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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


しあわせのしっぽ
●オープニング【0】
「『しあわせのしっぽ』って知ってる? 中高生の女の子やOLに人気らしいんだけど」
 月刊アトラス編集長・碇麗香はこちらの顔を見るなりそう切り出してきた。
 何にせよ、それは聞いたことはある。うさぎの尻尾を模した奴だったろうか。鞄に付けていたり、携帯電話のストラップ代わりにしているのを見たような覚えがあった。
「幸運のお守りなんて言われてるらしいわね。実際、多少ながら効果あるなんて話も伝わってくるし」
 ははん……だいたい読めたぞ。これを調べてこいということか。それを突っ込むと、麗香はくすっと笑った。
「本当に効果あるんなら、うちの雑誌で取り上げない訳にはいかないでしょ。それに……彼に持たせれば、多少はドジっぷりもましになるでしょうからね」
 そう言って麗香は、原稿を間違えてシュレッダーにかけて慌てている三下を指差した。

●うさぎ妖魔(白雪珠緒・談)【1F】
「何でうさぎの尻尾にゃ!」
 瀧川七星から話を聞くなり、噛み付かんばかりの勢いで白雪珠緒が言った。ここは七星の自室である。
「……タマ、何勢い付いてる?」
 七星が冷ややかな視線を珠緒に向けていた。だがそんな視線を無視するかのように、珠緒は捲し立て続けた。
「化け猫の尻尾の方が絶対効くのにゃ!! む〜。気に入らないにゃ! うさぎより化け猫の方が優れてると世に知らしめて……」
「却下だよ」
 珠緒の妙な盛り上がりを、一言で片付ける七星。『化け猫だとばらすんじゃない』、そう言いたいらしい。
「う……と、とにかく、うさぎより猫の方が優れてると証明してやるのにゃ! 七星も協力するのにゃ!」
 びしっと七星を指差す珠緒。七星は一瞬自分自身を指差したが、すぐにさらっと答えた。
「……いいよ、面白そうだから」
 答えると七星はさっそくパソコンに向かった。麗香の話では『しあわせのしっぽ』はなかなかの人気振りらしい。ならば、ネット上でも様々な噂が出ているはず。七星はそう考えていた。
「お、出てきた出てきた。なるほど、店はここだけで……うん? 何で製造元が分からないんだよ?」
 検索をかけた結果、『しあわせのしっぽ』は特定の店1軒のみでしか売られていないことが分かった。
 続いて調べてみた製造元だが、こちらは何故か全くかすりもしなかった。
 そして肝心な結果報告。いくつかサイトを拾い読みしてみたが、500円を拾ったり、友だち相手のゲームで連勝したりと、本当にささやかな幸運が記されている程度だった。
「偶然にも見えるけど、何かしら力が働いてる気はするな」
「力? ……そうにゃ! きっとこの一件は裏でうさぎ妖魔が手を引いているに違いないのにゃ」
「タマ。おまえさ、どうしてもそっちへ行きたいんだな」
 思わず七星が苦笑した。

●得体の知れない物【2D】
 『ミスティックス』という店がある。元々開店当初は女子中高生向けにファンシーグッズを扱っている店だった。しかし今は『しあわせのしっぽ』を扱っている店として有名である。何しろ『しあわせのしっぽ』はこの店でしか扱っていないのだから。
 そして今日も店内は『しあわせのしっぽ』を買い求める客で賑わっていた。春休みということもあり、数割増しなのかもしれないけれど。
「むー……気に入らないにゃ」
 店から出てきて第一声、珠緒が言った。
「あんなんだったら、あたしの尻尾の方が綺麗で美しいのにゃ」
「タマ、おまえね……」
 七星はただ苦笑するしかなかった。まあ珠緒の言うことも分からないではないのだが。
 店内ではガラスケースの中に、透明なプラスチックケースに1個ずつ詰められた『しあわせのしっぽ』が並べられていた。形状はまりも大の白い毛玉という感じで、触ると柔らかそうな気がした。うさぎの尻尾を模したとはよく表現した物だ。価格は500円、そう高くはない。普通の人間だったらの話だが。
「500円じゃ買う気しないなぁ」
「500円貰っても嫌にゃ」
「猫缶だったら?」
 悪戯っぽく尋ねる七星。
「う……前向きに検討するにゃ」
 まるでどこぞの政治家のような台詞である。
「それはそれとして、仕入れ先が謎だよな」
 店からだいぶ離れた場所で七星が言った。女性店員を捕まえて聞いてはみたが、『店長が直に仕入れているので分からない』と答えるだけだったのだ。
「でもそれも変にゃ。ネコネコ情報網によると、店長が仕入れに出かけた形跡がないようなのにゃ」
 珠緒は店に足を踏み入れる前に、付近の猫たちを集めていつものように尋ねていた。それにより入手した情報によると、ファンシーグッズの業者は見たことあるが、『しあわせのしっぽ』の業者は見たことがない。それに店長らしき人物が何か荷物を抱えて出入りしたこともないというのだ。
「……そういう得体の知れない物をよくああして買いに来れるよな」
 七星が呆れたようにつぶやいた。
「だいたいにおいてさ、お守りや呪いは補助や単に心の支えでしかないんだよ。それを手にした本人が動かなくちゃ意味ないのに、今回の噂で行くと、持つだけで良いような言い方だからな。……そんなに楽したいのかな」
 七星が店の方を振り返った。若い女性たちが頻繁に出入りを繰り返していた。
「人に幸運をもたらすだけならいいけど、その代償を払わされるようなケチなお守りだったりしたら大変にゃ。でも楽できるなら、それもいいかもにゃ。うさぎ妖魔のは駄目だけど、化け猫の尻尾だと楽できるのにゃ」
「……俺、楽してないけど」
 そんな珠緒の台詞に対し、七星が笑って言った。

●真夜中の訪問者たち【5】
 真夜中――ライティア・エンレイは再び『ミスティックス』の前へやってきていた。昼間とは違い、当然だがシャッターも降りている。あまり目立たぬよう、黒い服に着替えてきていた。ちなみにこれはネイテのアドバイスである。
(さて、どうしようかな……)
 ライティアはひとまず裏手に回り込むことにした。表にあまり長居していては、逆に黒い服が目立ってしまう。
 こっそりと裏手へ回るライティア。だがそこには先客が居た。それも4人も。
「え?」
 面食らうライティア。裏手には男性2人と女性2人が居たのだ。その中の1人は昼間にも顔を見かけていた相手だった。
「同じ考えの奴、結構居るもんだな」
 そう言って苦笑したのは雪ノ下正風だった。
「気になる人は気になるみたいよね、やっぱり」
 頬に手を当てシュライン・エマが頷いた。
「ここでしか扱ってなくて、仕入れ先が見えないと当然の行動だよ」
 瀧川七星がさらりと言った。
「うさぎ妖魔でファイナルアンサーにゃ!」
 びしっとポーズを決め、白雪珠緒が言った。……何がどうファイナルアンサーなのか、ライティアには少々飲み込めなかったのだが。
「なーんだ、こんなに居るんじゃない」
 くすくす笑う女性の声がこの場に聞こえると同時に、ライティアの肩に上半身が女性で、下半身は蛇のような長い尻尾を持っている何かが姿を現した。付け加えるならば、背中には蝙蝠のような翼があり、頭には角が生えており、目には何故か目隠しがされていた。
「ネイテ!」
 ライティアが思わず窘めた。
「にゃっ!?」
 珠緒が驚いて口元を押さえた。声こそ出していないが、表情からはシュラインも驚いているのが読み取れた。
「その姿……ひょっとして悪魔の類か?」
 ネイテを冷静にじっと見つめながら、正風が言った。
「あら、ご名答。驚きもしてないし……たいしたものね」
 ネイテがくすくすと笑った。
「一応、これで飯食ってるからな」
 当然といった様子の正風。そのやり取りを見ながら七星は苦笑した。
「生きてるとあれこれ見ることができるもんだな……珍しい物見れたよ」

●複雑な紋様【6】
 何はともあれ、裏手であれこれ歓談している場合ではない。5人の目的はただ1つ、『しあわせのしっぽ』の仕入れ先についての謎の解明であった。
「ね……何か音が聞こえない?」
 不意にシュラインがつぶやいた。しかしそれに反応したのはネイテと珠緒だけだった。
「声……かしら?」
「微かに聞こえるにゃ……あっち?」
 振り返る珠緒。その間、シュラインは両目を閉じて音に意識を集中させていた。
「……あっちね」
 すっと指差すシュライン。それは珠緒の振り向いた方角に等しかった。
 進む5人+1。すると裏手のドアが僅かに開いていた。どうやら音はここから漏れているらしい。
 5人は顔を見合わせると、そっとドアを開いた。ドアの向こうには地下に通じる階段があった。慎重に静かに降りてゆく5人+1。階段の下にあるドアから光が漏れている。
 七星が代表して中の様子を覗き込んだ。だが七星は中を一目見るなり、眉をひそめた。
(何だよこれ?)
 部屋の中では何本ものロウソクが立てられ炎がゆらめいていた。部屋の中央には黒っぽいローブを羽織った男が何やらぶつぶつと唱えていた。そして床――複雑な紋様が描かれている。どっきりでもない限り、尋常じゃない光景だった。
「……魔法陣か?」
 小声でつぶやく七星。ロウソクの灯りで見た物だから断言はできないが、そのように見えた。
 その声に正風が入れ替わって中を覗いた。無言で頷く正風。どうやら魔法陣で間違いないらしい。
「分かったにゃ! その魔法陣でうさぎ妖魔を呼び出してあんな物を作ってるのにゃ! むー……許せないにゃっ! 狩るにゃっ!!」
 珠緒が怒りに燃えて、ドアを勢いよく開いた。シュラインが驚いたように珠緒を見た。
 勢いよくドアを開けば、どうなるかは目に見えている。中に居た男が、ドアの方を振り返って叫んだ。
「な、何だお前らは!」
「お前のやってることは全てまるっとお見通しにゃっ!」
 先陣を切って部屋へ飛び出す珠緒。呆れ顔の七星がそれに続き、正風、シュライン、ライティアも続いてゆく。
「この魔法陣は……」
 床の魔法陣を目の当たりにして、ライティアの顔色が変わった。それはライティアにとって非常に縁深いと言える魔法陣――悪魔召喚の魔法陣だったのだ。
「あらら、やっぱり同族の仕業って訳ね」
 ネイテが面白がるように言った。つまりこういうことだ、『しあわせのしっぽ』は悪魔の力を借りて作られていたと――。
「邪魔をするな!」
 男が珠緒目掛けて襲いかかってきた。だが珠緒はそれを余裕でかわすと、爪を立てて男の顔を力一杯引っ掻いた。
「ぎゃあっ!」
 顔を押さえよろめく男。そこにすかさず正風が飛び込み、男の身体に渾身の一撃を喰らわせた。
「ぐ!!」
 たちまちその場に崩れ落ちる男。それを見届けて、シュラインがやれやれといった様子で溜息を吐いた。
「『店長が直に仕入れている』……か。確かに間違ってないわよね」
 そう、直に仕入れていたのだ。悪魔相手に取り引きをして――。
「朝にでも編集部にレポート送るわ。今夜は徹夜かしら……」
 再び溜息を吐くシュライン。
「こっちはいい取材が出来た。いい物が書けそうだ……」
 転がっていた縄で男を縛り上げながら、正風が言った。
「で、どうするんだい、こいつ?」
 七星が男を指差して、ライティアに尋ねた。
「何とかしてみるよ。この魔法陣を無効化してやらないといけないし……そうすれば、出回ってる『しあわせのしっぽ』も無くなると思う」
 悪魔の力を借りた物が、ただ幸運を引き出すだけのグッズであるはずがない。放置しておくのではなく、早急に何とかする必要性があった。
「そう、何とかね……」
 ネイテが意味深に笑った。その笑顔が何を考えているか分からなくて怖い。
「うにゃ……今回もかじれなかったにゃ……」
 ただ1人、珠緒だけががっくりとうなだれていた――。

【しあわせのしっぽ 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0177 / 瀧川・七星(たきがわ・なせ)
                   / 男 / 26 / 小説家 】
【 0234 / 白雪・珠緒(しらゆき・たまお)
 / 女 / 20代前半? / フリーアルバイター。時々野良(化け)猫 】
【 0476 / ライティア・エンレイ(らいてぃあ・えんれい)
                 / 男 / 25 / 悪魔召喚士 】
【 0391 / 雪ノ下・正風(ゆきのした・まさかぜ)
                / 男 / 22 / オカルト作家 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
  / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 0115 / 獅王・一葉(しおう・かずは)
                   / 女 / 20 / 大学生 】
【 0017 / 榊杜・夏生(さかきもり・なつき)
                   / 女 / 16 / 高校生 】
【 0231 / 直弘・榎真(なおひろ・かざね)
             / 男 / 18 / 日本古来からの天狗 】
【 0249 / 志神・みかね(しがみ・みかね)
                    / 女 / 15 / 学生 】
【 0057 / 滝沢・百合子(たきざわ・ゆりこ)
                 / 女 / 17 / 女子高校生 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全18場面で構成されています。
・今回の依頼ですが、プレイング内容で場面を色々と振り分けています。それゆえ参加者の中には出会っていない方も居られます。それからどうもすっきりしないなと思われている方も多いでしょうが、今回は故意に謎を分散させています。他の方の文章にもじっくり目を通してみると、自ずと答えは見えてきますので……。
・瀧川七星さん、11度目のご参加ありがとうございます。本文で触れられなかったので、こちらで補足。噂なんですけど、広がっていったのは口コミ主体です。流したのは……おおよそ予想がつくかと。あ、化け猫の尻尾、妙な所で効果がある模様です。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。