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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


理想郷〜お花見〜後編

<オープニング>

「皇居で花見か・・・。いい気なものだ。丁度いい。全て燃やせ」
「しかし目立ってしまいますが・・・」
「かまわん。せいぜい派手に目立って我らが復活したことを知らせれば良い。どうせ奴らは我々の居場所を知る術などないのだからな」
「かしこまりました。10人ほど向かわせます」
「うむ」

「たまにウチの編集室も花見に行かない?」
 鬼の編集長碇の言葉に編集員は驚愕の目を向けた。
「マジですか!?」
「なによ、その目は・・・。私の事疑っているわね。皆この頃よく頑張ってくれているから感謝の意味も込めて夜桜見物でもと思ったのよ。飲み食いはこっちで持つわ。行きたくないわけ?」
「行きます!」
 徹夜作業が続いていた編集室の人間たちは全員一致で賛成した。それを見て、碇はゴザを取り出すと三下に押し付けた。
「?これなんです、編集長?」
「場所取りよろしくね。三下君。ちなみにあそこ混んでるから徹夜になると思うけど頑張ってね」
 にこやかに手を振り三下を送り出す碇。
「へ?僕がですか?」
「当然でしょ。さっさと行ってらっしゃい!」
 グズる三下を碇は蹴りだすのだった・・・。

 三下が泣きながら編集室を出て行くと、碇が貴方たちを振り向いて言った。
「実はね、いつもの匿名メールで千鳥が縁の桜が燃えるというタレコミがあったのよ。今までのことから信用してもいい情報だと思うの。これを阻止してもらえないかしら。仕事が終わったらしきりなおしでお花見しましょう」 
 ほんとは燃えちゃったら特等席で取材できるからなどという本音は、碇の口から話されることは無かった。

<ライターより>

難易度 難しい

予定締切時間 3/22 24:00

 七条家の皆様、満を持してのご復活です。
 今回は皇居千鳥が縁でお花見をすることになります。が、どうやら敵もそれを焼き払おうと考えているようです。依頼内容としては花見に参加してこれを阻止することとなります。
 時間帯は夜。かなりの人ごみで敵がどこからどのように現れるのか分かりません。又、一本でも桜が燃えたら大混乱に陥るのでその時点で依頼失敗となります。いかにして敵を目立たずに、静かに取り押さえられるかが重要となるでしょう。過去の依頼結果を見れば敵の姿に関してはヒントがあると思います。
 かなりシビアな判定となりますが、阻止に成功すれば夜桜を楽しめます(笑)。
 初参加の方でもまったく問題ありませんが、折角の機会ですので七条家が関係する私と水上マスターの依頼結果をご覧になることをお勧めします。時間はございますので、じっくりお考えになった上でご参加いただければと思います。
 ちなみに戦闘主体の依頼となりますが、それは戦闘力のあるキャラ推奨ということとは違います。事前の調査や索的、行動力の高さの方が今回は重要となります。パワーが全てではありません。ちゃっかり花見のみ参加の方も問題ありません。燃えちゃったらそれまですが(笑)。
 それでは皆様のご参加を心よりお待ちいたします。

<桜の中で>

 桜は日本の花として日本人に好まれてきた。葉をつけずに一斉に咲き、僅かな期間花を咲かせたと思うと風に吹かれ散ってゆく花。その潔さが武士の心に合ったのかもしれない。
 皇居千鳥が縁の桜を燃やそうとする者と阻止する者。現在のところ、桜花炎上は免れているようだ。だが、まだ桜に火をつけ炎上させようとしている輩は存在しているかもしれない。月刊アトラスの依頼を受けた者たちは夜桜を楽しみつつ調査を続行していた。
 赤い髪の毛を持った一人の青年が咲き乱れる桜の中で一人目を閉じて立っていた。現在も風にふかれ散り行く桜のように儚く美しい容貌を持った青年。夜桜見物に来たはずのなのに、なぜこんなところで目も開けずに立っているのだろうか・・・。やがて青年の耳に声が響いてくる。
「・・・怪しい人間・・・たくさん・・・黒い色・・・」
「・・・それは・・・どこ・・・?」
 白皙の顔に穏やかな笑みを浮かべながら彼は問うた。周りには誰もいない。
「・・・あそこ・・・」
「・・・そう・・・有難う・・・」
 彼はそう答えると彼は目を開けた。彼の目に入って来たのは、心配そうに見つめる仲間たちの目。
「大丈夫か?」
 黒い服を着た男が心配そうに彼に尋ねた。
「・・・大丈夫。それより敵の場所が分かった」
「本当ですか?それはどこです?柚木君」
 栗毛色の髪をした青年が携帯を片手に尋ねた質問に、赤毛の青年、鷲見探偵事務所バイトの柚木暁臣は今桜の精から聞き出した場所を教えた。彼は桜の木と交信することで木々が見つけた怪しいものを教えてもらっていたのだ。この千鳥が縁全域の木々に交信していたため、彼は相当の精神力を消耗していた。「大切なモノを守りたい」そう思う柚木は、その思いのために無理をしてしまうことが往々にしてある。今も血の気の引いた真っ青な顔をしている。足元もふらついておりおぼつかない。そして・・・。
「暁臣!」
 ガクリと倒れた柚木を支えたのは黒服の男だった。そのまま静かに柚木を横たわらせる。
「・・・すいません、紫月さん」
「余計な心配をするな。少しは身体を慈しめ」
 僅かではあるが、顔に笑みを浮かべて紫月夾はそう柚木に話す。法医学が専門とは言え、医学を心ざす学生である彼には、柚木の華奢な身体をみるにつけ疲労の度合いが重いことを感じ取っていった。
「よくやった。後は俺たちに任せて休んでいろ」
「はい・・・」
 柚木は微笑を受かべると静かに眼を閉じた。かすかに漏れてくる寝息。眠りについたのだろう。その姿を見届けて紫月は立ち上がった。
「こいつを頼む」
「ええ、任せてください。彼の事はなれていますから」
 同じ鷲見探偵事務所勤務の者として、柚木の事を熟知している各務高柄はにこやかにそう答えた。柚木が横たわっているゴザの上には、彼が用意したお重に酒が用意されている。
「あっちに合流したら皆に伝えてください。花見の用意はできているから仕事が完了したらすぐに楽しみにしていてほしいと」
「ああ、分かった」
 そう言って立ち去っていく紫月の背に向けて、各務は付け加えるように言った。
「紫月さんも楽しみにしていてくださいね。皆たくさん食べるだろうと思って一杯お料理を作ってきたんですよ」
 彼の言葉通り、ゴザの上にはお重と酒瓶が所狭しと並べられている。それを見て紫月は嫌そうな顔をして答えた。
「俺は花見など参加するつもりは・・・」
「柚木君をこのままにしていくつもりですか?」
 各務の一言に紫月はその言葉の続きが言えなくなる。各務は紫月が柚木の前だけは優しくなることを知っていた。目を覚ました時紫月の姿が見えなければ柚木はきっと寂しがるだろう。暗にそう言っているのである。
「・・・ふん」
 紫月は参加する、しないについて何も答えずに鼻を鳴らしただけだったが、各務は彼が参加する事を確信した。やがて、紫月がいなくなったのを見届けると各務は柚木の額にかかったクセの無い栗毛色の髪をかきあげて語った。
「本当によく頑張りましたね。柚木君。今はお休みなさい・・・」

<カップル?>

「おい・・・」
「ん、なんだ、シャノワ?」
「だからその呼び方はよせといっているだろう!」
 桜の花が咲き乱れる道を二人の男女が言い争いをしていた。一人は黒いスーツに黒いコートを着た長身の男。そしてもう一人は白のジーンズのサブリナパンツにカットシャツ、淡い水色のスプリングコートを着た女の子といった感じで、黒く長い髪をしていてイヤリングをつけている。その顔はほんのりと化粧が施され可愛らしいと言えよう。だが、彼女から発せられるのは低めの男の声。そう彼女は男なのである。彼、陰陽師である雨宮薫は自分の格好を見てがっくりと方を落とす。
「それにこれ変装とは違うんじゃないのか?」
「いや、立派な変装だが?」
「面白がってやっているだろう、久我」
 不快な顔つきでそう尋ねる雨宮に、しかし黒いコートの男、同じく陰陽師の久我直親は微笑を浮かべて否定した。
「そんな事はない。それは依頼の受ける上で敵に正体がバレないために必要なことだ。七条の連中にお前の正体が見破られたらそれまでだからな」
「確かにそれはそうだが、だからと言って女の格好をさせることはないだろう!」
「そうか?結構似合っていると思うんだがな」
 久我の口元に、意地悪な悪魔の笑いを見てこいつは絶対に楽しんでやらせたと確信する雨宮であった。彼の変装用にもちいられた道具は、学校の保健室に勤務している教師から渡されたものだ。この教師と久我、雨宮は知り合いである。ということは二人がグルになって、自分で遊ぶためにこんな衣装を用意したに違いない。
「そう不機嫌そうな顔をするな」
「それ以上近寄るな」
 自分の肩におかれそうになった手を避けて、雨宮はゲンナリする。
「シャノワは嫌か?じゃあ薫子なんかどうだ?」
「子はいらん」
 久我はいちいちムキになって反応する雨宮をからかいながら、桜の枝一本手折った。
「花盗人を責めるなよ」
 彼は小声で何事かを呟くと、枝に呪符を貼った。すると木が姿を変え、小さな人方の物になったではないか。久我はそれに命じる。
「ここら辺に黒づくめの怪しい連中がくるかもしれん。接近したら俺に知らせろ」
 人方になった木は久我の命に従い、桜の木によじ登り木と同化する。これは陰陽師がよく用いる術の一つ、式神である。呪符に魔力を込めることにより生み出される擬似生命体。その感覚は術者とダイレクトに繋がり、式神が見聞きしたもの感じたものを術者はそのまま見ることができる。各務の連絡によりある程度の場所は掴めていたが、それはあくまである程度。完全にポイントが確定されたわけではない。こうやって式神を配置することで、敵の出現ポイントを細かく絞る必要があるだろう。
「さて、後は・・・うん?」
 ふと久我が目にやった先には、人だかりが出来ていた。そこには仮設の舞台ができており、太鼓や鼓、笛の音に合わせて数人の巫女が舞を舞っている。二人はその中に見知った顔を見つけた。
「あれは天薙?」

<奉納舞>

 千代が縁の花見も宴もたけなわというところで、突如仮設の舞台が作られ、神官たちの楽器の音色に合わせて巫女たちが見事な神楽舞を踊りだしたことで、花見客の大半はそちらに視線を注目させた。突然の風流な催しはほろ酔い気分の花見客に好評だったようだ。この事を立案した天薙は舞台で舞い踊る巫女たちの中で一緒に舞いながら、この作戦の成功を確信していた。
 神社の生まれである彼女は、今回の依頼に際して火をつけられないよう、広範囲に効果の及ぶ阻焔の結界を展開することを考えていた。しかし、決められた限定空間内でしか効果が発揮されないこの結界を千代が縁全体にいかに展開させるかが大きな問題となっていた。単なる護符や呪文では足りない。かといって相当数の術師を集めるには時間がなさ過ぎる。どうすれば良いか・・・。そこで思いついたのが儀式である。微弱な結界を千代が縁全域に張り巡らせそれを儀式で増幅し展開する。その儀式の応用がこの神楽舞だ。神に捧げる神聖な舞を行うことでこの地の穢れを払い一種の神域とする。そしてそれに呼応する形で結界の力を発動させれば、擬似的ではあるが神社仏閣と同じ程度の清浄な場が作れる。
これを実行するに当たって、天薙は実家の伝手を頼りに靖国神社に協力を要請していた。実家の神社と靖国から派遣された神主と巫女が織り成す神楽舞。それは美しくも厳かな雰囲気を伴ったものであった。
 この舞には勿論結界を展開するという目的があったが、それ以外に一般の花見客の目を引き付けるという狙いがあった。今回の依頼で一番のネックは実はこの花見客である。大勢の人の中に隠れられては発見が滞り、ひいては火をつけられる可能性が高くなってしまう。だが、このように一目をひきつけておけば、火をつけにきている者も人波に紛れることはできないだろう。事実、柚木が索敵した場所には、黒いスーツにサングラスという怪しい風体の男が数人見受けられる。
 後は仲間が処理してくれるはず。一人の巫女として神楽舞を奉納する天薙は、白と赤というシンプルな服の色と、満開の桜の淡い桃色、そして宵闇の黒がその清楚な容貌と見事に調和して、舞台の中で一際美しく艶やかに舞いつづけていた。

「馬鹿な!どうして符が発動しない!?」
「結界か!?」
 例の黒いスーツの男たちは、呪符が発動しないことにパニックを起こしていた。正確には結界が張られ、桜に対して害意を為す術、特に焔の力が弱められているのだが勿論彼らはそれを知る由も無い。彼らは何度も呪符を桜の木に投げつけたが術は発動しなかった。
「無駄な事はやめるがいい」
 突如彼らの耳に聞こえてくる涼やかな声。慌てて黒いスーツの男たちが振り返った先には3人の男たちがいた。久我、雨宮、紫月である。もっとも一人女の子としか見えない者もいたが・・・。
「貴様らの所業は既に見破っている。七条家の者たちだな?大人しく降伏しろ。そうすれば命だけは助けてやる」
 七条の者たちはその言葉の答えとして、呪符を構えた。
「やる気か?自分の置かれた現状も把握できないようでは問題外だな」
 紫月は冷徹にそう言い放つと、右手から銀色に輝く糸を放った。銀の閃光が闇夜を切り裂き、数人の黒いスーツの男の身体に絡みついた。鋼を薄く、糸のように精練し鍛えた暗器鋼糸である。糸のように細いとはいえ、特殊な技術で作られたこの糸は非常に柔軟でありながら硬度に優れ、日本刀でも切り裂くのが難しい。鋼糸で拘束された者たちは慌てて糸から抜け出そうとするが、それは無理だった。逆に余計に糸が絡み戒めが強くなるだけである。
「弱いな・・・。これで本当に七条家の者たちなのか?」
 あっさりと鋼糸に拘束された男たちを見て、雨宮はいささか拍子抜けした。七条家とは天宮家と敵対してきた陰陽師の一族のことである。呪術国家設立を目論みながら、その計画は久我、雨宮らに阻まれ本来ならば滅びていたはずなのだが、現在「会社」に拾われて組織の建て直しを図っているようなのである。今回の依頼の敵も七条家の手の者と思われたのだが、それにしては随分と手ごたえがなさ過ぎるのである。
 だが、桜の陰から三人を見つめている者がいた。その手には呪符が握られている。油断している3人に向けて呪符が放たれようとしたその時、
「噛み切っちゃえくーちゃん!」
 手に握られていたはずの呪符は食いちぎられて、四散した。三人を狙っていたものが慌てふためいて符を食いちぎったものを探すと空中に、一匹の小さな狐が浮かんでいた。その口には食いちぎった符が咥えられている。陰陽師などに使役される管狐である。管狐は空中を旋回したかと思うと、術者の元に戻った。
「よくやった。えらいよ、くーちゃん!」
 術者の少女、まだ高校生くらいの体つきをした少女は管狐に労いの言葉をかけて竹筒に戻す。
(奴は俺が見つけたんだぞ)
 不機嫌な声が彼女の頭に聞こえてくる。彼女の周りには誰もいない。だが、その声の主が何者であるか彼女は知っていた。なぜならばそれは自分が使役している者だからである。 
「まあまあ。夜刀は姿見えないようにしててね!なんていったって切札なんだから!」
 自分の手に持つ薙刀に話し掛ける彼女。篁雛、有名私立校に通う高校生でありながら、拝み屋の見習いとして退魔を行っている。その顔は美しいというよりは、可愛らしいと言った方が正しいかもしれない。まだ少女らしい初々しさを残した顔立ちをしている。ちなみに彼女が話し掛けている薙刀の刃は、代々自分の家系に仕えている鬼「夜刀」である。現在は刃の形を取っているが必要とあれば人の形になることもできる。流石に人前で刃がいきなり人間になっては驚かれるので、刃のままでいてもらっている。
 篁が話している隙に、呪符を食いちぎられた者は自分が不利な立場に置かれている事を悟ってこの場から撤退しようとした。だが、その体はピクリとも動けなくなっていた。
「本当に情けないな。俺たちの力を知らないのか?」
 呪縛をかけた久我が嘲りの笑いを上げた。彼らはとっくにこの者の存在に気がついていたのだ。
「敵の居場所を吐かせてやってもいいんだがな。どうせこいつらはそれを知るまい」
 紫月はその黒い瞳を、赤く輝かせながら侮蔑の言葉を吐き捨てた。彼の眼は邪眼と呼ばれる特殊な力をもつ瞳で、見つめた相手を幻惑することができる。本当ならばこれで拷問にかけるという手段がとれるのだが、先に敵の深層心理から詳しい情報を引き出そうとした少女からその記憶がほとんどないという連絡が来ている。邪眼で拷問にかけても得られる情報はほとんどないだろう。
「久我さんの彼女さんですか?綺麗な方ですねぇ」
 女装している雨宮に気がついた篁が、その顔にうっとりしながら話し掛けた。雨宮はこめかみをひきつらせながら答えようとした。
「いや・・・俺は・・・むぐ!」
「そう、俺の愛人だ。可愛いだろう?」
 雨宮の口を抑えて、久我がにっこりと笑いながら代わりに答える。完全に悪ノリしている。
「本当です〜。私も将来この人みたいになりたいです」
 天然娘篁は、目の前の彼女が雨宮であることにまったく気が付いていない。憧れをこめて雨宮の顔を見つめる。
「むぐぅむぐぐぅ」
「ん?どうした薫子?誉められて嬉しいのか」
 はしゃぐ三人を尻目に、拘束した黒づくめたちを芋虫状態でその辺に転がして紫月はため息をついた。
「いい気なもんだ・・・」
 だが、三人を見る眼はまんざらでもなさそうに輝いていた。

<実験完了>

「どうやら、炎の桜を見ることはできなかったようですな」
 近くのホテルのロビーから花見をしていた真紅のスーツを着た大柄な男がそう言った。
「ふん、クローンは所詮クローンか」
 窓の外から見える桜から眼をそらしながら和服姿の男がつまらなそうに吐き捨てた。
「まぁ、今回は起動実験に近いものでしたからな。これから記憶の操作などを行っていくつもりですので・・・」
「やはり頼りになるのは人よ。次の計画では十六夜に任せることにしよう。よいな」
「はっ」
 和服姿の男の後ろに控えていた、黒いスーツの巨漢が恭しく頷いた。やがて彼らが立ち去る姿を見届けて、真紅のスーツの男、ヴァルザックは微笑を浮かべた。
「花はもとより散れるもの。だがその散れる時こそ最も美しいのだ。その時期を見ずに手折ろうなど無粋の極みというところ。今回は彼らに感謝しなくてはならないな」
 夜明けの皇居を背景に、ロビーの窓外は美しい桜吹雪が巻き起こっていた。

<月刊アトラス>

「三下君。今回は差し入れが一杯あってよかったわねぇ」
「はいぃぃぃ。もう嬉しく嬉しくて」
 感涙に咽び泣く三下。今回はお弁当に、天薙からの温かい紅茶とマフィンというデザート付きの豪華な差し入れがあった。いつも冷遇されている彼にとっては僥倖と言っても過言ではあるまい。
 幸いな事に、依頼を受けたものたちのお陰で千鳥が縁の桜は全て守られた。その後の夜桜見物では月刊アトラスの編集員を交えて多いに盛り上がった。だが、本当の狙いを外された碇は少し複雑な気分であった。
「それで、原稿は書きあがったわけ?」
「え〜と、昨日場所取りで徹夜でしたからまだ・・・」
「さっさと書き上げなさい!」
「やっぱりこうなるのぉぉぉぉぉぉ!?」
 今日も月刊アトラスでは碇の喝が飛ぶ。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0054/紫月・夾/男/24/大学生
    (しづき・きょう)
0380/柚木・暁臣/男/19/専門学校生・鷲見探偵事務所バイト
    (ゆずき・あきおみ)
0334/各務・高柄/男/20/大学生兼鷲見探偵事務所勤務
    (かがみ・たかえ)
0328/天薙・撫子/女/18/大学生(巫女)
    (あまなぎ・なでしこ)
0095/久我・直親/男/27/陰陽師
    (くが・なおちか)
0112/雨宮・薫/男/18/陰陽師。普段は学生(高校生)
    (あまみや・かおる)
0436/篁・雛/女/18/高校生(拝み屋修行中)
    (たかむら・ひな)

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■         ライター通信          ■
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 お待たせしました。
 理想郷〜お花見〜後編をお届けします。
 今回は14人ものお客様にご利用いただき、前編と後編に分けさせていただきました。索敵と迎撃が上手く行われ、見事桜を守りぬくことができました。しかも花見の余裕付きでしたので、今回は成功といえるでしょう。
 おめでとうございます。
 今年は異様に早く桜が開花してしまい、丁度良いタイミングの依頼となりました。このように時期モノの依頼もこれから出してまいるつもりですのでお楽しみしていただければ幸いです。
 この作品に対してご意見、ご要望、ご不満等ございましたら、テラコンからお気軽にご連絡いただければと思います。
 それではまた別の依頼でお目にかかれることを祈って・・・。