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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


 陰陽師狩り〜罵沙羅〜後編

<オープニング>

「忌々しや忌々しや・・・」
「陰陽の者ども・・・」
「正義の名の元に我らを暗黒の地へと追いやりし者ども・・・」
「憎んでも憎みきれぬ・・・」
「滅ぼせ・・・、根絶やしにせよ・・・」
「罵沙羅・・・、お前に任せる・・・。陰陽の者どもを全て・・・殺せ!!!」

「た、助けてくれ!」
 突然月刊アトラスに一人の男が転がり込んできた。全身傷だらけで、足元もふらついている。
「誰よ、アンタ。ここになんか用?」
「ここはオカルトの術師とかがいるんだろ!誰か紹介してくれ・・・。頼む、このままじゃ陰陽師たちが皆殺しにされてしまう」
「皆殺しとは穏やかではないわね・・・。まぁ、いいわ。話してみなさい。それと三下君、救急箱取って」
 男の必死の形相に、編集長碇は特ダネの予感を感じて舌なめずりした。

 男の話を要約するとこうなる。男の名は梶木陽司28歳。見習の陰陽師をしていたが、先日突如師の自宅に鋼の爪のようなものがついた手甲をはめた男が押し入り、師を斬殺したという。彼は師が時間を稼いでくれたためなんとか逃げ切る事ができた。だが、このままではいつか自分もあの爪の男に殺されてしまう。そこで自分をボディーガードして欲しい。ひとまずそろそろ師の家に戻って色々と片付けないといけないこともあるので、師の家に戻る間だけでも守ってくれる人はいないだろうか。ということだった。その師というのは著名な陰陽師らしく依頼金はちゃんと支払うとの事だ。
「って事なんだけどどうする?興味のある人は彼とそのお師匠さんのお家に行って来てはくれないかしら?まぁ、前金も払うって言ってるし悪くない話じゃないかしら。ついでに取材もしてきてね」
 碇は他人事のようにそう伝えるのだった。

<ライターより>

 難易度 普通

 予定締切時間 3/27 24:00

 新シリーズ陰陽師狩りが始まります。
 まずは調査主体となります。その依頼人の師匠の家で何ついて調べるのかを書いてください。なぜ殺されてしまったのか。また敵はどのような存在なのか。それを調べるのが目的となります。ですが、それだけで今回の依頼が済むかどうかは不明です。一体その師の家で何か起きるのか・・・。
 万全の備えをしておくことをお勧めします。ちなみに師匠の家はかなり広い日本風の屋敷です。

<怪異発生>

「なぜお前がここに・・・!?梶木は?梶木はどうしたんだ!?」
「梶木ィ〜?知らねぇなぁ、そんな奴。ん、そういえば昨日食っちまった男がそんな名前だったっけな」
「き、貴様という奴は・・・!」
「あばよ、くたばり損ないが!」
 飛び散る鮮血に響き渡る悲鳴。屋敷の中は地獄絵図と化していた。老人は何度も何度も爪のような刃物で切りつけれら弱っていく。その姿を見ながら、切りつけた男は哄笑を上げる。
「ひゃははははは!たまんねぇな。断末魔の悲鳴ってやつはよ!おら、もっと楽しませろ!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
 
 一人の少女はまた事件の始まりを感じていた。この怪異に足を踏み入れるものは何者だろうか。それは分からない。だが、何かが始まったのは事実だ。なぜなら”自分”が目覚めたのだから・・・。

<編集室>

「やぁ、久しぶりに来て見ましたよ」
「来たわねすねかじり」
 月刊アトラス編集長である碇麗香は、編集室に入ってきた長い黒髪を後ろで束ねた青年を目にして嫌そうな顔をした。暇を見てはからかいに来る天敵のような存在である。その天敵である青年はさも心外そうに首を振った。
「すねかじりとは酷いですね。またネタが不足して苦労しているんじゃないかと心配して来てあげたのに」
「誰も頼んでないわよ。用がないならさっさと帰って」
 しっしっと犬を追い払うような手振りで青年を追い払う碇。彼、宮小路皇騎はそれほど有名ではないにしろ、由緒正しき関西の宮小路財閥の跡取である。整った顔立ちの美男子でしかも大金持ち、おまけにコンピューターに精通している二十歳の大学生。確かに一般的な人間にとっては嫉妬の対象となるのも頷けよう。
「で、なんか依頼とかは無いんですか?もし人手が足りないんなら手伝ってあげてもいいですけど」
「一応依頼はあるけど人手は足りてるわよ」
「どんな依頼なんです?」
「彼に聞いてみて」
 そう言って碇が指差したのは、二十代後半くらいのやや気弱な感じのする男だった。手や顔にはバンソウコウや包帯が巻かれ、痛々しい姿をさらしていた。
「梶木といいます。この方も・・・?」
「ええ、陰陽師よ。金持ちで嫌味ったらしいね」
「金持ちで嫌味ったらしいは余計ですが、確かに私は陰陽師です。どのような事件なのかお伺いしてもよろしいですか?」
 梶木の口から語られる依頼内容。それを聞いた宮小路は、
「由々しき事態ですね。それは・・・」
 と腕を組んで考えこんだ。確かに由々しき事態である。話の中で語られた殺されてしまった陰陽師六道は陰陽師の中では割合有名な人間でそれなりに実力もある。それが為すすべもなく殺されたというのであれば、敵は陰陽師に対する何か切り札みたいなものを持っているのか、それとも圧倒的な力を持っているということになる。
「分かりました。そういう事ならご協力いたしましょう」
「有難うございます!よろしくお願いします」
 差し伸べられた梶木の手を握り、握手をしながら宮小路は思った。どうにも怪しい。これは陰陽師を殺すための罠ではないのか。警戒しておいたほうがよさそうだと。だが、表面上はおくびにも出さずににこやかに彼と接した。こういう人との接し方は、財閥の跡取りとして帝王学を学ばされた身としてはなれている。本心を晒さずに人と接することは商売上必要な事だからだ。
「ではちょっとここのパソコンを貸してください。事前に調べておきたいことがあるので」
「自分ので調べればいいでしょう。なんでウチのを使うのよ」
「時間が無いんですよ。調べられるだけ調べておきたいんです」

<疑惑>

 今回の依頼を受けた者は十三人。彼らは梶木の案内のもと、陰陽師六道雄山邸にたどり着いた。内部は既に警察による検証済みということで、好きにふれても良いということだった。流石にこれだけの数の人間が一箇所ずつ調べても仕方が無いので彼らは分散して調べることにした。その中の一人、さらさらとした糸のように細い髪をもった、小柄で儚げな印象のある少女は梶木と話をしていた。
「どうして貴方のお師匠様は殺されてしまったのでしょう?何にか理由があるのでしょうか?」
「さぁ、俺にはさっぱり・・・」
 口をにごす梶木に、少女は優しく微笑んで元気付けた。
「そうですか。でも大丈夫です。貴方は私たちが守りますから。元気を出してください」
「有難う。俺も何とか頑張ってみるよ」
 梶木の手を握る少女。だが、彼女は何か寒気でも感じたのか急に顔が青ざめた。鳥肌まで立っている。
「どうしたの?具合でも悪いかい?」
「い、いえ、何でもありません。じ、じゃあ、私はこれで・・・」
 梶木の手を振り解くように離し、彼女は足早に立ちさった。後に残された梶木は一人訳がわからず首を振るのだった。

「どうでした、神崎さん?」
 玄関から外に出てきた彼女を出迎えたのは、ほがらかな笑顔が印象的な長身の青年であった。少女、神崎美桜は彼の顔見て、少し安心したのか呼吸を整えて頷いた。
「桜井さんの考え通りでした」
「それではやはり・・・」
「ええ、あの方の心は闇に包まれています。凄まじいまでの殺気、憎悪の塊のような心でした」
 神崎は精神感応能力と言って、接触したものの感情や考えを知ることができる。先ほどは梶木の奥に秘められた感情の凄さに心まで読むことができなかったものの、その内に秘めた思いは師匠を殺した相手ではなく自分たち依頼を受けたものに向けられていた。
「何となくおかしいとは思っていました。アトラスにいるのが術師と言い切り、著名な陰陽師さんが勝てない強い相手なのに致命傷を与えられていない事がまるで陰陽師を誘き出そうとしているように思えてならなかったんですが、やはり罠でしたか」
 笑みをたやさずに頷く青年桜井翔。医大生である彼は神崎に命を救ってもらってから、ずっとこの少女の力になろうと心がけてきた。だから、彼女が依頼を受けるときはいつも彼は一緒に行動をする。
「久我さんたちが危ないかもしれません。早く伝えましょう」
「待って下さい。今伝えるは得策ではありません」
「どういうことですか?」
 不思議そうに自分を見つめる神埼に、桜井は自分の考えを打ち明けた。
「我々をここに引きずり込んだのが梶木の考えだとすれば、これは罠。わざわざひっかかることもありません。ですが、ここで罠だと皆が気づいてしまったら彼は逃げてしまうかもしれません。それは避けたいんですよ」
「じ、じゃあ皆に罠にかかれと言うんですか?」
「そこで、私たちは隠れてあの人を見張るんです。何を考えているか分かった時に行動しても遅くはないでしょう」
「で、でもそれでは久我さんたちが・・・」
「大丈夫。大事になる前に手助けしますよ」
 桜井は彼女を安心させるようににっこりと微笑んだ。だが、その心のうちでは打算が働いている。彼の優先順位では神崎が全てにおいて優先される。はっきりいってそれ以外は二の次、どうでも良いことなのである。彼女が心配しているから他の仲間の事も気にかけるだけのことなのだ。彼女の安全を確保した上で敵を撃破する。それが至上の目的である。
「さて、それでは隠れるとしましょうか。皆にもバレないようにね」

<罵沙羅>

「そう、いい子ね・・・」
 屋敷の玄関先で、小柄な、神崎よりもさらに一回り小柄な小学生くらいの少女は、そう言って野良猫の喉を掻いた。嬉しそうに喉を鳴らす猫。
「さてと。これを誰かに託さないいけないんだけど・・・」
 彼女はそう言って屋敷内に目を向ける少女。すると彼女の視線に一人の青年の姿が入って来た。長い髪を後ろで束ねた男。彼がちょうどいいだろう。彼女は今猫から聞いたことと、自分が見聞きしたことを一枚の紙にしたためると、それを折り出した。やがて出来上がったのは紙飛行機。そしてそれを構え・・・。
「やはり外敵避けの術は全て解除されているようですね」
 宮小路は玄関を調べていた。有名な陰陽師の家ともなれば外敵避けの結界が張られているのではないかと調べていたのだが、張られていた形跡はあるものの、その元となる呪符などは全て剥ぎ取られていた。
「内部の呪符を解除しているとすると、敵は・・・」
 コツン。
 思案にふけっている彼の頬に何かがぶつかった。何かと思って足元を調べてみると、紙飛行機が一つ落ちていた。拾い上げてみるとそれには何やら字が書いてある。
「これは一体・・・」
「だまされないで」
 突然彼の語りける声。驚いて扉の外を見てみると一人の少女が立っていた。彼女は宮小路を見つめると口を開いた。
「敵は貴方たちの近くにいる。気を付けてね」
「あ、ちょっと!」
 宮小路の呼び止めも虚しく、少女は言いたいことだけを言うと立ち去っていった。いささか呆然としながら宮小路はつぶやく。
「何なんでしょうかね、一体彼女は・・・」

「ふむ、天井裏も縁の下も手がかりはなし、か・・・」
 黒いスーツを着た男は手を顎にあてて考える。梶木からは、陰陽師が狙われる理由や、師を殺害した人間の顔などについて尋ねてみたが、特に心あたりが無く、また、相手の顔に関しても突然の事でよく覚えていないとのことだった。もしかしたら犯人は屋敷内に潜んでいるのではないかと式神に天井裏などを探らせてみたものの、特にめぼしいものは見つからなかった。
「やはり襲われた場所、書斎を探ってみる以外方法はないですかね、久我さん」
 考え込んでいる黒いスーツを着た男にそう話しかけたのは、均整のとれた身体つきをした物静かそうな青年だった。彼の意見に久我と呼ばれた男は頷く。
「だろうな。後は書斎で事件に関係のありそうな書類などを漁るしかあるまい」
 久我直親。陰陽師である久我の家の跡取りである。とはいえ、今はどちらかというフリーの術師として活動しているといった方が正しいのだが。もう一人の青年の名は各務高柄。鷲見探偵事務所に勤務する事務員である。今回はやる気のない主が渋々ながら、しかし気にかけている依頼だったので調査の手伝いということで訪れていた。
「手分けして探しましょう。ひとまずは書類から・・・」
「俺は本棚を確認しよう」
 机の上に置かれた書類や、本棚に収められている本を一冊一冊丹念に調べ上げていく。やはり陰陽師として生きていたものらしく、陰陽に関係する書物などは豊富だった。また、仕事に関係すると思われるメモを見つけたが、こちらは特に目ぼしいものは無かった。だが、本棚の中には興味深い本を見つけることができた。それは陰陽師と同じような術を用いながら、歴史の中に埋もれてしまった術「呪禁」に関してだった。道教と呼ばれる、中国の部族的な呪術信仰が仏教や道家の影響を受けて形づけられた神仙思想。その呪術の中で最高の位置を占める術が「呪禁」とよばれる系統の術である。儀式などももちいる陰陽に比べ、より即物的な術が多く、人や物、それどころか森羅万象すら自在に操ることのできるとされた究極の術。ゆえに禁じられた呪いと名づけれたのだが、あまりにも精神的なものを軽視したため、呪禁の使い手は驕り高ぶり平安時代には疎まれその姿を消してしまったといわれる。そしてその本の近くに置かれた日記には驚くべきことが記されていた。屋敷の主六道雄山は、その昔、滅びさったはずの呪禁術師たちと戦ったことがあるというのだ。それは20年近くも前の事であったが、歴史の影に潜みながら、時の権力者に取り入り私利私欲のために呪禁を用いてきた呪禁術師と、人々に害を成す妖の者との戦いを繰り広げ、人々との調和を図ってきた陰陽師との壮絶な戦いの記録であった。日記によると呪禁術師の組織はついに壊滅させたとされている。妖の者や妖怪、その他死霊など人々に害なす存在と戦いを繰り広げる陰陽師に敵は多い。だが、この呪禁術師の生き残りがいたらどうであろう。この屋敷に張られていたはずの、対術用の結界は全て解除されていたという。陰陽も呪禁もルーツは同じ道教の呪術を元にしている。結界を破ることも不可能ではないだろう。
「まさか今回の件は呪禁とやらの・・・」
「ありえなくはないですね」
 二人が頷き会った時、
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
 隣の寝室から聞き覚えのある悲鳴が聞こえてきた。そして響き渡る声。
「薫様ぁぁぁぁぁぁ!」

 寝室は血の海と化していた。そしてその血の海の中心には一人の少年が横たわっており、真紅の血に塗れた鋼の爪を掲げ哄笑を上げている梶木の姿があった。
「ひゃはははは!!!つまんねぇなぁ。なんで陰陽師って奴はこう甘チャンばかりなんだぁ。俺様に背中を向けるなんて切り殺してくれって頼んでいるようなもんだぜ!」
 屋敷を案内していた時の、おどおどとした、頼りげのない青年の顔は消え、傲岸不遜な粗野な言い回しをする男がそこにいた。
「薫様!」
「おっと、近づくんじゃねぇ。もう虫の息だが、このまま止めを刺してやってもいいんだぜぇ〜」
 倒れ伏している少年の首筋に刃を当てる男。その少年の守役である男は憎悪に燃える眼差しで梶木を睨みつけた。僅かに彼が目を離した隙に、彼の主人は背中を切り裂かれて倒れて伏していた。自分の不甲斐なさを呪いながら、ふと彼はあることに気が付いた。どうにも似ているのである。今目の前にいる男と12年前に、少年の父母を殺したあの時の男と・・・。
「その口調、下卑た笑い声、そして手の甲の爪・・・。まさか貴様はあの時の・・・」
「あの時?何のことだ」
「12年前、天宮本家の当主と夫人を襲った男。それはお前と同じ爪をつけ、下卑た笑い声を上げる奴だった・・・。顔は似ても似つかないが・・・」
 守役の男の言葉にしばらく考え込んだ梶木は、ああとその顔に残忍な笑みを浮かべた。
「思い出したぜぇ。あの時天宮の糞ヤロウどもを殺した時に餓鬼が一人いたなぁ。確か薫っていってたかな・・・。じゃあこいつがその薫坊ちゃまかい?ひゃははは!!!こいつは傑作だ。家族揃ってこの俺様に殺されるとはな」
「あんただけは許さない!覚悟しな」
 横合いから出てきた女性が、怒気を孕んだ声とともに引き金を引いたベレッタは、しかし弾丸は発射されなかった。
「な!?」
「おっと、いい忘れたがよう。今この屋敷には俺様が用意しておいた呪禁封殺によって陰陽術の全てを封じ込めてあるんだぜ。だから俺様に陰陽を使った行動はこの屋敷の中じゃできねぇんだよ!分かったか馬鹿野郎ども!ひゃ〜ははははははは!!!」
「くっ、卑劣な・・・!」
「卑劣ぅ〜?そいつは最高の誉め言葉だぜ。戦場ってのはな、生き残った奴が勝者なんだよ!」
 守役、雨宮隼人は梶木の言葉に臍を噛んだ。完全にミスをした。それも取り返しのつかないほどの。今回の依頼はどうにも嫌な予感がしたので引きとめたのだが、それを聞く主人では無かった。よりにもよって、彼の母親にもっとも近づけてはならないと言われていた、あの男の関わっていた事件を引き受けてしまい、あまつさえ致命傷を負わせてしまった。これでは12年前の再来ではないか。しかも完全に自分の術は封じ込められてしまっている。それは悲鳴をかけつけて部屋に入って来た久我と各務にも言えることだった。久我は雨宮と同じ陰陽師。各務は戦闘能力があまりなく、相棒であり主人である女性から結界符を預かっていたが、これも陰陽の呪符。完全の攻撃の手は封じ込められてしまった。
「なるほど、やはり貴方が犯人でしたか、梶木さん。いえ偽者さんとお呼びしたほうが正しいでしょうか」
 遅れて入って来た宮小路が梶木に告げた。
「偽者だと?」
「ええ、親切な方が教えてくださいましてね。本物の梶木さんはこの人に喰われてしまったそうですよ」
「人を喰うですって!?」
 各務が驚きの声を上げた。確かに尋常の沙汰ではない。  
「そう、この男は人を喰らうことができる。そして喰らった相手そっくりに化けることもできる。そうだったな罵沙羅!」
「ほう、俺の名前を知っているとはな。俺様も有名になったもんだせ。おおよ!俺が呪禁術師罵沙羅様よ!」
 爪を高々と振り上げて名乗る罵沙羅。呪禁と聞いて久我と各務が顔を見合わせた。
「やはり・・・」
「呪禁でしたか」
 敵は呪禁術師であったのだ。そして最悪な事に宮小路も陰陽師なのである。符術による風斬で牽制 しようとしたのだが、術が発動されなかったことを悟り、今は大人しくしている。切り札である武器召喚も陰陽を用いるため発動させることは難しい。彼らの様子を見て罵沙羅はさも落胆したかのように侮蔑の目で彼らを睨みつけた。
「けっ。面白くねぇ。皆陰陽師かよ。もうちょっと活きのいい奴はいねぇのかね?まぁ、無抵抗な人間をなぶり殺しにするのも悪くねぇだろうがよ!」
「陰陽師でなければいいんですよね?」
「うん?」
 罵沙羅が声のした方向に目を向けると、突如強力な衝撃波が彼を襲った。猛烈な勢いで壁に吹き飛ばされ、悲鳴も上げる間もなく壁に叩きつけられる罵沙羅。
「いやぁ〜油断大敵ですね」
 この場にそぐわない明るい声でそう罵沙羅に告げたのは桜井であった。梶木の正体を見抜いていた彼は、物陰に隠れて攻撃のチャンスをうかがっていたのである。壁に激突した罵沙羅は、気絶したのかピクリとも動かない。
「大丈夫ですか、皆さん・・・って、大丈夫じゃなそうですね。神崎さん、お願いします」
「はい!」
 同じく物陰に隠れていた神埼は、血塗れの少年に駆け寄り治癒を施す。彼女の身体が緑色の清らかな光に包まれ、少年の身体も包み込む。治癒が効果を現してきたようで出血が止まる。
「薫様は、薫様は助かりますか!?」
 普段の冷静さをかなぐり捨てて必死の形相で神崎に問う雨宮。
「分かりません。でも最善は尽くしてみます」
「頼みます」
 今や少年の命は神崎の手に委ねられていると言っても過言ではない。神崎は全身全霊を込めて祈る。
「お願い!頑張って!」
 彼女の祈りが天に届いたのか、回復の兆しを見せる少年。徐々に背中の刀傷が塞がっていき顔に精気が戻っていく。そして・・・。
「う、ううん」
 瞼が動いた。
「薫様!薫様ご無事ですか!?」
 勢い込んで少年を抱き上げる雨宮。その目には涙が滲んでいる。目を開けていきなり守役の顔があることに驚く少年。
「は、隼人?どうしたんだ、一体・・・?」
「ご無事でようございました。本当にようございました」
 彼を抱きしめながら、隼人は心の中でつぶやいた。奥方様。あの時の二の舞にだけはならずに済みました、と。
「おお、痛てぇ。派手にやってくれたじゃねぇか、この糞ヤロウ」
 どうやら罵沙羅が目を覚ましたらしい。彼はむっくりと起き上がり桜井を睨みつけた。
「なるほど、陰陽の使い手以外にもこんな奴らがいやがったか・・・。こいつは楽しめそうだなぁ。今回は挨拶代わりだ。それにてめぇの手のうちというものも知りたかったんでな。これで帰らせてもらうぜ。おかげでいい暇つぶしになった。感謝するよ。ひゃはははははは!!!」
 哄笑を上げる罵沙羅の身体が透明になり消え去る。残されたのは人形の紙切れが一枚だけ。形代である。

 こうして事件はひとまず終了した。呪禁術師罵沙羅という新たなる敵が現われた。今回はひとまず引き上げたが、彼がこれで引き下がるとは思えない。呪禁術師たちの組織とはどのようなものなのか。また何を目的にしているのか。多くの謎を残し、この事件の結末は陰陽師たちの胸に重くのしかかるのだった。

罵沙羅が引き上げたのを見て、少女冬野蛍は満足して目を閉じた。また眠気が襲ってくる。どうやら今回の事件はこれで終わりのようだ。都市伝説の一部ともいえる彼女はまた眠りにつく。新たなる怪異が始まるその時まで・・・。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0461/宮小路・皇騎/男/20/大学生(財閥御曹司・陰陽師)
    (みやこうじ・こうき)
0276/冬野・蛍/女/12/死神?
    (ふゆの・ほたる)
0334/各務・高柄/男/20/大学生兼鷲見探偵事務所勤務
    (かがみ・たかえ)
0413/神崎・美桜/女/17/高校生
    (かんざき・みお)
0416/桜井・翔/男/19/医大生&時々草間興信所へ手伝いにくる。
    (さくらい・しょう)
0095/久我・直親/男/27/陰陽師
    (くが・なおちか)
0331/雨宮・隼人/男/29/陰陽師
    (あまみや・はやと)

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■         ライター通信          ■
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 大変お待たせしました。
 陰陽師狩り〜罵沙羅〜後編をお届けします。
 前半ではあわやとなった今回の物語でしたが、無事死者も出ず、また罵沙羅の正体も見破れたので成功と言えるでしょう。
 おめでとうございます。
 この作品に対する、ご意見、ご感想、ご要望、ご不満等がございましたらお気軽にテラコンより私信を頂戴できればと思います。
 それでは、また別の依頼でお目にかかれることを祈って・・・。