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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


しあわせのしっぽ
●オープニング【0】
「『しあわせのしっぽ』って知ってる? 中高生の女の子やOLに人気らしいんだけど」
 月刊アトラス編集長・碇麗香はこちらの顔を見るなりそう切り出してきた。
 何にせよ、それは聞いたことはある。うさぎの尻尾を模した奴だったろうか。鞄に付けていたり、携帯電話のストラップ代わりにしているのを見たような覚えがあった。
「幸運のお守りなんて言われてるらしいわね。実際、多少ながら効果あるなんて話も伝わってくるし」
 ははん……だいたい読めたぞ。これを調べてこいということか。それを突っ込むと、麗香はくすっと笑った。
「本当に効果あるんなら、うちの雑誌で取り上げない訳にはいかないでしょ。それに……彼に持たせれば、多少はドジっぷりもましになるでしょうからね」
 そう言って麗香は、原稿を間違えてシュレッダーにかけて慌てている三下を指差した。

●流行の裏には【1E】
「……あれ?」
 インターネットカフェでパソコンに向かっていた滝沢百合子は、思わずそうつぶやいた。操作ミスをしたのかと思い、もう1度検索をかけてみたが結果は同じだった。
(うーん、お店は分かったのに……)
 百合子は難しい顔をしてパソコンの画面を見つめていた。調べていたのは話題になっていた『しあわせのしっぽ』についてだった。
 麗香から話を聞き、そういえばクラスの皆が付けていたなと百合子は思い返していた。こういう時、自分が流行に乗り遅れているんだなと感じさせられる。だからといって、流行最先端を走る気も百合子には別にないのだが。
 編集部を辞した後、百合子はよく行くインターネットカフェに飛び込んですぐに検索をかけていた。その結果、『しあわせのしっぽ』が特定の店1軒のみでしか売られていないことが分かった。
 店が分かれば、次に気になってくるのが製造元だ。再び検索をかけてみたが、その結果が先程のつぶやきに集約されている。全くかすりもしなかったのだ。
(独占販売だから、製造元も内緒にしてるのかな)
 幸運のお守りとはいえ、商売であるのだからそういうこともまああるだろう。それが果たしていいことなのかは分からないけれど。
 百合子は目元を軽くマッサージすると、傍らのジュースのグラスに手を伸ばした。
(ああいうふさふさしてるのは好きだけど……)
 『しあわせのしっぽ』の形を思い浮かべる百合子。見た感じ白くてふわふわしてて、触ると気持ちよさそうに思えた。しかしその一方で気になることも百合子にはあった。
(……本当に幸運のお守り? うーん、信じられないな)
 幸運は自分で招き寄せる物であって、グッズによって訪れた運は何だか嘘っぽい、百合子はそう思っていた。
(あれを買った途端、幸運になるなら、きっと何か裏があるはずよね……)
 百合子はグラスに口をつけた。

●必ずではないけれど【2C】
 『ミスティックス』という店がある。元々開店当初は女子中高生向けにファンシーグッズを扱っている店だった。しかし今は『しあわせのしっぽ』を扱っている店として有名である。何しろ『しあわせのしっぽ』はこの店でしか扱っていないのだから。
 そして今日も店内は『しあわせのしっぽ』を買い求める客で賑わっていた。春休みということもあり、数割増しなのかもしれないけれど。
「500円かあ……」
 百合子はガラスケースの前に立ち、そうつぶやいた。ガラスケースの中に、透明なプラスチックケースに1個ずつ詰められた『しあわせのしっぽ』が並べられている。形状はまりも大の白い毛玉という感じで、触ると柔らかそうな気がする。うさぎの尻尾を模したとはよく表現した物だ。価格は500円、そう高くはない。
「あの、すみません」
 百合子は近くに居た女性店員を捕まえて尋ねた。
「これって、何で出来ているんですか? 材質は?」
「あ、はい。化学繊維ですよ。動物虐待はしておりませんので、どうぞご安心を」
 にっこり笑って答える女性店員。物が物だけに、こういう類の質問が頻繁に行われていることがこの答えから察することができた。
「……これを身に付けると、本当に幸運が訪れるんですか?」
 続けて尋ねる百合子。女性店員は笑顔を崩さずに答えた。
「必ずとは申し上げられませんが、それなり多くの方に幸運が訪れているようですよ」
 何とも上手い答え方である。女性店員はそう答えると、百合子のそばを離れていった。
(幸運が訪れないって訳じゃないのね)
 女性店員の話振りではそのように解釈できる。ただ都合の悪いことには触れていないという可能性もある。
(……クラスの子に、ちょっと聞いてみようかな)
 実際に持っている人に効果の程を尋ねるのが手っ取り早い。百合子はそう考え、クラスの女子がよく行きそうな場所をいくつか頭の中でピックアップしてみた。
「あ、すみません。1個いただけますか?」
 もちろん『しあわせのしっぽ』を買うことも忘れはしなかった。

●幸運と不運【3C】
 クレープ屋『メリアン』。その近くで2人の少女が楽しそうに会話を繰り広げていた。いや、正確には楽しそうに話しているのは1人だけで、もう1人は聞き役に回っていたのだけれど。
「そうそう、効果あったの! 好きだった先輩にね、デート誘われちゃったのっ☆」
 手にはクレープを持ち、幸せそうな笑顔を浮かべ少女が答えた。
「そうなんだ? よかったわね」
 百合子は持っていたクレープを口の中へ一口含んだ。百合子は同じクラスの少女から『しあわせのしっぽ』に関する効果を聞いている最中であった。
(効果あるみたい)
 百合子が効果を聞くのはこれが5人目であった。その皆が皆、効果があると言っている。これを偶然の一致で片付けるには少々無理があった。
(……逆はないのかしら)
 ふとそんなことを思い、百合子は逆の質問をしてみることにした。
「じゃあ……それを持ち始めて、何か不幸な目に遭ったりはなかったの?」
「あたしはないけど」
「他に誰かそんな目に遭ったの?」
 百合子はすかさず突っ込んだ。すると少女はこくんと頷いた。
「あたしの友だちのお姉さんが、交通事故に遭って大怪我したって聞いたわよ。あ、でもこれ違うかも」
「どうして?」
「事故した後で調べたら、『しあわせのしっぽ』が無くなってたんですって。だから、それを無くしたから不幸な目に遭ったんじゃないかって……」

●作用反作用【4B】
 百合子は少女と別れると、1人で色々と考えてみた。
 まず、尋ねた5人が5人共に幸運が訪れたと言い、その具体例も挙げていることから、『しあわせのしっぽ』には何かしらの効果があると推測される。
 次に、『しあわせのしっぽ』を無くした人に不幸が訪れていることから、何かしらの裏が存在している可能性もあると推測される。
(幸運が起きて、不幸が起きて……持っていて、無くしていて……)
 あれこれ思案する百合子。
(ひょっとして……幸運と不運って表裏一体なのかしら)
 不意にそんな考えが百合子の中に浮かんだ。しかしそう考えると、自ずと仮説が1つ浮かんでくる。
「誰かの不運を引き出すことによって、幸運を引き出している……?」
 幸運は自分で招き寄せる物だと思っている百合子には、グッズ1つで無尽蔵に幸運が沸き出してくるとは到底思えなかった。だがこの仮説がもし正しければ、見かけ上は無尽蔵に幸運が沸き出しているように見える。無くした者の不運を引き出して、他の者の幸運へ転化することによって。
(うわ……何だか嫌な感じね……)
 百合子は自分の立てた仮説に、思わず背筋が寒くなった。
(明日この仮説を話してみよう)
 何はともあれ、百合子は明日編集部を訪れて麗香にこの仮説を話してみることに決めた。

●みんな消えた【7】
「どないなってるんやろな」
 翌日の編集部。獅王一葉が何とも言えないといった表情でつぶやいた。
「朝起きたら、忽然と消えてもうてた」
「うちもです」
「私も……」
 志神みかねと滝沢百合子も複雑な表情で言った。3人とも『しあわせのしっぽ』が、朝目覚めると姿を消していたのだ。3人だけではない、持っていた者全員の前からである。
「俄には信じられないけどね」
 普段と変わらぬ口調で麗香が言った。そういう麗香の前からも『しあわせのしっぽ』は姿を消していた。だが戸惑っている様子は微塵も見られなかった。
「麗香はん、そないなこと言うても、ほんまに消えとるんやで?」
「違うわよ。信じられないのは消えた理由の方よ」
「何かご存知なんですかっ?」
 麗香に尋ねるみかね。麗香が意味深に微笑んだ。
「まあね、一応報告受けてるから。詳しくは来月号読んでくれる? ああ、『都内怪談』も合わせて読んでもらえるといいかも。第5話は『死会わせの尻尾』ってタイトルらしいわ」
 何とも商売上手な言い方である。
「そうそう、あなたの仮説もなかなか面白いじゃない。しっかり使わせてもらうわよ」
 麗香は百合子の肩をぽんっと叩いた。
「編集長、コピー終わり……おわぁっ!!」
 コピーを終え戻ってきた三下だったが、飛び出ていた椅子に足を引っかけ躓き――盛大に床の上に転がった。

【しあわせのしっぽ 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0057 / 滝沢・百合子(たきざわ・ゆりこ)
                 / 女 / 17 / 女子高校生 】
【 0115 / 獅王・一葉(しおう・かずは)
                   / 女 / 20 / 大学生 】
【 0249 / 志神・みかね(しがみ・みかね)
                    / 女 / 15 / 学生 】
【 0476 / ライティア・エンレイ(らいてぃあ・えんれい)
                 / 男 / 25 / 悪魔召喚士 】
【 0391 / 雪ノ下・正風(ゆきのした・まさかぜ)
                / 男 / 22 / オカルト作家 】
【 0017 / 榊杜・夏生(さかきもり・なつき)
                   / 女 / 16 / 高校生 】
【 0231 / 直弘・榎真(なおひろ・かざね)
             / 男 / 18 / 日本古来からの天狗 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
  / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 0234 / 白雪・珠緒(しらゆき・たまお)
 / 女 / 20代前半? / フリーアルバイター。時々野良(化け)猫 】
【 0177 / 瀧川・七星(たきがわ・なせ)
                   / 男 / 26 / 小説家 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全18場面で構成されています。
・今回の依頼ですが、プレイング内容で場面を色々と振り分けています。それゆえ参加者の中には出会っていない方も居られます。それからどうもすっきりしないなと思われている方も多いでしょうが、今回は故意に謎を分散させています。他の方の文章にもじっくり目を通してみると、自ずと答えは見えてきますので……。
・滝沢百合子さん、3度目のご参加ありがとうございます。意図してる訳ではないんですが、不思議と百合子さんは単独で動いてしまいますね……。それはともかく、読み通り裏がありました。妙なグッズには御用心、ですね。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。