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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


<狩り>

●依頼
「誰か!助けてくれ!」
 そう叫びながら、小太りの男が逃げていた。腹部にナイフで切り
つけられたような傷があり、血が流れ出している。
「どうした!大丈夫か!?」
 長身の男が声をかけた。大丈夫でないことは顔色を見ればよく分
かった。真っ青な顔をしていたからだ。出血が酷い。すでに手遅れ
だろう。そう思いながらも、長身の男はその男を見捨てることが出
来なかった。小太りの男に肩を貸し、病院へ運ぼうとした。
「な・・・なんだ!?」
 肩を貸した時に、長身の男は違和感に気づいた。小太りの男はす
でに生きていられる体温では無かったのだ。それに気がついたとき
には既に遅かった。長身の男は、小太りの男に首を引きちぎられて
いた。
「馬鹿が。それじゃあ使えないだろう」
 小太りの男の後ろから、黒いマントに覆われた男が現れた。その
男が長身の男に触れると、首を引きちぎられたはずの男が立ち上が
った。
「やはりこれでは無理だな。」
 黒いマントの男がそう言いながら、首のない男に何事かを言った。
その途端、その男は持っていたパソコンをインターネットに繋ぎ、
ゴーストネットOFFの掲示板をひらいた。

 近頃、何者かによる殺人事件が相次いでいます。この殺人犯を捕
らえるために、私は行動を起こしました。しかし、1人では不安な
ので、誰か協力してくれる人を探しています。私の持ち金では、5
人までが雇える精一杯の人数ですが、よろしくお願いします。

 そう書き込みをして、首のない男はその場に倒れこんだ。
「狩りの時間だ」
 そう言いながら、黒いマントの男は高笑いをした。

●午前零時 黒いマントの男
 永遠に続くような闇の中、黒いマントの男が立ちすくんでいた。
男の手には5枚の紙が握られていた。
「使えそうな奴らだ。今度こそは・・・」
 その紙には、男が依頼した探偵の名前と顔写真が載っていた。男
はそれを見ながら、静かに集合時間を待った。

●午前零時半 雪ノ下 正風
 雪ノ下正風はパソコンに向かって、今回の依頼の内容を打ち込ん
でいた。正風は作家だった。そして、自分の調査した事件を小説に
していた。今回の依頼も小説にするつもりだ。
「この書き込み、胡散臭いな」
 正風は直感的にそう思った。特に根拠があるわけではないのだが、
自分の今までの経験と勘がそう言うのだった。
「罠かもしれないな。犯人が生贄を待っている感じだ」
 パソコンを閉じながらそう言った。そう、正風は、この依頼人こ
そ殺人犯なのではないかと考えているのだった。書き込みにおかし
い部分が多いからだ。
「この依頼人が犯人を追っている理由がわからない。それに、5人
までが雇える限界だと書いている。つまり自費で雇うと言う事だ。
なぜそこまでして犯人を追うのか。正義感が強いといえばそれまで
だが、そんな理由では納得できない部分が多すぎる」
 正風は、依頼の内容を冷静に分析したのだ。普通に人間にそこま
で正義感があると言うのも信じられないと考えていた。
「そろそろ時間だ。行くとするか」
 書き込みが嘘なら、依頼人を倒すつもりで集合場所へ向かった。

●午前一時 集合
 集合時間より少し早く、その場で犬と戯れる男性がいた。黒緑の
眼鏡をかけ目立たない顔立ちをしている男性は、その犬に何か話し
掛けているようだった。
「最近この辺りに変わった事は無かったかい?」
 三浦新がそう言うと、犬は怯えた顔をした。新はそれを読み取っ
て、次の言葉を繋いだ。
「何かあったんだね。それは・・・」
 そうしている新を、少し離れたところから一人の男性が見ていた。
「あいつは何をやっているんだろう?」
 雪ノ下正風はメモ帳に何かを書き綴った。
「小説のネタになるかも知れないな」
 そう言いながら正風は新に近づき、声をかけた。
「よっ!あんた何してるんだい?」
 突然声をかけられて、新は驚いて振り向いた。
「おっと失礼。俺は雪ノ下正風ってんだ。今日ちょっと、ここで約
束があってな。そうしたらあんたがいたから声をかけてみたってわ
けだよ」
「あなたも依頼を受けた人ということでしょうか?」
 涼やかな表情をした育ちの良さそうな男性が、正風に声をかけた。
「ん?あんたは?」
「申し送れました。私は宮小路皇騎と言う者です。多分あなたと同
じだと思いますが、依頼を受けてここに来ました。殺人事件の解決
の依頼です」
 皇騎は静かに挨拶をした。正風が答えるよりも早く、新が挨拶を
した。
「あ、あの。僕もその依頼でここに来たんです」
「そうですか。これで3人が揃ったと言う訳ですね」
 3人が自己紹介をしていると、首の無い死体が突然現れた。
「物の怪の類か!」
 同じタイミングで、皇騎が懐から御札を取り出した。しかしそれ
を使うより早く、死体が皇騎の手を掴んだ。
「おっと、勘違いするな。依頼人を殺そうって言うのか?」
 死体がそう言うと、3人は驚愕の表情を見せた。死体が依頼人と
言うのはいささか信じられなかった。
「まさか本当にこの死体が依頼人だと思っているのではないだろう
な。私は別の所にいる。この死体を通して君達に話し掛けているの
だ」
 首の無い死体が流暢に話しているというのは、あまりにも奇妙な
光景だった。それでも、3人は冷静にそれを理解した。
「と言う事は、依頼を受けたのは私達3人だけと言う事ですか?」
 皇騎が聞くと、死体はそれを否定した。
「いや、依頼を受けたのは5人だ。ここにはまだ4人しか来ていな
いみたいだがな」
 そう言いながら、死体は一人の女性を見た。冷徹な雰囲気を持つ
その女性は、例えるなら人形のようだった。
「和泉怜だ。他に言う事はない。早く仕事の話をしてもらいたい」
 怜がそう言い放った。すると、死体の影から黒いマントの男が現れ
た。
「そうだな、もう時間だ。もう1人がまだ来ていないが・・・仕方
が無い」
 男はそう言って、死体に触れた。その途端、死体はその場に崩れ落
ちた。
「あんたが本物の依頼人ってわけかい?」
 正風がそう聞くと、男は静かに頷いた。
「その通り。私はブラック、これから君達に仕事の話をしよう」
 そう言いながら、ブラックはゆっくりと話し始めた。
「仕事の内容は簡単だ。殺人事件の首謀者を探してくれ。方法は任せ
る。時間は1時間、午前二時に再びここに集合。何か質問は?」
 あまりにも簡単な内容だったので、誰も質問は無かった。
「話は分かった。1時間だな」
 そう言いながら、怜は調査のためにその場から離れようとした。
「待ってください!ここは単独行動にならないほうが良いでしょう」
「調査が必要なのだろう?ならば別々に行動したほうが良いだろう。
自分の身くらい自分で守れる。私はお前等と馴れ合うために仕事を受
けた訳ではない。そして、お前に指図される筋合いも無い。勝手にさ
せてもらう」
 皇騎が止めたが、怜は一喝してその場を去った。
「振られちまったぁみたいやね」
 皇騎が声をかけられた方を見ると、そこには銀緑眼鏡をかけた肩ま
での長髪の男がいた。
「あなたは一体?」
 そう聞くと、その男はにんまりと笑って挨拶をした。
「俺の名前は凍上灯や。5人目の探偵ってとこやな」
「あなたが5人目の人ですか。今までどこにいたんですか?」
 新が恐る恐る聞くと、灯は笑いながら答えた。
「ちょっとなぁ、出かける前にトイレに行っとったんよ。ほら、仕事
の途中に腹こわしても情けないやろ?それが意外と長くなってもうた
んよ。依頼内容はちゃんと聞いたから安心せい」
 灯はそう言うと、怜と同じようにその場を離れようとした。
「あなたも単独行動ですか?」
 その言葉を聞いて、灯はすまなそうに答えた。
「俺も自分の自由にやりたいんや。でもま、この周辺をうろつくだけ
やさかい、何かあったらゆうてくれや」
 そう言いながら、灯は調査に向かった。残った3人のうち、正風は
単独行動に、新と皇騎は一緒に行動することになった。
「頼むぞ。君たちにかかっているんだ」
 ブラックは祈るような気持ちでそう言った。

●午前一時半 調査
 最初からこの依頼を信じていなかった正風は、ブラックを疑ってい
た。死体を操れる人間というのは、オカルト小説でもろくな人間では
ない。しかも、掲示板の書き込みと態度が違いすぎるという面にも目
をつけた。掲示板の書き込みでは、非常に礼儀正しかった。しかし、
実際のブラックは礼儀正しさの欠片も無かった。こういう、書き込み
では態度が違うという人間もあまり好きではない。そう考えたが、証
拠があるわけではないので、実際にそれを証明しようと思った。そし
て殺人現場に赴いた。
「死体がほったらかしとはな。誰も片付ける気が無いのか?」
 正風は悪態をつきながらも、周りの人間に事情聴取していった。そ
の途中、怜が死体に囲まれているのを発見した。
「死体を操れるのは、たしかブラックだけだ。つまり・・・」
 正風は完璧な証拠を掴んだと確信した。依頼を受けた怜が死体に襲
われているのだ。これ以上の証拠は考えられなかった。

●午前二時 真実
「ブラックさん!」
 皇騎と新が集合時間より少し早く戻ってきた。
「わかりましたよ。犯人はあなたの中に居るんですね」
 皇騎がそう言うと、ブラックは静かに微笑んだ。
「良く・・・わかってくれたな」
「ええ、あなたは初めから私達に伝えていてくれたんですね。自分の
中に犯人が居ることを」
 そう言った途端、皇騎の後ろから声が聞こえた。正風が全速力で走
って来た。
「ブラック、お前が殺人犯だったんだな」
 正風は、息を切らしながらそう言った。その言葉に、ブラックは多
少寂しそうな表情をした。
「ああ、それは間違いではないよ。結果的には俺が殺人犯なんだ」
「何が結果的にだ!俺は見たんだ!死体があの女を襲っているところ
を!そして、この辺りで死体を操れるのはお前しかいない!」
 正風はそこまで一気に言うと、呼吸を整えながらブラックを睨んだ。
「まってください!あなたは思い違いをしています!」
 新がそう言うと、正風は新を睨んだ。
「何が間違っていると言うんだ!俺はこの目で・・・」
 そう言い掛けた時、後ろから声が聞こえた。
「あの女とは私のことか?」
 怜がゆっくりと近づいてきた。
「そうだとしたら、お前は間違っている。私はブラックの操る死体に
襲われた。そして、同時に助けられたのだ」
 正風が意味を理解できないでいると、ブラックの後ろから灯が現れ
た。
「その通りや。俺は怜ちゃんを使い魔で監視していたんやが、ああ、
もちろんあんたら全員を監視していたんやけど、怜ちゃんは死体に一
切傷つけられてないで」
「・・・じゃあ、一体どういう・・・」
 正風の問いに、皇騎が一言で答えた。
「ブラックさんの中に、もう1つの人格がある」
 皇騎は、さらに言葉を続けた。
「ブラックさんは初めからそれを伝えてくれていたんだ。最初にわざ
わざ首の無いしたいを出したのは何のためか。そして、その死体の影
から姿を表したのは何故か。答えは簡単だ。死体は意識が無い、だか
ら操れるんだ。死体の影から出たのは、近くに居ないと操ることが出
来ない事を伝えている。つまり、ブラックさんが眠っているなどで意
識が無いときに、ブラックさんのそばで体を操っている。それが出来
るのは、ブラックさんの中に居る者でないと無理だ」
 そこまで話すと、怜が言葉を挟んだ。
「そして、今では意識が奪われそうになっているのだろう。そのため
に、もう1つの人格が私を狙った。しかし、ブラックの意識を奪いき
れてないために失敗した。そういうことだ」
 そして、灯が止めと言わんばかりに説明した。
「俺がブラックさんを監視していると、ブラックさんの口からブラッ
クさん以外の声が聞こえたんや。これで決まりや」
 そこまで聞くと、ブラックは立ち上がって頭を下げた。
「ありがとう。これで安心だ。怜さんの言った通り、私の意識は奪わ
れる寸前だったんだ。最後のお願いだ、私を・・・殺してくれ」
 その言葉に、ほとんどの人間がためらった。ただ1人、怜を除いて
は。怜は御札を取り出すと、符術でブラックを木に縛り付けた。
「殺せば依頼終了なのだな」
 そう言うと、右腕に封印した妖刀、妖の封印と解き、ブラックを突
き刺した。苦しみながら血反吐を吐くブラックだったが、妖の刃は途
中で止められていた。
「だめだ・・・それでは・・・。皇騎くん・・・君なら出来る・・」
 苦しみながら、ブラックは皇騎を見た。
「そんな・・・私には・・・無理です・・・」
 ブラックが犯人ではないと分かった今では、皇騎にはブラックを殺
すことは出来なかった。
「皇騎くん・・・このままではこいつに意識を完全に奪われてしまう
・・・。楽に・・・してくれないか・・・?」
 ブラックのその言葉に、皇騎の気持ちが動いた。
「お前なら出来るのだろう?ならばやるのだ。そのために依頼を受け
たはずだ」
「皇騎さん、がんばって!」
「皇騎ちゃん、俺からもお願いするわ。あんたも辛いやろうけど、ブ
ラックちゃんはもっと辛いんや。楽にしてあげてくれんか?」
「どっちにしろ、こいつが元凶なんだ!やっちまえよ!」
 それぞれが自分なりの意見をだした。皇騎は決意を決め、1本の刀
を召還した。
「鬼の腕を切り落とした名刀、髭切。一撃で終わる」
 皇騎には迷いはなかった。髭切を、ブラックの心臓めがけて突き刺
した。すると、ブラックは大量の血を吐き出して倒れた。
「ありがとう」
 それが皇騎に聞こえた、ブラックの最後の言葉だった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
 
 【0075/三浦新/男/20/学生】
 【0391/雪ノ下正風/男/22/オカルト作家】
 【0427/和泉怜/女/95/陰陽師】
 【0455/凍上灯/男/29/骨董店店主兼呪師】
 【0461/宮小路皇騎/男/20/大学生】

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■         ライター通信          ■
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 お初にお目にかかります、新人ライター白峰です。
 今回は初めてでしたので、緊張しながら仕上げました。
 みなさまの描写に気に入らないところがあれば一言お願いします。
 それでは、またの機会にでも。
 よしなに・・・。