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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


久遠堂〜死者との逢瀬〜

<協力者たち>

 月刊アトラスから依頼が出せなくなり、草間興信所も見限られた。追い詰められた三下が依頼を出せるところはゴーストネットしか無くなっていた。ゴーストネットで出された依頼に参加した者とは、捜査現場である東京タワーで合流したことになっていた。
「三下さんの為ならどこまでも〜♪」
 口笛を吹きながら弾んだ足取りで東京タワー内を歩く一人の少年。ガッチリと引き締まった体格と、小麦色の健康的な肌をもつスポーツマン風の彼は、依頼を出した三下を探していた。湖影龍之助。三下に恋する体育会系の高校生である。
 やがて彼は、ひょろひょろと彼とは対照的に不健康な体格をした猫背のサラリーマンを見つけた。三下である。湖影は三下の肩をぽんぽんと叩き白い歯を見せた。
「俺に言ってくれればいいのに、三下さん。つれないなぁ」
「は、はぁ・・・。どうも」
 三下は疲れたように頭を下げた。湖影とはホワイトデーパーティで会って依頼だが、パーティ会場で告白されて以来、どうにも苦手になってしまっていた。上司の碇などは「良かったわね〜。可愛い彼氏ができて」と笑われ、同僚たちから見られる視線も変わった。湖影の顔を見てしまうとどうしても複雑な気持ちに囚われてします。そんな三下の気持ちを知ってか知らずか、久しぶりに憧れの君に会えて湖影は無邪気な満面の笑顔で三下を見つめている。この笑顔を見てしまうと何も言えなくなってしまう三下であった。
「ああ、いたいた!」
 二人に近づいてきたのは、これまた風変わりな二人組み。目にも鮮やかな赤髪の女性に、バンダナを締めた青年。お互いTシャツにズボンというラフな格好しているこの二人は、獅王一葉に鈴宮北斗の関西系コンビ。三下は獅王の顔を見ると「うっ」と言って後ずさった。上司にそっくりなこの女性がどうにも苦手なのだ。
「三下はん、よう店見つけられたなぁ。せやけど危険っちゅうて追い返されたんやったらまた原稿書けへんやないの。しゃあない、また代わりに原稿書いたるわ。…この貸し、高いで?」
「なんでまた獅王さんが書いちゃうんですか!?お陰で僕の立つ瀬が・・・!」
「そんなもん前から無かったやろうが」
 容赦の無い獅王の言葉にショックを受ける三下。確かにその通りなのだが・・・。
「それにホワイトデーの送りもん、まだ受け取ってなかったな。そこの兄ちゃんと探しに行ったんやろ?」
 そこの兄ちゃんこと湖影を指差す獅王。
「いや、まだ見つかってないっすよ。折角一緒に探そうって言っても三下さん一緒に来てくれなくて・・・」
 湖影は少し寂しそうな顔をした。その顔を見て獅王は三下をさらに問い詰める。
「何とろとろしとるねん?彼氏が一緒に探してくれるいうとるんや、さっさと探さんかい!」
「はいぃぃぃぃ」
「まぁまぁ、獅王もそんなに三下さん追い詰めんと・・・。」
 鈴宮が獅王をなだめて、ひとまずこの話は後ほど話し合われることになった。
「ま、これも縁や。しゃーない。俺も一緒に行ったるわ」
「助かりますぅ」
 牛乳ビン眼鏡に滂沱の涙を流しながら鈴宮の手を握る三下。そんな彼はというと、心ここにあらずといった表情で三下を見つめていた。彼は久遠堂に思いを馳せていたのだ。
 親父とお袋の会えるといいな、と。

<それぞれの理由>

「どうしますか、この依頼?」
 事務員に問いに、主は珍しく即答した。
「行くよ」
 ここは鷲見探偵事務所。やる気がないことで著名な陰陽師が探偵をしている事務所である。そのやる気のない主、鷲見千白は今回の依頼に珍しく(恐らく初めて)積極的に関わる意志を明らかにした。ぼさぼさの手入れがあまりされていない髪の毛に、シワだらけのよれよれの男物のシャツという格好だが、瞳だけはやる気で輝いていた。
「分かりました。特に抱えている依頼もありませんし、今回はごゆっくりどうぞ」
 主がどのような理由で今回の依頼にやる気を示しているか分かっている事務員は、微笑を浮かべて返事をしてパソコンに向き直る。心配そうな目で自分を見つめるバイトの少年に、主はパタパタと手を振って答えた。
「大丈夫、まだ向こうに行ったりはしないよ」

 自宅のパソコンの画面を眺めながら、少年はため息をついた。
「それが事実なら少々危険な話だな」
 ネットサーフィンをしている間に見つけた久遠堂の依頼。だが、危険な分得られるものもあるかも知れない。彼、陰陽師である雨宮薫は今までの戦いを振り返ってあることが気になっていた。彼の両親は彼が5歳の時に事故死しており、祖母の元に引き取られている。祖母と守役である青年に囲まれ何不自由なく暮らしていた彼に、両親の事は別段気になる存在ではなかったはずだ。だから彼は5歳以前の記憶が無いことに何の不都合も感じてはいなかった。今までは。
 だが、本当に両親は事故死であったのであろうか。両親についての資料をいくら探しても無いのである。陰陽師の名家天宮本家に、しかもその当主であったものの資料が一切無いというのはおかしい。何か隠された秘密があるのではないか。例えば敵対関係にある七条家などが関わっていたとか・・・。
「聞いた方が早いかもしれんな・・・」

 東京タワーを目の前にして、一人の女性が思いに耽っていた。青銅色の髪をもった無表情な女性。
(死者に会う・・・。それが理に反する行為なのか、私には判断できない。いや、おそらくはあってはならぬ事なのだろう。万物全て、滅びは必然の事。その理が崩れてしまう)
 今回ゴーストネットに出されていた久遠堂の依頼。それは死者に会うことができるという場所を調査するという内容だった。
(・・・だが・・・一方で、私はもう一度、師に会いたいと思っている・・・。それは否定できない思惑だ。今まで考えた事はなかった、だが今目の前にその手段がある。わからぬ。私はどうすればいいのだ。師よ、貴方は私を愚かだと思うのだろうか)
 彼女、和泉怜はその赤い瞳で天を仰ぎ見た。ここで引き返すことは簡単だ。しかし胸の内に生まれたこの思いはどうしようもない。このまま悶々とした思いを抱いたまま何もなかったかのように過ごす事は苦痛である。師に会い自分の思いを確かめるべきだろう。
 和泉は東京タワーへと入っていくのであった。

<久遠堂>

 今回の依頼を受けたものは総勢12人。その中には死者と会う事に特別な思いを抱いているものが複数いる。高校教諭である有賀仁もその一人だ。普段は金髪にド派手な薔薇柄模様のシャツ、紫色のネクタイなど、およそ教師らしからぬ格好をしている彼だが、今日は違った。脱色した髪は変わらないものの、黒のスーツに黒いネクタイ手には菊の花束まで握られている。まるでこれから墓参りにでも行くような格好である。
(松宮・・・。本当にお前に会えるのなら俺は・・・)
 顔つきもふだんのにやけづらではなく真剣なものになっている。自分が救うことのできなかった生徒。せめて一度詫びたい。そしてできるのであれば悩んでいたことについて話し合いたい。まだ間に合うというのなら・・・。
 と思えば、こちらは現実的な問題で参加している者がいる。
有賀と同じく金髪に、青のカラーコンタクトを入れたより派手な男。ホストクラブを経営している黛陬である。黛の参加理由は2ヶ月前に自殺した前クラブ店長との話し合いである。
(秘密金庫の場所は明かさないわ、店には出てくるわ・・・。一体何を考えているやら)。
 これからのホストクラブの経営のために、店に度々現れるという前店長に二度と彷徨い出てこないように要求しなくてはならない。ついでに隠し金庫の場所も吐かせて自分のポケットマネー・・・いや、クラブの経営資金として使わせてもらわなければならないだろう。
 それとはまったく別に、この依頼に関して本気で冥界に行けるはずなどないと思っている者もいた。久我直親である。黒のスーツにネクタイという黒づくめの陰陽師は、依頼自体に興味をもったものの、正直ガセネタであるような気もしていた。
「また妖し気なモノを調査してるんだな、三下」
 彼は苦笑いを浮かべて三下に声をかけた。
「そりゃあ、うちは妖しいものの特集が仕事ですからね」
 月刊アトラスは心霊など怪奇ものを扱う雑誌である。三下も編集員としてそれのネタ探しに奔走している毎日である。もっとも傲慢な編集長の没宣言を何度も食らっているが・・・。この頃はネタ自体は本物であるものの、原稿書きで失敗しているためいい加減今回こそは成功しなくてはなるまい。
「大丈夫です。もし何かあったら私がお守りしますから」
 そう言って一人の女性が三下に優しく微笑む。着物を着た妙齢の女性。巫女の天薙撫子である。彼女は先祖に会いたいということでこの依頼に参加していた。まぁ、三下があまりにも憐れなことに同情してという理由もあるのだが・・・。
 今回集まった人間が共通で疑問に感じていたことがある。なぜ三下が、こんな場所に久遠堂が現れることを知ったのか。ということである。三下はしくしくと泣きながら語り始めた。
 ある日、あまりの世の無情さに虚しさを覚えて、つい閉館時間を過ぎてまで夕日を眺めていた三下の目の前に突如現れた久遠堂。あまりの突然の事に腰を抜かしたものの、震える手足を励ましながらなんとか古ぼけた店内に入った彼を迎えたのはいつもの店員であった。今回は冥界への扉が商品となるが、お客様だけではいささか危険な場所ですので・・・ということで丁寧にではあったが断られてしまった。
「折角僕も入れたんです!今度こそ、今度こそこの特ダネを・・・!」
 拳に握り締めて己が決心を表明する三下。彼は以前、久遠堂の場所すら見つけることができなかった。不思議を求め、不思議な力が無いと見つけることのできない。やっとめぐり合えたこのチャンスを逃すわけにはいかないだろう。
 久遠堂が出現するのは夕方。今しばらく待たなくてはならないだろう。依頼を受けた者たちは思い思いに散っていった。

 黄昏時の東京。真っ赤な夕日が摩天楼を照らし出し、血で染め上げたかのように真紅に彩る。
 依頼を受けた者たちは三下の元に集まっていた。彼が見つけたという伽藍堂が出現した場所の前に。
 やがて。
 チリリィィィィン。
 澄んだ鈴の音が聞こえてきた。久遠堂に近づくと聞こえる鈴の音。何も無かった空間に変化がおきた。水面に起きた波紋のようなものが発生し、空間が歪み始める。そして徐々にそれは姿を表し始めた。
木造の古めかしい作り。周りは蔦で覆われ独特な雰囲気をもつ。年季が入っている看板には久遠堂と書かれていた。
 三下がガラス張りの戸を開けると、ちょっと土臭い、洞窟のような匂いがたちこめていた。内部はただ木製の床と壁、天井があるだけのがらんと場所で、ひんやりとしている。中は薄暗く、はるか先は暗闇に包まれていて何も見ることができない。
「これが久遠堂・・・」
 初めて久遠堂に入る者は、出現の時のインパクトといい圧倒されていて、おっかなびっくり入っていく。中は広く13人が入ってもまだ余裕があった。だが、ここは店だというが商品はおろか何も置かれていない。一体ここは何を扱っているのだろうか。
 彼らの頭に疑問が出てきたとき、また鈴の音が聞こえてきた。
 チリィィィィン。
 そして足音も聞こえてくる。徐々に大きくなっていくその音は、何者かが接近していることを示していた。薄暗闇の中、人影のようなものが姿を現し、彼らに向かって頭を下げた。
「ようこそ、久遠堂へ」

<黄泉への入り口>

「また寄らせてもろたで」
 鈴宮が片手を上げて挨拶した。以前、彼は他の依頼で久遠堂を訪れことがあったのだ。
「おお、これはこれは・・・。鈴宮様でしたね。今回もご利用いただきまして有難うございます。・・・確かそちらは」
「獅王や。久しぶりやな」
 その時同行していた獅王も気軽に挨拶を返した。
「これだけの人に一緒に来てもらいました・・・。どうでしょうか・・・?」
 おずおずと尋ねる三下に、人影、店員は依頼に参加した者たちを一人ずつ見つめ(もっとも暗闇の中なのではっきりとはわからないが・・・)、ゆっくりと頷いた。
「よろしいでしょう。これだけの方々がご一緒であれば問題はございますまい。皆様のお求めの品は三途の川・・・ということでよろしいでしょうか?」
 全員が頷くのを見て、店員は後ろを指し示した。
「では参りましょう。黄泉の入り口、三途の川までは私が御案内いたします」
 そう言うと返事も聞かずに歩き出す。顔を見合わせた彼らは仕方なく店員の後をついて行く。
 列の最高尾にいる女性が先頭を歩く店員を見つめながら思った。赤い十字の縫い取りが施された黒い修道服を着た端正な顔の女性ロゼ・クロイツ。
(過去との邂逅など意味のないもの。されど、何故にここへ足を踏み入れたのか。我が主は本当にここにいるのか。その真偽を確認しに来ただけだ。…それだけだ)
 魔を滅するための傀儡人形である彼女に芽生えた不思議な感情。彼女に神の教えをすり込んだ主グラフ・ラスタクロイツ。もし彼に会えたなら何を問えばいいのか。だが会いたい。何故なのか分からないが・・・。彼女もまた和泉と同じように複雑な思いに囚われていた。ただの傀儡人形が感じるはずのない感情というものを。

 店員にうながされるまま店内を進むにつれ、徐々に内装が変わり始めた。木製の古びた作りから。ごつごつとした岩の壁へと。まるで深い洞窟の底に向かっていくようなそんな感じに囚われる。道もどうやら坂になっているようで下へ下へと降りているようだ。もう何日も歩いてるような、それでいてまだ10分も歩いていないような不思議な感覚。
 もうどれほど歩いたか分からなくなった時、彼らの耳に水の音が聞こえてきた。遠くかすかではあるが、僅かに聞こえる水の流れる音。そして洞窟は急に開けた空間へと繋がった。
「お待たせいたしました。こちらが三途の川となります」

<三途の川 それぞれの解合>

 目の前にはまるで海のような果てしなく続く水たまりが存在していた。だが、静かに流れるその流れは間違いなく川のもの。足元は先ほどの洞窟と同じ、ごつごつとした岩だらけの地面で歩きにくい。ここが冥界の入り口三途の川なのだろうか。
 興味津々と言った様子で回りを見渡す彼らの前に、小柄な老婆が姿を現した。ぼろぼろの衣類を纏い腰まで届く白髪の醜い老婆。彼女は陰険な笑いを浮かべながら彼らに近づいてきた。
「おやおや、一度にたくさんの連中が来たねぇ。ここは三途の川。黄泉の入り口さ。さ、服を脱ぎな。あんたらの罪を計らなきゃならん」
「ご無沙汰していますね。脱衣婆さん。私ですよ」
 親しげに挨拶する店員に老婆は驚きの声を上げた。
「これは久遠堂の旦那じゃないですか!?いやぁ〜久方ぶりにお会いしたがまったく変わっとらんねぇ」
「貴女もお変わりないようで」 
「今日はアレかい?」
「ええ。お客様が12人もおいでになられて・・・」
「そういや、全員確かに生きてるねぇ。死んでないクセにここにこれるなんて滅多にない機会だからせいぜい冥府を堪能するんだね。でもあんまり深くのめりこみ過ぎると引きずりこまれちまうよ。気をつけな」
 イッヒッヒと歯の抜けた口でそう笑うと老婆は去っていった。
「脱衣婆さん相変らずですねぇ。・・・さてと、ここが三途の川となります」
 向こうを流れる巨大な川を指し示し、店員は全員に注意事項を伝え始める。
「三途の川に向かって会いたい人の事を強く念じてください。ここまで無事にこれたということはそれなりのお力をお持ちのはず。その想いが届けば三途の川の向こう岸よりお客様がお望みになるお方がお出でになられるはずです。色々とお話になってみてください。ただ、あまり向こうに感情移入されないように・・・。帰ってこられなくなりますよ。では、ごゆっくりどうぞ」
 店員はペコリとお辞儀をした。
 さて、どうするべきか・・・。12人はそれぞれに考え、思い思いに散って行った。自分の会いたい者に会うために。

<湖影龍之助十七歳の場合>

 実は俺、三下さんと一緒に行きたいだけで周りに特に死んだ人いないんだよな〜。どうしよう・・・。と、とりあえず死んだばあちゃんとでも話してみるか。
 ばあちゃん、とりあえず他に候補がいないんで出てきてください。
 ・・・・・・。
 ほんとに出てきてやがんの。
「おや、龍坊じゃないの。あんたもう死んじまったのかい?親不孝だねぇ」
 違う違う。俺死んでないって。
「なんだ。死んでないのか・・・。じゃあなにしにきたんだい?」
 いやまぁ、なんていうか・・・。さすがにストレートに「なんとなく」とは言えないよなぁ。ばーちゃん元気でやってる?…俺?元気元気。
「馬鹿だね。死んでから元気も何もあるかい」
 そりゃそうだね。特に他に話すこともないしこれで帰るかな・・・。あ、俺三下さんのトコ帰んなきゃいけないから行くわー。三下さんて、俺の好きな人ね。
「へぇ、彼女ができたのかい?」
 まぁ、そんなとこかな。
「大事にしてやんなよ。あんたみたいな子好きになってくれる人なんてあんまりいないんだから」
 ひどい言い草だなー。まぁ、いいや。んじゃな、ばーちゃん。
「ほんとに何しにきたんだか・・・」
 三下さんの付き合いさ。って三下さんはどうしたかな。ってああ!謎のおばあちゃんとニコニコ笑顔で話して連れていかれそうになってる!?だめだ、三下さん。それ以上行ったら帰れなくなっちまう!

<鷲見・千白二十八歳の場合>

 まさかこの人と会えるとはねぇ。信じてなかったわけじゃないけど、実際目の前であの時の姿で出られると言葉なくなるもんだ。各務義高。高柄の親父さんにしてあたしの師匠。もっともさぼってばっかりであまり誉められた弟子じゃなかったけど。
「久しぶりだな。息災か?」
 まぁ、ぼちぼちだね。そっちは相変らず美形で元気そうだね。
「あの世というのを謳歌しとるよ」
 そりゃ良かった。
「高柄は元気か」
 元気だよ。あいつはしっかりしてるから問題ないでしょ。
「それはそうだ」
 苦笑する姿、変わってないね。
「お前の子どもは幾つになったのかな」
 もう10歳じゃないかな。あたしが28だから・・・。
「そうか、会うつもりは・・・ないか」
 ロクに面倒も見てないでどの面下げて会いに行けって。
「ふ。そうだな。面倒くさがりのお前と息子が出会っても仕方ないか」
 そういうこと。あたしが母親ですなんて行ったらショックだよ。あの子にとって。
「ふむ・・・」
 そうだ。あのさ、前々から聞きたかったことなんだけどさ。
「なんだ?」
 私を恨んでない?
 陰陽師に成り立てのあの頃。つまらないミスでピンチになった私を庇って死んでしまった。あの時私がトジってなけりゃあんたは・・・。
「恨むというよりは・・・心配だな。その格好を見ても相変らずやる気は思い切りなさそうだし」
 ほっといて。思い切りを強調するんじゃない。
「事実だろうが。皆に迷惑かけてるんじゃないかとそれだけが心配だ」
 余計なお世話。そりゃまぁ、迷惑かけてる部分はあるだろうけどさ・・・。
「ま、ぼちぼちやることだ。焦らずにな」
 分かってるよ。
「お前はあまり早くこちらに来るなよ」
 はいはい。分かりましたよ。
 師匠との別れは済んだ。これでいいだろ。一応前から気になっていたことは解決したし。
 あれ、眼がにじむねぇ。花粉症にでもなったかな?

<天薙撫子十八歳の場合>
 
 ああ、これがご先祖様ですのね。なんて凛々しいお姿。この方こそが、天薙家の初代にあたる天薙祗清明(あまなぎのきよあき・あまなぎせいめい)様。平安時代に活躍された陰陽師。三下さんが心配でしたのでついて参りましたけど、ほんとにご先祖様にお会いできるなんて思いませんでした。
「我が血筋の者よ。息災か?」
 はい。元気です。
「それは良い。ところで、そなたあの不人と戦っておるな」
 まぁ、不人をご存知ですの?ご先祖様。
「知っておるもなにも、わしの宿敵じゃ」
 そうでしたか。
「あの頃からあやつは強かったが・・・。苦戦しておるようじゃな」
 お恥ずかしながらまだ未熟で・・・。
「精進せいよ」
 はい!
「ところで、お前が脇にさしているものは『神斬』か?」
 え!?これですか・・・。ま、まぁ、そうなんですけど。どうしましょう。これ、お祖父様に無断で持ってきてしまったのです。本当は当主しか携帯を許されないものなんですけど。困りましたわ。
「もうお前が当主になったのか?」
 え、その〜それは・・・。
「お前が当主では先が思いやられるのぅ。あの不人にあれだけてこずっているようでは・・・」
 こめかみに手を押さえて苦笑されていらっしゃるわ。当主ではないんだけど、当主じゃないことお話したら怒られそうだし・・・。どうお話すればよいのかしら。
「まぁ、まだ若いからの。色々とやりたいこともあろう。だが、修行をおろそかにしてはいかんぞ」
 あら、勝手に解決してしまいましたわ。ラッキーでしたわね。でもご先祖様があの不人と戦っていたなんて驚き。負けるわけにはいきませんね。
 そういえば三下さんはどうされたのかしら?あら、湖影さんが必死に川に入ろうとしている三下さんを止めていらっしゃるわ。あのまま行ったら本当に死んでしまいますわ。止めませんと。妖斬鋼糸で絡め取り引き摺り戻しましょう。多少擦り剥いてしまうかもしれませんが、ごめんなさいです。

<獅王一葉20歳の場合>

「あんた変わっとらんへんね」
 開口一番、ばあ様の台詞はそれだった。獅王琴葉、和服を好んで着て、温厚な人でいつも穏やかに微笑んで、誰からも好かれる人やったわ。そういやうちが力持っとると気付いたんもばあ様やったな。
「そんな男みたいな格好して・・・。もっと可愛い服でも着たらどうや?」
 そういわれてもなぁ。どうも女の子っぽいって言われる事、苦手やし、憧れもしないで。
「そういう問題やないで。まったく・・・。人様に迷惑をかけてないやろな?」
 かけとらへんと思う。多分・・・。
「多分ってなぁ・・・。大体お前は子供の頃から男勝りやったし、お洒落や裁縫とかより運動とか研究とかの方が好きやったから心配だったんや。彼氏の一人もおらんの?」
 別におらへん。今んとこそっちより薬の研究に集中したいからな。
「またそんなこと言うて・・・。頼むから早よ結婚して両親安心させなはれ」
 はいはい。わかっとるわ。これ以上いるとさらに文句いわれそうやな。もうここらへんでええかな。
「一葉・・・。お前が不思議な力を持っているのはきっと神様のお陰や。悪い事に使こうたらあかんで。気いつけや。まぁ、うちが見張っとるさかい馬鹿な真似したらツッコミいれるで」
 うわぁ。ほんまかいな。三下はんへのツッコミ気をつけよ。
「じゃあな。達者で暮らせよ。ほなさいなら」
 さいなら。まぁ、ばあ様は相変わらずのようやし心配はないようやな。さて、無事に帰ったら酒盛りしよか!

<鈴宮北斗十八歳の場合>

「北斗・・・」
 親父にお袋・・・。久しぶりやな。
「立派になったなぁ。何歳になった?」
 俺も、もう18や。あれからぎょうさんあったけど、俺は元気でやっとる。
「そうか」
 2人に助けられた命、無駄にせんよう毎日生きとる。せやから、何も心配することあらへんで・・・。
「男なら人前で泣くもんやないで」
 泣いてなんかあらへん・・・ってあれ、目がかすみよる。はは、ゴミで入ったんかいな。
「北斗・・・。ご免な。あんたの傍に居られなくて」
 何いうてん。親父とお袋のお陰で今の俺があるんや。謝ることなんてないで。
「泣き虫なところだけは変わらへんがな」
 泣き虫やないって。
「そういえば、あの火事の時・・・。小さいお前を預けた人がどうもお前に似ているように見えるんだが気のせいかいな?」
 それは・・・。そう、気のせい。気のせいや。
「そうか。今のお前と酒でも飲んでみたかったが・・・」
「あんた、今の北斗はまだ18やで。無理や」
「そうやな。だが、俺は18の頃もうガンガンいってたで」
 まったく、何勧めとんねん未成年に。
 親父、お袋、こんなん言うたら子供みたいやて笑うかもしれへんけど、もう一度名前呼んで抱きしめて欲しいんや・・!あの時みたいに・・・。
「何言うとん。体はでかくなったのに心はガキかいな」
「あんた、そういわんと。この人こんな事いうてはるけど、ほんとは照れてるんやで」
「うるさい!何馬鹿な事・・・」
 そういえば親父の顔赤くなっとるなぁ。二人とも幸せそうやなぁ。羨ましいで。
「アホ。お前はこれからがあるやろ。彼女でも見つけて抱いてもらえ」
「まったく素直じゃないんやから・・・」
 ああ、分かった。親父もお袋も俺の事愛してくれている事を十分分かった。そうやな。もう俺もガキやないしな。二人の気持ちが分かっただけでいいわ。じゃ俺、帰るわ。
「北斗」
 なんや。
「仕方ない。一度きりやで」
 親父、お袋・・・。 
  
<ロゼ・クロイツの場合>
 
 マスター。お変わりないようで・・・。
「何故我が元に来た?」
 なすべき事を確認するために。
「お前のなすべき事を申してみよ」
 神の楽園の為に。邪なるものを殲滅し、普く正しき地を築かん。我が意、わが身はいずこに在りても、常に神と共に。成すべき道は常に我が眼前にあり。
「よろしい」
 マスター、私は何故生み出されたのか?
「邪なるものを滅す為」
 それだけなのだろうか。我が心に宿る闇。神の敵を滅ぼす事のみが我が指名なのか。
「ゆけ、ロゼよ。わが道を受け継ぎ神の教えを守るのだ」
 マイマスター。かつて邪悪なるものを封じる為に命を懸け死んだ。血飛沫はまるで真紅に舞い落ちる薔薇吹雪の様に記憶に残っている。だが、悲しみという感情はわかない。私は傀儡だから・・・。だが、この胸に残る空虚感は何なのか。マスターよ。教えてはくれないのか。
「神は己の心に宿す者。お前にも魂というものがあるのだから、それが分かろう」
 魂?それは一体・・・。神よ私は何を為すべきなのか。

<雨宮薫の場合>

 何を話したらいいんだろうな・・・。
「まぁ、挨拶でもするべきだろう。元気か?とかな」
 月並みだな・・・。
「仕方ないだろう。もう10年以上会っていないのに親子らしい会話などできんさ」
 確かに。俺自身別にどうしても会いたくてきたわけじゃない。
「では、なぜこんなところまで来た?」
 あんたの死因について聞きたいだけさ。
「親をあんた呼ばわりする子供がどこにいる」
 親と言えるのは当主と隼人だけだ。
「そうか。そうだな・・・。何も教えずに死んでしまったからな。そういわれても仕方が無いな」
 だが、それだけじゃ納得出来ないことがある。なんで俺には5歳以前の記憶が無いんだ?それにあんたの経歴がどこにも無いのも気になる。何故なんだ。
「私たちは車の事故で死んだ。お前はあの時、事故で記憶を失ったのではないのか。経歴が無いのに関しては知らんな。お祖母様に聞いてみるといい」
 何も答えてくれない。
「そうか・・・」
 何を知っているんだ。教えてくれ。
「さっきも行ったとおり私は知らん」
 嘘だ。この人は俺に嘘を言っている。だけどそれを聞き出したところで答えてくれはしないだろう。
「薫・・・」
 なんだ?
「お祖母様と隼人君の言う事をよく聞きなさい。あの人たちは心底お前を思ってくれている」
 そんな事ははるか前から知っている。
「そうか。ならいいんだ」
 ・・・・・・。
 俺はこんな話をしにきたのか?単に死因を聞きに来ただけなのか?分からない・・・。なぜ俺はここに来たのだろう・・・。

<有賀仁二十七歳の場合>

「先生・・・」
 久しぶりだな、松宮。
「どうしてこんなところ来たんですか」
 ま、色々とあってな。お前と少し話し合いたいと思ったのさ。
「僕の日記読んだんでしょ」
 ああ、読んだぜ。
「僕の事・・・軽蔑した?」
 軽蔑か・・・。先生もお前と同じだっていったらどうする?
「え?」
 先生もゲイなんだよ。
「嘘でしょう!?先生も・・・」
 嘘なんかじゃねぇよ。
 松宮。いつも明るくて友達がたくさんいた生徒。でもある日突然自殺した。理由の分からなかった俺は両親に頼んで松宮の日記帳を読ませてもらった。そこに書いてあったのは、自分がゲイで悩んでいたということ。そして自分を汚らわしいものだと思い込んで自殺してしまったということだった。俺はあいつが悩んでいたことを気がついてやれなかった。俺に軽蔑されたくなくてそのことは打ち明けられなかったという。だが、それでも俺はきがついてやらなくては駄目だったと思う。今でも。
「じゃあ、どうして生きていられるんですか?つらいめにあったこととか無いんですか?」
 あるさ。結構な。だけどよ、誰が罪だと言っても人を愛しく思う気持ちは捨てることなんてできやしねぇ。それを抱えてでも生きて行くべきだった。先生はそうしているぜ。
「僕をしかりにきたんですか?」
 違う。謝りにきたかったんだ。
「謝る?」
 お前の気持ちに気がついてやれなくて済まなかった。すまん。今更謝っても仕方が無いことくらいは分かっている。それでも謝らせてくれ。
「先生・・・」
 済まなかった。松宮。
「もういいです。それに、先生の気持ちも分かったし・・・」
 松宮・・・。
「僕って馬鹿ですよね。先生が同じ悩みを抱えていたなんて知らずに一人で悩んで死んじゃったんだもの」
 ・・・・・・。
「もうちょっと先生とお話したかったなぁ。皆とも一緒にいたかった。でも、もうそれは無理ですよね。こんなところまで僕のために来てくれて有難うございました。先生。皆によろしく・・・っていうのは変ですよね」
 変じゃねぇよ。伝えておくよ。お前がよろしくって言っていたってな。もうちょっとしたら俺も帰らなくちゃいけないが、まだ時間があるな。もう少し何か話そうか。

<黛陬二十八歳の場合>

 先輩、隠し金庫はどこに隠したんだ?
「知るか!場所が分からないから隠しなんだろうが」
 それにビルから飛び降り自殺したみたいだが、ほんとに自殺だったのか?誰かに殺されたんじゃないのか。
「飛び降りたのは事実だ。だが、誰かに殺されたっていうのならそうとも言えるな」
 ?どういう意味だ。
「お前に殺されたも同じっていう意味だよ!」
 私が?なぜ。
「てめぇの胸に手をおいて考えてみやがれ。少しは思いあたるふしがないか?」
 ・・・・・・。特にないな。
「はぁ、しょうがねぇ。教えてやる。お前がまだNO.1ホストだった時の売上、俺の時より超えていたよな。それにあの時は店の経営も苦しかった。実際俺は経営が得意じゃなかったしな。皆俺よりお前の方がオーナーに向いているって言ってた。だから・・・」
 だから死んだか。理由は嫉妬か・・・。
「悪いかよ。実際一から教えてやった後輩に追い抜かれて下に立つっていうのは相当な屈辱なんだぜ。お前もオーナーになったんだからこれから分かるかもしれないがな」
 屈辱か・・・。確かに人一倍プライドの高かった先輩なら確かに頷けるな。だが、少なくとも私は貴方を尊敬していた。それは嘘じゃない。後輩に追い抜かれたくらいで自殺する人とは思っていなかったが、失望したな。  
「ふん。勝手に言ってろ。ずっと邪魔してやるから」
 邪魔?もしかして店の中に現われる幽霊というのは貴方なのか?
「ああ。そうだよ。俺だよ」
 売上に響くから、出てくるな。
「やなこった。ずっと邪魔してやる」
 まったくこの人は・・・。前々からこういうガキっぽいところがあった。これには相当頭を悩まされたな。
「それより店の経営はどうだ?問題ないか」
 特に問題は無い。順調といったところだ。
「お客は大事にしろよ」
 当然だ。大切な金づるなんだからな。
「はぁ、なんでそういう考え方になるかねぇ」
 それが私の考え方だからな。変えられん。
「ま、また時々店に出てやるから楽しみにしてろよ」
 誰が・・・。もう二度と出てくるな。
「嫌だね。それと金庫に関しては自分で探してみるんだな。中身は開けてからのお楽しみだ」
 死んでからも悩ませてくれる人というのも珍しいものだ。しかしどうするべきか・・・。霊能者でもやとって追い出すとするかな・・・。

<久我直親二十七歳の場合>

まさか本当に会えるとはな・・・。
「直親様・・・ご無沙汰しております」
 他人行儀な態度はよせ。俺とお前の仲だろう。
「お戯れを。私は貴方様の守護でございます。使命半ばにして倒れた者の申せることではありませぬが」
 お前を殺させてしまったのは、俺の責任だ。気にすることはない。寧ろ俺の方こそお前に謝らなくてはならないだろう。
「もったい無きお言葉・・・」
 ・・・・・・零。
「はっ」
 何故俺を・・・。いや、なんでもない。気にするな。
「よろしいのですか?」
 ああ、別に構わない。恨み言なんて言えはしない。
 御堂零。以前俺の守護を務めてくれた男。惚れていた。男として、いやそれ以上の存在として・・・。だが、三年前のあの日、あいつは俺を庇って死んでしまった。なんで俺を残して死んでしまったのか。恐らく今こいつと話そうとしたらそんな恨み言だらけの台詞を吐いて困らせてしまうだけだろう。
だから、今は何も話さない方がいい。
 生きている内に言わなかった事をここで言うのは卑怯だな
「直親様、最後に一言だけ・・・」
 なんだ。
「生きてください。ひたすらにただ生きてください。それだけが私の望みでございます」
 零・・・。わかったよ。お前の分までも俺は生きよう。だから見守っていてくれ。
「ご無事で、直親様。私はいつも貴方様のお傍におります・・・」

<雨宮隼人二十九歳の場合>

「隼人・・・。苦労をかけますね」
 勿体なきお言葉にございます。奥方様。
「あの子はどうしていますか?」
 ご子息はご立派に成長なされました。もはや私と宗家の手を離れるのも時間の問題かと。
「そうですか・・・。13年間。長きに渡りよくあの子を見守ってくださいましたね。ご苦労様でした」
 されど今は難敵とまみえ、苦戦を強いられております
「難敵・・・。それはもしや罵沙羅(ばさら)では・・・」
 いえ、別の者にございます。
「そう・・・ですか。隼人、罵沙羅とあの子をめぐり合わせてはいけません。なんとしても、あの輩と薫の接触だけは避けなくては」
 かしこまってございます。ご安心くださいませ、奥方様。私が命に代えましてお守りいたします。
 かつて前当主と奥方様を殺した陰陽師狩りの男、罵沙羅。組織は天宮本家が総力を上げて叩き潰したが罵沙羅の姿は見えなかった。逃げたのか、それともどこかでのたれ死んだのか・・・。もし奴が生きているとすれば狙うのは薫様か・・・。
「頼みます。陰陽師として、また天宮家の当主として、あの子にはこれからも様様な困難が待ち受けることでしょう。その支えとなってあげてください」
 薫様は貴女様の血を引いておられますから必ず乗り越えて行かれましょう。どうか御心配なさらず。心安らかに…薫様を見守っていらして下さい。
「分かりました。貴方を信じましょう」
 有難うございます。時に奥方様、薫様は年々、貴女様に似てゆかれます・・・不器用で真直ぐな所も・・・面ざしも。
「・・・そうですか」
 奥方様。
「なんでしょう?」
 いえ、なんでもございません。それでは薫様もお話を終えられたようですので、私も失礼いたします。
「さようなら、隼人。私たちのもう一人の息子」
 奥方様・・・。勿体なきお言葉にございます。お慕い申し上げております。不肖この隼人、一命を賭しても薫様をお守りいたします。

<和泉怜九十五歳の場合>

「まさかわしを訪ねてこようとはな」
 和泉本家先々代当主。私を作成した人間。そして我が師。
「何のためにここまで来た」
 師よ、伺いたいことがある。
「何かな?」
 自分を何故創ったのだ?
「退魔のため・・・だけでは足りぬと申すか?」
 主亡き今、退魔のみを続けるのが理と思ってきたが、道具として何を為せばよいのか。それが分からぬ。
「そうか・・・。わしは少なくとも退魔のためのみに作成したのだが・・・。感情が芽生えたか」
 感情?作り物の私に?
「ただ任務を遂行するだけの傀儡人形に、自分の存在意義に関する疑問など生まれんよ」
 私は単なる作り物の兵器では無くなったのか?
「それを決めるのはお前自身よ。少なくとも一世紀以上を存在したのだ。何か起こっても不思議では無い。それをどう扱うはもうお前の自由だ」
 だが、私は今だ本家に退魔の使徒として扱われている。
「それを受け入れるか、それとも反発するかは自由だよ。単なる傀儡人形として生きるか、それとも・・・」
 それとも?
「自分で考えてみよ。自分の目で見て耳で聞いたことを考えるのだ。全てはそれからだろう」
 自分で・・・考えるか・・・。

<別離>

「お客様、そろそろお時間でございます。お帰りの準備はよろしいでしょうか?」
 店員の言葉が死者との逢瀬の終了を告げる。皆、その表情はまちまちであったが、別れを無事済ませられたようだ(約一名危険だったものもいたが)。彼らは店員に案内されて、現世へと戻る。いつもの変わらぬ日常が待つ普段の自分の世界に。

「で、なんでこんなに差が出るわけ?バイトと正社員で。没っ!」
「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!どうして〜!?」
「実力差ね。大体二日酔いでまともに記事が書けなかったなんて問題外もいいところよ。修行し直してらっしゃい」
「また獅王さんにやられた〜」 
 久遠堂に戻ってから、獅王と鷲見の二人にひたすら酒を飲まされた三下は完全にダウンしてしまい、またしても獅王の書いた記事が載せられることとなった。ああ、三下君の努力が報われる日はくるのであろうか。来たらきたでかなりすごいことかもしれないが・・・。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0218/湖影龍之助/男/17/高校生
    (こかげ・りゅうのすけ)
0229/鷲見・千白/女/28/陰陽師
    (すみ・ちしろ)
0328/天薙・撫子/女/18/大学生(巫女)
    (あまなぎ・なでしこ)
0115/獅王・一葉/女/20/大学生
    (しおう・かずは)
0262/鈴宮・北斗/男/18/高校生
    (すずみや・ほくと)
0423/ロゼ・クロイツ/女/2/元・悪魔払い師の助手
    (ろぜ・くろいつ)
0112/雨宮・薫/男/18/陰陽師。普段は学生(高校生)
    (あまみや・かおる)
0070/有賀・仁/男/27/高校教諭
    (ありが・じん)
0451/黛・陬/男/28/ホストクラブ経営者
    (まゆずみ・すう)
0095/久我・直親/男/27/陰陽師
    (くが・なおちか)
0331/雨宮・隼人/男/29/陰陽師
    (あまみや・はやと)
0427/和泉・怜/女/95/陰陽獅
    (いずみ・れい)

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■         ライター通信          ■
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 お待たせしました。
 久遠堂〜死者との逢瀬〜をお届けいたします。
 今回は12人ものお客様にご利用いただけました。誠に有難うございます。
 さて、今作品では実験的な試みとしまして、後半部で各キャラからの視点による表現を用いてみました。各キャラクターがどのような考えをもって動いているのか。それが分かりやすくなればと思いましたがいかがだったでしょうか?
 この作品に対するご意見、ご感想、ご要望、ご不満等ございましたらお気軽にテラコンより私信を頂戴できればと思います。作品のクオリティの上昇のため、何卒よろしくお願いします。
 それではまた、違う依頼でお目にかかれることを祈って・・・。