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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


時に怯えし少女【調査編】
●オープニング【0】
『お姉ちゃんを助けて!』
 ある日のゴーストネット掲示板に、このようなタイトルで始まる書き込みがあった。近頃こんな書き込みが多いなと思いつつも、とりあえずは読み進めてみた。
『お姉ちゃんが帰ってこないんです!
 夜に出歩くことは多かったけど、帰ってこないことなんてなかったのに。
 昨日の夜中に『私は時に殺される』なんて電話をかけてきて、そのまま。
 あんなに怯えた声のお姉ちゃん、初めてでした……。
 最近のお姉ちゃん……妙にお金持ちだったし、だから私心配で。
 お願い、誰かお姉ちゃんを探して助けてあげて!』
 なるほど、居なくなったのは昨日の今日か。なら、今警察に行ってもまず相手にされないだろう。事件性でもあれば別だが、この話だけではちと弱い。
 この手の事件はどこぞの探偵にでも任せた方がいい気がするものの、どこか気になるのも事実だ。
 そもそも『私は時に殺される』って、どういう意味だ?

●心配する少女【2B】
 ゴーストネット掲示板のオフ会でよく利用されるネットカフェがある。骨董屋『櫻月堂』店長・武神一樹はここで人と待ち合わせをしていた。珈琲を飲みつつ、雑誌をぱらぱらと読んでいる一樹。
(店の方は……まあ、さくらに任せてあるから大丈夫だろうが)
 一樹がそんなことを考えていると、ネットカフェの入口のドアを勢いよく開けて、中学生くらいの少女が飛び込んできた。きょろきょろと店内を見回し、誰かを探しているようである。そして相手が見つかったのか、そちらの方へ一目散にやってきた。
「あのっ、武神さん……ですか?」
 少女は恐る恐る一樹に声をかけた。一樹は笑顔を向けると、少女に席を勧めた。少女は席に座ると、大内亜美(おおうち・あみ)と自分の名を名乗った。
「お姉ちゃんのことを聞きたいってメールにあったんですけど……」
「うむ。所在を探すには、それなりに情報が必要だ。些細なことでも構わない。交友関係や、近頃の様子等を教えてもらいたいのだが」
 一樹がそう言うと、亜美は少し考えてから色々と話し出した。
「あの、お姉ちゃん……歩実(ふみ)っていう名前なんですけれど、最近少し痩せたみたいで……その、妙にお金持ちになってから」
「痩せた?」
 眉をひそめる一樹。年頃の少女であれば、体重を気にして痩せようとすることもあるだろう。けれど、その時期がどうも引っかかる。
「金持ちになった原因は分かるかな」
「ごめんなさい、分かりません。お姉ちゃん、バイトもしてないし、お小遣いもそんなに貰ってないはずなのに……何故かお部屋にブランド物のバッグとかがあったんです」
「ふむ……」
 一樹が唸った。ますますもって妙な話である。続けて一樹は夜歩きのことを聞いてみることにした。
「お姉ちゃん、近頃は1人で新宿に行ってたみたいで……夜の新宿って怖いんですよね? だから私、お姉ちゃんが心配で……」
 亜美は消え入りそうな声で言うと、うつむいてしまった。

●偶然?【3C】
『私ィ心当りがあるんだけどォー。
 何か『時』をレートにしたカジノがどっかにあるらしくってさァ。
 色々と聞きたいしィ、よかったら連絡くんナイ?
 サティーン』
「いつの間に……」
 パソコンの画面を見つめ、一樹がつぶやいた。ここは『櫻月堂』、亜美と別れた一樹は一旦店へ戻ってきていた。そして何か有益な情報があるかと思い、件の掲示板に再び目を通してみた所、このような書き込みがあったのだ。
(この名前には見覚えがあるぞ)
 一樹は投稿者の名前に注目した。以前別の事件を追うことになった際、その時にもこの『サティーン』は何やら情報を書き込んでいた。1度ならず2度までも……何かの偶然なのだろうか?
 一樹はさっそくこの『サティーン』にメールを出し、再び店を店員の草壁さくらに任せ、夜まで仮眠を取ることにした。
 夜になり出かける直前、一樹はメールのチェックをした。だが、そこには『サティーン』からの返信メールはなかった。

●行き先は同じく【4D】
 夜の新宿・歌舞伎町。武神一樹は亜美から借り受けた歩実の写真を手に、ゲームセンターやら何やら歩実が出入りしそうな場所を回っていた。茶髪と金髪の中間の色をしたショートカットの少女が、写真の中で笑っていた。
(芳しくないな……)
 聞き込みを重ねてはいるが、一向に行方がつかめない。一樹の表情にも、少しずつ焦りの色が見え始めていた。
「よぉ、さくらちゃんは元気か?」
 不意に背後から声をかけられ、振り返る一樹。そこにはニヤニヤと笑っている渡橋十三の姿があった。
「久し振りじゃねぇか。妙な絵の事件以来……か?」
「うむ、そうなるか」
「まあ、さくらちゃんから色々と話は聞いてるけどよぉ」
 なおもニヤニヤと笑い続ける十三。一樹は眼鏡の奥からやや困惑気味の目を向けていた。
「で、こんなとこで何やってんだ?」
「それだが……この少女に心当たりはないだろうか。大内歩実というんだが」
 一樹は手にしていた写真を十三に見せた。だが十三はちらりと見ただけで、すぐに写真を返した。
「心当たりなぁ。ねぇこたぁねぇが……あの姉ちゃんにでも聞いてみたらどうだ?」
 十三が一樹の背後を指差した。振り向くと、紅いチャイナドレスを着た銀髪ショートヘアの女性がこちらへやってくる所だった。
「どういう意味だ」
「なーに。どうやら行き先が一緒だってこった」
 一樹の問いかけに、十三は不敵な笑みを返した。

●千客万来【5】
「お願いっ! 私の時を返してよぉっ!!」
 地下へと通じる階段を降りドアを開くと、斎悠也の耳に少女の泣き叫ぶ声が聞こえてきた。
 明るく広い室内には、片隅にバーカウンターがあり、中央にはカードゲーム用のテーブルが3卓置かれていた。その中央のテーブルで、少女が青いドレスの金髪の女性にすがりついて泣き叫んでいた。他には誰も居ない。
(あれが歩実さんか……しかし)
 悠也の目の前に歩実は居た。だが写真よりも少し大人に見える。写真よりも痩せてそう見えるだけなのだろうか?
「わ、何ここ?」
「これって……カジノ?」
 背後から少女たちの声が聞こえてきた。悠也が振り向くと、そこには亜美の家で会った榊杜夏生と志神みかねの姿があった。
 それに少し遅れ、2人の女性が入ってきた。
「千客万来ですね」
 黒髪で白いスーツの女性の言葉に、隣の銀髪で紅いチャイナドレスの女性が頷いた。
「お入りなさい」
 銀髪の女性がそう言ってドアを開いた。ぞろぞろと入ってくる者が4人。渡橋十三、武神一樹、瀧川七星、白雪珠緒の4人であった。
「ようこそ、『時のカジノ』へ」
 黒髪の女性はにっこりと微笑んだ。

●取り返すには【6】
 テーブルを挟み対峙する7人と女性たち。一樹や七星たちを連れてきた2人も、黒髪の女性は白いドレスに、銀髪の女性は紅いドレスに各々着替えていた。
「また訪れましたね」
 黒髪の女性が十三・七星・珠緒の方を向いた。
「来たかなかったけどよ……望み通りに来てやったぜ」
 自嘲気味に笑う十三。七星がそれに続いていった。
「あの子の時間、返してもらいに来たよ」
 あの子――歩実は床の上で呆然と座り込んでいた。
「えっ、それどういう意味?」
 夏生が驚いたように言った。そんな夏生を含め、ここを初めて訪れた4人に説明する七星。
「ここは見ての通りカジノなんだよ。けど普通と違う。時をチップにカードゲームに興じる場所さ」
「その通りです。勝ちし者には相応の金運を、負けし者には時の剥奪を与える場所なのです。そちらの方々にはご挨拶が遅れましたね。私の名はヴェルディア。銀髪の彼女の名はウルディア、その隣がスクディアと申します」
 夏生やみかねたちにヴェルディアたち3人は各々頭を下げた。だが一樹と悠也は3人の名前を聞いた瞬間、何故か眉をひそめた。
「つまりこういうことか。『時に殺される』というのは、すなわち負けたと――」
「ええ。そうなりますね」
 一樹の言葉にヴェルディアが頷いた。
(なるほど。この3人の力で時を奪われることになっているのか)
 一樹はつかつかと歩実に近寄り、自らの力で解除を試みようとした。だが――。
「なかなか面白い力をお持ちなのね」
 スクディアが静かに一樹に言った。驚いてスクディアを見る一樹。
「けれど無駄だわ。よほどのことがない限りは、時の剥奪を阻止することはできない」
「なら、どうすればいいの?」
 みかねがヴェルディアに尋ねた。ヴェルディアが口を開き何か言おうとする前に、七星がそれに答えた。
「ゲームで奪われた時は、リミットまでにゲームで取り返すしかない……だっけ。確かリミットは負けた翌々日の夜明け」
「負けたのが昨日ってこたぁ、リミットは明日の夜明けだな。ほれ……どっこいしょっと」
 十三はテーブルの椅子を引いて座った。

●相手はまさか【7】
「思い出した!」
「思い出しました!」
 一樹と悠也の声が重なった。
「どうも名前に聞き覚えがあるかと思えばノルンの3姉妹かっ! いや、厳密には名前が違っているが……時を操るといえばやはり……」
「ノルンて何、七星? 食べ物?」
 きょとんとして珠緒が言った、
「北欧神話に出てくる運命の女神ですよ。過去を司るウルド、現在を司るヴェルダンディー、そして未来を司るスクルド……名前も似ていて、見事なまでに一致している。いったいあなた方は……」
 畏怖の念を抱く悠也。しかし目の前の3人は黙して答えず。
「んー、よく分からないけど……やい淫魔! とにかく耳揃えて返すにゃ! あたしの寿命賭けてやるから、勝ったらそっくり返してもらうにゃっ!」
 びしっと指差し啖呵を切る珠緒。するとヴェルディアが微笑んだ。
「それは構いません。正当なルールですから」
「決まったにゃ! じゃあゲーム開始……あ」
 珠緒が情けない顔を七星に向けた。
「あたし、ゲームのルール知らないにゃ」
「いいよ。勝負は俺が代わりにする」
 七星が苦笑して言い、テーブルについた。
「大丈夫、きっと勝てるよ! 何たって、あたしが居るんだから!」
 夏生が皆を元気づけるように言った。その言葉、果たして本当になるかどうか――それはカードのみが知っている。

【時に怯えし少女【調査編】 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0173 / 武神・一樹(たけがみ・かずき)
            / 男 / 30 / 骨董屋『櫻月堂』店長 】
【 0060 / 渡橋・十三(とばし・じゅうぞう)
           / 男 / 59 / ホームレス(兼情報屋) 】
【 0164 / 斎・悠也(いつき・ゆうや)
           / 男 / 21 / 大学生・バイトでホスト 】
【 0249 / 志神・みかね(しがみ・みかね)
                    / 女 / 15 / 学生 】
【 0017 / 榊杜・夏生(さかきもり・なつき)
                   / 女 / 16 / 高校生 】
【 0177 / 瀧川・七星(たきがわ・なせ)
                   / 男 / 26 / 小説家 】
【 0234 / 白雪・珠緒(しらゆき・たまお)
 / 女 / 20代前半? / フリーアルバイター。時々野良(化け)猫 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全15場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・さて最初に謝っておきます。先日出した依頼『奪われし時間の謎』が本依頼に関係あることを、オープニングではわざと伏せていました。まあ色々と事情もありまして。
・それから本依頼を発注されたのが、同時に出していた高原の他の依頼より後だという方も居られるかもしれません。『何故こちらが先?』という疑問もあるでしょうが、これも色々と事情がありまして。と、言い訳はこのくらいにしておきましょう。
・予めオープニングにありましたように、本依頼は完結編へ続きます。続けてご参加されるかはご自由ですが、参加されない場合でもゲームに参加せずその場に留まっている物として扱わせていただきます。もちろんその際にはペナルティも何もありません、ご安心を。
・完結編ですが、ポーカーで勝負します。ポーカーのルールはご存知ですか? 完結編では、高原は実際にカードを使用して執筆する予定です。
・武神一樹さん、4度目のご参加ありがとうございます。力が効かなかったのは、相手が……だからです。ちなみに実際に成功判定を行いましたが、失敗の判定となりました。万一成功していれば、この依頼はここで終了となっていました。正体に関する読みは大正解です、ご立派。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。