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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


時に怯えし少女【調査編】
●オープニング【0】
『お姉ちゃんを助けて!』
 ある日のゴーストネット掲示板に、このようなタイトルで始まる書き込みがあった。近頃こんな書き込みが多いなと思いつつも、とりあえずは読み進めてみた。
『お姉ちゃんが帰ってこないんです!
 夜に出歩くことは多かったけど、帰ってこないことなんてなかったのに。
 昨日の夜中に『私は時に殺される』なんて電話をかけてきて、そのまま。
 あんなに怯えた声のお姉ちゃん、初めてでした……。
 最近のお姉ちゃん……妙にお金持ちだったし、だから私心配で。
 お願い、誰かお姉ちゃんを探して助けてあげて!』
 なるほど、居なくなったのは昨日の今日か。なら、今警察に行ってもまず相手にされないだろう。事件性でもあれば別だが、この話だけではちと弱い。
 この手の事件はどこぞの探偵にでも任せた方がいい気がするものの、どこか気になるのも事実だ。
 そもそも『私は時に殺される』って、どういう意味だ?

●不釣り合い【1A】
「お姉ちゃんには内緒にしてくださいね」
 少女、大内亜美(おおうち・あみ)は申し訳なさそうに言うと、連絡をしてきた3人の来訪者をある部屋へと通した。
「ここがお姉ちゃんの部屋です」
 部屋は比較的片付いており、壁にはハンガーにかけられた春物のワンピースがあった。
「あれっ?」
 女子高生・榊杜夏生はすたすたとワンピースに近付き、手に取ってしげしげと見つめた。
「これって、この春の新作じゃなかった? みかねちゃん、どう?」
 夏生に呼ばれ、友だちである志神みかねもワンピースのそばへ向かった。
「うん、先月の雑誌に載ってたよね」
 頷くみかね。見覚えのあるワンピースだった。
「おや、あれは……」
 何かを見つけたのか、大学生・斎悠也が部屋の角にある机に近付いた。そして机の上に無造作に置かれていたバッグを手にした。
「やっぱりそうだ」
 バッグには有名ブランドのマークが付いていた。悠也にしてみれば、嫌という程見たことのあるマークであった。悠也は振り返り、亜美に尋ねた。
「お姉さんは何かバイトは?」
「いいえ。お姉ちゃん、バイトしたことなくって」
「今、高校だっけ?」
 夏生が口を挟んだ。
「はい、4月で高3です。私と3つ離れてて……」
「じゃあ、私たちとあまり変わらないんだ」
 みかねの言葉に亜美はこくんと頷いた。
「だよね。でもあたしたち、あんなのなかなか買えないよね」
 悠也の手にしているバッグを指差す夏生。今時別に、高校生がブランド物を持っていてもおかしくはない。けれども、バイトをしたこともない者が持っているのは少々疑問だ。
「買うためのお金をどこから得ていたのか……か」
 バッグを机の上に戻し、悠也は思案した。それが分かれば、姿を消した少女に1歩近付けるかもしれない。
「そういえば、お姉さんのお名前をまだ教えてもらってなかったよね」
 みかねがそう言うと、亜美はあっと驚いた顔を見せた。
「あっ……。忘れてました、ごめんなさい! お姉ちゃんは歩実(ふみ)です」

●理由【3A】
「うーん……」
 難しい顔をして公園を通り抜ける悠也。風に乗って舞い落ちてきた桜の花びらを、肩から払い除けた。今年は桜の咲くのも早く、見頃となる日もそう遠くはなさそうだった。
(1人で夜の新宿に行ってたのが、一番怪しいな)
 悠也は亜美の家を訪れた後、亜美から教えてもらった歩実の友だちの家を回っていたのだ。そして亜美や歩実の友だちから等しく耳にしたのが、このことだった。
 悠也は懐から1枚の写真を取り出した。亜美から借り受けた歩実の写真だ。茶髪と金髪の中間の色をしたショートカットの少女が、写真の中でVサインをしていた。今時の女子高生といった感じだ。
(さて、どうしてお金の回りがよかったのか。まさか時を代償にお金を手に入れる契約でも悪魔と結んだんじゃ……)
 悠也は記憶をたどってみた。しかし、そのような芸当のできる悪魔は数える程だ。魂を代償に望みを叶える悪魔は数多いが、こと時間と限定されるとそうそうは居ない。
(何にしろ、調査は夜ですね)
 悠也は大きく溜息を吐いた。

●夜の街【4A】
 夜の新宿・歌舞伎町。悠也は何故か暗い路地裏に居た。その周囲には蝶たちが舞っていた。
「さあ、行っておいで」
 悠也が命令すると共に、蝶たちは路地裏を出て四方八方へと散らばっていった。『ヒメゴト』という使役の術を使用したのだ。
「……俺も行きましょうかね」
 自らも路地裏を出てゆく悠也。バイトでホストをしているだけあって、夜の街がなかなか似合っている。時折ホスト仲間を見かけたが、その度に行く方向を変えていた。
 やがて悠也の放った蝶たちの内の1羽が、悠也の元へ近付いてきた。
(見つけたらしいな)
 悠也は前方に目をやった。遠くで舞う蝶の姿が小さく目に映った。ひらひらと舞いながら、まるで悠也が来るのを待っているかのようであった。
 蝶を追った先に歩実は見つかる。悠也はそう思い、夜の歌舞伎町を駆け出した。

●千客万来【5】
「お願いっ! 私の時を返してよぉっ!!」
 地下へと通じる階段を降りドアを開くと、斎悠也の耳に少女の泣き叫ぶ声が聞こえてきた。
 明るく広い室内には、片隅にバーカウンターがあり、中央にはカードゲーム用のテーブルが3卓置かれていた。その中央のテーブルで、少女が青いドレスの金髪の女性にすがりついて泣き叫んでいた。他には誰も居ない。
(あれが歩実さんか……しかし)
 悠也の目の前に歩実は居た。だが写真よりも少し大人に見える。写真よりも痩せてそう見えるだけなのだろうか?
「わ、何ここ?」
「これって……カジノ?」
 背後から少女たちの声が聞こえてきた。悠也が振り向くと、そこには亜美の家で会った榊杜夏生と志神みかねの姿があった。
 それに少し遅れ、2人の女性が入ってきた。
「千客万来ですね」
 黒髪で白いスーツの女性の言葉に、隣の銀髪で紅いチャイナドレスの女性が頷いた。
「お入りなさい」
 銀髪の女性がそう言ってドアを開いた。ぞろぞろと入ってくる者が4人。渡橋十三、武神一樹、瀧川七星、白雪珠緒の4人であった。
「ようこそ、『時のカジノ』へ」
 黒髪の女性はにっこりと微笑んだ。

●取り返すには【6】
 テーブルを挟み対峙する7人と女性たち。一樹や七星たちを連れてきた2人も、黒髪の女性は白いドレスに、銀髪の女性は紅いドレスに各々着替えていた。
「また訪れましたね」
 黒髪の女性が十三・七星・珠緒の方を向いた。
「来たかなかったけどよ……望み通りに来てやったぜ」
 自嘲気味に笑う十三。七星がそれに続いていった。
「あの子の時間、返してもらいに来たよ」
 あの子――歩実は床の上で呆然と座り込んでいた。
「えっ、それどういう意味?」
 夏生が驚いたように言った。そんな夏生を含め、ここを初めて訪れた4人に説明する七星。
「ここは見ての通りカジノなんだよ。けど普通と違う。時をチップにカードゲームに興じる場所さ」
「その通りです。勝ちし者には相応の金運を、負けし者には時の剥奪を与える場所なのです。そちらの方々にはご挨拶が遅れましたね。私の名はヴェルディア。銀髪の彼女の名はウルディア、その隣がスクディアと申します」
 夏生やみかねたちにヴェルディアたち3人は各々頭を下げた。だが一樹と悠也は3人の名前を聞いた瞬間、何故か眉をひそめた。
「つまりこういうことか。『時に殺される』というのは、すなわち負けたと――」
「ええ。そうなりますね」
 一樹の言葉にヴェルディアが頷いた。
(なるほど。この3人の力で時を奪われることになっているのか)
 一樹はつかつかと歩実に近寄り、自らの力で解除を試みようとした。だが――。
「なかなか面白い力をお持ちなのね」
 スクディアが静かに一樹に言った。驚いてスクディアを見る一樹。
「けれど無駄だわ。よほどのことがない限りは、時の剥奪を阻止することはできない」
「なら、どうすればいいの?」
 みかねがヴェルディアに尋ねた。ヴェルディアが口を開き何か言おうとする前に、七星がそれに答えた。
「ゲームで奪われた時は、リミットまでにゲームで取り返すしかない……だっけ。確かリミットは負けた翌々日の夜明け」
「負けたのが昨日ってこたぁ、リミットは明日の夜明けだな。ほれ……どっこいしょっと」
 十三はテーブルの椅子を引いて座った。

●相手はまさか【7】
「思い出した!」
「思い出しました!」
 一樹と悠也の声が重なった。
「どうも名前に聞き覚えがあるかと思えばノルンの3姉妹かっ! いや、厳密には名前が違っているが……時を操るといえばやはり……」
「ノルンて何、七星? 食べ物?」
 きょとんとして珠緒が言った、
「北欧神話に出てくる運命の女神ですよ。過去を司るウルド、現在を司るヴェルダンディー、そして未来を司るスクルド……名前も似ていて、見事なまでに一致している。いったいあなた方は……」
 畏怖の念を抱く悠也。しかし目の前の3人は黙して答えず。
「んー、よく分からないけど……やい淫魔! とにかく耳揃えて返すにゃ! あたしの寿命賭けてやるから、勝ったらそっくり返してもらうにゃっ!」
 びしっと指差し啖呵を切る珠緒。するとヴェルディアが微笑んだ。
「それは構いません。正当なルールですから」
「決まったにゃ! じゃあゲーム開始……あ」
 珠緒が情けない顔を七星に向けた。
「あたし、ゲームのルール知らないにゃ」
「いいよ。勝負は俺が代わりにする」
 七星が苦笑して言い、テーブルについた。
「大丈夫、きっと勝てるよ! 何たって、あたしが居るんだから!」
 夏生が皆を元気づけるように言った。その言葉、果たして本当になるかどうか――それはカードのみが知っている。

【時に怯えし少女【調査編】 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0164 / 斎・悠也(いつき・ゆうや)
           / 男 / 21 / 大学生・バイトでホスト 】
【 0017 / 榊杜・夏生(さかきもり・なつき)
                   / 女 / 16 / 高校生 】
【 0249 / 志神・みかね(しがみ・みかね)
                    / 女 / 15 / 学生 】
【 0060 / 渡橋・十三(とばし・じゅうぞう)
           / 男 / 59 / ホームレス(兼情報屋) 】
【 0173 / 武神・一樹(たけがみ・かずき)
            / 男 / 30 / 骨董屋『櫻月堂』店長 】
【 0177 / 瀧川・七星(たきがわ・なせ)
                   / 男 / 26 / 小説家 】
【 0234 / 白雪・珠緒(しらゆき・たまお)
 / 女 / 20代前半? / フリーアルバイター。時々野良(化け)猫 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全15場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・さて最初に謝っておきます。先日出した依頼『奪われし時間の謎』が本依頼に関係あることを、オープニングではわざと伏せていました。まあ色々と事情もありまして。
・それから本依頼を発注されたのが、同時に出していた高原の他の依頼より後だという方も居られるかもしれません。『何故こちらが先?』という疑問もあるでしょうが、これも色々と事情がありまして。と、言い訳はこのくらいにしておきましょう。
・予めオープニングにありましたように、本依頼は完結編へ続きます。続けてご参加されるかはご自由ですが、参加されない場合でもゲームに参加せずその場に留まっている物として扱わせていただきます。もちろんその際にはペナルティも何もありません、ご安心を。
・完結編ですが、ポーカーで勝負します。ポーカーのルールはご存知ですか? 完結編では、高原は実際にカードを使用して執筆する予定です。
・斎悠也さん、7度目のご参加ありがとうございます。『時』に関する考察はほぼその通りかもしれませんね。ただ悪魔や魔物ではなくて……ですが。調査内容はよかったと思いますよ。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。