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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


調査コードネーム:「秘密結社アトラス! 〜打倒・探偵戦隊草間ファイブ〜」
執筆ライター  :立神勇樹
調査組織名   :月刊アトラス編集部
募集予定人数  :1人〜5人

<オープニング>

 ――ある朝目が覚めると、秘密結社の幹部になっていた。
 冗談ではなくマジである。

 いつものようにあくびをしながら、いつものようにビルの階段をあがり、いつものようにアトラスのドアを開けたならば。
 目の前に秘密結社があった。
 衝撃だ。
 秘密結社といっても、夜明けのなんたらとか、薔薇十字団のような格好いいモノじゃない。いわゆる子供だましの特撮ヒーロー番組に出てくるような秘密結社だ。
 鍾乳洞の中のように岩肌剥き出しの室内に、銀色のパネルやら、得体の知れない機械(そもそも動くとは思えない!)がはめ込まれており、その合間合間にこれでもか! と深紅の薔薇が活けられている。
 やたらとガラス玉がついた金メッキの玉座に鎮座ましましているのは、王冠をかぶり、黒レザーのレオタードにピンヒールのブーツ。とどめは毛皮のマントという格好をした碇麗香である。
 麗香は女王然とした動作で立ち上がって手を上げた。
「聞け! わが同士よ! 世間の不況を受け、わがアトラス帝国の売上も衰退の一途をたどっている。しかぁし! 憎き「探偵戦隊草間ファイブ」の指令、あの草間武彦が持つ「伝説の怪奇原稿」さえ手に入れば、瞬く間に月間売上トップ。わが帝国に再び栄華が訪れるであろう!」
 あのー、もしもし?
 ほっぺたをつねってみると、ちゃんと痛い。
 が、この状況は現実とは思えない、否、思いたくない。
 肩を落としてため息をつくと、足元に白と黒の変な動物がいた。
 ――バクの子供だ。いわゆる夢を食べるというあいつだ。
「あれあれ? 夢の世界なのにずいぶん現実の人たちが混じっちゃったなぁ」
 ということは、これは誰かの夢の中?
「そうだよ。でもキミ大変だね。この夢から出る為には、この夢を終わらせてあげなきゃいけないんだ。そうそう夢の世界で一晩すごすと二度と元の現実に戻れなくなるんだから急いだ方がいいよ」
 …………。
 どうやらこの馬鹿げた戦隊モノ世界で「どうにかして」話を終わらせなければならないらしい。
 しかもアトラスだけではなく、草間興信所も夢の世界に巻き込まれているようだ。
「出でよ! 間抜け怪獣ミノシターン!」
 タコイカ合わせて十八本の足に三下の顔がついた、なんとも情けない怪獣が煙とともに現れた。
「うぁああああん。麗香さんひどいです。何で僕だけこんな目にぃいい」
 やれやれ。程度の差はあれ、アトラスのメンバーもノリノリだ。
 でも、まてよ?
 たまには「悪役が勝つ戦隊モノ」があってもいいんじゃないか?
 それにこれは、草間武彦を公然といぢめられるチャンスだぞ?
 そう考え微笑んだあなたの後ろで、碇麗香が高らかにさけんだ。
「行け! わが精鋭たちよ!」


<第1話・悪役はいつも華麗に>

「と、思ったけど、やめたわ」
 ガタガタタン!
 物が落ちる音および、人が倒れる音が立て続けに起きた。
 もちろん、アトラスにいた全員が「ずっこけた」音である。
 ずっこけなかったのは外見同様、剛胆な神経をもつ荒祇天禪ただ一人だけであった。
 もっとも、この程度でずっこけていては天禪の経営する会社(それも日本有数の大企業だ!)の社員に示しがつかないし、政財界の狸たちとも渡り合うのは不可能なのだろうが……。
 天禪は整えられた頭に手をやった。固めの髪の毛が厚い手のひらに硬質的な感触をつたえてくる。
 普段はオーダーメイドの英国製スーツ(しかも袖口のボタンがはずせるという、最高級品だ!)に身を包んでいるこの御仁。今は何故か戦国時代の武将が着るような鎧を身にまとっている。
 両肩についた真紅の大袖が小麦色に焼けた肌と調和しており、実にサマになっている。
 天禪が「戦国時代から現代にタイムスリップしてきました」と言う方が、この馬鹿げた現状よりよほど真実みがあるというものだ。
 それもその筈。今となっては一族の限られた者しか知らぬ事だが、天禪は10世紀を生きようかという「鬼」である。
 ゆえに現在のこの格好も、本人にしてみれば「おお、久しぶりだな。たまにはこういう格好もよいかもしれぬ」程度のものなのだ。現代人がたまに着物を着る感覚と同じ、という訳だ。
 その証拠に、もしこの場に人の心をのぞける力持つ者がいて、天禪の心を読んだなら。
(この装いは実に久方ぶりだな。清盛の若造を背面から蹴り飛ばした時以来か? それとも関ヶ原で石田のみっちゃんをいじめた時以来だったか……懐かしい。うむ。実に懐かしい……)
 ってな調子で万感の思いを込め、過去を回想しているのに気づき、頭を抱え込んで卒倒することだろう!
 天禪が万感の思いを込めて、死屍累々(もちろん、麗香の一言で精神に「ずっこけダメージ」を食らった方々だ)を眺め、昔を回想していると、これまた天禪と同族……しかしまだ若く、暴れたい盛りといった鬼の少年が机を手がかりにして何とか立ち上がった。
 ああ! しかし! 何と言うことか!
 その少年――紫堂奏太の姿と言ったら!
 黒いナースキャップに、黒いナース服。もちろん足は腐女子の心をくすぐるショタコン印の生足だ!
 とどめというのか、ご丁寧というのか、小さくかわいいおしりには「お約束」と言わんばかりに先のとがった長い「小悪魔しっぽ」!!
 御歳十二才。気の強さと悪戯心をうかがわせる利発そうな顔! 黒いナース服と見事なコントラストを示す細い手足。
 ああ! ああ! 何という破壊力! 何という魅惑の誘い! これを目にした「ある種の乙女」は鼻から赤い液体を吹き出しながら瞬時に絶命することだろう!!!
 麗香の趣味か?! 衣装係の手違いか?! ともかく、一番の問題は奏太自体がこの格好の不自然さ(いや、この場合は自然さだろうか?)に何ら違和感を感じていないという事だろう!
(命令されるのはあんまり好きじゃないんだけどなぁ)
 などとおもいつつ、ま、いいか。
(これなら草間さんやみんなを味見できるし♪)
 という所である。外見はかわいい少年でも、中身は人間・悪霊・悪魔となんでもござれ! 食べ物に好き嫌いはいたしません! の正真正銘、心も体も立派な鬼なのである。
 奏太は黒いナースキャップからこぼれ落ち目にかかる前髪が邪魔だといわんばかりに、ぷるぷると顔をふり、ついでにお尻についた悪魔しっぽで床に倒れている「間抜け怪獣ミノシターン」をぴしり、と打って口を開いた。
「やめた、って、やめたら夢おわんないよ」
「あら、やめるのは草間興信所襲撃。春になったから紫外線がこわいじゃないの。わざわざ武ちゃんの所に行くために、お肌を傷めたくはないわ」
「そうだね、曲がり角ふたつはすぎてる……うわぁ」
 ホホホ、と笑いながら麗香の手から放たれた鞭を避けながら、奏太はあわてて机の影に隠れる。
 あわれ巻き込まれた編集部員達が、ヒィー!と秘密結社の戦闘員お約束の悲鳴を上げながらのたうち回る。
 奏太を狙って再び放たれた鞭の先を、一つの影が驚異的な動体視力と瞬発力でもって受け止めた。
 人影……サイデル・ウェルヴァは鞭をぐい、と一度強く引っ張り麗香がよろめいたのを確認してから手から鞭を離した。
「仲間うちでもめてる場合じゃないよ」
 大きく息を吸い込む。体に密着したヴェストの下で豊かな胸が膨らみ、白いシャツのたっぷりとしたひだがふるふると揺れた。
 黒いサテンの裾長の上着には金糸でびっりしと刺繍が施してあり、ボタンは大きな真珠。
 つばの広い黒い帽子には白く大きな羽根が飾ってある。無駄な肉がついてない長い足をぴっちりと包むのは白いスラックス。
 ブーツは磨きたててあり、腰に下げた細身の剣・レイピアが彼女の動きに従ってかすかな音をたてる。
 秀麗な顔の中で柘榴石のように輝く瞳の片側には黒ガラスでできた精巧な眼帯をつけている。
 それは堂々とした彼女の態度とあいまって、中世の女海賊と言った姿である。
「あたしは手段なんかどうでもいい。だけど、だらだらなれ合うのはごめんだね」
 熟れた果実の様な唇から、ぶっきらぼうにサイデルは吐き捨てた。
 本職が女優であると言っても、この雰囲気、この状況でこれほどに似合いの所作を取れる者はそういないだろう。
 もしここがスタジオでスポットライトがあるならば、間違いなくその中心はサイデルだった。
 執念深く、頭も切れ、しかし詰めが甘いと、悪役の条件生まれつきにして完璧にみたしているのだから、この場の雰囲気で目立たぬ訳がない。
 悪女・女海賊・傾国の王妃などを演じてきて、最近名前が売れてきた女優なのだが、いままでメディアが彼女を取り上げ騒がなかったのは不思議でならない。
「そういうこと、ともかく草間興信所……じゃなかった、この場合は正義の本拠地かしら? から原稿を奪ってくればいいんでしょう? 原稿奪わないとここからでられないんでしょう?」
 と、迷惑そうな言葉を何故か嬉しそうな口調で良いながら、不知火響はピンヒールブーツのかかとで床を蹴った。
 普段は保健室勤務の臨時教師のお姉さんなのだが、今日の服装はSM女王も真っ青な黒皮の拘束スーツだ。
 豊かな胸元を惜しげもなくさらす、Vカットがお子さま……もとい、アトラスの戦闘部員や間抜け怪獣ミノシーターンには目の毒だ。
「ま。そういう事なら仕方ないわよねぇ?」
 やはり嬉しそうに、しかも何の違和感も抵抗もない調子で言ってのける。繊細に作られた彫刻のような外見とは裏腹に、精神はかなりタフな様子である。
 響はこれまた黒皮の手袋で包まれた指先で、ゆっくりと唇の輪郭をなぞって微笑む。
「それにしても似合うわね。麗華。ふふ、悪の女幹部ね…素敵じゃない? 丁度ここの所暇してたし、いいわ。つき合ってあげる」
 ヒールを高らかにならしながら、麗香女王様のあごに手をそえ、顔を近づけまじまじとのぞき込む。
 危険である。
 はっきり言って危険である。
 どのぐらい危険な空気かというと、背景に紫の薔薇を千本かきこんで、桃色の煙をだす香を焚きしめ、背後に薄いカーテンとベッドがあれば、もはや直視ままなぬ! といった空気が漂っている。
 詳しく描写をするならば……それは淫靡にして美しく、濃厚にして絢爛豪華、死と快楽。運命と絶望のめくるめく桃色の世界。
 はっきりいって――<以下十八禁の妄想が繰り広げられている為、編集上削除>――である。
 せっかく麗香の「ずっこけダメージ」から回復した編集部員……もとい戦闘員達が、今度は響の「お色気ダメージ」で鼻から赤い液体をほとばしらせながら、三メートルほどぶっとびまくり、床の上で体を跳ね踊らせて絶命している。
「とにかく、興信所から原稿を奪う!」
 戦隊モノではなくアダルトビデオチックな雰囲気になりつつあるのを拒否するように、一同の良心シュライン・エマが叫んだ。
「あら、そんなに照れることはないじゃないのシュライン。もし経験が無くて奥手になってるのなら、私が手取足取り明日の朝まで教授してあげるわ」
「そうじゃなーーーーーーーい!」
 ぜいぜいと息を切らせながら、喉も避けよとばかりに咆吼した。
 ヴォイスコントロールに優れ、通常なら人の耳に心地よい声と抑揚で語りかけてくるシュラインも、さすがにこの時ばかりは制御なし、問答無用の破壊音声で叫びたてた。
(……私はアトラスに貢献する気はさらさらないのに)
 もともとシュラインは草間興信所でバイトをしている翻訳家である。
 つまりこのアトラスにいること自体がおかしい。裏切るつもりは決してこれっぽっちもない。もとい、これで現実の草間興信所に影響があって、給料が貰えなくなったらどうしてくれるのだ。
 こんなアホな事態に巻き込まれるのなら、いっそ「探偵戦隊草間ファイブ」の「ピンク」をやっていた方がマシだというものである。
 が。気がついたらコチラにいたのだから仕方がない。
 泣きそうになりながら、がっくりと肩を落とす。
 しかし、「伝説の怪奇原稿」を奪ってどうにかしない事には話は続かない。
 この一癖も二癖もある仲間と、何とか二十四時間以内に話を終わらせなければ一生このアホな夢の中に置き去り、となりかねない。それだけは勘弁だ。
(しかもこの衣装、動きにくいし、重いし、頭のかつらは落ちそうで怖いし、壊しそうだし……この衣装……汚したら高いんでしょうね。ああもう)
 と、長い裾を引きずりながらため息をつく。動きにくさでは他の四人の追随をゆるさない。
 それがどういった衣装なのかというと……後の楽しみのために、ここでは明言を避けておく。
 閑話休題。
 ともかく、シュライン・エマはこのアホらしい事態、および、協調性のカケラもない仲間をみてるうちに、ぷつん、と何かがキレてしまった。
 ふつふつと笑いが心の底から沸き上がる。
 こうなったら、どうとでもなれ、である。
 泣き落とし、餌付け、誉め殺し。くすぐり、青汁一気飲み、バンジージャンプ。
 草間興信所に来るメンツの顔を思い浮かべながら、その弱点をリサーチする。
 相手に確実に対応できるように、準備は万端でなければならない。知ってる相手にであったらめっけもの。正確に弱点をつくことができるだろう。
 こうなったらアトラス仲間を盾に、剣に邁進するのみ! である。
 草間武彦が書いた「究極の原稿」とやらがどのようなものか、気にならないと言えばウソになるが、あの草間に頼る暇があるのなら、汗水ながして良い原稿を書けばいい。だいたい草間ファイブも原稿なんぞ守ってる暇があるなら、世の中に貢献しろ。
 マグマのような熱い怒りが腹の底から沸き上がってくる。
「いいわ、奪いましょう。やってやろうじゃないの! あんた達準備はいい?!」
 ただならぬ怒りに全身を震わせるシュラインに、全員が息をのんで気を付けをした。
 普段冷静な人間ほど、切れると怖いものである。
「あ、あのね、シュライン。お願いだからエキサイトしないで。ね」
 麗香がかわいさを狙って小首をかしげるが、シュラインは絶対零度の視線で麗香を睨むだけである。
「で、あの、その、もし差し支えなければここはお約束に乗っ取って行動しようかなぁ。と」
「お約束ってなーに?」
 奏太がうれしそうに、小悪魔しっぽ(ほんとうに、どうやって動かしてるのだろう! 謎だ!)をゆらゆらとふりながら大人達の顔を下からのぞき込む。
「きまってるわよねぇ」
「ベタだ」
 響とサイデルが同時に吐き捨てる。と、武者姿の天禪が左手の平を右手でぽん、と打った。
「む、そうか。悪役のベタといえば答えは一つ……幼稚園バスジャックだ」
「幼稚園ばすじゃっくぅう?!」
 怒りを忘れてシュラインがすっとんきょうな声を上げた。
「わーいわーい、バスジャックv 子供は柔らかくておいしいから、かじりがいがあるんだッv」
「物心のつかない小ウサギちゃんを手なずけるというのも悪くないわね」
 と喜びの声を上げるのは奏太と響。
「しかし幼稚園バスは一体何型車になるんだ? 俺は普通自動車免許しかないから普通車と原チャリしか運転はできんぞ」
「ガキ相手のロケは面倒だから避けたいねぇ」
 とやたらと現実的な事をのたまうのは天禪会長とサイデル。
「…………」
 無言なのは、もちろん、開いた口がふさがらないシュラインである。
「あ、あのね、で、もう面倒だからADさんと大道具さんに手配しちゃったの。で、さっき草間ファイブに「幼稚園児返してほしければ秘密基地まで来い」ってぇ、ここの住所を伝書鳩で教えておいたの。だからそろそろ来るとおもうわ。あとはよろしく!」
「…………はい?」
 女子高校生のようなノリでとんでもない事をいう麗香。
 そして麗香の言葉を三秒遅れで理解したシュライン。
 おい、そもそもADと大道具ってなんだ?!
 伝書鳩ってなんだ?!
 住所教えたらそれは「秘密」基地ちがうだろ!
 あらゆる疑問が頭の中で駆けめぐる。
 しかし忘れては行けない。
 夢と戦隊モノはご都合主義と相場が決まっているのだ。
 諸君。
 健闘を祈る!


<第2話・秘密基地潜入!!>

 かくして、探偵戦隊・草間ファイブと秘密結社アトラスの最後の戦いの火蓋が切って落とされた。
 そこに至るまでには艱難辛苦、波瀾万丈、悲喜交々、焼肉定食の出来事とそれに付随するドラマがあったのだが、まともに説明していたら、夕方十七時から一時間七十二週かけても終わらないので、この場では割愛させていただく。
 伝書鳩についていた地図に従って、草間ファイブ達がたどりついたのは「月刊アトラス」が入っているとある出版社のビルだった。
 いや、ビルだったもの、と訂正したほうが良いのかもしれない。
 外壁はアルミホイルのようにてかてか輝く鏡面張り。設計基準法を無視したようにビルはねじくれ、壁の中から触手のようは張りぼてが無数にあらわれツタのようにビルを覆っている。
 窓枠にはバラの花が飾られている。
 どんなに悪趣味なラブホテルだって、ここまでしないだろう?! という実に設計過剰かつ美的感覚を疑いたくなるようなビルだった。
「うわー、編集長はりきってるなぁ! まるでラブホテルじゃん。……ラブホテル?! 俺と三下さんの愛の園?!」
 くふふふふ、と自分で言った感想に自分で反応し、妄想をふくらませているのは言うまでもなく「レッド」の湖影龍之助である。
「ふ、不潔です!」
 はっきり言って、十八禁の妄想をピンク色のハートにしてあたりにばらまく龍之助をにらみ、顔を真っ赤に染めて反論する少女は「ピンク」の篁雛である。
「ちくしょー、何が最近はイエローもスカートだ! 草間のクソオヤジ!」
 とぼやきながら、雛と色違いのコスチュームの裾(要するにスカートだ)を気にしてるのは、「イエロー」こと九夏珪少年。
「帰りたくなってきたぜ」
「まあまあ、そう言わないで楽しもうじゃないか」
 心底嫌そうな顔をして渋々ついてきてるのは「ブラック」の張暁文。その暁文をなだめ、かなり状況を楽しんでいるのは「ブルー」の抜剣白鬼である。
 はっきり言ってここまで協調性も友情も無い戦隊も珍しい。
 ともあれ入り口を通る。と、普段ならかわいい受付嬢が迎えてくれる玄関ホールにたどり着いた。
「おい、何か出てきたぞ」
 それぞれ好き勝手に、気の赴くままに行動していた探偵戦隊草間ファイブのメンツが、暁文もといブラックの言葉に誘われ、ホールの中央にある階段に視線を合わせる。
 と、現れたのはお約束の秘密結社の戦闘隊員。
 月刊アトラスの編集部員が続々と二階から中央階段を下りて現れた!
 その顔色は一様に青白く、シャツはよれよれにくびれ、ネクタイは限界までゆるめられている。
 片手には真っ白な原稿用紙、片手には修正用の赤ペン(もしくは写真のネガ)をもち、胸ポケットには何故かリゲ○ンの小瓶とストローが入ってる。
 よれたシャツの背中には「二十四時間戦えますか?」・「注意一秒誤字一生」・「〆切破りは人に非ず」・「夏コミ取れた?」エトセトラ、エトセトラ……が、毛筆で豪快に書き抜いてある。
 その数たるや! はっきり言ってこのビルのどこにこれだけの編集部員もとい、戦闘隊員がいるのだ?! とか、これだけいるなら、草間から原稿取らずにてめぇでかけよ! と言いたくなるほどの数だった。
「ヒィ!」
「ヒィイ!」
 そして彼らはお約束の奇声をあげながら、一斉に草間ファイブに挑みかかってきた!!
「うわ」
「きゃっ!」
「なんじゃこりゃー!!!」
「か、数が多すぎる!」
 と珪、雛、暁文、白鬼が異口同音に叫んだ。
 栄養失調・寝不足・しかもハイテンションの編集部員に囲まれては、戦う以前の問題だ。
「原稿、下さいよ〜。泣き落としは駄目ですからね〜」
「何か書いてよ、三枚でいいからさ!」
「ささ、このライター契約書にサインを! サインを!」
「えー、おせんにキャラメル、おせんにキャラメル如何ですか?!」
「アナータハ、神ヲ信ジマスカー?」
「ええい、もってけ泥棒! べらんめぇ!」
 赤ペンを振り回す者、携帯電話で原稿を取り立てる者、契約を迫る者、果てには押し売りに、宗教勧誘。フランクフルトの屋台に金魚すくい。バナナのたたき売りまでやる始末。
 いくら夢とはいえ、ここまで矛盾だらけだと何が何だかわからない!
「やっ、触らないで!」
 一体何処をさわったのか、編集部員の一人が左手に雛の平手打ちを位、見事に吹っ飛ぶ。
「きりがないね!」
 何人目かの編集部員に手刀をたたき込みながら白鬼もといブルーが悲鳴をあげる。
 流石にヒーローといえど、数の暴力にはまけるのか?!
 ああ、ああ、危うし草間ファイブ!
 絶体絶命! そう思った時。
「――ところで、みなさんご自分の原稿お書きになりました? 〆切今日ですけど」
 にこにこと人畜無害な……いや、人畜無害なだけに恐ろしいレッド・龍之助ののほほんとした言葉が放たれた。
「ヒィイイイイイ!」
 一斉に悲鳴をあげて、編集部員達が頭をかかえ、ドミノの様に倒れていく!
 恐るべし龍之助。恐るべし〆切!
 アトラスの実状を知るアルバイターだからこそ使える最終兵器!
 切実かつ、冷酷なこの一言に勝てる編集部員がいるだろうか?!
 次々にうめきながら倒れていく編集部員達。胸ポケットのリゲインを補給する暇もない。
「あれ……」
 何とか原稿を奪おうと取りすがってくる編集部員を、スカートを押さえながら蹴り飛ばす、という器用な戦い方をしていた珪が、階段の上を見ながらつぶやいた。
「やるじゃぁないか。編集部員達を全員倒すだなんて」
 ぺろり、と赤い唇をなめながら階段の上の女性が嗤う。
 ひだのついた白いシャツの下で、豊かな双球が笑いに合わせ小刻みに揺れている。
 黒いサテンに金糸で刺繍を施したコートに、つばが広く大きな羽を飾った黒帽子。
 それらの服装は、彼女の秀麗な顔の半面を隠す黒ガラスの眼帯と相まって、その姿を中世の海賊のように見せていた。
「でも、通す訳にはいかないねぇ」
 大儀そうに両手を肩の高さまで持ち上げ、ゆっくりと頭を振る。
 小馬鹿に仕切った彼女の「お手上げ」のポーズに合わせて、サファイアのように透明できらきらと輝く蒼い髪が揺れた。
「お前は!」
 と、抜剣がお約束のセリフを言う。
「フッ、あたしは帝国一の太刀! 女海賊のサイデル様さ!!」
 堂々とした態度で階段の上から草間ファイブをにらんで叫ぶ。
 素晴らしい演技力である。もっとも女優のサイデルにしてみれば、これぐらいの演技など朝飯前であろうが。
 やっと訪れた緊迫的状況である。
(こ、これぞ戦隊モノ! これぞヒーロー!)
 じいん、とヒーロー願望がある珪と白鬼が感動してる横で、つまらなさげに暁文がかかとで床を蹴った。
「ザコは頼む……と、言いたい所だが」
 もう一度床をける。と、不意に暁文の姿が消え、サイデルの目の前に瞬間移動した。
「駄目と言われるとやりたくなるのが俺の性分なんでな! あんたにゃ悪いがお命頂戴だ!」
 いうなり両脇に下げていた黒い銃をホルスターから引き抜き、サイデルに突きつける。が、サイデルは体をわずかに反らして暁文の弾丸をよけてみせた。
「……あんたも諦めがわるいな。夢の中なんだからさっさと死んで、さっさとこの馬鹿げた状況から出たいとは思わないのか?」
 にやり、と口の端を二ミリだけ引き上げて暁文が笑う。
 彼の目の前に立ちはだかる敵が「最後」に目にする闇色の嗤いだ。
「あいにくと、たとえ夢でもてめぇ何かにやられる気はないね」
 切っ先を唸らせながらサイデルが剣を暁文に振り下ろす。
 間一髪で、銃を交差させ、その谷間で剣を受け止める。
 サイデルの真紅の瞳と暁文の黒の瞳に、冷たく鋭い殺気が宿り、お互いの存在を確かめるように空中で交差し、絡み合う。
「よーし、良いだろう。ここは俺に! このブラックにまかせておけ!」
「…………」
 おまえ、日本人がわからん、とか言ってなかったか?
 と、残り四人のメンバーが唖然と口を開けて暁文をみる。
 どうやら夢は時間と共にメンバーの精神に働きかけ、「その気」にさせてしまうようだ。
 当然他の四人も、「あのー、もしもし?」と言いたい気持ちだったのだが、何故か次に取った行動は――。
「よし、任せたぞブラック!」
「死なないでね! ブラック!」
「お前の勇気、忘れないぞブラック!」
「ブラック! 星とともに永遠に!」
 と叫びながらサイデルの横を駆け抜ける、だった。
(――ていうか、まだ俺は生きてるぞ! 星と共に永遠にって何だ! 誰がいいやがった!!)
 と暁文が仲間の背中を一瞬みる暇があればこそ、空気を切る音がして、鋭い何かが腕を引き裂き、血液の珠を空中に散らせる。
「ほら、坊や。よそ見してる暇があるのかね! あんたの敵はあたしだよ!!!」
 黒猫のようにしなやかに動き、瞳を勝利の星・火星の様に輝かせながらサイデルがレイピアの切っ先で空中に円を書いてみせる。
「いわれなくても、嫌というほど泣かせてやるよ、黒猫ちゃん」
 ぺっ、と唾を吐き捨て、右手に持った銃の口を天井にむけ、トリガーに添えた指に力を込めた。
 遠雷のような轟音がホールを満たす。
 天井を飾るシャンデリアの鎖に弾丸が当たり、弾け飛び、重力の法則に沿って床に落ちてガラスが砕けた。
 ――それが死闘の始まりだった――。


<第3話・女海賊vs中華戦士ブラック>

 ――そんな訳で。
 アトラスのある出版社ビルのロビーは、暁文とサイデルの放つ殺気で張りつめていた。
 もしこの場に画家がいたならば、二人の背後に獅子と龍と荒波を書き込んだ事だろう!
「さあて、どういう風に料理してあげようかねぇ。焼いて良し、煮ても良さそうだねぇ」
「そうだな。味付けは四川風か、ちょっと洒落てケチャップか」
「仕上げはバジルをちぎって散らして」
「ぐつぐつ煮込んでフォンドボー」
「鰹節の量は、普通の4倍でたっぷりと」
「器は……違うだろ、オイ」
 フッフッフ、と怪しげな笑いを漏らしながらお互いの料理法を語っていたサイデルと暁文は、はた、と気づいてお互いの武器を構えなおした。
 流石に夢の中。現実とは微妙に感覚がずれているようだ。
「そうだねぇ、まずは材料を切るところから始めないとねっ! 喰らえ! レイピアストーム!」
 サイデルは叫ぶや否や、レイピアを素早く連続して突き出し始めた。
「のわっ!」
 銃を構える余裕さえ与えてくれないサイデルの攻撃を、辛くもよけながら暁文はじりじりと後じさる。
「ほらほら後が無いよ!エスト、エスト、エスト!」
 歓喜の声を上げながら、レイピアの鋭い切っ先でもって暁文を追いつめる。
 逃げ場を考える間もなく、あっというまに暁文は通路の隅に追いやられる。
「くっ」
 背中を壁に打ち付け、暁文はサイデルの赤い眼をにらむ。
 もはやこれ以上後退する事はできない。
「さぁ。どう刻んであげようか、千切りかそれとも三枚におろそうか? すっかりまな板の上の鯛だねぇ」
「それを言うなら「鯉」だろ?」
 苦し紛れの暁文のツッコミも、勝利を確信したサイデルには通用しない。
 喉をならしながら、レイピアの切っ先で暁文の喉元を執拗に何度もなでる。
 切っ先のなでた跡から、小さな血の珠がぷつぷつと浮かび上がってくる。
 ああ、危うし暁文。
 正義はここまでか?!
 と、思った瞬間、暁文は喉が傷つくのにもかまわず顔を逸らし、口の動きだけでサイデルを嗤ってみせた。
「は、甘いな。正義は追いつめられることはあっても、しとめられることは無いんだぜ?」
 現実世界では警察のご厄介になるほどの「悪役」だが、夢の影響か、暁文の心はすっかり正義の炎で占められていた。
「見せてやる! 中国三千年の秘技! ブラックスーパーイリュージョォオオン!」
 叫んだが早いか、その姿が虚空にとけ込みサイデルの視界から消える。
 はっ、とサイデルが息をのんだ時、暁文は自らの身に宿すテレポートの能力によって、彼女から遠く離れた階段の真ん中に立っていた。
 喉の血を親指の先で拭い取り、ゆっくりと、そう、余裕さえ感じさせる動きで暁文は両手の銃を構えた。
 狙うはサイデルの眉間だ。
「チェックメイトってやつだ。観念しな!」
「そうは行かないね!」
 暁文が引き金を引くと同時に、サイデルは横っ飛びに廊下を転がり、階段の脇にある小さなだるま像を押した。
 瞬間。
 乾いた木が打ちならされる音がして、階段が傾斜45度の坂道へ変わる。
「ああっ?! 池田屋階段落ちィ?!」
 ボケを高らかに叫んだ瞬間、暁文はなさけなくもたたらをふみ、階段、もとい、階段であった坂道を滑り落ち、したたかに鼻を打った。
 鼻血がでなかったのが、不幸中の幸いというものだろう。
「ああ、姉さん、姉さん。俺はここまでしかこれない男だったのか……」
 いつの間にか勝手に自分の家系図を書き換え、どこぞのヒーローのように、生き別れの姉を想って床を弱々しく拳で叩く。
 今、暁文の脳裏をのぞき見たならば、満点の星空に、何故か銀色の仮面で顔を隠した赤い癖っ毛の女が浮かんでいるのが見えただろう!
(暁文、コスモだ、お前の中の小宇宙を燃え上がらせるんだ!)
 と、エコーが通常の三倍はかかった、やたらと聞き難い声が頭の中を満たしていく。
(そうだ、小宇宙(コスモ)だ!)
 どこぞのアニメで使い古された言葉を繰り返しながら、暁文は顔をあげて立ち上がり、体にコスモ……もとい、闘気をみなぎらせ始めた。
 陽炎のように黒いオーラが暁文を炎のように包み出す。
 それを見たサイデルは息をのみ、かすかに後ずさった。
「まさか!? 草間ブラックから こんなにも巨大なコスモを感じるとは……!!」
 サイデルがうろたえた刹那、暁文は渾身の力をもって階段、もとい坂を逆走し始める。
「くっ、もう一度喰らえ! 池田屋階段落ち!!!」
 苦し紛れに叫びながら、もう一度怪談の上のだるまを押し倒すサイデル。
 しかし悲しいかな。
 池田屋階段落ちな必殺の技!
 必殺、それ、すなわち二度目はない、という事なのだ!
「草間ファイブには同じ技は二度と通用せん!! いまやこれは常識!!」
 顔の血管を浮き上がらせながら、傾斜45度の坂を暁文は一気に駆け上がる。
「俺は奇跡をおこす!!」
 それ以前に、無駄な体力使わずにテレポートしろよ、というツッコミを入れたくなるのだが、兎にも角にも暁文は階段を上り詰め、サイデルに向かって再び銃を構えた。
「うけよ! 草間ブラック最奥義! ブラック・アイアン・スプリッド!!!」
 技名はやたらと格好いいが、直訳してもしなくてもタダの銃の弾である。
 しかしそれが拳銃から打ち出され、しかも一部のずれもなく心臓の中央に当たったとなれば話は別だった。
「あぁああああ!」
 悲鳴と赤い血とバラの花びらを空中に散華させ、くるくると回転しながらサイデルは吹き飛び、床に崩れ落ちる。
 流れ出した生暖かい血が、ゆっくりと絨毯の上に広がり始める。
「ふ、見事だ。私を倒すとは」
 床の上で胎児のようにうずくまりながら、サイデルが息も絶え絶えにつぶやく。
 絨毯をぬらす赤い血の上に豊かな蒼い髪が広がり、彼女の美しい横顔とあいまって、まるで印象派の絵画のように優美だった。
 彼女は血の流れ出る胸を片手で押さえたまま、ポケットから小さな赤い宝玉をだして、かすかにかざして見せた。
 妖しげなその動きに、罠か、と体を強ばらせた暁文の背後で、石がきしむような耳障りな音が聞こえた。
 思わず振り向いた刹那、壁の一部が崩れ、もうもうとした砂埃が立ち上がる。
 せき込み、目を細めながら音の砂煙の中を見ると、細く薄暗い通路が延々と……地獄への下り道のように続いていた。
「こ、これは……」
「ふ、アトラス帝国の女帝・麗香の玉座への隠し通路さ」
 震える、けれど美しく優しげな声色でサイデルが吐き捨て、笑った。
「何故だ……何故、お前達の主を裏切るまねをする!」
 感極まった声で暁文が叫ぶ。と、サイデルはかすかに目を細め、ゆっくりと血と同色の唇を動かした。
「フッ、わたしも信じてみる気になったからさ……お前のいう正義というものを……だがすこし遅すぎたかな……」
 がくり、と腕を落とし、目を閉じた。
「サイデル……お前の最後の正義。確かにこの張暁文が受け取った!」
 いつの間にかすっかり「正義のヒーロー病」に感染した暁文が、拳を握りしめ、瞳に炎を宿らせる。
「まっていろよ! 女帝麗香!!」
 叫んで、床を蹴り、暁文は秘密通路へ向かってかけだした。
 ああ、何と素晴らしい。
 これぞ敵と味方を越えた友情。
 戦いを越えてつながる信頼!
 さあ暁文の進む道に光を! サイデルの頭上に天使達を!
 ……と、なれば良かったのだが。
「ざまぁ無いね」
 とつぶやき、サイデルの死体。もとい、死体になった筈のサイデルが体を起こし、めんどくさそうに蒼い髪をかき乱した。
「まったく、血がべったりだ。これだからあたしは流血死は苦手なんだ」
 ぶつぶつと言いながら、生き返ったサイデルはシャツのボタンを外し、血で汚れた指を、己の豊かな双球の間にすべりこませ、もぞもぞと動かした。
「ああ、痛かった」
 彼女の胸の合間からつまみ出され、ぽいと床に投げ捨てられたのは、血にまみれたゴム袋とケプラー繊維で作られた特殊な防弾シートであった。
「これだから素人はいけないねぇ……鶏の血と人間の血の区別が付かないんだから」
 ああ! ああ! 何と言うこと!
 先ほどの感動は全くの演技であった。
 元が女優であるサイデルに取って、しかも悪役専門のこの女性に取って死んだ真似は呼吸をするより簡単な事なのだ!
 そして、この怪しげな夢が暁文に「正義のヒーロー」たるよう働きかけたのも、また、一つの要因であった。
 常なら歌舞伎町などの危険な闇を駆け抜け、生き抜いてきた流氓の暁文も「正義」の作用を受けたが為に「ウソついてはいけません。人をうたがってはいけません」という無意識下の意識が、すっかり焼き込まれていたのだ。
「さあて、仕上げはごろうじろ、ってね」
 服に付いたほこりを払いながら、サイデルは鼻をならした。
 正義? 悪? ――くだらない。
 いつの世の中だって決まって居るではないか。
「俳優はいつでもスポンサーの為に動くのだ」と。


<第4話・ブラック愛の歌>

「楽勝楽勝」
 さっきサイデルと散々苦闘したのをもう忘れたのか、るんたったとスキップしないのが不思議なほどの軽やかな足取りで、暁文は暗く狭い通路を歩いていく。
「あとは女帝の麗香? だっけか? をしとめればこのアホな夢も終劇って事だな」
 首と腕を回し、関節をならしながら暁文は言う。
 やがて通路は終わり、薄暗い広間の様な場所へとたどり着く。
 右手には長い触手と筒のような口を持つオレンジ色の宇宙人の銅像が、左手にはやたらと頭がでかい銀色の宇宙人の銅像が、安っぽい、いかにもつくりもの、と言った玉座まで続いている。
 床の絨毯の模様はナスカの地上絵で、玉座の後ろにはスフィンクスの張りぼて。
 あちらこちらに点在するのは、ピラミッドとギリシャ風の神殿の模型。天井から垂れ下がるのはUFOのプラモデル。
 それらのがらくたの合間には、これでもか! とバラが敷き詰められている。
(……趣味が統一されているっつーか、悪趣味っつーか)
 うずき始めた頭を抱えるようにして左右を見渡す。
「よくぞここまでたどり着いた!」
 広間じゅうに女の声が響いた。
 アトラス帝国の女帝・麗香であった。
 彼女は黒レザーのレオタードからのびた、すらりとした足をこれ見よがしに組み替えて、暁文に冷ややかな視線を投げかけてきた。
「しかしここが、お前の墓……えっ?」
「残念、ここは俺じゃなくて、あんたの墓場だよ」
 相手の口上を無視し、さっさとテレポートで麗香の背後に回り込んだ暁文は、冷たい黒鉄の武器を彼女の頭に押しつけた。
「女相手に手荒な事は苦手だが、まあ、夢の中だ。死んでも支障はないだろう……多分」
「ちょ、ちょっと、何、この展開! 台本にないわよ!」
 焦った麗香が玉座から立ち上がる。しかし、暁文の銃口は彼女の動きを完璧にトレースしてみせた。
「人生には台本が無いんだぜ?」
 突然の出来事に驚いたのは、何も麗香だけではなかった。
 麗香を取り囲むようにして体育座りをしていた編集部員……もとい、戦闘隊員達が、ヒィーと、情けない声をだし、蜘蛛の子を散らすように麗香と暁文のそばから離れ、宇宙人の銅像の影に隠れる。
「おい、おまえら! こいつの命が惜しかったら、降参しろ!」
 銃口を麗香の頭に密着させたまま、体の自由を奪うために彼女の腰に手を回し抱き寄せる。
 これではまるで銀行強盗かギャングである。
 どちらが悪役かわからない。
「ヒィー!」
「ヒィイイイーー!」
 悲鳴なのか、奇声なのかわからない声をあげながら、戦闘隊員たちが右に左にうろうろ歩く。
 同じ顔つき、同じ格好をしたやつが、為す術も意味もなく動く様は見ているだけで目障りである。
「ええい! 動くな! 目障りすぎる! おとなしくしろ! 動いたらこいつの命はないぞ!」
 と、暁文が叫ぶが、パニックに陥った戦闘隊員には全く聞こえては居ない。
「おい、お前、こいつらの上司だろう! 何とか言っておとなしくさせろ」
「ええっ?! 無理よ。彼らは既に「〆切混乱症候群」にかかってるわ。入校が終わるまではもう誰にも止められないわ」
「……王蠱(オーム)の群かよ。ったく」
 哈日族(ハーリーズ)、もとい、オタクでもないのに、やたらと日本のアニメに詳しいマニアックなツッコミをいれながら、暁文は舌打ちした。
「あのー、それで、やっぱり私殺されるのかしら?」
 おずおずとした動作で、麗香はゆっくりと背後に立つ暁文を左肩越しに盗み見た。
「うん? そうだなぁ。あんたが死ねば一応終わるだろうし……。残り時間も後わずかだしな」
 残り時間も後わずか、といいながらやたらのんびりした口調で返しながら麗香を見る。
 と。
 その瞬間、暁文は息をとめた。
(なんだ、なんだ? この麗香とかいう女)
 黒いレザーのレオタードなんて、珍妙なことこの上ない、SMの女王様のような格好をしているが、じっくり見ると結構いい女ではないか!
 大人の女性らしい、しっとりとした肌。
 知的な女らしく綺麗にまとめ上げた髪に、洞察力を感じさせる深くみずみずしい瞳。
 あわてた動作でずれた眼鏡は、まるで少女のようなかわいらしさをみせており、ついでに言えば、左肩越しに暁文と視線を合わせているため、何とも色っぽい流し目になっているではないか!
 人生の変わる瞬間を把握出来る人間は、そう多くはない。
 そして暁文は幸運にも自分の運命が変わる瞬間を近くできた、少数派に属していた!
 一目合ったその日から恋の花咲く事もある、と歌っていたのは誰だっただろうか?
 いや、誰が歌っていたか、などと言うことはこの際どうでも良い。
 張暁文が今、まさにこの瞬間、ものの見事に恋に落ちたことが最も重要かつ難解な問題なのだ!
 そして、恐ろしいことに(祝福するべきか?)麗香もまた、暁文の強引さに一目惚れしてしまったのだ!
 ああ、全く何と言うこと!
 使える主が違うならまだしも、人類が派生したころから憎み合ってきたような敵。
 決して交わることのない平行線のようににらみ合い、戦い続けてきた敵である者と恋に落ちてしまうとは!
 そう思う余裕もあればこそ、今の二人の間には、薔薇とスミレとチューリップとひまわりが咲き乱れ。
 鶴と亀が空を飛び、松竹梅と三つ揃い。
 結婚式のお色直しは三回で、小さな庭をもつ赤い屋根の上で、一女一男をもうけ、朝の「いってきます」のキスはかかさない、という小市民かつ典型的な妄想……もといドリームを抱いたのだ。
 その時間、約0.5秒。
「暁文様、貴方はどうして草間ブラックなの!」
 頬を上気させながら、麗香が息も絶え絶え、胸を裂かんばかりの思いを言葉にした。
「ああ、麗香、あんたはどうしてアトラスの女帝なんだ!」
 感極まった二人の、恥ずかしすぎるセリフに、広間にいた戦闘隊員たちが一斉にずっこけた。
「原稿は渡してもいい。が、アンタを離す気はない!」
 高らかに宣言する。
 もし草間ファイブの司令官である草間武彦が聞いたら、超特大ハリセンでもって暁文の頭を殴っていただろう!
 しかし、その時の暁文はといえば。
(大体、草間のヤローの汚い字がのたくった紙切れに、どれほどの価値があるってんだ。どーせ俺には関係ないし。誰かが適当に解決してくれるだろう)
 と、決めつけ、自分は自分なりに夢をエンジョイしようと考えていた。
(夢は夢、現実は現実。ま、得するにこした事はないってな)
 そう考えるが早いか銃をホルスターに戻し、ワルツでも踊るように麗香をリードし、体の向きを変えさせた。
 腰に手を回したかと思いきや、暁文はあっ、というまに麗香の唇を自分の唇で塞いで見せた。
 しかし、ああ、何と恐ろしいこと!
 敵と恋に落ちるというこの状況こそが、定められた「戦隊モノ」のシナリオ! 逃れられぬ運命!
 だが許されない恋は、必ず悲惨な最期を迎えると決まっているのだ。
 そうでなければ独り者の寂しい男女が、火炎瓶を携え、徒党を組んでTV局へ殴り込んでくるというものだ!
 よって暁文と麗香も例外ではない。
 二人が愛欲の沼に使ってジャスト六〇秒。
 刹那にして、異変が起きた。
 玉座にからみついていた龍が、赤い瞳をきらめかせたかと想うと、あっというまに女性の姿へ……もっと描写を性格に期すなら「サイデル・ウェルヴァ」へと姿を変えたのだ!
 異変に気づき、暁文が麗香をかばおうとした。しかし、麗香も暁文もしっかりとお互い抱きしめ合ったため、一瞬だけ動きが遅れてしまったのだ!
 ああ、運命の皮肉なること歴史が示すとおり!
 消え入る寸前の三日月のように研ぎ澄まされ、湾曲したナイフがサイデルの手に現れたかとおもうと、雷撃の早さで麗香のうなじを指し貫いた。
 喉から唇に逆流する麗香の血液。
 唇から唇へと移される、麗香の最後の命。
 ずるり、と腕から滑り落ちようとする麗香を抱き留めながら、暁文は愛する人の血に濡れた唇をきつく噛んだ。
「てめぇ……死んだんじゃなかったのか!」
「あいにくと、女優と政治家は死んだふりが得意なのさ」
 と悪びれもなくサイデルは肩をすくめ、麗香の血に濡れるナイフを指先でくるくる回して弄ぶ。
「ふっ、甘いね。あれくらいであたしがやられたとでも?」
 サイデルの言葉に、暁文はかすかにうつむく。
 確かに完全に彼女の死亡を確認しなかったのは、自分のミスだ。
 しかし戦隊モノで倒した敵の脈をとり、瞳孔を確認する正義の味方がどこにいる?!
 愛する人を、世界を全て失った喪失感が、暁文の体に宿る力を貪欲なブラックホールのように吸い取っていく。
「くくくく、ずいぶんと消耗してる見たいじゃないか」
「…………」
「ざまあ無いねえ、悪はやられるのが筋だろう?あたしはスポンサ−の味方でねえ。油断したあんたが悪いのさ。まあ報酬分はここまで、後はせいぜい頑張りな」
 ナイフを床に投げ捨て、サイデルは余裕を見せつけるように、わざと暁文に背中を向けて玉座を離れる。
 どうすることも出来ないまま、暁文は腕の中で体温を失っていく麗香を見つめた。
「暁文……」
「もういい、しゃべるな!」
 おきまりの台詞を言うと、麗香は死にかけた蝶の最後の羽ばたきににた、もろい微笑みを浮かべて見せた。
「もし、願いが叶うなら……今度は……敵としてではなく……味方として出会いた……い……」

「麗香ぁああぁあああ!!!!」
 
 喉よ裂けよ、と言わんばかりの絶叫が広間を満たす。
 最愛の人を支える腕がふるえた。
「サイデル! お前だけはゆるさねぇ!!」
 麗香を抱きしめたまま、暁文は奥歯を噛みしめながら顔を上げた。
 そして麗香の手を握りしめ、サイデルの方に向かって踊るように重ねた二人の拳を突き出した!
「二人の拳が真っ赤に燃えるっ、幸せ掴めと、轟き叫ぶ!!!」
「な、何?! その技はっ!」
 驚きサイデルが振り向いた瞬間!
「爆裂チャイニーズラブラブフィンガーぁあああ…………あ?」
 最後の決めである場所で、思いっきり間抜けな声を暁文が上げたのは、広間に響き渡った奇妙かつ、もっともな一言が原因であった。


<第5話・幕切れは突然に>

「カット、カット、カァーーーット」
 怒りに満ちた男の声が聞こえたかと思うが早いか、大きなモーター音がして、周囲の建物や風景が地面や壁の中に収納され、あるいは霞のように消えていく。
「困るねぇ、困るんだよ。そこはもっと情感を込めて、こうっ! こうっ!」
 と、メガホンを振り回しながら、スキンヘッドにサングラスという怪しげな風体の男が、地平線の彼方から駆け寄ってくる。
 その時の一同はといえば、全員が埴輪のように口をOの字にあけて、「へ?」「ほえ?」「うにゃ?」と奇声を口々に発し、続けざまに、まるで見えないタクトが振られたように一斉に叫んだ。
「内海監督?!」
 ちまたで高視聴率ドラマといわれる『レンゾク』や『あぶれる刑事』で有名な、あの内海良司監督ではないか!
「おや、やっとプロデューサーのおでましかい?」
「プロデューサーだと?」
 飄々としたサイデルの言葉に、暁文が聞き返す。
「あ、そういえばバクさんが「これは誰かの夢の中」みたいな事言ってましたっ」
(……忘れていたのか、雛)
「だってだってっ!」
 彼女だけを責める訳にも行くまい。
 全員が全員、戦隊モノの夢に影響されて「ヒーロー」や「悪役」を演じるのに夢中だったのだから!
「うん、そうだよ。この間のエイプリールフールに、夢の中で遊んでくれたお礼に「見たい夢を見させてあげる」って約束したんだもん」
 とやたらと間延びした声が聞こえる。と、全員の視線が声の主、もとい、白と黒の変な動物を見た。
「そしたら、おじちゃんの妄想の力が強すぎて、ぼく、制御しきれなくて、みんな巻き込んじゃった」
 ごめんね。と愛くるしい瞳を何度も瞬きさせて、首を傾げる。
 どかっ!
 という音がしてぬいぐるみのようなバクの子供が宙を舞う。
「あーれー!」
 それなりになりきっていた暁文が、バクにむかって見事なゴールシュートを決めたのだ。
「ちっ、全く手間かけさせやがって」
「あら、そう? 私は珪くんとスキンシップ出来て楽しかったわ」
 妖艶な笑みをたたえながら、響が流し目でイエロー、もとい九夏珪を見つめた。
「ふとももも堪能できたし!」
「不潔ですっ!」
「俺は好きで触らせたんじゃないっ!」
「九夏さんがそんな人だったなんてっ。雛は悲しいですっ!」
「違うーっ!」
「……うう、叫ぶのはやめてくれないかな……二日酔いに響くんだ」
 と、蒼い顔でふらふらしてるのは、抜剣白鬼である。天禪将軍との「飲み比べ」の影響……つまりアルコールが極限まで回りきっているようだ。
「ふん、青いな! 漢(おとこ)たるもの、酒の一升や二升あけられんでどうする! 武将の名が泣くぞ!」
「俺は僧籍なんだ〜」
 と弱々しい抵抗を試みるも、あっというまに天禪のスリーパーホールドで首をしめられ、ノックダウンしてしまう。
 締め上げられているのは白鬼だけではない、間抜け怪獣ミノシターンも(いかようにしてかは全く持って理解不能なのだが)18本の足をまとめられ、目にハートマークを浮かべる龍之助にしっかり抱きすくめられている。
「わああああ。離してくださいっお願いしますぅうう!」
「俺の愛で人間に戻ってください!」
 がし、っと抱きすくめられ三下は叫ぶ。そのうねうねと動く足元では、奏太が不敵な笑みを浮かべて、三下の足を吟味している。
「僕、イカの足もタコの足も大好きだなぁ。荒塩ふって、炭火で焼くとおいしいんだぁ」
「ほう、坊主、なかなか通を言うな。ではこの酒によってる情けない男の代わりに、いざ俺と一献かたむけぬか」
「わーい、夢の中なら未成年でも関係ないよねっ!」
「夢の中なのに、なぜ俺は二日酔いに〜」
「おい、あんだ、俺も混ぜてくれよ。俺は老酒もイケるが、日本酒もいけるクチでな」
「なんだい、打ち上げならあたしもやるよ」
 と、奏太と天禪の間に入るのはサイデルと暁文。
「ちょっと、まってよ。その前に!」
 宴会、否、打ち上げに入り始めてる一同に向かって、花魁姿のシュラインが制止をかける。
「うぬ。意外とそなた無粋だな。美しいその花魁姿には似合わぬぞ」
「誉めてくれてありがと、天禪将軍、いえ、天禪さん。でもね、その前にやることがあるでしょ?」
「やることって……なんですか?」
 痴話喧嘩をとめて、雛が瞬きを繰り返す。
「あの人のおしおきよ」
 と、美しい着物に包まれた腕を動かし、シュラインはほっかむりをして逃げようとしている草間を指さした。
「……」
「……」
「……」
「そういえば、アトラスが原稿を狩るのは理解できますね。いつも三下さん、原稿におわれてるし」
 と、怪訝な顔で龍之助が言う。
 月刊アトラスでバイトをしている龍之助が言うまでもなく、全員にそれは理解出来た。なぜなら麗香はいつだって原稿が足りない、と狂乱になってるからだ。
「そーいや、何で草間さんは「伝説の怪奇原稿」なんて持ってるんだ?」
 スカートをはいているという事もわすれ、珪が床の上であぐらをかき、腕を組み悩んでいる。
「みてみるか?」
 暁文がブラックスーツから封筒をとりだし、伝説の怪奇原稿を引っ張り出しす。
 が。
『白紙ィイイ?!』
 のぞき込んだ全員が、素っ頓狂な悲鳴を上げた。
「あっ、私のも白紙です!」
「俺のもっ! くっそう、スカートはかせた上に白紙かよっ!」
「俺のと抜剣さんのは新聞紙ですっ」
 口々に驚きの声を上げる草間ファイブ。
 疑惑の視線が時の人、草間武彦に集中する。と、蒼白になって草間は胸元から分厚い封筒を取り落とした。
 ばさっ、という音がして地面に落ちる原稿。
 あわてて上にうずくまるが、時、既におそし!
「幼稚園児が助からなかったらどうするつもりだったんだっ!」
 僧侶らしく、人道的な事を白鬼が怒り全開で叫ぶ。
「ゆ、夢に幼稚園児の無事も何もないだろ?!」
 原稿の上にうずくまったまま、草間が情けない反論をする。
「そういう訳で、みんなの怒りを納める為にも、武彦さん、その書類渡して頂戴? じゃないとカワイイ貴方を食べちゃうわよ?」
 不気味に鞭を揺らしながら響が胸をそらしてほほえみかける。が、目が全く笑ってない。
「わーい、じゃ、草間さん食べちゃっていいよねっ! いただきまーす!」
 奏太が喜びの声をあげて、原稿を押さえる武彦の指先をかじる。
「いてーっ!!!!」
 かじられた痛みで草間が指を放した瞬間、シュラインが流れるような動作で原稿を奪った。
「まったく、こんなのに頼る暇があったら、編集部全員で力を合わせて良い原稿書けば良いのよ! 草間ファイブもこんなの守ってる間に世の中に貢献しろっ!」
 言うが早いか、どこからか取り出したライターでさっさと原稿に火を付ける。
 炎はあっという間に紙に引火し、原稿は瞬く間に灰になる。
「あ、あああああ! 俺の老後の糧がぁあ!」
「老後の糧?」
 いぶかしげに天禪が聞き返す。
「そうよ、武ちゃんたら、老人になって探偵家業ができなくなったら、自分の担当した怪奇現象を小説にして、印税で優雅にモナコあたりで美女はべらして暮らすんだって、渡してくれなかったのよ。記事は時間が勝負、旬の時期に掲載してこそ花っていったのに」
 と、先ほどまで死体になっていた麗香が起きて、めんどくさそうに眼鏡をなおしながら事実を付け加えた。
「てことは……俺達、草間さんの老後の為に」
「こんな目にあってたんですね!」
「やいっ! テメェ! 本当なのかよっ!」
「……言葉もでないね」
「まったく。こういうのにはお仕置きが必要です」
 と、珪、雛、暁文、白鬼、龍之助が……草間ファイブが畳みかける様にいう。
 危機を感じ、腰をぬかしたままじりじりと後退する武彦。
 その武彦にむかって、草間ファイブの五人がどこからか取り出した「超特大バズーカ砲」をかまえる。
 しゃきーん、と金属の音があたりに響く!
「諸悪の根元始末するぜ!」
「愛有る限り!」
「俺の勇気を力に変えて!」
「五人の友情を光とし!」
「これぞ探偵戦隊草間ファイブ必殺の!」

「シャイニング・草間・バスター!!!!」

 どかぁあああん、と爆発と共に立ち上がるどくろ雲。
「そんな馬鹿なぁあああ!」
 吹き飛ばされて遠いお星様になる草間。
 どこか遠くで「おしおきだべぇ〜」と声が聞こえた。

「まったく。武彦さんたら」
 腰に手をあて、シュラインが文句をいう。
 その姿はもはや花魁ではなく、動きやすそうなジーンズ姿……つまり普通の格好に戻っていた。
「そういうな。良く言うではないか。『つわものどもが夢の跡』とな。終わり良ければ全てよし、だ。そなたの手際、この天禪深く感動した。……草間には勿体無い人材だな。俺の秘書等どうだ?」
 仕立ての良いスーツ姿に戻った天禪が大物らしい、堂々とした口調で尋ねる。が、シュラインは頭を降った。
「あのしょうがない人に私以外についていけるバイトが見つかるかしら?」
 くすくすと笑いながら、草間が飛んでいった方向をみる。
「……なるほど、適材適所というわけだ」
 さして残念そうでもなく、天禪がいう。
「ま、これはこれで楽しかったぜ」
 のびをしながら暁文がいう。と、その横っ腹を奏太がこづく。
「うん、僕も草間さんかじられたし」
「ま、スカートなんて夢の中でしかはけないしな」
 とは照れくさそうな珪。その珪の後ろで、雛が「私も九夏さんとご一緒できたし」と赤面しながらうつむく。
 その雛にむかって「もっと大きな声でいわなきゃ、あの鈍感少年きづかないわよ」と響が皮肉下にわらった。
「俺も、こうやって三下さんだきしめられて、夢でもうれしいです!」
「わぁああああ。戻ったんだからはなしてよぉお!」
「ふ、二日酔いは……夢が終わったらなおるかな」
 騒がしい面々を見ながら、サイデルは鼻をならしてそっぽを向いた。
 しかしその唇にはうっすらと微笑みが浮かんでいた。
 ゆっくりと周りの景色が白くかすんでいく。
 ひとり、一人と姿がかき消えていく。
 もしこれが映画ならきまりだ。

「これにて、終幕」

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086/シュライン・エマ/女/ 26 /翻訳家&幽霊作家】
【0024/サイデル・ウェルヴァ/女/ 24 /女優】
【0449/紫堂・奏太(しどう・そうた)/男/ 12 / 鬼】
【0284/荒祇・天禪 (あらき・てんぜん )/男/ 980 /会社会長 】
【0116/不知火・響(しらぬい・ひびき)/女/ 28 /臨時教師(保健室勤務)】

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■         ライター通信          ■
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 野望はOMCライター1のイロモノ師! の立神勇樹(たつかみ・いさぎ)です。こちらの不手際で長くお待たせして申し訳ありません。
 さて、今回の事件は「10シーン」の構成になっております。
 共同企画の「探偵戦隊草間ファイブ 〜打倒秘密結社アトラス〜」を見ると正義の味方側の視点でこの事件を見ることができます。
「このキャラはここにくるまで誰と戦っていたのかな?」と思われた方は、他の方の調査ファイルを見てみると、違う角度から事件の本当の姿が見えてくるかもしれません。
 ちなみに今回は圧倒的に悪役さんの戦闘パラメータが高かったです。(笑)

 初めまして、サイデル・ウェルヴァさん。
 今回はプレイングがクールだった為、なんだか悪役に徹してしまいましたが如何でしたでしょうか?
 セリフがかっこよかったので、それが引き立つようなシーンに書かないと、と頑張ってみました。

 また別の機会にあなたと私で、ここではない、別の世界をじっくり冒険できたらいいな、と思ってます。