コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


しあわせのしっぽ
●オープニング【0】
「『しあわせのしっぽ』って知ってる? 中高生の女の子やOLに人気らしいんだけど」
 月刊アトラス編集長・碇麗香はこちらの顔を見るなりそう切り出してきた。
 何にせよ、それは聞いたことはある。うさぎの尻尾を模した奴だったろうか。鞄に付けていたり、携帯電話のストラップ代わりにしているのを見たような覚えがあった。
「幸運のお守りなんて言われてるらしいわね。実際、多少ながら効果あるなんて話も伝わってくるし」
 ははん……だいたい読めたぞ。これを調べてこいということか。それを突っ込むと、麗香はくすっと笑った。
「本当に効果あるんなら、うちの雑誌で取り上げない訳にはいかないでしょ。それに……彼に持たせれば、多少はドジっぷりもましになるでしょうからね」
 そう言って麗香は、原稿を間違えてシュレッダーにかけて慌てている三下を指差した。

●編集部にて【1B】
「うさぎの尻尾が幸運のお守りなんか?」
 いまいちピンとこない様子で獅王一葉がつぶやいた。
「足やったら聞いたことあるんやけど、なんで尻尾なんやろな?」
 少年のように短く赤い髪をぽりぽりと掻く一葉。そんな一葉に対し、大きな声で笑う男が居た。
「デザイン的な物じゃないか? うさぎの足を堂々と身に付けて歩いている女は、俺は少し遠慮したい」
 冗談混じりに雪ノ下正風が言った。確かにうさぎの足よりは、尻尾の方が見栄えがいいのかもしれない。何より対象が女子中高生やOLのようなのだから、可愛く見える方が飛びつきやすいのだろう。
「はい、ご苦労さま。今月もいい仕事だわ」
 原稿に目を通していた麗香が正風を労った。麗香は正風が持ってきた連載小説『都内怪談』の原稿チェックを行っていたのだ。
「それで来月からの話だけど」
 もう来月の原稿の話に入る麗香。仕事熱心と言うべきか、何と言うべきか。
「いいネタになりそうだし、取材に行ってくればどうかしら」
「ああ、俺もそれは考えていた。使えそうなら、使ってみるとしよう」
 大きく頷いて正風が答えた。それに一葉が口を挟んだ。
「あ、うちもついていってええやろ? ほんまに幸運が訪れたんか、興味あるしな。ええやろ、麗香はん?」
「あたしはいいけど」
 麗香がちらりと正風を見た。実際に取材へ行くのは正風なのだから、こちらに話を通すべきである。
「俺も別に構わんよ」
 さらりと答える正風。邪魔さえされなければ、気にしない。正風はそう考えていた。
「ほな、話は決まりやな。さっそく取材行こか?」
「そう焦るなって。珈琲くらいゆっくり飲ませてくれよ」
 急ごうとする一葉に対し、苦笑して正風は珈琲に口をつけた。
「で、どこで売っているんだ、それ?」

●場違い【2A】
 『ミスティックス』という店がある。元々開店当初は女子中高生向けにファンシーグッズを扱っている店だった。しかし今は『しあわせのしっぽ』を扱っている店として有名である。何しろ『しあわせのしっぽ』はこの店でしか扱っていないのだから。
 そして今日も店内は『しあわせのしっぽ』を買い求める客で賑わっていた。春休みということもあり、数割増しなのかもしれないけれど。
(うーん、少々場違いだったか)
 店内に足を踏み入れたライティア・エンレイは、入ってすぐにそんなことを思っていた。何しろ他の客はほぼ若い女性なのだから。男性なんて数える程しか居やしない。
 長居は無用とばかり、ライティアは現物を見に行った。一番人の多い場所だからすぐに分かる。
 ガラスケースの中に、透明なプラスチックケースに1個ずつ詰められた『しあわせのしっぽ』が並べられていた。形状はまりも大の白い毛玉という感じで、触ると柔らかそうな気がする。うさぎの尻尾を模したとはよく表現した物だ。価格は500円、そう高くはない。
「あんたが一緒なのは正解だったな。俺1人じゃ、とても入ってられない」
 ライティアの隣に居た背丈の低めな男がそうつぶやいた。ライティアがちらりと視線を向けると、その男は赤髪短髪の少年らしき相手に話しかけている所だった。
「そらよかったな。うちも役立ってよかったわ」
 そう受け答えをしながら、獅王一葉はきょろきょろと店内を見回していた。
「どうした?」
 一葉のその様子に雪ノ下正風が尋ねた。
「いやー、可愛い娘が多いな思て」
 楽しそうに語る一葉。
「俺もそうは思うが……買う物買って、早く出た方がよくないか?」
 どうやら正風にはここは居心地が悪いようだ。
「せやな。なあなあ、ちょおあんた」
 一葉が近くの女性店員を捕まえて言った。
「これって、何で出来とるん? 材質何?」
 女性店員の手をつかんだまま尋ねる一葉。
「あ、はい。化学繊維ですよ。動物虐待はしておりませんので、どうぞご安心を」
 にっこり笑って答える女性店員。物が物だけに、こういう類の質問が頻繁に行われていることがこの答えから察することができた。
「じゃ、これどこから仕入れてるんだ?」
 今度は正風が尋ねた。だが女性店員は『店長が直に仕入れているので分からない』と答えてその場を離れていった。
「とりあえず2個……あ、三下はんの分も含めて3個買うとこか」
 一葉と正風は『しあわせのしっぽ』を3個購入すると店を出ていった。
(仕入れ先知ってるのは店長だけか)
 2人と女性店員の会話を近くで聞いていたライティアは、そのことが妙に心に残っていた。

●いつものこと+α【3A】
 志神みかねがシュライン・エマと別れて編集部に戻ってくると、そこには赤髪短髪の少年らしき容姿の女性が麗香と談笑している所だった。みかねに気付く女性。
「ん? それあれやろ? 何や、あんたも買うてきとったんか」
 獅王一葉がみかねの手にしている『しあわせのしっぽ』を一目見て言った。
「『も』?」
「見てみ」
 左の方を向く一葉。みかねがそちらに視線を向けると、三下がコピーをとっている最中であった。視線を少し下げると、腰の辺りに何やら白くて丸い物がついていた。
「あっ」
 思わず指差すみかね。そう、三下の腰には『しあわせのしっぽ』がついていたのだ。
「三下はんにも効果あるかな思てな。実験台は多い方がええやろ?」
 一葉がニカッと笑った。一理ある言葉だった。
「余っちゃいましたね……」
 みかねは手にしている『しあわせのしっぽ』をどうしたものかと思案した。
「しょうがないから、あたしが貰うわ。確か500円よね?」
 麗香が財布を取り出し中を覗いた。
「あら、細かいのがないわ……。仕方ないか、1000円受け取って。お釣り貰うのもあれだし」
 財布から1000円札を1枚取り出し、麗香はみかねに手渡した。困惑するみかね。
「へえ、さっそくええことあったやん」
 一葉がみかねに少し羨ましそうな視線を向けた。
「編集長、コピー終わり……おわっ!!」
 コピーを終え戻ってきた三下だったが、飛び出ていた椅子に足を引っかけ躓いた。どうにか転ぶまいと近くのスチール机に片手を突く。だがそれがいけなかった。手を突いた拍子に指がカップに引っかかり、中身をぶちまけるはめになったのだ。それも――転びつつある自分の頭上に。
「熱ちーっ! 熱い熱い熱い熱い……!!」
 飛び上がる三下。そして飛び跳ねるように、編集部の奥へと走っていった。一葉とみかねは唖然としてその様子を見つめていた。
「……やっぱし三下はんには効果あらへんかったんやな」
「まあ三下くんだから」
 動じることなく、麗香はさらりと言い放った。
「でも、今日のこれはちょっと豪快ね。普段なら転んで終わりなのに」
(私に幸運が起きたから……?)
 みかねはその麗香の言葉を聞いて身震いがした。
(1人が凄くいいと周りの人が悪くなっていくの……?)
 しかしそのみかねの疑問に対し、明確に答えられる者はこの場には居なかった。そしてふと気付くと、三下の腰についていたはずの『しあわせのしっぽ』は忽然と姿を消していた。

●みんな消えた【7】
「どないなってるんやろな」
 翌日の編集部。獅王一葉が何とも言えないといった表情でつぶやいた。
「朝起きたら、忽然と消えてもうてた」
「うちもです」
「私も……」
 志神みかねと滝沢百合子も複雑な表情で言った。3人とも『しあわせのしっぽ』が、朝目覚めると姿を消していたのだ。3人だけではない、持っていた者全員の前からである。
「俄には信じられないけどね」
 普段と変わらぬ口調で麗香が言った。そういう麗香の前からも『しあわせのしっぽ』は姿を消していた。だが戸惑っている様子は微塵も見られなかった。
「麗香はん、そないなこと言うても、ほんまに消えとるんやで?」
「違うわよ。信じられないのは消えた理由の方よ」
「何かご存知なんですかっ?」
 麗香に尋ねるみかね。麗香が意味深に微笑んだ。
「まあね、一応報告受けてるから。詳しくは来月号読んでくれる? ああ、『都内怪談』も合わせて読んでもらえるといいかも。第5話は『死会わせの尻尾』ってタイトルらしいわ」
 何とも商売上手な言い方である。
「そうそう、あなたの仮説もなかなか面白いじゃない。しっかり使わせてもらうわよ」
 麗香は百合子の肩をぽんっと叩いた。
「編集長、コピー終わり……おわぁっ!!」
 コピーを終え戻ってきた三下だったが、飛び出ていた椅子に足を引っかけ躓き――盛大に床の上に転がった。

【しあわせのしっぽ 了】


□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0115 / 獅王・一葉(しおう・かずは)
                   / 女 / 20 / 大学生 】
【 0391 / 雪ノ下・正風(ゆきのした・まさかぜ)
                / 男 / 22 / オカルト作家 】
【 0476 / ライティア・エンレイ(らいてぃあ・えんれい)
                 / 男 / 25 / 悪魔召喚士 】
【 0249 / 志神・みかね(しがみ・みかね)
                    / 女 / 15 / 学生 】
【 0057 / 滝沢・百合子(たきざわ・ゆりこ)
                 / 女 / 17 / 女子高校生 】
【 0017 / 榊杜・夏生(さかきもり・なつき)
                   / 女 / 16 / 高校生 】
【 0231 / 直弘・榎真(なおひろ・かざね)
             / 男 / 18 / 日本古来からの天狗 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
  / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 0234 / 白雪・珠緒(しらゆき・たまお)
 / 女 / 20代前半? / フリーアルバイター。時々野良(化け)猫 】
【 0177 / 瀧川・七星(たきがわ・なせ)
                   / 男 / 26 / 小説家 】


□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全18場面で構成されています。
・今回の依頼ですが、プレイング内容で場面を色々と振り分けています。それゆえ参加者の中には出会っていない方も居られます。それからどうもすっきりしないなと思われている方も多いでしょうが、今回は故意に謎を分散させています。他の方の文章にもじっくり目を通してみると、自ずと答えは見えてきますので……。
・獅王一葉さん、2度目のご参加ありがとうございます。怪しい場所等ですが見当たりませんでした……表では。それゆえ、今回は尻尾の実験に傾いています。尻尾の効果は、今回のみかねさんと三下の出来事で考察できるのではないかと思います。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。