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<小鬼>
●依頼
「それで、毎日午前二時きっかりに部屋を荒らされると?」
その日、依頼人が草間興信所に飛び込んできた。かなり悲痛な様
子だ。
「はい。私達が結婚してから毎日のように。」
その夫婦は、2週間前に結婚したばかりだと言う。その当日から、
部屋に変なものが現れるらしい。小さな鬼のような姿をしていて、
悪臭を放ちながら部屋を徘徊するし、その場にあるものを荒らした
後、その夫婦の周りで踊りだすらしい。
「部屋は荒らされるし、不眠症にはなるし、もう身も心もぼろぼろ
なんです」
夫婦は涙ながらに訴えた。状況はかなり深刻らしい。
「よろしい。今丁度、専門家が来ている。彼らに任せる事にしよう」
●仕事
「失礼する」
真名神慶悟が夫婦のもとを訪れたのは昼間だった。
「どうしたのでしょうか?小鬼の現れるのは午前二時ですが・・・」
夫が答えると、慶悟は言葉を返した。
「たしかにその通りだ。だが、何も分からずに小鬼に会ってもしょう
がない。少し、事情を聞こうと思ってな」
「そうですか・・・。しかし、私共が答えられる事は全て依頼をお願
いした時に話したと思いますが・・・」
夫がそう言うと、妻が台所からお茶を持って出てきた。
「どうぞ。たいしたものではありませんが」
「おかまいなく。それより、奥さんは何か話してない事はないか?」
「いえ、何もございません」
二人とも何も知らないというので、慶悟は煙草を取り出した。
「飲んでも構わないか?」
慶悟がそう言うと、二人は頷いた。
慶吾は煙草を飲みながら考えていた。異臭・荒らす…は怨恨や嫌が
らせのイメージがあるが、踊る、というのが引っ掛かる。まるで子供
ではないか・・・。そう考えたが、二人は2週間前に結婚したばかり
で、子供がいる様子もない。
しばらく考えた末、慶悟は自分の携帯の番号を書いた。
「何でもいい。何か思い出したら、口外しねえから教えてくれ」
そう言って、慶悟は夫婦の家から出た。
●電話
慶悟は夫婦個人からの電話を待っていた。伴侶がいる時ではしずら
い話もあるだろうからと思い、携帯電話の番号を教えたのだが、電話
のかかってくる様子がない。
「・・・・・」
それまで黙って座っていた慶悟は、煙草を取り出して火をつけた。
「精神集中にはこれに限る・・・」
しばらく煙草のうまみに浸っていると、慶悟の携帯電話が鳴り響い
た。
「もしもし」
「あ、もしもし。私ですが・・・」
電話は夫からのものだった。
「妻の前では言いにくい事がありまして・・・」
「分かっている。話してくれ」
「私は・・・今の妻と結婚する前に、付き合っている女性がいました。
その・・・妻と付き合いながら、その人とも・・・」
「二股をかけていたわけだな。それで?」
「それで・・・その・・・そっちの女性に、私の子供が出来てしまい
まして・・・。しかし、その時には、今の妻との結婚が決まっていた
ので、おろすための費用だけ渡して、その場から逃げ出したのです・
・・」
「・・・・・」
「もしかしたら・・・それが・・・」
「ふざけるな!」
クールな物腰だった慶悟が突然怒鳴ったので、夫は驚いて電話を落
としてしまった。そして、夫がそれ以上話す前に、慶悟は電話を切っ
てしまった。
夫からの電話が終わったあと、慶悟は考えていた。小鬼を追い払う
こと・・・それが本当に正しい事なのか。少し悩んだ後、慶悟は酒を
一升、一気に飲み干し、立ち上がった。
●小鬼
午前一時五十五分分、慶悟は小鬼が現れるという部屋にいた。夫婦
は今日、この家にはいない。部屋を見渡すと、散らかされた家具がそ
のままになっていた。
「もうそろそろか・・・」
慶悟が時計を見ると、五十九分を指していた。
「5,4,3,2,1・・・・0」
午前二時になった途端、辺りに異臭が感じられた。そして、すする
ような泣き声とともに、小さな、たしかに、鬼としか表現できないよ
うなものが現れた。その子鬼は、しばらく辺りを見回していたが、慶
悟の姿を確認すると、奥に隠れてしまった。
「何故にここへ来るんだ?」
慶悟が声をかけると、小鬼は怯えたようにすくんだ。
「話を聞きたいだけだ。何故にここへ来るんだ?」
再びそう聞くと、小鬼は奥から出てきて、今にも消えてしまいそう
な声で呟いた。
「パパ・・・逢いに・・・」
「父親に逢いに来たのか?」
その言葉に、小鬼は小さく頷いた。
「父親って言うのは、ここに住んでいる男のことか?」
その言葉にも、小鬼は小さく頷いた。
「母親はここの女かい?」
小鬼が首を横に振るのを見て、慶悟は溜息をつきながら聞いた。
「母親は・・・すでに死んでいるのか?」
鬼といっても、子供のようなものだ、母親の死の話をされるのが辛
かったようで、小鬼は泣き出してしまった。
「ママ・・・僕・・・一緒・・・死・・・・・」
慶悟は再び溜息をついた。自分の考えていた、最悪の結果だったか
らだ。この家の夫が産ませた、他の女の子供。しかも、その女は子供
が産まれてすぐに、子供と一緒に自殺したらしい。
「この子は・・・寂しくて父親に逢いに来ただけ・・・」
自分の出した結論に、慶悟は気分がすぐれなかった。
「おじちゃん・・・別の・・・この家・・・違う・・・」
「そうだ。俺はこの家の人間じゃない」
「僕・・・邪魔?」
慶悟が言葉をつまらせていると、小鬼は寂しそうに微笑んだ。微笑
んだように見えた。
「パパ・・・迷惑・・・困る・・・・・」
小鬼は何か考えているようなしぐさを見せた。
「僕・・・いない・・・パパ・・・幸せ・・・」
決意の眼差しで慶悟を見つめ、小鬼は一つのお願いをした。
「おじちゃん・・・僕を・・・」
それ以上言わせる前に、慶悟は小鬼を成仏させた。最後まで言葉を聞
くと、憐れで健気な態度に、ためらってしまいそうだったからだ。
「どうですか?終わりましたか?」
朝早く帰ってきた夫がそう聞いた。
「ああ・・・・・」
慶悟は、声を押し殺して返事をした。
「さすがプロは違いますな。やっと気持ち悪い事から解放されます」
その言葉を聞き、慶悟は自分を抑える事が出来なかった。
「ふざけるな!」
そう言い、夫を渾身の力を込めて殴り飛ばした。後ろに吹き飛ばされ、
うめきながらも文句を言う夫を一瞥し、慶悟は乱暴に扉を閉めて、家か
ら立ち去った。
煙草を飲み、酒を飲んでも、慶悟は心が落ち着かなかった。その日一
日、慶悟は眠れなかった。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【0389/真名神慶悟/男/20/陰陽師】
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■ ライター通信 ■
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初めまして、白峰なおうです。
今回も時間が掛かってしまいましたが、それに見合った内容になりま
したでしょうか?
描写に気に入らないところがあれば一言お願いします。
それでは、機会がありましたらまた。
よしなに・・・。
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