだけど・・・」
 高校生陰陽師九夏珪は、興信所全体を包む異様な雰囲気に鳥肌が立った。
「言うな珪。ここまで来てしまった以上引き返すわけにはいかないだろう」
 その端正な顔を引きつらせて九夏の肩を叩くのは、学友であり同じ陰陽師である雨宮薫。二人は不知火にホワイトデープレゼントを渡すようにと呼び出され、九夏の師である久我直親の運転する車に乗せられてここまで来た。
「どうやら、覚悟はできたらしいな。では行くとするか」
 その久我はというと、なにやら楽しそうな顔をしている。待ち受けている面子とこれから行われることが分かっているからだろう。
「久我、お前楽しんでないか?」
「そうっすよ。師匠なんか企んでるだろう」
 雨宮と九夏の「怪しい視線」を、
「ふっ。そんなことあるわけないじゃないか」
 とさりげなくかわし、久我は(二人にとって)魔界の扉を開くのだった。その顔にはこられきれない悪魔の笑みを浮かべながら。

「何を渡せばいいか良く分からなかったんでな。月並だが…」
 雨宮は響に赤い薔薇、鷲見に白い薔薇の花束、事務員と麗華にはカラーとカサブランカを渡した。
「私は形あるものでなくてもいいのよ?そうねぇ…身一つで保健室に遊びに来てくれるだけでセンセ許しちゃう♪」
 花束を持ったまま不知火は雨宮と九夏を抱きしめた。
「く、苦しいっす!」
「や、やめろ響!皆が見ている!!」
 苦しさと恥ずかしさから真っ赤になった二人は、パーティ参加者に大笑いされた。さらに真っ赤になって茹蛸になる二人。
「それくらいにしておいてあげなよ」
 クスクス笑いながら鷲見が出した助け舟のおかげで二人はようやく開放された。ぜいぜい言いながら、なんとか動悸を抑えてホワイトチョコとパウダーシュガーのかかったシフォンケーキを事務員に差し出した。
「これは俺からっす。皆で食べてください」
「あら有難う九夏君」
 事務員にお礼を言われて照れる九夏。彼を見て、久我が意地悪そうな笑みを浮かべて皆にチクった。
「学校で山程義理チョコを貰うんでお返しに手作りケーキだと。哀れな奴だろう?」 
「うるっさいな!わざわざ言う事ないだろー、そんな事!」
 本当のことを言われて「思い出すと悲しくなるじゃないかー」と食ってかかるものの、
「本当のことだろう。本命が一人もいない奴の方が悪い」
「な!?そっちだっていないくせに〜」
「どうかな?」
 あっさりやり込められる。久我は事務員には苦労を労いながら葡萄酒を差し入れ、不知火には彼女が好きなブランドの春の新色の口紅と同ブランドの香水を渡した。
「全く行き遅れは焦りが滲み出てるな。まぁ、これで新しい男でも釣ってくれ」
「そっちこそあんまり火遊びが過ぎると火傷するわよ?」
「余計なお世話だ」
 不知火はプレゼントを受け取るとブランデーグラスを差し出した。久我はそれを受け取り一口飲むと、彼は艶然と微笑むのだった。

<不人出現> 
 
(皆さん!何か来ます!)
 突如、参加者の脳裏に声が響いた。神崎のテレパシー能力である。何者かがここに転移してくることを感じて警告したのだ。
 果たしてパーティ会場の真中に二人の人影が現れた。参加者たちが武器や魔法の準備をして待ち構える。その二人とは・・・。
「「「「「不人!?」」」」」
 ほぼ会場に参加しているほとんどの人間の声がハモった。そう、興信所に現れたのは銀髪赤瞳、傍若無人をそのまま形にしたような男、不人であった。
「やあ」
 にこやかに挨拶をする彼。
「やあ、じゃない!どうして貴様がこんなところに現れる!?」
 いきり立った雨宮が退魔刀を抜き放とうとしたが、不知火が止めた。雨宮の激昂ぶりも無理はない。散々に弄ばれているから。だが、今ここでこの男と一戦交えたらこの興信所は一瞬にして廃墟と化すだろう。ここで戦端を開くわけにはいかなかった。
「どうしたんだい、私のシャノワ(黒猫)?今日はパーティだろう。折角だから私もお呼ばれしようと思ってね・・・」
「貴様は呼んでいない!!!」
「嬉しいね。そんなに私が来たのを喜んでくれるなんて」
 その紅い瞳で舐めるかのように雨宮を眺める不人。雨宮はもうキレる寸前である。
「まさか宴をお開きにさせる程不粋な真似はしないでしょ。折角だからいかが?」
「どうも」 
 不知火が勧めたシェリー酒を受け取り、不人は口をつけた。
「ふむ、悪くないね」
「それは良かったわ」
「響!どうして!?」
「?素敵な殿方には寛大よ?女は許容量が広いのよ。折角のパーティだいなしにされたくないし。ね?」
 招かれざる客ではあるが、来てしまった以上仕方がない。そんな雰囲気を察して、参加者たちは渋々武器を取り下げた。雨宮も自分一人で戦うことの無謀さを知っているので止むを得なく刀を鞘に収めた。だが、最後に一言付け加えることを忘れない。
「不人。手は出すな。出せば殺す」
「なんだい、つれないねぇ。折角会いに来てやったのに・・・。そうか、嫌よ嫌よも好きのうちっていうやつかな、シャノワ?」
「どうしてそうなる!?」
 雨宮は不人に食って掛かかった。完全に遊ばれている。
「ところであんた、確か社長だったよね。あんたまで来たの?」
 鷲見が話し掛けたのは、不人ともに現れたもう一人の人物。かつてサンシャインの屋上に現れたこの男は記憶に新しいところだ。その時は不人が社長と呼んでいたはずだが・・・。
「私の名はヴァルザック。お初にお目にかかる人もいるようだな。以後お見知りおきのほどを」
 真紅のスーツを来た壮年の男は、そう言って慇懃にお辞儀をした。
「あんた、相当暇してるね・・・」
「何、キミほどではないよ」
 軽口を言い合うとヴァルザックはソファーに寄りかかり、テーブルに置かれていたスコッチウィスキーをグラスに注ぎ始めた。不人は雨宮をからかって遊んでいる。どうやら戦闘にはなりそうにないようだ。草間はほっと胸を撫で下ろすのだった。

<宣戦布告?>

「来たわね!不人!!!」
 そう言って白コートの男にチョコレートを投げつけたのは、現役高校生でありながら魔女もこなしている氷無月亜衣であった。
「ちょうど一ヶ月遅れだけど、これは宣戦布告よ。貴方なんかに絶対負けないんだから!!それと、私の名前は『お嬢さん』じゃくて、氷無月亜衣よ。憶えておきなさい!」
 ビシッと指をさして言い放つ彼女。
「ふ〜ん、そうかい。じゃ有難く頂戴するとしよう」
 不人はぬけぬけとそう言うと、包装紙を破ってチョコを一口口にいれた。そして嫌味な笑いを浮かべたその表情を変えずに一言。
「塩と砂糖を間違えたね」
「違う!それは宣戦布告用激辛チョコレートよ!」
「可愛いね。自分の過ちを必死に隠そうとするそのあどけなさが」
「だから違うって!!」
 頑張って否定するが、不人はまったく意にかえさない。このままでは自分は究極の料理下手にされてしまう。なんとかしなくては。慌てる彼女を見て不人はニヤリと笑った。
「さてと、今日はホワイトデーであることだしこのチョコのお返しをしなくてはな」
「へ?」
 不人の口から飛び出た思いがけない言葉。てっきり無視されるか、相手にされてもお返しなどもらえないと思っていた彼女は面食らった。その隙を見計らって不人は自分の唇と彼女の唇を重ね合わせる。
「!!???」
「何ももってこなかったからこれで勘弁してくれたまえ」
 不人は唇を離すと彼女の耳元でそっとささやいた。自分の唇を抑えて氷無月は呆然と立ち尽くした。
「不人!貴様、誰にも手出しするなと言ったろうが!!!」
 完全にキレた雨宮が不人に切りかかった。
「嫉妬かね?見苦しいよシャノワ」
「違う!それにその呼び方はいい加減止めろ!」
 あっさりその一撃をかわして不人は笑う。
「分かった分かった。かまってあげるよ。仕方がないね。まったく困った子猫ちゃんだ」
「いい加減にしろ!」
 追いかけっこ(一方は刀を振りかざす危険なものだが)を始めた二人を見ながら、氷無月は今のキスの感触を確かめる。死者を弄び、冒涜する許せない存在である不人。だが、その圧倒的な強さと内に秘めた闇の魅力、暴虐的、堕落的な側面に心惹かれる自分。胸の内にわくこの不思議な感情は何のなのだろうか。
 それは、燃え上がるように狂おしく、また檸檬よりも酸っぱい、17歳の少女が初めて感じた感情であった。

<独り言>

 そんな騒々しいパーティの雰囲気を楽しみながら、部屋の片隅で一人天狗舞を飲む女性がいた。片目をその長く艶やかな黒髪で隠した妙齢の女性、ペットショップ水月堂店主であり蛇使いでもある600年を生きた蛇の化身巳主神冴那である。
「あげなかったのだから、貰えないのは当然よね」
「前に座って宜しいかな?」 
 一人でちびちびと酒を飲む彼女の前に現れたのはヴァルザック。
「あら、どうぞ。お飲みになる?」
「いただこう」
 ヴァルザックのもつ杯に天狗舞をついでやりながら、巳主神はポツリともらした。
「でも、人の世の風習というのは…やっぱり不思議なものね」
「ホワイトデーのことか?」
 コクリと頷く巳主神。
「どうして海外の、それもまったく関係のないお祝いを愉しめるのか不思議だわ」
「まったく人間とは面白い生き物だな」
 ヴァルザックは杯に口をつける。
「私も恋をした事があったわ」
 巳主神は窓の外の月を眺めた。空には満月が浮かんでいた。狂気を司るという満月。自分も狂気に侵されたのだろうか。そんな気持ちを感じながら、彼女普段は決して口にしない昔の恋物語を語り始めた。
「何百年前かしら。精悍な顔をしたお侍様。お屋敷での一時・・・。結局、噛んでしまったけれど・・・」
「ふっ、蛇に噛まれてはさぞ痛かろう」
「いい雰囲気だったのよ。その時も丁度満月で綺麗な月だったわ。もう一息ってところだったんだけど・・・、正体がバレてしまって」
「・・・・・・」
 黙って酒を飲むヴァルザック。口をさしはさむべきところではないからだ。普段はうわばみな巳主神も今夜はほろ酔い気味で話を続ける。
「あの時は楽しかったわ・・・。私も激しい恋がしたいわね・・・。その身を焦がす様な・・・そう、清姫の愛が如く・・・素敵ね」
「身を滅ぼすような、淫らで危険な、しかしこの上もなく素晴らしい快楽に誘ってやろうか?」
「あら、貴方が・・・?」
 巳主神は艶っぽく笑い、ヴァルザックの口許に人差し指を当てつつささやいた。
「蛇の情はしつこいのよ・・・。尽きる事なく・・・愛しい人がどこへ行っても探し出し、熱い口付けを・・・そう、気を失ってしまう程の・・・永久に」
「永久かどうかは約束できんが、今宵は私と快楽を貪るか?」
 しなだれかかる巳主神を抱いて、ヴァルザックはその蛇の鱗のように艶やかな唇に己の唇を重ねあわせる。二匹の蛇が絡み合うように二人は抱き合い、そして・・・。

<私の白馬の王子様>

「『ほわいとでー』ってラブラブな日じゃない!少女漫画はこの時期そればっかり?よ!そしてこれが…現実なのね!」
 目の前で繰り広げられているどんちゃん騒ぎを楽しみながらグラスを傾けるのは、床につくほどの長い髪が印象的な、セーラー服姿の小柄な少女であった。鈴代ゆゆという名であるが、実は彼女は人間ではない。外の世界に興味を持った、都内のとある家庭にある鈴蘭の鉢植えの精霊なのだ。大好きな恋愛小説や少女漫画に良く出ているホワイトデーのパーティがここで行われると聞きつけて、いてもたってもいられず参加したのだ。
 しかし、やはり相手がいないのは寂しい。ヴァレンタインにチョコを送る相手が居なかった彼女は当然お返しなどもらえない。意中の相手にプレゼントを渡している男女の姿を物欲しそうに見つめている。
「あたしもかっこいい彼氏が欲しいぃぃ〜!!」
 やけ酒ならぬやけジュースを飲みながら、彼女はくやしがっていた。ひたすらオレンジやピーチジューズをガバガバと飲む。いくら植物の精霊とは言え飲みすぎだろうと思われたその時、彼女を止めるものがいた。
 九夏である。何とかいじめっこ同盟が開放されて一息ついていたときに、やけジュースを飲みまくる鈴代の姿を見て心配になったのだ。
「そんなに飲んじゃお腹壊すっすよ」
「ふえ?」
 長身の、ちょっと童顔だが可愛らしい顔つきをした美少年が自分の目の前にいる。これこそ恋愛小説のお決まりシーン「運命の出会い」というやつではないだろうか。鈴代は一人で盛り上がり、九夏の手を握った。
「私にも白馬童子・・・じゃなかった白馬の王子だっけ?がやって来たのね!?ね、そうなんでしょ!?」
「はぁ?なんすかそれ?」
 勝手に妄想に入っている鈴代の異様なオーラに圧倒されて、九夏はビクッと身を震わせて後退した。はっきり言ってあまり関わりあいになりたくない。慌てて席を立とうとする。
「ま、まぁ、大丈夫そうっすね。あんまり飲み過ぎないようにしてください」
だが。
ガシ。
女の子の力とは思えないパワーで九夏の手を押さえ込み、鈴代は少女漫画の登場キャラ顔負けのキラキラ光る瞳で九夏の顔を覗き込む。はっきり言ってかなり危ない。
「やっと見つけたんだもの、逃がさないわ。私の王子様♪」
「勘弁してくれ〜!!!」
 九夏の絶叫が響き渡った。

<パーティの終わり>

 様々ハプニングはあったものの、ホワイトデーパーティは無事に終了した。何時の間にか不人とヴァルザックは立ち去っていた。もっとも巳主神も姿を消していたが、その行き先を尋ねるのは野暮というものだろう。
 もう夜も遅いという事で、高校生たちは先に帰ることとなった。
「許せない、不人!あたしの唇を奪うなんて!!!」
 氷無月は怒りに燃えて不人打倒を近い、
「草間さん、これ・・・」
「ああ、ありがとさん」
 心を込めて作ったチョコレートケーキを受け取ってもらい照れる神埼。
「もう貴方は私のものよ☆やっと『現実』に彼氏をゲットしたわ♪」
「俺の人生って一体・・・」
 ついに彼女が出来てしまった九夏は(いじめっこ同盟には拍手喝采で迎えられた)、喜び(?)の涙が頬をつたった。
 残った女性陣はというと、天薙を含めて4人で酒盛りを始める始末。
「神社ってなんだかつまんないんですよね〜。女だと神主できないし〜」
「やめちゃえやめちゃえ!」
「大体男じゃなきゃ駄目っていうのが変なんだよね。男より女の方が絶対役に立つっていうのに」
「そうそう、女の方が偉い!男は女のいう事を聞くもんだ〜!」
「「「「わ〜はっはっはっは!!!!」」」」 
 もはや完全に出来あがっている。女王様モードに入ってしまっている4人に敵などいない(平時もほとんどいないが・・・)。草間は事務員を送るためにさっさと逃げ出し、三下は完全に給仕としてこき使われている。
「三下〜!さっさと酒もってこ〜い!!!」
「はひぃぃぃぃぃぃ!」 
 哀れ三下君。彼が報われる時は来るのだろうか?

「疲れた・・・」
 久我の車から降りた雨宮はがっくりと肩を落として、体全体で疲れた事を示していた。いじめっこ同盟にからかわれ、不人に弄ばれ完全にノックダウンしていた。
「今日は厄日だ・・・」
 久我の好意ということで自宅に送ってもらったが、あの状態でははっきり言って自力で帰る気力は無かった。車に乗れたことに感謝して、ふらふらしながら家に入ろうとする。
「雨宮」
 その彼を久我が呼び止めた。
「・・・なんだ?」
 久我はいきなり雨宮は抱きしめた。
「!!!!?」
「お互い、最後迄生き残るぞ」
 そう耳元で囁くと、突き放して車に乗り込む久我。走り出す車を見ながら雨宮はポツリと言った。
「もう、好きにしてくれ・・・」

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0229/鷲見・千白/女/28/(やる気のない)陰陽師
0376/巳主神・冴那 /女/600/ペットショップオーナー
0116/不知火・響/女/28/臨時教師(保健室勤務)
0328/天薙・撫子/女/18/大学生(巫女)
0095/久我・直親/男/27/陰陽師
0183/九夏・珪/男/18/高校生(陰陽師)
0368/氷無月・亜衣/女/17/魔女(高校生)
0428/鈴代・ゆゆ/女/10/鈴蘭の精
0112/雨宮・薫/男/18/陰陽師。普段は学生(高校生)
0413/神崎・美桜/女/17/高校生

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■         ライター通信          ■
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 お待たせしました。
 ホワイトデーは3倍返し!?をお届けします。
 今回は、な、なんと参加者数が18名に達してしまいました!皆様のご愛顧、誠に有難うございます。
 流石にこの人数を一つのリプレイに載せてしまうと混乱をきたすと考え、異例ではありますが分割という手段をとらせていただきました。ご了承くださいませ。
 今回はお楽しみシナリオということで、肩のこらない、お笑いとちょっぴりラブストーリー付きの仕上げとなりました。この作品に関するご意見、ご感想、ご要望、ご不満等ございましたらお気軽にテラコンより私信を頂戴できればと思います。お客様のお声はできるだけ作品に反映させていただきたいと思います。
 一応、私のスタンスですが「愛に垣根は無い」がモットーですのでお客様たちの恋愛に規制をかけるつもりは一切ございません。ご自由にお楽しみくださいませ。
 それではまた別の依頼でお目にかかれことを祈って・・・。