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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


極問島【情報収集編】
●オープニング【0】
 LAST TIME 『極問島』――。
 ある日草間が某大手デパートのアンケートに答えて旅行チケットを当てた。
 都合が悪くて行けないという草間からチケットを譲り受けた一行は、瀬戸内海に浮かぶ島である極問島へ向かった。旅行を楽しむために。
 そして島を散策してみると、色々な場所があることが分かった。一行の泊まる民宿『海龍』を筆頭に、『安楽寺』『極問神社』『石舞台』『龍の頭』等々。うちいくつかは、某推理小説と似通ったような場所であった。
 楽しさの中に不安を抱きながらも、何事もなく初日の夜は無事に明けた。心配は杞憂かに思われた。
 だが翌朝、朝食の席に一行が降りてくると、民宿に電話がかかった。それは民宿へ遊びにきていた旧家・木藤家の娘を呼び戻すための電話だった。何と『今夜、木藤真早紀(きとう・まさき)の娘を殺す』という文面の脅迫状が届いたというのだ。
 いったいこの島で何が起ころうとしているのか――それを知るには情報が不足していた。
 別にこのまま旅行に徹してもいいのだが……さて、どうしたものか。

●木藤家にて【2B】
「こんにちはー。失礼しますー」
 沙耶はそう言いながら木藤家の門をくぐった。1人ではない、沙耶の前には冬美が居る。そして沙耶の後ろには、将人、翔、美桜、十三の4人が居る。いずれもこの家を訪れた目的は似たような物であった。
 木藤家は島の中央に位置していた。年期の入った木造の門をくぐると庭があり、その先に平屋造りの建物がある。こちらも年代を感じさせる物であった。
 冬美に続き、門からまっすぐに建物へ向かう5人。玄関では1人の少女が一行を、いや冬美を出迎えていた。色白で気の強そうなショートカットの少女である。
「あっ」
 美桜が短く叫んだ。出迎えた少女は、『石舞台』で出会っていた春奈だった。向こうも美桜に気付きちらりと視線を向けたが、すぐに冬美に向き直った。
「冬美、あなたどうしたの。こんなに人を連れてきて」
 春奈のそれは、少し迷惑そうなニュアンスのある言葉だった。事実その後5人に向けた視線も、警戒してやや睨むような感じであった。
「突然の訪問と無礼は申し訳ありません」
 ずいと1歩進み出て将人が丁寧に言った。
「我々は東京の興信所の知り合いの者です」
「……興信所?」
 春奈の視線が厳しくなった。翔も1歩前へ進み出る。
「探偵助手を務めています、桜井と申します。旅行のためこの島を訪れていた所、何やら脅迫状が届いたとお聞きしましたので、お力になれないかと思いやって参りました」
 一気に言葉を畳み掛ける翔。ここで正式に木藤家から依頼を受けて、島全体を調べる権限を有しようという目論みであった。
「彼が今言った通りです。犯人探しに、我々も協力させていただけないかと思いまして」
 将人が翔の言葉にそう付け加えた。
「その必要はないわ。どうせ悪戯よ、あんな物」
 顔を背ける春奈。
「悪戯にしても『殺す』とは穏やかじゃありませんよ。その辺りはどのようにお考えなのですか?」
 将人は春奈に笑顔を向けて言った。笑顔とは裏腹に、鋭さのある言葉だった。
 春奈が何か言おうとしたその時、家の奥から女性の声がかかった。
「入っていただきなさい、春奈」
「お母さん……」
 驚いた表情で振り返る春奈。奥から黒髪を結い上げ、藍染めの着物をまとった女性が姿を現した。
「ほおっ……!」
 十三が思わず感嘆の声を漏らした。色白な肌のその女性には品の中にも艶っぽさがあり、見た感じ30代前半といった所か。
「ようこそいらっしゃいました。私、そこに居る冬美とこの春奈の母で、木藤巴(きとう・ともえ)と申します」
 巴は静かに頭を下げた。

●家庭の裏事情【3B】
「あんた本当に上手いねえ、その包丁捌き」
 感心するように中年女がつぶやいた。
「当たり前だ、腕にゃ覚えがあるからよ」
 魚を三枚におろしながら、十三が答える。ここは木藤家の台所だ。
「こいつは刺身でも旨ぇが、飯の上に載せてよ、だし汁かけて食うのもいいんだよな」
 包丁の滑りに負けず劣らず口も滑らかな十三。木藤家の通いの家政婦である中年女は、十三の包丁捌きに惚れ惚れとしていた。
 十三が何故台所に居るのか。それはお手伝いの者たちから、木藤家の事情を根掘り葉掘り聞き出すためだった。今頃他の4人が座敷で話を聞いていることだろうが、それはあくまでも表の話だ。家人が話さないような裏の話は、案外お手伝い連中がぽろっと漏らしやすい。それを見越しての行動なのだ。
「そういや、あんたここで働いて長ぇんだろ? 見りゃ、そんな雰囲気があるぜ」
「そうだねえ、かれこれ20年近くなるかね。奥さまが嫁入りされる直前からだからねえ」
 十三の誘い水に中年女が上手く乗った。
「そんなになるのか。ならよ、色々とあっただろうなぁ。辛ぇことや、言えねぇようなこととかもよぉ」
「あったよ、あった。……奥さまにはお会いなさったのかねえ?」
 不意に中年女が声をひそめた。
「玄関で会ったぜ。ありゃあ、艶っぽくていい女じゃねぇか」
「あれでも41だよ」
「……化けてやがんな」
 冬美等の年齢から逆算すれば41でも不思議はないのだが、容姿だけ見ればそうは思えない。事実十三も40代とは思わなかったのだから。
「噂だから真偽は知らないけどねえ、嫁入り前はさぞかし遊んでたって話だよ」
「ほぉ、この島でか。さぞかし島中の男共に評判だったんだろうぜ、へへっ」
 意味深な言葉を放ち、卑しい笑みを浮かべる十三。しかし中年女は首を横へ振った。
「違う違う。奥さまは元々東京の人だねえ」
「東京かよ?」
 一瞬意外に感じたが、十三は巴に感じた島育ちとは異なる品を思い出した。
「元々奥さまのご両親と、大旦那さまが旧友でねえ。親同士で結婚を決めたような物だよ。旦那さまも当時いい人が居られなかったから、話はとんとん拍子にまとまったんだよ」
「本当かぁ? ほれ、あの民宿の娘の母親と怪しかったって話聞いたぜ?」
 十三は中年女にカマをかけた。実際はそんな話なぞ聞いてはいない。
(早苗ちゃん、あの冬美って娘に似てんのが気になってよぉ……)
 ひょっとすると早苗は3姉妹の腹違いの姉妹ではないか、十三はそんな考えを抱いていた。だが、中年女は笑って否定した。
「あはは、何馬鹿げたこと言ってるんだね。旦那さまと香苗さん。あ、香苗さんは早苗ちゃんの母親の名前だよ。2人、幼馴染みだったけどねえ、昔っから顔付き合わせる度に喧嘩してたさ。皆知ってることさ。だから、そんな話聞いたこともないよ。誰が言ってたんだね、そんなこと」

●春奈の事情【4D】
 沙耶は一足先に木藤家の玄関を出ると、そのまま裏手へと回った。来た時より風が強くなっていた。裏口付近では使用人らしき中年女と十三が談笑している最中であった。
「おう、どうした? もう中は終わったのかよ?」
 十三が沙耶に気付き声をかける。
「はい、終わりました。何をされているんですか?」
「俺か? ちと話を聞いてたとこよ、色々となぁ」
 ニヤッと笑う十三。どうやら沙耶と同じことを考え、すでに実行していたみたいだ。
「何か用か?」
「え? あの、お手伝いをされている方にお話が聞きたくて……」
「おや、何かい?」
 中年女が沙耶に尋ねる。沙耶は少し思案してから中年女に尋ねた。
「あの……少し気になったんですけれど、春奈さんはどうしてあんな感じなんですか? 警戒……いえ、敵意に近い物を感じたんですが」
「俺もそれは感じたな。何だありゃ?」
 十三が沙耶の言葉に同調した。すると中年女は溜息を吐き、2人にこう言った。
「旦那さまが生きてらした頃はそうでもなかったよ、春奈さんも。元々島の者以外には厳しい目を向けておいでなさったけど。ただ責任感のある方だもんで……ご自分が家を守らないといけない、そう思われたんだと思うねえ」
「それから、早苗さんとはどういった関係なんですか?」
「ああ、上のお2人は早苗ちゃんとは同級生になるかねえ。けども香苗さんがあんなことになって、早苗さんは高校には進まなかったよ。お2人かい? 今は岡山市内の高校の寮に入っておいでなさるねえ。今は休みなもんで、戻ってきてなさるけど」
 中年女がそこまで話した時、家の中から巴の声が聞こえてきた。
「おっと奥さまがお呼びだねえ。それじゃま、この話は秘密だよ」
 中年女はそう言い残すと、そそくさと家の中へ戻っていった。

●決意【6】
 それぞれ情報収集を行い、7人が2階の部屋へ戻ってきた。そして情報交換を行う。
「念のため草間さんに電話してアンケートを行ったデパートを調べてもらったんですけどね。どうやら何も怪しい所はなかったようです」
 つまらなさそうに将人が言った。
「こっちは馬鹿の相手で疲れた……」
 ぐったりした様子で、目元を押さえながらつぶやく慶悟。それでもしっかりと煙草はくわえていたが。
「……外の雲行きが怪しくなってきやがったな」
 窓の外を見つめ十三が言った。黒い雲が空を覆い、風もどんどん強くなり窓を揺らしていた。
「あっ。さっき上がる前にテレビで見たんですけど、低気圧が急速に発達してきてるみたいです。確か今夜にでも、この付近を通過するって……」
 思い出したように沙耶が言った。
「なるほど、春の嵐ですか。まるで舞台を整えているようにも思えますね」
 そう言って、将人は沙耶に微笑みかけた。
「皆さんにお聞きしたいんですが、早苗さんのことはどう思われています? 少し思う節があるんですが……」
 翔が皆に問いかけた。
「あ? 同じようなこと考えてやがるもんだな。俺はよ、早苗ちゃんが死んだ木藤の旦那の娘じゃねえかと踏んでんだがよぉ……分からなくなってきちまった」
「僕の推理でもそうなんですが、お2人の仲が悪かったというのが気になるんですよね」
 頭を掻く翔。仲の悪さが気にかかっているようだ。
「表面だけじゃ分からないこともあるさ。不完全な状態で断定するのは危険だろう」
 口から煙を吐き出す慶悟。
「私、春奈さんたちと出来たらお友だちになりたいです……だから。だから、絶対に殺させたくありません」
 美桜が静かに言った。だが強い意思を含んだ言葉であった。
「何にせよ、今夜が山ですね。天気が崩れるのが厳しいですけれど……」
 恨めしそうに窓の外を見つめる桐伯。雨が降り出したのか、窓に細かい雨粒がつき始めていた――。

●島の外では【7】
 情報交換を終え、階下に降りてくると早苗が丸めた紙をゴミ箱へ放り込む所だった。テレビからニュースの音声が流れてくる。
「岡山市内で発生した銀行強盗ですが、犯人は人質を取り行内に立て籠ったまま、警察との睨み合いが続いております……」

【極問島【情報収集編】 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0060 / 渡橋・十三(とばし・じゅうぞう)
           / 男 / 59 / ホームレス(兼情報屋) 】
【 0092 / 高御堂・将人(たかみどう・まさと)
                 / 男 / 25 / 図書館司書 】
【 0230 / 七森・沙耶(ななもり・さや)
                   / 女 / 17 / 高校生 】
【 0332 / 九尾・桐伯(きゅうび・とうはく)
                / 男 / 27 / バーテンダー 】
【 0389 / 真名神・慶悟(まながみ・けいご)
                   / 男 / 20 / 陰陽師 】
【 0413 / 神崎・美桜(かんざき・みお)
                   / 女 / 17 / 高校生 】
【 0416 / 桜井・翔(さくらい・しょう)
   / 男 / 19 / 医大生&時々草間興信所へ手伝いにくる。 】


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■         ライター通信          ■
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・極問島へようこそ。
・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全16場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は、整理番号順で固定しています。
・お待たせしました、『極問島』シリーズ第2回をお届けします。高原は今回、書いていて訳が分からなくなりました。そのくらい情報があちこちに散らばっていますので、上手く情報の取捨選択を行ってください。
・まず、情報の取り扱いについて少し。第1回での情報は共通使用が可能です。今回知り得た情報も基本的には共通使用が可能です。ただし場面単位で情報封鎖をかけても構いません。メリットは……他の人を出し抜く以外、特にありませんが。その場面に登場している全員が情報封鎖をかけると、その場面の情報は封鎖されます。万一情報封鎖をかける場合は、次回のプレイングでその場面番号を記してください。解除しない限り、最終回まで情報封鎖がかかります。ただし例外な方も居ますので。
・次に、天候と島の外の状況について少し。本文最後にありましたように、岡山市内で銀行強盗が発生しました。現在も立て籠りが続いており、長期戦になる模様です。それゆえ、県警がやってくることは難しいと思ってください。それに加えて、急速に発達した低気圧が接近しつつあります。海上も荒れますので……今夜は孤島状態になることを覚悟しておいてください。
・最後に、次回のプレイングについて。次回はとうとう夜を迎えます。何かを、もしくは誰かを守る場合はその範囲を明確に記してください。次回は少し厳しめに見ようと思います。
また、情報が足りないと思われるなら情報収集を続けることも可能です。
・蛇足。今回のプレイングですが、皆さん内容はよかったと思いますよ。推理ものですから、どれがよくてどれがよくないと触れるのはまだ避けておきますが。
・渡橋十三さん、13度目のご参加ありがとうございます。能力発動で意外とすんなり溶け込めました。とりあえず巴はあんな感じですね。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また極問島でお会いできることを願って。