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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


陰陽師狩り〜罵沙羅〜前編

<オープニング>

「忌々しや忌々しや・・・」
「陰陽の者ども・・・」
「正義の名の元に我らを暗黒の地へと追いやりし者ども・・・」
「憎んでも憎みきれぬ・・・」
「滅ぼせ・・・、根絶やしにせよ・・・」
「罵沙羅・・・、お前に任せる・・・。陰陽の者どもを全て・・・殺せ!!!」

「た、助けてくれ!」
 突然月刊アトラスに一人の男が転がり込んできた。全身傷だらけで、足元もふらついている。
「誰よ、アンタ。ここになんか用?」
「ここはオカルトの術師とかがいるんだろ!誰か紹介してくれ・・・。頼む、このままじゃ陰陽師たちが皆殺しにされてしまう」
「皆殺しとは穏やかではないわね・・・。まぁ、いいわ。話してみなさい。それと三下君、救急箱取って」
 男の必死の形相に、編集長碇は特ダネの予感を感じて舌なめずりした。

 男の話を要約するとこうなる。男の名は梶木陽司28歳。見習の陰陽師をしていたが、先日突如師の自宅に鋼の爪のようなものがついた手甲をはめた男が押し入り、師を斬殺したという。彼は師が時間を稼いでくれたためなんとか逃げ切る事ができた。だが、このままではいつか自分もあの爪の男に殺されてしまう。そこで自分をボディーガードして欲しい。ひとまずそろそろ師の家に戻って色々と片付けないといけないこともあるので、師の家に戻る間だけでも守ってくれる人はいないだろうか。ということだった。その師というのは著名な陰陽師らしく依頼金はちゃんと支払うとの事だ。
「って事なんだけどどうする?興味のある人は彼とそのお師匠さんのお家に行って来てはくれないかしら?まぁ、前金も払うって言ってるし悪くない話じゃないかしら。ついでに取材もしてきてね」
 碇は他人事のようにそう伝えるのだった。

<ライターより>

 難易度 普通

 予定締切時間 3/27 24:00

 新シリーズ陰陽師狩りが始まります。
 まずは調査主体となります。その依頼人の師匠の家で何ついて調べるのかを書いてください。なぜ殺されてしまったのか。また敵はどのような存在なのか。それを調べるのが目的となります。ですが、それだけで今回の依頼が済むかどうかは不明です。一体その師の家で何か起きるのか・・・。
 万全の備えをしておくことをお勧めします。ちなみに師匠の家はかなり広い日本風の屋敷です。

<指令>
 
 ひっそりと静まり返った室内。ベットと机があるだけの殺風景な生活感の感じられない部屋。この部屋の主は、部屋とそっくりな無機質な表情で手に持っている封筒の口をペーパーナイフで開ける。中に入っていたのは一通の書状。夜の月を表したしたような神秘的な銀の瞳が流麗な字を追っていく。やがて全て読み終えると、書状を折りたたんでライターで火をつける。炭になり風にふかれていずこかなりへと飛んでいく紙切れを見つめながら、主は口を開いた。
「あの家の陰陽師と当主が知り合いとはな」
 抑揚の無い平坦な話し方。その声は表情同様無機質で感情というものを感じさせない。群青色のくすんだ髪を持つ主は女性であった。端正な、しかしどこか作り物めいた感じを受ける白皙の顔。それもそのはず彼女は人ではない。陰陽道と傀儡技術の粋を凝らして作り上げられた傀儡人形。心というものが無い彼女の思考は仕事をいかに効率的にこなすかという一言に尽きる。陰陽師を狙う敵。いかにしてそれを滅するべきなのか・・・。陰陽師和泉怜は本家からの指令に従い動きだした。

<宿命>

「薫様。この度の依頼、何卒お引き受けなさらないよう・・・」
「どうした隼人?止める事のないお前が珍しいな・・・」
 薫と呼ばれたまだ幾分幼さを残した高校生らしき少年は、自分を心配そうに見つめる守役の青年を不思議そうに見つめた。
「実際に殺されているんだ。それに梶木の言う事が本当なら陰陽師が狙われるという事だろう。当主の身に危険が及ぶかもしれないのに放っておく訳にいかないだろう」
「なりません。今回だけは絶対に・・・!」
 いつも冷静で感情を顕わにしない守役が必死の形相で止めることに、雨宮は驚きを隠せなかったがそれでも彼の考えは変わらなかった。
「梶木の師匠となる方とは直接話をした事はないが当主から話を聞いた事もある。その彼が命をかけて梶木を護ったならそれをむざむざ殺させる訳にもいかない。違うか?」
「しかし・・・!」
「とにかく俺は決めた。行くぞ」
 守役の制止を聞かず彼は部屋を出て行く。あとに残された守役は深くため息をついた。
「止めても無駄な事は分かっていたが・・・。仕方が無い。私も行くしかないか。奥方様、申し訳ありません。不肖隼人、お言いつけを守れないかもしれません。ですがこの身に変えても薫様は・・・」
 守役の頭から嫌な予感が離れない。今回の敵はあの男かもしれないのだ・・・。あの陰陽師全体の敵とも言えるあの男・・・。
  
 <屋敷にて>

 今回の依頼で赴くことになった邸宅は東京は池袋郊外の住宅街にあった。ひっそりとした住宅街の中に溶け込んでいるその屋敷は古い日本家屋で敷地は150坪とかなり広い。木製で檜や樫がふんだんに使われている玄関に入ると、奥へと続く長い廊下が目に入る。梶木はアトラスで依頼を受けた者たちを中に案内していた。
「ここが師匠の家です・・・」
 かなり激しく争われたらしく、中は荒らされていて、砕けた花瓶や破れた掛け軸などが散乱している。
「俺はこれから片付けをしなくてはいけないんで、後は皆さんにお任せしたいと思います。好きに調べてください」
 そう言って梶木は片付けを始めた。道すがら彼から聞き出せた情報はこんなものだった。一週間前、屋敷で陰陽の修行を行っていた梶木と師六道雄山の前に、突然鋼の爪をつけた男が押し入ってきた。師がもてる陰陽の術を叩き込んだがまったく効果を表さず、ついに彼はなぶり殺しにされてしまった。師が身体をはって庇ってくれたため自分は何とか逃げ出すことができた。逃げ出してどこに救援を求めようか考えたところ、よく読んでいる月刊アトラスの事を思い出して依頼をしたということである。敵の正体は皆目不明で、突然の事だったので顔もよく見ていないという。後は実際に屋敷を調べ敵の手がかりを探し、梶木を狙ってくるかもしれない敵の襲来にそなえるしかないだろう。依頼を受けた者は思い思いに散って行った。

「妖しのモノの敵は、何も陰陽師だけではないだろうに。例えば私みたいな者も居るだろう?」
 調査に取り掛かった者たちを尻目に、黒衣の神父は一人今回の敵に関して皮肉を込めてつぶやいた。やや大振りなロザリオを首に掛け、手には分厚い聖書を持つ。長い、ややウェーブのかかった金色の髪の毛は後ろで束ねられ、彫りが深く鼻梁の高いゲルマン系の整った顔立ちをしている。翡翠を思わせる翠の瞳には丸い眼鏡がかけており、華奢で背は高い。神父にしてローマ教皇庁よりエクソシストとして認められた悪魔払い師ジョシュア=マクブライトである。だが、彼が単なるエクソシストかというとそうでもない。彼の肩には一羽の鴉が、足元には黒猫がつき従っている。
「ヘマタイト、オニキス。屋敷の屋根裏や地下を探っていらっしゃい。人が侵入できるような穴があったら教えるんですよ」
 宝石の名前でそれらに呼びかけると、彼らは主の言葉に従い飛び立ち、走り出した。そう彼らは単なるペットではない。術者と契約を結び僕となった使い魔である。使い魔とはキリスト教では異端であるはずの黒魔術をもって作り出される。だが、ジョシュアはそんなことなどまったく気にせずに教会の目が届かないことをいいことに魔道を使用している。
「さて、後は結界でも張っておくか。神の御名において命じる。聖ガブリエルこの地に降り立ち、不浄なる者を退ける光の壁築かん。魔なる存在よ退け!」
 屋敷の門に光の壁が構築される。一般の人間の目には映らぬものの、魔力を持つ者には開かれた門の中に金色に輝く壁があることを見ることができるだろう。この壁は敵意を持ってこの屋敷に入ろうとした者を跳ね除ける力がある。敵がどこから潜入したか分からないとは言え、これで正面から入ってくることはできないだろう。
「さて、後は皆さんにお任せするとして私は高見の見物と洒落込むか・・・」
 果報は寝て待てという。後は使い魔が探ってくるであろう情報を得てから考えればいい。彼がそう思って踵を返すと、中で片付けをしていたはずの梶木が立っていた。
「おや梶木さん。どうしたんですか?」
「いや、何をされているのかと思って・・・」
 そう言うと彼はしげしげと門のあたりに展開された光の壁に見入った。
「へぇぇ、見事なもんですねぇ」
「これで外から敵が来ることはないでしょう」
「そう、外からは来ないでしょうね。でも中ならどうでしょうね?」
 意味深な台詞を言いながらジョシュアに振り返る梶木。その口は奇妙な笑いを浮かべていた。
「梶木さん?」
「実に立派な壁だ。だが、いかに堅固な壁を作ろうとも中にいる敵にはなんら効果を発揮することなんてないんだよ!」
 突如梶木はジョシュアに飛びかかった。なんとか身を反らしてその攻撃をかわしたジョシュアの頬から一筋の血が流れた。梶木の手の甲には、何時の間にか鋭い鋼の爪が生えている。
「なるほど・・・そういうことか」
 敵は予め中に潜りこんでいたのだ。そして皆がバラバラに分かれる時を待って行動を起こしたのである。
「ひゃはははは!てめぇらがバラバラになってくれたおかげで仕事がしやすくなったぜ。幾ら俺様でもあれだけの数の術師を相手にするのはちと骨だからな」
 荒々しい口調に変えた梶木は、爪をちらつかせながら哄笑を上げた。だがジョシュアはその姿を見て冷笑を浮かべる。
「あん?何が可笑しいんだよ」
「ふっ、わざわざ出てきてくれるとは有り難い。探す手間が省けたよ。いでよ!魔界の住人して死と眠りを司どりし魔神サマエルよ!」
 ジョシュアの紫水晶の指輪が妖しく輝き、指輪から一体の魔神が姿を表す。紫の長い髪と漆黒の翼を持つ天使のような姿の魔神。ジョシュアと契約を結びし悪魔サマエルである。
「神父のくせして悪魔を使うのかよ!?てめぇ、堕落してんなぁ。ひひひひひ!」
「余計なお世話だ。いけ、サマエル。やつに眠りを与えてやれ」
 サマエルの両目に蟲惑的な輝きが宿り梶木を見つめる。
「ん、なんだぁ?ね、眠みぃ・・・」
 猛烈な睡魔に襲われた梶木はその場にぐったりと倒れてしまう。だが、サマエルが与える眠りはただの眠りではない。永遠の眠りである。眠りについた相手の精気を吸収し死へと誘う。精気が吸収されてしまえば人間は老いさらばえてミイラのようになってしまう。だが、サマエルに精気を吸収された梶木はミイラ状態にはならなかった。一枚の人方の紙切れになったのである。
「これは・・・」
 ジョシュアが拾い上げたもの。それは陰陽道で使われる形代と言われるものであった。

 六道の屋敷は広く、よく手入れの行き届いた日本庭園もある。庭園には小さいながらも池があり鯉が泳いでいる。その池の中に手を入れて、黒髪の青年は首を捻った。
「おかしいですね。どうも水の力が弱っているような・・・」
 よく見れば池の水も少し濁っている。それだけではない。庭木や花なども枯れかかっている。春先だというのに葉が茶色なっているのだ。明らかに異常である。水に残された記憶を辿ってみようと接触してみたのだが、それほど芳しい成果は無かった。それよりも重要なのはこの水の異常である。例の事件と何か関係があるのだろうか。
 萬屋道玄坂分室の主冷泉院柚多香は思慮深げな黒い瞳をやや曇らせ、考えに耽った。自然にこれほど水の力が弱まることなどありはしない。明らかに人為的なもの。しかも破壊された形式などが無いところから見て何らかの術が使われているのかもしれない。ちなみに萬屋とはいわゆる何でも屋、「よろず厄介事引受屋」の省略形である。道玄坂分室としているが、単に名前だけの事で、本当に本部やら他の分室やらがある訳ではない。「分室」とある方が手広くやってる印象を与えるという理由でそういう屋号にしているだけのことである。そんな萬屋主人である冷泉院も普通の人間ではない。齢三百年を数える龍神なのだ。以前自分の住処であった湖の近くに原子力発電所ができた為、東京に引っ越して来たという経歴を持つ。しかし、人間のせいで住処を追いやられたというのに、人間という存在を好むという
面白い考え方を持ち、今回の依頼に関しては困ってると何か放っとけなくてという理由で参加している。
 冷泉院がふと脇の木に目をやると、根元のあたりに一枚の符がついていた。書いてある字は見たこともないような特殊な文字で書いてあるため内容までは分からないが、なにやら強い魔力を持っているようである。彼はそれに手を伸ばした。
「これは一体・・・?」
「やれやれ、それを見つけてしまいましたか。折角張った結界を壊されたくはないんですけどね」
 後ろからかけられた声。その声に振り向いてみるとそこに立っているのは梶木だった。
「梶木さん、それはどういう意味なんですか?」
「他意はないありませんよ。それは五行封じの呪符。あの爺の術を防ぐためと、餌に釣られてやってくるであろう陰陽師の術封じのためのね」
 冷笑を浮かべる梶木。それはここまで案内してきた弱気な陰陽師見習とはまったく違う雰囲気を持っていた。人を蔑み、嘲笑う傲岸不遜な態度。
「少しは有名だからっていい気になりやがって・・・。肝心の術を封じてやったら何もできない哀れなな老人に成り下がっちまった。ぶっ殺してもまったく面白くなかったぜ。中の奴らはどうかな?少しは 抵抗してくれねぇと張り合いってもんがないぜ。そう思わねぇかあんた?」
 口調も完全に変わっている。粗野な言い回しでゲラゲラと笑う。人の命を何とも思わないその言い方に冷泉院は怒りを顕わにした。
「言いたい事はそれだけか、下郎?」
 冷泉院の声は極寒地獄に吹き荒ぶ風のような刺々しい冷たさを持っていた。その黒い瞳が本来の黄金色に輝き梶木を睨みつける。
「あん?あんたに何ができるよ?いきがってんじゃねぇよ」
「水よ。全てを押し流す濁流となりて我が敵を押しつぶせ!」
 彼の声に応え、池の水が浮き上がり物凄い勢いで梶木にぶち当たる。それはさながら水の弾丸とでもいうほどの威力で梶木を打ち抜き、はるか後方の壁に彼を叩きつける。
「ぐはぁ!」
 梶木は一言うめき、がっくりと頭を下げた。すると彼の姿は突然透明になり消えてしまった。残されたのは一枚の形代のみ。
「これは一体何なのでしょう?しかし、これでは皆が危ないかもしれませんね」
 
「目の前で師匠に死なれるのって結構…しんどいよね」
 屋敷の中の調査を行いながら、一人の女性が梶木にそう告げた。あまり手入れのされていない髪に、眠たげな瞳。服はヨレヨレの男物のシャツ。だらしなくやる気がないということが全身から漂っているこの女性の名は鷲見千白という。依頼主と同じ陰陽師であり、怪奇事件を専門に請け負う探偵でもある。窓の外を見つめる瞳には憂いが感じられる。師が自分を庇って目の前で死んだ時のことを思い出したのだろう。
「そうですね。でも・・・悲しんでばかりもいられませんから」
砕けた花瓶の欠片を箒で集めながら、梶木は答えた。その表情には何も浮かんでいないが、もう悲しみはとうりこしてしまったのかもしれない。
「犯人は現場に戻るといいます。相手はまだここに潜んでいるかもしれません。梶木氏を守るのも策・・・ですね」
 銀の髪に紅の瞳を持つ青年が手を顎にあてながらつぶやいた。仲間内では医師で通っている男烏丸紅威である。外見は20代そこそこの落ち着いた風貌をしているが、その実彼は五世紀以上もこの外見を保ちつづけている。それは彼の一族が封魔師と呼ばれる、魔や妖かしの者を封じる仕事を生業としていることが理由となる。若き日の烏丸は絶大な力を持つ魔の者と戦い、それを己が身に封印することに成功したものの、その魔力を完全に封じることはできず魔の者と融合したのと同じような形になってしまった。それ以来、彼の体は時を刻むことを止め現在に至っている。長い封魔師としての経験から、敵は陰陽師を狩る狩人のような存在で梶木をまだどこかで狙っているのではないか。そう考えていたのである。
「同感だな。この事件、何か盗まれたものがなく、お前まで狙われたとすれば、陰陽師に恨みを持つ者の犯行には違いあるまい」
 経験で及ばないものの、やはり常人よりはるかに長く退魔行を行っている和泉もまた烏丸の意見と同じ考えだった。彼女また梶木の警護を行っていた。正確には彼の元にくるであろう今回の依頼の敵を待ち受けるために。
「この屋敷の結界を調べたんだけどさ、なんか変なんだよね」
「何か見つかったのか、鷲見?」
 同じく梶木を守っている雨宮の問いに、鷲見は頭を傾げた。
「陰陽師の家なんだからある程度の結界とか妖用の対策くらいしてたと思うんだけど、全部解除されていたんだよね」
「敵が解除したんじゃないのか?」
「そうだと思うんだけど、なんかその後もうひとつ結界を張っているような気がするんだよね。ただ、どんな結界かは分からないんだけど・・・」
 釈然としない答えに当の本人も困惑ぎみだ。式神と呼ばれる、陰陽師がよく用いる符から生み出される擬似生命体に調査をおこなわせたところ、屋敷にしかれていたと思われる結界は全て解除されていた。しかし、その上に何か別の術がかけられているような形跡まではつかめたものの、その結界がなんであるのか、またその元となるモノを見つけることもできなかった。陰陽に似た、それでいて異なる術のようなのであるが・・・。
「だとしたら後はここ、書斎を調査するだけですね」
 烏丸は師の遺体も調査しようとしていたのだが、生憎調査にかかるまえに荼毘にふされてしまった。ただ、立派な殺人事件だったので警察の手で司法解剖が行われていた。それによると身体に無数の刃物傷が見られ、生きている間に何度も何度も致命傷にならないよう急所を外して切りつけられたようだ。相手は刃物の扱いに秀でているとみるべきだろう。屋敷内の他の調査には、既に同行した他の者たちがとりかかっているため残された場所はここのみである。雨宮が烏丸の意見に頷いた。
「俺も手伝おう」
「じゃあ手分けして探しましょう。いいですね、梶木さん?」
「ええ、結構ですよ。もうじき片付けも終りますし」
 梶木の許可も出たので二人は書斎の本棚や、机の引き出しなどを調べ出した。その二人を見ながらぼうっと突っ立ている梶木に、和泉が近づいた。
「お前、護符の扱い方くらいはわかるな。ならばこれを持て」
 彼女が手渡したのは、護法童子を召喚するための符だった。
「は、はぁ、まぁ何とか・・・」
「私達はお前を守るのが役目、だが相手次第では手一杯という事もあり得る。死にたくなければ私達の側から離れるな。師が死んだのは師と、そしてお前の力量不足が原因だ。それは変えられぬ事実なのだから」
「ち、ちょっと和泉さん。それは言いすぎじゃ・・・」
 梶木を慮って鷲見がフォローしたが、
「言いすぎではない。厳然たる事実だ」
 にべもなく言い切る。確かにそのとおりなのだがあまりにストレートすぎる。師を殺され、自分も狙われている者にとっては酷ではないか。そう思う鷲見であったが、傀儡である彼女に思いやりというものを望むのは無理なのかもしれない。和泉の思考はこの事件をいかに解決するか、それだけに絞られている。余計な感情など差し挟まずに常に合理的に物事を進めようとする。だが、その合理性は人の感情というものと相容れない時が往々にしてある。
「私もこの事件が無差別なものなのか、この家への怨恨か。判断材料としての退魔記録を探そう。ここは師が殺された場所だったな。師が今わの際に何か残していないか探してみよう」
 そう言って烏丸、雨宮とともに調査に加わる。
「やれやれ・・・。あんまり気にしないほうがいいよ。仕方がなかったんだろうからさ」
 鷲見は梶木の肩をポンと叩いて、部屋の隅などを調べ始める。ここで彼らは大きなミスを犯した。全員が無防備な背中を梶木に向けてしまったのである。梶木の視線は雨宮に向けられている。そしてその瞳は奇妙な輝きを宿していた。そして・・・。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「皆さん大丈夫ですか!?」
「奴は、梶木はどうー!?」
 何とか梶木を排除し、他の仲間を探して書斎に駆け込んできたジョシュアと冷泉院の目に入って来たもの、それは床一面に広がる真紅の血、そしてその中に倒れ付す雨宮の姿であった。
「ひゃははははは!!!遅かったなぁ。てめぇら!!あぁん?」
 手の甲に生まれた血まみれの爪を嘗めながら、梶木は哄笑を上げた。
「な、なぜ・・・」
 背中に灼熱感を覚えて倒れ伏した雨宮に、侮蔑の表情を浮かべながら梶木は言葉を続ける。
「だせぇな。俺様に誰も警戒せずに背中を見せるなんてよ!お陰様でこちとら楽に仕事ができたぜ」
「まさか、あんた・・・」
「ああ、そうだよ。俺様がここの爺を殺したんだよ!!」
 爪をちらつかせ誇らしげに語る梶木。その顔は狂気で歪んでいる。
「ふふん、最近の陰陽師という奴らがどの程度なもんか楽しみにしてたがよ。こんな弱っちい奴らばっかだったとは失望したぜ!」
 梶木は倒れている雨宮に蹴りを入れる。
「ぐわぁ!」
「貴様!」
 怒りを現われにして紅蓮の瞳で梶木を睨みつける烏丸。
「へ。どうした。てめぇが相手をするっていうのかよ?止めとけ止めとけ。てめぇじゃ俺様には勝てねぇよ」
「死にたいのか・・・貴様!!!」
 怒りで目の前が真っ赤になり理性が失われていく。心の奥底で、もう一人の自分とも言うべきあの存在が目を覚ます!
(我を解き放て!血をすすり、肉を喰らおうぞ!さぁ、我を解き放て!!!)
「いいだろう、九霊。貴様を解き放ってやる。好きなだけ暴れるがいい。さぁ!!!」
「駄目だよ!なんだか知らないけどそんなもの解き放ったらあんた自身もただじゃすまないよ!」
 鷲見が烏丸の只ならぬ気配に感づいて制止する。その妖気とでも言おうか、それは目の前の梶木などとは比べ物にならないほど凄まじいもので、人のレベルを超えている。あわよくば梶木を倒せたとしてそれだけで済むとは思えない恐怖を感じさせるものである。それに今は梶木の傍に倒れている雨宮を助けることが先決だ。遠目でも出血がひどい。このままでは確実に出血多量で雨宮は死んでしまう。
「あん?何をするつもりか知らねぇが、やるんなら早くやりな!?それとも単なるこけおどしかぁ?」
「油断したものだな・・・」
 和泉は普段と変わらぬ声でポツリとつぶやいた。表情にも変わりはない。だが、心の内に宿るこのもやもやとした焦燥感はなんだろう。裏をかかれた事に対する怒り?それとも味方が傷つけられた事に関する悲しみ?馬鹿な。そんなことは在り得るはずがない。陰陽の傀儡たる私が・・・。
「あんただけは許さない。覚悟しな!」
 鷲見が憎しみを込めてベレッタの引き金に指をかけ、それを引く。屋敷内に銃声がこだました。
 そして・・・・・・。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0427/和泉・怜/女/95/陰陽師
    (いずみ・れい)
0363/ジョシュア・マクブライト/男/25/いちおう神父
    (ジョシュア・マクブライト)
0229/鷲見・千白/女/28/陰陽師
    (すみ・ちしろ)
0037/烏丸・紅威/男/466/封魔師
    (からすま・くない)
0112/雨宮・薫/男/18/陰陽師。普段は学生(高校生)
    (あまみや・かおる)
0196/冷泉院・柚多香/男/320/萬屋 道玄坂分室
    (れいぜいいん・ゆたか)

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■         ライター通信          ■
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 大変お待たせいたしました。
 陰陽師狩り〜罵沙羅〜前編をお届けいたします。
 今回は13人ものお客様にご利用いただき満員御礼の状態となりました。誠に有難うございます。人数が多かったため、今回は二部編成とさせていただきました。
 前編では梶木に裏をかかれてしまいました。しかも多くの謎を残したままで・・・。
 梶木の正体とは?陰陽師狩りの組織とは?そして瀕死の雨宮様はどうなるのか?それは全て後編で語られることになります。後編をお楽しみになさっていただければと思います。
 それではまた別の依頼でお目にかかれることを祈って・・・