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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


時に怯えし少女【調査編】
●オープニング【0】
『お姉ちゃんを助けて!』
 ある日のゴーストネット掲示板に、このようなタイトルで始まる書き込みがあった。近頃こんな書き込みが多いなと思いつつも、とりあえずは読み進めてみた。
『お姉ちゃんが帰ってこないんです!
 夜に出歩くことは多かったけど、帰ってこないことなんてなかったのに。
 昨日の夜中に『私は時に殺される』なんて電話をかけてきて、そのまま。
 あんなに怯えた声のお姉ちゃん、初めてでした……。
 最近のお姉ちゃん……妙にお金持ちだったし、だから私心配で。
 お願い、誰かお姉ちゃんを探して助けてあげて!』
 なるほど、居なくなったのは昨日の今日か。なら、今警察に行ってもまず相手にされないだろう。事件性でもあれば別だが、この話だけではちと弱い。
 この手の事件はどこぞの探偵にでも任せた方がいい気がするものの、どこか気になるのも事実だ。
 そもそも『私は時に殺される』って、どういう意味だ?

●食べてやるのにゃっ!【1B】
「一仕事終えた後の、このダラダラ加減が心地いいんだよな〜」
 少し惚けた表情で、小説家・瀧川七星はパソコンに向かっていた。マウスを操作して、あちらこちらのサイトを閲覧している最中であった。
「締切より早く原稿上がったし、さーて何して過ごそうかな〜」
 のんきそうな七星の声。ここは七星の自室である。部屋の片隅では、綺麗な毛並みの白猫がゴムボールとじゃれている所であった。
「……んっ?」
 七星のマウスを動かす手が止まった。
「タマ、おいで」
 七星が白猫を呼ぶと、白猫はゴムボールから離れ、飛ぶように七星の膝の上へやってきた。
「七星、何見てんの?」
 白猫が人間の言葉を喋った。
「インターネットだよ。見てごらん、この書き込み」
 画面を指差す七星。しかし白猫のタマ――白雪珠緒は、ぷいっとそっぽを向いた。
「食べられないんなら、つまんないにゃ」
「いいから見ろって。これ、何となーく見覚えないか?」
 七星が無理矢理、珠緒の顔を画面へ向けた。珠緒はじたばた暴れ、逃れようとした。
「痛いにゃ、七星止めるにゃっ……あれ? 時に殺される……?」
「この間のカジノのことだろ」
 七星がさらりと言った。
「あっ、そうにゃ! この間の乙姫の淫魔にゃ! なら、これもきっとそいつらの仕業だにゃ!」
 証拠もなしに珠緒が決め付けた。そんな珠緒に苦笑する七星。
「でも、あいつらは直接は悪いことしてなかっただろ?」
「でも若者をたぶらかしてるにゃ! それは悪いことなのにゃ! だから悪いことしたのは食べるのにゃ!」
 珠緒が三段論法を展開した。七星がじーっと珠緒を見下ろしている。
「な、何見てるにゃ? ……べ、別に魔物が食べたいから言ってる訳じゃないにゃっ」
「タマ。よだれ」
「にゃっ!?」
 七星の指摘に、珠緒は慌てて前足で顔を洗った。
「まあ、助けるのは簡単なことさ。リミットまでに、カジノで勝ってこの子の姉さんに戻してやればいいのさ。一番単純な方法だよ。それより問題はどこの誰を助けるのか、だけど……」
 七星は少し思案してから口を開いた。
「とりあえず、この子に連絡取ってみないとな〜」
 そういう七星の表情はどこか楽し気だった。いい過ごし方が決まったとでも思っているのか、いないのか。
「待ってろ、乙姫淫魔! 今度こそこの珠緒さまが食べてやるのにゃっ!! そうと決まれば七星、早く行くのにゃっ!!」
 珠緒はぴょんっと七星の膝から飛び下り、くるりと大きく1回転した。たちまち猫の姿から人間の姿へと変身する珠緒。
「だからタマ。よだれ」
「にゃっ!?」
 珠緒は慌てて口元を手で拭った。
 その後、七星は無事に連絡を取り、投稿した少女が大内亜美(おおうち・あみ)、その姉が歩実(ふみ)であることが分かった。

●姿見せし女性・再び【4C】
 夜の新宿・歌舞伎町。とある喫茶店の前に、七星と珠緒はやってきていた。
「確かここだったよなー」
 七星がきょろきょろと辺りを見回した。この喫茶店、先日の調査に来た際に入った店だ。
「七星、どうしてまっすぐにあの乙姫淫魔の所へ向かわないの?」
 不機嫌そうな珠緒。どうやらわざわざここへやってきたことが不満らしい。
「……向かったさ。ここに来るまで遠回りしたろ。それだよ」
 溜息混じりに七星が言った。ここへ来る前、例のカジノの入口があるはずの場所へ向かってみた。だが入口はおろか、そこへの道さえも何故か消え失せていたのだ。
「まあ、ここで『カジノに行きたい!』って念じてみなよ。こないだみたいに現れるかもしれないぞ?」
「何馬鹿げたこと言ってるの。探す気ないなら、1人で行く……にゃっ?」
 珠緒が大きく目を見開いた。驚きの表情である。
「ほら、現れたろ」
 さらりと言う七星。黒く長い髪を持ち白いスーツに身を包んだ女性が、2人に近付いてこようとしている所だった。

●千客万来【5】
「お願いっ! 私の時を返してよぉっ!!」
 地下へと通じる階段を降りドアを開くと、斎悠也の耳に少女の泣き叫ぶ声が聞こえてきた。
 明るく広い室内には、片隅にバーカウンターがあり、中央にはカードゲーム用のテーブルが3卓置かれていた。その中央のテーブルで、少女が青いドレスの金髪の女性にすがりついて泣き叫んでいた。他には誰も居ない。
(あれが歩実さんか……しかし)
 悠也の目の前に歩実は居た。だが写真よりも少し大人に見える。写真よりも痩せてそう見えるだけなのだろうか?
「わ、何ここ?」
「これって……カジノ?」
 背後から少女たちの声が聞こえてきた。悠也が振り向くと、そこには亜美の家で会った榊杜夏生と志神みかねの姿があった。
 それに少し遅れ、2人の女性が入ってきた。
「千客万来ですね」
 黒髪で白いスーツの女性の言葉に、隣の銀髪で紅いチャイナドレスの女性が頷いた。
「お入りなさい」
 銀髪の女性がそう言ってドアを開いた。ぞろぞろと入ってくる者が4人。渡橋十三、武神一樹、瀧川七星、白雪珠緒の4人であった。
「ようこそ、『時のカジノ』へ」
 黒髪の女性はにっこりと微笑んだ。

●取り返すには【6】
 テーブルを挟み対峙する7人と女性たち。一樹や七星たちを連れてきた2人も、黒髪の女性は白いドレスに、銀髪の女性は紅いドレスに各々着替えていた。
「また訪れましたね」
 黒髪の女性が十三・七星・珠緒の方を向いた。
「来たかなかったけどよ……望み通りに来てやったぜ」
 自嘲気味に笑う十三。七星がそれに続いていった。
「あの子の時間、返してもらいに来たよ」
 あの子――歩実は床の上で呆然と座り込んでいた。
「えっ、それどういう意味?」
 夏生が驚いたように言った。そんな夏生を含め、ここを初めて訪れた4人に説明する七星。
「ここは見ての通りカジノなんだよ。けど普通と違う。時をチップにカードゲームに興じる場所さ」
「その通りです。勝ちし者には相応の金運を、負けし者には時の剥奪を与える場所なのです。そちらの方々にはご挨拶が遅れましたね。私の名はヴェルディア。銀髪の彼女の名はウルディア、その隣がスクディアと申します」
 夏生やみかねたちにヴェルディアたち3人は各々頭を下げた。だが一樹と悠也は3人の名前を聞いた瞬間、何故か眉をひそめた。
「つまりこういうことか。『時に殺される』というのは、すなわち負けたと――」
「ええ。そうなりますね」
 一樹の言葉にヴェルディアが頷いた。
(なるほど。この3人の力で時を奪われることになっているのか)
 一樹はつかつかと歩実に近寄り、自らの力で解除を試みようとした。だが――。
「なかなか面白い力をお持ちなのね」
 スクディアが静かに一樹に言った。驚いてスクディアを見る一樹。
「けれど無駄だわ。よほどのことがない限りは、時の剥奪を阻止することはできない」
「なら、どうすればいいの?」
 みかねがヴェルディアに尋ねた。ヴェルディアが口を開き何か言おうとする前に、七星がそれに答えた。
「ゲームで奪われた時は、リミットまでにゲームで取り返すしかない……だっけ。確かリミットは負けた翌々日の夜明け」
「負けたのが昨日ってこたぁ、リミットは明日の夜明けだな。ほれ……どっこいしょっと」
 十三はテーブルの椅子を引いて座った。

●相手はまさか【7】
「思い出した!」
「思い出しました!」
 一樹と悠也の声が重なった。
「どうも名前に聞き覚えがあるかと思えばノルンの3姉妹かっ! いや、厳密には名前が違っているが……時を操るといえばやはり……」
「ノルンて何、七星? 食べ物?」
 きょとんとして珠緒が言った、
「北欧神話に出てくる運命の女神ですよ。過去を司るウルド、現在を司るヴェルダンディー、そして未来を司るスクルド……名前も似ていて、見事なまでに一致している。いったいあなた方は……」
 畏怖の念を抱く悠也。しかし目の前の3人は黙して答えず。
「んー、よく分からないけど……やい淫魔! とにかく耳揃えて返すにゃ! あたしの寿命賭けてやるから、勝ったらそっくり返してもらうにゃっ!」
 びしっと指差し啖呵を切る珠緒。するとヴェルディアが微笑んだ。
「それは構いません。正当なルールですから」
「決まったにゃ! じゃあゲーム開始……あ」
 珠緒が情けない顔を七星に向けた。
「あたし、ゲームのルール知らないにゃ」
「いいよ。勝負は俺が代わりにする」
 七星が苦笑して言い、テーブルについた。
「大丈夫、きっと勝てるよ! 何たって、あたしが居るんだから!」
 夏生が皆を元気づけるように言った。その言葉、果たして本当になるかどうか――それはカードのみが知っている。

【時に怯えし少女【調査編】 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0234 / 白雪・珠緒(しらゆき・たまお)
 / 女 / 20代前半? / フリーアルバイター。時々野良(化け)猫 】
【 0177 / 瀧川・七星(たきがわ・なせ)
                   / 男 / 26 / 小説家 】
【 0164 / 斎・悠也(いつき・ゆうや)
           / 男 / 21 / 大学生・バイトでホスト 】
【 0249 / 志神・みかね(しがみ・みかね)
                    / 女 / 15 / 学生 】
【 0017 / 榊杜・夏生(さかきもり・なつき)
                   / 女 / 16 / 高校生 】
【 0060 / 渡橋・十三(とばし・じゅうぞう)
           / 男 / 59 / ホームレス(兼情報屋) 】
【 0173 / 武神・一樹(たけがみ・かずき)
            / 男 / 30 / 骨董屋『櫻月堂』店長 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全15場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・さて最初に謝っておきます。先日出した依頼『奪われし時間の謎』が本依頼に関係あることを、オープニングではわざと伏せていました。まあ色々と事情もありまして。
・それから本依頼を発注されたのが、同時に出していた高原の他の依頼より後だという方も居られるかもしれません。『何故こちらが先?』という疑問もあるでしょうが、これも色々と事情がありまして。と、言い訳はこのくらいにしておきましょう。
・予めオープニングにありましたように、本依頼は完結編へ続きます。続けてご参加されるかはご自由ですが、参加されない場合でもゲームに参加せずその場に留まっている物として扱わせていただきます。もちろんその際にはペナルティも何もありません、ご安心を。
・完結編ですが、ポーカーで勝負します。ポーカーのルールはご存知ですか? 完結編では、高原は実際にカードを使用して執筆する予定です。
・白雪珠緒さん、7度目のご参加ありがとうございます。プレイング楽しく読ませていただきました。その結果が本文ですが……いかがだったでしょうか?
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。