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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


 兜神社〜復活への階U〜

<オープニング>

「奴らはあまり役にたちませんな・・・」
「そう悪く言うものではない。これから役に立たせることになろう」
「そういえば、また将門の遺物が発見された様子。見物に行って来てもかまいませんか?」
「かまわん」

「また平将門の遺物が発見されたようよ」
 アトラス編集長碇は、依頼を受けに来た者たちを前にこう話始めた。
「場所は兜神社。発見したのは前と同じ考古学の学者の人たち。明日お祓いをして大学に持ち込まれるそうなんだけど、これを見てきてくれないかしら。本物かどうかなんて分からないけど、もし本物だったら祟りの一つでも起こりそうじゃない。いいネタになりそうなのよね」

<ライターより>

 難易度 普通

 予定締め切り時間 4/1 24:00

 という訳で死霊シリーズ外伝将門復活編の第3話です。
 今回は兜神社で見つかった平将門の兜を取材に行くことになります。兜は境内に収められていますので、見るだけなら神主さんにことわれば見せてもらえます。この兜を狙っている者もいるようですので、兜を守り抜くことも依頼内容に含まれます。戦闘が予想されますので、戦闘準備は怠り無く。ただしこれは戦闘力を持った人推奨という事とはまた違います。兜自体がどのような力を持ち、また祟りらしきものが起きるのかどうかなど調べることはたくさんあります。戦う力が無い人でも色々と活躍する場面はあるはずです。
 またシリーズものではありますが、私の場合ほとんどが一話完結型なので初参加の方でもまったく問題なくご参加いただけます。お気軽にご参加ください。
 依頼にご参加いただける場合一つお願いがあります。なるべくPCの台詞を書いてください。PCの特徴を掴むのに一番助かりますので。それと決め技みたいなものがありましたらそれも書いていただけると尚更描写しやすくなります。よろしくお願いしたいと思います。
 それでは皆様のご参加をお待ちいたします。

<マサカドって?>

 その日、月刊アトラスには珍しい客が訪れていた。
「ハロー、碇」
 にこやかに手を振りながら編集長席に向かう一人の女性。白いブラウスにジーンズというラフな格好の彼女に、編集長の碇は「あら?」というような顔つきで答えた。
「誰かと思えばマリヱじゃない。日本に帰っていたのね」
「久しぶりに日本へ帰ってきて編集部にお邪魔したら面白そうな依頼があるじゃない!」
 彼女、美貴神マリヱはモデルの仕事で海外に飛んでいた。それがつい先日仕事が一段落ついたため日本に帰国していたのだ。趣味で月刊アトラスを購読していたのだが、たまに顔を出してみようと編集室を訪れてみるとなにやら風変わりな取材依頼があるではないか。暇つぶしに最良と思った彼女は、そのサラサラとした黒髪をかきあげて碇を見た。
「ねぇ、これどんな依頼なの?」
「どんなって、この依頼書に書かれているとおりよ」
「マサカドって誰?」
 ピキッ。確かに今を音を立てて碇の顔が凍りついた。日本人のくせして平将門のことに関して知らないとは・・・。いや、それよりもそんな人間がこの依頼を引き受けようとは。
「あ、あんた依頼対象物がどんなものかも知らずに依頼を受けようってわけ・・・?」
「うん」
 ほがらかに答える彼女。碇はその無邪気さにこめかみを押さえた。
「三下君・・・」
「はい?」
 現在原稿を書いていた部下を呼びつけると碇は命じた。
「君、彼女に将門について教えてあげて頂戴」
「え・・、なんで僕が・・・!!!」
 三下は突然の激痛に目を白黒させた。碇が彼の足をヒールで踏みつけたのだ。その光景を不思議そうに見つめる美貴神。碇は極上の笑みを浮かべて三下を見つめた。
「やってくれるわよね。三下君?」
「は、はい・・・。喜んでやらせていただきますです・・・」
 三下は泣き笑いを浮かべながらそう答えるのだった。

<兜神社>

 兜神社で発掘されたという兜。今回はそれを取材するのが表向きの依頼となる。勿論それだけで済むとはこの依頼を受けた誰もが思っていたことだが・・・。境内に集まっていた依頼引受人たちは、兜を見せてもらうためにここに集まっていた。
「ここ、首都高が近いんだよね。それに証券取引所のすぐ傍だし・・・。派手な事はできないよね」
 やれやれとため息をつきながら一人の女性が首を振った。ヨレヨレのシャツにズボン。あまり手入れのされていないボサボサの髪。眠たげな瞳など全身からやる気のなさが感じられる女性である。陰陽師にして探偵である鷲見千白という。
「とはいえ将門絡みなら白い変態美形が出てくるだろうし、あっちはそんなのお構いなしだし」
「そう愚痴るな鷲見」
 苦笑しながら鷲見にそういったのは、黒いスーツを着た長身の男だった。二十代後半の落ち着いた風貌の持ち主で、名は久我直親。鷲見と同じく陰陽師である。
「奴さんにこれ以上好き勝手されるわけにもいくまい?」
「それは分かっているけどさ・・・」
 不承不承頷く鷲見。だが、鷲見の危惧ももっともなところであった。場所が都市の真ん中であるためあまり目立つようなことは行えない。現在の日本ではオカルトの存在は認められていない。彼ら陰陽師などのもつ力が一般の人間に見られれば、トリックか、さもなければ超能力と扱われて大騒ぎになることは必至である。できればあまり目だたずに済ませたいところだ。
「仕方がないわ。私たちは異端なのだから・・・」
 妖艶な笑みを浮かべた女性は、その緩やかなウェーブのかかった髪をかきあげる。大人の魅力を漂わせたその女性は境内を見つめながらつぶやいた。
「目ただずに獲物に近づき、静かに仕留める。それが一番でしょう」
「口で言うのは簡単だけどねぇ・・・」
「うふふふ・・・」
 なにやら自身のありげな様子の女性、巳主神冴那。彼女はペットショップのオーナーを務めている。だが、彼女には裏の顔がある。それは・・・。
「それにしても不快な気ね・・・。なんというか重々しくて、息苦しいような・・・」
「そうだな。この神社に入った時から感じてはいたが、境内に近づくにつれさらに不快感が増しているような気がする」
 久我や巳主神の意見に鷲見の頷いた。ある程度力を持つ者なら感じられる寺全体を覆い包む妖気とでも言おうか陰の気が非常に強くなっている。やはり件の将門の兜が影響しているためであろうか。天も暗雲に包まれ、昼間だというのに夜のように暗い。
「話がつきました。兜を見る許可をいただきました」
 神社の中から現われた、巫女姿の女性が彼らに涼やかな声でそう告げた。清楚な感じのする、今では珍しい大和撫子風の女性だ。
「中へ御案内します。どうぞ、こちらへ・・・」
 巫女、天薙撫子の案内に従って依頼を受けた者たちは境内へと入っていった。だが、久我一人は彼らが境内に入っていくのを見届けると踵を返して神社から出て行こうとする。
「どこに行くんだ久我?」
 高校生らしき風貌をした少年が去り行く久我の背に声をかけた。
「何、野暮用をな。まだ時間もあるだろう」
 腕時計を見ながらそう答える彼。確かに時刻はまだ正午である。この兜を狙っている者が現われるには時間があるだろう。
「兜の方はお前に任せるよ。だが、無理はするな。珪が心配する・・・」
「無理をしなくては勝たせてはくれない相手だろう。奴は」
 少年、陰陽の名家雨宮家の跡取りである雨宮薫はそう言って表情を引き締めた。恐らくこの神社に現われるであろうその男の顔を思い浮かべて・・・。
「あまり気負うな。少しは仲間を信頼しろ」
「どうにも性でな。こればかりはどうにもならん」
 自分が不器用な事は分かっている。天宮家の次期当主という自覚から、何もかも自分で行わなければならないと思ってしまう。守役からももう少し人を信頼せよと言われるが、今まで人にあまり頼らずにきてしまっただけに人に頼ることが苦手になっている。人に自分の弱さを見せるが怖いのかもしれない。自分の脆さ、危うさを認めまいと片意地をはるその姿に、久我はやれやれと首をふった。何か言ってやろうかと思うが、今何か言っても聞き入れはしないだろう。
(まぁ、鷲見などもいるし、死にはしないだろうしな)
 久我はそう考え、雨宮に手を振ると神社を去っていった。その姿が見えなくなると、雨宮は決意を込めてこうつぶやいた。
「俺は絶対に負けるわけにはいかないんだ。奴には・・・!」

<将門の兜>

 その兜は境内の真ん中に配置されていた。周りには注連縄や札が貼られ一種の結界となっている。だが、そんな結界では押さえ切れないほどの圧倒的な瘴気が兜から放たれている。これこそが将門の兜である。志半ばで首を落とされた男の怨念が染み付いた呪われた兜。
「首に鎧に兜・・・。次は本体のお出ましかしら」
 赤い瞳で兜を見つめる少女はポツリとそうもらした。日本人にしては彫りが深く、鼻梁の高い容貌の持ち主。魔女である祖母から魔法の手ほどきを受けている高校生魔女氷無月亜衣。今回この兜を狙ってくるであろう男の狙いは日本最強の怨霊の一人平将門の完全復活。東京の霊的結界であった首塚と鎧神社は既にその男によって穢され、結界としての効力を失っている。
「本体が復活したらもう止めることはできなくなる。それまでに何とかしないとな・・・」
 雨宮は愁眉を顰めた。死後千年が経過しても今だ晴れることの無い怨念。菅原道真などと並び称され伝承の中に語られる存在。浄化、もしくは鎮魂をと考えていたが、兜から放たれる瘴気はそれが難しいことを感じさせる。魂も千年を超えて存在しているのだから、その存在力は並の霊とは比べ物にならない。
「将門公にゆかりのあるものだ。そう簡単に浄化させてはもらえないだろう。が・・・やれるだけの事はさせてもらうさ」
 雨宮は呪符を取り出し、準備を始める。いかに困難であってもやる前から諦めるわけにはいかない。だが、その彼の手をそっと押さえた者がいた。
「残念ですが、鎮魂は不可能だと思います。浄化もですが・・・」
 天薙は憂いを帯びた顔でそういった。
「なぜそんなことが言えるんだ?試してもいないのに・・・」
「試しました。試したけど駄目だったんです」
 彼女の話によると、既にこの神社の神主や巫女の手でお祓いがなされたのだが、まったく効果はなかったらしい。自分も行ってみたがまったく変化はなく、相変らず瘴気を放ちつづけるのみだった。
「修行不足・・・と言ってしまえばそれまでですが、恐らくもっと修行を積んだ神主や巫女、それに霊能力者たちが集まったとしても改善はされないでしょう。それほどまでに、将門公の怨念やこの世に対する執着は強いのです」
 ましてここは神域である神社。神に仕える神主や巫女にとっては非常に都合のいい場所だ。神の力が溢れている場所と言えるのだから。その神社で彼らの力をもってしても解けない呪いというのであれば、形式の違う陰陽の力での解呪は不可能に近いだろう。仕方なく雨宮は呪符を懐に収めた。
「くそっ」
「しっかし千年も存在するなんて根性あるねぇ。あたしだったらとっくに眠ってるよ。そんな面倒くさいのやってられないし」
 生来の面倒くさがりの鷲見の言葉に一同の顔に笑いが浮かんだ。正直、この兜の瘴気を前にして不安を感じない者などいない。場の雰囲気が少し和んだと思われたその時、
「大丈夫ですか?顔色が悪いみたいですけど・・・」
 一人の青年が心配して少女の事を気遣った。皆が何事かと見ると、その少女は酷く顔色が悪く真っ青な色して震えていた。
「いえ、大丈夫です。ちょっと気分悪くなっただけ・・・。外の空気を吸ってきます」
「僕も一緒に行きますよ。皆さん後はよろしくお願いします」
 青年が少女に付き添って建物から出て行く。その姿を見ていた氷無月は心配そうにつぶやいた。
「本当に大丈夫かしら、あの子。すごく顔色が悪そうだったけど・・・」
「これの毒気にあてられたのかもしれません。感受性の強い人にはここにいるだけで気分が悪くなっていくはずです」
 兜から発せられている瘴気というは、負の気、陰陽で言えば陰の気の塊のことである。怒り、憎しみ、悲しみなど陰に属する部分の気のみが強まり、人に悪影響を及ぼすまでになる。人のみならず万物は陰と陽の二つの部分で成り立っているというのが陰陽の考え方であり、両者のバランスがとれていないと病気等の障害となって現われる。
「私は思うんですけど、この兜は何かを封印するための呪物ではないでしょうか。そして不人はこれを移動させることでその封印を解除しようとしているのかもしれません。こんなもの掘り起こすべきではなかったのかもしれません・・・」
 
<鎮魂とは>

「本当に大丈夫ですか?顔色が悪いですよ」
 境内から外に出た医大生である桜井翔は、少女神崎美桜の顔色を見て本気で心配をしていた。もっとも医者の卵としての心配ではなく、もうひとつの理由からの心配でもあったのだが・・・。
「ええ、少し気分が悪いだけ・・・。もう少し大人しくしていれば良くなりますから」
 神埼はそう言って気丈そうに笑う。だが、その顔色は依然として青ざめておりこの場所にいることもつらそうだ。精神感応能力を持つ彼女は、将門の怨念を依頼を受けた者の中でももっとも受けやすい。先ほど間近で見た将門の兜。あの兜の持つ怨念と思いを感じてしまった彼女は相当に消耗していた。
「やはり今回はやめたほうが・・・」
「でもあの人に会わなくてはいけませんから」
「なぜあんな男のことなんて気にするんですか?」
「人は皆分かりあえるはずです。そして赦しあえる。だから・・・」
「だから私と会いたいと?随分な思い上がりだ」
 最後の言葉は桜井のものではない。神社全域に響き渡った冷たい声。二人、いや依頼を受けた者、ほぼ全員が聞き覚えのある声。その声と同時に神社に黄色い霧がたちこめる。そして複数の足音が聞こえてきた。霧の中から姿を表す黒装束の男たち。
「きましたね。七条の者たち」
 桜井は神崎を後ろに庇って、空手の構えをとる。だが、徐々に近づいてくる黒装束の連中を見ていて彼は違和感を感じた。普通の人間にしては妙に動きが鈍く、ぎこちないのだ。それもそのはず霧の中から抜け出て顕わになったその顔は既に人の者ではなかった。肉は腐り、頬は削げ落ち、目玉は白濁し仲には垂れ下がっている者までいる。半分骨の顔をした者もいるようだ。
「いやぁ!」
 神埼は思わず悲鳴を上げて手で顔を塞いだ。まるで地獄の底から這い上がってきたような死人の群。彼女の悲鳴を聞きつけて境内からから飛び出す鷲見たちはその光景を目にして息を呑んだ。
「こいつは・・・不浄骸霧!」
「いるんだろ!出て来い不人!」
 雨宮が腰に差していた退魔刀を抜き放ち、この死人どもを操っているであろう男に呼びかけた。
「シャノワ・・・。私を待っていてくれるなんて気がきくね」
 嘲りの込められた声が死人の後ろからかけられた。やがて姿を表す白いコートを纏った男。辺りを包む闇の中ではっきりと知覚できる紅蓮の瞳。腰まで伸ばされた銀の髪。死霊を弄び使役する男不人である。
「その名で俺を呼ぶなと言った筈だ!」
「そう怒りなさんな。今日は様子見に訪れただけなのだから」
「様子見だって?そんな連中を引き連れてかい?」
 鷲見は視線で目の前の死人たちを示しながら不人に問うた。
「そのとおりだ。愚かな人間が将門の封印の一つを自ら解除してくれたお陰で私は何もしなくていい。ちなみにこいつらはおまけだよ。軽い運動の相手くらいほしいだろう?」
「言ってくれるな・・・。だがいつまでもお前の思うとおりになると思うな、不人!」
 煌く白刃を振りかざし、死人の群に突撃する雨宮。それを援護しようと鷲見は懐からベレッタを取り出し構えた。余裕の笑みを浮かべてそれを見つめる不人の目の前で、予想外の事が起こった。雨宮の周りで急に空気の流れが止まり、呼吸ができなくなったのだ。
「!?」
 苦しそうな顔をしてもがく雨宮。
「どうしたの、薫君!?不人、あんた!」
「いや、これは私の仕業ではないよ。あちらのお嬢さんの手品らしい」
 そう言って不人が指さしたのは風の精霊を操る氷無月の姿だった。彼女は風の精霊シルフに命じて雨宮の周りの風を止めて呼吸ができないようにしていた。
「氷無月ちゃん!どうして!?」
「御免なさい!あたしはどうしても、どうしても・・・」
 涙を流しながら彼女は不人を見つめた。
「あの人のことが忘れられない。気になって仕方がないの!あんなことされたのにそれでも・・・」
 自分の秘めた思いを見られて尚、いや尚更に不人に惹かれる自分。彼が傷つけられるのを見たくない一心で彼女は仲間の行動を封じた。
「あっははははは!これはいい。傑作だ。ついに仲間割れかね。これでは私の相手どころではないな。そうではないかね、君?自分の思いに忠実。これこそが人の本性というものだな」
 哄笑を上げる不人に尋ねられた神崎は、首を振って彼の言葉を否定した。
「違います。これが人の想いなんです。人を思いやる心が・・・」」
「思いやり?そのためなら他の者には幾らでも迷惑をかけてもいいのかね?随分と自分の心に正直なものだ。私と何も変わらないじゃないか」
「そんなことはないです!人は皆赦しあえる。そして皆で手をとりあって頑張っていける。だから・・・!」
「それでは聞くが、なぜこの世界から戦争がなくならない?これだけ自然を破壊しているのに未だに破壊し続ける?これで人間はお互いを思いやり助け合っていると言えるのかね?神崎君」
 言葉につまる神崎。不人は彼女を庇う桜井に視線を移した。
「確か桜井君だったね。君も私と同類ではないのかね。自分の思うまま、誰にも縛られずに振舞うその姿勢は?」
「貴方と一緒にしないでください」
 にこやな笑顔のまま、念動力をもって強烈な衝撃波を放つ桜井。それは死人たちは吹き飛ばせたものの、不人には何らダメージを与えることはできなかった。銀の髪がさらりと動いただけである。
「涼風だな。この程度では・・・。君はその少女さえ無事なら他はどうでもいいのだろう?別にこの日本がどうなろうと知ったことではない。違うかね?」
「・・・・・・」
「それより氷無月君。いい加減シャノワにかけた術を解除してやりたまえ。このままだと本当に死んでしまうよ?」
 不人の言葉に、顔を真っ赤にしてもがいている雨宮を見て慌てて術を解除する氷無月。げほげほと苦しそうに咳をする雨宮を見て、不人はニヤリと笑った。
「大丈夫かねシャノワ。ん?」
「お、お前に心配される筋合いなどない」
 雨宮はなんとか呼吸を整えて不人を睨み返した。
「そうかね。それだけ言えるなら大丈夫そうだね。さて、君に問うがここで何をしているのだ?」
「何を言っている?」
「ああ、質問の意味が悪かったかな。私を止めてどうするんだね。まさか将門の兜、いや将門の魂を守ろうとでも?」
「そのまさかだ?何故そんなことを聞く」
「あっははははははは!!!まさか陰陽師である君から将門を守るなどという台詞が聞けるとは思えなかったよ」
 わけがわからないといった表情の彼らを見て、不人は腹をかかえて大笑いした。
「将門を殺したのは、元はといえば君たち陰陽師ではないか?それが将門を助けるとはどういうことなんだね?彼を憎しみの虜にした一端は君たちにあるのだぞ」
「なんだと!?」
「なんだ、知らないのかね。まぁいい。後で歴史を調べるんだな。将門の憎しみは君たち陰陽師にも強くむけられていることがよく分かるだろうからね」
「戯言はそれで終わりだな?」
 不人のさらに後方からかけられた言葉。それと同時に放たれた数枚の呪符は、死人に触れると業火を発して死体を焼き尽くした。面白くもなさそうな顔で不人は自分の後ろにいる男に目を向けた。それはどこかに行っていたはずの久我だった。
「ふん。無粋だね。相変らず陰陽師という存在は傲慢な連中だ」
「どういう意味なんだい、それは?」
「それは・・・」
 不人が鷲見の言葉に答えようとしたその時、突然久我の横合いから現われた一人の女性が不人に殴りかかった。
「はっ!」
 その掌打をあっさりとかわす不人。だが、彼女美貴神は攻撃の手を緩めることなく次々と蹴りや掌打を繰り出す。
「しつこいね、君は」
 と、こちらも目にもとまらぬ速さで抜き放った刀で胸を薙ぎ払う不人。美貴神は人間離れした跳躍力でそれを避けると後方に飛び退った。
「やっとお出ましね。女を待たせる奴は嫌われるわよ」
 アトラスで説明を受けた彼女は、なんとか今回の依頼に関して納得し(三下が必死に説明したが、理解したのはカブトを守ればいいということだけだった)敵の出現を待ち受けていたのだ。
「おやおや、これは珍しい。蟲使いかね」
 不人の言葉に美貴神は驚きが隠せなかった。
「どうしてそれを!?」
 実は彼女は自分の身体の中に特殊な蟲を飼い、それと連動することによって筋組織を増強させたり、危機を察知、いわゆる虫の知らせで知ることができる。ただ、これは自分の一族以外だれにも話していないことだし、第一、蟲は外からは見れないので本来ならばバレるはずがないのだ。
「君の身体からわずかに臭ってくる蟲の匂い。それに気付いただけさ。しかし、面白い見物だった。今日はこれで失礼することにするよ。私の役目はこれで完了した」
 そう言って不人の姿はスッとかき消えた。

 一方境内の中では、二人の女性と一人の男が向き合っていた。男の方は堂々たる体躯を真紅のスーツに包みこんだ壮年の紳士で、二人の女性をそのサファイアを思わせる蒼い瞳で興味深く見つめている。女性の方はといえば、御神刀『神斬』をかまえた天薙に、一糸も纏わず、豊満な体をさらけだしている巳主神の二人である。もっとも巳主神の皮膚は鱗で覆われているが・・・。
「噂の将門の兜とやらがどんなものかと思って見に来て見れば・・・。ふ、美女が二人もいるとは面白い」
「貴方は何者ですか?」
 天薙は額にかいた冷や汗を拭いながら尋ねた。周りはそんなに暑くもなく汗をかくはずなどないのだが、冷や汗が止まらない。それはこの目の前の男から発せられる気のせいであった。圧倒的な威圧感を感じさせる強烈な気。それは絶対零度の寒さを持つ不人とはまた違った気である。対峙しているだけで相当のプレッシャーを感じる。まさか不人だけではなくこんな男まで現われるとは・・・。彼女の問いに答えたのは。だが、男本人ではなかった。
「ヴァルザックよ。まさかこんなところで貴方に会えるとは思わなかったけど・・・」
 兜を狙って何者かが境内に現われたら、神社のそこかしこに放っておいた下僕の蛇たちに襲いかからせようと思っていたが、まさか御大自らが現われるとは思っていなかった。この男こそ、不人が所属する「会社」の社長ヴァルザックである。彼女自身、本性である蛇神となって戦うつもりであったが、正直どう動くべきか迷っていた。
「安心したまえ。別に何もするつもりはない。それを見にきただけだよ」
 そう言って目を細めるヴァルザック。兜から放たれる瘴気は彼にとって心地良いものであった。これだけの瘴気を発してくれればもはや結界を解除する必要もあるまい。彼はそう判断していた。
「ところで君は巫女のようだね。この兜、君ならどうする」
「それはお祓いを・・・」
「お祓い?将門の意思を無視してむりやり彼の魂を退けるつもりかね?それはいささか傲慢ではないか?」
「なんですって?」
 天薙は気色ばんでヴァルザックを睨みつけた。
「貴方たちは無理やり眠っている霊を起こして使役しているのでしょう。私たちはそれを鎮めているだけです。どこか傲慢なんですか?」
「霊は君たちの頼んだのかね?鎮めてくれなどと。何故彼らがこの世に執着しているか知ろうとしたことがあるか?」
「それは・・・」
「ただ、不浄だからとか、霊がこの世に留まっていてはならないなどというのは生者の勝手な理屈だ。霊はそんなものに縛られる必要はない。本来彼らは自由であるべきなのだ」
 いったん言葉を切ると、彼は巳主神を見つめた。
「君はどうかね?私の意見が間違っていると思うか?」
「分からないわ・・・。私にはどちらが正しいのか。今回は依頼として兜を調査にきていただけだし・・・」
「そうか」
 彼は巳主神に近づき、無防備に己の首元をさらした。
「君が私と敵対するというのならこの首すじに牙を突き立てたまえ。そうすれば全ては終る」
「・・・・・・」
「覚悟が決まったらいつでもくるがいい。待っているぞ」
「ち、ちょっと・・・!」
 天薙の制止も虚しくヴァルザックを踵を返すと神社を去っていった。彼の後ろ姿を見つめながら巳主神は独白する。私はどうしたいのだろう。あの人を止めたいのか、それとも・・・。

 依頼の途中で抜け出していた久我が行っていたこと。それは民俗学や宗教学の研究を行っている大学に依頼していた外法についての調査だった、外法とは現在伝えられている様様な術の中で、特に禁忌として忌み嫌われている術のことである。中には秘法と呼ばれるものもあるが、その威力故に怖れられ現在では伝承者しない術がかなり多く存在する。残念ながら久我が望んだような情報は得ることができなかったものの、一つ興味深いことが分かった。それはこの東京が強力な呪術結界で守られていることである。かつて東京が江戸と呼ばれていた時代、時の将軍徳川家光に仕えた天海僧正はこの江戸に霊的結界を張り巡らせることで、江戸の繁栄を確固たるものとしようとした。天海の張った結界は強大で、江戸が東京と名を変え400年近くが経過したというのに東京の街は反映し滅びてはいない。この平将門の兜神社も霊的結界の一つと考えて良いとのことであったが、事実掘り出される前まで将門の兜はまさしく東京の結界を守る要石の一つだった。それが不完全な形で発掘され、東京の地脈が乱されているため平将門の力は、東京の守護神ではなく、日本最強の怨霊として発揮されている。このまま将門の力が開放され続け、東京の結界が弱まった時果たしてこの東京、いや日本はどうなるのであろうか。このことは依頼を受けた者全ての脳裏に暗い影を投げかけるのだった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0328/天薙・撫子/女/18/大学生(巫女)
    (あまなぎ・なでしこ)
0229/鷲見・千白/女/28/(やる気のない)陰陽師
    (すみ・ちしろ)
0413/神崎・美桜/女/17/高校生
    (かんざき・みお)
0416/桜井・翔/男/19/医大生&時々草間興信所へ手伝いにくる。
    (さくらい・しょう)
0368/氷無月・亜衣/女/17/魔女(高校生)
    (ひなづき・あい)
0376/巳主神・冴那 /女/600/ペットショップオーナー
    (みすがみ・さえな)
0442/美貴神・マリヱ/女/23/モデル
    (みきがみ・まりゑ)
0112/雨宮・薫/男/18/陰陽師。普段は学生(高校生)
    (あまみや・かおる)
0095/久我・直親/男/27/陰陽師
    (くが・なおちか)

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■         ライター通信          ■
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 大変お待たせいたしました。
 兜神社〜復活への階U〜をお届けいたします。
 今回は少し皆様の内面について掘り下げてみました。また、果たして死霊=お祓いが本当に正しいのかどうかの問題提議もさせていただきました。皆様のPCはどのような結論を下されるでしょうか?
 この作品に対するご意見、ご感想、ご要望、ご不満等がございましたらお気軽にテラコンなどで私信を頂戴できればと思います。
 それではまた別の依頼でお目にかかれることを祈って・・・。