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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


時に怯えし少女【完結編】
●オープニング【0】
 LAST TIME 『時に怯えし少女』――。
 ゴーストネット掲示板にあった助けを求める少女の書き込み。
 それは姉の大内歩実(おおうち・ふみ)を心配する亜美(あみ)による物だった。
 歩実は電話で『私は時に殺される』という言葉を亜美に残して姿を消したのだ。
 亜美に連絡を取り、各々調査を開始した7人。
 やがて7人は新宿・歌舞伎町より謎のカジノへたどり着く。
 そこには探していた歩実の姿があり、謎の3人の女性の姿もあった。
 女性たちはヴェルディア・ウルディア・スクディアと名乗り、ここは『時のカジノ』だと説明した。
 何とここはチップの代わりに自らの時を賭けるカジノだったのだ。歩実は大負けしていたために、時を剥奪されることになっていた。
 時を返すよう交渉してみるがカードゲーム――ポーカーに勝利しないと返すことはできないと言うヴェルディア。
 そんなヴェルディアたちに『ノルンの3姉妹』ではないかと疑いを抱く者も居たが――7人は歩実の時を奪い返すため、自らの時を賭けて勝負を挑もうとしていた。
 勝負の結果は果たして――。

●新たなる参加者【1】
 無言でテーブルについてゆく7人。何故かポーカーのルールを全く知らない白雪珠緒までが座っていた。
「ルール知らないんじゃなかったのか?」
 左隣に座っていた瀧川七星が言った。
「んー……やっぱ見てるだけじゃ、我慢できないにゃ! 後でルール教えてほしいにゃ!」
 その言葉に苦笑して頷く七星。珠緒のこの行動はある程度予想はしていたが、こうも予想通りだとおかしくて仕方がない。
 7人はヴェルディアと向かい合うように座っていた。席順はヴェルディアに向かって左から、志神みかね、武神一樹、白雪珠緒、瀧川七星、1つ空いて榊杜夏生、渡橋十三、斎悠也となっていた。
「さて、ルールの説明を……」
 ヴェルディアがそう言い始めた時、入口のドアが開く気配がした。視線がドアの方へ集中する。
「あ……」
 ドアの向こうには、ブレザーを着た背丈の低い小柄な青年が立っていた。肩で切り揃えた艶やかな髪に可愛らしい顔、そして何故か半ズボンという姿は七五三ぽい雰囲気であった。
「ん、誰だぁ?」
 値踏みするように十三が睨んだ。すると途端に青年は怯えたように謝り出した。
「ごめんなさい、ごめんなさいっ! 場違いですよねボク……」
「おいおい、そう畏怖することもあるまい。それよりも入るなら入る、去るなら去るがいい」
 一樹が青年に言った。青年は少し思案してから、おずおずと中に入ってきた。
「あなたはどなたです」
 悠也の問いに青年は、唐縞黒駒と名乗った。
「どうしてここへ?」
 続けて尋ねる悠也。
「あの……メールでここへ来るよう言われたんです。差出人がよく分からないし、『赴け、双方の役となれ』なんてよく分からないことが書かれてて……ボク、気が進まなかったけど、ここへ来てみたらこんな……」
 黒駒は激しく瞬きをしながら室内を見回した。十三が鋭い視線をヴェルディアに向けた。
(呼びやがったのか?)
 ヴェルディアは表情を変えずに黒駒を見つめていた。
「いつからあそこに? まさか会話を全部聞いていたとか?」
 今度は夏生が尋ねた。こくんと頷く黒駒。ならば、今から何が始まるのかも分かっているということだろう。
「ようこそ、『時のカジノ』へ。あなたも参加なさいますか」
 黒駒にヴェルディアが微笑みかけた。躊躇する様子を見せる黒駒。そこに十三が一喝した。
「参加すんのかしねぇのか、とっとと決めろいっ!」
「ごめんなさい、ごめんなさいっ! 参加しますっ!!」
 という訳で――なし崩し的に黒駒も参加することになり、七星と夏生の間で空いている席へ座った。

●ルール確認【2】
「では改めてルールの確認をいたしましょう」
 ヴェルディアが8人に今回のルールの説明を始めた。
「カードはジョーカーを含めた1組53枚を使用、したがってファイブカードが一番強い役となります。数字の強弱はA・K・Q・J・10……2の順、スーツの強弱はスペード・ハート・ダイヤ・クラブの順です。ジョーカーはオールマイティです」
「同じ役の時はどうするんだい」
 七星がヴェルディアに質問した。
「より強いカードが入っている方が勝ちとなります。ただし、フルハウスの場合はスリーカードの強弱を見ることとします」
「つまり、同じ役でジョーカーが入っていれば、問答無用でそちらが勝利するということだな」
 一樹の言葉にヴェルディアは無言で頷いた。そしてルールの説明を続ける。
「カードチェンジは2回まで。順番はこの席順で……私が最後に行います。カードチェンジの際、捨て札は伏せて出してください」
 ヴェルディアがそう言った瞬間、十三が舌打ちした。
(ちっ、考えてやがる……)
 捨て札を伏せて出すということは、本人以外何を捨てたかは分からない。十三は捨て札を監視することで、各人の動向を見極めるつもりだったが、どうやらヴェルディアの方が1枚上手だったようだ。
(予定が狂いましたね)
 悠也も同様のことを考えていた。山札にあるはずのカード、ないカードを記憶して確率を出すためには、やはり捨て札の情報は必要となる。それを封じられたのは、少々痛い。
「捨て札を出した後、山札からカードを引きます。手渡すのはディーラーの役目です。途中で山札がなくなった際には、ディーラーが捨て札をシャッフルして新たな山札とします。つまり、捨てたはずのカードが再び手元に戻ってくる可能性もある訳です。なお2回目のカードチェンジの際は、全てカードを伏せてください」
「どういうこと?」
「ショーダウンにならないと、最終的に完成した役は自分にも分からない……ということですね」
 夏生の疑問に悠也が答えた。ヴェルディアが何も言わない所からすると、それで合っているようだ。
「ディーラーはウルディアが務めます。スクディアは私を含めた皆の動向を監視いたします。勝利条件はあなた方のうち1人でも私に勝利していること、ただそれだけです。よろしいですね?」
 ヴェルディアの確認の言葉に、8人は頷いた。
「ではウルディア。カードを……」
「ちょっと待った。珠緒にルールの説明してやらなきゃならない。ほら、こっちおいで」
「うにゃ〜、何が何だか難しいにゃ〜」
 七星が珠緒を連れ、部屋の角へ向かった。
「よぉ、ちょっと耳貸してくれや」
 十三も席を立つと、一樹を手招きした。席を立ち一樹は十三と共にテーブルから離れた。

●不安を抱えながら【3C】
「みかねちゃん、顔色悪いよ? それにすごい汗……」
 夏生が心配そうにみかねを見つめていた。先程から一言も喋っていないみかねの額には玉のような汗が浮かび、顔色もやや青ざめていた。
「大丈夫……ちょっと緊張しているだけ」
 笑顔を見せるみかね。だが痛々しさのある笑顔だった。どうなるか分からない、不安と恐怖がみかねを襲っていた。
「賭けられる時の分量は自由に設定できるんですよね」
 悠也がヴェルディアに尋ねた。元より賭け事の好きではない悠也は、多量に時を賭ける気はなかった。だが――。
「いいえ、各々全ての時を賭けていただきます。そして1回勝負」
 静かに言い放つヴェルディア。テーブルに残っていた4人の顔色が変わった。これはすなわち、負ければ……。
「そんな横暴な!」
 抗議する悠也。当然の反応だった。
「そうでなければ、彼女の失った時は賄えないのですよ」
 表情も変えずにヴェルディアが言った。
「それはあれですか、青天井で時を賭けさせたということですね……」
 悠也の問いにヴェルディアは何も答えなかった。
「……分かりましたよ。ただし、やる以上はこちらも負けはしませんからね」
 悠也がヴェルディアを睨み付けた。
「あの……誰か1人でも勝てばいいんですよね?」
 黒駒がおずおずと念を押した。こくんと頷くヴェルディア。
「そうか……誰か1人でも勝てばいいんだ……」
 そうこうしているうちに、席を離れていた4人も戻ってきた。

●ゲーム開始【4】
 ウルディアがカードをシャッフルした。そして十三の申し出もあって、ヴェルディアから逆順に各人1度ずつカットすることになった。イカサマ防止のためである。
 1巡して、手元に戻ってきたカードを配り始めるウルディア。1枚ずつ配り、5周して手札5枚が揃うことになる。
 ウルディアが配り終えた所で、一同は一斉に手札を手に取った。表情に出さない者、軽く溜息を吐く者、よく分かっていない者……反応は様々であった。
「あれっ?」
 夏生が素頓狂な声を上げた。
「1枚多い……」
 カードがくっついていたのか、夏生には6枚配られてしまったようだ。
「ウルディアのミスのようですね。どうぞ中から1枚お好きなカードをお捨てください」
 ヴェルディアに促され、夏生はカードを1枚伏せて捨てた。
「さあ、1回目のカードチェンジを始めましょう」
 にっこり微笑み、ヴェルディアが言い放った。

●カードチェンジ・みかね1回目【5A】
〈ダイヤ   J〉
〈クラブ   K〉
〈クラブ   5〉
〈スペード  7〉
〈スペード  J〉

(どうしよう……)
 みかねは手札を見つめつつ悩んでいた。冷汗は流していたが、何とかポーカーフェイスに徹しようと努力していた。
 今の手はJのワンペア。カードチェンジをするべきか否か。
 結局みかねは1枚捨てることを決めた。

捨て札:〈クラブ   5〉

●カードチェンジ・ヴェルディア1回目【6】
「皆さん、なかなかよさそうな手札のようですね」
 静かにヴェルディアがつぶやいた。
「ふっふっふ、負けないにゃっ!」
 珠緒がびしっとヴェルディアを指差した。
「……みかねちゃん、本当に大丈夫?」
 夏生が身を乗り出して、覗き込むようにみかねの顔を見つめた。顔色がさらに悪くなっている。
「……うん」
 小さく頷くみかね。今度は笑顔を見せる余裕もなかった。
「早く引いたらどうだ?」
 急かす十三。ヴェルディアは手札から1枚を捨てると、ウルディアから1枚受け取った。
「運命となる2回目のカードチェンジです。覚悟はよろしいですか?」
 ヴェルディアは8人に笑顔を向けた。泣いても笑っても、これで結果が決まる――。

●カードチェンジ・みかね2回目【7A】
〈ダイヤ   J〉
〈クラブ   K〉
〈スペード  6〉
〈スペード  7〉
〈スペード  J〉

(どうしよう……)
 みかねは1回目よりも悩んでいた。今回手札を取り替えても、ツーペアになるかどうかは分からない。すでにワンペアが出来ているのだから、取り替えずに後の人へいいカードを回すのも1つの手だ。
(考えがまとまらない……)
 頭の中がぐるぐると渦を巻く感じ。気を抜くと倒れてしまいそうだった。
 結局みかねは2回目のカードチェンジをパスすることにし、手札をテーブルに伏せた。

●カードチェンジ・ヴェルディア2回目【8】
 8人の手番が終わり、ヴェルディアのカードチェンジを残すのみとなった。山札はない。
「最後、私は3枚を交換しましょう」
 ヴェルディアは手札から3枚捨てると、残りをテーブルへ伏せた。
「悪手……だな?」
 十三がニヤリと笑みを見せた。3枚交換するということは、残りの手札はよくてワンペアである。
「勝負は最後まで分からないものですよ」
 相変わらずの笑顔でヴェルディアが答えた。そしてウルディアから3枚受け取り、手札として並べる。
「これで全て終わりました。いよいよショーダウン……1枚ずつ、捲ってゆくといたしましょう」

●ショーダウン【9】
 ショーダウンが始まった。8人が一斉に最初のカードを開いた。

みかね:〈ダイヤ   J〉
一樹 :〈スペード  3〉
珠緒 :〈ハート   6〉
七星 :〈ハート   Q〉
黒駒 :〈クラブ   A〉
夏生 :〈ダイヤ   5〉
十三 :〈ハート  10〉
悠也 :〈スペード 10〉

「では私ですね」
 ヴェルディアが1枚目を開いた。

〈スペード  9〉

 続いて一同は2枚目のカードを開いた。

みかね:〈クラブ   K〉
一樹 :〈クラブ   Q〉
珠緒 :〈ハート   A〉
七星 :〈クラブ   J〉
黒駒 :〈ダイヤ   8〉
夏生 :〈スペード  5〉
十三 :〈スペード  K〉
悠也 :〈クラブ   7〉

 2枚目を開いた時点で、夏生にワンペア以上が確定した。ヴェルディアも2枚目を開く。

〈ダイヤ   9〉

「ワンペア……」
 黒駒がぼそっとつぶやいた。このまま推移してしまうと、ヴェルディアの勝利に終わってしまう。
 いよいよ3枚目に入る。自分でもどんな役が完成しているか分からないため、期待と不安の入り混じった空気が漂っていた。

みかね:〈スペード  6〉
一樹 :〈ダイヤ   6〉
珠緒 :〈ハート   2〉
七星 :〈ダイヤ   Q〉
黒駒 :〈ハート   8〉
夏生 :〈クラブ   5〉
十三 :〈クラブ   8〉
悠也 :〈ハート   7〉

「とりあえずワンペアっと」
 さらっと言い放つ七星。黒駒と悠也にもワンペアが出来ていた。
「スリーカード!」
 1人好調な夏生。まだ〈ジョーカー  〉が出ていないこともあり、もしかするともしかするかもしれない。
 そしてヴェルディアが3枚目を開いた。

〈クラブ   9〉

「こちらもスリーカードですね」
 笑顔のままヴェルディアがつぶやいた。なおも1歩先を歩んでいる。
(まずいな)
 一樹が眉をひそめた。今の所、〈5〉も〈9〉もあと1枚が出てきていない。すなわち、どちらにもフォーカードの可能性がある訳だ。
 ついに4枚目。息を飲むみかね。8人は一斉にカードを開いた。

みかね:〈スペード  7〉
一樹 :〈クラブ   3〉
珠緒 :〈ジョーカー  〉
七星 :〈スペード  8〉
黒駒 :〈ハート   J〉
夏生 :〈スペード  A〉
十三 :〈ハート   9〉
悠也 :〈クラブ  10〉

「リーチにゃっ!」
 珠緒が叫んだ。見るとフラッシュ直前である。これは可能性はある。
「ツーペアです」
 静かに悠也が言った。〈7〉と〈10〉ならば、フルハウスは狙える。こちらも可能性があった。
 その2人の横目に、夏生が悔しがっていた。
「そこに〈ジョーカー  〉あったんだ……惜しいなぁ」
 そしてヴェルディアも4枚目を開いた。

〈ハート   4〉

「へへっ、フォーカードはもうねぇな」
 テーブル上のカードを見回して、十三が言った。何故ならヴェルディアの必要なカードは十三の目の前にあるからだ。そして〈ジョーカー  〉ももう出ている。
「勝負は最後まで……」
 ヴェルディアがそう言いかけた時、黒駒が先に言った。
「最後まで分かりませんよね」
 ヴェルディアは一瞬きょとんとした表情を見せたが、またにっこりと微笑むと小さく頷いた。

●最後の1枚【10】
 とうとうラスト、5枚目である。これで全てが決まる。
「……どうぞ、お開きください」
 ヴェルディアが静かに言い放った。8人は最後のカードに手をかけ、一気に開いてみせた。

みかね:〈スペード  J〉
一樹 :〈ダイヤ   K〉
珠緒 :〈ダイヤ   4〉
七星 :〈ハート   5〉
黒駒 :〈ダイヤ   3〉
夏生 :〈ダイヤ   A〉
十三 :〈クラブ   2〉
悠也 :〈ダイヤ   7〉

「やった! フルハウス!」
「同じくフルハウスです」
 ガッツポーズを取る夏生とは対照的に、あくまで冷静な悠也。その一方、珠緒は目をぱちくりさせていた。
「ハートじゃないにゃ……」
 色は赤いがダイヤではどうしようもない。結局珠緒はワンペア止まりであった。
「残るは1枚か」
 一樹のつぶやきに、他の7人の視線がヴェルディアの伏せられたカードに集中した。もしこのカードが〈4〉であれば、ヴェルディアもフルハウスとなる。
「確認しておきますが、フルハウスの場合はスリーカードの強弱を見ます」
 表情を崩さずヴェルディアが言った。つまりフルハウスになると、スリーカードの強いヴェルディアの勝利となってしまう。
(お願い……勝たせて!)
 みかねが心に強く念じた。けれど、念じたからカードが変わるという訳でもない。
「では……」
 ヴェルディアが最後のカードに手をかけ、ゆっくりと表を向けた。

〈ダイヤ   2〉

「スリーカードだわっ! やった、勝った! 勝ったーっ!!」
 両手の拳を突き上げ、夏生が身体全体で喜びを表した。
 スクディアを見るヴェルディア。スクディアは首を横に振った。不正は全くなかったようだ。
「やったにゃ! 見たか、乙姫淫魔っ!!」
 珠緒が満面の笑みを浮かべた。
「よかった……勝って……」
 みかねはほっとした表情を浮かべると、ぐらりと椅子から崩れ落ちそうになった。慌てて支える一樹。どうやら安心して気を失ってしまったようである。
「勝ててよかった……」
 黒駒もほっと胸を撫で下ろした。

●カジノの目的【11】
「では約束通り、彼女の時は返してもらいます。いいですね?」
 最後の『いいですね?』を、少し語気強く言う悠也。
「もちろんです、明朝に奪われしはずでした時はお返しいたしましょう。しかし、すでに奪われた分までは……」
「そりゃあ、しゃーねぇな。そこまでは知ったこっちゃねえ、自業自得ってもんだろ」
 十三がそう言い放った。
「奪われても生きてるんなら大丈夫だよ、きっと」
 しれっと七星が言った。見た所、奪われたと言っても精々1年くらいだろう。もっとも歩実のような年代の1年は大きいかもしれないが。
「それはそれとしてだ」
 一樹がヴェルディアに言った。
「もしかすると、歩実の負け分以上にこちらが勝っているのではないか?」
「……そうなりますね。その分は金運として……」
「その必要はない。金運が時間の代価になるとは思わないのでな。その代わり、そちらの時間で代価を払ってもらうとしよう」
「それはどういうことですか」
「何、勝った分の時間だけ、俺たちのために使ってもらうということだ。例えば……その間はこのカジノを開かない、とな」
 その一樹の言葉に、はっとして他の者の視線が集まった。皆気付いたのだ。このカジノが開いたままだと、これからも犠牲者は増えるばかりだろうと。
「……分かりました。その間は、カジノを開かないことにいたしましょう」
 一樹の提案を承諾するヴェルディア。ウルディアとスクディアが驚いてヴェルディアを見た。
「いいのですよ。どうやらカジノを開く必要性もなくなったようですし」
「そういえば聞きたかったんだけど……」
 夏生が口を挟んだ。
「何でしょう?」
「いったい何のために、こんなことをしていたの?」
 そういえばそうだ。何故このようなカジノを開く必要性があったのか?
「気紛れ……がなかったと言えば嘘になりますね。ですが、理由はきちんとありました」
「その理由は?」
「……時の綻びを直す者を見つけるため……」
 ヴェルディアが静かに答えた。一瞬、誰しもその言葉の意味を理解できなかった。
「今はまだ緩やかですが、次第に綻びが大きくなってきています。いずれ気付く者も現れることでしょう」
「よく分からんが、回りくどいことしてやがんな」
 十三が溜息混じりに言った。
「これが一番いい方法だったのですよ。他人を救うために、自らの時を賭けようだなんて方はなかなか居ませんでした。そして見事に勝利……ご立派です」
 にっこり微笑むヴェルディア。
「あなた方でしたら、時の綻びを直すことができるでしょう。いえ、私たちが強制させる訳ではありません。導かれる者は導かれる運命なのですから」
 ヴェルディアはそう言うと、懐から何かを取り出し見つめた。
「どうやら夜明けが近いようです……お帰りなさい。あなた方と再び出会う可能性は、もう限りなく低いことでしょう。ではお元気で……」
 ヴェルディアは深く頭を下げた。
 ヴェルディアの話も終わり、気絶したみかねを悠也が背負い、歩実を一樹が連れ、一同はカジノを後にした。ヴェルディアたちがそれをじっと見送っていた。
 一同が階段を上がり外へ出てくると、空はもう明るくなっていた。時計を見る黒駒。時刻は朝6時過ぎ。
 七星が今出てきた場所を振り返った。だがそこにはただコンクリートの壁があるだけだった――。

【時に怯えし少女【完結編】 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0249 / 志神・みかね(しがみ・みかね)
                    / 女 / 15 / 学生 】
【 0173 / 武神・一樹(たけがみ・かずき)
            / 男 / 30 / 骨董屋『櫻月堂』店長 】
【 0234 / 白雪・珠緒(しらゆき・たまお)
 / 女 / 20代前半? / フリーアルバイター。時々野良(化け)猫 】
【 0177 / 瀧川・七星(たきがわ・なせ)
                   / 男 / 26 / 小説家 】
【 0418 / 唐縞・黒駒(からしま・くろこま)
                / 男 / 24 / 派遣会社職員 】
【 0017 / 榊杜・夏生(さかきもり・なつき)
                   / 女 / 16 / 高校生 】
【 0060 / 渡橋・十三(とばし・じゅうぞう)
           / 男 / 59 / ホームレス(兼情報屋) 】
【 0164 / 斎・悠也(いつき・ゆうや)
           / 男 / 21 / 大学生・バイトでホスト 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全27場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・お待たせしました、『時に怯えし少女』の完結編をお届けします。今回は高原も初めての試みだったんですが……いかがだったでしょうか? プレイングを書く方も難しかったと思いますが。ちなみに同様にポーカーを行う冒険を『聖獣界ソーン』内『白山羊亭冒険記』に出していますので、興味のある方は覗いてみてください。
・今回の結果なんですが、実際にカードを使って書きました。結果には一切手を加えていません。ですので、まさかこういう結果になるとは、高原も読めませんでした。
・今回の登場人物一覧は、カードチェンジの順番で固定しています。
・志神みかねさん、4度目のご参加ありがとうございます。途中かなり精神的にきつかったようです。無事に終わったので、最後気絶しています。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。